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シコふんじゃおう――日本伝統のコアトレがすごい!

日本伝統のトレーニングとして、今改めて見直されている「四股」について、相撲界で長く活動した著者がわかりやすく解説している。
 最初は股割から。これが基本となる動作で、股関節を開いて膝を曲げる動きである。立った状態から、脚を伸ばす、そして床に両脚を開いて骨盤を立てるところまでできれば、股割の第一ステップが終了である。これから四股に挑戦していく。意外なのは四股は「腰を浮かさず、腹で上げる」と言っていること。膝の向き、視線に関しても、写真に細かくアドバイスがつけられており、間違えないような心配りがある。肩のこらないコラムも読み応えがあり、なぜ四股にこだわるのか、よくわかる。自分の身体と向かい合い、インナーマッスルのトレーニングをしていくのに最適なのだそうだ。  白木氏との対談、肩甲骨や股関節のトレーニングも収録されている。



元・一ノ矢 著、白木 仁 協力、111ページ、A5判、1,365円
ベースボール・マガジン社

ハイインテンシティ・トレーニング~NSPA公認スロートレーニング~

ハイインテンシティ・トレーニングとは、一般的なウェイトトレーニングとは方法が異なり、略語のHIT、あるいは「スロートレーニング」とも呼ばれるものである。ゆっくりとウェイトを上げ下げするということが特徴であり、「関節や靭帯に余計な負荷を与えることなく、筋肉に対して最適なプレッシャーを与えることができる」のだという。ケガのリスクを低減させる手法として用いられているのだそうだ。
 基礎的・理論的な背景に始まり、プログラムをどのように組み立てるか、そして写真を数枚使った実際のエクササイズ紹介に至るまで、ハイインテンシティ・トレーニングについて体系的にまとめられている。普及に向けたこれまでの取り組みの成果が、集大成となった1冊である。



ジョン・フィルビン 著、大川達也 監修、244ページ、B5判、5,040円
アスペクト

現役力~自分を知ることからすべては始まる~

引退に至るまで何を考えたか
 引き際をどう飾るか。生きていく上で誰もが直面することだ。幸運にも自分の意志で進退を決められることもあれば、否応なくたたきつけられる残酷な現実を受け止めなくてはならないこともある。スポーツの世界でも、まわりの誰もが惜しむタイミングで華やかな引退劇を演出する選手もいれば、最盛期から見れば隠せない衰えに正面から向き合い、現役にこだわり、燃え尽きてひっそりと引退する選手もいる。最も多いのは、無残に切り捨てられていく選手だろう。何がいいとか、悪いとか、誰がどう思うのかということは関係がない。自分がその結果をどう考え、受け止めるのか、いや、これも最も重要な問題とはいえない。やはりそこに至るまでに自分が何を考え、どう取り組んできたのか、それが問題だ。

何をまだ求めての現役か
 本書は、2009年で実働28年目というプロ野球記録を更新している横浜ベイスターズ投手、工藤公康氏によるものである。考えてみれば、現時点で人生の6割以上の年月にわたってプロ野球選手を続けている。身体は決して大きくはないが、プロ野球界の怪物のひとりだ。これほど長い期間にわたってプロとしてのモチベーションを維持していることは驚きだ。現在まで在籍した4球団中、3球団でリーグ優勝と日本一を経験しているのだから、球界頂点の極みも十分に味わっているはずだ。何をまだ求めているのだろう。
 金でも名声でもなく、己の矜持を持ち得る世界で勝負を続けることが、ただ楽しいのかとテレビのインタビューなどを見ていると、そう思える。偉大な選手に失礼ながら、その童顔と遊び心に、野球少年というか野球大好きな悪ガキがそのまま大きくなったような印象を受ける。ただうまくなりたいという純真な子どもの心が、クリクリした瞳にまだ光っている。もちろんそれだけではここまで一線級でできるはずもない。それを現実のものにするための努力と才能という裏づけがあってのことだ。本当に信頼できる人々(だけ?)の話に耳を傾け、何を学び、いかに考え、どう取り組んできたのか、周りへの感謝の気持ちとともに本書に表さ記されている。

強烈なメッセージ
 なかでも若手選手への強烈なメッセージが印象に残る。若いウチには想像もできないことが、年齢を重ねて気づいたときには取り返しがつかなくなって後悔することになる、その怖さをよく知っているのだろう。成功体験を潔く過去のものとして次のステップに進む勇気を持ち続けてきたベテランならではの叱咤激励だ。
「自分を変えるために気づくこと」、そして「自分で考え」「答えを自分で見つけ出すこと」の重要性を説き、そんなことすらわからずに志半ばで去っていく後輩たちに沈痛な思いを持っている。同時にそれを誰かのせいにして自分に同情するようであれば「自分でつぶれただけ」だとプロらしく切り捨てている。
 己の哲学を持ち、またそれに必要以上にとらわれず、自らを変化させていく。それが厳しくも楽しく取り組める状況に身を置いている人は幸せなのだろう。そして「自惚れず、でも、へこたれず」本当に充実して生きていれば、その先にある結末だけにとらわれる必要はない、とそう思う。

(山根太治・日体協AT、鍼灸師)



工藤公康 著、191ページ、新書判、714円
PHP研究所

乳酸を活かしたスポーツトレーニング

乳酸について70個のQ&A形式で構成されている。一般の人が乳酸と聞いて疑問に思うことから、トレーニングに興味を持ち始めた学生が疑問に思うことまで、乳酸に関することを幅広く一通り解説してある。
 本書に出てくる質問は簡単だが、それに対する回答は実は簡単ではない。しかしそれを誤解のない範囲で、かつ理解しやすい形でまとめてある。
 いまだに疲労物質といわれ、誤解されている乳酸であるが、一般の人や競技者、コーチ初心者がとりあえず乳酸のことを理解するために役に立つ書籍である。
(澤野 博)



八田秀雄 著
講談社サイエンティフィク

カシタス湖の戦い

1984年ロサンゼルスオリンピックのボート競技ダブルスカル種目で金メダルを取ったブラッド・ルイスの自叙伝である。
 実際にメダルを手にした競技者の軌跡は、まさに「人生を懸けた戦い」にふさわしい。もちろんそこにたどり着く道は平坦ではなかったが、怒りと勝利への貪欲さが、目標に向かって突き進む原動力になっていた。
 今の日本にそれらをもっている競技者は、はたしてどれほどいるのだろうか。
(澤野 博)



Brad Alan Lewis 著、榊原章浩 訳
東北大学出版会

トップアスリートの勝つコトバ

 ここで言われる「勝つコトバ」とは、勝負の場面に「勝つコトバ」ではなく、夢を背負い、その達成までの過程で生まれた自分に「勝つコトバ」である。
 トップを経験したアスリートや指導者たちのコトバには共通点がある。皆、ポジティブだ。今何をするべきか、できることに目を向ける。悩んでも苦しんでも、それが楽しいとさえ思う。困難から逃げずに、考え方をプラスに変える。そんなポジティブなコトバを浴びていると、悩みや苦しみが小さかったものだと気づかされる。与えられている選択肢は1つ、やるしかない。前を向けば導かれる道があり、歩むべき方向が見えてくる。
 ではなぜ、こんなに前向きになれるのか?その理由が著者の経験談とともに本書の中に書かれている。夢が生まれてから達成するまでの法則がわかる気がする。
(佐々木愛)



根本 真吾 著
秀和システム

トレーニング科学最新エビデンス

 本書は日本トレーニング科学会第20回記念大会で行われた、「トレーニング科学はどこまで解明したのか」という企画の内容をまとめたものである。
 さまざまな種類の報告が掲載されているが、やはり「競技力向上のトレーニング」の章が気になる。
 長年の経験や勘に頼ったトレーニングではなく、根拠に基づいたトレーニングを行うことで競技者の能力を十分に引き出すことができるのではないだろうか。それがコーチの仕事である。
(澤野 博)



安部孝 編者
講談社サイエンティフィク

トレイルランナー鏑木毅

全長166km、最大標高2537m、フランス、イタリア、スイスと3カ国を1日かけて走る「ツール・ド・モンブラン」。想像するだけでも大変そうなレースである。だが、トレイルランナーは自然の山という平坦な道にはない自然を感じることができる。
 自然は生き物、その姿は変容する。道は舗装されていない、気候にも左右される。誰かと競争して勝利をつかむより、自然とランナーの体調そして心が走るうえでの相手になる。勝負の相手が人ではないのがロードランナーにない魅力だったりするのではないだろうか。もちろんレースに出るからには勝ちたい。ただ戦う相手が人だけでは視野が狭い。
 走るだけではなく、もっと大きいものの見方ができるようになるとつらいことが楽しいことに思え、自然のありがたさを感じるような気がする。
(佐々木愛)



鏑木毅著
ランナーズ

神の領域を覗いたアスリート

神の領域とは、どのような意味を持つのだろうか。目に見えるもの、見えないものさまざまにあると思うが、共通の認識は持てないのではないかと思う。
 さまざまなアスリートにインタビューをしたものを載せているが、個人的な意見としてはもっとインタビューされる側の気持ちを汲み取るような質問が欲しいような気がする。たとえばこの一文。「あなたの非凡な才能を子孫に伝え、21世紀にさらに進化させたいと思いませんか?」という著者の質問に対し、聞かれたスピードスケートの清水宏保選手はこう答えている。「結婚はそういう目的でするものではないでしょう。僕の父は胃がんで56歳で亡くなった。僕自身、ぜんそくをずっと抱えています。身長は161cmしかない。いい遺伝子を持っているとはとても思えない。それでもここまでこられる。それを示したくてやってきた部分もあります。生物学的な進化に無縁でも、自分が生きている間に自分を進化させることができるのです」
 清水選手の「自分が生きている間に自分を進化させることができる」という言葉を引き出せたことは、評価できる。しかしながら、清水選手の本当の気持ちはわからないが、私だったらこの質問をされたら、「なぜこんなことを聞くのだろう?」と考え込んでしまう。神の領域に届かない、理解することが不可能でも、近づこうとするならばもっと違うことを聞いてほしい。
 しかし、丁寧な取材をしていることも読み取ることができる。橋本聖子選手がアルベールビルオリンピックで冬季五輪史上日本人女子初銅メダルを獲得したときに、痛めている膝を冷やす氷もなくリンクから整氷車が吐き出したザラザラな氷を集めて、膝に当てたという一文などはそういったところが読み取れる。
 日々選手や患者と向き合い、当たり前になっている感覚や言葉を、他者に伝える際にはとても有益な本である。
(金子 大)



西村欣也著
朝日新書(朝日新聞)

マラソンの真髄

トップレベルの競技者だった著者が、現役時代に何を考え、練習に取り組んでいたのか。
 「練習は、レースで勝つために行うもの」
 なぜその練習をしているのか、あるいはなぜする必要があるのか。試行錯誤をしながら、自分で考えられるようになれば、世界に近づけるかもしれない。
 世界を目指している競技者は、種目を超えてぜひ読むべき一冊である。
(澤野 博)



瀬古利彦著
ベースボールマガジン社

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