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これなら続く!考える筋トレ

トレーニングに関して、基本的な方法についてコンパクトにわかりやすくまとめられた一冊。一般向けの書籍で、対象は主に働き盛りの中堅世代である。しかし、学業や社業をこなし、トレーニングも行わなければならない学生アスリートや社会人アスリートにとっても参考になる考え方が盛り込まれている。たとえばタイムマネジメントやモチベーションの維持、環境整備については役立つだろう。



有賀誠司 著、88ページ、B6判、1,470円
岩波書店

ブラッド・ウォーカー ストレッチングと筋の解剖

「ブラッド・ウォーカー」は原書(2007)の著者のこと。表紙に収録図の一部が掲載されているが、見てのとおり、ストレッチングの図に筋が丹念に描かれている。そして、各ストレッチング図には、方法、ストレッチされている筋、効果的なスポーツ、効果的なスポーツ傷害、よくある問題と正しいストレッチングの注意点、追加するとよいストレッチの6項目が記されている。
 著者は冒頭こう述べる。
「本書は運動選手とフィットネスの専門家のための図解的な参考書となることを意図しており、ストレッチングの基本と柔軟性の解剖学および生理学についての理論的情報と、114種類の個別のストレッチング運動の実践的なやり方をバランスよく読者に示すものである」
 今回このコーナーで紹介している『リハビリテーションのための解剖学』もそうだが、近年、イラストレーションのレベルが画像分析の進歩とともに随分高くなってきたと思われる。「動き」や「動作」「機能」についての関心が高まるにつれ、ビジュアル情報への要求も高まってきた。本書はストレッチングを通じて、筋の解剖を学ぶうえで大いに参考になる。(S)



栗山節郎監訳、川島敏生訳、A4判、168頁、3,675円
南江堂(03-3811-7239)

DVD『ジュニアアスリートが最初に行いたい筋力&パワートレーニング』

スポーツを安全に、高いレベルで行うには、競技特性に合わせた筋力が必要である。しかし、正しい姿勢とフォームを習得したうえでなければ安全で効果的な筋力トレーニングは行えない。このDVDは、成長期にあるジュニア選手の指導者に向けて、正しい姿勢とフォームで効果的な筋力トレーニングが指導できるようになるためのDVDである。
 まずは基本となるステップアップ、腕立て伏せ、腹筋、懸垂の4種目の基礎的な筋力トレーニングの指導法から始まる。スポーツ動作場面と照らし合わせながら、どこの筋力を鍛えるかをCGで紹介し、永友氏の解説とともに、よいフォームと悪いフォームが一目で映像で理解できるようになっている。さらにバーベルを使ったトレーニングやパワー強化トレーニングなど8種目を紹介。
 ジュニアの指導者のみならず選手自身にイメージさせるにも最適である。商品紹介VTRがラウンドフラットのHPからみることができる。(T)



永友憲治指導、法政大学重量挙部ほか協力、約60分、3,990円
ラウンドフラット

つなぐ力――4×100mリレー銅メダルへの“アンダーハンドパス”

素質を“磨く”
 短距離は“素質”で走るものと思っている人が一般には多い。
 確かに高校生ぐらいまでは“素質”すなわち、“センス”と“ノリ”ともう1つ“保護者のおかげ”、で走れている選手は多いと思う。しかし大人になってから、“大人の選手”としての競技力向上には、素質を“磨く”ことがいかに重要かという説明が、朝原宣治という選手のおかげで最近はしやすくなった。
 朝原は、北京オリンピック(2008年)男子4×100mリレー(通称、4継=ヨンケイ)で、1走の塚原直貴、2走の末續慎吾、3走の高平慎士とつながれてきたバトンを、アンカーとして銅メダルへと導いた、チーム最年長(当時36歳)のメダリストである。彼は日本人として初めて100m走10秒1台(1993年)、次いで10秒0台(1998年)の扉を開き、2001年には10秒02と、幾度にもわたって日本記録を更新してきた。そして北京オリンピックでの銅メダルまで、なんと足掛け15年にもわたって短距離界を牽引してきた日本陸上界屈指の競技者である。
 こんな偉業が、センスと若さの勢いだけでなされるわけがない。日頃、講義や部活動などの中で学生たちにこの例を挙げて“素質”だけではないという話を持ちかけても、数年前まではなかなか理解してくれず閉口していた。ところが今回の銅メダル獲得をきっかけに、“おお! あのアサハラ!”とすんなりわかってもらえるので大変嬉しい。

かつての一流どころがサポート
 さて今回紹介する「つなぐ力」は、北京オリンピック銅メダル獲得の裏に隠されたドラマを追った、元陸上競技専門誌記者であるスポーツライターの手になるものだ。「スポーツでは、選手が主役であり、監督とか、コーチとか、あるいは競技連盟の役員は裏方としてこれをサポートする立場」にある。「この本は、そういうサポートに回る人を取材して」まとめたものである。  裏方といっても、高野進、麻場一徳、苅部俊二、土江寛裕などなど、選手としてもかつての一流どころが名を連ねる。本欄の筆者(1960年生まれ)世代にとっては、彼らの選手時代の活躍を目の当たりにした記憶もよみがえり、1冊で二度オイシい状態なのである。
 中心的存在となる高野は、「発想力」の人だ。学生時代、400mのライバルとしてしのぎを削った麻場によれば、高野は「いろいろな発想をする能力があって、独創的な考え方」をするが、「ただ独創的なだけではなく、それをいかに実現していくかということも、着実にやって」のける。しかも「独善的にやっていくのではなく、必ず、われわれの意見を聞きながら進めて」いく人物であるという。

アンダーハンドパス採用の理由
 4継のバトンパスは「オーバーハンドパス」が世界の主流である。これに対して日本は「アンダーハンドパス」を用いている。日本4継チームにおける「アンダーハンドパス」採用の提案者が高野なのだ。  バトンパスに際し、前走者と後走者は互いに腕を伸ばし合ってバトンを渡す。腕を伸ばし合うので、その距離の分だけ走る長さが短くてすむことになる。これを「利得距離」という。「アンダーハンドパス」は「オーバーハンドパス」に比べ、この「利得距離」が短いとされている。「利得距離」が短いということは、それだけ長い距離を走らなければならないことになり、タイム的にも無視できないほどであるとの計算もなされている。
 なのになぜ、日本は「アンダーハンドパス」を取入れているのか。「オーバーハンドパスは、バトンを点で渡さなければならないのに対して、アンダーハンドパスなら線で渡すこと」ができる確実性や、選手にとって「自然に渡せる」「やりやすい」と好評であるなどの利点が紹介されている。
 それらを容認しつつも要所に挟まれる高野のコメントは、その視点がやはり独特である。提案者として一歩先を見つめているからか、読み手の予想を心地よく裏切ってくれるのである。センスや勢いだけでない、素質を“磨く”ことに多くの労力をさいた選手時代の経験が高野の発想のもとにあるだろうことは想像に難くない。
“名選手、必ずしも名監督ならず”とは、ひところよく聞いた言葉であるが、こと陸上短距離界に関してはいずれ死語となるに違いない。
(板井美浩・自治医科大学医学部保健体育研究室准教授)



石井 信 著、189ページ、B6判、979円
集英社

スポーツ科学から見たトップアスリートの強さの秘密――彼らが「一流」である理由はどこにあるのか?

身体能力や動体視力、脳、エネルギーシステム、高地トレーニング、疲労、メンタルトレーニング、ジュニア期の発育発達など、スポーツに関わるさまざまなトピックを一般向けにわかりやすく解説している。見開きで左ページには文章、右ページにはイラストや表を用いている。
 運動学習、生理学などだけではなく、野球やゴルフ、テニス、サッカー、陸上競技におけるバイオメカニクス的な側面についても詳しく解説されている。これまでの主な研究がコンパクトかつ平易にまとめられているので、スポーツ科学における多くの分野を俯瞰できる内容となっている。



児玉光雄 著、206ページ、新書判、945円
ソフトバンククリエイティブ

フィットネスIQ――知識でカラダを変える本

フィットネスIQとは、筆者の造語であり、フィットネスに関する認識、日常生活での応用能力であり、自分自身の手でよりより生活を組み立てるためのノウハウであるという。
 本書は、「ウォーミングアップ」「ブレインワーク」「ボディワーク」の3つのまとまりで構成され、最初はFAQ(よくある質問)である。これは筆者がパーソナルトレーナーとして受けた質問をまとめたものであり、トレーニングへのモチベーションを高めてくれる。ブレインワークではストレッチングやエクササイズを、またボディワークでは身体のセルフチェック方法を紹介。自分と対話し、受身でないトレーニングの大切さを語っている。



齊藤邦秀 著、143ページ、A5判、1,470円
スキージャーナル

スポーツの源流

現代におけるニュースをきっかけとして、スポーツ種目のたどった道のりを掘り下げていく。源流を訪ねる旅である。野球、バドミントン、ポロ、柔道など、そしてオリンピックが取り上げられており、数々のエピソードや背負ってきた歴史が当時の社会情勢とともに描写される。
 スポーツは、時代によって求められる形に変化することで今まで受け継がれてきたのである。各競技の特徴、あるいは特有の性格のようなものがどこに由来するのか、見えてくる気がする。視野を少し過去のほうへ広げてくれる本である。



佐竹弘靖 著187ページ、A5判、2,310円
文化書房博文社

「ム・ウ21あざみ野」の運動実践──姿勢習慣病克服のための理論と実践

「メタボリックシンドローム」という言葉は広く認知され、その予防に関する書籍や情報を目にする機会は多い。本書もメタボリックシンドローム対策シリーズ①として発刊されたもので、NPO法人日本運動療法推進機構会員施設である、「ム・ウ21あざみ野」で運動指導を行っている山田和彦トレーナーが執筆している。
 しかし、本書は単にメタボリックシンドローム予防の運動を指導している本ではない。多くの中高齢者の場合、「運動しましょう」と言っても、なんらかの運動器に痛みを抱え、痛みから運動の継続意欲は低下してしまうことが多い。どうしたら運動を継続してできるようになるのか、山田トレーナーがまず着目したのは、個々の痛みの原因を探る方法として「姿勢」を見ることだった。まずは、主観的に姿勢を評価することから始める。そこで評価された姿勢からどのような症状が現れるかを示し、柔軟性を高め筋力を強化する箇所を指摘してくれる。さらに独自に考案した安定し効率のよい姿勢を獲得するための「姿勢習慣病克服体操」を実践編として写真で紹介している。「ズンドコ節」「マツケンサンバ」の曲に合わせた体操を収録したDVD付き。(T)。



長濱隆史監修、山田和彦著、B5判、141頁、5,000円
東京さくら印刷出版部(03-3865-0707)


「ム・ウ21あざみ野」の運動実践──姿勢習慣病克服のための理論と実践
おやじファイトLOSER――勝っても負けても明日からまた仕事。

おやじファイトは、基本的に33歳以上に限定されたボクシング大会である。これは、そんなおやじファイターたちの写真集である。日常の普段の仕事の様子とともに、試合時の表情が切り取られている。
 ホテルマン41歳、営業マン47歳、消防士39歳、建築業50歳など、紹介文は職業と年齢のみ。まさに無名選手という扱いであるが、それによってどのような顔をして仕事に向かい合い、そしてボクシングに打ち込んでいるか、浮かび上がる。



熊谷美由希 写真、19×15cm、979円
有峰書店新社

ただジム

日常生活の中でトレーニングを取り入れることができれば、それが会費無料の「ただジム」になるという発想である。たとえば歯磨きをしながら、電車に乗りながら、といった日常の時間にプラスして、さまざまなストレッチング、トレーニングを行っていくことを提案している。これを「しながらジム」とするなら、まとまった時間がとれるなら部屋でできる「おこもりジム」もある。  シェイプアップ目的の女性を読者とした書籍だが、スポーツの現場でもこの発想は活用可能である。工夫次第で日頃のコンディショニングに取り入れると有用かもしれない。



松井薫 監修、千野エー イラスト127ページ、A5判、1,155円
泰文堂 03-5465-1638

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