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古来、中国で生まれた武術を、現代人の心の安らぎと健康のために、抜粋して短い組み合わせにまとめたものが、二十四式太極拳だ。
本書は、「前書き」と「特色と活用法・QRコード一覧表」と「後書き」しか文章がなく、あとは全部写真で表されている。背面、正面の分割写真の動きを追えば、自然に動作ができるよう、工夫されている。ただ、下肢と上肢の連動性やスピードなどは、やはりQRコードを読み取って携帯電話で動画を見たほうが一目瞭然だろう。なるほど、これならいつでもどこでも、手軽に太極拳が行える。便利な世の中だ。
(平山美由紀)
范永輝、三浦武 著、1,050円 (税込)
アイオ-エム
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模倣から独自性へ
北京オリンピック(2008年)陸上男子400メートルリレーの銅メダル獲得は記憶に新しいところだが、近年の陸上短距離走における発展には、“日本人らしい走り”の追求がきっかけとなっていることは間違いないだろう。
人類史上、100メートルを9秒台で駆け抜けた選手は、そのほとんどがアフリカ系のいわゆる“黒人”であることから、彼らの走りを研究し、なかば模倣することで速くなろうということが永い期間にわたって行われてきた。それを脱却し、“なんば走り”や“すり足走法”などと呼ばれる日本古来からある身体の使い方でもって世界に通用する走りが工夫され、現在の成功が導かれるようになったのである。ただ“○○走法”というのは理解を助けるための1つのキーワードだから、本来あるそれとは意を異にするとも考えられるが、要するに“自分らしい”走り方を見つけそれを極めることが重要であると、このことは物語っている。
大地が共演者
さて、本書の著者、近藤等則は世界を股にかけて活躍するジャズ・トランペット吹きである。最近は「地球を吹く(Blow the Earth)」と題して、人間相手でなく世界各地の大地そのものを“共演者”として活動しており、演奏場所は「イスラエル・ネゲブ砂漠を皮切りに、ペルー・アンデス、ヒマラヤ・ラダック、沖縄・久高島、アラスカ・マッキンレー、熊野など」多岐にわたる。
ジャズの特徴として“インプロビゼイション(即興演奏)”がある。とはいえ、テーマとなるメロディやテンポはあらかじめ決められており、「そのあとその」テーマ「のコード進行に基づいて」即興演奏をしていくのが一般的である。近藤が目指したのは、「演奏が始まる前になにもきめない」ことが「唯一の約束事」といった、最もラディカルな部類のフリー・ジャズだ。したがって、人が相手でも、自然が相手でも、演奏は全くの即興で行うということが彼独特の演奏スタイルということになる。
では何を拠りどころとして“共演”するのか。それは、「場の空気」や「バイブレーション」である。「地球を吹く(Blow the Earth)」では、「人類が登場する以前のバイブレーションがまだ残っている地球のあちこちで演奏」するとして、たとえば「イスラエルのネゲブ砂漠」は「ヨーロッパ大陸、アジア大陸、アフリカ大陸、三つの交差点」「だからユーラシアのへそ」であって、「その昔、モーゼがさまよい、ヨハネやキリストがいた場所」のバイブレーションを感じながら演奏をするのである。
本当の強さ
「ジャズというのは黒人の音楽」である。二十歳のとき「プロのミュージシャンになろうと決心した瞬間、からだが凍りつくぐらいのショックがあった」と彼はいう。「感動していればよかった」側から、「感動させる側に回らないといけない」ことに気づいたものの、「あるときチャーリー・パーカーのレコードを聴いていたら、突然そのアルト・サックスの音が黒人のスラング英語で話しかけているように聞こえ」たからだ。
しかし「ジャズから音楽を始めるけれど、ただ黒人のコピーをする」のではなく、いずれは「自分の音楽に行く」この方法しかないだろうと思うことで克服している。彼らのような「厳しい人生体験もしていない自分が、どうしたら彼らと対等か、それ以上の何かを持てるようになるだろうかと考えたとき、唯一学べるのは、日本の求道者や絵描き」ではないかと思ったというのだ。
スポーツと音楽、ジャンルは違えど、自分の拠って立つべき精神性を発見した人は強い。「トランペットを吹き始めてから四十七年になる」ミュージシャンの半生である。独特の視点で世の中を眺め、行動している姿は示唆に富んでおり魅力的である。とはいえ「短気で、ストレートな性格のせいか、ホラ貝吹きの海賊の血を受けついでいるせいか、ラッパに惹かれてしまった」男の半生、その駆け出しの頃の記述は必笑抱腹まちがいない。
(板井美浩・自治医科大学医学部保健体育研究室准教授)
近藤等則 著、179ページ、B6判、1,785円
地湧社
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目からウロコのマラソン完走新常識――だから、楽に走れない!
マラソン指導者である牧野氏と、シューズやインソールに関する専門家である飯田氏の共著。一般のランナーがマラソンの練習を健康的に続けるためのアドバイスを、それぞれの経験に基づいてコンパクトにわかりやすく解説している。
走り方については、走り方の基本となる腕の振り方や呼吸法、チョキで走るなどの方法が紹介されている。さらに実際のレースで役立つ「裏ワザ」として、レース参加に関する年間の組み立てから、当日の移動、トイレに関してまで細かくまとめられている。
なお、シューズは買うのは夜がよい、とこれまで言われてきたが、実際には違うそうだ。本当の自分の足に合うサイズのシューズをどのように選ぶか、納得のいく説明がしてある。ほかにも足の指が黒くなってしまう理由など、身近な疑問に答えてくれている。
飯田 潔、牧野 仁 著、203ページ、新書判、800円
実業之日本社
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近代スポーツのミッションは終わったか――身体・メディア・世界
スポーツ史、文化人類学、哲学というそれぞれ異なる分野から、スポーツの果たしてきた役割について語り合うもの。複数回のシンポジウムでの発言をもとに書籍化している。メディアとの関係性、世界情勢の影響をどのように受けるかなどが立場が違う分、広がりを見せている。「近代スポーツは、すでにその役割を終えているのではないか」といった指摘もあり、興味深い。エッセイ的なコラムや、各人の思い出として語られた部分から、考える手がかりは身体そのものにあるということが読み取れる。
稲垣正浩、今福龍太、西谷 修 著、262ページ、A5判、2,520円
平凡社
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著者は長年教育に携わってきた。生きる力のもとになる「思考力」「判断力」「表現力」などは、具体的な体験活動、すなわり自分の目で見て、手で触れて、身体で感じるという実体験を通して意識化され、広く深く養われるものであるという著者の信念がまとめられている。子どもの発育発達にスポーツが欠かせないということが強調して述べられており、全8章中、3章を費やして書かれている。発達段階に応じたスポーツの取り入れ方がわかりやすく紹介されている。
高山 修 著、222ページ、A5判、1,249円
日刊スポーツ出版社
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測定と評価に関して、多岐にわたる方法と基本となる考え方を網羅した教科書である。全身持久力や伸長、体重、新体力テストに始まり、BIODEXによる筋力測定、自転車エルゴメータによる無酸素性パワー測定、動作解析、超音波、骨密度、バランス能力、筋電図、全身反応速度など、必要と考えられる測定方法の意義や手順、応用例が紹介されている。興味深いのが終章のスポーツ測定評価実践にまとめられた項目である。これは学生向けの課題として使えるようになっており、記入欄に書き込んで提出できるよう、切り取り線が入っている。
角田直也、須藤明治 編著、279ページ、B5判、2,625円
文化書房博文社
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一歩60cmで地球を廻れ――間寛平だけが無謀な夢を実現できる理由
「止まると死ぬんじゃー」
てっぺんに巻き毛の生えたかつらにチョビひげで「止まると死ぬんじゃー」とステッキを振り回すおじいさんは「最強ジジイ」というらしい。私は大阪の人間で、小さい頃から吉本新喜劇のファン。中でも不条理なギャグのオンパレードである間寛平さん、いやいくつになっても「寛平ちゃん」と呼びたいその人の大ファンだ。
そんな彼が1995年、24時間テレビの企画の1つとして、阪神大震災の被災者を元気づけるため彼は神戸から東京まで1週間で走り抜いた。正確な距離はわからないが、ざっと600キロ余りの距離である。途中応援に駆けつけた明石屋さんまさんが、「兄さんもうこんなあほな事やめときや」と言っていたが私も同感で、周りの人たちのように下手に励ますなどできないと感じていた。
思いつきを現実に
その他にサハラマラソン(総距離245Km)やスパルタスロン(同246km)をも完走しているこの鉄人が今、マラソンとヨットで地球を一周するという壮大なプロジェクトを敢行している。その名を「アースマラソン」という。この壮大な企画が立ち上がった経緯を中心に書かれている本書は、(株)吉本デベロップメント社長、そして日本テレビのディレクターによる共著である。このプロジェクトをマネージメントし、そのコンテンツをビジネスに結びつける主要スタッフによる、アースマラソン前史と中間報告という形になっている。とくに比企氏は寛平ちゃんと2人で太平洋ならびに大西洋をヨットで渡りきった同志でもある。
いくら彼が長距離走において鉄人級であるにせよ、地球一周走るなんて常識のある人ならちょっと考えられない。それも「木更津のローソンを過ぎたあたりで急に地球一周走ると降りてきて」と天啓のようにひらめき、「なんぼあったらできるんやろう」と、自前でやろうと考えたのが事の発端らしい。そんな思いつきにとらわれた本人とは別に、時間と資金そして人材をかき集め、コンテンツとしてそれを活用することを考えた周りの人々が、数年がかりで現実にしたわけだ。
トレーナー業務を想像
寛平ちゃん自身、不安要素も山ほど持っているだろうし、どれだけ達成までの計算が立っているのかわからない。世界平和を祈願してだとか、世界中の人々を勇気づけるだとか、何か御大層なお題目を掲げているわけでもない。途中で果たした東京オリンピック・パラリンピック招致活動も後付けのイベントだ。「目立ちたいから」と本人は話しているようだが、要するにやりたいことをやっているだけだ。この旅の途中で還暦を迎えたこの人は、友の訃報に接して人目もはばからず泣き、時には弱音も吐き、どこの国でもおなじみのギャグを披露する。そして毎日50Km走る。
こんな人にトレーナーとしてサポートさせてもらえたらと僭越ながら想像してみると、確かに高揚感もあるが、それより大きな恐怖がこみ上げる。確かに、今この一瞬のために寿命が縮んでもいいと考えるアスリートも多いし、小賢しい常識という奴を乗り越えてないと、新しい風景は見られないのも事実だ。やる前に結論を出して立ち止まってしまえば、その先に広がる景色を見る術を放棄することになる。
非合法な方法に頼ることは許されないにしろ、壁を破ろうとのたうち回るアスリートにいわゆるスポーツ医学の専門家としての常識を覆しつつ、とことん付き合うというコミットメントが必要になることは一般のトレーナー業務でも多い。ただ、この文字通りの「最強ジジイ」が「止まって死なない」ようにサポートするなど、巨大な覚悟と巨大な遊び心が必要だろう。
この人はカッコいい
それにしても奥方の光代さんから「次から次へと好きなことをしたらいいんですよ。この人はそういう人やからね。」と言ってもらえるこの人はカッコいいと思う。しかし本当に危険なのはここからだ。何より無事を、いやご本人が納得するところまでやり抜くことをただ祈りながら、遠い異国の地にいる人を思うことにする。
(山根太治・日体協AT、鍼灸師)
比企啓之、土屋敏男 著、221ページ、新書判、798円
ワニブックス
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水泳選手のためのトレーニングやコンディショニングを集め、豊富な写真を用いて解説している。身体づくりに重点を置いており、足首や肩甲帯の柔軟性を高めるための方法や、ストリームラインをつくるための安定性を高めるエクササイズが示されている。インデックスが両端にあり、章ごと、部位ごとの2種類で目的とするトレーニング方法にたどりつける工夫がなされている。
泳法そのものにはとくに触れていないが、より速く泳ぐために必要な身体的特徴が、本書を通して浮かび上がってくる。
加藤健志 著、173ページ、B5判、2,100円
ベースボール・マガジン社
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ウェイトトレーニングの第一人者である著者による、トレーニングに関してまとめた一冊。各種のトレーニング理論・実践方法の歴史的経緯に触れることができる。著者にとって身の回りに起こったこととして描写されているのが興味深い。自伝を交えた形式であるが、トレーニングの方法、原則、注意点などについても解説されている。
窪田氏がトレーニングを始めたのは1946年のこと。1930年生まれで80歳になろうとする今でも、トレーニングを続けている。その息の長い情熱には圧倒される。「ライフイズムーブメント」の意味が、重みをもって伝わってくる。
窪田 登 著、287ページ、A5判、1,890円
スキージャーナル
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テクニックはあるが、「サッカー」が下手な日本人――日本はどうして世界で勝てないのか?
日本のサッカーが上手になるためのヒントを求めてスペインへ単身乗り込んだ著者。テクニックはあるが、サッカーは下手な日本人という評価に対して、どのようにして活路を見出したのだろうか。本書は、スペインでの生活を織り交ぜながら書き上げた、コーチという立場からの問題提起である。
「戦術的ピリオダイゼーション」を理論的根拠とし、サッカー選手をサッカーの中で鍛えていくことがの必要性を実感に基づいて訴えている。サッカーのゲームをどのように分析するかという点において複雑系の枠組みを取り入れて考えているのが特徴。「バタフライ効果」(チョウの羽ばたきが別の場所で嵐を引き起こすように、予測不可能な効果を発揮することのたとえ)を期待し、締めくくっている。コーチング領域において意義ある提案である。
村松尚登 著、237ページ、B6判、1,470円
ランダムハウス講談社
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