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心拍数の科学

 運動時に限らず、家事や事務作業、体育の授業などさまざまな日常生活の中で、心拍数を作業強度の指標としてとらえ、それらが変化する要因をデータと合わせて紹介している。
 PWC150(150拍/分時になされる仕事量)などの指標の解説もあり、書物というより、事典に近い感覚の書籍である。
 出版からすこし時間が経っているが、基礎生理学の部分はそれほど変化するものでもない。新しい考え方を取り入れる前に、土台をもう一度固めるために目を通してみてはいかがだろうか。
(澤野 博)



山地啓司 著
大修館書店

Post Isometric Relaxation(等尺性収縮後の筋伸張法)

本書は書名にもあるように、post isometric relaxation後のストレッチング(等尺性収縮後のストレッチング)についての解説書である。これまで筋疲労の回復目的や筋・筋膜性由来の疼痛などに対して一般的に用いられてきた手技である、等尺性収縮後のストレッチングを詳しく解説している本は本書が初とのことである。個別の筋ごとに、具体的な力の加え方やストレッチングの方法を写真とともに詳しく紹介されている。
 手技の方法のみの解説ではなく、この方法に至る背景や評価、禁忌や限界も詳しく述べられている。スポーツの現場に関わる治療家やトレーナーの方々にとって、大変興味深い一冊である。
(泉 重樹)



伊藤俊一 著
三輪書店

プロ野球 成功するスカウト術

日本のプロ野球界では、1960年代から外国人選手を「助っ人」と呼ぶようになった。その頃、著者である牛込氏は大洋ホエールズ(現横浜ベイスターズ)の球団通訳として外国人選手と関わっていたが、熱心な仕事ぶりを買われ、その後スカウトとして活躍することとなる。
 プロ野球の勝負を盛り上げてくれる外国人選手は、正にチームの「助っ人」である。現在は各球団に外国人の主力選手が名を連ねているが、当時は外国人選手を獲得するためのネットワークも少なく、スカウトとして活動し始めた頃は選手の情報集めや、交渉は非常に困難だったそうだ。さらに、著者は野球の経験もなければ専門的な知識もほとんどなく、通訳とスカウト業務をする中でその知識を得ていき、人脈を広げ、選手やスタッフへの細かい気配り・心配りで信頼を得ていった。
 著者は、別の仕事でアメリカに行っても、車で5~6時間程度の距離に目にかけている選手やお世話になっている人がいれば、足を運んで先方に会いに行ったという。これは1つの例だが、こういった努力が身を結んで、数々の名選手を球団の助っ人として獲得し、結果を残してきた。
 どの職業でも、よい仕事をして結果につなげるには相手への気配りや身を削ってでも相手のために動く積極性、何より熱意が必要になる。本書はこれらの大切さを教えてくれる。
 日本のスポーツ界で、トップレベルの「勝負の世界」の舞台裏を支えた著者の経験や思想を、われわれも仕事で活かすことができれば、結果につなげるための財産となるだろう。
(山村 聡)



牛込惟浩 著

美しくやせる「ゆるダイエット」―CDに合わせて気持ちよく体をゆらすだけ! ビタミン文庫

「ゆれる」「ゆるむ」「ゆする」の「ゆ」と「る」。身体が固くこわばると、交感神経が優位になり、過食になって「デブ」になるので、揺れたり緩めたりゆすったりして身体をほぐし、副交感神経を優位にさせて食欲をコントロールし、摂取カロリーを抑えようというもの。また、頭、腕、脚の支持筋が緩めば、大筋群の動きもスムーズになり、リラックス効果がもたらされ、リンパも流れて血行もよくなり、代謝が高まって消費エネルギーが増えるので、普通の体格が手に入れられる。
 その「ゆる体操」は、「プラプラ」「モゾモゾ」「フワフワ」などの擬態語と絵で示されている。言葉の音から伝わるように、頑張らなくてもいいのが継続の秘訣だろうか。全行程でも30分間のゆる体操は、リラックス系のBGMに乗せた音声指導CDつき。
 前半の解説と「美しくやせる」はピンク文字、後半の「もっとやせる」と「実行者の声」は紺文字なのは、視覚からの効果を狙ったものなのだろうか。 (平山美由紀)



高岡英夫 著
マキノ出版

時計の針はなぜ右回りなのか―時計と時間の謎解き読本

人々は「昼夜にかかわらず」「天気にかかわらず」「場所にかかわらず」時を知る方法に考えをめぐらせてきた。その結果が、日時計であり、水時計であり、火時計であった。時計の進歩ははかりなく、機械式時計の発明はすべての点で画期的であった。にもかかわらず、われわれはどれほど「時」について知っているのであろうか。本書は、さまざまな「時」に関する疑問について答えてくれる。
 スポーツの分野に「時計(計時機能)」がフィールドで使われることになったのは1820年代であるという。すでにスポーツにはなくてはならない計時機能であるが、「時」を「計る」ことと、「判定」するということは、同じことであるのか。あまり考えたことのないこの問題について考えさせてくれた一冊である。
(上村 聡)



織田 一朗 著
草思社

インナーマッスルを使った動きづくり革命 part1

20年間にもわたりトレーニングの指導者、バスケットボールの指導者として歩んできた著者が、今まで常識と言われてきたことを疑い「どうしたらうまくなれるのか?」「どうしたら強くなれるのか?」という観点のもと、パフォーマンスを高めるための動きづくりについて専門家以外にも理解しやすいようにまとめた一冊。
 どんなスポーツ競技においても重要とされている股関節や体幹のインナーマッスルについて、筋肉の触り方や、リラクゼーション方法、コンディショニング方法が注意点とともに丁寧にまとめられており、また、それを行うことによっての動きの変化についてもわかりやすく説明されている。スポーツ現場で即活用したいものばかりである。
 専門用語があまり使われていないのでインプットする際にひと呼吸必要になるが、逆に言うと選手にアウトプットする際の用語の参考になり、これもまたスポーツ現場で役立ちそうである。
(石郷岡真巳)



森川 靖 著
あほうせん

フットボールの文化史

この本には、民衆のフットボールがどのように、パブリックスクールでのフットボールに変遷し、現代のフットボールの形になったかが描かれている。英国でのエリート教育にフットボールがどのように用いられ、パブリックスクールの卒業生らによるルールの整備、審判の登場の経緯、観客の登場、リーグ戦、プロ化といったことがわかりやすく説明されており、スポーツ史を学ぶ人にとっての入門書として最適だろう。
 オフサイドの説明をできる人はたくさんいるだろうが、オフサイドがなぜ反則なのかを説明できる人は多くないだろう。われわれ日本人にとって、ルールは「あるもの」「決められるもの」であって、自分たちで議論して「つくるもの」ではないように思う。
 なぜ、それがいけないことなのか。なぜ、そのルールがあることにより、平等や公正が保たれるのかを考えないがゆえに、ルールの変更の議論に、日本人は参加できる交渉力を持たないように思う。そして、ルールが変更されるたびに日本不利のルール変更がなされたとマスメディアは叫ぶ。
 どのような時代背景や価値観があるか、主導権は誰が(どの地域の人間が)握っていて、それを日本が握られない理由はどこにあるのか。そういったことを理解すれば、スポーツの国際的競争力を不当に貶められることはなくなるだろう。
(松本圭祐)



山本 浩 著
筑摩書房

高齢者さわやか体操――高齢者フィットネスから介護保険まで

まず、高齢者の特徴を知るところから始まる。そして介護保険制度を学び、健康づくりの推進としてリハビリテーションへと進む。
 実技編では、この道の第一人者、石井千恵さん、竹尾吉枝さん、岡本正一さん、鈴木孝一さんが、それぞれの得意分野でさまざまなエクササイズを紹介している。写真もあって、指導のイメージがつかみやすい。この4人の先生方は、もっといろいろな手法を持っているので、これを機に調べてみても面白いだろう。
 3200円と少々高額だが、内容が濃い。これから先、ますますニーズが高まるであろう高齢者指導の幅が広がること間違いなし。
(平山美由紀)



石井紀夫
金原出版

舞踊・武術・スポーツする身体を考える

身体体験や感覚を言説化・言語化することの難しさは、スポーツに携わる者でなくとも日常生活の中でしばしば感じることである。病院で医師に症状を説明するとき、ブティックで服を試着したときetc…。だからこそ、擬音やボディーランゲージを多用した長嶋茂雄のバッティング指導などがユニークに紹介されたりもするのだろう。
 本書はスポーツや舞踊、武術を主な素材に、それぞれのフィールドの専門家がそうした身体感覚の言語化を試み、語り合った14時間に及ぶディスカッションの様子を記録した一冊である。
 とくに、女子体操で2度のオリンピックに出場、メダルも獲得しているだけでなく現在は地唄舞の名手としても名高い中村多仁子氏の数々のエピソードやそれに基づく発言は非常に興味深い。金メダリストのベラ・チャスラフスカも評価した、日本的で抽象化された動きの分節や表現、そのチャスラフスカなどとは対極にある「体操の技をする体型」につくり上げられたコルブトら東欧の選手の身体への違和感、そして地唄舞における所作や動作感覚といったものから世阿弥の『風姿花伝』の解釈に至るまで、難しい表現を用いることなく丁寧に解説、言語化してくれている。
 素人に毛が生えた程度とは言え、舞踊やスポーツを学んだことのある身としてもそうした作業の難しさをしばしば感じていただけに大いに納得させられる表現が多かった。
 また、冒頭から語られ、ディスカッションを通じてのキーワード、キータームともなっている「主体的に○○される」という一見矛盾しているかのような言葉も、スポーツや舞踊のみならず、時には生活全般においても当てはめることができる事象の捉え方として深く印象に残るものである。
 いずれにせよ、スポーツ科学、とくにストレングス&コンディショニングやフィットネスと呼ばれる世界に身を置くわれわれ指導者にとって、数字や映像といったデータが重要な事は言うまでもないことだが、こうした「言語」もまた避けて通れない領域なのだと改めて考えさせられる一冊である。
(伊藤謙治)



中村 多仁子・三井 悦子:共編
叢文社

集中力

日本人は「考える力」がないと言ったのはサッカー前日本代表監督のオシムである。確かに、大学生にトレーニングを指導していても、言われたことはできるが、それ以上やる選手は少ない。ではその「考える力」を植えつけるにはどうしたらよいのだろうか?
 トップ棋士である著者の谷川さんはこう語る。
「物事を推し進めていくうえで、その土台となるのは創造力でも企画力でもない。いくら創造力や企画力を働かせようとしても、道具となる知識や材料となる情報がなければ何も始まらないのだ。知識は、頭の中に貯えられた記憶の体験が土台になるのだ。つまり、創造力やアイデアの源は、頭の中の記憶の組み合わせから生まれるもので、その土台がしっかりしていなければ、良いアイデアが閃めくわけがないのだ」。
 つまり、天才と呼ばれる閃きの一手は、それまでの努力や経験があるから生まれるのであって、それはゼロから生まれるものでは決してないと。谷川さんは5歳で将棋を始めて中学2年でプロになるまでに、一万時間は将棋の勉強に費やしたそうである。毎日必ず3時間、それを10年間も続けたのである。
 そう言えば、オシムさんも暇さえあったらサッカーの試合を部屋で見て勉強していると聞く。どうやら「考える力」をつける特効薬などない、あるとしたら「継続すること」かもしれない。
(森下 茂)



谷川浩司
角川書店

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