本書は、日々企業や消費者に対して企画を考え、その実現を目指す人達(企画立案者)を対象に、具体的な立案方法を紹介し、よりよい世の中の創造へ貢献することを目的として執筆されたものである。
企画立案に際し、最終的な提案対象となる消費者の周辺環境は、時間経過とともに大きく変化した。以前までは、未解決、不満足というような、消費者自身が自覚できる「顕在的ニーズ」が多く存在し、それを解決、満足の方向へ向かわせることが企画立案者の主な取り組みであった。しかし現在は、以前までの満たされないものの多くは解決済みになってきており、消費者自身が本当に必要としているものや、より豊かなものにするために必要なものを明確に捉えることが困難になってきているようである。
このことから、現在の企画立案者には、消費者の中に存在する「潜在的なニーズ」を見出す能力が求められてきていることを提言している。そして著者は、この能力を獲得する行為を「空気読み」と定義し、潜在的ニーズを的確に捉えて実現に結びつけるための企画立案術を紹介している。
具体的には以下の4つの段階に構成され、これらを適切に実行することによって、「空気読み能力」を獲得しようとしている。
1つ目は、「情報収集と蓄積方法」である。ここでは、さまざまな視点から物事を捉えることの大切さと、その具体的方法を紹介している。2つ目は、「潜在的ニーズを獲得する技術」である。ここでは、「空気読みフレームワーク」という概念を用いて、潜在的ニーズの具体的な獲得方法をわかりやすく紹介している。3つ目は、「企画のつくり方」である。ここでは、企画立案者と関わりを持つ一般消費者(C)と企業(B)の両者にメリットを生み出すように、「B to Cモデル」、「B to B to Cモデル」を活用した企画の考え方や視覚化の方法を紹介し、より関係者との共有促進を目指している。4つ目は、「協力を獲得できるプレゼンテーションのコツ」である。企画実行による課題解決のストーリーをよりよく伝えるために、企画書を用いた具体的な進め方のコツを整理している。
本書は、全体を通じて具体的なノウハウが多く、企画立案者にとっては非常に役立つ内容であると同時に、指導現場におけるトレーニング指導者にとっても有用なノウハウが紹介されている。また、それだけでなく、本書の底流に流れる「消費者の課題を解決する」「社会の役に立つ」というメッセージを見逃すことはできない。そして、この部分がトレーニング指導者として、「指導対象に対して、いかによりよい提案をするか」について学ぶことができるように感じる。
トレーニング指導者とは、指導対象の目的に応じて、科学的根拠に基づく運動プログラムを作成し、これを効果的に指導・運営する能力を持ち合わせた存在である。そして、その提案対象となる指導現場も時間経過によって変化していることを実感するのである。
以前は、指導現場にトレーニング指導の専門職が存在していることが多くはなかった。したがって、指導現場が自覚できる未解決や不満足について、解決や満足の方向に向かうことで一定の評価を得られたように思う。しかし、指導現場における専門職の存在が一般化してきたことと、競技スポーツの高度化によって、「指導現場の自己実現欲求」がより進んだのではないだろうか。そして、指導現場の専門職もまた、本書の企画立案者と同様に、指導対象の中に存在する「潜在的なニーズ」を見出す能力、「空気読み」を必要としているように感じるのである。
昨今、「KY(=空気読めない)」という言葉を耳にするが、その背景には、日本人が「場の背景となる文脈」をつかむことを重要視してきた歴史的側面も存在するようである。そして、本書は目標達成に向けて、具体的な文脈の読み解き方を段階的かつ丁寧に紹介してくれているのと同時に、上記の4段階は、トレーニングの指導現場における取り組みの提案について、そのまま活用可能であると感じた。指導現場における共有の促進や、効果的な指導・運営方法に行き詰まりを感じている指導者の方にお勧めする一冊である。
(南川哲人)
跡部 徹 著、220ページ、B6判、1,575円
日本実業出版社
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