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子どもにスポーツをさせるな

かつて、ラグビーの日本代表監督を務めた宿沢広朗さんが、言った言葉がある。「これほどの努力を人は運と言う」。楕円形のラグビーボールが、最後に自分たちに弾んで勝利につながった。素人がやったなら「ラッキーバウンド」である。しかし、何百、何千回と繰り返し練習している者からすればそれは、「ラッキーバウンド」ではない。勝利のための「準備」があったからこその結果なのである。勝利至上主義ではいけない、しかし競技スポーツは勝つことが目的である。勝つことを目指すからこそ、「準備」が大事になってくる。
「準備不足」ではなかったかと、WBCの4番バッターがケガをして帰国したことを著者はこう語る。今、茶髪やモヒカンが悪いと言えば、「考え方が古い」「それと打撃は関係ない」と言われそうだが、真っ直ぐな姿勢は何に取り組むにも基本中の基本だ。普段の姿勢は、スポーツのパフォーマンスにも直接影響する。頭や理屈で言い訳できる分野ならともかく、スポーツは身体でやるものだ。だから、ごまかせない。謙虚さを失い、ひたむきさをなくしたらそれが身体の甘さ、隙につながる。だからこそ、スポーツは貴いのではないか。スポーツ界はいま、もっとこうした原点を見直し、改めて共有すべき時期にきている。
 現在、競技スポーツに携わる者の一人として、著者の言う「スポーツの原点」を共有したいと思う。
 Chance visits the prepared mind ――幸運は準備した者に味方する。
(森下 茂)


カラダは水中運動でよみがえる

プールに「歩くためのコース」が設けられるようになって何年経っただろう。「プールは、泳がなくてはいけないところ」という概念が、私たちの頭から消えて久しい。
 本書は、泳法うんぬんではなく、水の特性を利用して身体の機能を改善し、健康的な身体を手に入れるための「水中遊び」を紹介している。顔を水につけられない人や、陸上での運動が困難な肥満者、膝や腰に疾患を抱える高齢者にも、気持ちよく無理なく続けられそうな内容だ。水中の気持ちよさを感じられれば浮かびたくなり、浮くことができれば前に進みたくなる。その「始めの一歩」の「水中遊び」をぜひ成功させてほしい。
 また、泳ぐ前のウォーミングアップにも、そして、アクアビクスの指導者がレッスンに取り入れても面白そうなものもあり、読者の幅は広いだろう。
(平山美由紀)



「快適スイミング研究会」編
学習研究社

スポーツ少年のメンタルサポート~精神科医のカウンセリングノートから~

まず、著者は序章で自分の立ち位置をこう規定している。 「スポーツをすることそのものより、スポーツとの取り組み方により、さまざまな精神的問題や心理社会的問題が生まれることを示し、とくに現代の子どものスポーツのあり方や現状について精神科医の目を通して考えてみたいと思います」。
 精神科医である著者が、少年スポーツの現場にいる指導者とは違った視点で、スポーツについて語っている。
 現場の指導者やプレーヤーの家族の方々にもぜひ読んでいただきたい本である。おそらく、本書で語られていることにはなかなか同意しづらいという人も大勢いることと思う。とくに、勝ち負けの価値観については、そうだろう。だが、だからこそ読む価値もあるのだといえる。
 スポーツは、そのとらえ方により、さまざまな顔を持つ。身体運動を通した人間教育、人と人とのコミュニケーション・ツール、健康・体力づくりの手段、レクリエーションの場、自己実現の舞台…。これらの共通項は「スポーツは遊び」だということである。「たかがスポーツ」なのである。プレーヤー本人も指導者も保護者も、それくらいのスタンスがちょうどいいんじゃないの、と著者は主張している。
 本書を読んで、私のような一般社会人のボランティア指導者の役割について、ふと思ったことがあるそれは、「たかがスポーツ」という価値観を子どもたちに示すことではないだろうか、ということである。「スポーツができるからといって、それが何か世の中の役に立つのか?」。時にはそう言って、プレーヤーにスポーツとの関わり方について、疑問を抱かせることも必要かもしれない。子どもたちがさまざまな職種のコーチたちとの交流を通じて、多様な価値観に触れることにより、スポーツとの距離感や自分の立ち位置を確認するのだ。
 数年前に90歳で他界した私の祖母の面白いエピソードがある。彼女がまだ働き盛りのころ、近所の高校の校庭で学生たちがバスケットボールをしているのを見て、こう言ったそうだ。「あんな穴のあいたカゴに何回球を入れたって、落ちるに決まってる。高校生にもなって、あの子ら大丈夫だろうか…」
 スポーツなんて、所詮そんなもの。「たかがスポーツ」であり、「遊び」であり、「世の中の役に立たないこと」なのである。だからこそ、おもしろいのだ。だからこそ、熱く、真剣に、夢中になれるのだ。
(尾原陽介)



永島正紀 著
講談社

10代スポーツ選手の栄養と食事

 サプリメントに頼らず、栄養摂取はすべて食事からというコンセプトで書かれている。単品で料理を紹介しているため、組み合わせにより食事の幅も広がる。ただどのように選択するかは、競技特性やトレーニング状況を考えなければならない。
 本書でも栄養士の立場で、競技特性を区分しているが、異なる立場で見れば、また違う区分になるかもしれない。食事摂取のタイミングなど現場ですぐに活用できる部分もあるが、試合前に確保が難しい料理もある。もう少し現実的な料理を紹介してもらいたかった。
(澤野 博)



川端理香:監修
大泉書店

パワー獲得トレーニング~よくわかるプライオメトリクス~

「ストレッチ=ショートニングサイクル(SSC)を含む予備伸張または反動動作を用いて行われる、素早くかつパワフルな動作」(NSCA 決定版ストレングストレーニング&コンディショニング)と定義され、とくに競技力向上を求めるアスリートの間などではポピュラーに行われているプライオメトリクストレーニング。が、当然のことながら一般の人々はこうした説明をされてもピンとこないはずである。
 一方で、「短時間内に最大の力を発揮する能力(爆発的パワー)を高めるための効果的なトレーニング法」(本書)という一説とともにサッカーやバスケットの競技動作のイラストや写真、さらには「爆発的パワー≒一般に言われるところの瞬発力」、といった説明まで添えられていたらどうだろう。少なくとも中高生の部活指導を担当する人や駆け出しのフィットネス指導者などは遥かにそれをイメージしやすいのではないだろうか。
 本書は、そうしたわかりやすくかつ詳細な、おそらく我が国で初といってもいいであろう、一般の人も手に取れるプライオメトリクストレーニングの専門解説書である。著者は日本トレーニング界の第一人者、東海大学の有賀誠司助教授(当時、現在は教授)。冒頭で著者自身も述べているように、「専門用語が多く、非常に難解であった」プライオメトリクストレーニングを、豊富な写真とともに精選されたエクササイズ、付属のDVD、そして氏ならではの平易な言葉による解説で文字通り「分かりやすい」ものにしてくれている。
 さまざまな科学的背景やエビデンスと切っても切れない関係にあるトレーニング業界だが、ともすればそれに固執するあまり「象牙の塔」から見下ろしているかのようなスノッブな解説に陥ってしまう危険性とは常に隣り合わせである。商品価値を持たされ、流行になってしまうトレーニングメソッドなどはとくにその傾向があるとも言える。
 第一人者自らが「らしい」スタイルでそうしたリスクに対しても揺るがぬ姿勢を示してくれているようにも感じられる、嬉しい一冊である。
(伊藤謙治)


心拍トレーニング

心拍数を測定することで、目標に合わせたトレーニングができる。それを測定から実際のトレーニングまで具体例を示しながら紹介している。一つ一つの内容を非常に簡潔にまとめてあり、考え方を整理しやすい。
 今でこそ一般的である心拍数を利用したトレーニングであるが、いまだに心拍数さえ測定せずトレーニングを行っている姿をよく見かける。心拍数を測定することは決して難しいことではない。まずはこの書籍を参考にトレーニングを始めてみてはどうだろう。
(澤野 博)



外岡立人 著
枻出版社

コアコンディショニングとコアセラピー

あなたは、ストレッチポールに乗ったことがあるだろうか。正しく行えば、誰しも必ず、胴体から付属している頭、腕、脚のポジションが、ニュートラルな状態にリセットされた感覚を味わうことができる。
 ここでは、その進め方、エクササイズの方法もさることながら、その裏づけとなる解剖・生理・運動学を理論的に学ぶ。スタジオエクササイズとしての「ベーシックセブン」を提供している者は、本来知らなくてはならない事項なのではないだろうか。また、介護予防としてのプログラムを、目的、段階別に解説、そして疾患別に治療としての方法も多種にわたって紹介されており、本書は、今やアスリートから高齢者まで幅広くクライアントをお持ちのパーソナルトレーナーも知っておいて損はない。いや知らずして人の身体は預かれないだろう。教科書的存在になるはずだ。
 もちろん、自分自身の癒しのためにも使っていただきたい。
(平山美由紀)



平沼 憲治 岩崎 由純【監修】 蒲田 和芳 渡辺 なおみ【編】
講談社

What is Coaching? 今、コーチに求められるもの

初版は平成10年。10年以上前の書籍である。しかしこの本の内容は決して色あせることなく、今も貴重な現場の声として価値があるものである。数ある著書の中で、おそらく唯一の具体的なトレーニングを中心としていない本であるが、最も内容の濃い作品ではないかと思っている。
 評者もまだ学生だった頃、この本に大いに勇気づけられた。そして渡米を決意し、憧れであったプロスポーツの世界へ足を踏み入れることができた。尊敬する立花氏ご本人と一緒に仕事に就けたことは私にとって一生の財産となるだろう。
 今、改めてこの本に目を通すと、当時の立花氏の視点が非常に的を射ているのを痛切に感じる。悲しいかな、プロ野球のコーチに関する問題点はこの十年でさほど改善されていないのではないか。愛する野球がこれからも日本を代表する球技であり続けるためにも、次の十年を迎えたときには、この状況が改善されている事を強く願う。決して過保護にすることではなく、一人一人の人格を尊重した、選手主体の成熟した現場が構築されていってほしいものである。
 スポーツ界の未来を今後担っていく、次世代のコーチや指導者に、今もなお自信を持って薦められるのが、この本である。野球界の未来へのポジティブな情熱――そんな思いを喚起してくれる。
(弘田雄士)



立花龍司 著
日刊スポーツ出版社

スポーツ留学 in USA

本書では、海外へ留学したい方のために、留学するためには何が必要であるのか、アメリカでの生活はどのようなものなのかについて、実際に海外で勉強をされた経験のある著者が留学の魅力を語る。
 内容は、選手、アスレチックトレーナー、監督・コーチ、アスレチックディレクター、エクイップメント・マネージャー、スポーツ・マネジメントという分野に分け、それぞれの仕事内容や資格を説明している。さらに、学校の選び方やカリキュラム、奨学金制度などが丁寧に書かれている。
 日本のスポーツ界だけではなく、アメリカのスポーツ界を知ることによって視野が広がる。「こんなこともあるんだ」というようなことがたくさん書かれており、日本では行われていないことやアメリカならではの魅力や厳しさがある。とくに、大学でスポーツをするためのさまざまな規定や学生としてのあり方。また、一流選手を出すための環境や選手が自立をするための教育システムがとても印象的である。
 スポーツに関わっている人であれば留学に憧れることは珍しくはないであろう。アメリカ留学を考えている方はもちろん、そうでない方もぜひ本書でアメリカでの学びの魅力を知っていただきたい。
(清水 歩)



岩崎由純 峠野哲郎 著
株式会社三修社

ミラクルトレーニング

自転車競技は自転車の素材や、性能だけで勝利できるものではない。それ以外にも身体能力を始め、さまざまな要素が勝利をつかみ取るためには必要になってくる。もちろんこれはどのスポーツにおいても同様だ。
 近年自転車を始める人が多くなってきているという話を聞くが、自転車本体だけに話題が集中しているようにも思える。一度この本を読んで、トップレベルの競技者がどのように考えているのかと合わせて、自転車競技の奥深さに触れてほしい。
(澤野博)



ランス・アームストロング、クリス・カーマイケル 共著
未知谷

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