「多くのスポーツ・体育の現場であがっている疑問の叫びを大事にしよう。できるだけトレンディーな情報を提供しよう。でも、理解できないのはだめだ。面白くないとね!」という著者らの思いから生まれたのが本書である。そして、スポーツサイエンスを「納得」し、「使える」ようにすることが本書の目的である。
全体の大きな構成として、「トレーニング」、「試合で勝つ」、「健康なからだ」、「基礎知識」という順番で、4つの側面から構成されている。これは、一般の健康づくりから競技アスリートまで、幅広く対応しようとするものなのであろう。また、実践的事例を経て基礎知識へ向かう構成が興味深い。これは、帰納法的側面から具体的な取り組みをイメージし、それらの本質を捉えるために演繹法的側面に収束させることで、「実践と理論を合致させる」ということを試みているように感じ、大変新鮮であった。
次に、各チャプターに目を向けると、指導現場で多く見られる疑問を豊富に取り上げている。そして、各疑問についての説明を見てみると、見開きの分量で、簡潔かつ論理的なため、大変わかりやすい。この内容であれば、学生アスリートでも十分に理解可能なのではないかと感じた。
また、もう一つの気づきを得られたような気がする。それは、指導者側は、「簡潔かつ論理的な説明の仕方を学ぶ絶好の教材になり得る」ということである。例えば、「ウォーミングアップ」ということについて、テーマに対する構成が、「本質的側面→具体的な取り組み内容→注意ポイント→まとめ」という流れになっているので、指導者自身の説明能力向上にも貢献できる内容であることを実感した。
以上のことをまとめると、本書は、幅広い指導対象への対応を可能にするだけでなく、指導者自身の知識の整理や説明能力の向上、さらには、辞書的機能としても貢献できるということである。本書は、2002年に発刊され、その後、増刷を重ねて改訂にまで辿り着いている。この側面から見ても本書の質の高さや、読者からの支持の高さがうかがわれるであろう。指導現場において、常に手元に置いておきたい一冊である。
(南川哲人)
征矢英昭・本山貢・石井好二郎 著
講談社サイエンティフィク
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