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自由をつくる 自在に生きる

冒頭に「結論からさきに書くと、『人生の目的は自由だ』と僕は考えている」とありますが、次のページから前半部分までは一見自由に思えることの多くが何かに支配されているんだと筆者は語ります。なるほどと思う反面、これでは我々が考える自由のすべてが否定されるように感じ、このあと収拾がつかなくなるのでは、といらぬ心配さえしました。
 そのあと、筆者の価値観や世界観に基づく「自由」が語られます。それは自由の定義づけなどの普遍性のあるものではなく筆者の考え方そのものと言ったほうがいいかもしれません。やりたいと思うことができないのが不自由なのであれば、努力してそれをかなえることが自由というくだりは、なるほどと思う発想です。一風変わったとも思える視点から展開される「自由」についての話は、まさに「自由な発想」からくるようです。
 われわれの住む社会において「自由」というのは国家や会社など自分を取り巻く環境を相手としたものというのが一般的な「自由」の概念ですが、本書に書かれた自由は自らの心をその対象とするようです。われわれはさまざまな経験により多くのことを学習します。やりやすい方法を覚えたり、危険を察知することも経験によって理解したりします。しかし筆者はあえて大切な財産でもある「経験」に対し再び検証することを勧めているように感じられました。
「常に自由でありたい」という願いは皆共通です。そのひとつの方法として自分を見つめなおしてみることを筆者は提案しているようです。数多くの項目に分けていろいろな角度から見る「自由」は説得力十分。
 読んでいる途中に感じた不安感みたいなものも、読み終えるとスッキリ。痛快ともいえる「自由観」です。
(辻田浩志)




森 博嗣 著

大人の野球

プロ野球の世界は経験した者たちにしかわからないものもあるだろう。しかし、著者は大学卒業から44歳まで現役の投手として活躍し、その後もコーチとしてプロ野球界に携わっており、本書からその裏側を垣間見ることができる。
 現役時代はノーヒットノーランを達成するなど輝かしい記録を持つが、中にはぎっくり腰で1シーズンを棒に振ってしまったり、投球がうまくいかず悩むこともあり、さまざまな壁や苦悩を乗り越えてきた様子が描かれている。また、対戦相手の分析から組み立てられる投球術が本人の経験談とともに述べられているが、そこには走り込みや投げ込みの重要性もうかがい知ることができ、今や日本球界を代表する投手であるダルビッシュ有や田中将大らを育てたといわれる著者の理念が感じられる。
 また、大の酒好きでも知られ、現役時代には勝っても負けても飲みに行き、コーチ就任後も選手を飲みに連れていくなどしているそうで、常に選手または野球に対し前向きかつ努力し続ける姿が読んでいて気持ちがいいものである。
(池田健一)




佐藤 義則 著

アスリートのための食トレ―栄養の基本と食事計画

身体が資本のアスリートにとって食事は非常に大事なものです。競技者にとっては、どうしても目前にある技術の向上や勝つことに目が向いてしまうのですが、そのための身体の準備ができていなければ、十分な力を発揮することができません。
 この本では、身体に必要な栄養素の基本、バランス、そして試合や練習前後、オフなどの時期に合わせた食事の取り方や、具体的な食品などを説明してくれています。そして食事内容だけではなく、アスリートとして心がけるべきマナーや「スポーツ栄養のツボ」という囲みでポイントを解説してくれていて、わかりやすく、すぐに実践できる内容ばかりです。
 普段の食事からアスリートとしての身体づくりは始まっているのです。この本を読むと日々の食事の摂り方に一味加わると思いますよ。
(大槻清馨)




海老 久美子 著

醒めない夢―アスリート70人が語った魔法の言葉

1人の勇気ある選手の出現から変革が始まるのかもしれない。「不可能」を「可能」にしてきた選手たちの姿は多くの感動を与え、私たちに勇気も与えてくれるように思える。その過程の中には、常人には理解しがたい思いや孤独があるであろう。そして、目には見えない壁を自ら打ち叩き、道なき道を突き進んできた姿を映し出したのが本書であると言える。
 常識に囚われることなく、自分を信じて結果を出すことで存在証明をしてきた70人の言葉。それらを通じて、夢を持つことが大変大きな力を与えてくれることを考えさせられる。そして、1人1人の個性から現れる無限の可能性と、夢とともに自分自身に負けない心意気が、最後の可能性を手にする鍵なのではないかと思う。このような姿勢を持ち続けることが、今までにない世界をつくり出すのではないかと感じる。
 新しい時代を拓くのは、創造的少数者(クリエイティブ・マイノリティー)の人々から始まるのではないかと考えさせられる一冊である。
(辻本和宏)




David H. Perrin 著

アスレティックテーピングとリハビリテーションエクササイズ

多くのNATA-BOC公認アスレティックトレーナー(ATC)が大学における専門教育課程で原書の初版を教科書としてテーピングの理論と技術を学んでいるという。
 テーピングとブレースに関する総論に始まり、テーピングを行う上で基本となる解剖や障害の概論が部位ごとにまとめられ、それに応じたテーピングが写真つきで説明されていてわかりやすい。また、併せてブレースの紹介や簡単なリハビリテーションエクササイズも記載されており、アスレティックトレーナーの導入本としては非常に読みやすい一冊である。
(石郷岡真巳)




David H. Perrin

モチベーション入門

トレーニング指導をする際に、必ず話すことがある。「私に言われたから、受身でやるのと、自らが強くなりたいと思ってやるのでは、同じプログラムでも効果は大きく違ってくるよ」と。逆に言えば、選手がその気になってくれれば指導の90%は終わったようなものだ。
 いかに選手のモチベーションを上げるか? そればかり考えているつもりだった。しかし、モチベーションについてあまりにも無知だったということに、この本を読んで気がついた。

モチベーションとは何か? 「モチベーションとは意欲です。意欲には目的が欠かせません。何か得たいもの、したいことがなければ、動機付けられて何かをしようという気持ちになれないものです。欲しいという気持ち、動因と、欲しいという気持ちを起こさせるもの、誘因の2つの要因のどちらもあることが、動機付けの不可欠の前提です。この2つの要因をどのように組み合わせるかが、モチベーションの考えの基本です」
 アメとムチの論理についても、知らなかった。どうしてもこの「外」の論理が好きになれずにいた。人間はもっと賞罰がなくても頑張れる、そうなってほしいと思っていた。そう内発的動機付けによっても人はモチベーションが向上すると言う。そういった「内」の論理があることを知り、思わず頷く。
 サッカー元日本代表監督のオシムは、モチベーションを上げるのに賞罰を与えることを嫌い、こう話す。
「モチベーションとは、選手に自分が考えるきっかけを与えることだ」
そして、前楽天監督の野村克也は、こんな風に言う。
「ナポレオンは、人間を動かす2つのテコがある。それは恐怖と利益であると言った。私はこの2つに尊敬を加えたい。リーダーは利益と尊敬と、少しの恐怖で組織を動かしていくべきで、その潤滑油がユーモアだ」と。
(森下 茂)




田尾 雅夫 著

高齢者の転倒とその対策

高齢者の転倒防止が重要視される要因として、さまざまな臨床的課題に発展する可能性が高いことが挙げられる。転倒それ自体で大きな障害を起こさなかったとしても、リスクが大きく広がってしまう。
 本書では転倒が起こる原因、対策、復帰までの運動訓練などさまざまな角度から高齢者の転倒について記述されている。
筆者は「活発な生活をしていると転倒する確率は高く、逆に不活発な生活をしていると転倒する確率は少ない。しかし目標は活発にしていても転倒する確率の少ない生活である」と唱える。
 転倒が起こらないように環境設備を整えるバリアフリーも1つの手段だが、自分自身を転倒から守るセルフコンディショニングを普段からしておくこともバリアフリーと言えると思う。
 高齢者の指導に関わる方だけでなく、若い世代の方に読んでもらえたら「今自分がやれること」のヒントが見つかるかもしれない。
(磯谷貴之)




真野 行生 著

Swimming Drills for Every Stroke

スイマーには、「強さ」と「洗練された技術」が要求されます。この2つがうまくコンビネーションを取れたときに、スイマーとして一歩上達できるのです。この本書では、シンプルかつ計画的に「洗練された技術」を学ぶことができます。
 指導者にとっては、引き出しとして持つトレーニング法はそのまま指導力に直結します。本書では、よりよい技術をスイマーに与えるための91ものドリルを目的や方法と共にイラストで詳しく紹介しています。
 著者はレクリエーションから競技までの幅広いレベルで18年間水泳指導されてきたRuben Guzman氏。彼はアメリカの全国大会やオリンピック選考大会に名を連ねるような選手も育ててきました。「泳げるようになりたいが、どうしたら良いか分からない」「水泳を教えたいが、何をどう指導するべきなのか」「もっと速く泳げるようになりたい」…こんな悩みを持った人には必読の一冊です!
(宮崎喬平)




Ruben J. Guzman 著

生涯スポーツ実践論

スポーツ業界や体育業界との関わりがなくとも、生涯スポーツという言葉を耳にしたことのある人は少なくないだろう。
「生涯にわたる各ライフステージにおいて、生活の質(QOL)が向上するように自分自身のライフスタイルに適した運動・スポーツを継続して楽しむこと」と本書冒頭で著者らも定義しているヨーロッパ生まれのこの概念は、一見当たり前のことに思われるものの、その内側に実に多様な要素や問題を内包している。
 たとえば、生涯スポーツを考える上でイメージしやすい様々なスポーツイベントだが、その全国大会とも言える「全国スポーツ・レクリエーション祭」が20回以上にもわたって開催されていることを果たしてどれだけの人が認知しているだろうか?
 ほかにも世界各国と我が国の生涯スポーツ政策の違い、青少年や女性、障害者や高齢者との関係、さらにはスポーツ・スポンサーシップや施設(クラブ)マネジメントに至るまで、生涯スポーツを軸に据えながらそこから派生する沢山のトピックを、本書は平易な文章と多くの事例やデータ紹介によりわかりやすく解説してくれている。とくに、2000年からの「スポーツ振興基本計画」に基づき企業や学校主導(社会体育)から地域主導(コミュニティ・スポーツ)へと変遷して行く環境下で大きな役割を果たしている総合型地域スポーツクラブへの詳細な言及は数多く、施設運営面においてはある意味対極に位置しながらも、共存共栄を願って模索を続ける民間スポーツクラブの現場指導者としては参考となる資料や事例が盛り沢山だったことも強調しておきたい。
 スポーツ振興基本計画の後を受けるような形で、「スポーツ立国戦略(案)」も文部科学省より発表されたが、その中でも引き続き“ライフステージに応じたスポーツ機会の創造”すなわち、生涯スポーツの機会創造が重点戦略として挙げられている。母体ともなった“スポーツ・フォー・オール”のムーブメントが定着してから30年あまり、我が国の生涯スポーツが進化・定着しようとする重要な時代にわれわれは立ち会えているということも改めて思い起こさせてくれる一冊である。
(伊藤謙治)




丹羽 政善 著

メジャーの投球術

いまや日本人のメジャーリーガーは珍しいものではなくなっている。それどころか各球団のスカウトが日本野球界に熱い視線を送り続けている。その中で投手に焦点を置いて、メジャーリーグの裏側を紹介している。
 科学的と思われている根拠ももとをたどるとそうではなかったり、実際の球筋と球種名の認識の違いだったり、不正投球の歴史だったり、野球にそんなに詳しくない人でも、なるほどと思える内容を中心にまとめられている。
 分析をすることではなく、新しいことを考えることが指導者の本来の仕事ではないだろうか。それがどのように評価されるかは別にして。
(澤野 博)




丹羽 政善 著

知性はどこに生まれるか―ダーウィンとアフォーダンス―

「語る前に見よ」。
 行為に何らかの意図を読み取ろうとしてはいけない。行為は「はじまり」があって、「まわり」に出会い「変化」するのだ。そして「変化」には目的も方向もない。「変化」の「結果」が残るだけである。その「結果」から行為に意図や目的をくっつけて説明するというのは、大きな誤りなのだ。  本書には、かなりのページ数を割いて、ダーウィンが観察したミミズだとかキャベツの子葉だとかモグラだとかのことが書いてある。そこだけでもかなり面白かった。
「ミミズは地球の表面を変えるために生きているのではなく、ミミズの生の結果が大地を変えただけだ」とか、「モグラはトンネルを探しているわけではなく掘りながら土の中にあるやわらかさのつながりを発見しているのだ」という言葉が本書に書かれているが、それらが私の心の中で次第に存在感を増している。
 ただ「まわり」に出会って「変化」する。私も「まわり」に出会って変化するし、私自身が誰かを何かを変化させる「まわり」でもあるのだ。ミミズが耕した大地のように、モグラが掘ったトンネルのように、変化した歴史と痕跡をひっくるめて「生きている」ということなのかもしれない。
 私とはなんとちっぽけなものなのだろうと思う。それは決して不快な気持ではなく、むしろ、清々しい。
(尾原陽介)




佐々木 正人 著

オニババ化する女たち~女性の身体性を取り戻す

「オニババ」。この衝撃的なタイトルに、“一体どんなことが書かれた本だろう?”と、興味を惹かれた。  本書で言う「オニババ」とは、「女性性(身体性と生殖)から離れていってしまった女性たち」のことを指している。戦後、女性の社会進出が進むにつれ女性たちは、「女性らしさ」、「女性としての生き方」を忘れ、「オニババ化」してきた。本来の女性としてのエネルギーが、今、行き場を失っている。
 本書では、女性の体、性、生殖、出産などをメインに、本来の“女性らしさ”とはどのようなもので、それが現代女性にとっていかに重要であるかを問いかけ、改めて「女“性”として生きること」の意味を考えさせられる一冊になっている。
(藤井 歩)




三砂 ちづる 著

チェアウォーカーという生き方

「チェア(椅子)」「ウォーカー(歩く人)」初めて聞く言葉ですが筆者の作った造語のようです。車椅子に乗る身体障害者ということですが、どことなく軽快な印象があります。本書は25歳のときバイク事故で両足が不自由になったひとりの女性の生き様がありのままにつづられています。
突然襲いかかった耐え難い現実を、葛藤の中で素直に受け入れ、そこから自分の価値を見いだし積極的な生き方で自らの幸せを拓いていく様が描かれています。
バリアフリーという言葉は近年になって耳にする機会が増えましたが、段差をなくすことや手すりをつけるなど物理的な物だけではなく、同じ社会に生きる人の手伝おうとする気持ちや共に楽しく過ごそうとする精神にこそ真のバリアフリーだという問題提起がここにあります。 海外におけるバリアフリーということに対する個々の意識については考えさせられます。「手伝ってほしい」「手伝いたい」お互いにそんな気持ちはあっても現実には口にして実行することに気恥ずかしさを感じたり気後れしたりすることも多いはずです。障害者側は出来ることと出来ないこと、さらには手伝ってほしいことを明確に告げた上で積極的に社会参加すれば生き方も拓けていくことを示し、また同じ社会に生きる人がどのように障害者に接したらお互いに気持ちよく手助けできるかのヒントも筆者の体験談から教えてくれます。
本当のバリアフリーとは何か?ともすれば暗くなりがちな話題を力強く明るく展開していく内容には心惹かれるものがあり、読むにつれて勇気がわいてくるようです。それが筆者の人間としての魅力なのだと思います。
理屈ではなく心で読んでみたい・・・。そんな素敵な一冊です。
(辻田浩志)




松上 京子 著

関節ストレッチ&トレーニング

「ストレッチやトレーニングをしたいけどやり方がわからない」という方にはわかりやすい本だと思います。効果・作用・やり方が簡単に書いてあり、すべて写真で示されています。
 すぐに実践でき、身体に対してアプローチを始めるにはよい1冊かもしれません。
(大槻清馨)




矢野 啓介 著

逆風満帆

本書は、第1章「頂点からの転落、そのとき自分は…」、第2章「挫折の中から自分の可能性を切り拓く」、第3章「逆風あればこそ見えてくるものがある」、第4章「たゆまぬ努力と職人魂で1つ上をめざす」、第5章「逆境でも自分を貫く強さが人を惹きつける」によって構成され、各分野で活躍する20名の人物が登場する。
 私たちは活躍する人物を見ると、順風満帆に人生を歩んでいるように見える。しかし実際には、外からは見えない陰の努力やさまざまな思いが存在する。さまざまな苦難に遭遇しながらも、その過程で前向きに取り組むことで状況を打開しているのである。見ているようで見えていなかったことや、気づかないでいたことを本書から感じ取れる。そして、多様な角度からものごとを見ることで、スポーツに関わる私たちにも多くのヒントを得ることができるだろう。
 本書のあとがきには、次の1文でまとめられている。「ほんとうに大きな困難を克服して今の地位に辿り着いた人たちは、実に冷静に自分を分析していました。自分の失敗や逆境を見つめ直して、他人に率直に語れる人というのは、やはり一流の人だと実感しています」ということである。本書は、謙虚な姿勢や心が大事であり、それが後になって、自分自身に返ってくることを教えてくれる。
(辻本和広)




朝日新聞be編集部 著

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