推理小説の結末を明かすようで気が引けるのですが、本書は「音楽というものは、音を聴いたり演奏したりする時に のみあるのではなく、生活の隅々にまで存在していることに気づかされる。『人生のすべてが音楽である』という気づきを持つことが、生きていく上で大事なのだ」という一言に集約されます。これだけでは何のことかわからないので補足すると、「音楽を聴く」ということは単に音を聴くのではなく、作曲家の心や人生、あるいはその人の背景に至るまで読みとり、なおかつ自分自身の心の裡に投影することにより己自身を知るということを述べておられます。そういった音楽の聴き方を養うことは、すなわち自分の人生を哲学するということにつながるというのが筆者の考えのようです。
クラシックを聴く筆者がモーツァルトに見たものは何か? シューベルトの世界観はどう映ったのか? 音楽を聴き続けることで養った感性の鋭さや豊かさは、人生で起こり得るすべての出来事において生きてくる。あるいは受け入れることができる。そういう考えが「すべては音楽から生まれる」というタイトルに表されているようです。
もちろん漠然と聴いていてもそのような感性が養われるわけではありません。「耳をすます」ことによってその扉が開かれるようですが、扉の向こうには自身ですら気づいていない自分の内面があるといいます。
これ以上の「種明かし」はお叱りを被りそうなので止めておきますが、本書は音楽の説明や解説がその目的ではなく、自分探しのノウハウがその主旨のようです。
(辻田浩志)
茂木 健一郎 著
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