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すべては音楽から生まれる

推理小説の結末を明かすようで気が引けるのですが、本書は「音楽というものは、音を聴いたり演奏したりする時に
のみあるのではなく、生活の隅々にまで存在していることに気づかされる。『人生のすべてが音楽である』という気づきを持つことが、生きていく上で大事なのだ」という一言に集約されます。これだけでは何のことかわからないので補足すると、「音楽を聴く」ということは単に音を聴くのではなく、作曲家の心や人生、あるいはその人の背景に至るまで読みとり、なおかつ自分自身の心の裡に投影することにより己自身を知るということを述べておられます。そういった音楽の聴き方を養うことは、すなわち自分の人生を哲学するということにつながるというのが筆者の考えのようです。
 クラシックを聴く筆者がモーツァルトに見たものは何か? シューベルトの世界観はどう映ったのか? 音楽を聴き続けることで養った感性の鋭さや豊かさは、人生で起こり得るすべての出来事において生きてくる。あるいは受け入れることができる。そういう考えが「すべては音楽から生まれる」というタイトルに表されているようです。
 もちろん漠然と聴いていてもそのような感性が養われるわけではありません。「耳をすます」ことによってその扉が開かれるようですが、扉の向こうには自身ですら気づいていない自分の内面があるといいます。
 これ以上の「種明かし」はお叱りを被りそうなので止めておきますが、本書は音楽の説明や解説がその目的ではなく、自分探しのノウハウがその主旨のようです。
(辻田浩志)




茂木 健一郎 著

心と脳を強くするメンタル・トレーニング

スポーツに特化したというよりもスポーツを事例に多く取り入れているメンタルトレーニングのビジネス書である。
 1つひとつの章には「なるほど」と思う事例があるが、その事例が多いためか、本全体の統一感が薄く、何を一番主張したいのかが、ぼやけてしまっている感じがある。
 ただ、それぞれの章で述べているところは納得できる部分もあるので、基本的な考え方を身につけるにはちょうどよい書籍ではないだろうか。もちろん万人にとって、この方法が絶対ではないということは、認識しておかなければならない。
(澤野 博)




木村孝・藤田完二・高橋慶治 著

子どもの能力をとことん伸ばす筋力トレーニング

子どもの体力低下が始まって30年が経過しようとしている。その間、子どもの体力低下は重要な問題として扱われてきたものの、結局のところ30年間子どもの体力低下を食い止めることはできなかった。
 本書は、子どもの体力低下を止めることのできなかった「大人」に対して警鐘を鳴らすとともに、子どもの体力低下を止めるための新たなアイデアを提案するものである。“筋力トレーニング”というタイトルを見て、抵抗感を覚える方もいるだろうが、読み進めるにつれて筆者の意図を理解し、納得される方も多いのではないかと思う。
 専門用語が少なく、一方でさまざまな例を用いた解説が多いため、スポーツやトレーニングを専門としない方にも非常にわかりやすい内容となっている。科学的研究だけでなく、自身もボディビルダーとして活躍し、最近はテレビや雑誌にも多く登場する筆者ならではの1冊と言えよう。
「まず、ご自身が本書に書かれている運動を行ってみてはいかがでしょうか」という最後の一言は、現在小さな子を持つ世代、つまり「子どもの体力低下」を身をもって体現してきた世代にとって、心にチクリと突き刺さる言葉ではないだろうか。
(平山邦明)




石井 直方 著

からだの設計図~プラナリアからヒトまで~

本書は主に、生物の「発生」の仕組みについて書かれている。ところで、「発生」というのは、多細胞生物が受精卵から成体になるまでの過程のことだっただろうか。確か高校の生物の授業でそういうことを聞いたような気がするなぁ、という程度のレベルの私にとって、正直難しい本だ。
しかし。
「よくわからないけど、とにかく面白い!」
これが私の、読中・読後の印象である。本書を読む前は、「からだの設計図」というタイトルからして、詳細な遺伝情報などについて書かれているのだろうと想像していた。
 しかし、書かれていたのは身体がつくられるシステムとそれが作動するプロセスだった。
 生物の一生の歴史は受精卵という一個の細胞から始まる。そして、その受精卵には「設計図」と「時刻表」が内蔵されている。設計図は遺伝子である。そして、時刻表とはどの遺伝子がいつ働き始めるかの情報である。といっても、詳細を極めた時刻表があるのではなく、発生は一連のカスケード、つまり将棋倒しのように進行している。
 その将棋倒しの始まりは何か。当然、「受精」である。体には目になる細胞、脚になる細胞、内臓になる細胞というものが個別に存在するのではなく、相対的な位置関係によってそれらが決められる。そしてその位置関係の基準点となるのは、卵子に精子が侵入した点である。
 その点の反対側が背中になり、背腹が決まり左右が決まり、発生が進行する。「そんなことで決まるのか?」と思わずツッコミたくなるが、なるほど、著者の言うとおり「生き物はよくできている」のだなぁ。
 柔軟性と寛容さと生きる意志。細胞や遺伝子がそれを持っていて、「私」という生き物はその活動によって生かされている。そんな風に思うようになった。これも著者の言うとおりだ。生物学の世界には深い含蓄がある。
(尾原陽介)




岡田 節人 著

マネジメント信仰が会社を滅ぼす

「マネジメントが下手だからビジネスがダメになったのではない。マネジメントなんかにうつつを抜かしているからビジネスがダメになったのだ。むしろ、余計なマネジメントなんかするな」
 本書の冒頭で、著者の最も伝えたいこととして述べられていることである。読み進めていくと、この言葉の真意が徐々に読み解けてきた。現在の経営者たちに意志を感じないこと、客観的な観点や多面的な考察力が乏しいこと、無責任であること、顧客よりも組織を重視することなどが、著者の意見の背景にある根拠のようである。  これは、ビジネスの分野だけでなく、競技スポーツの分野にも言えることであろう。上記のような光景は、組織が機能不全に陥っている場合によく見られる光景である。そして、これらの本質的な問題は、組織の思考力が低下していることなのではないかと感じる。自らの頭で深く考えることをしないまま、さまざまな手法や理論を真似て、「真似ジメント」するために、問題の肝を適切に捉えた取り組みができないのである。確かに、「真似ジメント」でも、短期的には成果を期待できるかも知れない。しかし、長期的観点で考えると、継続的な成果を獲得することは難しいことを、本書では「WのV字回復」と「XのV字回復」を例に紹介している。この概念は、大変興味深い。前者は、「真似ジメント」の典型的な例である。一方、後者は、長期的観点から時流を読んでいることが理解できる。
 昨今、「すぐに使える」「具体的な内容」というノウハウものが氾濫しているように感じる。それらのものを否定するつもりはない。しかし、本来ノウハウというものは、さまざまな試行錯誤の末に、やっと見出すことができるもののはずである。そして、実は、その思考過程が大変重要であり、そこから、その人の哲学や世界観が確立されてくるのだ。自らの哲学や世界観を持つからこそ、そのノウハウの効力が増すのである。本書を通じて、今一度、自らの思索を深め、確固たる哲学や世界観、価値観を確立させる必要があると改めて感じた。
(南川哲人)




深田 和範 著

井上康生が負けた日

スポーツや武道の世界では、古くから「心・技・体」の大切さが言われている。特定の要素が高かったとしても、他の要素とのバランスがとれていなければ高いパフォーマンスの発揮は困難だということである。五輪という大舞台で力を発揮できるかは、日頃の練習やトレーニングをはじめ、日常生活や家族との絆を大切にしながら「心・技・体」を高めることが頂点を極めるために重要であることを本書では述べている。シドニー五輪前には最愛の母を亡くした。そして、「亡き母に金メダル捧げる」と誓い有言実行し、母の写真とともに表彰台に立った井上選手の姿は感動を呼んだ。また、その瞬間から、アテネ五輪での連覇が期待される人間となっていく。本書は、アテネ五輪に向けて、父親であり師匠でもある明氏と井上選手の戦いの軌跡が紹介したものである。
 アテネ五輪では、4回戦でオランダのバンデギースト選手に敗れた。明氏には信じられない光景であったという。ショックを隠しきれない明氏であったが、再び金メダル獲得を目指そうとする井上選手の姿勢に勇気をもらったという。それは、他の五輪出場選手にも同様だった。井上選手は自身の敗戦後にも関わらず、他の選手の応援に回っていたのだ。その姿を目にした選手も勇気をもらったと話す。そこには、主将としての立場を自覚して行動しようとする姿勢がにじみ出ていたのである。
「禍福は糾える縄の如し」という言葉がある。栄光を手にして終わりなのではなく、その栄光から再び挑戦できる情熱を自らに点火していく大切さが周囲の人々に伝わったのだろう。勝利することで学べることはあるが、負けることでも学べるのである。ただし、その背景には、井上選手の周囲に存在する関係者や家族を見逃すことはできない。彼らの温かく見守る姿勢が、井上選手に心の安住を与えた側面も存在したと考えられるからである。本書を通じて、選手を観察する視点を増やすきっかけになるであろう。選手を知り、理解することは、指導者として大切なことである。そして、その際には、目の前にいる選手の一部分だけではなく、人間そのものの存在を知ろうとする必要があることを教えてくれる1冊である。
(辻本和宏)




柳川 悠二 著

リハビリの夜

この本は、リハビリをする側の「トレイナー」が体感することができない、リハビリされる側「トレイニー」の目線で書かれています。トレイナーが自分の思い描くリハビリをトレイニーにあてはめている様子が伝わってきます。たとえそれがトレイニーの望むところとは違っていたとしても、トレイナーはリハビリをしている気になっているのです。
 著者は自身の行動を、主観的だけではなく客観的な目線で解説している部分もあり、主張をしているのではなくて、分析、説明してくれています。たとえば、セラピストがクライアントの立場になって考えようと思っても、経験したことがない状況を思い描くことは困難です。この本を読んでいると、客観的に見ながら、隣で語ってくれているように感じました。
 クライアントの心や身体が何を望んでいるのか、それに対してセラピスト側はどう対応すればよいのか、お互いの歩み寄りは大切です。著者は、それをリハビリの場面、そして自分を取り巻く生理現象や介助者、環境を通して伝えてくれています。学校では学べない、しかし人と関わる仕事をしている人にとっては大切な部分、それを考えさせてくれる教科書のような一冊です。
(大槻清馨)




熊谷 晋一郎 著

「頭と体」に効く! ボクシング体操

「もっとリラックス、リラックス!」そんな言葉がけは、スポーツのいたるところで行われている。でも、いざパフォーマンスを発揮する場面になると、肩や手足に余分な力がついつい入ってしまう。それを見て指導者は「もっと力を抜いて、楽に楽に」と声をかけるが、パフォーマンスは一向に変わらない。
 力を抜いたほうがよいのは間違いないが、実は力の抜き方を教えてくれる指導者は少ない。そんな中、ボクシングの動きに、脱力のヒントがあると著者は教えてくれる。ボクサーのウィービングは、上体と膝を使って顔を動かし、相手に目標を定めづらくする技術であるが、このウィービングに膝の小さな脱力を加えることで、上体の力も抜くことができると。
 古武術でも、「膝を抜く」という表現があるが、身体を効率よく動かすヒント、リラックスする答えはここにあるのかもしれない。
 また、ボクシングの動きのように、相手の動きに合わせて反応する動作では、脳をより活発に使うことができる。まずは、目や耳から得た情報が脳に入るインプット、そして脳から筋肉へと指令がいき身体を動かすアウトプットと、2つの刺激を脳に与えることができる。したがって、著書の後半では、目で反応して体を動かすものがたくさん紹介されている。いずれのドリルも、楽しみながらできるように工夫してあることもありがたい。
「頭と体に効く!」のタイトルのごとく、健康志向の方向けではあるが、リラックスのためのヒントとなる「膝の脱力」のことなど、アスリートにとっても大いに役立つものとなっている。
(森下 茂)




豊嶋 建広 著

からだには希望がある

著者は武道をはじめ気功やヨガなどの修行を重ね、その身体の使い方を体系化した「運動科学」を研究された高岡英夫氏。その独特の視点から「ゆる」「極意」「呼吸」「気」という4つの項目を解説し、さらに具体的な方法論を記した一冊です。
 東洋的な発想からの身体活動の切り口は多くのヒントを与えてくれます。ともすれば抽象的な内容に終わりがちなところを「メソッド編」で具体的に実行する方法が書かれているので試してみるのも容易。
 独特とも言える身体感覚を表現する難しさを感じる部分も多いように思えるのですが、とりあえずやってみて「感じる」ことに本書の意義があるようです。知識を得るというよりも体感した方がよさそうです。
 普段何気なく「極意」という言葉を使っていますが、その定義というのは意識することはありませんでしたが、何気なしにやっていることを明確に意識して、かつ効率的に行うことが身体の潜在能力を引き出すコツのようにも思えました。
(辻田浩志)




高岡 英夫 著

タンパク質の生命科学 ~ポスト・ゲノム時代の主役~

スポーツや医療に関わる上で、生物の身体を構成するタンパク質は非常に重要な物質である。しかし、医療従事者やスポーツトレーナー、またアスリートに「タンパク質とはそもそも何なのか?」という問いを投げかけたとき、十分に説明できる者、しっかり理解できている者はどれくらいいるのだろうか。「身体の何を構成しているの?」「タンパク質の役割って?」「プロテイン・アミノ酸・タンパク質の違いは?」「アミノ酸って、いったい何種類あるの?」「必須アミノ酸って何?」、そんな問いに答えてくれる一冊。
 本書自体はタンパク質の基礎的な内容にとどまるが、読者のニーズにマッチした専門的なタンパク質の知識を探求するためのスタートラインに相応しい本に仕上がっている。
 たとえばではあるが、スポーツ関係者なら、本書から得た必須アミノ酸の知識からさらに、BCAAやそれぞれのアミノ酸の特性、またサプリメント摂取のタイミングなどについて知識を深めることもできる。
 人体に興味がある人、人間の身体に関わる仕事をしている人、そんな方の本棚に置いておきたい作品だ。
(宮崎喬平)




池内 俊彦 著

あなたのエクササイズ間違っていませんか?

「本来運動とは楽しいもので、特別な人だけのものではない。そのためには正しい体の使い方や運動の効果を知ることが大切であり、そして指導者が伝えるべきことである」と筆者は述べている。勝ち負けや競争など「競技志向型」による教育を受けてきた方々の多くが、苦しさ・窮屈といったマイナスなイメージを運動に抱いている。それが運動嫌いにつながることを多くのクライアントから実感した筆者が、「運動は楽しいもの」「すべての人にとって人生を前向きにしてくれるもの」ということを伝えるために奮闘してきた経験がこの一冊につまっている。
 最後の章では「運動お悩み相談」として13の質問に筆者がわかりやすく答えてくれており、多くの方が疑問に感じていることを解決してくれるヒントがあふれている。「生きるうえで運動がどうして必要か?」という根本的な問いに向き合った一冊である。
(磯谷貴之)




桜井 静香 著

岩本輝雄のサッカー キックバイブル

オールドファン…というにはまだ新しいものの、バブル華やかなりし’90 年代のJリーグ草創期を見てきたサッカーファンには、当時全盛の個性的なプレイヤーたちはやはり特別なアイドルと言えるだろう。
 本書はそんな一人、いわゆる「ドーハの悲劇」の後にベルマーレ平塚や日本代表で活躍した名レフティー、岩本輝雄氏監修によるサッカー指導書である。
 内容は至ってスタンダード。豊富な写真と付属のDVD による解説とともに、インサイド、インステップ、インフロントといった各種のキックやトラップ、プレースキックなどの練習法を紹介しているものである。特筆すべき点はないものの、実はこうした書籍が店頭に出回るというそのこと自体が、文字通りの「オールドファン」である我々にとっては隔世の感がある。
 現代では人工芝のピッチでカラフルなシューズを履いた小学生がジダンの“マルセイユ・ルーレット”やロナウジーニョの“エラシコ”をさも当たり前のテクニックのように涼しい顔でやってのけ、その土台となるボールを蹴る、止める、相手をかわす、といった基本技術を高いレベルで身につけている。全国レベルともなるとプロ顔負けのチーム戦術まで披露しているほどである。
 振り返って80年代。日本にプロサッカーリーグなどなく、「ピッチから観客が数えられた」と選手が苦笑していた国立競技場。ワールドカップ出場はもちろん、海外で複数の日本人が活躍することなど想像もつかなかった当時、弱小校のサッカー部員たちはコンビニでは手に入るべくもない月刊専門誌を部内で回し読みし、眠い目をこすりながら深夜の衛星中継で見たヨーロッパのトッププロのプレーを十把一絡げの黒いスパイクとともに見よう見まねで真似しては悦に入っていた。ほんの十数年前の話である。
 目を見張る日本サッカーの右肩上がりの発展に、こうした一冊も少なからず貢献しているであろうことを想像しながら読んでしまうのは、やはり私が「オールドファン」だから、だろうか。
(伊藤謙治)




岩本 輝雄  著

エクササイズと食事の最新知識

栄養学の基本を学びたい方におすすめの書籍である。3大栄養素はもちろん、微量栄養素や水分についても解説がされている。
 米国の訳書なので出現する食物や事例が日本においては一般的でない場合もあるが、理解をする上では全く問題がない。図や表も効果的に使われている。巻末の付録などは有用性が高いが、ちょっと年数が経ちすぎている。食品組成などが大きく変化することもないだろうが、その他の内容の修正と合わせて、改訂版を望みたい。
(澤野 博)




Ann C. Snyder  著

本番で負けない脳―脳トレーニングの最前線に迫る

本書のメインである、コンピューターを使ったニューロフィードバックトレーニング。これが果たして、脳波を自分でコントロールできるという「プラセボ効果(偽の薬を処方しても、薬だと信じ込むことによって何かしらの改善がみられること)」であるかどうか。もちろん、私がどう言えるものではないが、正直なところ、どちらでも良いと思っている。要するに、重要なのは、心をコントロールすることなのだから。
 本書に紹介されていた、コンピューターグラフィックスを用いたニューロフィードバックのトレーニングの例で、「ブルーレイク(青い湖)をつくる」というものがあった。実は、こういうトレーニングを、私も現役時代に行っていた。といっても、コンピュータグラフィックスなどという代物は三流選手であった私には無縁である。脳裏に鏡のような青い湖を思い浮かべるだけ。ところが、これが難しい。さざ波一つない湖を完成させるのは、至難の業だ。「波を立ててはいけない」と思えば思うほど、ザブンザブンと波立つのだ。
 また、指導者の心得として、こういうことを言われたことがある。たとえば、「白いカラスはいない」というのは正しいけれども、結局「白いカラス」を思い浮かべてしまう。つまり「こういうミスをしてはいけない」というと「こういうミス」のイメージを思い浮かべてしまい、その通りのミスを犯してしまう。だから、「こういうプレーをしよう」と言わなければならないよ、と。
 競泳の北島康介選手のように「ゴールにタッチして振り返って電光掲示板で自分の順位と記録を確認するまでがレース」でもいいし、プロゴルファーの金田久美子選手の「弱気発言10回でケツバットの刑」でもいい。脳の性質を知り、ポジティブに考え、そして何より、自分の心は自分でコントロールできると確信することが大切なのだ。
 本書は、NHK報道番組ディレクターという著者の視点から書かれており、最新技術や諸外国の取り組みを礼賛するような傾向は否めない。しかし、集中力とは何か・リラックスとは何かと考えるきっかけを与えてくれる一冊であることは、間違いない。
(尾原陽介)




善家 賢 著

健康運動プログラムの基礎―陸上運動と水中運動からの科学的アプローチ

この本を読んだ正直な感想は、“The 教科書”である。ここには、わたしが大学で学んできたような、運動・健康・スポーツに携わる者にとって必要な知識がつらつらと書かれている。
 それが各著者ごとに、研究報告または短い論文形式でまとまっている。主に陸上運動と水中運動の二部構成となっているが、水中運動については私個人としては新鮮さがあり、水中で行う運動の特徴、おなじみの水中運動(アクアウォーキング、水泳)をはじめ、アクアエクササイズやシンクロナイズドスイミングの多様な導入についても述べられている。
 一見、読みづらいと思われがちだが、写真や表、グラフなど多く使われており、視覚的にもわかりやすくまとめられている一冊である。
(藤井 歩)




北川 薫 著

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