根本的な解決策は
ごく身近な中学生の女の子が、一部の人間たちの悪意のある言動によって深く傷つけられ学校に行けなくなった。周りを気遣うやさしくおとなしい子である。誰にも迷惑をかけず、ただまともに生きようとしている子たちがターゲットになるこのような例は、悲しいことに珍しくない。本人へのサポートや、そういった行為をする者たちへの働きかけにより、この状況を改善することは、簡単ではないにしろ可能だろう。
しかし、本人が時間をかけてそのような状況にも向き合える自己を確立することが、根本的な解決法になる。自分を否定して変えるのではなく、自分を肯定することからこれをスタートするには、何か大好きで、大切にしたいことがあれば大きな助けになるのだと思う。
スポーツの枠を飛び出す言葉
本書は、プロサッカー選手三浦知良氏による日本経済新聞連載のコラム「サッカー人として」を過去5年分まとめたものである。ザ・プロサッカー選手キング・カズは実に26年目のシーズンを戦っている。サッカーを愛し、サッカーを通じて強烈な自己を創り上げてきた三浦氏の言葉は、スポーツの枠を飛び越えて活き活きと響いてくる。プロとして「楽しむ」ことは簡単なことではない。「24時間全てがサッカーのため」だと考え、精一杯戦い続ける。「基本を押さえ」た上で「いつの瞬間だって挑戦」することが大切。これらはただの言葉ではなく、彼の実際の行動で証明されているだけ、より鮮烈に心に届く。確固たる自己があるからこそ、敵選手をはじめ、他のスポーツ選手へのリスペクトも自然に湧いてくるのだろう。
もちろん、彼のようなスーパースターになれるのはごく限られた人間だ。しかし、まるで物事のいいところしか眼に入らないスーパーポジティブ人間のように見える彼も、人一倍の艱難辛苦を乗り越えてきているのだ。「人生は成功も失敗も五分」で、「あきらめる人とあきらめない人の差が出る」という話からもわかるように、上を目指せば目指すほど、ぶつかる壁は多かったはずだ。それらに真っ向から立ち向かったからこそ強い精神力が、さらに並外れたものにまで鍛え上げられたのだ。そんな生き様の彼を真に理解し、助けてくれる本当の仲間も周りに大勢いるだろう。
自分の中に育てる何か
問題が起こったときに他人のせいにし、言い訳をする前に、自分を省みてどうすれば自分がレベルアップできるのかを考え努力を重ねる。まっとうな批判であれば自分を見つめ、向上させるきっかけにする。愚にもつかない嫌がらせであれば凛として対応する。このようなことは頭ではわかっていても実際になかなかできることではない。そうしようとしたときにかえって弱い自分を痛感するかもしれない。辛い時期ならこんなことすら考えられないかもしれない。
それでも何でもいい。人から見れば小さいことだと思われてもいい。自分にとって大切な何かを育てることができれば、人は少しずつでも強くなれるのではないか。そしてその中で信頼できる本当の仲間ができるのではないか。目の前の小さな目標に向けて、毎日の積み重ねを続ければ、「自分の強い所で勝負する」ことができるようになるのではないか。
自分らしい強さを身につけたとき、社会に出てからもあちこちに存在する、自分の身を守るために嘘をつき、自分を大きく見せるために人をこき下ろそうとする心ない人間のことなど怖くなくなる。そしてみなそれぞれの「ゴラッソ」(素晴らしいゴール)を決めることができる。「考え、悩め。でも前に出ろ。1センチでいいから前へ進むんだ」三浦選手の胸に今も残る言葉だそうだ。
(山根太治・日体協AT、鍼灸師)
三浦知良 著
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