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誰でもわかる動作分析

難しいことをやさしく教えるには、相当な知識が必要である。人にものを教えたことがある人ならわかるはずである。
 私は理系の人間ではない。したがって、「物理学」「運動学」「人間工学」などは苦手中の苦手である。しかしである、ほんとうに驚くべきほどスムーズにこの本は読み進むことができたのである。
「生物の動きは『ある法則』で説明できる」という。「ある法則」とは「重力」のことだ。「重力」と言っても難しく考える必要はなく、その力はいつも同じ方向に向かっているということ。つまり、重力の方向は必ず下向き(地面方向)であるということを覚えておけばよい。そこさえ頭にいれておけば、あとは「フーン、なるほど」「ああ、そういうことだったのか」のかの連発。そして、「動くことっていろいろと理にかなってるんだなぁ」という著者の思いと同じものを感じるのである。
 著者は作業療法士であるので介護に携わる者はもちろん、スポーツに携わるコーチ、選手、トレーナー、トレーニングコーチ、はたまた力仕事に関わる人たち、とにかく「人間の動き」について興味のある方ならどなたでもお勧めしたい本である。とくに、私のように理系はどうも苦手という方にはありがたい。
(森下 茂)



小島 正義 著

アスリートたちの英語トレーニング術

中学校の図書館に「岩波ジュニア新書」の棚があり、面白くてよく借りていたのを覚えている。この本も、その頃の自分に読ませたい良書。
 日頃当たり前に使う「アスリート」という言葉だが、「スポーツマン」「プレイヤー」と比較すると、自らの身体能力に対して切実な思いを捨てられない人、という意味合いで用いるのがふさわしいように思われる。そのために手段を選ばず、エネルギーと時間を注ぎ込まずにはいられない人たちのことだ。可能性を広げる手段の1つとしての外国語学習だから、文中の「アスリートには外国語が上手な方がたくさん」という指摘も、至極当然のことと思う。  5人のアスリートを紹介する各章は、前半の〈来歴〉と後半の〈学習法〉で構成されている。前半には、受賞歴からは計り知ることのできない、血の通った1人の物語がある。挫折や停滞についても丁寧に扱われていて、そこには、単なる負の体験からの学びだけではなく、当時の葛藤をなつかしくいとおしむ、豊かさ温かさが感じられる。子どもたちにとってそれは勇気となり、広い世界へ心を開くきっかけとなるかもしれない。鮮やかな物語を通過することで、後半の〈学習法〉が説得力を帯びてくる。ただハウツーを次々に与えられ、それをこなしていくだけでは習得にはつながらないことに気づく子どもも多いと思う。
 レスリングの太田章さんの「完璧でなくていい、意思が通じることが大事」「レスリングも会話も同じ、自分をさらけ出して」というメッセージが、大らかで優しかった。子どもはこんな言葉をもっとたくさん浴びて育つべきだと思う。以前、世界で活躍するバレリーナが「とっさに出てこなかったら、日本語でもぽんぽん言ってしまいます、でもなんとか通じるもの」と話していたのを思い出した。
 相手も同じ身体活動に打ち込む仲間ならば、それだけですでに1つの表現法を共有していることになる。必死に絞り出したつたない言葉でも、何とか通じればさらに、仲間と共有できる感覚が1つまた1つと増えていく。外国語学習を通して世界が広がることの喜びを、本書はよく伝えていると思う。そして何よりも、目の前の障壁に情熱をぶつけ、自ら突破口を探り当て、勝ち取ってゆくアスリートの生き方が、今日の迷う子どもたちの胸に響くことを願いたい。
(河野 涼子)



岡田 圭子 著

乳酸と運動生理・生化学─エネルギー代謝の仕組み

運動やトレーニングをより効果的に行うためには、その運動のポイントを選手やクライアントに理解してもらう必要があります。しかし、教科書に書いてあるような専門用語を並べても、理解しにくく、混乱させてしまう可能性もあります。
 本書は、筆者が「授業で脱線して話す、逸話的な内容を加え」と書いてあるように、各ポイントに運動生理学についてイメージのしやすい逸話が書かれています。指導者としてより深い知識は運動やトレーニングの効果を上げるためには必要です。
 運動やトレーニングの効果、そして運動中に身体の中ではどんなことが起こっているのかを理解しておかなければいけません。しかし、私が大切だと感じていることは、いかに運動やトレーニングをする人が理解し、イメージを持って自立しやすい状態をつくってあげられるかだと感じています。この書籍は、より深い知識をよりアウトプットしやすくしてくれる一冊です。
(大洞 裕和)



八田 秀雄 著

メンタルタフネス

インターネットでメンタルトレーニングの本を検索してみると400冊を超える本がヒットする。これを見れば心の重要性に誰もが気づき、関心があることは疑いがない。本書は、1987年に初版本が発行され、メンタルトレーニングに関する草分け的書物である。当時、高校三年生であった私は、夏の甲子園予選を前に監督からこの本を読むことを勧められ、手にとった思い出深い本である。
 著者であるジム・レーヤーは、テニスプレーヤーとしてナショナルランキング入りの経験を持つ、スポーツ心理学の権威である。テニスのトッププレーヤーであるナブラチロワ、サバチーニなどを指導して大きな成功をもたらしている。また、スピードスケートのダン・ジャンセンを1994年のリレハンメルオリンピックで金メダル獲得に導いている。
 メンタルタフネスとは、出来事に対するセルフ・コントロールの技術である。具体的には一流選手が身につけている「正しい態度を身につける」「正しい思考習慣を身につける」ことである。メンタルタフネスは技術なのでトレーニングすることで獲得することができるというのがジム・レーヤーの主張であり、今日のメンタルトレーニングにもつながっていく。ジム・レーヤーは、“スポーツは心理状態を映す鏡だ”と捉えている。心理状態をコントロールする技術を身につけることが最高のプレーを引き出し、それがスポーツするうえでもっとも重要なことであると述べている。自分自身のコントロールだけは自分で完璧にコントロールできる。その技術を身につけることで、つねに理想的な心理状態でプレーすることが可能になる。その技術がメンタルタフネスである。
 前半部分でメンタルタフネスの構造について分析している。理想的な心理状態を得るためには心理面を12の項目に分けている。12の項目について丁寧に説明され、その中には、従来の理解とは正反対の内容も含まれている。たとえば、物事をポジティブに捉えることの重要性がよく言われるが、ロー・ポジティブ・エネルギーよりもハイ・ネガティブ・エネルギーのほうがよい結果を出せる心理状態であるといったことなどである。
 後半部分でメンタルタフネス(セルフ・コントロール法)を獲得するためのトレーニング方法が実施する時間や期間なども含め詳細に書かれている。評価用紙やその他の記入用紙もあるので、それらを用いながら実践していくことも可能である。トレーニング方法は、現在、行われているメンタルトレーニングの方法がほぼすべて網羅されている。これらが段階的に書かれている。また、特筆すべき内容は、チームの理想的心理状態についての著述があり、チームワークを高めるポイントなども書かれている。チームの心理状態について書かれている本はとても少ないので貴重である。
 長期目標、中期目標、短期目標の設定や呼吸法など私も行ったことが幾度とあるが、いかに段階を省いて、適当に行っていたのか理解できる。継続している期間もジム・レーヤーが指定した期間に比べ、とても短い期間で次に進んでいた。また、本書を読み終えることでメンタルトレーニング全体を俯瞰することもできる。メンタルトレーニング、心に興味がある人には、スポーツ選手や指導者だけでなくビジネスマンなども心理面を学ぶうえでよい本である。
(服部 哲也)



ジム・E. レーヤー著 小林信也訳

共創とは何か

著者は東京大学人工物工学研究センターの教授の上田完次さん。本書は「共創工学の展開」と「共創プラットフォーム」のシンポジウムの発表内容や会話をまとめた本である。もちろん工学に関係する内容なので、バリバリ理系の内容や口調が飛び交っていて、ただ何となく読むには難しい本になっている。よって、バリバリ理系“ではない”私なりの解釈を簡単にお伝えする。
 本題になっている共創。どうやらざっくり言うと個々では発想やできることに限りがあるが、多くの人の知恵を借りれば可能性が広がるという考え方のようである。しかし、こんなことは誰でも知っており、「何を改まって…」と思ってしまうが、実際に読んでみるとまぁ新しく斬新な考え方だ。何がって…その集めてくる専門家や知識の範囲が非常に広い。もうそれこそ何でも来いというスタンス。しかも、ものの見事に全く関係のないような分野がコラボして、非常に有意義な発想が生まれている。載っている議論の内容がもし読者と全く関係のない場合にも、もっと広い意味でタメになる本だ。
 私は性格上、何事にも白黒つけたいタイプである。人間を相手にする職業で、白黒つけようとすればするほど決まってどこかでつまづくジレンマを持っていた。相手は人間であり生き物。わかっている人にとっては当然だし、私も表向きでは理解していたつもりだが、どうしても硬い考え方を崩せないウィークポイントを持っている。しかし、本書にある「共創の考え方」や「別々の物や人、そして事象を共創の観点で上手くコラボさせる具体的な手法とその結果」がとてもよいヒントになった。本当に多種多様のことが書いてあるが、その一部だけでも、これからの私の人生に大きな影響を与えてくれると感じた。
 難しいのに、何か自分の生き方を変えてくれるんじゃないかという期待が生まれてしまう一冊。
(宮崎喬平)



上田 完次 著

フランク・ショーターのマラソン&ランニング

本書著者は、1972年ミュンヘンオリンピックのマラソン金メダリストで、大学時代の指導教官から学んだランニングのためのトレーニングとその要素を我々読者に伝えてくれる。
 初心者でもわかりやすくウェアやシューズの選び方、どこを走るかなど、ランニングに取りかかる以前の問題から入り、無理のないプログラムでまずやってみることから目標を立てるまでの道筋が明確になる。準備運動やレジスタンストレーニング、クールダウンの目的、方法などもオールカラー写真で解説されておりわかりやすい。
 さらにランニングテクニック、継続してレベルを上げるための栄養面やメンタル調整、障害・外傷予防についても詳しく書かれているが、所々で著者の豆知識的なアドバイスが面白い。
 中級者・上級者レベルの内容では上記の各内容がレベルアップされ、レースに出るまでの目標がプログラム例と共に掲載されているので最終的にフルマラソンを完走できるようになっている。
 ランニングを始めたいと思っている健康志向の方から、フルマラソンを速いタイムで完走したいと思っている人まで読みやすい内容の一冊である。
(安本 啓剛)



フランク・ショーター 著

知っておきたいひざのケガ

一通り読むと、単なる専門書ではないことがはっきりわかる。箇条書きのように症状や原因だけを述べているわけではなく、痛みや動作などの表現が上手にたとえられていたりして小中学生でもわかりやすい表現になっていることが読みやすくしている。
 ただ初版から時間が経っているので、手術の詳細や表現の一部が時代を感じる部分があるのは否めない。
 それを含めても、わかりやすさという点で整骨院や整形外科、あるいはクラブの部室にでも1冊あると重宝する本だと感じる。
(河田 大輔)



玉置 悟 著

新版コンディショニングのスポーツ栄養学

この本は一見すると専門書のような外見で難しそうな内容をイメージするが、専門用語なども文中で説明されていて読みやすいつくりになっている。
 たいていの栄養学の本は日常生活レベルでの身体の反応や応答をもとに栄養について書かれている。そのため定期的に運動している者にとっては数値やデータが当てはまらないことがある。たとえば一日に必要なエネルギー摂取量や各栄養素の摂取量などである。運動を実施している者と実施していない者では大きく違ってくる。その点、この本はスポーツ栄養学というタイトルの通り、定期的に運動を実施している選手を対象としているので数値やデータなどもすぐに活用できる。指導者はもちろんのこと、運動選手や愛好家も読んで理解しやすい内容になっているので、食事の摂り方などすぐに実生活で実践できる。  また、運動している者にとって重要な栄養素や食事方法などについても詳しく記されている。なかでもタンパク質については多く記載されており、種類や働きなど基本項目から消化と吸収、摂取量の目安などまで書かれており、とても充実している。また、女性運動者にとって欠かせない知識であるカルシウムや貧血についても多くのページで記載されている。
 この本を読んで改めて栄養学の重要性を再認識した。栄養に関する知識は指導者だけでなく、運動している者自身も身につけておく必要がある。間違った知識で実践してしまうとパフォーマンスを著しく落としてしまい、さらには身体そのものを壊してしまう可能性もあるからだ。この本は栄養について学びたい人にとってはおすすめの一冊である。
(坂口丈史)



樋口 満 編著

身体のホームポジション

本書はタイトルの通り身体のホームポジションがテーマとなっている。
 筆者によるとホームポジションとは「身体の外側にある情報を体の内側で柔軟に受け取り、自然な動きとして反応できる身体の状態」と述べている。その身体の中でも普段当たり前のように使っている耳・目・鼻・口などが身体のホームポジションの鍵となっているのだ。
 耳・目・鼻・口が身体と関係していることを知っている人は少ないのではないだろうか。本書を読むとそういった部位が、身体と深くつながっていることに気づくであろう。 日常生活でも使えるエクササイズがいくつか紹介されているのだが、そのエクササイズ内容が面白い。従来の“身体を動かす”といったものではなく自分の意識を使って気付きを与えるようなものが多く、身体のさまざまな発見があり非常に楽しいのである。私の説明だけでは本書の内容を伝えるのは非常に困難である。だが一読すれば自分の身体の中の気付きが高まること間違いなしである。
(三嶽 大輔)



藤本 靖 著

金属は人体になぜ必要か

人体は主要構成元素といわれるC、H、O、N。準主要元素としてCa、P、Mg、Cl、S、K、Na。これら11種類で人体の96~97%を占めるともいわれている。そのほかにもさまざまな元素が組み合わさり、人体が構成されている。)
 その中でも金属類というものは意外に多く、本書によると体内での役割がある程度解明されている金属でCa、K、Na、Mg、Fe、Zn、Mn、Cu、Se、Mo、Ni、Cr、Co、Vの14種類が確認されている。)
 エネルギー代謝を考えていく上で、どうしても糖質、脂質、タンパク質、および高エネルギーリン酸結合の構成元素を中心に考えてしまうが、それらを代謝していくにあたって金属類も含めた微量元素の存在は欠かすことはできない。)
 またそれらは体内合成をすることができないため、食事として補給をするしかない。それをどのような食品から補給していくのか。過剰摂取をすればどのようになってしまうのか。サプリメントとして単一種類だけの摂取が可能になっている現在では摂取不足ではなく、過剰摂取や摂取バランスの乱れが問題になりつつある。)
 本書ではそれぞれの元素について現段階で解明されている役割をわかりやすく解説してある。とはいえ化学に関する基本的な知識は必要だ。)
(澤野 博)



桜井 弘 著

努力は決して裏切らない―五輪連覇を勝ち取った勇気と信頼、12年の軌跡

シドニー、アテネ、北京と3回連続で五輪に出場し、アテネと北京ではともに2冠に輝いた水泳の北島康介選手。本書では、シドニーから北京までの12年間に渡り、北島選手とコーチの平井伯昌氏がどのような思いで頂点を目指し、どのような戦略で金メダルを勝ち取ったか、その二人三脚の軌跡を描いている。
「このコーチの言うことを聞いていれば間違いない」──そう選手に言わしめる信頼。それは、コーチの迷いのない、“勇気ある指示”から生まれるものだということがよくわかる。平井氏は鋭い観察眼で北島選手の心技体のコンディションを捉え、ライバル選手たちも徹底的に分析し、状況に応じて柔軟に戦略を変えていく。いかにして“勇気ある指示”ができるか。平井氏の取り組みから、それが明確に見えてくる。
 また、五輪出場を目指す段階、メダル獲得を目指す段階、連覇を目指す段階と、それぞれのステージによって、選手への指導方法や戦略をどう変えていくか、そのプロセスも興味深い。注目すべきは第6章。ここでは、アテネで金メダルを獲得した後、どん底に陥った北島選手と平井氏が、新たな師弟関係を築き上げていく様子が描かれている。病気や初めてのケガを乗り越え、北京での連覇を目指す二人。「指導者は選手にないものを教えるのではなく、あるものを引き出す」という平井氏の指導方針が的確であるということが、非常によくわかるパートだ。長い年月を経て成長していく二人の関係が、微笑ましくも映る。
 選手がまだ駆け出しのとき、大きく成長するとき、絶頂期、スランプのとき。その時々に応じてどう接するべきか、選手にどんな言葉をかけるのがベストなのか、選手を支える指導者やスタッフであれば、誰もが迷うことだろう。本書は、そのヒントになるかもしれない。
(岡田 真理)



平井 伯昌 著

スポーツ競技学

運動学やコーチングを学術的に学ぶ上で、避けて通れないのが旧東ドイツのクルト・マイネルとロシアのレフ・パヴァロッチ・マトヴェーエフの両巨頭である。マイネルが人文学的要素が強いのに対して、マトヴェーエフは自然科学の要素が強い。  そんなマトヴェーエフの集大成とも言える本書の概念はトップアスリートの現場を骨太に支えている。本書で述べられている長期計画、試合から逆算して各段階においてするべきトレーニングは4年周期のオリンピックでメダルを目指すためには欠かすことができない。
 またピリオダイゼーション、ピーキング、テーパリングという考え方は場合によっては真面目な日本人には馴染みにくい考え方かもしれないが、本書を読めば納得し、オリンピックのない年であっても選手の成績の変動を温かく見守ることができるかもしれない。
 また普段はそれほど追い込んで練習はせず、試合が近づくと人が変わったように練習やトレーニングを頑張るものの、勝利に結びつかない選手が読むと、いかに自分が勝てない練習をしているのかがわかるかもしれない。いわゆる“試合前”よりも前の準備として何ができていなければならないのかが記されている。
 ロンドン五輪がある2012年はリオディジャネイロ五輪のスタートの年でもある。スポーツの現場を志す方はもちろん、現在スポーツの現場に関わっていない会社員でも、会社の朝礼などで長期計画の重要性を説くにはお勧めの書である。
(渡邉 秀幹)



L.P.マトヴェーエフ 著

脳の中の能舞台

何のこっちゃ? 私にとって大変インパクトのあるタイトルで、頭の中にはいくつかの疑問符が浮かんだ。私が存じ上げている多田富雄氏は著名な免疫学者であったので、「脳の中の能舞台」というタイトルからラマチャンドラン氏の『脳のなかの幽霊』のような、神経系と運動系を結びつけるような医療系の話なんだろうか、とも思われた。
 だが、本を読み始めるとその疑問はすぐに氷解する。多田氏は免疫学者としてだけでなく、白州正子氏をはじめとして多くの文化人と交流があり、能に深い造詣をお持ちであった。
 本書は氏がこれまでお書きになってきた数々のエッセイを集めたもので、書かれた当初からこのような形で編集されることを意図されていたわけではない。それにもかかわらず本書全体として能に対する姿勢が明確に浮かび上がってくる。
 対象とされる読者は、能に興味を持った人、能を観劇した経験はあるものの「能は一体何を楽しんだらいいんだろう」「この古典芸能は何を訴えているんだろう」という類の疑問を持った人であろう。本書はそのような人に対して非常に有効なアドバイスをくれる。
 能の舞台を実際に目にして感じること、初心者が疑問に思うであろうことが丁寧にフォローされる。次いで多田氏と交流のある文化人との能に関してやり取りされた書簡や、実際にご覧になった舞台の曲目紹介、そして氏が書き下ろした新作能が取り上げられている。
 能はどのようなものなのか、どのように接していくことを勧められているのか、また古典芸能としての能に新作があることの意味は何か、氏は順番にその回答を進めている。詳細な内容は本編に譲るとして、はしがきからいくつか抜粋してみる。
「この本は、読者といっしょにその舞台を眺め、何かを読み取ろうとする試みである」
「脳の中の能舞台で再演されるさまざまな劇の流れに、ごいっしょに参加して頂くのが目的である」
「古典芸能といっても、能が現代人に語りかけなくなったら、芸術としての生命はない。ここに集められたエッセイは、何らかの形で脳の現代性を探る試みになっていると思う」
 本書を一読してから、はしがきに戻ると、その意味が改めて伝わってくる。私は近年まで能との接点をまったく持たずに過ごしていたが、ふとしたきっかけで、日本人として先人が築いてきた文化に触れないままでいることに疑問を持ち、自分なりに能と接してきた。本書は私のような「能初心者」にとっては大変ありがたい指導書である。素敵な出会いであった。
(脇坂 浩司)



Caroline Corning Creager 著

Therapeutic Exercises Using Foam Rollers

もともとはリハビリの道具として開発されたフォームローラー(ポリウレタン、またはポリエチレン製の円柱。我が国では「ストレッチポール」などが販売されている)であるが、近頃はスポーツの現場、治療院、介護施設、子ども向けの教室など、さまざまな場面で目にする機会が増えた。本書ではフォームローラーを使ったさまざまなエクササイズを紹介している。
 エクササイズは各肢位別に章立てられている。各章は、エクササイズごとに、目的、写真、説明、注意点(禁忌)の各項目が1ページにまとめられている。エクササイズによっては初級者向け、上級者向けが紹介されていて、アスリートや患者の状態に応じて難易度を選択することもできる。また、最終章では、ケーススタディとして、実例を取り上げている。
 以上が本書の流れであるが、フォームローラーを用いたエクササイズ以外にもPC作業が多い職場向けのアドバイスも紹介しているので、目・肩・腰の疲れなどVDT症候群に悩まされることが多い現代の労働環境改善の参考になる。アスリート、リハビリ患者のみならず、さまざまな立場の人の健康管理に本書を役立ててほしい。
(編注:本書は英語で執筆されており、ブックハウス・エイチディによる訳書『フォームローラーエクササイズ』の原著である)
(西澤 隆)



Caroline Corning Creager 著

スポーツを殺すもの

すべての物事には多面性がある。スポーツも例外ではない。どの立場で関わるのかによって、印象は異なり、感じる問題点も異なる。その問題点を指摘することは簡単であり、それは子どもでもできることだ。
 しかしそれが本当に問題なのかさまざまな角度から検証や判断を行い、立場の異なる人々の意見をまとめ、改善してゆくことは非常に困難である。それは子どもにはできない。
 オリンピックや世界選手権だけではなく、何らかの代表として選出されることにおいても、全員が満足することは難しいが、それをめざして関係者は努力を進めている。なぜ関係者は苦労をしてそのような努力をするのか。やはりみんなスポーツが好きだからではないだろうか。
 この書籍では一般にあまり表に出てこない内容も多く書かれている。それらは確かにある面からみれば問題になる。しかしその面だけではなく多面的に考える必要もあるのではないだろうか。残念ながら私にはこの書籍は、問題点を提起することでスポーツ界をよりよいものにしてゆこうという愛情よりも、それらを書くことでの自己満足感や、スポーツに対する憎しみや嫌悪感が強く感じられる。同じ問題が繰り返されないよう、この書籍を読んだ大人が努力を続けてくれることを切に願う。
(澤野 博)



谷口 源太郎 著

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