夏から夏へ
佐藤 多佳子
軽やかなリズムで
主に文芸書を手がける作家(スポーツ記者とかスポーツライターとかではない)が、インタビューを元に、その素材を新鮮なまま一冊にまとめたノンフィクションである。題材は、2007年の夏に大阪で行われた世界陸上。それも4×100mリレーにまつわる話題、人物に限ったものだ。
正直この話題だけで一冊の書物になることに少しばかりの疑問を抱きながら読み始めた。だが、すぐにそんな心配はいらないことに気づかされた。
最終的には、この本があったからこそ北京オリンピックで銅メダルが獲得できたのではないだろうか、とまで思うに至った。
膨大で緻密な取材内容が記録されているが、決して表面的なインタビューの羅列ではない。愛情深く、かといって感情に流されることもなく、軽やかなリズムで書き進められて行く。文章のプロだから当然とはいえ「競技経験のない」小説家が書くドキュメンタリーが、この私(いちおう陸上の経験者でもあり、実際の決勝レースはこの目で見た。泣いた)にさえ肌感覚で“それあり!”な記憶を鮮やかによみがえらせてくれるのだ。
異なるものと出会って見える世界
一般にスポーツの感覚的側面は“やった者にしかわからない”という閉鎖的な思い込みの表現で成り立つことがある。確かに、よく知らないと見えてこない世界もあるが、どっぷりと浸り過ぎてしまうとかえって本質が見えなくなってしまうこともある。私が最初に抱いた不安感は多分にこういった理由によるものだ。
しかし、異なる感覚やある種の違和感と出会って初めて見える世界というのもある。たとえば、外国人が地域の伝統文化の見直しや伝承、発展に寄与することがあるでしょう? 私の生まれ育った北信濃の地には、フランス生まれの俳人や、老舗の造り酒屋にアメリカからきた若女将がいて、日本文化に新たな光を当て、地域の発展に貢献している。あるいは、海外青年協力隊などで、外国人として文化の異なる国や地域に行っている日本の方々の活動もこれに似ていると思うが、このような、異文化からの働きかけによってその文化にどっぷりと浸かっていた人たちが自分たちの独自性に気づき、伝統文化の伝承や発展の一翼を担うということは決して珍しいことではない。
その考えからすると、競技の素人(作家=異文化の人)が、玄人(選手、コーチなど=どっぷりの人)が気づかなかった競技の真髄に迫るきっかけをつくり、競技力向上に役立つことは十分にあり得ることになる。
プロセスが競技に役立ったのではないか
要は、記述する側の感受性やバランス感覚が大切ということなのだろう。そのことが次のような節に現れている。「“死ぬ”」ほどハードな冬期練習の取材に行って、「そういうきつい練習を見てみたいと思った。邪魔じゃないかと申し訳ない気持ちがありつつも、やはり、実際に見てみないといけない気がした。そして、実際に見て、かえって、“わからない”ことを実感」することになる。
そのうえで「その膨大な努力のひとかけらを見ること、それを言葉で記することに、大きな意味はないだろう。何かわかったふうなことを書くためには、陸上競技をよく理解した人間が、選手の冬期練習を何カ月もフルに追いかけて見ないといけない。そんな絶望感にひたりながらも、やはり、貴重なドキュメントに立ち会わせてもらったというすがすがしさは消えなかった」という感想を述べているのだ。
立場を明確にして、現象を素直に見つめているからこそ気づく違いを丁寧に書きとめ、理解を深めて行くという態度が貫かれている。このことは逆に、選手にとっては、インタビューされることで自身のことに気づき、記述されたものからのフィードバックを受けて考えが統合され、競技力の向上に役立ったと考えることも可能なのではないか。
本書に描かれている大阪で世界陸上が行われた時期(2007年、夏)と、出版の時期(北京オリンピックの直前、2008年、夏)、その少し前まで選手への取材がなされていたことを考え合わせるとなおのことその思いを強くさせられる。
今、ここに、その時を再現する力がドキュメンタリーにはある。しかも、それが一冊の長編の書物としてまとまることで、別次元の価値、意義が生まれ、未来につながっていくような気がするのである。
(板井 美浩)
出版元:集英社
(掲載日:2008-12-10)
タグ:陸上競技
カテゴリ スポーツライティング
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神の領域を覗いたアスリート
西村 欣也
神の領域とは、どのような意味を持つのだろうか。目に見えるもの、見えないものさまざまにあると思うが、共通の認識は持てないのではないかと思う。
さまざまなアスリートにインタビューをしたものを載せているが、個人的な意見としてはもっとインタビューされる側の気持ちを汲み取るような質問が欲しいような気がする。たとえばこの一文。「あなたの非凡な才能を子孫に伝え、21世紀にさらに進化させたいと思いませんか?」という著者の質問に対し、聞かれたスピードスケートの清水宏保選手はこう答えている。「結婚はそういう目的でするものではないでしょう。僕の父は胃がんで56歳で亡くなった。僕自身、ぜんそくをずっと抱えています。身長は161cmしかない。いい遺伝子を持っているとはとても思えない。それでもここまでこられる。それを示したくてやってきた部分もあります。生物学的な進化に無縁でも、自分が生きている間に自分を進化させることができるのです」
清水選手の「自分が生きている間に自分を進化させることができる」という言葉を引き出せたことは、評価できる。しかしながら、清水選手の本当の気持ちはわからないが、私だったらこの質問をされたら、「なぜこんなことを聞くのだろう?」と考え込んでしまう。神の領域に届かない、理解することが不可能でも、近づこうとするならばもっと違うことを聞いてほしい。
しかし、丁寧な取材をしていることも読み取ることができる。橋本聖子選手がアルベールビルオリンピックで冬季五輪史上日本人女子初銅メダルを獲得したときに、痛めている膝を冷やす氷もなくリンクから整氷車が吐き出したザラザラな氷を集めて、膝に当てたという一文などはそういったところが読み取れる。
日々選手や患者と向き合い、当たり前になっている感覚や言葉を、他者に伝える際にはとても有益な本である。
(金子 大)
出版元:朝日新聞出版
(掲載日:2012-10-13)
タグ:インタビュー
カテゴリ スポーツライティング
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つなぐ力 4×100mリレー銅メダルへの“アンダーハンドパス”
石井 信
素質を“磨く”
短距離は“素質”で走るものと思っている人が一般には多い。
確かに高校生ぐらいまでは“素質”すなわち、“センス”と“ノリ”ともう1つ“保護者のおかげ”、で走れている選手は多いと思う。しかし大人になってから、“大人の選手”としての競技力向上には、素質を“磨く”ことがいかに重要かという説明が、朝原宣治という選手のおかげで最近はしやすくなった。
朝原は、北京オリンピック(2008年)男子4×100mリレー(通称、4継=ヨンケイ)で、1走の塚原直貴、2走の末續慎吾、3走の高平慎士とつながれてきたバトンを、アンカーとして銅メダルへと導いた、チーム最年長(当時36歳)のメダリストである。彼は日本人として初めて100m走10秒1台(1993年)、次いで10秒0台(1998年)の扉を開き、2001年には10秒02と、幾度にもわたって日本記録を更新してきた。そして北京オリンピックでの銅メダルまで、なんと足掛け15年にもわたって短距離界を牽引してきた日本陸上界屈指の競技者である。
こんな偉業が、センスと若さの勢いだけでなされるわけがない。日頃、講義や部活動などの中で学生たちにこの例を挙げて“素質”だけではないという話を持ちかけても、数年前まではなかなか理解してくれず閉口していた。ところが今回の銅メダル獲得をきっかけに、“おお! あのアサハラ!”とすんなりわかってもらえるので大変嬉しい。
かつての一流どころがサポート
さて今回紹介する「つなぐ力」は、北京オリンピック銅メダル獲得の裏に隠されたドラマを追った、元陸上競技専門誌記者であるスポーツライターの手になるものだ。「スポーツでは、選手が主役であり、監督とか、コーチとか、あるいは競技連盟の役員は裏方としてこれをサポートする立場」にある。「この本は、そういうサポートに回る人を取材して」まとめたものである。 裏方といっても、高野進、麻場一徳、苅部俊二、土江寛裕などなど、選手としてもかつての一流どころが名を連ねる。本欄の筆者(1960年生まれ)世代にとっては、彼らの選手時代の活躍を目の当たりにした記憶もよみがえり、1冊で二度オイシい状態なのである。
中心的存在となる高野は、「発想力」の人だ。学生時代、400mのライバルとしてしのぎを削った麻場によれば、高野は「いろいろな発想をする能力があって、独創的な考え方」をするが、「ただ独創的なだけではなく、それをいかに実現していくかということも、着実にやって」のける。しかも「独善的にやっていくのではなく、必ず、われわれの意見を聞きながら進めて」いく人物であるという。
アンダーハンドパス採用の理由
4継のバトンパスは「オーバーハンドパス」が世界の主流である。これに対して日本は「アンダーハンドパス」を用いている。日本4継チームにおける「アンダーハンドパス」採用の提案者が高野なのだ。
バトンパスに際し、前走者と後走者は互いに腕を伸ばし合ってバトンを渡す。腕を伸ばし合うので、その距離の分だけ走る長さが短くてすむことになる。これを「利得距離」という。「アンダーハンドパス」は「オーバーハンドパス」に比べ、この「利得距離」が短いとされている。「利得距離」が短いということは、それだけ長い距離を走らなければならないことになり、タイム的にも無視できないほどであるとの計算もなされている。
なのになぜ、日本は「アンダーハンドパス」を取入れているのか。「オーバーハンドパスは、バトンを点で渡さなければならないのに対して、アンダーハンドパスなら線で渡すこと」ができる確実性や、選手にとって「自然に渡せる」「やりやすい」と好評であるなどの利点が紹介されている。
それらを容認しつつも要所に挟まれる高野のコメントは、その視点がやはり独特である。提案者として一歩先を見つめているからか、読み手の予想を心地よく裏切ってくれるのである。センスや勢いだけでない、素質を“磨く”ことに多くの労力をさいた選手時代の経験が高野の発想のもとにあるだろうことは想像に難くない。
“名選手、必ずしも名監督ならず”とは、ひところよく聞いた言葉であるが、こと陸上短距離界に関してはいずれ死語となるに違いない。
(板井 美浩)
出版元:集英社
(掲載日:2009-12-10)
タグ:陸上競技 リレー
カテゴリ スポーツライティング
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「崖っぷち監督」がメダリストを二人生むまで
今村 俊明 宮部 保範 門脇 正法
タイトルにある「崖っぷち」とは、日本電産サンキョースケート部で監督を務める今村俊明氏である。解任直前まで追い込まれながら、自分しかいないという覚悟を示すことで踏みとどまり、バンクーバーオリンピックでは選手2人をメダル獲得に導いた道のりをまとめている。
スピードスケートの競技の特色が、映像が浮かび上がってくるような丁寧な情景描写によって描かれている。納得できないスケーティングだったときの悔しさ、熱い闘志、快挙を成し遂げた喜びが、具体的な行動で表現される。監督と選手との距離感や信頼関係についても、さまざまなエピソードを通じて明らかになっていく。
本人の努力はもちろんだが、選手たちを取り巻く環境や周囲の支えあっての活躍なのであり、それに対する感謝の気持ちが伝わる一冊となっている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:KKベストセラーズ
(掲載日:2012-10-15)
タグ:スピードスケート
カテゴリ スポーツライティング
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日本人が知らない松坂メジャー革命
アンドリュー・ゴードン 篠原一郎
2006年4月カンザスシティロイヤルズの本拠地カウフマン・スタジアムにいた。興奮と緊張さめやらぬスタジアムは…寒い。観客のほとんどはニット帽、手袋、ジャンパー、さらには毛布を持参してかけている人たちもいた。
とてつもなく寒い中、お目当ての選手があらわれた。
日本時代の青と白のユニフォームからグレーと赤色に変わったユニフォームに袖を通した、背番号「18」が登場。大きな歓声とは対照的に、静かに落ち着いて見える一人の日本人ピッチャーがマウンドに姿を現した。松坂大輔投手(ボストンレッドソックス)である。松坂投手は、マウンドに向かうとき、3塁線を片足(右足でとび、左足で着地する)で飛び越える動作を必ずすることに気づいた。彼にとってこの動作には一種の願掛けの意味を持つのだろうかという思いで彼の行動ひとつひとつを観察していた。
試合終了後にESPNを偶然目にして、彼は試合中に笑っていた。この笑みが意味するのは本人にしかわからないだろうが、余裕があったのか? 心の底からベースボールを楽しんでいるのか? 相手のレベルの高さにゾクゾクするというような意味での笑みだったのか?
実際にスタジアムに行くことによって感じること、連日放送されるスポーツニュースを見ることでしかわからないこと、そして、書籍を読むことで知ることができること。
ボストンレッドソックス松坂大輔の一挙手一投足、それをとり囲む日米のメディアと日米ファン。レッドソックスの試合の全米ネットワークや日本での放映権、選手たちの番組出演の際の収入はどうなっているのか。文化や地域にとらわれないスポーツのある生活の大切さと意味。まだ「知らない」ことを知るきっかけになるのでは。
(大塚 健吾)
出版元:朝日新聞社
(掲載日:2012-10-15)
タグ:メディア スポーツビジネス
カテゴリ スポーツライティング
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スクラム 駆け引きと勝負の謎をとく
松瀬 学
「花となるより根となろう」
慶応フォワードの伝統の言葉である。ラグビーではトライをした選手がガッツポーズをしない。それはトライ(花)はスクラム(根)をフォワードが頑張ったゆえのことと知っているからである。
しかし、昨今ではトライの後に派手なパフォーマンスをする選手が増えた。パフォーマンス自体が悪いとは思わない。しかしラグビーが市民権を得ていたのは、そうした精神が日本人にマッチしていたからなのではないかと思う。 「男は背中でものを言う」
これもまたしかり。新日鉄釜石のプロップ石山さんはその典型であろう。朴とつな風貌、寡黙な男。まさに高倉健である。プロップの仕事は「スクラムを押されないこと」、押されることが許されないゆえ、鎧のごとき筋肉をつけ、「必死の覚悟」で練習する。しかし、スクラムに固執はしない。「最高のトライと思うのは、スクラムから顔を上げたら、バックスが展開してトライになっていたというもので…。そうなるとフォワードは何か得をしたような気がしていたものです」勝利のためにきわめて現実的で、自分の役どころを知っているのである。
2019年、ラグビーのワールドカップが日本で初めて開かれる。オリンピック、そしてサッカーのワールドカップに次ぐ世界的なイベントである。この本が「スクラム」の復権、いや「古きよき日本人」の復権につながることを願う。
(森下 茂)
出版元:光文社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:スクラム ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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あの一瞬 アスリートはなぜ「奇跡」を起こすのか
門田 隆将
アスリートの本紀と列伝
ある人物の一代の事績を記録した書物を「紀伝」という。皇帝や王といった天下人を中心とした「本紀」と、人臣について書き連ねた「列伝」の下の文字を合わせた言葉であるという。簡単に言えば、人物の成したことを書き連ねたものだが、魅力溢れる人の生き様というものは、読む人の心を震わせる。綿密な取材資料に作家の創造力による脚色が施され、あくまでもフィクション作品としてではあるが、歴史小説が広く読まれるのはそのためだろう。
アスリートは現代における紀伝の素材としてふさわしいもののひとつだ。紀伝を曲解して、本紀をスポーツ界の頂点に立った者の物語、列伝をそうではない者の物語としたとしても、それぞれが相補ってこそドラマが成り立つことに間違いはない。本書には、さまざまな競技のアスリートにまつわる10の本紀および列伝が綴られている。著者は週刊新潮の副部長まで務めたジャーナリストであり、「なぜ君は絶望と闘えたのか」をはじめとした幅広いジャンルでの著作を持つノンフィクション作家の門田隆将氏である。
アスリートに対する尊敬と愛情
古くは、戦前から始まる怪物スタルヒンの数奇な人生から、北京オリンピック女子ソフトボール金メダルにまつわる世代を超えたドラマまで、さまざまな時代、さまざまな競技における「奇跡」が読み応えのある物語となっている。その緻密な構成や読者を引きつける演出には、アスリートに対する著者の尊敬と愛情の念が散りばめられている。本書のあとがきにもあるように、アイルランドの詩人オリバー・ゴールドスミスの言葉である「われわれにとって最も尊いことは、一度も失敗しないということではなく、倒れるたびに必ず起き上がることである」という人生の格言を、どの物語の登場人物も思い起こさせてくれるのだ。
彼らは決してすべてにおいて超人的な力を持つわけではない。それでも「奇跡」を起こす彼らの軌跡は、アスリートとしてだけではなく、1人の人間として尊いものなのだ。本紀となるのか列伝になるのか、そんな結果は問題でなく、ただただその生き様に魅了される、そんな想いが伝わってくる。とくに最終章、松井秀喜を5敬遠した明徳義塾野球部の物語は、ステレオタイプの批評家では書き得ないものだろう。
「奇跡」は日々起きている
雑踏の中で行き交う人々を見ながら、ふと思うことがある。すれ違う以外に交わることのない多くの人々。自分自身も含め、1人ひとりに自らを主人公にしたドラマが日々繰り広げられている。そのほとんどが誰にも綴られることがない平凡なものである。しかし、日々ただひたむきに生きている人たちには、ささやかなものでも、素晴らしい「奇跡」があちらこちらで起こっているはずなのだ、と。
(山根 太治)
出版元:新潮社
(掲載日:2011-01-10)
タグ:勝負 アスリート
カテゴリ スポーツライティング
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SPORTS もうひとつの風景
佐藤 次郎
スポーツには、見ている人に大きな感動や夢、希望、大きく言えば、人々に生きる力を与えてくれる普遍的な価値があるように思えます。なぜ見ている人を魅了するのか、いろいろ考えても答えは見つかりません。本書では、各スポーツで活躍する選手や指導者、関係者の一人一人に、スポットライトを当て、日頃、見聞きしない話が書かれています。
栄光の陰には、大きな挫折や不運な出来事がある中で、その自己と真摯に向き合い、現実に起きたことを、未来へ向けて挑戦していく姿が多く取り上げられています。本当に強い人間になっていく人は、「筋書きのない人生を、自分自身の可能性を信じて努力していける人ではないか」と、多くの実体験を通して語られているように思えます。現場で指導されている方々が読まれることで、目標や夢を諦めない大切さを伝えられるのではないでしょうか。スポーツを通して努力していくことの大切さが伝わる一冊だと思います。
(辻本 和広)
出版元:東京新聞出版部
(掲載日:2012-10-16)
タグ:挑戦 人生
カテゴリ スポーツライティング
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早実vs.駒大苫小牧
中村 計 木村 修一
今年のドラフト会議でその動向が注目された斎藤佑樹投手。彼を語る上で2006年夏の甲子園を欠かすことはできない。
37年ぶりの決勝戦の引き分け再試合を戦った早実、駒大苫小牧の両チームでは何が起きていたのか。徹底した取材によりその舞台裏が明かされる。来シーズンのペナントレースをより楽しむためにも、あの夏の出来事をもう一度確認していただきたい。
(村田 祐樹)
出版元:朝日新聞出版
(掲載日:2012-10-16)
タグ:野球 勝負
カテゴリ スポーツライティング
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強いだけじゃ勝てない
松瀬 学
1974年に関東学院大学ラグビー部監督に就任した当時は、関東リーグ戦グループ3部のチームであった。部員は8人、ボールやグラウンド、ゴールポストもない。以来30年余り、どん底のスタートから大学日本一の座に至る道のりが書かれている。「強いだけじゃ勝てない」とあるように、春口監督のラグビーにかける情熱と人間力が、選手や周囲のスタッフ、学校関係者に伝わり、チームがつくられていくヒューマンドラマが読み取れる。
指導者であれば、毎年よいチームづくりや強いチームづくりを実現していくうえで、何をすべきなのかを考えるだろう。本書からは、チームづくりに必要なこと、選手の素質を見抜く力、チームが発展していく中での春口監督自身の指導者としての成長も感じられる。また、さまざまな苦難・困難な出来事を乗り越えていく過程で、真の強いチームとは何かを考えている様子がわかる。
関東学院大学ラグビー部の逸話の中に「涙の雪かき」がある。試合では、グラウンドに立っているレギュラーメンバーだけで戦うのではなく、そこに立てなかったチームメイトの存在や思いがあってこそ生まれるチームの結束力の大切さを学ぶことができるだろう。また、ラグビー指導者のバイブル的名著、大西鐡之祐監督の「ラグビー」にある一節に春口監督は感動したことが書かれてある。それは、「ラグビーとは、人間と人間とが全人格の優劣を競うスポーツである。しかも15人の人格が形成するひとつの新しい超人格的チームが15人の結集される力にある何者かが加わって闘うとき、はじめてそこに相手にまさる力が生まれるのである」という1文であった。そこには、「1人はみんなのために、みんなは1人のために」の精神の大切さが目には見えない力となることを理解できるだろう。
春口監督は、ある年の慶応との決勝戦に敗れたとき、「強いだけでは駄目だ。いいチームじゃないと。周りから応援され、愛されるチームじゃないといけない」と思ったという。
ラグビーのみならず、さまざまなスポーツ種目の指導者、関係者に読まれることで、日々の私達の環境に感謝する気持ちや周りの人達の支えなくして、スポーツは成り立たないことを再認識することができるだろう。誰かが何とかしてくれるのではなく、自らの現場や足元からスタートしていこうという勇気がもらえる1冊である。
(辻本 和広)
出版元:光文社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:ラグビー 組織論
カテゴリ スポーツライティング
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あの実況がすごかった
伊藤 滋之
スポーツは現場で観戦するのが1番とよく言われている。その通りではある。ただ、実況中継でしか味わえない感動「ドラマ」がある。この本を読んだ直後、スポーツを中継で見たいと思った。
この本の筆者は放送作家という立場で、多くのスポーツドキュメントやバラエティ、中継に携っている。大会の見どころを伝える事前番組の企画、注目選手のキャッチコピーを考えるような仕事をしているそうだ。この本では、そのような経験をもとに、スポーツ中継の舞台裏を徹底的にわかりやすく語っている。
「ついに夢の舞台へ。日本人初のNBAプレイヤーとなった田臥勇太、24歳」というように、第1章は英雄たちのデビュー戦から始まる。第3章の冒頭30秒の名文句では、こんなにもメッセージが綺麗に、時に静かに、時に強く語られているのかと惹かれた。松木さんの解説は、面白くて共感していたが、実に鋭い洞察力と勘からなっているのが理解できた(第5章 予言する解説者)。懐かしいものも多々ある。アトランタ五輪初戦のブラジル戦(マイアミの奇跡)、アテネ五輪の体操王国の復活。その中でも、長野五輪のジャンプ団体での大ジャンプ。「まだ距離が出ない、もうビデオでは測れない、別の世界に飛んでいった原田!」解説を読むだけでも、あのときの感動が蘇る。
カメラの先には全力でメッセージを発信しようとするアスリートたちの姿があり、彼らと心を一つにし、熱い思いを伝えようとするテレビの存在がある。プレーであれ、態度であれ、表情であれ、アスリートが抱く真摯な気持ちを一人でも多くの人に伝えること、それこそがテレビが担うべき役割。筆者の職を超えた熱い思いの一冊である。
(服部 紗都子)
出版元:メディアファクトリー
(掲載日:2012-10-16)
タグ:実況 報道
カテゴリ スポーツライティング
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初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅
元川 悦子
それぞれの国で特徴を持ち、ヨーロッパ人であれば、自国のサッカー、それも地元のチームが一番と必ずいう。本書はその魅力にとりつかれた著者が書いた、自分の経験からそのヨーロッパでサッカーを楽しむための参考書だ。
スタジアムへの道のりや試合情報や現地でのチケット入手方法、ファンや街の雰囲気などテレビやインターネットでは収集しきれないことも掲載されている。情報としては少し古いが、いずれ現地を訪れてみたいと考えているファンにとっては、想像の手助けになるであろう。
もし言葉の問題で現地観戦をすることに躊躇しているのであれば、思い切って行動してみることをおすすめする。
言葉の問題だけで現地観戦をする機会を逃すことは、非常にもったいない。現地で何かしら困ったことがあっても、サポーター同士という共通事項で、以外とうまく解決できるかもしれない。
残念ながらここに掲載されている国はヨーロッパ全土ではなく、贔屓の国やチームのことが掲載されていないかもしれない。またサッカーはヨーロッパだけが盛んなわけではなく、南米や中近東にも非常に個性的なチームが多い。自分の贔屓のチームを探して応援するのもサッカーの楽しみの1つであろう。
(澤野 博)
出版元:日本放送出版協会
(掲載日:2012-10-16)
タグ:サッカー
カテゴリ スポーツライティング
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勝利を支配するもの
佐藤 純朗
日本代表ヘッドコーチであった平尾氏のドキュメンタリータッチな内容になっている。現在の日本のメジャーではない競技に関わる指導者にとっては一見の価値がある本だと感じた。
世界との差、協会との連携、日本の特性、ルール変更への対応、あらゆる場面で潤滑油的な存在であるスタッフの存在、個々のプレイヤーに対する長所を活かした起用、どれをとっても当時は画期的でなおかつ日本が世界に対等に戦うための手段だったと思われる。
また本文にある「楽しむ」ことと「楽をする」ことの違いは私が以前から現場で使っていた表現でもあり、改めてこのことをわかって指導ができるかという戒めとなった。
まだ目を通していない指導者は一度読んでみてほしい。
(河田 大輔)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-29)
タグ:ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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夢は箱根を駆けめぐる
佐藤次郎
スポーツを読む・観るということは、読者の人生と「挫折から始まる物語」を重ね合わせる作業なのかもしれない。たとえば、ノルディックスキー元日本代表の原田雅彦、女子柔道48キロ級の谷亮子、そして、女子ソフトボール代表の上野由岐子が挙げられるだろうか。皆、挫折を味わいながらも最終的に最高の名誉を手にしたアスリートたちである。そして、オリンピックと箱根駅伝という大会の違いこそあれ、本書の主人公・大後栄治もまたその一人であったといってよいだろう。
大後は、小学生のときから校内のマラソン大会で優勝するような長距離の得意な男の子だった。中学校に進学すると、市の駅伝大会の選手となり、本格的に長距離にのめり込む。陸上競技の練習すれば、その分だけ成績に跳ね返ってくるところが面白かったのだという。大学も迷わず陸上部に所属。しかし、全国から集まった陸上エリートとの競争についていけず、1年の半ばにリタイア宣告される。それから、大後は、部を支える裏方のマネージャーとして、チームづくりに関わり始める。選手としてのプライドを手放さなければならない。大後にとって大きな挫折だったといえるだろう。普通であれば競技への情熱が失われたとしても不思議ではない。しかし、大後は違った。選手を支えるスタッフの一人として、自身の競技経験をもとに何の実績もないチームを箱根駅伝の強豪校へと導いていく。大後は、裏方として大成したのである。
人生は勝者ではなく敗者にこそ希望がある。敗者だからこそ拓ける道がある。本書は、読者にそんな希望を与えてくれる一冊である。
(清水 美奈)
出版元:洋泉社
(掲載日:2012-11-01)
タグ:箱根駅伝
カテゴリ スポーツライティング
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ツールへの道
今中 大介
世界的に有名な自転車のレースであるツールドフランスに、日本人で初めて参加した著者のヨーロッパでの生活を日記形式でまとめてある。日本にいては決してわからない世界で興味があるということもあるが、情景が目に浮かぶようでどんどん引き込まれる。
自転車競技のロード種目は一見すると個人種目のようであるが、実は団体種目でもある。アシストと呼ばれる立場の競技者がサポートカーから食料などの補給をチームメンバーに行ったり、アタックをかけたほかのチームのメンバーについていったり、逆にアタックをかけられないように速いスピードで走行し、集団をコントロールしたり、さまざまなことを行いながら、チームのエースを勝たせるようにする。
海外のある地域にたった一人の日本人といて生活をしてゆくことは非常に大変だ。もちろん周りの人は外国人ということで非常によくしてくれるので全く問題はないのだが、ふとした瞬間に寂しく感じることもある。その寂しさは、日本人と会ったときに妙にうれしく感じている自分に気がつくことで、実は寂しかったのだということを再認識する。しかしその寂しさがあることをわかった上で、日本を飛び出しストイックに世界基準の中で戦うことが必要ではないであろうか。科学的トレーニングという言葉に踊らされることなく、競技者として何を求めるのか。勝利に対する想いを再認識させられた。
(澤野 博)
出版元:未知谷
(掲載日:2013-03-22)
タグ:自転車
カテゴリ スポーツライティング
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箱根駅伝
生島 淳
東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)は、例年1月2日と翌3日に行われる、大学駅伝の関東チャンピオンを決める大会である。テレビ中継により知名度が急上昇し、長距離走の甲子園大会のような国民的大イベントとなり、毎年楽しみにしている方も多いだろう。この本はそんな人に格好の本だ。
箱根駅伝の歴史、有力校の監督インタビューや箱根を支えている全国の取り組みまでさまざまな視点で書かれている。中でもレースの背後にある区間配置の戦術が各大学・監督だけでなく、時代の流れに沿って変化しているという話は興味深い。“山の神、柏原選手”に続く長距離界の未来を担うエースが、今年はどこに現れるだろうか。この本を片手に今から予習しておけば、数倍箱根を楽しめるようになるだろう。
(服部 紗都子)
出版元:幻冬舎
(掲載日:2013-04-26)
タグ:駅伝
カテゴリ スポーツライティング
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背番号三桁 「僕達も胴上げに参加していいんですか?」
矢崎 良一 岩田 卓士 玉森 正人 中田 潤 池田 浩明 伊村 雅央
2003年、阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を果たす。そこには、表舞台には出てこない人々の数だけドラマがある。そんな「背番号三桁」の男たちの物語である。
なぜ、彼らは表舞台に出られなくても、もがき苦しむのか。ある者は、バッティングピッチャーとして来る日も来る日も、選手のために肩を酷使する。もちろん、根底には野球が好きだということもあるだろう。しかし、もっと別の何かが彼らを奮い立たせているに違いない。
作家の村上龍が、こんなことを言っている。「私たちは、他者から幸福を得るより、他者の幸福に貢献するほうが、喜びは大きいのではないか」と。もしかしたら、これが彼らのもがき苦しむ理由のひとつかもしれない。
多くの人は、人生では負けることの方が多い。おそらく99%は負け続ける人生なのだ。しかし、負け続ける人生には、もしかしたら勝ちしか知らない人の人生より、大きなものが得られるのかも知れない。
そう、「背番号三桁」の人生も悪くない。
(森下 茂)
出版元:竹書房
(掲載日:2013-05-23)
タグ:裏方
カテゴリ スポーツライティング
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バルサ対マンU「世界最高の一戦」を読み解く
杉山 茂樹
筆者のスポーツライターという立場を最大限に活かした本になっており、冒頭数ページで理解できるぐらい、メッセージ性の強いものであるのは驚嘆した。サッカーが無知な人でも、スポーツに多少でも興味があるなら、瞬く間に読破するかもしれない。それぐらい、球団や人、ファンの方は食いつくほど魅力的な内容になっている。
私個人としては、この本の内容よりも著者の文章表現力が非常に勉強になった。一試合のバックボーンをこれだけ表現力豊かに記すことができるというのは、コーチングに関しても有益に働くことは間違いない。
(河田 大輔)
出版元:光文社
(掲載日:2014-02-20)
タグ:サッカー スポーツライティング
カテゴリ スポーツライティング
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マラソンランナー
後藤 正治
マラソンといえば、勝手なイメージではあるが、オリンピックであります。私の記憶が存在するオリンピックはロサンゼルスオリンピックからなのですが、この本の中でも登場する瀬古利彦さんのイメージは非常に強いインパクトが残っています。みなさんのマラソンのイメージはどうでしょうか?
時代は戦前、戦後、経済成長、バブル崩壊、現在と移り変わっています。本書は8章にわたってその時代を浮き彫りにする8名のマラソンランナーを紹介されています。
金栗四三「日本のマラソンの父」
孫基禎「ハングリースポーツとしてのマラソン」
田中茂樹「アトムボーイ」
君原健二「ブレない偉大なマラソンランナー」
瀬古利彦「マラソン界の貴公子」
谷口浩美「コツコツ 記憶力を示すマラソンランナー」
有森裕子「生きている事への手段としてのマラソン」
高橋尚子「走る事が好き、頑張る事としてのマラソン」
本書はマラソン史というわけではありませんが、時代背景とマラソンを照らし合わせてみるととても興味深いところであります。つまり、体力養成、国の権威、戦争、アマチュアイズム、バイオリズム、我慢強さ、目標そして手段、練習などキーワードは様々でありますが、その時々の葛藤や信念や流行をも表しています。
この8名のうち瀬古利彦氏以降は実際に目の当たりにし、それ以前の方は自叙伝などで存じ上げていました。さらに本書と向き合って、私はマラソンについて単なるオリンピック種目という観点から脱することができました。
私はマラソンランナーが、泥臭く感じます。なぜなら、体力としてのタフさもさることながら、メンタルの強さが問われることや、培われる土壌があることをあたかも当たり前のことのようにやってのけるからであります。それがもう一歩のところを頑張れる理由ではないかと本書から感じました。このアスリートたちの泥臭くて地味だけど、ズッシリとした重みのある信念を垣間みてみませんか。
(鳥居 義史)
出版元:文藝春秋
(掲載日:2014-05-02)
タグ:マラソン
カテゴリ スポーツライティング
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日本女子サッカーが世界と互角に戦える本当の理由
松原 渓
2011年7月、震災から約4カ月後、“絆”という言葉を胸に日本中が見守る中、なでしこジャパンは世界最強の女子サッカーチームとなった。そして、澤選手や大野選手、ヤングなでしこの田中選手というようにスター選手が増え、様々な年代に支持されるようになった日本女子サッカー。W杯を境に女子サッカーを取り巻く環境が180度変化したと、筆者は言う。
筆者は、小学校3年生からサッカーを始め、日テレベレーザの下部組織であるメニーナのセクションを受けたほどの選手で、現在もフットサルチームに所属している。また、サッカー番組のアシスタントやキャスター、スポーツライターとして活躍し、様々な現場で取材を行ってきた。この本の前半ではそんな彼女の経験を生かし、日本女子サッカーの歴史と現状、なでしこメンバーの素顔が語られている。
後半では、“未来のなでしこたちへ”と題して、育成年代の指揮者へのインタビューがまとめられている。彼らの様々な意見の中に共通して、プレーレベルの向上と同じくらい“人間性・自主性を育てること”が重要視されていると感じた。このことこそが、なでしこジャパンがW杯と同時に、フェアプレー賞も受賞したことにつながったのだろう。
読み終えて、10年前に比べれば日本における女子サッカーの知名度は上がったが、プレー環境や財政的な面で、まだまだ課題が多いことも痛感した。育成時代の環境設備や、才能ある原石がしっかりと輝ける育成システムの一助になりたい。そんな筆者の思いに共感し、今回レビューを書かせて頂いた。日本女子サッカー界のさらなる発展を心から願う。
(服部 紗都子)
出版元:東邦出版
(掲載日:2014-04-08)
タグ:サッカー
カテゴリ スポーツライティング
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マウンドに散った天才投手
松永 多佳倫
結果的に一瞬の輝きに
病気や故障がなかったら、どんな大投手になっていただろうか。あと10年遅く生まれていたらメジャーリーグでどんな大活躍をしただろうか。諦めきれない、整理しきれないものを心の奥にしまい込み、「悔いはない」と言いきる。そんな男たちの苦闘を取材したのが本書である。
筆者は本書のテーマを「一瞬の輝きのためにすべてを犠牲にし、壮絶に散った生き様」としている。だがそれは、今さえよければ、ということではない。本当は長く一線級で活躍したかった。しかし結果的に、「一瞬の輝き」となってしまったのだ。
登板機会が与えられればうれしい。全力で投げる。ひときわ輝く才能を持っているだけに、与えられる機会も多い。それが結果的に酷使されることになる。“150キロのダブルストッパー”元中日の上原晃は言う。「潰されたとは思っていない。投げさせてもらえるのはとても嬉しいことだし、あくまでも自己管理の問題。昔はロングリリーフっていうのが頻繁にあって、決まった状態で投げていない。ロングリリーフはブルペンで準備する作業が多い。つまり、何回も肩を作らなきゃいけないので、かなり負担も大きい。でもあの当時はそれが普通だった。首脳陣に対して何の悪感情も持っていないよ」
そのフォームは正しいか
持って生まれた才能だけでやっていると、いつか故障する。だが、そのことに気づくのは、故障してからだ。
すごい球を投げている今のフォームが、無理があるのかないのか。故障につながりそうなら直さなければならないが、それを見極めるのはとても難しいと思う。うまくいっている状態をいじるのはとても勇気がいるものだし、ましてや、ずば抜けた才能を持っている者に対しては、指導者も口出ししにくいだろう。その投げ方だからこそ投げられる球なのか。それともフォームをいじったらもっとよくなるのか。もしかして持ち味を殺してしまい、ただの平凡な投手になってしまうのではないか。
元ヤクルトの“ガラスの天才投手”伊藤智仁のスライダーは、鉄腕・稲尾和久(元西鉄・故人)をして「伊藤のは高速スライダーじゃない。本物のスライダーだ」と言わしめた。その伊藤のフォームを、江川卓がテレビ中継での解説で「あの投げ方では絶対に肘を壊します」と言い、本当にそうなってしまった。江川の慧眼か、コーチの蒙昧か。それとも仕方のないことだったのか。“江夏二世”近藤真市は、現在中日の一軍ピッチングコーチをしている。彼は言う。「いいモノがあって入ってきているのだからフォームはいじらない。本人が悩んだ時やこのままでは危ないと感じたり、勝負をかけるタイミングの時にフォームのことを言う」「一番大事なのは、怪我をする前にいかにストップをかけてやれるか。これさえ念頭に置けば、あれこれいじらずブルペンで気持ちよく投げさせてやるだけでいい」、確かにその通りなのだろうが、それこそが難しいんだよなぁ、とも思う。
野茂のトルネード投法やイチローの振り子打法など、個性的なフォームで成功した選手もいる。それらを矯正しようとした当時の指導者を笑うこともできるし、やりたいようにやらせた指導者を褒め称えることもできる。だが、それはあくまでも結果を知っているから言えることなのだ。
迷いを抱えて
私は地域の陸上クラブで小学校1〜3年生の指導を担当している。その中にはめちゃくちゃな走り方なのに速い子もいれば、走り方は悪くないのに遅い子もいる。とにかく自分の走り方で気持ちよくたくさん走らせよう、と思ってはいるのだが、本当にそれでいいのか。早い段階から徹底的にドリルを行って、正しい走り方を身につけなければならないのではないか、という迷いをいつも抱えている。
私には才能を見抜く目などない。子どもたちが、いつか競技を辞めるときに「やり切った」と思えれば、それでいいと思っている。そのためには、頑丈な身体が何より大切。私は400mハードルをやっていたが、アキレス腱を痛め、思うように走れなくなって競技から遠ざかっていった。子どもたちにはそんな思いをしてほしくない。そうならないためにはどうしたらいいのだろう。
そんなことを思いながら、本書を読んだ。
(尾原 陽介)
出版元:河出書房新社
(掲載日:2013-12-10)
タグ:野球
カテゴリ スポーツライティング
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高校野球 神奈川を戦う監督たち
大利 実
2013年春に発売されたものだが、1シーズン限りの観戦ガイドではなく、読み応えがある。中学軟式野球、高校野球の現場に足しげく通う筆者ならではのノンフィクションだ。
慶應義塾などの伝統校、2009年に甲子園初出場を果たした横浜隼人、打倒私立を掲げる県立高校の監督たちが、いかにそれぞれのチームカラーをつくりあげているかに迫る。神奈川県予選でぶつかることも多く、勝負を分けたプレーについても聞いている。最終的に、横浜高という王者をいかに倒すかを皆考えながら切磋琢磨しているのがわかる。
1校しか甲子園に行けず、ライバルも多数いる中でのチームづくり、そしてライバルチームの指導者とどのような関係を築いているかは非常に興味深いものだ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日刊スポーツ出版社
(掲載日:2014-01-10)
タグ:野球 監督
カテゴリ スポーツライティング
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不屈の翼 カミカゼ葛西紀明のジャンプ人生
岡崎 敏
著者は北海道出身。国内での葛西紀明選手の実力に対する評価の低さ、ひいては五輪時以外のジャンプ競技への注目度の低さを少しでも変えるべく、フィンランドなど海外にも足を伸ばして丹念な取材を行った。まとめられているのはソチ五輪の直前までだが、五輪で個人・団体ともメダルを獲得した葛西選手の活躍をまるで予言するかのようだ。往年のトップジャンパーとの戦いや交流の記録は、ジャンプ競技そのものの歴史の振り返りにもなっている。
葛西選手は高校1年で札幌大会に初出場してから、ほぼ毎年W杯に出場。転戦しながら、毎年変わるルールやコーチの入れ替わり、各国のジャンプ台に対応しているという。その研究熱心さは、悔しさから来ている。現役期間が長いということは、それだけ不本意な大会や状況もあったということ。それを力に変える姿に圧倒される。
また、北海道・下川町での少年時代のエピソードも豊富だ。最初は危険だと反対の声もあったそうだが、周囲の指導者たちが葛西選手の才能、そして誰よりも努力する姿を見て、「若いから」と高を括らず支援したことが、現在の葛西選手の土台となっているのではないだろうか。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日刊スポーツ出版社
(掲載日:2014-04-10)
タグ:人生 スキージャンプ
カテゴリ スポーツライティング
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異能の球人
矢崎 良一 藤井 利香 崔 仁和 中里 浩章 谷上 史朗 沢井 史 渡辺 勘郎
監修の矢崎氏は、高校野球の指導者には「異能」が求められるという。高校野球という場は時間が限られ、(一部を除いて)力量の高い選手も限られ、学校や保護者の理解もなかなか得られるものではない。そもそも「場」に立ち続ける保証もない中でどう指導していくか。指導論に留まらず、生き様にまで迫ったシリーズの11冊目だ。
矢崎氏をはじめ7名の執筆者は、数奇で濃密な指導人生を辿る監督陣に深く切り込んでいく。浮かび上がるのは、野球の世界も若者に何かを教えるのも綺麗ごとだけではないということだ。甲子園に出場するような指導者でもここまで苦労しているのかと思わされる。その分、教え子たちが口にする言葉が尊いものに感じられる。現実を突きつけられるが、希望もある一冊だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日刊スポーツ出版社
(掲載日:2014-08-10)
タグ:野球 監督
カテゴリ スポーツライティング
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鉄骨クラブの偉人 オリンピアン7人を育てた街の体操指導者・城間晃
浅沢 英
アテネオリンピックにて、体操男子日本代表は28年ぶりに団体金メダルに輝いた。メンバーに名を連ねた 6 人のうち 3 人のジュニア時代に関わったのが城間晃氏だ。
だが城間氏の歩みは華やかとは言い難い。選手としての自身を「二流」と言い、その後悔から小さな町クラブで美しい体操を教え続けた。
取材当初は専門知識はなかったという著者が練習を見学した感想は「地味」。ジュニア期に基本を反復するのは確かに地味だが、なくてはならない過程だ。それは体操だけでなく全てに言える。城間氏が基本を貫いたように、そこに光を当てたのが本書なのである。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:KADOKAWA
(掲載日:2016-05-10)
タグ:人生 体操 指導
カテゴリ スポーツライティング
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ラスト・ワン
金子 達仁
「常識」と寛容
アスリートの姿を見て我々は感動する。彼らが己の翼を最大限鍛え抜き、我々の持つ「常識」から外れた空を飛翔しているからだ。しかし一方で我々は彼らに狭量な「常識」を強く求め、そこから外れていると激しく糾弾することがある。
世間の「常識」からみても非の打ちどころのない存在で、しかもその「常識」を飛び越えた部分も潤沢に持つ。これが理想的なトップアスリートであることに間違いはない。だが、少し贅沢ではないかとも思う。誰もが身につけた様々な形の翼は、スポーツの領域のみならず多種多様な世界を羽ばたく力を持つはずだが、多くの人々は自分の翼に「常識」という拘束具を付けて飛ぶことから目をそらす。そして未知の空を飛ぼうとしている存在に石を投げ、翼を傷つけようとすることがある。
スポーツ界でも「従順であれ」と指導者や関係者は言い、「応援してやってるのに」とファンは言う。煽るだけ煽って空気をつくり、勝手に失望してマスコミは叩く。もちろん健全なサポーターたちが数多存在し、彼らは健全なる声援と健全なる批判でアスリートを支える。だが時に聞くに耐えない様々な雑音がそこに混ざり、アスリートの心を毒することが意外と頻繁に起こっているのだ。
そんな中でアスリートはスポーツ以外の部分でも強靱な精神を鍛えていくのだろう。しかし、我々は「常識」を越えようとする挑戦に、その一種異質なありように、もっと寛容でいいのではないか。
さて本書は、事故で右足の膝下を失った陸上競技アスリート、中西麻耶選手のドキュメンタリーである。虚構によらず事実の記録に基づく作品ということになるが、そこにはどうしても書き手の心情が脚色の色を持って滲んでしまう。あまりに劇的に表現しすぎることも健全さを逸脱する要因になるように個人的には感じるが、そこを差し引いても中西選手の「ラスト・ワン」の脚と義足による挑戦は興味深い。ご本人を直接存じ上げないので、本書の著者である金子達仁氏の目を通じての印象であるが、およそおとなしく枠にはまっているタイプではなさそうである。
彼女はロンドンオリンピックに出たかった。出るだけでなく勝ちたかった。「誰もやったことのないこと」に挑戦したかった。そのための最善と思われる方法をなりふり構わず取ろうとした。周囲に迷惑をかけ顰蹙を買うことを気にするよりも、その目標に到達することのほうが重要だったのだ。
周囲への配慮に囚われれば「常識」の枠内に収まらざるを得なかったかもしれない。しかし彼女はそこには止まらなかった。そして活動資金やスポンサーを獲得するために、彼女にとって「ラスト・ワン」の方法と思われたセミヌードカレンダー制作を行った。彼女の理解者のひとり、義肢装具のスペシャリストである臼井二美男氏による競技用義足を鍛えた身体に装着した彼女のそのままの姿を公開したのだ。それは確かに美しいものだった。
その手段には当然賛否両論がわき起こる。世間というものは「常識」を振りかざし、わざわざ声を上げて攻撃する。同じコンディションを持つ人たちの中でも評価は分かれたのではないかと思う。賞賛する声もあっただろう。しかし否定する言動や処遇だけが毒物のように彼女の心の奥深くを浸食し蝕むことになる。タフだったから走り続けてこられた、というより、そうすることでしか自分を支えきれなかったからなりふり構わず走り続けてきた彼女は、支えを失う。
自分の枠の、内と外
自分の考えの枠をはみ出してしまった人間を目の当たりにすると、「常識」のある人たちは自分の枠が壊れて大切なものが流れ落ちてしまうように感じるのだろうか。その存在を否定することで自分の存在を守りたいという防御システムが作動するかのように湧き出す感情があるのだろうか。その感情には自分では認めたくない羨望や嫉妬が混じり、それを否定するためにさらに怒りを混じらせる。そして自分を、自分のいる場所を穢されたような思いでそれを正当化する。
しかし「常識」を盾に自分の枠外のものを糾弾する姿勢それこそが、我々がよくよりどころにするスポーツマンシップに反するものではないか。「真に認めてはいけないこと」と「認めたくないこと」の違いは自覚しなければならないのに。
だがそれにしても、あえてエピローグに追いやった「ラストワン」の真実。その扱いはないだろう。再び物議を醸して彼女の周囲をざわめかせるかもしれないその内容の是非ではない。彼女が懸命に前を向き続けなければならなかった根源に、また彼女の心が壊れていくそもそもの根源になり得たこの事実を抜きに仕上げたこのドキュメンタリーは、最後の最後でその土台を大きく揺るがしてしまったからだ。読み物としてはそう扱わざるを得なかったのかもしれないが、残念である。
(山根 太治)
出版元:日本実業出版社
(掲載日:2015-03-10)
タグ:陸上競技
カテゴリ スポーツライティング
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ヒトラーのオリンピックに挑んだ若者たち
ダニエル・ジェイムズ・ブラウン 森内 薫
漕艇部員の悩み
私の娘は中学2年生で、漕艇部に所属している。
今は自分の競技の悩みよりも、チームメイトとの相性が合うとか合わないという文句を自宅に帰ってから吐き出しており、いくら思春期だとはいえ、聞かされる方は大変である。
まあ、そういう、周囲から見れば取るに足らないことを自分にとっては大ごとと錯覚して振り回されるのも、子どもから大人への成長過程での通過儀礼なのだろうから、そっと見守るしかないのだろう。
ただ勝つために漕ぐ
本書の邦題は『ヒトラーのオリンピックに挑んだ...』となっているが、原題は『THE BOYS IN THE BOAT~Nine Americans and Their Epic Quest for Gold at the 1936 Berlin Olympics』である。金メダルを追い求めた壮大な冒険譚というニュアンスだと思うのだが、「ヒトラーのオリンピックに挑む」と言ってしまうと、どうしても政治的な匂いを感じてしまうので、どうもあまり好きになれない。
本書で余計だなと感じるのは、当時のドイツの詳細な記述に多くのページを費やしていることである。
ナチスドイツの狂気が加速していく中でプロパガンダとして行われたベルリンオリンピックにおいて、アメリカクルーが逆境をはねのけ、後に枢軸国と呼ばれアメリカと敵対するドイツやイタリアと勇敢に戦った。そのことにアメリカの優位性や正当性を投影するのは、白けてしまうし、またそれを「(ヒトラーは)自分の運命の予兆を目にしていたのに、それに気づかなかったのだ」と言ってしまうのはいかがなものか。
ベルリンオリンピックはナチスの大掛かりなプロパガンダであったのかもしれないが、この選手たちは純粋にボートを漕いだのだと思う。「M.I.B」(mind in boat、心はボートの中に)の掛け声のとおり、「シェル艇に足を踏み入れた瞬間から、ゴールラインを越える瞬間まで、舟の中で起きることだけに心を集中させる」ことを実践し、オリンピックの決勝レースで、圧倒的に不利な状況で、彼らはそれをやってのけた。そのことにただ感動するばかりだ。
両親に捨てられて過酷な生活を余儀なくされ、「もう二度と誰かに依存したりしない。家族にも、他のだれにも頼らない」と心に誓ったジョー・ランツ。そのジョーが、「チームメイトに対して自分の全部を明け渡し」、「仲間をただ信頼」するまでに変化した。そしてオリンピックの決勝レース前に出場不可能なほど体調を崩した整調(クルーのリード役。こぎ手全員の調子を揃える役割を担う。ストロークとも)のために「僕らはひとつのボートに乗ったただの九人ではなく、みなでひとつのクルーなのだから」と確信し、補欠を乗せようとしたコーチに「僕らがゴールに連れて行きます。乗せて、ストレッチャーに固定さえしてくれたら、みんなで一緒にゴールまで行ける」と直談判するに至る。これはナチスに挑んだ若者ではなく、漕艇を通じて成長する若者の物語だと思う。
本稿を書く少し前、映画『バンクーバーの朝日』を見た。スポーツのすごさと同時に、戦争へと進む社会の中での無力さも感じたのであるが、本書でもまた同じ気持ちを味わった。
アメリカクルーだけでなく、ドイツもイタリアもその他の参加国のクルーも、みな純粋にただレースに勝つためにボートを漕いだのだと思う。自分のエゴも政治的なことや人種のことなども、「ガンネルの外に投げ捨てボートの背後に渦をまかせて」いたのだと思う。
私の想像であるが、ドイツのクルーはそれをしたくても、時代や社会がそれを許さなかったのかもしれない。だから私は、1936年のベルリンオリンピックを「ヒトラーのオリンピック」としている本書の邦題を好きになれないのだと思う。
スポーツは誰のものか
スポーツは、プレーヤーや観客のものだ。ボートを一番速く漕ぐのは誰か、などという、実生活では何の役にも立たないことに老若男女が夢中になること自体がとても貴重なのだ。そして、望めばそれができるという今の日本に感謝しなくては、と強く思う。
さて、件の私の娘。
漕艇競技自体を楽しむことはもちろんだが、漕艇を通じて精神的にも成長してほしいと思う。ジョーたちのように、チームメイトに自分の全てを明け渡すことは難しいかもしれないが、せめてもう少し謙虚になって仲間を尊重する態度が身につかないものだろうか。
(尾原 陽介)
出版元:早川書房
(掲載日:2015-08-10)
タグ:オリンピック 漕艇
カテゴリ スポーツライティング
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エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記
大友 信彦
1991年大会での初勝利以来、ワールドカップでの勝利から遠ざかっているラグビー日本代表。2015年大会を間近に控えたタイミングで、エディー氏をヘッドコーチに迎えてからの取り組みがまとめられた。
エディー氏は90年代より日本ラグビーに関わっており、日本の選手たちの特徴もよく知る。課題を克服し、長所を伸ばすべく、薫田真広氏や岩渕健輔GMらとの協力体制のもと、チャレンジングな合宿・試合を組んできた。
エディー氏が日本のラグビーの可能性を信じているからこそ、選手もついていくし、変化も見えてくる。何かを変えようとするときに大事なことを再確認するとともに、ラグビー日本代表の活躍が楽しみになる一冊だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:東邦出版
(掲載日:2015-10-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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人類のためだ。 ラグビーエッセー選集
藤島 大
歴史的な勝利
日本ラグビー界にとって歴史的な日に、実際は深夜に、この原稿を書いている。
ワールドカップで過去1勝しか挙げていない今大会開始時世界ランキング13位の我らがジャパンが、同3位の南アフリカを真っ向勝負で下したのである。この原稿が出る頃にはさらに大きな伝説が生まれているかもしれないが、今この瞬間も涙なしにはいられない。日本中のラガーマン、ラグビーファンが泣いただろう。
試合を通じて取りつ取られつのシーソーゲームを堂々と競り合うジャパン。ディフェンスシーンもトライシーンも痺れるものばかり。3点ビハインドの試合終了直前、ゴール前に迫っていたジャパンは、ドロップゴールやペナルティゴールでまず同点を狙うこともできた。しかしそれはジャパンにとってフェアではなかった。スクラムを選択してから攻めきってのサヨナラ逆転トライ! ラグビーというフィジカル要素の強い過酷な競技の世界大会で、はるかに格上のトップチームにこの渡り合いを見せられたことは、それだけで日本という国が賞賛されるほどの結果なのだと言ってしまおう。
ラグビーへの思いの結晶
さて書評だ。タイトルからはその内容が想像しにくいが、本書はラグビーに関するエッセイ集だ。大学ラグビーのコーチを務めたこともあるスポーツジャーナリスト藤島大氏があちこちに書き落としたラグビーへの思いの結晶である。
カバー絵はラグビーのセットプレイのひとつラインアウト。空高く飛び上がらんばかりのジャンパーが掴もうとしているのはラグビーボールではない。平和の象徴白い鳩である。帯に書かれている言葉は「この星にはラグビーという希望がある」。ラグビーが人類のための存在? ラグビーが世界の希望? そんな大袈裟な。いや、ラグビーの虜になった人は思うだろう。南アフリカ戦に魅了された人は思うだろう。さもあらん、と。
本書では、古くは1995年に書かれたものから最近のものに至るまで、少々芝居がかった独特の言い回しで、歴史的な話もまるでそこに居たように描写し、先人たちの金言を散りばめながら、そう思わせるようなラグビーの真の価値に触れている。
元日本代表監督でスポーツ社会学者の故・大西鐡之祐氏の「闘争の論理」が所々で紹介される。曰く、「戦争をしないためにラグビーをするんだよ」。曰く、「合法(ジャスト)より上位のきれい(フェア)を優先する。生きるか死ぬかの気持ちで長期にわたって努力し、いざ臨んだ闘争の場にあって、なお、この境地を知るものを育てる。それがラグビーだ」。曰く、「ジャスティスよりもフェアネスを知る若者を社会へ送り出す。『闘争を忘れぬ反戦思想』の中核を育てることが使命なのだ」。闘争することを知らない若者が、自らを取り巻く過酷な現実から目を背けイベントのようにデモに集まる姿を最近目にして、なんだか心が冷えるような思いをした。これらの言葉はそこに火を入れてくれるように感じる。積極的に闘争せよと言っているわけではない。「世の中は平和で自由だが、物事に対して畏れ慎む気持ちを忘れてはならない」。オソロしいから「悲観的に準備し、それを土台に大胆に勝負する」ことが求められるのだ。
まるでこのワールドカップに向けてエディージャパンが体現してきたことのようだが、これは戦後の秋田工業を率いた名指導者佐藤忠男氏の言葉である。ラグビーの世界に止まらない響きがある。
なぜ希望となり得るか
ラグビーは闘争である。だからこそ可能な限りの準備を整える。しかし闘争だからといってフェアネスを欠いたプレーを重ねると、結果自らを、そして自らの仲間を貶めることになる。仮にルールをギリギリのところでラフな側に解釈し、フェアネスよりもジャスティスを都合よく利用するようなチームがあったとしても、腰を引くことなくかつ自らのフェアネスを曲げることなく正面から戦い抜くこと、それがラグビーにおける真の正義なのだ。
歯車という言葉はネガティブに使われることが多いが、ラグビーは実にさまざまな形や大きさの歯車がそれぞれ自分の役割を果たしてひとつの大きな力を発揮するスポーツである。そこでは互いに噛み合う多様な人たちを認め合うことを知り、ひとりでは何もできないことを身をもって知ることになる。同時に誰かのために心身を賭すことを覚えるのだ。
そして「競技規則とは別に『してはならないこと』と『しなくてはならないこと』は存在する」ことを確信する。想像してほしい。たとえば自分より20cm背が高く、体重では30kg重い巨体が勢いをつけて自分に向かって突進してくる姿を。勇敢なラガーマンであればそこから逃げ出したり、小細工をしようとすることはありえない。怖くないわけではない。その原動力は戦うための過酷な準備を通じて築き上げたプレーヤーとしての誇り、だけではない。共に汗を流し同じ目標を掲げ互いに認め合った仲間との絆、だけでもない。相手選手への敬意や、支えてくれた人たちへの感謝などさまざまな事柄をも受け止めて、やるべきことを正々堂々実行するのである。結果的に仰向けにひっくり返されたとしても決して退きはしないのだ。
このような状況に置かれることは人生の中でそう多くない。だからこそ、それが当たり前のラグビーをとことん経験することは、人のあるべき姿を追求することになり、人類のためのかけがえのない希望になり得る、ような気がするではないか。
酷な準備を経て南アフリカ戦を戦い抜いたジャパンのメンバーは、まさにそれを見せつけてくれたではないか。だから、強豪に勝ったという事実以上にあの試合はラグビーを知る者たちの心を揺さぶったのである。「人類のため」という言葉が大きすぎるとしても、「少年をいち早く男に育て、男にいつまでも少年の魂を抱かせる」この競技に正しくのめり込んだ人は人生にとってかけがえのないものを得られる、ということに異論はないだろう。
(山根 太治)
出版元:鉄筆
(掲載日:2015-11-10)
タグ:エッセー ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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争うは本意ならねど ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール
木村 元彦
大きな相手に真っ向から
かの坂本竜馬は、紀州藩船と衝突して自船を沈没させられた際、たかが脱藩浪人とたかをくくった天下の御三家を相手に、泣き寝入りをしなかった。万国公法を掲げ、大藩といえども法を超えて横車押すこと罷りならんと戦った、とされている。ここで立ち上がらねば日本の海は無法の海と化す、と考えたかどうかはわからない。金になる、と踏んだのかもしれない。流行歌を利用し、世論を味方につけたとも言われている。どことなく山師の匂いが漂うのがご愛嬌だが、大きな相手に真っ向から挑む姿は魅力的である。
さて、本書はサブタイトルに「ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール」と掲げる通り、現在はFC琉球でプレーを続ける我那覇選手をめぐる一連の騒動を描いたノンフィクションである。金のためでもなく、名誉のためでもなく、当事者のためだけでもなく、サッカー界ひいてはスポーツ界のために真実を明らかにせんと動いた人々の物語である。
我那覇選手に罪を着せたのは、CAS(国際スポーツ仲裁機関)の裁定が出された後でさえ自らの誤りを完全には認めなかったJリーグである。いや、その一部の幹部、あるいはそのシステムと言っていい。
ドクターたちの行動
ことの発端は、真っ当な治療行為を受けた我那覇選手の発言に関するスポーツ紙の報道である。冒頭でその状況が描写された後、当事者である我那覇選手の登場は物語中盤まで待つことになる。再登場以降の彼自身の勇気ある思考、そして行動は既知の方も多いだろうし、本書を読んで震えてもらうことにする。ここで取り上げたいのは前半に描かれるドクターたちの物語である。 自分の進退を握る大きな組織を目の前にしたとき、多くの人は「間違いかもしれないが従っておくのが身のため」というあきらめの論理で済まそうとする。しかし、そのまま捨て置けば重大な禍根を遺すと義憤にかられた当事者の1人である後藤秀隆ドクター、そしてその真意を知るJリーグのドクター諸氏は行動を起こした。ここで立ち上がらねば世のためにならぬと、サッカー界の巨大組織に敢然と立ち向かったのだ。とくにサンフレッチェ広島の寛田司ドクター、浦和レッズの仁賀定雄ドクター、この両氏の行動は昨今の社会においては奇跡だとすら感じる。
トップチームではチームドクターが存在することが今や当たり前になっているが、これがどれだけありがたいことか。現場で仕事をしていれば、多くのドクターが、その競技そしてそれに全身全霊で取り組む選手に対する愛情を原動力にしていることがよくわかる。だから「選手はチームの宝」「プレイヤーズファースト」という当たり前の概念を決して忘れないし、スポーツ競技の中央団体が主人公である個々の選手を守るために機能していないと感じれば、それを見過ごすわけにはいかなかったのだ。このサッカー界そしてスポーツ界に対する確固たる責任感が我那覇選手の背中を押すことにもなった。
ルールは何のために
また本書では我那覇選手がJリーグドーピングコントロール(DC)委員会によって意図的にクロにされた疑念がぬぐえない旨が書かれている。本書だけで判断するわけにもいかないが、私的には「いやあ、マスコミが騒いじゃったからさ~」というDC委員長の言葉に集約されているように、ことの本質や真実ではなく、世間で独り歩きを始めた情報に過敏になるあまり、権威ある存在としての自らの虚栄を守るために全てをこじつけたように思えて仕方がない。
権力を得れば人は変わりやすいのか、あるいはそのような人が権力を握りやすい構造になっているのか。いずれにせよ、権力を持つことを目的とした人が権力を持ったときに起こる悲喜劇は枚挙にいとまがない。周りの人が信頼するに足るかどうかには敏感なくせに、自分が信頼されるということに鈍感で、自らが振るう鉈の大きさを誇示して恐れ入らせることに長けている人が多いと感じるのは、立身出世に縁がない平民の妬みだろうか。そういった人は媚びへつらう連中ばかり周りに従えることになり、鉈が大きくなればなるほど重くなるのは、そこに加わる責任が大きくなるからだということを忘れてしまう。フェアプレーを矜持とする選手たちを裁く立場の人間が、どれほどの重責を持たなければならないのか。この点、サッカー界は自浄作用が働いた。残念ながら協会内部から起こったものではないが、選手会やサポーターを中心に感動的な動きが起こった。Jリーグのルールも、アンチドーピング協会のルールも、スポーツそのものを、フェアプレーに心身を捧げる選手を、裁くためでなく守るためにあるはずなのだ。
厳しい生存競争の中で生き抜こうとする選手たちは無理を承知で踏ん張らなければならないことが多い。単純には語れないが、選手本人、ドクター、トレーナー、そして監督やコーチがうまくコミュニケーションを取り、治療をしながら出場するようなリスクをどう減らすのか、これに関しても議論を続けなくてはならない。冤罪以上に悲しい結果を避けるためにも。
(山根 太治)
出版元:集英社インターナショナル
(掲載日:2012-03-10)
タグ:サッカー
カテゴリ スポーツライティング
CiNii Booksで検索:争うは本意ならねど ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール
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健脚商売 競輪学校女子一期生24時
伊勢 華子
2012年に復活した女子競輪。競輪学校1期生と、廃止前に活躍した元選手のうち8名にスポットを当てた。学校部活動などで親しみのある種目ではないのに、なぜこの世界に身を投じたのか。バンクを走ることで何が見えたか。彼女たちが目の前で話しているかのような描写で明らかにしていく。浮かび上がるのは「生活」だ。タイトルに商売とあるからか賞金額から子供時代の小遣いの額までポンポン出てくる。自分の身体だけを頼りに、生きていくために漕ぐ。そこに、女性ならではのタフさだけでなく「夢」も感じられるのが、競輪の、プロスポーツの醍醐味だと改めてわかる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:中央公論新社
(掲載日:2016-08-10)
タグ:競輪
カテゴリ スポーツライティング
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小山台高校野球班の記録
藤井 利香
「やっぱり小山台高校が東京代表として甲子園に出るのは厳しかったのではないか?」
小山台高校が出場した選抜高校野球大会で、履正社高校に0-11で負けたときの私の正直な感想でした。小山台高校は、私がサポートするチームがしばしばオープン戦を行うこともある学校です。身近に感じて応援していたチームでしたが、ついついそのように感じてしまいました。
この本を読んで内情を知ると、印象はガラッと変わりました。選手・スタッフ・関係者の皆さまが野球だけではなく、さまざまなことと戦っていたことがよくわかりました。過去最低と評されていた代で、選手たちのノートにも秋のベスト8の時点で選抜を諦める言葉も出ていたとのこと。
それでも福嶋先生は選抜出場を視野に入れて「21世紀枠にふさわしいチームになろう」と口にされていたそうです。生活や学習態度なども含めて、周囲から選ばれるべくして選ばれたと認めてもらえる行動を心がけていたようです。このような取り組みも、選抜出場を引き寄せた要因なのではないでしょうか?
選抜出場が決まってからは、試合の前までもバタバタと大変だったようです。試合もあっという間の1安打完封負け。4番の選手の「打てないんじゃなく、むしろ打てる気がしていたんです。点差ほどボロボロにやられたイメージはないのに11点も入ってる。気づいたら取られていた、そんな試合でした」という言葉が、甲子園独特の雰囲気を表しているように思えました。その他、2章の最後に書かれていた選手たちの言葉は、甲子園を経験したからこその重みを感じました。
そして、夏に向けても選手はもちろん、スタッフにかかる重圧も相当大きかったようです。甲子園の舞台に立ったことで「レベルが勝手に引き上げられた気がする」という語った選手もいたようです。本人たちが感じているのと同時に、周りの見る目のレベルも引き上げられており、それがプレッシャーになっていたのではないでしょうか。
最後に、サブタイトルになっている「エブリデイ イズ マイ ラスト」のエピソードには涙が出そうでした。
甲子園に出場するという重みが、これほどまでに身近に伝わってくる藤井さんの表現も、あっという間に本を読み終えた要因の1つでした。自分もその場にいるかのように感じられました。高校野球に携わる身としては、非常に刺激になる一冊でした。
(塩多 雅矢)
出版元: 日刊スポーツ出版社
(掲載日:2017-02-06)
タグ:高校野球
カテゴリ スポーツライティング
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ドライチ ドラフト1位の肖像
田崎 健太
日本プロ野球新人選択会議、通称ドラフト会議。毎年ドラフト会議で指名された若者たちだけがプロ野球の門をくぐることができます。選手たちにとって野球をやる上で憧れのプロの世界に入るために指名を待つ儀式でもあり、球団にとっては有望な新人を獲得し、より強いチーム編成をするうえでもっとも重要な行事でもあります。
毎年数十人の選手が指名される中、ドラフト1位は12人だけ。当然それぞれの球団においてもっとも期待がかかり、注目を受けます。
ドライチ(ドラフト1位)で指名された選手の中で期待通りの活躍をする選手もいれば、期待外れに終わり寂しく球界を去る選手もいます。その中の8人の選手にスポットを当て、決して報道されることのなかった真実を取材したノンフィクション。
実力不足・不運・タイミングの悪さ・人との出会い・転機。ここの登場する選手の運命みたいな要素は意外なほど一般社会のそれと変わりありません。プロ野球に入る人なんて特別な人であるという認識は読んだ後も変わりませんが。
ただ私たちと大きく違うのは、眩いほどの輝きを放っていることで、これがドライチの背負うものだと確信しました。多くの人が集まってきて、いろんなことを言われ、特別な経験をしています。それなのにテングになるでもなく、冷めた目で周りを見ていたり、狼狽したり、振り回されたり。あまり楽しそうな印象はなさそうです。引退してから取材されたから冷静に振り返っているというのもあるでしょうが、人間、急に持ち上げられるとかえって警戒心を抱いてしまうのかもしれません。
好きな球団を言ったら逆指名と書かれ、ありもしないトレード話をさも真実のように書かれたり、本人にしたら人間不信になってしまうのも無理のないところ。ケガで思うように練習ができずあったはずの伸びしろも削られてしまうのは残酷としかいいようがありません。それでも生きていかないといけないわけですからいつまでも下を向いているわけにはいきません。当時誰にも言えなかった本音もあらためて聞くと身につまされ、印象が少し変わりました。
長距離打者として期待された元木選手(元巨人)も生き延びるために「くせ者」の道を選んだり、登場する8人が王道をまっすぐ歩んでいったわけではないところに、この本の見どころがあるように感じました。
エールとも感じられる筆者の文章は、同時につまづきながらも頑張って生きている私たち読者へのエールだと受け止めました。
(辻田 浩志)
出版元:カンゼン
(掲載日:2018-06-16)
タグ:プロ野球 ドラフト
カテゴリ スポーツライティング
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クレージー・ランニング
高部 雨市
マラソンという競技は3時間弱で競いますが、その時間のために途方もない時間・人・金が必要です。私たちはレースの中継を見て熱狂します。しかしそれに至るエピソードに触れる機会はあまりありません。それがあったとしても、たいていは勝者にまつわる美談です。勝者がいれば必ず敗者もいます。オリンピックに出場できる者がいれば、選考に漏れる者もいます。本書はあまり語られることのない舞台裏の物語を包み隠すことなく書いたものです。「暴露」という言葉を使えばスキャンダラスになりますが、選手の気持ちに対し真摯に向き合う様子は「人間模様」と表現したほうが正しいかもしれません。
走る選手にもそれぞれの事情があります。走るのが好きな選手もいれば、走るのが好きではなくビジネスとして走る選手もいます。心に刃を持ち復讐のために走る選手までいたなんて、夢にも思いませんでした。ランナー一人一人のバックボーンの違いが、レースに対する姿勢・考え方に色濃く反映するのでしょう。普段競技について語られることはあっても、ビジネス的な側面からマラソンを見る機会なんてありませんが、選手・監督・選手が所属する企業、そしてメディアなどそれぞれの立場にそれぞれの利害があるそうです。そこから生まれる葛藤や妬みなど人間社会ならではのあり様は、神聖化されがちなトップランナーにも同じくあることを知らされました。それぞれの時代を代表するランナーたちの赤裸々な生きざまは、有名な選手であるからこそ余計に生々しさが伝わってきました。
レースを演出するメディアとスポンサーの思惑。スポーツを商品として高く売り買いしたい当事者。我々が興奮しながら見ている中継は、多くの人間の利害によってつくられていることがわかりました。読み終えて初めて納得したのは『クレージー・ランニング』というタイトル。一生懸命に走るランナーに「クレージー」は失礼だと思いましたが、レースに関わる人たちによるマラソン狂想曲ということだったのでしょう。
(辻田 浩志)
出版元:現代書館
(掲載日:2019-09-12)
タグ:マラソン
カテゴリ スポーツライティング
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健脚商売 競輪学校女子第一期生24時
伊勢 華子
何人かの(元)女子競輪選手のドキュメンタリー作品です。有名選手のサクセスストーリーとは程遠い一人一人の人間像が描かれています。本書の特徴といえば肝心の競技に関わる部分がとても少なく、女子競輪選手のストーリーというよりもむしろ一人の女性のストーリーが幅広く描かれています。
想像するに競輪の熱心なファンが期待しそうな、勝つための苦労話とか、血のにじむような努力を経て栄冠を勝ち取るというようなスポーツドキュメンタリーにありがちな話はありません。飼っていたウサギが死んでしまったとか、ダンサーになりたかったけどあきらめたなど、肩透かしを食らいそうなほど競輪とは関係のないストーリーが大半を占めます。
叙事的ともいえる淡々とした描写は筆者の作風そのものだと感じましたが、感情的なものをあえて抑えた書き方だからこそ、読者の想像力が掻き立てられ、登場人物の人となりや感情を頭の中で描いてしまいました。感動を強制されるような表現は皆無といっていいでしょう。そんなところに筆者の凄みすら感じてしまいました。
私なりに感じた裏テーマは「挫折」だと思います。夢があり挫折して競輪の世界に入ってきた者もいれば、競輪の世界で挫折した者もいました。人は挫折したからといって死ぬわけではありません。むしろ挫折してからの生き方にこそ意味があるように受け止めました。
正直、華やかな作品とは言えませんが、じっくり読めば多くの人に共感を与える作品だと思いました。
巻末に登場人物の近況が記されていました。80歳を超え競輪とは無縁の生活をされている方もいます。明日の栄冠を夢見て頑張っておられる現役選手もおられます。皆さんの今の生活を知ってすごく救われた気がしました。それだけ皆さんに感情移入して読んでいたのでしょう。
(辻田 浩志)
出版元:中央公論新社
(掲載日:2020-02-20)
タグ:競輪 女性
カテゴリ スポーツライティング
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折茂武彦 弧を描く
佐藤 大吾
日本バスケットボール界でこの人の名前を知らない人はいない有名選手。そして近年は経営者として活躍されている折茂武彦氏の現役トップ選手からの変貌が書かれた作品。
私自身、バスケットボールには縁がなく、折茂選手のこともニュースで拝見する程度だったが、本の帯に書かれた紹介文に驚いた。「プロバスケットボール選手、折茂武彦。審判にボールを投げつけ、準優勝メダルをその場に投げ捨てた男が、レバンガ北海道の経営者となり、激やせしながら頭を下げて回る激動の日々を追った。前人未踏、27季の現役生活に別れを告げる~」
まず、非常に高いレベルでの運動量が求められるバスケットボール競技で、2019-20年シーズンの49歳まで、第一線でプレーを続けられてきたことに衝撃を受けた。だが、読み進めるうちに折茂選手だからこそ成し遂げられた功績に触れ、紛れもない事実がバスケットボールのシュートのような上昇と下降を思わせ、引き込まれた。
高校→大学→社会人→日本代表と絵にかいたような成功を収めてきた同氏が、北海道に新設されたチームへの歴史的な移籍→チームの崩壊→震災→チーム代表就任という経緯の中で挫折や課題解決にどのように取り組んできたか、どのような心境だったのか。お兄さんやお母さんなどの親族、旧友である元日本代表の佐古選手などとの関係から、人情味のあふれる折茂選手の人間性を感じることが出来る。
スポーツに限らず、何かに一時でも打ち込んだことのある方には、どこかしらでの部分で共感やこころを熱くさせると思われる。
(河田 絹一郎)
出版元:北海道新聞社
(掲載日:2021-01-12)
タグ:バスケットボール
カテゴリ スポーツライティング
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勝利を支配するもの
佐藤 純朗 平尾 誠二
非凡な才能とカリスマ性で、史上最年少監督に就任した平尾誠二氏とジャパン(ラグビー日本代表)の2年半を追った本である。W杯では、予選リーグ全敗で決勝リーグには進出できなかったものの、その足跡は日本のスポーツ界に大きな財産を残した。続投の“Mr.ジャパン”にさらなる強化を期待したい。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2000-01-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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敗因の研究
日本経済新聞運動部
日本経済新聞土曜日夕刊の「ひと・スポーツ」欄に掲載された「敗因の研究」シリーズから精選、再取材を経て、大幅に加筆された短編集である。「敗因を探られる」だけに取材対象はよい顔をしなかったようだが、だからこそ読み手は知りたいというのも本音。勝因ではなく敗因に焦点を絞った点が新鮮だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日本経済新聞出版
(掲載日:2000-05-10)
タグ:分析
カテゴリ スポーツライティング
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今中大介 ツールへの道
今中 大介
日本のロードレーサーの先駆者である今中氏の、長年の“経験”が敷き詰まった「プロとしての日誌」が本になった。トレーニング日誌の様相を呈していながらも本場イタリアでの喜怒哀楽、プロとして生き抜くための秘話など、読み物としても味わい深く、競技を跨いでも楽しめるようになっている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:未知谷
(掲載日:2000-09-10)
タグ:自転車
カテゴリ スポーツライティング
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ヨハン・クライフ スペクタクルがフットボールを変える
Miguel Angel Santos 松岡 義行
オランダの英雄ヨハン・クライフ。「トータルフットボール」の申し子として、数々の偉大な業績を残し、70年代には最優秀選手、90年代には監督としてもその名声を轟かせ、「名選手にして名監督」の代名詞となった。そんな彼を慕う、Jリーグ柏レイソルの西野監督も、この本に大きな称賛を送る。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:中央公論新社
(掲載日:2000-09-10)
タグ:サッカー
カテゴリ スポーツライティング
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ジャン=マリ・ルブラン 総合ディレクター ツールを語る
ジャン=マリ・ルブラン 三田 文英 クリストフ・プノー
アマチュアからプロのサイクリスト、そしてジャーナリストを経てツール・ド・フランスを長く支えるジャン=マリ・ルブランに、これもツールの「資料魔」「うるさ方」として知られるクリストフ・ブノーがインタビュー。エリートコースを歩み、ツールを知り尽くした男が語る歴史と未来。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:未知谷
(掲載日:2000-12-10)
タグ:自転車
カテゴリ スポーツライティング
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適者生存 長谷川滋利メジャーリーグへの挑戦
長谷川 滋利
アナハイム・エンジェルスのセットアッパーとして実績を挙げている長谷川慈利選手。同選手がメジャーリーグに挑んだ1997年から2000年までを紹介。アメリカで生き抜くには強者ではなく、環境に適した者でなくてはならないとの持論を培い、見事プロフェッショナル・ベースボールプレーヤーとなった氏の哲学集。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ぴあ
(掲載日:2001-02-10)
タグ:野球
カテゴリ スポーツライティング
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ゴールキーパー論
増島 みどり
「他の選手より鈍かったからゴールキーパーになったんだろう」という陰口を払拭させられるかもしれない。サッカーのGK・ディド・ハーフナー、松永成立、ハンドボールのGK・橋本行弘、アイスホッケーのGK・春名真仁、ホッケーのGK・高橋潤、水球のGK・水谷真大らが語る、“一番後ろの”進化論。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2001-05-10)
タグ:ゴールキーパー
カテゴリ スポーツライティング
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サッカー日本代表帯同ドクター 女性スポーツドクターのパイオニアとしての軌跡
土肥 美智子 いとう やまね
アスリートをサポートする専門職の中でスポーツドクターにフォーカスした本書。サッカー日本代表帯同のエピソードが中心となっており、鞄の中身や、受傷した選手の治療時のやり取りなど、非常に臨場感がある。スタッフ間の連携も興味深い。
後半は、スポーツドクターになる方法やその役割、そして女性ならではのキャリアプランについて、自身の歩みや日々心掛けていることを紹介している。ちなみにJFA会長の田嶋氏と家庭を持っているが、当然専門分野が違うため干渉はしない。ただ日本サッカーの未来について志を同じくする部分があるとわかる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:時事通信社
(掲載日:2021-02-10)
タグ:スポーツドクター サッカー
カテゴリ スポーツライティング
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すず
千葉 すず 生島 淳 藤田 孝夫
2000年6月のCASによる裁定が下された瞬間の前後に広がる千葉さんの物語を紡ぐのはライターの生島淳氏、そして彼女の10年を撮り続けた藤田孝夫氏。「一生に一度、一冊だけでいい」。千葉さんは「あとがき」でそう語り、まるでこれまでの人生に決裂するかのように皆に感謝する。──せつないものがこみ上げる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:新潮社
(掲載日:2001-11-10)
タグ:人生
カテゴリ スポーツライティング
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命を賭けた最終ピリオド ガンとアイスバックスと高橋健次
国府 秀紀 石黒 謙吾
二度廃部に追い込まれながらも、蘇生し続ける「日光アイスバックス」。それを語るとき、同チームに自らの命を賭けた高橋健次ゼネラルマネジャーの情熱は欠かすことはできない。スポーツをやることってそんなに困難なことなのか? と考えさせられるも、その素晴らしさを再認識させてくれるノンフィクション。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:角川書店
(掲載日:2002-02-10)
タグ:アイスホッケー
カテゴリ スポーツライティング
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オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり
菊地 高弘
「野球留学生」の実態
高校野球界において、野球部でプレーすることを目的に、所在地外の地域から越境入学する生徒のことを「野球留学生」と呼ぶ。揶揄的に「ガイジン部隊」と呼ぶ者もいる。甲子園出場校のメンバーに県外出身者が多いと、地元民でさえ冷ややかな視線や心ない声を浴びせることもある。「県外から集めているのだから勝って当然」と。しかし、当の生徒たちはどのような日々を過ごしているのか。地元の高校生と何が違うのか。その実態を伝えることが、本書の目的である。
私自身は、地域の代表(高校野球に限らず)とは何か、その明確な考えは定まっていない。「ガイジン部隊」を否定したくなる気持ちもわかる。だって、地元の選手が出られなくなってしまうではないか。
「高校数の多い大阪で甲子園に行くより、地方の方が確率が高い」「福岡は甲子園出場校が分散していて、どうしても甲子園に行きたい子は、県外の甲子園に行く確率の高い高校に行く」と本書にある。腕に覚えのある選手が、甲子園に出やすそうという理由で地方の高校に入学することへの、素朴な感情としての拒否反応が生まれてしまう。本来、都道府県の代表とは、それぞれの地域内で技を競い合って決めるものだろう。そして、たとえ全国大会で初戦敗退しようとも、そこでプレーするのは地元の選手であるべきである。代表になるために他の地域に移ったり、逆に他の地域から補強したりするのでは、代表の意味がないのではないか。
覚悟が必要
もちろん、これは一面的な見方に過ぎないことはわかっている。完全な思い込みだ。甲子園を目指すということは、選手本人にとってものすごく貴重な経験であることは間違いない。さらに野球留学によって、慣れない土地で夢をかなえるために仲間とともに奮闘するという経験は、かけがえのない財産になると思う。だが、選手本人も受け入れる側も相当な覚悟が必要である。地元にいい子がいないから県外から補強している、とか、甲子園に出やすいから地方に来た、というイメージだけで、それを簡単に批判したり揶揄すべきではないことは十分に承知しているつもりだ。
メリットにも注目
本書は野球留学の関係者にインタビューをして書かれたものなので、肯定的・好意的な意見がほとんどだ。その中でもなるほど、と思ったのは島根県の取り組みである。島根県は「しまね留学」と銘打ち、県を挙げて留学生を呼び込もうとしている。人口減少により子どもが少なくなって、公立学校が廃校になれば子どもを持つ家族はその地域から出て行ってしまい、ますます人口が減少する。その対策として島根県の公立高校では積極的に県外からの生徒を募集している。
メリットとして、次の3 つが挙げられている。①「関係人口」が増える、②一時的にせよ人口が増え地域経済が回る、③島根の子も育つ、である。島根を第二の故郷として特別な気持ちを持ってもらえば、島根に戻ってくる人もいるかもしれないし、島根の子どもたちにとっても他の地域から来た子との交流によって世界が広がるのだ。
ラグビーワールドカップでは、多くの海外出身選手が「日本代表」として活躍し、日本中が熱狂した。それはよくて、なぜ高校野球は県外出身者ですらダメなのか。確かに説明がつかない。ただ高校野球の場合は、その後の人生の方が長いことを忘れてはならないと思う。私は、高校生までの部活動は、あくまでも教育の一環としての課外活動であり、それは勉学や遊びの一つだと考えている。その課外活動のために親元を離れてまで遠くの学校に通うというのはやりすぎだと感じる。たまたまその高校に集まったメンバーで精いっぱいやれば、それでいいじゃないか。しかし、野球留学をきっかけに彼らの世界が広がるのなら、それも悪いものでもないのかもしれない。現に本書に描かれている高校生たちは、それによって日々成長しているではないか。
最後にちょっと不満を。本書は「野球留学生を嫌う地域住民は、もっと誇りに思うべきだ。全国から選ばれる学校が、自分たちが住む町にあるのだから。」と結ばれている。もともと野球留学生側の視点で書かれている本でもあるし、人口減少の問題からも、この結論は納得できる。だがこの一節によって、留学生側(=選ぶ側)の傲慢さを感じてしまった。
(尾原 陽介)
出版元:インプレス
(掲載日:2021-08-10)
タグ:野球
カテゴリ スポーツライティング
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スポーツを「視る」技術
二宮 清純
スポーツライターの二宮清純氏がプロ野球、サッカー、その他の競技6名のアスリートにインタビュー。勝つためには、トップに立つためには、その技術を探り、新たなスポーツの「視かた」を知る。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2003-04-10)
タグ:アスリート
カテゴリ スポーツライティング
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スポーツを殺すもの
谷口 源太郎
“反骨のスポーツライター”と言われる谷口氏が、スポーツの現実に真正面から向き合い、スポーツの問題点などを社会学者の目から鋭く取り上げ、スポーツ界に一石を投じる一冊。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:花伝社
(掲載日:2003-05-10)
タグ:社会学
カテゴリ スポーツライティング
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アテネでつかむ金メダル 中京女子大レスリング部からアテネ五輪へ飛ぶ三人
横森 綾 栄 和人
全階級金メダルの夢
1896年の第一回近代オリンピック以来の聖地開催となった今年のアテネ大会。今回の大会で初めて正式種目に採用されたのが女子レスリングだ。本書は、この種目の日本代表三選手の物語である。
「気合だぁー、うぃース!」でお馴染みの親子の人気がこの種目への注目度や好感度をアップさせたことは間違いない。が、何より注目を浴びたのがこの種目における日本のレベルの高さであった。世界大会に勝つよりも国内で代表権をとるほうがよほど難しいと言わしめたこのレベルの高さが、本番での全出場階級メダルへの期待、いや単なるメダルではなく金メダルへの期待となって全国民に注目されるところとなったのである。
その難関を突破して今回代表の座を射止めたひとりに、吉田沙保里(55kg級)がいる。父は元レスリング全日本王者。母もテニスで国体選手。そして、吉田は二人の兄とともに3歳から父が主宰するジュニアレスリング教室でレスリングを始める。そして、父親ゆずりの負けず嫌いもあって中学1年生の初遠征から国際大会16大会連続優勝。外国選手にはめっぽう強い。現在中京女子大学4年生でレスリング部のキャプテンでもある。
もうひとりは、伊調馨。身長166cmで63kg級に出場。青森県八戸市で生まれ、幼いときから兄と姉で同じく今大会の48kg級代表として出場する千春とともに八戸クラブでレスリングを始める。中学校卒業後レスリングの練習環境を求めて中京女子大学付属高校を経て中京女子大学へ入学。2003年世界選手権に優勝し、その勢いにのって今回代表の座を獲得する。
最後のひとりが、馨の3つ違いの姉伊調千春だ。妹の馨がのんびり屋で大雑把な性格なら、姉千春は几帳面で苦労人だ。自らレスリングができる環境を求めて京都の網野高校に進み、高校選手権2連覇を成し遂げ、東洋大学に入学。ところが、その東洋大学では練習環境に難があった。そこで千春は思い切って中退し、馨のいる中京女子大に再入学を決意する。しかし、千春の苦労はこれだけでは終わらなかった。今回のアテネ大会での女子レスリングの実施種目が世界選手権と同じ7階級だけでなく4階級だけという変則的実施となったため、千春は得意とする51kg級から48kg級へと変更せざるを得なくなったのだ。しかし、全階級の中で唯一代表決定プレーオフまでもつれ込んだ結果、ライバル坂本真喜子選手を破って見事代表の座を射止めた。
勝つためのセオリー
結局、吉田沙保里と伊調馨は念願の金メダルを手にした。吉田は表彰式後のインタビューでは「自分に負けなかった」ことが勝因と語ってくれた。自分にさえ負けたくない彼女の“負けず嫌い”がよく表現された瞬間であった。伊調馨は、試合後両手で顔を覆って泣き出してしまった。試合は終盤の逆転勝ち。はらはらして見守る周囲を他所に、表情変えずに逆転するふてぶてしさに解説者は“馨らしい勝ち方”と評したが、さすがに試合後は普通の女の子に戻っていた。一方姉の千春は惜しくも僅差の判定負け。試合前から硬かった表情がついに笑顔に変わることはなかった。「銀メダルではうれしくない」とインタビューに答えた彼女であったが、私は立派な成績と評価したい。
果たして、勝つためのセオリーはあるのか。今回の女子レスリング代表選手たちをみていて改めて考えた。もしあるとしたらその共通項は何か。そこのところをまだ読み落としてはいまいかと、再び本書を手にする気になった。
(久米 秀作)
出版元:近代映画社
(掲載日:2004-10-10)
タグ:レスリング
カテゴリ スポーツライティング
CiNii Booksで検索:アテネでつかむ金メダル 中京女子大レスリング部からアテネ五輪へ飛ぶ三人
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京子! いざ! 北京
宮崎 俊哉
浜口京子選手の北京オリンピックに向け、その背景が伝わってくる。試合での動作が1つ1つ描写され、その意味が丁寧に解説されている。彼女の活躍は、家族や応援団(浅草軍団)があってこそのもの。コーチ陣へのインタビュー内容も盛り込まれている。試合に臨むとき、試合後など、浜口選手と彼女を支えるたくさんの人の様子を見守ってきた筆者の信念が「はじめに」の結語に集約されている。「2008年8月17日。/京子は“女王のレスリング”を貫き、悲願のオリンピック金メダルに輝く」と言い切っているのである。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:阪急コミュニケーションズ
(掲載日:2008-09-10)
タグ:レスリング
カテゴリ スポーツライティング
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ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法
トラヴィス・ソーチック 桑田 健
93年から連続負け越しのワースト記録をつくっていた、MLBのピッツバーグ・パイレーツ。2013年にその記録を断ち切ることができた要因を、ビッグデータをキーに探る。著者は地元紙の球団担当記者で、選手を始めチーム関係者はもちろんデータを扱う側にも丹念に取材しており、単なるデータ賛美には終わらない。さまざまな戦力要素を適切に分析し、整え、守備に着目してデータを活用したからこそ結果に結びついたと言える。さらに興味深いのは、投手の故障をデータを用いて抑えようと試みている点だ。障害予防に関しても新しいシステムは他人事ではないのかもしれない。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:KADOKAWA
(掲載日:2016-11-10)
タグ:データ 野球
カテゴリ スポーツライティング
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「野球」の真髄 なぜこのゲームに魅せられるのか
小林 信也
少年時代野球に熱中し、作家として多くの試合や選手を取材し、現在は武蔵野シニアの監督を務める著者が、野球への思いをまとめた。野球とはホームに生還するスポーツであり、戦時中はそのために全力を尽くすことが見る者はもちろん選手自身の支えになった。長嶋茂雄の活躍に興奮を共有した。だが、現在では公園でのキャッチボールが禁止されて久しく、練習時の掛け声すらうるさいと苦情が来るという。プロ野球ばかりでなく高校野球、少年野球まで勝利至上主義になってしまった現実をあぶり出す。だが、野球の本質を教えようとする指導者もいると著者は知る。野球再生に向け、子どもたちが野球を自然に楽しめるよう考え続け、試し合おうと説く。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:集英社
(掲載日:2016-12-10)
タグ:野球
カテゴリ スポーツライティング
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希望をくれた人 パラアスリートの背中を押したプロフェッショナル
宮崎 恵理
書は単に障害者スポーツを紹介するものではない。パラアスリートがまだパラアスリートではなかったとき、すなわちケガや病気、先天性の障害に直面したとき、スポーツに取り組むきっかけとなった10人のプロフェッショナルとの交流を通して、もっと普遍的な人間関係を描き出す。家族でも友人でもなく、同じ障害を抱えていなくとも、力になれることはある。誰もが日々、誰かに支えられているのだと思い出させてくれる。そして、アスリートに限らず関わる人を支える仕事である、トレーニング指導者の背中を押してくれる一冊とも言える。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:協同医書出版社
(掲載日:2017-02-10)
タグ:パラアスリート サポート
カテゴリ スポーツライティング
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新・スクラム 進化する「1cm」をめぐる攻防
松瀬 学
2015年のW杯にて日本中を勇気づけたラグビー日本代表。ラグビーに関する著書が多数ある松瀬氏はその原動力を「スクラム」に見た。フォワードの8人が組んで押し合うスクラムは重量とパワーのある海外勢が有利に感じる。それに技術で対抗する、といっても1mm単位での攻防だから驚きだ。スクラムの1mmはバックスの1m、1cmなら10mに相当するという。日本代表のスクラムコーチを務めたダルマゾ氏のインタビュー、2015年のW杯各戦と2011年W杯、以降のエディー・ジャパンの試合のスクラム解析。そして日本ラグビーのスクラムの進化に取り組んできた長谷川慎FWコーチのインタビューからなる。真摯に取り組み続ければ、いつの日か成果は出るのだとさらに勇気づけられる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:東邦出版
(掲載日:2017-02-10)
タグ:スクラム ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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カンプノウの灯火 メッシになれなかった少年たち
豊福 晋
原石の証明
“カンプノウ”とは、スペインの名門サッカーチーム FCバルセロナ(愛称バルサ)のホームスタジアムのことである。そして“メッシ”とは、リオネル・メッシ選手。バロンドール(欧州最優秀選手賞)を五度も獲得した、史上最高と謳われるバルサのスパースターである。そんなことは言われるまでもない、という方も多いと思う。それはそうだろう。サッカーはワールドカップのときくらいしか見ないという私でも名前を知っているくらいだから。
カンプノウでプレーするということは、バルサのトップチームの一員となることであり、サッカー少年たちの夢である。スペインではサッカーチームの下部組織をカンテラ(cantera)と呼ぶ。直訳すると石切り場。カンプノウへ辿り着くためには、その採石場で、自分がダイヤの原石であることを証明し続けなければならない。
バルサのカンテラは昔から数多くの素晴らしいサッカー選手を輩出していることで有名で、世界的に高い評価を得ているそうだ。バルサの特徴は、スカウティングに力を入れ、世界中から多くの才能ある選手を確保するとともに、育成した選手を積極的にトップチームに昇格させ、試合に起用することらしい。
しかし、ここで言う育成とは私たちがイメージするものとは大きく違うようだ。競争する環境を与え、そこから抜きん出た才能を持つ選手を選り分けていくというもので、当然、淘汰されていく者のほうが多い。
淘汰された者のその後
本書は一枚の古い写真から始まる。13歳のメッシ少年がチームメイトとともに写っている写真だ。メッシは1987年生まれ、13歳でバルサに入団したとのことなので、入団したての2000年ごろの写真だろう。筆者の頭にある思いがよぎる。メッシは大成功を収めたが、その他の少年たちは今どうなっているのだろう。彼らの現在地を知りたい。
メッシを超える少年と言われたディオン・メンディは田舎のボクシングジムでコーチをしている。カンテラでの過度なプレッシャーに押し潰されて鬱病にかかってしまったフェラン・ビラは、立ち直って、下部リーグでプレーしながら実家の肉屋で働いている。自然科学博物館の動物飼育員ロジェールと公立小学校の給食世話係ロベールの兄弟は、カタルーニャ独立運動に参加している。他にも電気工、下部チームの指導者、警察の特殊部隊、害虫駆除業者、ビールの営業など、実に様々な仕事に就いて、必死に自分の人生を生きている。
サッカー好きの少年の元に、ある日憧れのバルサのスカウトから「テストを受けてみないか?」と声がかかる。晴れてテストに合格し、意気揚々とカンテラに乗り込む。しかし現実は残酷だ。地元では敵なしでも、世界中から才能を持った少年が集まるバルサのカンテラでは普通の選手に過ぎないのだ。そこから、重圧に耐えて才能と努力と運でトップチームへの階段を上り続けなければならない。足踏みしたら最後、カンプノウへの道は閉ざされる。
バルサのカンテラの選手が、一部でプレーできるレベルになる確率は10%程度だそうだ。その中からキャリア後を保証できるほどの高給取りになれる選手はほんの一握りだ。
大人にできることは
マシア(選手寮)のカルラス・フォルゲーラ寮長は、長年にわたりクラブの少年たちに「人生はバルサでは終わらん」と教えてきた。この教えのおかげか、本書に登場するメッシの元チームメイトたちは皆、力強く前を向いて現実と戦っている。バルサに対する恨み言も(少なくとも本書の中では)言っていないし、かつてメッシとプレーしたことがある、ということにも誇りを持っていると語る。これはやはり、バルサの育成方法が優れているということなのだろうか。
子どもたちには「メッシのようになりたい」という夢は必要だ。そのほうが断然楽しい。一方で、本書では「誰もがメッシになれるわけじゃない」という言葉がたびたび出てくる。ディオンは言った。「それは辛い現実かもしれない。でもな、アミーゴ。だからこそ人生ってのはおもしれえんだ」
夢を諦めるなというのはたやすい。しかし、我々大人が子供たちにすべきことは、夢を追いかける姿を見守ると同時に、それが叶わなかったときに現実を受け入れられる人間になっているよう、教育することだ。
それにはまず、親や指導者が現実を直視しなければならない。
(尾原 陽介)
出版元:洋泉社
(掲載日:2017-04-10)
タグ:育成 サッカー
カテゴリ スポーツライティング
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ONE TEAMのスクラム
松瀬 学
私自身ラグビーのプレー経験といえば高校生のころ体育の授業でかじった程度で、ラグビーが体格・体力に恵まれた力と力のスポーツという印象を植え付けられた程度で、それ以上興味がわかなかったというのが正直なところです。ところが2019年のワールドカップで日本代表が活躍し、改めて興味を持ったにわかファンになってしまったようです。
私がラグビーに対し新たな認識を持ったのは単なる力と力のぶつかり合いで日本代表が活躍したのではなく、力プラス頭脳で勝ち進んだことで、今までラグビーに対して持っていたイメージが一新されたからにほかなりません。
「ONE TEAM」というワードが単なる精神論ではなく、戦術・戦略も含む一体感のあるチームという具体的な機能面まで含んだものだったことに興味を持ちました。
本書は「ONE TEAM」が具体的にスクラムにどう機能したかに焦点を当てた内容です。ただ技術論だけではなく選手個々の解釈やイメージまで掘り下げられていますので、そのときのチームの様子がリアルにイメージできました。選手やコーチのそれぞれの捉え方が集結して実際のプレーに結びつく展開はチームの一員になったかのような感覚に陥りました。
まったくのラグビーのド素人がなんとなくわかったような顔をして頷ける戦い方の解説は必読。実は何一つわかっていないのでしょうけど、読み終えた満足感や興奮は「あのとき」を思い出させます。
私のように読了して満足を得る人もいるでしょうが、「ONE TEAM」の発想・着眼をそれぞれのフィールドに持ち込んで展開するつわものもいるかもしれません。読み手の考え一つで「ONE TEAM」を構築できるかもしれません。
(辻田 浩志)
出版元:光文社
(掲載日:2022-08-25)
タグ:ラグビー チームビルディング
カテゴリ スポーツライティング
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ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け
平松 洋子
筋肉と脂肪に焦点を当て、アスリートたちとアスリートを支える人達に直接聞く形で綴られたルポルタージュです。本書では、相撲、プロレス、陸上、サッカーなどのスポーツに携わるアスリート、栄養士、開発者、研究者などへの取材を通してアスリートたちの生活、トレーニング方法、食事、そして身体の変化について詳しく掘り下げています。
いかに身体をつくっていくか、リアルなエピソードや実例があり、専門的な知識がなくても理解しやすい構成になっています。具体的な取り組みを知ることによってプロの「筋肉と脂肪」に対しての考えが、一般人のそれとは大きく異なることを実感することができます。そして、これらに対する見方が変わる一冊です。
本書ではアスリートたちが直接語ることで、筋肉や脂肪に関する理解が深まり、一般の人々にとっても身近なテーマなのでいかにその管理が徹底されていて、身体づくりそのものが苦しくも重要であることを実感できました。また、プロテインや体組成計の開発に至るまで、アスリートを栄養面から細かくサポートしている方々がいること、筋肉・脂肪の関係にはこれだけ深い事柄が関わっていることを知ることができます。よって、健康やスポーツに興味がある方、トレーニングや生活に興味を持っている人々におすすめです。また、軽いノンフィクションが好きな読者にも適しています。相撲やプロレスファンには食事づくりの裏側を垣間見ることができるので、より興味深いのではないでしょうか。
『ルポ 筋肉と脂肪アスリートに訊け』は、筋肉と脂肪に関する知識を踏まえつつ、生の声で感動的なストーリーを届けてくれる一冊でした。
(山口 玲奈)
出版元:新潮社
(掲載日:2024-01-15)
タグ:ルポルタージュ 筋肉 脂肪 スポーツ科学
カテゴリ スポーツライティング
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オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり
菊地 高弘
野球というスポーツで話題なのは大谷翔平選手でしょう。ドジャーズに移籍して今まで以上の活躍が期待され、日本のみならずアメリカで人々から称賛されています。お国柄といいますか、アメリカでは人種や出身地にかかわらず活躍に見合った評価を受けます。MLBで活躍した外国人選手は今の時代でも「助っ人」と呼ぶ人もいて、正式なチームの一員であるにもかかわらず一線が引かれることもあります。
アマチュア野球においても他府県から入学した選手たちは「ガイジン部隊」と呼ばれることもあります。本書は、高校野球でもしばしば問題となる他府県からの野球留学生とその学校のドキュメントが描かれた本です。野球留学を擁護するでもなく、そして県外の選手を集めたチームや高校野球の現状を批判するでもなく、淡々と事実だけが書かれています。しかも表面上のきれいごとだけではなく、選手や学校側の現実にも踏み込まれていますので偏りは感じられません。
読者の判断に委ねるためにあえて筆者の主観を伏せているのではないのかと思うくらい、事実のみが書かれている、というのが私個人の感想です。他のスポーツに目を向けているとそれぞれのスポーツをよりよい環境でやりたいために他府県に行く学生を何人か見てきましたが、彼らは「ガイジン」といわれることはありません。高校野球だけはこの問題が話題になるのは、甲子園の大会が郷土というものを背負わされているからにほかなりません。高校生のクラブ活動とは違った目線で見られているからだと思います。そしてそれが「純粋」であったり「神聖」という価値がひっついてくると話は余計にややこしくなってくるのだと思います。大谷選手やイチロー選手らがMLBで活躍すると、チームや試合結果そっちのけで彼らのプレーばかりが報道で取り上げられるのは、「ガイジン部隊」問題の裏返しなんじゃないかと思っています。
私の主観はそれくらいにしておいて、読者がそれぞれの感想を持つにはほどよいバランスの情報が本書には記されています。そしてもう一つ、本書の大きな特徴はリアルさだと思います。巨人の坂本選手、ドジャーズの大谷選手、元阪神の北条選手、今阪神で売り出し中の野口選手や川原選手など野球好きなら聞いたことがある名前が頻繁に登場します。そして彼らの高校時代の活躍にも触れられていますので、彼らのプレーを思い出しながら裏舞台をこっそりとのぞくワクワク感もあります。数年前に多くの野球留学生で甲子園に出た秀岳館の元監督鍛治舎功さん(現県立岐阜商監督)の核心を突いたお話も当事者ならでは。
「高校野球はこうあるべき」という議論をする前に当事者の実際のところを見ておく必要があります。
(辻田 浩志)
出版元:インプレス
(掲載日:2024-03-08)
タグ:高校野球
カテゴリ スポーツライティング
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