近代日本を創った身体
寒川 恒夫 中澤 篤史 出町 一郎 澤井 和彦 新 雅史 束原 文郎 竹田 直矢 七木田 文彦
まず驚いたのは本書のテーマと切り口です。近代日本史でもなくスポーツが日本に普及するいきさつでもなく、明治時代から戦後の昭和に至るまでの日本人の身体を通して見る国家であったり健康であったりスポーツであったり、盛りだくさんのテーマがあります。普段見ることのない角度からの近代日本からは、歴史の教科書にはないものが見えてきます。
江戸時代にはスポーツのような競技の概念はなかったようです。武道・武術が近いのかもしれませんが、やはり戦を前提としたもので、今の時代のように身体を動かして楽しむというレクリエーション的な要素は少ないのかもしれません。現在の日本人から見れば全くの異文化ともいえます。
明治以降、ヨーロッパを中心とした諸外国との交流があり、人種による体格の違いに劣等感を持ったり、江戸時代には寛容であった「裸体」に対する文化の違いに当時の日本が焦りを感じていたことを初めて知りました。
「体育会系」という風習の生い立ちというテーマも今まで触れる機会はありませんでした。それが政治的な背景で生まれ育った概念で、また体育会系というのが縮小傾向にあるのもまた政治的背景。不思議なつながりに翻弄されるさまは一つのストーリーとなっています。
スポーツをプレイと捉えるのではなく人間形成であったり教育の一環として捉える日本ならではのスポーツ感にも、時代の背景が潜んでいることに気づかされました。
明治維新から戦争まで動乱の近代日本の歴史を通して見る身体には、その時々の日本の問題点が隠されていました。そしてそれらは過去のお話ではなく今の時代にもつながるテーマがいくつもありました。現代の問題を読み解くカギは、知られざる歴史にこそあるのかもしれません。
(辻田 浩志)
出版元:大修館書店
(掲載日:2020-12-09)
タグ:近代 身体 日本
カテゴリ 身体
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そろそろ、部活のこれからを話しませんか 未来のための部活講義
中澤 篤史
運動部活動究に取り組む中澤氏の、『運動部活動の戦後の現在―なぜスポーツは学校教育に結び付けられるのか』(青弓社)に続く著作。部活はよいと讃えるのでも、部活は悪いと断罪するのでもない。当たり前にあるようでいて実は日本独特のものである部活を疑い、歴史を再確認し、「今」の部活に関するさまざまな情報を見比べた上で、「これから」を一緒に考えていこうと巻き込んでいく。スポーツは身近なものであるが、身近過ぎるゆえに、改めて考えたり、多くの人の力を集めるきっかけがつくりにくいとも言える。そういった場合のアプローチの仕方としても参考になるのではないだろうか。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大月書店
(掲載日:2017-05-10)
タグ:部活動
カテゴリ スポーツ社会学
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近代日本を創った身体
寒川 恒夫 中澤 篤史 出町 一郎 澤井 和彦 新 雅史 束原 文郎 竹田 直矢 七木田 文彦
心身を耕す
“耕すからだ”というセミナーを3年ほど前から開講している。“畑”を耕すのではない、耕すという身体的行為を純粋に愉しむことで太古の昔から人に備わっている原初的な身体能力に気づき心身を耕そう、という目的で行っているのである。ちなみに、私の勤める大学にはソツロン(卒業論文)がなく、代わりに、6年の卒業年次のソツシ(卒業試験)に合格した者が、ソウハン(総合判定試験)という国家試験以上ともいわれる難易度の試験に合格したのち、卒業が認定される。
そういう中で、セミナーは卒業認定に必要のない単位取得を目指す、いわば“余計な労力を費やす科目”ということになるのだが、趣旨をしっかり理解し、嬉々として受講してくれる学生も少なからず存在するのである。
セミナーでは私は教えることは何もなく、学内の空地に“教材”として定めた地面を学生とともにただただ耕す。
古い建造物のあったこの空地は、粘土質なうえにおびただしい瓦礫が埋められており、三本歯のクワなどすぐに曲がってしまった。考えが甘かったことを反省しつつ、ツルハシを用いて粘土を瓦礫もろとも掘り起こす作業を続け、約2アールの広さを耕すのに1年を要した。また、ものは試しと埋めた(植えたのではない)ジャガイモは、こんなヤセた土地にもかかわらず、立派な地下茎を生らせて植物のたくましさを教えてくれ、ジャガイモに尊敬の念を抱いたりした(ついでながらジャガイモを埋めたのは、作物がないと他の学生にいぶかしがられるので“畑”をやっているように見せるのが狙いである)。
2年目には、最初は粘土質で生き物感のなかった土地に明らかに生物の多様性が生まれ、土が柔らかく感じられるようになった。夏には耕す端から草が伸びて来、雑草の足の速さに驚愕しながら“人間て非力な存在だよなあ”などと言って哲学をした。
3年目の今年は、根粒菌による土壌改良の様子を観察するため枝豆の種を撒いた(蒔いたのではない)ところ葉は生い茂り実がたわわに生ったので、収穫を目的にするものではないが実った枝豆はありがたく頂戴した。
身体に対する意図
さて今回は『近代日本を創った身体』。編著者の寒川恒夫を含む、8名の手になるものだ。
「外から新しい文化がもたらされるのがきっかけで」「日本人のそれまでの在り方を一変」させられることがある。「からだ」すなわち「心身を孕んだ身体」は、命の母体として個人の枠を超えて、時代々々の文化も載せているのである。
その「からだ」が「明治という時代」に「欧米の近代文化」導入のため、「まるごと意図的に、それも国策として」「ごく短期間に国民を広く深く変えることが目論まれた」。「身体の動かし方から、身体についての考え方まで」「近代社会には、近代社会にふさわしい『からだ』がある」からである。
そしてそれを「どのように創っていった」のかを、「国際比較の中で発見された日本人の『劣った身体』や近代社会が否定する『はだか』から、臣民に求められた身体、国家をリードする官僚の卵である帝国大学生に求められた身体、近代企業が期待する身体、さらには、人を国の人的資源とみて、休むことさえ管理する『リ・クリエイトされる身体』まで及んで」考察されている。
スポーツの動作と生活に密着した動作
近代スポーツは、競技条件の公平性を求めてルールの合理化や施設・用具の整備がなされてきた。競技が細分化し専門化するほどに必要とされる体力・技術は特化したものとなり、練習やトレーニング法さらには用具もそれに伴って、たくさんの人為的意図を盛り込んで変化(すなわち科学的に発展)させられてきた。
それはまた、特化するほどに生活の場にある動作からは逸脱していくが、現代に生きる私たちはこのような“人工的”に整えられた身体活動を特段の違和感を覚えることなく受け入れている。
一方、耕す・掘る・薪を割る・ノコギリを挽くなどの、古くから生活に密着した動作は自ら体得するものであり、受け継がれる中で“自然”に工夫が加えられてきた。しかしこのような身体活動は、今では接する機会が少なく、実施するのにむしろ敷居が高く感じられる動作となってしまった。
しかしながら、このような生活とともにあった“自然”な動作と、競技のような“人工的”動作との間には、隔たりがあるようでいて実は共通する点が多いように思われる。“耕すからだ”では、このあたりのことに考察を広げていきたいと考えているところである。
(板井 美浩)
出版元:大修館書店
(掲載日:2017-10-10)
タグ:近代 身体 日本
カテゴリ 身体
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そろそろ部活のこれからを話しませんか 未来のための部活講義
中澤 篤史
「部活」は、日本固有の文化なんだ。知らなかった。
部活には「自主性」の名の下に、教員、学生、保護者が動員されている。自主的な活動なのだから、お金も保障も充分でない。
中学運動部顧問の時間外労働平均時間は過労死ライン80時間を超えている(平成18年度の文科省報告書による)。
平均が過労死ラインを超えてるって、異常事態だ(令和2年4月から時間外勤務が月45時間以内に改善が図られていなければ、校長が職務責任を問われるという「働き方改革」が行われているが)。
さらに体罰の問題がある。桜宮高校バスケットボール部の事件は、大いに世間を賑わせた。キャプテンの子が顧問の先生に宛てた手紙には、批判や不満とともに、自分が顧問の先生の要求に、必死に応えようとしている想いが吐露されている。しかし、彼はこの手紙を先生に渡すことなく、部活に行き続け、最後は死を選んだ。このような事件も「部活」の暗黒面としてある。
だが、多くの人にとって「部活」は、キラキラした青春の代名詞ではないだろうか。少なくとも自分自身にとってはそうだし、たびたび漫画やドラマの舞台になるのを考えれば、一般的なイメージはそんな感じだろう。
だが(だからこそ?)、その裏側には献身を、あるいは参加を、強制されるような実態があり、スポーツの語源(デポルターレ=遊び)からは程遠い現実がある。
「部活」が、さまざまな犠牲を払わなければ成り立たない慣習上の制度であるとするならば、今後も制度疲労としての軋みが、生じ続けることになるだろう。
(塩﨑 由規)
出版元:大月書店
(掲載日:2022-05-02)
タグ:部活動
カテゴリ スポーツ社会学
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