聞く技術 聞いてもらう技術
東畑 開人
ひとの話を「聞く」ということの難しさ、に悩むひとは多いのではないか。ではまず「聞いてもらう」からはじめたら? というのが著者の提案。なぜなら「聞く」は「聞いてもらう」に支えられている、話を聞けないのは、話を聞いてもらっていないからだという。
印象に残ったのは、孤独と孤立の違いに関しての部分。孤独は、心の中に部屋があるとして、そこに内から鍵をかけ、ひとりになれる空間を持つこと。たいして、孤立というのは、その部屋に、嫌なひと、怖いひとがひっきりなしに入ってくる状態をいう。孤独には安心が、孤立には不安がある。ひとは孤独になってはじめて、ひとの話を聞くこともできる。
話す、聞くというのはとても日常的な行為だ。しかし、だからこそわからなくなる。
ケアというのは圧倒的に民間セクターの割合が大きいという(ヘルス・ケア・システム理論,クラインマン)。しかし、民間の世間知だけで対応できないものもある。そういったとき、専門知を持つ専門職のひとが、そのひとが今どういう状態かということを見立てることで、周りもそのひとに配慮することができる。
あるアメリカの先住民の間では、悩みや悲しみを周りに話せる状態は正常、ひとりで抱えるようになると病気とみなされるらしい。
とくに一緒にいることが多いひとのことは、話さなくてもわかっている、と思いがちだ。毎日顔を合わせていると、だからこそ見えなくなってくる部分がある。
話を聞いてもらうこと、聞くこと、その塩梅に正解はないかもしれない。でもとにかく、身近なひとが気になったら「なにかあった?」と声がけすることを大切にしたい。
(塩﨑 由規)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2022-11-15)
タグ:コミュニケーション
カテゴリ その他
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野の医者は笑う 心の治療とは何か?
東畑 開人
臨床心理士である著者が「野の医者」と呼ぶのは、スピリチュアルや宗教に関わるもの、たとえば占い師やヒーラーなどの、世間一般的にはちょっと怪しいと思われる人たちだ。
研究助成金を得た著者は、ありとあらゆる「治療」を受けまくる。そのなかで、自身が取り組む仕事、扱っている「こころ」のことを考える。治癒を巡って、あるヒーラーとの対話のなかで出てきたスタンスの違いは興味深い。劇的に良くなる、というヒーラーの主張する対象者の状態は、臨床心理学から見れば、躁状態であるに過ぎず根本から良くなっているとは言い難い。
それが悪いわけではない。ひとまず、避難先を確保することは大切なことだ、とした上で、しかし対象者が自身の内面を直視し、受け入れていく過程で、振り子の揺れが少しずつ収まるように治っていく、というのが順当なゴール設定ではないか、という主張には、腹落ちするところがあった。「こころ」という、捉えどころのないものに、魔法のような治療法はないらしい。
翻って、補完代替医療のことを考えてみると、それぞれの立場によって病めるひとに対し、物語を構成する「ストーリーテラー」としての側面がある。
ただやはり、最後は自分と向き合い、主体性を回復する、というゴールまで、そのひとに伴走するというのが、セラピストの正しい姿勢だと思う。そこに越えてはいけない一線があると思った。
(塩﨑 由規)
出版元:誠信書房
(掲載日:2023-01-05)
タグ:心理学
カテゴリ メンタル
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