ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
リンダ・グラットン 池村 千
2025年の近未来に関して、5要因32現象を踏まえていくつかのストーリー(シナリオ)でわかりやすく書いてある400ページほどの良書。ページ数の割に、比較的読みやすく、内容も理解しやすい。
テクノロジーの進化、グローバル化の進化、人口構成の変化と長寿化、社会の変化、エネルギー・環境問題の深刻化により、私たちの働き方の未来が変化しており、これまでの価値観が通用しなくなってきた。また、今起こりつつある変化に対し、働き方を「シフト」する必要があり、3つのシフトを意識的に実践しなくてはならないと書かれている。
その3つとは、
1. ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ。つまり、広く浅い知識ではなく、高度な専門技術を身につけ、さらに複数の専門分野に習熟しなければならないということ。
2. 孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ。古い仕事観のもとでは、やる気と野心と強い競争心があれば成功できると考えられてきたが、これからは多くの人と結びつき、能力とノウハウ、人脈を統合する必要があるということ。
3. 大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ。お金と消費に最大の価値を置く発想から経験に価値を置く生き方、自分にふさわしい働き方を切り開く必要があるということ。
もちろん、これから起こることは誰もわからないし、こうすれば必ずうまくいくという保証もない。もともと決まった働き方がないとも言える、私たちトレーナー・治療家に関しては働き方を「シフト」するというよりも、既成概念にとらわれることなく、新たな働き方を生み出し、確立していくことが重要ではないだろうか。そのためには、一人一人が生き抜くことのできる力を養っていかなければならない。
(浦中 宏典)
出版元:プレジデント社
(掲載日:2013-04-25)
タグ:働き方
カテゴリ 人生
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評伝 デル・ボスケ スペイン代表、南アフリカW杯優勝の真実
ルーカ カイオーリ タカ 大丸
つい先日、サッカー日本代表監督に旧ユーゴ出身のハリルホジッチ氏が就任した。発表記者会見での日本サッカー協会幹部の発言によると、どうやら彼は完璧主義者らしいが。新監督と比較する上でこの本を読んでみると面白いかもしれない。
この本はスペイン代表監督であるビセンテ・デル・ボスケ氏の評伝である。彼はレアルマドリードひと筋で選手時代はMFとして活躍した。監督になってからはリーガ、チャンピオンズリーグなどで7回優勝。ついにはスペイン代表監督として2010年のW杯南アフリカ大会で母国スペインに初優勝をもたらした。その後FIFAの年間最優秀監督に選ばれるなど、誰からも名将として尊敬されている存在である。
この本は幼なじみから芸能界、政財界に至るまで、デル・ボスケ氏に関わりのある人物へのインタビュー集となっているが、指導者としての戦術やスタイルよりもむしろ彼の人物像、人間的魅力について数多く語られている。それだけ彼は人間的にも優れているのだろう。
デル・ボスケ氏を一言で評するならば、ずばり「謙虚」である。勝利を自分の手柄にせず、陰で支える存在に徹している。名将と言われるようになっても、彼は自分の立ち位置を冷静沈着に見極めているようだ。彼自身、あるスピーチの中で努力・自己犠牲・才能・自律・団結・謙虚さといった価値観を説いていた。これはかつて美徳と謳われた日本人の価値観と合致するのではないだろうか。
日本にサッカーが存在する限り、今後も色んな人物が日本代表監督を務めていくだろう。微かな望みを持ちつつも、今やスペインの英雄であるデル・ボスケ氏が、今後母国を出てどこかで監督を務める可能性は低いかもしれない。ならば彼のような日本人気質に近い人物が、いつか日本代表監督に現れることを期待してみたい。そうなればサムライ・ブルーはきっと面白いことになるだろう。
(水浜 雅浩)
出版元:プレジデント社
(掲載日:2015-04-22)
タグ:サッカー
カテゴリ 指導
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がんを告知されたら読む本 専門医が、がん患者にこれだけは言っておきたい“がん”の話
谷川 啓司
がんを患っていない私が本書を読んでも、本当にがんを告知されて本書を手に取る方とは同じ感情では読めていないだろうと思う。
私は鍼灸師として勤め、がん患者の心身のケアを行っている。だからこそ本書が訴えるがんの心構えも理解できる。それだけでなく、私がまだ小学生のとき、家族ががんを宣告され、その闘病生活を目の当たりにした。そして数年後には死別を経験している。だからこそ、がんを宣告された人の家族の気持ちも分かる。
だがしかし、まだ分からないのはがん患者本人の気持ちだ。何人ものがん患者を見てきており、気持ちも分かってあげたい。もちろん共感の気持ちを持って接しているが、私が理解したはずの患者の気持ちと、患者本人の気持ちには方向性の違いはないにしても、そこには雲泥の差があるように感じる。むしろ私が出会っているがん患者達は、すでにがんに対する心構えができている方がほとんどである。だからコミュニケーションも取りやすいのだ。
この著者のように、がんに詳しい医療従事者が、がん宣告を受けたら、すぐにでもがんとの向き合い方が分かるかも知れない。だが、全く知識のない一般の方ががん宣告を受けたときには冷静に本書も読めず、苦しむ期間が長いのではないだろうか。しかし、本書から言わせたら、その苦しんでいる期間が免疫を低下させ、がんを進行させる一助になってしまうと言うことだ。
私の家族の状況を見て、私もがんになる確率は低くない。将来の不安もある。けれども、がんの告知をされていない私は本書を冷静な状態で読むことができた。本書のタイトルには告知されたら読むとあるが、がん宣告を受ける前に本書を読むのが最善だ。もし興味がない内容でも簡単に書かれた本書は読みやすい。そして、日本人の一番の死因であるがんについて早々に興味を持ってもらいたい。つまり早いうちに多勢の方に本書を読んで頂きたい。事前に読んでおく事でがんがそこまで苦しいものではないと理解できる。そして、がん治療にはその理解が不可欠と知らされる。
同時に、本書を読んだことで伝えることの重要性も理解した。トレーナーとして幅広い世代に指導することがあるので、そういった場面で健康について、ケガについて、病気について
(橋本 紘希)
出版元:プレジデント社
(掲載日:2015-11-09)
タグ:ガン
カテゴリ 医学
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諦める力
為末 大
なぜ反発という反応か
ネガティブなイメージの「諦める」と、ポジティブなイメージの「力」が合わさったタイトル。数ある「力」関係の本の中で、これほど身も蓋もないタイトルも珍しいと思う。だから、しばしばウェブなどで本書について「炎上」したりするのだろうと思う。
その炎上騒ぎを眺めていると、この「諦める」に対してしばしば引き合いに出されていたのが、人気バスケ漫画『スラムダンク』の「諦めたらそこで試合終了ですよ」という安西監督の名セリフ。だがこの漫画でも、実は諦めている場面もある。主人公たちが諦めないのは「試合に勝つ」ことであって、「手段」は諦めている。とくに、クライマックスの試合。主人公チームのエースが、相手チームのエースに対して1 on 1で挑むが、どうしてもかなわない。そこで味方を生かすパスを出すよう戦法を切り替えることで劣勢を打開していく。漫画ではそれを「プレーヤーとしての成長」という描き方をしていた。
著者が言っているのはそういうことなのだと思う。ただ、著者である為末氏は、世界陸上銅メダリストという、我々から見たら「成功者」であるので、その成功者から「見込みのなさそうなことは諦めた方がいい」と言われると反発も大きいのだと思う。だが、為末氏としては、世界で勝つために100mから400mHに転向したのに、それでも世界一にはなれなかったのだから成功できなかった、という思いが強い。そういう経験から導き出されたのが「諦める」ということなのだと思う。「スポーツはまず才能を持って生まれないとステージにすら乗れない。僕よりも努力した選手も一生懸命だった選手もいただろう。でも、そういう選手が才能を持ち合わせているとはかぎらない」、これなど、多くの人から反発を買うこと必至である。しかしこれは、誰もが薄々、あるいははっきりと感じていることなのではないか。「それを言ったらおしまい」とばかりに、「やればできる」のだと安易に撤退の決断を先延ばしにしているだけなのではないか。「そのときの率直な感想は、『自分の延長線上にルイスがいる気がまったくしない』というものだった。僕がいくらがんばっても、ルイスにはなれない。僕の努力の延長線上とルイスの存在する世界は、まったく異なるところにあると感じた」というのは、為末氏がカール・ルイスの走りを生で見たときの述懐である。
さすがだと思う。身体的才能に加え、こういうドライなセンスが、氏を世界的トップアスリートに押し上げたのだと思う。
「諦める力」とは
「やればできる」に対する「それじゃあ、できていない人はみんな、やっていないということなんですね?」という著者の問い。私なら何と答えるだろう。
仮に「できる」を「目的が達成されること」、「やる」を「目的を達成しようとする意志を持って行動すること」と定義する。この場合、「やる」は「できる」の必要条件、「できる」は「やる」の十分条件、ただし「やる」は「できる」の必要十分条件ではない。
問題は何をもって「できる」とするのか、だ。それをもっと突き詰めて考え、そのために何を「やる(あるいはやらない)」べきかを戦略的に捉えようよ、というのが本書の趣旨だと思う。
自分が思い描いている自分と、本当の自分とのギャップ。それを見極め、できそうなこととそうでないことを冷徹に切り分けていく。「諦める」とは「明らめる」である。「力」とは「能力」であり「エネルギー」でもある。自分が本当にやりたいことは何なのかを明らかにし、どんな手段をとれば達成可能なのか見極めるには、相当に高い分析能力と膨大なエネルギーを必要とする。
その一方で、目的を達成しようと創意工夫する過程こそが面白い、という魔力も存在するので、理屈で簡単に切り分けられないところが、なかなかやっかいだ。その魔力が手段を目的にすり替えてしまう。私などはその典型だと思う。
やればできる、への答え
さて、件の問いに対する私なりの答えはこうだ。「やればできるとは限らないが、やらなきゃできない」
だいたい、目的なんて変わるものだし、そんなにはっきり手段と目的を区別できるものでもない。そもそも、成功しなきゃいけないなんて決まりもない。だから、行為に意味を求めるより行為そのものを楽しみたい。
それもまた成功の1つだと思うのだ。
(尾原 陽介)
出版元:プレジデント社
(掲載日:2014-08-10)
タグ:陸上競技 努力 才能
カテゴリ 人生
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太ももを強くすると「太らない」「超健康」になる
宮崎 義憲
40年に渡り健康と運動について研究を重ねてきた宮崎氏。本書では太ももを始めとした下半身の筋肉の鍛え方とその重要性にフォーカスする。鍛え方といっても、日常生活に必要で下半身に多く存在する遅筋線維に働きかけるものなので、反復つま先立ちなど気軽に取り組めるものばかりだ。重要なのはそれらの何気ない運動を継続することだと繰り返されている。
中高年が主なターゲットとなっているが、日ごろの運動不足を実感する20代、30代の運動の習慣づけにも適した内容となっているのではないだろうか。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:プレジデント社
(掲載日:2014-10-10)
タグ:運動 トレーニング
カテゴリ 運動実践
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ウイニング・アローン 自己理解のパフォーマンス論
為末 大
世界陸上で銀メダリストとなった本書籍の著者である為末大氏。なぜ銀メダルを取れたのか、なぜ金メダルが取れなかったのか、自身で競技人生や生い立ちを振り返り、考察し、具体的に記している。
本書は競技能力を高めるためのアドバイス書というだけではない。もちろん、何かしらの競技の選手が本書を読んだときに学ぶことができると思うのだが、競技者ではない私が読んだときには、スポーツでなくとも為末氏の考え方を取り入れることで、さらに人間として成長ができるのではとワクワクしながら読むことができた。
本書では為末氏の失敗と成功の経験談、またそのときの思いを言葉にする力と、そう感じたのはなぜかという思考の深さを読み取ることができる。為末氏の意見に共感しながら読み進めていると、自分はある程度で納得し、それ以上考えていなかったことを、為末氏は言語化し、こういう理由で、そのときの解決策はこうだという答えも出している。書籍から引用させていただくと「嫉妬とその対処」(p.124)では「嫉妬とは何か。私は自分自身が欲しいものを持っている相手に感じるネガティブな感情だと整理している。ずるいという感情も含むかもしれない。ほしいものに対して人は嫉妬するのだから、嫉妬している相手をよく観察すると自分がほしがっているものや足りないものがわかる。」この後には対処の仕方が書かれているが、是非本書を手に取り読んでいただきたい。
このように為末氏の考えを覗き見ることができ、自分自身の言動に当てはめ、悩みごとの解消に一役買っている。書籍の構成としては「人脈について」「言葉について」「筋力トレーニングについて」といった46個ものテーマがあり、順番に読み進めず、気になるテーマから読むこともできる。困ったときの辞書のような意味合いで本書を開いてもよい。
鍼灸師、トレーナーとして読んだ私は、コーチなどつけず世界で闘っていた為末氏が「経験のあるトレーナーの助言などを踏まえながらバランスよく鍛えること」をお勧めしており、嬉しく思った。そして、アスリートが全員、為末氏のような考え方を持っているとは限らないが、トレーナーとして活動する上で世界のトップアスリートの思考に触れるよい書籍だと感じた。トレーナーの方、トップを目指す競技者、思考力をレベルアップしたい方にお勧めの書籍である。
(橋本 紘希)
出版元:プレジデント社
(掲載日:2021-05-10)
タグ:陸上競技 トレーニング
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