世界最速の男をとらえろ! 進化する「スポーツ計時」の驚くべき世界
織田 一朗
本書は計測技術のこれまでの進化について書かれている。しかしながらただの計時技術の歴史本ではない。読み進めてみると計測技術とスポーツの商業化や商品開発、選手のプロフェッショナリズムまでもが密接に関わりながら進化している様子が詳細に書かれており、いままで明るみに出なかった視点からスポーツの裏側を知ることができる。
手動計時や目による判定から機器による判定になったことにより、競技の公平性が高まり納得できないような判定が激減した。その裏側で機器を操作する記録員はミスが起こらないように多大な苦労をしており、そのことも著者の実体験として赤裸々に書かれている。
最近ではブラジルで開催されたサッカーのワールドカップでも機械によるゴール判定が行われたり、ボールの位置をかなりの精度で追従するシステムが設けられたりと、計測機器によって選手も観客も存分にスポーツを楽しめるようになってきている。競技の結果を精度よく記録する時代から、記録以外の部分まで詳細にデータ化できる時代に突入し、スポーツの新たな楽しみ方が誕生しつつある。計測技術の進化の過程を知っていると今後のスポーツ観戦も一層楽しめるようになるだろう。
(山下 大地)
出版元:草思社
(掲載日:2014-10-11)
タグ:計時 技術 開発
カテゴリ スポーツ医科学
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体育会力
礒 繁雄
本書のタイトル・表紙や帯からは一般的な体育会で培われる能力に関するビジネス書のように思われるかもしれないが、早稲田大学競走部の礒監督による組織論である。著者が早稲田大学競走部の指導にあたってからの組織づくり、さらには今後変化していくであろう体育会の形について、惜しみなく書かれている。
冒頭で、「『体育会』は有機体に富んで、その中に生きる者たちによって常に少しずつ構成を変えていく有機体である」と述べているように、個々の選手の指導だけでなく、日本一の組織づくりに重きを置き、「個人」が育つ「組織」をつくるためのさまざまな取り組みが紹介されている。一般的な体育会のイメージである礼儀や上下関係などを徹底した上での著者の考えやプランニングが述べられており、心理学やバイオメカニクス的手法を用いた指導なども非常に面白い。途中、教え子であるディーン元気選手、ディーン選手の高校時代の恩師である大久保良正氏との対談や、高校時代の顧問である松本芳久氏の対談が盛り込まれており、著者の持論に至った経緯などが赤裸々に書かれている。
組織を強くするために体育会のノウハウが用いられることは多いが、個を強くする体育会のノウハウが書かれた本というのは非常に珍しいのではないだろうか。また上記のように本書は著者のオリジナルな考えがふんだんに盛り込まれており、読者が持論を構築していく上での大きな支えになるような一冊でもある。
(山下 大地)
出版元:主婦の友
(掲載日:2014-11-01)
タグ:陸上競技 組織
カテゴリ 指導
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人種とスポーツ 黒人は本当に「速く」「強い」のか
川島 浩平
近年、陸上短距離界でのジャマイカ選手の躍進などにより、黒人の身体能力への関心が高まっている。実際に、近年の世界大会において、男子100mの決勝に進んだ選手はすべて黒人であり、NBA選手も8割近くが黒人である。本書はそうしたことを学術的観点から明らかにしようとするものである。
大学教授である筆者の研究成果および国内外の学術論文による知見がふんだんに盛り込まれており、奴隷制や人種差別などの歴史的背景や文化的背景から慎重に読み解こうとするものである。
この手のタイトルによくある、「骨格が…」や「日常生活で走る量が」といった一面的な背景から書かれたものではないため、答えを急いてしまうと少し退屈するかもしれない。しかしながら非常に読み応えがあり、多方面からの考察と事実に基づいた豊富な知識を得ることができる。そしてあとがきにあるように、「人種と知能」という面にも同時に答えようとしている。
黒人に対して身体的な偏見を持ちがちな我々にとって、非常にバランスのとれた見方を提供してくれる一冊である。
(山下 大地)
出版元:中央公論新社
(掲載日:2015-04-28)
タグ:人種
カテゴリ 身体
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