お腹を凹ませたい? だったら腹筋運動なんかやめちまえ!
森 拓郎
本書はお腹を凹ますために一番に選択されがちな「腹筋運動」について、それがお腹を本当に凹ます方法として適当なのかということを取り上げている。
お腹を凹ますということを考えたとき、上体を起こしてくる腹筋運動を多くの人は選択するし、運動指導者でもやはりそのようなメニューを組むことが多い。いわば、お腹を凹ますための王道がこの腹筋運動とされている。これを選択する人たちは、お腹回りの脂肪がなくなってお腹が凹んでいくようになる自分を想像するが、実際にはそうはならないということである。むしろ非効率な運動であることなど、第一章では腹筋運動のダメなところをあげながら展開している。
では、皆が気になるぽっこりお腹はどのようにつくられていくか。その実態をメタボ検診を例にあげ内臓脂肪と皮下脂肪との関係をわかりやすく説明し、効果的な運動として有酸素運動と食事制限であることを示している。また、内臓下垂もそのぽっこりお腹の原因であるということや、クビレをつくるためにはやはり身体をねじる運動は非効率的であること、実際に呼吸を使った運動法を示していることが注目である。 非効率的な運動は、お腹を凹ますことやくびれをつくることから遠ざかっていること、世の中で言われる「いい姿勢」にも実は無理があり、それらの改善がお腹を凹ますことや美脚につながったり、腰痛や膝の痛みの改善にまでつながっているということも紹介されている。
全体として皆がやっている腹筋運動がお腹を凹ますという目的では非効率的であることをわかりやすく、また簡単な改善策を示しているあたりが読んでいてもまた実践していても無理なく進められる感じがある。またこの一冊が一般に広まることにより、お腹を凹ませたいという希望に対し、運動指導者が上体を起こすような腹筋運動を指導した場合、これ1つで指導者の理解度や勉強不足がわかってしまう、現場にいる人間としては、そんな指標になりかねない恐ろしさを感じてしまう。
途中、呼吸に関する筋の働きなど、多少理解が異なる部分や、解剖学的に疑問に思う点、食事制限ではなく食生活の改善ではないかと思う点はあったりするが、おおむねの流れと理解として、お腹を凹ますためには何を選択するべきかの解決法を見い出せ、またそれが他の部位のトレーニングにおいてもその目的に対してどの方法が適当なのか、上手に解答を導けるようにできているあたりでこの本をオススメしたい。
ちなみに私はこの本に紹介されている運動を2カ月ほど続けているが、持っているズボンはベルトなしでは履けなくなり、さらに前屈が増すという柔軟性まで手に入れた。
(藤田 のぞみ)
出版元:インプレスコミュニケーションズ
(掲載日:2012-10-10)
タグ:腹筋
カテゴリ トレーニング
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予防接種は「効く」のか? ワクチン嫌いを考える
岩田 健太郎
「ワクチン嫌いを考える」と副題がついたこの一冊。私自身がインフルエンザワクチンを打たないとお話をしたら知人の医師に勧められたのがこの一冊でした。
医学の世界は日進月歩という。この言葉は最先端を追っているように思えるが反面、その世界が「未完成」であることも意味をする。昨日の「常識」は将来の「常識」を保証はしない。常識は進歩に応じて変化をする。世の中の事象はそういう側面を持っている。事象だけではなく、どんなにたくさんの人情味あふれるエピソードをもつ「偉人」であっても、その人物の正しさを担保してはくれない。では、我々が持つべき心構えは何なのか。それが「健全なる猜疑心」であることをこの本の中では最初にはなされている。
次に「ダブルバインド状態」に話が進む。ダブルバインド状態とは、「どちらに転んでもたたかれる状態」を指す。インフルエンザワクチンは任意接種のため、打つことも打たないことも、どちらを選択しても、またどちらを勧めても必ず逆の立場の人間からは批判を受ける。まさにダブルバインド状態である。この解決策で一番簡単なのは「見なかったこと」にする、である。だが、自分に都合が悪い事実であってもそれを正視して物事の両面を見なくてはいけない。煮え切らない問題はまるごと受け入れる。成熟とは「曖昧さとともに生きていく能力を身につけていくこと」であることを著者は示唆している。物事はとかく「好き」「嫌い」から始まっていろいろなことを後付けしていってしまう。それがいかにも科学的なものであるかのように見えるが、実は都合の悪いことは見ないふり。
本の後半では、ワクチン史、各国の対応、過去の臨床データを列記してある。これを著者のいう「健全な猜疑心」で「ダブルバインド状態」であることを受け入れて見てみる。そうすることで実はワクチン以外の全てのこと、身の回りに転がる「健康」の問題、たとえばトレーニングにしても、治療にしても個人の「好き」「嫌い」の感情から多くのことが始まってしまっていることに改めて気がつかされ、「正邪」の問題として語ってしまっていること、その幼稚的な思考回路から脱却することが必要であることに気がつかされるのである。
この本では「ワクチンを打ちましょう」と推奨をするのでなく、自分の身の回りの問題、物事を「好き嫌い」や「正邪」の問題として捉えてしまっていないかという投げかけが、「ワクチン嫌いを考える」という副題に現れている一冊である。このあたりを踏まえて、知人の医師は私に、今の持っている常識をいつでも捨てる準備をしておくこと、それには健全なる猜疑心も必要だと伝えたかったのではないだろうか。またそんなことを考えるには非常にいい一冊であったと思う。
(藤田 のぞみ)
出版元:光文社
(掲載日:2013-05-17)
タグ:ワクチン
カテゴリ 医学
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ダイエットは運動1割、食事9割
森 拓郎
同タイトルの電子版から大幅加筆と修正を加えた改訂版として、紙での書籍発行となったものだ。彼の前作の電子書籍「お腹を凹ませたい? だったら腹筋運動なんかやめちまえ」同様、今回も「ダイエットは運動1割、食事9割」と運動指導者らしからぬタイトルに目を奪われるが、前作を読んでいる者としては期待感が非常に大きかった。
森氏本人は運動指導者にもかかわらず、折に触れて自分が運動嫌いであることを言っている。そんな性格ゆえに痩せようと奮起してフィットネスクラブに通いだした人や、成果が出ていない人に共通する勘違いやムダに目がいくようだ。医療従事者の私からみても、日本の医療費削減につながるくらい彼の指摘は正しいものに思え、またその言い分も至ってシンプルで、非常に受け入れやすいものなのだ。それが随所に見られる。
本書での読者に対する投げかけは「運動すればやせると思っていませんか?」というもの。
第1章では、「運動だけでは痩せられません」とし、痩せるためにする運動で無駄に食欲が増してしまう事実や、代謝を上げても体重は減らないこと、楽しく続けられない運動はストレスの元になるだけ、と今やっている努力にどれほどムダが多いかを説き、第2章では、そもそも太った原因はどんなことが生活であったのか、意外に一般の方が知らない、陥りやすい食の負のスパイラルについて、幅広い食事にまつわる知識とデータを用いて話を進めており、このあたりになるとかなり身近な話でどんどんと読むスピードがあがっていく。
そして3章ではその負のスパイラルから抜け出す食事の鍵となるものを栄養学の側面だけでなく、ライフスタイルも交えて紹介しているが、これが不思議と「私にもできるなぁ」という思いにさせられるものなのだ。
4章にして初めて運動指導者らしい記述が登場してくるが、あくまで、運動は増やすものではなく、そもそもの太る原因をやめることだと。また頑張る人ほどリバウンドもし、そのリバウンドでさえ実は考え方、メンタルに由来するものであると説いている。結局は、ダイエットとは痩せることでも食事制限をすることでもなく、継続的に続けていける食事との正しい付き合い方、食生活の改善こそがダイエット(食事療法)なのだと結論づけている。
本書が良書だと思われるのは、実際に運動指導をされている方たち、また私のように医療現場で日々患者さんに身体のことで相談される立場の者たちが、ダイエットを希望される方や健康になりたいと思っている方たちに対して日々伝えてきていること、伝えたい事実が無駄なくスリムにこの一冊にまとまっているところだ。実際、1時間にわたってこんこんと説明することや、毎回説明しても理解されないことが、「これ読んでおいて」と本書を手渡せば解決しそうなのだ。実際、この書評を書き始めた頃に増刷が決定したとのアナウンスがされていた。
(藤田 のぞみ)
出版元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
(掲載日:2014-04-04)
タグ:ダイエット 食事
カテゴリ 食
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一流選手の動きはなぜ美しいのか からだの動きを科学する
小田 伸午
久しぶりに良書に出会えた気がする。
目次を読み進め、さらに、はしがきに入るとこの本のエッセンスをしっかり詰め込んだ文章が非常にわかりやすく記載されており、ここだけで期待が高まる本である。本の内容自体は、このはしがきにも背表紙の要約文からもすぐにわかるので、少し違った目線で紹介をしておきたい。
この本のテーマは“一流選手の動きの美しさの秘密は何か”というものだ。一流選手の動きというのは、たとえそれが、バレエやダンス、フィギュアスケートのような芸術系スポーツでなくても美しいと思える場面がある。そこには洗練された動きというものがあるが、その洗練された動きは現代のスポーツ科学が寄与していることは間違いない。“より速く”“より強く”というのは科学に支えられている一面もあるが、その裏には美しさというものも備えている。その表裏は、科学と選手の実践感覚という対極から生まれることを知らしめてくれる。その両方が生かされたときに美しさが生まれる。「科学と実践の往復の景色はすばらしく科学を無視するのではなく感覚で活かす。そんな素敵な哲学を一流選手の動作がそっと教えてくれる」と著者も表現している。
第一章では科学の主観と実践での客観のずれに焦点を合わせている。どちらが正しいという話ではなく、両方を行き来していくことで選手自身は成長をしていく。その成長こそがスポーツの持つ価値であることにも気づかされ、またこれが内面の美しさにもつながっていくというもの。
第二章に移ると、実際の選手の動き、外面からの動作の美しさに触れている。選手は自分の持つ力以外に地球環境というものを利用して美しさを形成していることが示される。自分の力と地球環境の持つ力という、考えてもみたことがないような対極の力を膝抜きという実践で紹介され、読み進めるとまさに腑に落ちる感覚を覚えた。
最終章は、スポーツと日常生活という、これまた対極の関係での身体の使い方に焦点を当てている。関節の正反対の動き、右と左、内と外のようにこれもどちらが正しい動きという見方ではなく、それぞれの持つ性質をみること、そこに主観と客観を組み合わせることで動作に美しさが伴ってくることがわかる。またその美しさはなにも選手という特別な人に与えられるのではなく、ごくごく日常の動作の中にもあるもので、身体の姿勢や、心の姿勢、つまりは生きる姿勢ということにつながる。生きるということの中にある美しさに気づく。一流選手の動きの美しさの根源は実際には日常の中にある。美しさはスポーツ選手だけの特権でもなく、「美き(よき)人生に重なっていく」という著者の言葉に、一流選手の美しさに魅了される理由がわかった気がした。
(藤田 のぞみ)
出版元:角川学芸出版
(掲載日:2014-11-18)
タグ:一流選手 動作 美しさ
カテゴリ 身体
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