イルボンは好きですか?
山田 ゆかり
月刊スポーツメディスンで連載中の山田さんの最新の書。写真は原山カヲルさん。著者は、週刊朝日の仕事で韓国のスポーツ選手を取材、毎月韓国に行く生活を過ごしてきた。その中で、スポーツ選手のみならず、特に「新世代」と呼ばれる高校生、大学生に興味を持ち始めた。この本はその新世代75人へのインタビューをまとめたものである。
タイトルの「イルボン」はもちろん「日本」の意味だが、韓国の若者に、日本の国のイメージ、日本人のイメージなどをどんどん聞いていく。著者は当初、日本の若者と同じだと思ったのが、やはり違う点を見出していく。その彼らの素顔を原山さんがカメラに収めていく。
ワールドカップを機に日本と韓国の交流は以前より盛んになりつつある。互いの国に対するそれぞれのイメージがあるが、やがてそれは変貌するかもしれない。
サッカーのワールドカップは単にスポーツイベントではないと言われる。それが本当にどういうことかがわかるのは間もなくである。
(月刊スポーツメディスン編集部)
出版元:朝日ソノラマ
(掲載日:2002-06-15)
タグ:文化 インタビュー 韓国
カテゴリ その他
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女性アスリート・コーチングブック
宮下 充正 山田 ゆかり
出産する身体
今年はオリンピック・イヤー。日本選手団における女子選手数は男子の数を上回り、いざオリンピックが始まればこぞって国民は女子の活躍を祈り、勝利に歓喜したことは未だ記憶に新しい。
そんな時代だからこそなのか、ここに「女性アスリート」に対するコーチングブックが登場した。著者の一人が“あとがき”にこんなことを書いている。「ところがまわりを見回しても、女性ならではの『からだとこころ』を解説するコーチングブックはこれまで存在していません。(中略)だからこそ、女性アスリートたちのよりよいスポーツ環境を目指すための本が、どうしても必要だと思ったのです。」そうだったのか。そう言われれば少ないのかなぁーと思いつつ筆者の拙い記憶を辿るに、女性とスポーツというテーマ自体はそれほど新しくもないことに気づく。とすれば、本書は何が“新しい”のか?
今回特に興味深く読ませていただいたのは「第2章こころ」の部分だ。というのは、従来の女性とスポーツのテーマは“からだ”の部分に主に焦点が絞られていて、その結果月経や妊娠といった女性の生殖機能とスポーツの関係はかなり一般的理解が得られるようになってきた。が、女性のこころ、特に社会的存在としての女性のこころの部分へのアプローチは十分とは思えないからである。実は、ここのところの問題解決が、女性アスリートをコーチングする際の鍵となることを本書は教えてくれている。「女性とスポーツの歴史をひも解いてみると、そこにはいつも『女性としての』あり方を問う声が充満していました。(中略)いずれにせよ、女性がスポーツをする際には常に生殖機能や外見・容姿に対する美醜の観点から捉えられてきたことがわかります。つまり、女性の身体はいつも『妊娠―出産する身体』としてみられ、スポーツは将来『母体』となる身体にダメージが及ばぬように禁止され」た歴史が長かったというわけだ。その一方で「『母体』となるからこそ身体を鍛えよと奨励もされてきた」のも事実であると本書は指摘する。ということは、この社会的呪縛から女性が真に解き放たれるときに新しい女性とスポーツとの関係が構築されると言えるが、ここのキーワードは実は“男性”なのだということにも強く気づかされるのである。性としての男女と社会的存在としての男女。それぞれにおける男女の役割分担は必ずしも一致しない。ことスポーツに関してはあくまでも社会的存在としての男女を基本として成り立つ文化であることを改めて理解する必要を読後に強く感じた。
弱者としての身体
もうひとつ女性とスポーツを考えるうえで大切な問題が存在する。それは「セクシャルハラスメント」である。本書は、サブタイトルに「コーチのモラルとマナー」と題して、この今日的問題に対して「男性コーチの女子アスリートに対するわいせつ行為やレイプ、セクシャルハラスメント行為は、『身体の接触をともなう』『精神性を重んずる』などの線引きがあいまいなうえ、絶対的な主従関係が被害の表面化を阻んでいます」と厳しく指摘する。これもいわば社会的存在としての男女という考え方への“男性側”の認識不足と人権に対する意識の希薄さを露呈している格好である。
オリンピックの余熱がまだ残る今こそ、スポーツが持つ社会的、文化的役割を社会全体で再認識するチャンスである。是非ともこのチャンスに多くの問題への取り組みがなされることを切に期待したい。本書の女性アスリート問題への取り組みは、スポーツ社会に限らず、一般社会の枠組みへの挑戦という意味でも斬新な切り口であると思う。
(久米 秀作)
出版元:大月書店
(掲載日:2004-11-10)
タグ:女性
カテゴリ 指導
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スポーツの謎77を科学する 松坂大輔のグラブの秘密ほか
山田 ゆかり
雑誌『AERA』に「SCIENCE EYE」のタイトルで連載された著者に寄る記事に、大幅に加筆されまとめられた。スポーツ、それもトップアスリートと呼ばれ選手たちのパフォーマンスなどにおける「なぜ?」を科学的に追求し、独自の視点でわかりやすく解説した。松坂大輔選手のグラブの秘密ほか76のスポーツ科学。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:朝日ソノラマ
(掲載日:2001-02-10)
タグ:スポーツ科学
カテゴリ スポーツ科学
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スポーツ・ヒーローと性犯罪
Jeff Benedict 山田 ゆかり
スポーツ界でこれまであまり調べられなかった、「人気スポーツ選手の特殊なライフスタイルが女性に対する虐待行為を触発する」ということにメスを入れるために書かれた異色の本。性暴力に遭った女性、被告側弁護団、判事、陪審員、コーチやエージェントなどに対する綿密な取材から見えてくるものは何か。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2001-03-10)
タグ:性犯罪
カテゴリ その他
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日本はライバルか コリアンアスリートからのメッセージ
山田 ゆかり
民族とは何か
このところの世界情勢をつかむためには、「民族」というキーワードが外せなくなった。スポーツの世界においても、競技成績を左右する身体的特徴に代表される人種以外に、慣習的、風土敵、さらに政治学的意味合いを色濃く含む「民族」という言葉の理解が必要となってきている。
民族とは何かという答えを見つけることは容易ではないが、民族の違いを考える基準を示すことはできる。たとえば、先に述べた人種や使用している言語、宗教や文化がそれである。これらの違いが、たとえ地理的には隣接していても、ある意味で民族の違いを意識させる決定因子になることは確かなことである。
この点、日本は島国という特殊な地理的環境を持つため、歴史的に自分と他者との違いを特別意識する必要がなかった。つまり、人種的にも、言語的にも、さらに宗教においてもほぼ単一の、いわゆる国家を形成する集団(ネーション)と文化を共有する集団(エトノス)がほぼ重なり合うという特殊な歴史を日本は続けてきたわけだ。このため、日本人の「民族」に対する意識はあまり強くない。
ところが、最近日本ではこの「民族」あるいは「民族的アイデンティティー」という言葉が積極的に使われ始めてきているように思う。多分、2002年の日韓共催ワールドカップ大会あたりからではないだろうか。他国の選手やサポーターが強烈な民族性を全面に押し出してきたことに、大半の日本人は驚いてしまった。もちろん最初に「民族」の問題がクローズアップされたのは、言うまでもなく米ソ冷戦終了後の共産主義体制の崩壊に端を発する東欧諸国の民族意識の噴出からであるが、こういった世界事情も、多少不謹慎な発言をさせていただければ、日本人にとっては単なる対岸の火事にすぎなかったのである。
しかし、ワールドカップは違った。他国民の「民族」というイデオロギーに裏付けられたゲームへのこだわりや勝負へのこだわり方は、日本人にはちょっと理解の度を越えたスポーツへの関わり方として映った。そして、その斬新なスポーツへの関わり方は、結局平和的意味での「愛国心」という日本人が忘れかけていた日本人のアイデンティティーを蘇らせる結果となったのである。
近くて遠い国
ワールドカップでは結局日本と韓国の直接対決は叶わなかったが、両国は間違いなく今後もライバル関係を続けるだろう。では、他の種目においてはどうか? この問いに答えてくれるのが本書である。本書には、サッカーだけではなく、マラソン、ホッケー、スケート、野球、ゴルフそしてテコンドー、障害者スポーツに至るまで、幅広い種目におけるライバル一人一人にインタビューがされている。お互いに名指しでライバルと呼びあう選手たち。それぞれの国へのあこがれとライバル心が混在する選手。韓国が日本に持つ歴史的な感情を率直に述べる選手。日本生まれの韓国選手。
老若男女、様々な環境に育った選手達へのインタビューを通して、いかに両者が近くて遠い国の存在なのかが明らかになっていく。と同時に、本書に登場する選手たちの、特に韓国選手たちの民族意識の高さに驚かされる。科学的トレーニング理論や技術論では説明つかない「民族の血」による“心理的限界”がこれからのスポーツの理解には欠かせないのではないかということにも本書は気づかせてくれる。本書は、今後日本人選手が海外で活躍したり、国際競技力を向上させるためのヒントを示していると言ってよい。
著者が最後に言っている。「日本と韓国の関係を線に喩えるなら、決して交わることのない平行線のようなものだ」と。どうやら、両国は永遠のライバルのようだ。
(久米 秀作)
出版元:教育史料出版会
(掲載日:2003-04-10)
タグ:ライバル
カテゴリ その他
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コアビリティトレーニング
山下 哲弘 山田 ゆかり
“コアビリティ”とは何か
本書のタイトルは『コアビリティトレーニング』である。では、“コアビリティ”とは何か。まえがきの部分に「『コアビリティトレーニング』というのは、全身の改造トレーニングと考えて下さい。(『コアビリティ』とは『コア』が可能にする動きという造語)」とある。つまり、私の推測では「コア(Core)芯」と「アビリティ(Ability)能力」を掛け合わせた造語とみた。では、ここで言う“コア”とはどこの部分を指すのか。これについて筆者は「もう一度強調したいことは、『コアビリティ』の『コア』=『骨格』であるということ」と述べている。そして、さらに「コア=骨格」の骨格とは“背骨”を指すと強調している。このようにすべての動作の中心を背骨と捉えて、背骨中心に上肢と下肢を一体的に鍛えることを目的としたトレーニング法は、一般的には“コアスタビライゼーション”とか“スパイナルスタビライゼーション”と呼ばれ、最近特に注目を浴びてきたトレーニング法である。しかし、原理的には決して目新しいものではなく、私は従来から行われている“ボディバランスのトレーニング”の一種と理解している。筆者も、前述したが「『コアビリティ』とは『コア』が可能にする動き」と述べているように、背骨のアライメントを崩すことなく動けるように背骨を中心とした周囲の筋肉群をトレーニングすることが、結果的にボディバランスのよい動きを生み出すと考えているようだ。
一元的トレーニング法
今、私は本書のトレーニングを一種の“ボディバランストレーニング”と理解していると述べたが、ここで読者の理解を得るために私のイメージするボディバランストレーニングの具体例をいくつか挙げておく。まず基本としては①手押し車(腕立ての姿勢から両足をパートナーに抱えてもらい、両腕で歩く)、②バービー運動(直立姿勢から両手を地面に付き、同時に両足を後ろに投げ出して腕立て姿勢となり、再びもとの直立姿勢にすばやく戻る)、③倒立および倒立歩行、等。さらには、トレーナーあるいはコーチの指示に従って上下左右に動くトレーニングも高度なボディバランストレーニングと考えてよい。この種のトレーニングは、特に球技系では実際場面に動きが近似し実戦をイメージしやすいことから、従来から大いに実施されてきた。だから、特に目新しいトレーニング法ではないと申し上げたわけだ。しかし、トレーニングの順序という点から考えてみると、今まではまずウエイトトレーニングによって個々の筋肉を鍛え、筋力アップをしてから徐々に全体系、神経系トレーニングへというトレーニングの細分化が一般的であった。その点、本書に紹介しているコアビリティトレーニングは基礎的な筋力アップと実戦的動作に直結した筋肉の機能アップを同時に実現する一元的な方法を特徴とする。なおかつ器材をほとんど必要とせず、自らの体重のみを負荷として効果を得られる手軽さも魅力である。決して、ウエイトトレーニングの有効性を否定するわけではないが、トレーニング器材が十分でないチームやより選手の理解を得やすいトレーニング法を伝授したいと望むコーチ諸氏には、こういったトレーニング法が紹介されることは朗報と言えるのではないだろうか。
また、本書の後半には著者を師と仰ぐ日本人初のNFLプレーヤー河口正史氏自らがモデルとなって具体的なトレーニング法が写真で示されていたり、Q&A方式でこのトレーニング対する疑問点が多角的に検討されているなど実用性の高い配慮が随所に見られる。ぜひ一読を薦めたい。
(久米 秀作)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2005-03-10)
タグ:トレーニング
カテゴリ トレーニング
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