勝利のチームメイク
岡田 武史 平尾 誠二 古田 敦也
「勝てるチーム」と「勝てそうだけど勝てないチーム」との差、「それ」ってなんだろう。「それ」を知りたい指導者や選手はたくさんいる。
古田敦也(元ヤクルトスワローズ選手兼監督)は、平尾誠二(元ラグビー日本代表監督)との対談の中で、こんなことを言っている。
「『お前だってやればできるんだ』っていう言葉は、それこそ小さい頃から聞かされるじゃないですか。でも、いまいち信じきれない自分がいるんですよね。高校時代、強豪校と対戦するときに『同じ高校生なんだから勝てるぞ!』と先生に言われても『勝てるわけないじゃん』って思っているクチだった僕が、初めてプロでリーグ優勝して『やればできるんだ』って実感できた。実感すると『できる』ということを信じられるようになれる。大げさに言うと自分を信じられるようになる。『奇跡は、信じていても必ず起こるものではない。でも、信じない者には起こり得ない』というじゃないですか。それと同じで、『できる』と思えるかどうかは、勝負事で勝つか負けるかにとっては、大きな差を生むような気がするんです。」
もちろん、「それ」に答えはないが、この言葉は大いなるヒントを与えてくれる。
また、平尾と岡田武史(元サッカー日本代表監督)との対談で、
平尾:そうなんですよ。最初に、できない原因を「知る」。で、原因を知ったら。それをどう解決したら「できるようになるか」を理解するんです。これが「わかる」。この二段階を経て、初めて実習なんですよ。ここを指導者は十分認識しないと。
岡田:でもな、そういう理屈がどんどんわかってきてさ、教え方もそれなりに巧くなっていくとするじゃない。それだけでも必ず、壁にぶち当たる。スポーツは人間の営みなわけだから当たり前と言えば当たり前だけど、「おい、頑張れよ」の一言だけで、すべて事態が解決できてしまうこともあるじゃない?
岡田の言葉が物語るように、選手へのアプローチや、チームづくりに、「答え」はない。野球・ラグビー・サッカーと競技は違えど、その道で、闘い、結果を出し、また試行錯誤している彼らから学ぶべきことは、たくさんある。
(森下 茂)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2011-11-01)
タグ:組織 チーム 指導 ラグビー サッカー 野球
カテゴリ 指導
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科学者たちの奇妙な日常
松下 祥子
『ここでちょっと自己紹介を。自分は若いとは言えなくなってきている研究者です。性別は女でございます。いわゆる、どー見ても「科学者」な生活を経て、今は大学で教鞭をとりながら研究室を運営しております。』(第0章より抜粋)
というように、著者は日本大学文理学部物理生命システム科学科専任講師で、日本女性科学者の会の理事を務める女性科学者の方である。決して難しい科学のお話をまとめているというわけではなく、前述のような軽快な語り口で、ご自身の目線からみた科学者の日常生活や大学での教員生活など、さまざまな裏話を交え書かれている。
なかなか科学者の方がどのような生活をされているのか、一般人にはその実態は知り得ないところだが、本書を読み進めていくうちに、科学者の日常に引き込まれていく。とくに本書は、これから科学者をめざしたいと思っている女性に是非読んでいただきたい1冊。女性科学者が直面する結婚と出産についてもその現実が紹介されている。
もちろん科学者を目指さない方にも気軽に読め、参考になるお話も多い。
2008年12月8日刊
(清家 輝文)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:科学 科学者
カテゴリ エッセイ
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7分のおどりで筋力強化
西川 右近 西川 千雅 湯浅 景元
日本舞踊をもとにした「おどり」のエクササズとして知られる「NOSS(にほん・おどり・スポーツ・サイエンス)」については本誌(月刊スポーツメディスン)でも紹介したが、その実技本がこれだ(DVD付き)。
もともとは西川流家元の西川右近さんが心筋梗塞になりバイパス手術を受け、退院後はウォーキングでリハビリを始めたが、歩くだけでは不安もよぎり、気持ちが沈んでいった。そこで、舞台に復帰することを考え、その日時も決め、毎日稽古を始めた。すると、嘘のように意欲が湧き出て、筋力はじめ体力が回復していった。これがNOSSの始まりだが、それを湯浅先生(中京大学教授)の協力のもと、科学的な視点を取り入れ、「この冬(とき)がすぎれば」という曲もでき、この本で解説されている「おどり」となった。
単に運動するのではなく、おどりという所作の美しさ、表現の奥深さというどこまでも追求できる内容は、「これで完成」ということがない。年齢や性別も問わず、「和」という古来親しんできた文化も感じることができる。難しさがかえって刺激になるという面もある。90代でも元気に踊っている人は珍しくない。その秘密を知ることもできる。
(清家 輝文)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:舞踊
カテゴリ 運動実践
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ホールシステム・アプローチ 1000人以上でもとことん話し合える方法
香取 一昭 大川 恒
ホールシステム・アプローチとは、できるだけ多くの関係者が集まって自分たちの課題や目指したい未来などについて話し合う大規模な会話の手法の総称である。ホールシステム・アプローチが目指しているのは、トップダウンによる意思決定でもなく、多数決による「民主的」意志決定でもない。立場や見解が異なり相反する利害関係にある人々が、全員で納得できる合意に達するための話し合いの方法である。
ホールシステム・アプローチにも様々な手法があり、ここではその総称として使われている。本書は、その中でもAI、OST、フーチャーサーチ、ワールドカフェという4つの手法について解説しているものであり、ホールシステム・アプローチを基本から学ぶには最適の教科書と言えるだろう。
もともとは会社組織の問題解決の手法として使われることが多かったが、現在は教育現場やコミュニティー、スポーツの現場でも応用され、使われている。とくにスポーツチームで仕事をするアスレティックトレーナーの場合、選手や各スタッフとの橋渡しをしなければならない。このような問題解決の手法を知り、現場で実践していくことで、仕事の幅が広がり、よりよいチームビルディングが可能となるだろう。
(浦中 宏典)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2013-06-14)
タグ:ミーティング
カテゴリ その他
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指導者バカ
西村 卓二
この本の筆者西村卓二氏は、ご存知の方も多いとは思いますがアテネオリンピック卓球の女子ナショナルチーム監督をされていた方であります。卓球女子ナショナルチームの活躍は、先日のロンドンオリンピックの結果も見てとれるように輝かしいものであります。無論積み重ねが大きな飛躍につながったことは言うまでもありません。以前から関わってこられた筆者には、いろいろな苦労もあったと感じています。さらに筆者は女子指導の経験が多く、本格的に女子指導をし始めた私個人としても、共通する立場にある者として、難しい局面や悩みなども照らし合わせながら読むことができました。
本書はおおまかに「指導者哲学」「選手との関わりかた」「現場主義」「練習と試合とは」「叱る」「女性に教える」「ナショナルチームの経験」という7つの構成で展開され、「人を育てる」重要性を説いています。
筆者も指導者という立場から、まず指導者の必要なこととして、自分の立ち位置、育成しようとする心構え、つまり信念、哲学が必要と説いています。ごく当たり前のことかもしれませんが、本書にも「人間を作る」というフレーズがよくでてきますように、指導をする以前にふさわしい人間でなければならないということであります。私自身、指導者としての経験をそれなりに重ねた今、信念、哲学というものの必要性を痛感させられます。
加えて「女性を教える」という難しさの悩みは同感するものが多く、気づきをたくさん頂けました。そのひとつとして、物事の捉え方であります。男女に違いがあることを私自身も感じています。たとえばできないことを考える場合に「何ができない」「誰ができない」の違いが生じることは私の経験上も多かった事例であります。だからこそ叱り方ひとつも十分配慮しなければいけないことは実感もあり、ヒントも多く得られました。そのヒントとは「攻めの指導」と「待ちの指導」にあたります。言葉で気づかせたりするような攻めるということは比較的しやすい行為だと思います。しかし待つことは本当に難しいと思います。なぜなら物事に立ち向かわせる時間、つまり考える時間や体験させる時間を含めて待つことは指導者にとってハードルの高いことと思っています。待つという能力は、よき指導者として大きなウェイトを占めることは間違いないと確信しました。
そして競技者としての本当の強さとは、「技術」「鍛えられた心」を持ち合わせること。つまりその指導者は両者を与えられる人間かつ人間性を持ち得た人間でなければならないと考えます。それはいろいろな方向に「バカ」になれることであり、決してそのことしかできない「バカ」でない「指導者バカ」という存在にならなければと感じられた本であります。
(鳥居 義史)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2013-10-28)
タグ:卓球 指導 育成
カテゴリ 指導
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カラダにいい!がカラダを壊す
亀田 圭一
食べ物やトレーニング法など、「カラダにいい」という情報が溢れかえっている現代。これが思考停止ワードになってしまっている人に向け、身体の何に、どのようにいいのか? いいと言える理由は? と再考を促していく。すると根拠の乏しい思い込みが多いことに気づかされる。
自分の現状を正確に把握して、自然に過ごす。本当に「カラダ」にいいことはシンプルだ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2015-12-10)
タグ:トレーニング 食
カテゴリ 運動実践
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敗因の研究
日本経済新聞運動部
日本経済新聞土曜日夕刊の「ひと・スポーツ」欄に掲載された「敗因の研究」シリーズから精選、再取材を経て、大幅に加筆された短編集である。「敗因を探られる」だけに取材対象はよい顔をしなかったようだが、だからこそ読み手は知りたいというのも本音。勝因ではなく敗因に焦点を絞った点が新鮮だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日本経済新聞出版
(掲載日:2000-05-10)
タグ:分析
カテゴリ スポーツライティング
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勝利のチームメイク
岡田 武史 古田 敦也 平尾 誠二
すべては疑うことから始まる
私は、最近つくづく自分が疑り深い性格の持ち主であることに気づいたのであります。それを知るきっかけとなったのが今回ご紹介するこの本です。私の深い、深い疑問は編集担当者からこの本をいただいたときに端を発しています。
本は岡田武史・サッカー元全日本監督(現在横浜F・マリノス監督)と平尾誠二・ラグビー元日本代表監督、そして古田敦也・プロ野球ヤクルトスワローズ捕手ら三氏の対談を収録したものなのです。日本で人気のあるスポーツの、それも過去に代表監督を経験していたり、現在日本の代表的選手である三氏が「勝利」をテーマに対談して何が悪いのかと読者の皆さんは思われるでしょう。でも、私は疑り深くこう考えてしまうのです。「監督、選手と立場も違う三氏が対談して、話がかみ合うわけ?」。そして、私はまたまた「なぜこの本の出版社が日本経済新聞社なわけ?」と疑ってしまうわけなのです。つまりこの本の出版元の意図は、チームを管理することに長けた三氏を会社の管理職になぞらえ、スポーツにおける勝利を会社の利潤になぞらえて、こんな風に三氏にならって部下を管理してみてはどうでしょうか、と言いたいのかなと疑るわけであります。もう、ここまでくると病気だと本人も気づいているわけですが……。
勝利のためのチームメイクとは
もし私と同じように疑り、会社の部下の操縦法を期待して本書を手に取る読者がおられるならば、やめておいたほうがよいと思います。本書の中に収録されている対談の内容は、我々のようなスポーツを専門とし、日々選手と過ごしている者にとっては大変興味深い内容だからです。たとえば平尾氏は「チームワークは勝ったチームに[結果]として現れるものだ」と言っているし、個々の自立があって初めてチームプレーが成立すると言っています。また、岡田氏は「チームメイクとは選手の長所を利用させてもらうこと」と言っています。彼は「選手の邪魔をしないようにするのが指導者なのだ」とも言っております。そして、古田選手は「勝つためには捕手はなるべく、監督やコーチ、投手とのコミュニケーションをとるように心がけて」、さらに監督が要求している内容を理解し、その投手が持っている性格や投球哲学を理解して「それぞれの投手の力が最大限発揮できるようなリードを自分なりに考えていきます」と述べています。ぜひ、スポーツを専門としている人々、とくに指導者には読んでもらいたい内容が満載ですね。
えっ、平尾氏の言っていることは、基本的に会社を成り立たせている社員のあり方を考えるうえで参考になる? 岡田氏の意見は、部下をいかにうまく動かし、活かすかに通じるところがある? さらに古田選手の意見は中間管理職としてのスタンスを決めるのにはよいアドバイス? ということは、読み手によってはスポーツ場面だけでなく、いろいろな方面で彼ら三氏の対談内容は応用可能ってことですか? うーん、どうやら出版元の意図にまんまと乗ったのかな? また、疑り深い性格が頭をもたげてきたようです。
(久米 秀作)
出版元:日本経済新聞出版
(掲載日:2003-09-10)
タグ:コーチング
カテゴリ 指導
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