オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット
大友 信彦
タックルは怖い。自分一人の戦いだったら、逃げ出したい。しかし、チームのための責任感がタックルを成立してくれる。このことを、ラグビーでは「カラダを張る」と言う。「カラダを張る」とはまさに、チームのために自分を犠牲にするプレイのことである。怖くても痛くても、相手が強くても「カラダを張る」ことはできる。別な言い方をすれば、「自分のため」ではなく、「チームのため」に「カラダを張る」のだ。
そして、おそらくこの「自分のため」だけでなく、「チームのため」、いやもっと言えば「国民のため」に「カラダを張る」のが、愛称「オールブラックス」で有名な、ラグビーのニュージーランド代表である。ラグビーが宗教のニュージーランドでは、誰もがオールブラックスに憧れ、そして選ばれた者は神にも等しい尊敬を人々から受ける。この双方の関係こそが、「自分のため」ではなく、「国民のため」という大きな力をうみだしているのだ。
哲学者の内田樹さんは、人間は自分のためでは力が出ないものだという。自分の成功をともに喜び、自分の失敗でともに苦しむ人達の人数が多ければ多いほど、人間は努力する。背負うものが多ければ、自分の能力の限界を突破することだって可能であると。
大切なもののために生きる人間は、自分の中に眠っているすべての資質を発現しようとする。それが、世界最強のラグビーチーム、「オールブラックス」の秘密だ。
(森下 茂)
出版元:東邦出版
(掲載日:2011-11-25)
タグ:組織 指導 ラグビー
カテゴリ 指導
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勝利のチームメイク
岡田 武史 平尾 誠二 古田 敦也
「勝てるチーム」と「勝てそうだけど勝てないチーム」との差、「それ」ってなんだろう。「それ」を知りたい指導者や選手はたくさんいる。
古田敦也(元ヤクルトスワローズ選手兼監督)は、平尾誠二(元ラグビー日本代表監督)との対談の中で、こんなことを言っている。
「『お前だってやればできるんだ』っていう言葉は、それこそ小さい頃から聞かされるじゃないですか。でも、いまいち信じきれない自分がいるんですよね。高校時代、強豪校と対戦するときに『同じ高校生なんだから勝てるぞ!』と先生に言われても『勝てるわけないじゃん』って思っているクチだった僕が、初めてプロでリーグ優勝して『やればできるんだ』って実感できた。実感すると『できる』ということを信じられるようになれる。大げさに言うと自分を信じられるようになる。『奇跡は、信じていても必ず起こるものではない。でも、信じない者には起こり得ない』というじゃないですか。それと同じで、『できる』と思えるかどうかは、勝負事で勝つか負けるかにとっては、大きな差を生むような気がするんです。」
もちろん、「それ」に答えはないが、この言葉は大いなるヒントを与えてくれる。
また、平尾と岡田武史(元サッカー日本代表監督)との対談で、
平尾:そうなんですよ。最初に、できない原因を「知る」。で、原因を知ったら。それをどう解決したら「できるようになるか」を理解するんです。これが「わかる」。この二段階を経て、初めて実習なんですよ。ここを指導者は十分認識しないと。
岡田:でもな、そういう理屈がどんどんわかってきてさ、教え方もそれなりに巧くなっていくとするじゃない。それだけでも必ず、壁にぶち当たる。スポーツは人間の営みなわけだから当たり前と言えば当たり前だけど、「おい、頑張れよ」の一言だけで、すべて事態が解決できてしまうこともあるじゃない?
岡田の言葉が物語るように、選手へのアプローチや、チームづくりに、「答え」はない。野球・ラグビー・サッカーと競技は違えど、その道で、闘い、結果を出し、また試行錯誤している彼らから学ぶべきことは、たくさんある。
(森下 茂)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2011-11-01)
タグ:組織 チーム 指導 ラグビー サッカー 野球
カテゴリ 指導
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勝利への「併走者」 コーチたちの闘い
橋本 克彦
「勝ち負けだけを追求するのではない」では何をもってスポーツの目的とするのか? お金や名誉のため、自分の限界に挑戦するため、チームのため、人間としての成長のためなど、そこには選手の数だけ無限の言葉が並ぶ。
しかし、著者の関心は別なところにある。「いったい人は、なぜ、どのように勝ったり負けたりするのか。その過程が描く曲線、ドラマはどのように生まれ、頂点を描くのか」
著者は、選手の人間としての生き方の曲線を知りたいと思い、コーチを訪ね歩くことになった。なぜコーチかというと、選手が描く人間のドラマの当時者でありながら、一方ではもっとも客観的な観察者であり、一番近い目撃者がコーチだからだ。コーチこそが、スポーツ選手の描くドラマの報告者としてふさわしい、そんな思いからできたのが著書である。
1978年サッカーワールドカップで優勝した、アルゼンチン代表監督のメノッティはこう表現する。
「世の中にサッカーなどは存在しないんだ。サッカーをプレイする人間だけが存在する。だからサッカーが進歩したというなら、それは人間の進歩にほかならない」
勝ち負けを超越したもの、いや、勝つことにこだわるからこそ生まれる物話がいくつもある。
(森下 茂)
出版元:時事通信
(掲載日:2012-06-04)
タグ:ノンフィクション 指導
カテゴリ 人生
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集中力
谷川 浩司
日本人は「考える力」がないと言ったのはサッカー前日本代表監督のオシムである。確かに、大学生にトレーニングを指導していても、言われたことはできるが、それ以上やる選手は少ない。ではその「考える力」を植えつけるにはどうしたらよいのだろうか?
トップ棋士である著者の谷川さんはこう語る。
「物事を推し進めていくうえで、その土台となるのは創造力でも企画力でもない。いくら創造力や企画力を働かせようとしても、道具となる知識や材料となる情報がなければ何も始まらないのだ。知識は、頭の中に貯えられた記憶の体験が土台になるのだ。つまり、創造力やアイデアの源は、頭の中の記憶の組み合わせから生まれるもので、その土台がしっかりしていなければ、良いアイデアが閃めくわけがないのだ」。
つまり、天才と呼ばれる閃きの一手は、それまでの努力や経験があるから生まれるのであって、それはゼロから生まれるものでは決してないと。谷川さんは5歳で将棋を始めて中学2年でプロになるまでに、一万時間は将棋の勉強に費やしたそうである。毎日必ず3時間、それを10年間も続けたのである。
そう言えば、オシムさんも暇さえあったらサッカーの試合を部屋で見て勉強していると聞く。どうやら「考える力」をつける特効薬などない、あるとしたら「継続すること」かもしれない。
(森下 茂)
出版元:角川書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:将棋
カテゴリ 人生
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子どもにスポーツをさせるな
小林 信也
かつて、ラグビーの日本代表監督を務めた宿沢広朗さんが、言った言葉がある。「これほどの努力を人は運と言う」。楕円形のラグビーボールが、最後に自分たちに弾んで勝利につながった。素人がやったなら「ラッキーバウンド」である。しかし、何百、何千回と繰り返し練習している者からすればそれは、「ラッキーバウンド」ではない。勝利のための「準備」があったからこその結果なのである。勝利至上主義ではいけない、しかし競技スポーツは勝つことが目的である。勝つことを目指すからこそ、「準備」が大事になってくる。
「準備不足」ではなかったかと、WBCの4番バッターがケガをして帰国したことを著者はこう語る。今、茶髪やモヒカンが悪いと言えば、「考え方が古い」「それと打撃は関係ない」と言われそうだが、真っ直ぐな姿勢は何に取り組むにも基本中の基本だ。普段の姿勢は、スポーツのパフォーマンスにも直接影響する。頭や理屈で言い訳できる分野ならともかく、スポーツは身体でやるものだ。だから、ごまかせない。謙虚さを失い、ひたむきさをなくしたらそれが身体の甘さ、隙につながる。だからこそ、スポーツは貴いのではないか。スポーツ界はいま、もっとこうした原点を見直し、改めて共有すべき時期にきている。
現在、競技スポーツに携わる者の一人として、著者の言う「スポーツの原点」を共有したいと思う。
Chance visits the prepared mind ――幸運は準備した者に味方する。
(森下 茂)
出版元:中央公論新社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:ジュニア
カテゴリ エッセイ
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メロスたちの夏
夜久 弘
マラソンを走る人は、精神力が強いのだと思っていた。ましてやウルトラマラソン(100㎞)である。しかし、どうもそうでもないらしい。
以下著者の言葉である。
「レース前にはトレーニング不足は精神力で乗り切ってみせる、と意気込み、本気でそう思っている。実際には疲れ切った身体の中からは精神力は湧き上がってはこない。精神力はトレーニングに比例して培われていくものなのだ。精神力が身体のどこかの引出しに別個にしまわれていて、いざというときに取り出して使うというシステムにはなっていない」
強い精神力は、当たり前だが努力した結果生まれる。そういえば、プロゴルファーの青木功さんは、「体・技・心」であると言う。まずは練習する体力をつくる。するとたくさん練習できるから、技術力が上がる。そして初めて、強い精神力がつくのだと。
トップアスリートもスポーツ愛好家でも、等しく流れているものがある。それは時間である。そして、時間のかかった分だけの、見返りの量も等しく流れているようである。
ウルトラマラソンからもらえる見返りを、著者はこう表現する。
「今日という1日は単独では存在しない。つらかったあの日、悲しかったあの日、努力したあの日の連なりの中にやってきた日なのだと」。いつでも、近くにおいておきたい言葉である。
(森下 茂)
出版元:ア-ルビ-ズ
(掲載日:2012-10-14)
タグ:ウルトラマラソン
カテゴリ エッセイ
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使える強い筋肉をつくる
谷本 道哉 荒川 裕志
「筋トレ=動けなくなる」
そう思っている、選手やコーチは現場ではまだまだたくさんいる。
「なぜ、筋肉をつける必要があるのか」「使える筋肉にするには、どうしたら良いのか」、そんな疑問へのヒントが非常にわかりやすく書かれている。DVDで実技を紹介してくれているのもありがたい。
トレーニングに決して王道は無い。しかし、ここで紹介されたものを実践し続ければ「デカくて、強くて、使える」最強のアスリートボディに近づくのは間違いない。
(森下 茂)
出版元:晋遊舎
(掲載日:2012-10-15)
タグ:トレーニング
カテゴリ トレーニング
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勝つためのチームメイク
堀越 正巳
ラグビーでは、昔から勝負を決めるのはフォワード、勝敗を決めるのはバックスであるという。極端な話、フォワードは肉弾戦(その代表がスクラム)で勝てば、負けた気はしない。
しかし、ラグビーは陣取りゲームである。局地戦でいくら勝とうが、最終的にトライを取らなければ勝敗には負ける。そこで、勝敗を決めるための司令塔役が必要になる、それがスタンドオフだ。
そして、フォワードと司令塔とのつなぎ役が、スクラムハーフという著者のポジションである。著者はその役割を「チームメイク」という言葉で表現している。
チームメイクとは何か? 司令塔のゲームメイクに必要なボールの供給源になると同時に、フォワードの「ムードメーカー」の役割を果たすことであるという。早稲田・神戸製鋼で日本一を経験している著者は、スクラムハーフが「チームメイク」に徹することができれば、強い組織をつくることができると考えている。
「チームメーカー」の存在は、強い組織にはたしかにいる。清原・ローズなど、各チームの4番バッターばかりを集めたときのジャイアンツは勝てなかった。しかし、松本のようなつなぎ役もいるチームは、2009年に日本シリーズ連覇を果たした。そして、サッカーワールドカップの日本代表は、試合に出ない選手がムードメーカー役となりホーム以外で初のベスト16に進んだ。
強い組織をつくること、それは当たり前だが難しい。なぜなら、チームメーカーだけ育てても勝てないのが組織だからである。おそらく、著者自身がその難しさを指導者として日々感じているのであろう。
(森下 茂)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:チームビルディング
カテゴリ 指導
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スクラム 駆け引きと勝負の謎をとく
松瀬 学
「花となるより根となろう」
慶応フォワードの伝統の言葉である。ラグビーではトライをした選手がガッツポーズをしない。それはトライ(花)はスクラム(根)をフォワードが頑張ったゆえのことと知っているからである。
しかし、昨今ではトライの後に派手なパフォーマンスをする選手が増えた。パフォーマンス自体が悪いとは思わない。しかしラグビーが市民権を得ていたのは、そうした精神が日本人にマッチしていたからなのではないかと思う。 「男は背中でものを言う」
これもまたしかり。新日鉄釜石のプロップ石山さんはその典型であろう。朴とつな風貌、寡黙な男。まさに高倉健である。プロップの仕事は「スクラムを押されないこと」、押されることが許されないゆえ、鎧のごとき筋肉をつけ、「必死の覚悟」で練習する。しかし、スクラムに固執はしない。「最高のトライと思うのは、スクラムから顔を上げたら、バックスが展開してトライになっていたというもので…。そうなるとフォワードは何か得をしたような気がしていたものです」勝利のためにきわめて現実的で、自分の役どころを知っているのである。
2019年、ラグビーのワールドカップが日本で初めて開かれる。オリンピック、そしてサッカーのワールドカップに次ぐ世界的なイベントである。この本が「スクラム」の復権、いや「古きよき日本人」の復権につながることを願う。
(森下 茂)
出版元:光文社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:スクラム ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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フルスイング
高山 信人
高山豪人さんを知っている人は、ほとんどいないだろう。
プロ野球選手を夢見る彼は、24歳という若さで交通事故によってその生涯を閉じる。そんな彼の野球人生を、父親である高山信人氏が綴った。
著者は最後に日本の野球界に対する率直な思いを書いている。そんな中で、指導者についてこう言う。
「タイムリーエラーやチャンスで三振した選手を頭ごなしに叱るシニアの監督も大勢いたが、その監督は自分のための試合をしているのであって子供のための試合をしていないと感じた」
残念ながら、このような指導者は野球に限らず日本全国に大勢いる。私自身、指導者の端くれとして考えさせられる言葉である。
筑波大学サッカー部監督の風間八宏氏は、指導者とは何か? こんな風に言っている。
「子供が自分の道を自分で選んでいけるように環境をつくってあげるのが指導者です。子供たちの才能を引き出すことが重要であって、指導者が思ったことを子供たちにやらせることが重要なのではない」
ある一人の無名な青年の人生を綴った本である。しかし、そこから考えさせられることはあまりにも多い。人は、いつかは死ぬ。豪人さんのように唐突に夢を終えなければならないこともある。
だから思うのである。
「たかが、野球。されど、野球」
目の前のことに全力を尽くすことの大切さを。
(森下 茂)
出版元:碧天舎
(掲載日:2012-10-16)
タグ:野球
カテゴリ 人生
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遺伝子vsミーム
佐倉 統
2010年サッカーのワールドカップで、日本はベスト16になった。予選リーグで敗退した前回ドイツ大会では、チームが一つになりきれなかったことが敗因であると言われた。今回のチームは、その教訓を活かし、チームが一つの方向に向かうことができたという。
人間の人間たるゆえん――それは、遺伝子からは独立した形で情報を次の世代に伝えることができることである。つまり教育と学習によって、文化伝統を伝えていくことができる生き物が、人間であると。
世代を越えて継承されていく情報システムとういう特徴を兼ね備えた文化は、人間以外の動物にはほとんど存在しない。そして、この文化の情報伝達単位を「ミーム」と呼ぶ。著者はこのミームが、民族問題・教育問題・老人問題などを解決するヒントになるのではと語る。
人間は、望むと望まざるとにかかわらず、ミームを受け継ぎ、受け渡してしまう ―つまり学ばざるをえない―生き物なのである。 だからこそ、教育が大切であり、ミームの乗り物たる老人がもっともっと子供と接する機会を増やすべきだと。
日本中を熱狂させた、サッカー日本代表は、まさに「ミーム」を受け継ぎ、それを活かした好例である。「ミーム」=「侍魂」と置き換えてみると、またおもしろいようだ。
(森下 茂)
出版元:広済堂出版
(掲載日:2012-10-16)
タグ:遺伝子 ミーム
カテゴリ その他
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監督に期待するな
中竹 竜二
カリスマ指導者であった清宮監督の後は、自称「日本一オーラのない監督」が就任した。
しかも、早稲田大学ラグビー部という「日本一」を求められる組織にだ。
著者の組織作りは、リーダーについていくフォロワーたちが自主性を持って組織を支えていくという考え方だ。決断を下すのはリーダーであるが、フォロワ−もリーダーのつもりで考える。与えられたことを待っていてはいけないという。したがって、選手にも自分で考えることをとことん要求する。
管理と自主性のバランス、これは組織作りの永遠のテーマである。もちろん、これに関する完璧な答えはない。ただ、成功している組織には共通点があるように思う。それはリーダーの「情」、すなわち「愛情」と「情熱」だ。
著者は「情」の大切さを、「熱」としてこう表現している。
「何か分厚い壁を突き破ろうとするとき、理屈や情報よりも情熱が重要になる場面がしばしばある。行動の原点、すべての始まりは熱にあると言えるかもしれない」と。
(森下 茂)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:ラグビー
カテゴリ 指導
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モチベーション入門
田尾 雅夫
トレーニング指導をする際に、必ず話すことがある。「私に言われたから、受身でやるのと、自らが強くなりたいと思ってやるのでは、同じプログラムでも効果は大きく違ってくるよ」と。逆に言えば、選手がその気になってくれれば指導の90%は終わったようなものだ。
いかに選手のモチベーションを上げるか? そればかり考えているつもりだった。しかし、モチベーションについてあまりにも無知だったということに、この本を読んで気がついた。
モチベーションとは何か? 「モチベーションとは意欲です。意欲には目的が欠かせません。何か得たいもの、したいことがなければ、動機付けられて何かをしようという気持ちになれないものです。欲しいという気持ち、動因と、欲しいという気持ちを起こさせるもの、誘因の2つの要因のどちらもあることが、動機付けの不可欠の前提です。この2つの要因をどのように組み合わせるかが、モチベーションの考えの基本です」
アメとムチの論理についても、知らなかった。どうしてもこの「外」の論理が好きになれずにいた。人間はもっと賞罰がなくても頑張れる、そうなってほしいと思っていた。そう内発的動機付けによっても人はモチベーションが向上すると言う。そういった「内」の論理があることを知り、思わず頷く。
サッカー元日本代表監督のオシムは、モチベーションを上げるのに賞罰を与えることを嫌い、こう話す。
「モチベーションとは、選手に自分が考えるきっかけを与えることだ」
そして、前楽天監督の野村克也は、こんな風に言う。
「ナポレオンは、人間を動かす2つのテコがある。それは恐怖と利益であると言った。私はこの2つに尊敬を加えたい。リーダーは利益と尊敬と、少しの恐怖で組織を動かしていくべきで、その潤滑油がユーモアだ」と。
(森下 茂)
出版元:日本経済新聞社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:モチベーション
カテゴリ 指導
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シコふんじゃおう
元・一ノ矢
「シコは羽目板の前でふめ」。昔の力士のシコは、上体がほぼ垂直に立っていたそうだ。取組の姿勢もそうで、戦前までは、あまり頭を下げずに上体はわりと起き上がっている力士が多かった。したがって、お互いの腰と腰の距離が近い。腰で相撲をとるから、うっちゃりや吊り出しが今よりも多かったそうだ。確かに、曙は引き落としに弱かったが、貴乃花は腰の位置が相手に近かったように思う。
「腰を割る」、これがシコの基本である。しかし、新弟子の多くは股関節が硬く、「腰を割る」シコができないと言う。「腰を割る」というのは、膝を開いて踏ん張り、腰を低くして強い外力に堪えられる構えをとることである。
もちろん尻は自然と締まった姿勢になる。正しい腰割りは、股関節まわりの筋肉を強化してくれる。昨今流行りのコアトレーニングが、日本伝統のスポーツでは、とっくの昔に実践されていた。そのことが、なんだか妙に嬉しい。
(森下 茂)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:四股 相撲 トレーニング
カテゴリ 運動実践
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「おじさん」的思考
内田 樹
主に大学生と高校生のトレーニング指導という職業について10年あまり。なぜ、人の話を集中して聞けない選手、注意されるとすぐふてくされた態度をする選手、あまりにも自分で考える力が欠落している選手がこんなにいるのだろうか? ずっとわからないままでいた。しかし、この本にめぐりあってみえてきたものがたくさんある。著書の内田は、「人にものを学ぶときの基本的なマナー」についてこんな風に言っている。
「今の学校教育における『教育崩壊』は、要するに、知識や技術を『学ぶ』ためには『学ぶためのマナーを学ぶところから始めなければいけない』という単純な事実をみんなが忘れていることに起因する。学校というのは本来何よりも『学ぶマナーを学ぶ』ために存在する場所なのである」
「『大人』というのは、『いろいろなことを知っていて、自分ひとりで、何でもできる』もののことではない。『自分がすでに知っていること、すでにできることには価値がなく、真に価値のあるものは外部から、他者から到来する』という『物語』を受け入れるもののことである。言い方を換えれば、『私は※※※ができる』というかたちで自己限定するのが『子ども』で、『私は※※※ができない』というかたちで自己限定するものが『大人なのである。『大人』になるというのは、『私は大人ではない』という事実を直視するところから始まる。自分は外部から到来する知を媒介にしてしか、自分を位置づけることができないという不能の覚知を持つことから始まる。また、知性とは『おのれの不能を言語化する力』の別名であり、『礼節』と『敬意』の別名でもある。それが学校教育において習得すべき基本であると言う」
まさに、現場で感じていた選手たちに足りないこと、その原因の1つがここにあるのかと。では「子ども」を変えるにはどうすればよいのか。内田はこう言う。
「子どもたちの社会的行動は、本質的にはすべて年長者の行動の『模倣』であると。だから、子どもを変える方法は一つしかありません。大人たちが変わればいいのです。まず『私』が変わること、そこからしか始まりません。『社会規範』を重んじ、『公共性に配慮し』、『ディセントにふるまい』、『利己主義を抑制する』ことを、私たち一人一人が『社会を住みよくするためのコスト』として引き受けること。遠回りのようですが、これがいちばん確実で迅速で合理的な方法だと私は思っています」
そう言えば、福沢諭吉は「一家は習慣の学校なり、父母は習慣の教師なり」とずっと前に教えてくれていた。
まずは、自分自身が内田の言う「大人」になること、すべてはそこから始まる。
(森下 茂)
出版元:晶文社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:教育
カテゴリ 指導
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誰でもわかる動作分析
小島 正義
難しいことをやさしく教えるには、相当な知識が必要である。人にものを教えたことがある人ならわかるはずである。
私は理系の人間ではない。したがって、「物理学」「運動学」「人間工学」などは苦手中の苦手である。しかしである、ほんとうに驚くべきほどスムーズにこの本は読み進むことができたのである。
「生物の動きは『ある法則』で説明できる」という。「ある法則」とは「重力」のことだ。「重力」と言っても難しく考える必要はなく、その力はいつも同じ方向に向かっているということ。つまり、重力の方向は必ず下向き(地面方向)であるということを覚えておけばよい。そこさえ頭にいれておけば、あとは「フーン、なるほど」「ああ、そういうことだったのか」のかの連発。そして、「動くことっていろいろと理にかなってるんだなぁ」という著者の思いと同じものを感じるのである。
著者は作業療法士であるので介護に携わる者はもちろん、スポーツに携わるコーチ、選手、トレーナー、トレーニングコーチ、はたまた力仕事に関わる人たち、とにかく「人間の動き」について興味のある方ならどなたでもお勧めしたい本である。とくに、私のように理系はどうも苦手という方にはありがたい。
(森下 茂)
出版元:南江堂
(掲載日:2012-10-16)
タグ:動作分析
カテゴリ 身体
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楽して走ろうフルマラソン
牧野 仁
どうも、走ることは苦手である。
きっとそれは、過去に膝をケガして以来、時々走ると膝が痛むことにあるようだ。もっとも、時々走るから痛くなるのかもしれないが。でも、おそらく走ることに対して私と同じように抵抗がある人は多いのではないかと思う。いや、そうでもないか。近所でランニングをする人は明らかに増えている。
さて、著者であるが、素人でありながらフルマラソンに挑戦し、そこで失敗したことがきっかけで、ランニング指導者として活躍する経緯の持ち主である。
したがって、多くの他のランニング指導者のように、選手として高い実績があるわけではない。しかし、だからこそ効率のよいフォームとはどういうものか、そしてそれはなぜか、それを身につけるにはどうしたらよいのかが素人にもわかりやすく書かれているように思う。今年こそ、この本を片手にランニング始めてみようと思う。
(森下 茂)
出版元:ランナーズ
(掲載日:2012-10-31)
タグ:ランニング
カテゴリ 運動実践
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命をかけた最終ピリオド ガンとアイスバックスと高橋健次
国府 秀紀 石黒 謙吾
職業のことを、とくに天職とか使命とかの意味合いでの職業を英語で「コーリング」と言うようだ。
私はずっと勘違いしていた。「自分がしたいこと」を基準に仕事を探し、「自分の好きなことを職業としている」ことが「天職」なんだと。しかし、そうではないことに最近やっと気がついた。「自分」が先にあって、職業があるのではなく誰かから「呼ばれること」が、その人にとっての使命なんだと。
まさに「他人の求め」に応えるかたち、そう使命を果たそうとするのが、この本の主人公である、高橋健次だ。1999年7月、創部73年の古豪古河電工アイスホッケー部が不況のあおりをうけ廃部の危機を迎える。そこで、選手が救いを求めたのが地元日光市でレンタカー業やゴルフ練習場、居酒屋などを営む実業家の高橋健次だ。自他ともに認める“アイスホッケー狂”だ。
「どうにかならないものか」という、選手からの相談を受けた日から、部存続のための資金集めが始まる。選手が相談に来てから、15日目、ついに日本初となるアイスホッケー界の市民クラブが誕生した。しかし、市民クラブとしてなんとか2年目を迎えようとした時、高橋が余命1年のガンであることが宣告される。続けざまに訪れる不運にもかかわらず、高橋は「夢は力なり」と言い、「人を喜ばすことが俺の夢なのかもしれない」と語る。
著書の構成を担当している石黒謙吾は(あとがきにかえて)の中で、「相手の気持ちになったらぁ」という栃木訛りの高橋の言葉を取材中に何度聞いたかわからないと言う。
「相手の気持ちを考えなさい」小学生の頃、先生や親によく言われた。「自分」の目線ではなく、「相手」の目線で物事を考えられること。しかし、この当たり前のことができる「大人」はそう多くはない。いや、それができる人を「大人」というのだ。自分ひとりでは、何もできないことを理解し、だから家族や仲間を人一倍大切にした高橋健次という男。そんな、「大人」の魅力ある物語、「自分がしたいこと」を基準に就活している若者に読んでもらいたい。
(森下 茂)
出版元:角川書店
(掲載日:2013-01-17)
タグ:アイスホッケー チーム
カテゴリ 人生
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背番号三桁 「僕達も胴上げに参加していいんですか?」
矢崎 良一 岩田 卓士 玉森 正人 中田 潤 池田 浩明 伊村 雅央
2003年、阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を果たす。そこには、表舞台には出てこない人々の数だけドラマがある。そんな「背番号三桁」の男たちの物語である。
なぜ、彼らは表舞台に出られなくても、もがき苦しむのか。ある者は、バッティングピッチャーとして来る日も来る日も、選手のために肩を酷使する。もちろん、根底には野球が好きだということもあるだろう。しかし、もっと別の何かが彼らを奮い立たせているに違いない。
作家の村上龍が、こんなことを言っている。「私たちは、他者から幸福を得るより、他者の幸福に貢献するほうが、喜びは大きいのではないか」と。もしかしたら、これが彼らのもがき苦しむ理由のひとつかもしれない。
多くの人は、人生では負けることの方が多い。おそらく99%は負け続ける人生なのだ。しかし、負け続ける人生には、もしかしたら勝ちしか知らない人の人生より、大きなものが得られるのかも知れない。
そう、「背番号三桁」の人生も悪くない。
(森下 茂)
出版元:竹書房
(掲載日:2013-05-23)
タグ:裏方
カテゴリ スポーツライティング
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一流を育てる
朝日新聞be編集部
いったい、人を育てるっていうのはどういうことだろう。そもそも人が人を育てることができるのだろうか?
指導者の端くれとしてそんなことを考えるときがある。もちろん、指導者次第で選手やチームは大きく変わるのは間違いない。しかし、指導者は決して自分が育てたから選手が強くなったなどとは思うべきではない。
言葉を変えて言えば、勝手に選手が育ったのである。そう思うべきであると私は思う。だから、こういうやり方をしたら一流選手を育てられるなんていうマニュアルはないのだと思う。あるとすれば、そこに本気で選手のことを考えている指導者がいて、そこに本当に強くなりたいと思っている選手がいる。それだけのことなのだ。
その数々の、現場での指導者と選手の試行錯誤を紹介してくれている。この本を読み改めて思う、「一流を育てる」ハウツーなどはないってことを。
(森下 茂)
出版元:晶文社
(掲載日:2013-12-18)
タグ:選手育成 指導
カテゴリ 指導
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「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー
高橋 秀実
言わずと知れた、超進学校開成高校の野球部の話である、これが面白い、実に面白い!
監督である青木がバッティングについてこう話す。
「打撃で大切なのは球に合わせないことです。球に合わせようとするとスイングが弱く小さくなってしまうんです。タイミングが合うかもしれないし、合わないかもしれない。でも合うことを前提に思い切り振る。空振りになってもいいから思い切り振るんです。ピッチャーが球を持っているうちに振ると早すぎる。キャッチャーに球が届くと遅すぎる。その間のどこかのタイミングで絶対合う。合うタイミングは絶対あるんです」
著者の高橋は、この言葉から正岡子規の語る野球の原型「打者は『なるべく強き球を打つを目的とすべし』」、を思い起こす。
青木監督はこんなことも話す。「野球には教育的意義はない、と僕は思っているんです。野球はやってもやらなくてもいいこと。はっきり言えばムダなんです。これだけ多くの人に支えられているわけですから、ただのムダじゃない。偉大なるムダなんです。とかく今の学校教育はムダをさせないで、役に立つことだけをやらせようとする。野球も役に立つということにしたいんですね。でも果たして、何が子供たちの役に立つなんて我々にもわからないじゃないですか。社会人になればムダなことなんてできません。今こそムダなことがいっぱいできるんです」
「ムダだからこそ思い切り勝ち負けにこだわれるんです。ジャンケンと同じです。勝ったからエラいわけじゃないし負けたからダメなんかじゃない。だからこそ思い切り勝負ができる。とにかく勝ちに行こうぜ!と。負けたら負けたでしょうがないんです。もともとムダなんですから。ジャンケンに教育的意義があるなら、勝ちにこだわるとなんか下品とかいわれたりするんですが、ゲームだと割り切ればこだわっても罪はないと思います」
これを受けて高橋がこう語る。「確かにそうである。そもそもお互いが勝とうとしなければゲームにもならない。『信頼』や『思いやり』などは日常生活で学べばよいわけで、なにもわざわざ野球をすることもない。野球は勝負。勝負のための野球なのである」
「偉大なるムダに挑む開成高校野球部。すべてがムダだから思い切りバットを振る。どのみちムダだから遠慮はいらないのである」
野球に正解はない、人生に正解はない。
「たかが野球、されど野球!」「たかが人生、されど人生!」
(森下 茂)
出版元:新潮社
(掲載日:2014-08-20)
タグ:野球 指導 高校生
カテゴリ 指導
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「宿澤広朗」運を支配した男
加藤 仁
ラグビーワールドカップで、日本は一つだけ白星をあげている。そのときの監督である宿澤広朗の話である。
宿澤が早稲田大学3年生のときの日本選手権は、伝説となるほどの大接戦であった。1972年1月15日、その日は雪の決戦だった。相手は三菱自工京都。前半、早稲田がリードするものの、後半29分に逆転された。しかし、終了3分前に早稲田の佐藤のキックしたボールが弾まないはずの雪のグラウンドで跳ね上がり、ウイング堀口の胸におさまり、そのまま走り切り、逆転のトライとなってノーサイド。翌日の新聞は、この勝利を「奇跡」「勝利の女神が舞い降りた」と報じた。
しかし、宿澤はこう言った。「あれは偶然じゃない。何万回も練習しているんだから当たり前なんだ」と。ここに、宿澤の生き様の全てが垣間見られるように思う。
「勝つことのみが善である」が口癖の宿澤は、選手として、監督として、そして、銀行マンとして常に勝つことにこだわった。得てして人は、結果の出ないことを周りのせいにしてしまう。あるいは、勝負から逃げてしまう。しかし、もしかしたら宿澤のように勝ちにこだわるからこそ努力できるのかもしれない。
「努力は運を支配する」。宿澤は確かにそれを信じていた。
(森下 茂)
出版元:講談社
(掲載日:2014-10-01)
タグ:ラグビー
カテゴリ 人生
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応援する力
松岡 修造
「押せ・押せ・やるぞ!」
野球部の応援リーダーが声をかける。なぜだかわからないが、チャンスの時に「押せ・押せ」の応援をスタンドですると、得点が入るのだ。というより、「押せ・押せ」をすれば得点が入るのだと信じていた。それは、高校時代の野球部での応援のことだ。私が所属していたチームは、全員野球をモットーに日頃から、「声」の力を信じていた。指導係の先輩からは「本当の声を出せ」と毎日のように言われ、我々は必死になって「声」をはりあげ練習した。
そして、迎えた夏の大会。ベンチ入りできない多くの野球部員がスタンドから、仲間を信じて「声」を出すのだ。まさにグラウンドとスタンドが一体となって戦っていた。残念ながら甲子園にはあと一歩届かなかった。しかし、あのときのスタンドで感じた「目に見えない力」の存在を私は信じている。
著者の松岡修造さんは、「応援する力」の存在を自身の選手時代に味わった。それは1995年ウィンブルドンでの3回戦のことだ。2セットを取られ、もう後がない4セット目、単純なミスをしてしまい、気持ちの上ではもう完全に負けていた。そのとき、「修造、自分を信じろ!」と観客席から声が響いた。この声をきっかけに、別人のように変わることができ、接戦を制した。そして、それは松岡さんのその後の「応援人生」の原点となるのだ。
著書の最後に松岡さんはこう語る。
「僕はこれまで応援していたのではなく、応援することにより、紛れもなく自分自身が応援の思いを受け取って前に進んでいたのです」と。
そうなのか、私たちもグラウンドの仲間を応援することで、自分達が前に進めていたのかもしれない。
ならば、松岡さんが言うようにいつでも誰かを「応援」していきたい。
(森下 茂)
出版元:朝日新聞出版
(掲載日:2015-03-19)
タグ:応援
カテゴリ 人生
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