ハーバードの医師づくり
田中 まゆみ
副題は「最高の医療はこうして生まれる」。著者は、京都大学医学部、同大学院などを経て、マサチューセッツ総合病院(MGH)とダナ・ファーバー癌研究所でリサーチフェロー、MGHで内科クラークシップを経験した。
この本、名にし負うハーバードの話と、あまり深く考えないで読み始めたが、どんどん引き込まれ、読んだあとは、「どうも、倫理自体もアメリカに教えられるようになったか」と思った。
ことは医療の話である。「医師づくり」と書名にあるが、書かれていることは医療をどうするかという問題にほかならない。これはアメリカの医療、その教育システム改革の話と言ってもよい。「医師づくり」つまり、教育とその教育を支える理念、またその倫理感の徹底ぶりがすごい。「教授」は権威や権力を振りかざすことなく、教えること、相手が学ぶことを大切にする。患者にはすべてを正直に話す。ミスを犯したら、「私たちはミスをしました」ときちんと説明する。いかなる患者もいかなる理由でも差別されない。その他、様々なことを知っていくにつれ、ここまでやるかと思う。
だが、ハーバードやMGHも過去はそうではなかった。すべては変革の努力の結果である。またよりよい医療を提供する努力が今もなされている。世界一力のある国が医療の分野で何をしているのか、この本は医療関係者にはぜひとも目を通しておいていただきたい。
(月刊スポーツメディスン編集部)
出版元:医学書院
(掲載日:2002-06-15)
タグ:海外情報 ハーバード 医療 医師教育
カテゴリ 医学
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まんが 医学の歴史
茨木 保
この本は医学史を紹介しているものだが、その特筆することは「まんが」で書かれていることである。しかも、そのまんがは、婦人科の医師である著者の茨木氏ご自身で書かれていること。医学部の学生の頃に同人誌や投稿用のまんがを書いていたそうで正真正銘のプロなのである。
本書は、月刊誌『看護学雑誌』で「まんが医学の歴史」という連載をはじめたものを、本書の前半を雑誌連載(2003~2005年分32話)、後半書き下ろし(20話)でまとめられたもの。医学のはじまりから、東洋医学の考え、解剖学のはじまり、顕微鏡の発明、日本医学の歩み、抗生物質の発見、DNAの発見、移植医療の進歩、生殖医療の進歩と目次の一部をみていっただけでも、過去から現代の医療まで壮大な物語が1冊にまとめられている。現代の医学がどのように発展し、どのような人たちが関わってきたのか、356頁にぎっしりとまとめられている。
2008年3月1日刊
(田口 久美子)
出版元:医学書院
(掲載日:2012-10-13)
タグ:医学史 マンガ
カテゴリ 医学
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リハビリの夜
熊谷 晋一郎
厳しいリハビリ
体育とは“体で育む”ことである(本欄10月号)。あえて“何を”という目的をつけない。そうすることで、体育の可能性がより大きく広がり、生命の根源に近づくことができるような気がする。本書を読んで、その思いがいっそう強くなった。
著者、熊谷晋一郎は「新生児仮死の後遺症で、脳性まひに。以後、車いす生活となる。幼児期から中学生くらいまでのあいだ、毎日リハビリに明け暮れ」、東京大学医学部卒業後いくつかの病院勤務を経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任講師を務める小児科医である。生まれるとき「胎児と母体をつなぐ胎盤に異常があったせいで、出産時に酸欠になり、脳の中でも『随意的な運動』をつかさどる部分がダメージ」を受けたため『イメージに沿った運動を繰り出すことができない状態』となった。そのため「健常な動き」ができるよう、厳しいリハビリを受けることになったのである。
「互いの動きをほどきつつ拾い合う」
人の身体は一般に「これからしようとする運動にふさわしい緊張を加え、制御し続け」るため「たくさんの筋肉がいっせいに協調的な動きをすること」ができる『身体内協応構造』を持っている。しかし彼の場合、「『過剰な身体内協応構造』を持っている」ため、「両足は内股になって、ひざは曲がり、かかとが浮いている。両腕も同じように回内して、ひじ、手首は曲がっている」姿勢になる。「ある部位を動かそうとすると、他の部位も一緒に動いてしまう」ため、パソコンを打つにも「全身全霊で」臨まなければならない。この緊張でこわばった身体を「ほどく」ためにもリハビリは必要なのである。
介助者「トレイナー」と彼「トレイニー」の息が合えば、二人の間にあった「壁のようなものは徐々に薄らいでいき、二つの身体がなじみはじめ」「互いの動きをほどきつつ拾い合う関係」が築かれる。しかしトレイナーが「健常な動き」を彼に与えようとし、さらに彼がトレイナーの思うような動きになっていなかった場合、二人の関係は一変する。「『もっと腰を起こして』。私は自信のないまま腰を起こそうと動かしてみるのだが、すぐに、『違う!ここだよ、ここ!』」と否定され、「命令に従おうともがけばもがくほど」「体はばらばらに散らばって」「私の体は私のものではなくなってしまった」。ここにおいて二人の間柄は「加害/被害関係」となり彼の身体はかたくなに閉じたままになってしまうのである。
始めのうちは“からだで育む”関係ができていたのに、トレイナーが「健常な動き」にあてはめようと“体を育もう”としたことが失敗の原因と思われる。この部分、トレイナーとトレイニーの関係を、教師と生徒・学生、監督・コーチと選手、親と子、これらに置き換えて読んでしまい背筋が凍った。
知力に脱帽
身体感覚のパースペクティブ(遠近法・透視図法)を自在に操り、身体という宇宙を大旅行した気分にさせてくれるところが本書の醍醐味といえる。自身の体を客体化して観察し、または観察した他者の運動を自身の内部の感覚として仮想し、それを言葉におこして他者の身体を借りて再現し、感覚と運動の摺り合わせをする作業から学んだ(感じた)ことをさらに文章化する知力には、ただただ脱帽するしかない。バドミントンなどでメッタメタにやられた後の、快感すら感じるようなあの敗北感にも似ている。
運動やスポーツを行うのは“気持ちいいから”という動機がまずはじめにあると思う。この、“快”、“快感”という身体感覚をキーワードに“体で育む”ということを考えてみると、激しい運動やスポーツでなくとも、伸び(ストレッチ)をする、手を握り合う、身体の一部を触れ合う、場合によっては優しい言葉に触れるだけでも“気持ち良い”を体感することは可能で、それらの身体感覚を通して互いの“体で何かを育む”ことができる。“何か”とは、愛かもしれないし、信頼関係かもしれない。これこそが“体育”をすること、であると思うのだ。
(板井 美浩)
出版元:医学書院
(掲載日:2010-12-10)
タグ:リハビリテーション
カテゴリ 身体
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アナトミー・トレイン 徒手運動療法のための筋筋膜経線
Thomas W. Myers 松下 松雄
著者のいう“アナトミー・トレイン(解剖列車)”とは、“身体をどう見ていくか”という、ものの見方の一つであり、身体の結合組織線維の走行=筋筋膜経線を表している。
多くの筋筋膜療法で行われる個々の筋筋膜を対象にしたものではなく、人体を走る広い筋筋膜の連続体、つまり“緊張と運動を伝達する線”を意味している。
訳文が本文に忠実であるがゆえに、文章が直訳されすぎて読みにくい表現がところどころにあるのがやや難点ではあるが、各経線についてそれぞれイラストを多用し、始まりから終わりまでの流れを追った説明がされており、各章の最初のページを読むだけでも簡単に理解ができる内容となっている
(藤井 歩)
出版元:医学書院
(掲載日:2014-02-07)
タグ:筋 徒手療法
カテゴリ スポーツ医科学
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アナトミー・トレイン 徒手運動療法のための筋筋膜経線
トーマス・W. マイヤース 谷 佳織 板場 英行 石井 慎一郎
2009年の翻訳第1版、2008年の原著第2版の発行を経て、待望の翻訳第2版だ。全面新訳、オールカラー、DVD付とさらなるわかりやすさを目指したものとなった。トレインとは、列車のことである。1つずつの筋を解剖的に学んでいくと、関節において屈曲・伸展などどのような機能を発揮するかを知ることになる。
これを踏まえて本書は、直接つながっていない筋が筋膜を介したつながりを持っていることを示し、「バック・ファンクショナル・ライン」などのラインで身体の構造を改めてみていく。姿勢を読み解き、改善をもたらすための手がかりとなる可能性がある。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:医学書院
(掲載日:2013-01-10)
タグ:筋 筋膜
カテゴリ 身体
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M-Test 経絡と動きでつかむ症候へのアプローチ
向野 義人 松本 美由季 山下 なぎさ
M-testとは、これまで「経絡テスト」と呼ばれていた東洋医学の考え方をベースとし、身体の動きに対してさまざまなテストを行い、動作の異常を評価し、治療に活用するものである。侵襲なく評価できる方法であり、今後の活用が期待されている。本書では、広く臨床現場において、診断・治療の手段の1つとしてM-Test(経路テスト)を取り入れてもらえるようにというコンセプトが伺える。
東洋医学に触れるのは初めてという人向けの項目から、知識を踏まえての実践手順はもちろん、すでに活用している人にとっても興味を惹かれるだろうここ最近のトピックまで網羅されている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:医学書院
(掲載日:2013-02-10)
タグ:Mテスト 経絡テスト
カテゴリ 東洋医学
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medicina 2020年 6月号 特集 運動・スポーツ×内科 内科医に求められるスポーツ医学とは
田中 祐貴
1人のアスリートが訴える悩みが1つとは限らない。スポーツ現場では、骨折・脱臼・脳振盪など外科的なものだけでなく、貧血・喘息・月経不良など内科領域まで幅広い対応力が求められる。
本書はスポーツ内科の総論にはじまり、上記のような内科的疾患はもちろん、「息切れがします」「疲れが抜けません」など、悩み別の検査・治療方法、疾患を持つアスリートへの運動指導やドーピング予防まで詳細に解説されている。診療科どうしの連携についても述べているが、その範囲は皮膚科・耳鼻科・精神科・口腔外科まで及ぶ。「内科医に求められる」スポーツ医学とは、内科領域だけではないのだ。
さらに巻末にはトレーニングとして確認問題まであり、「読んで終わり」にさせない親切設計。月刊誌であるがスポーツ内科の入門書としておすすめできる一冊だ。
(川浪 洋平)
出版元:医学書院
(掲載日:2022-01-17)
タグ:スポーツ内科
カテゴリ スポーツ医科学
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まんが医学の歴史
茨木 保
医師であり、漫画家でもある著者が、医学史的エポックメーキングな事件とともに、個性的な人物を取り上げる。
取り憑かれたような解剖学者ヴェサリウス。
患者を想う気持ちから、愛護的な治療法を確立したパレ。
好奇心の塊のような「実験医学の父」ジョン・ハンター。
産褥熱撲滅のため、手洗いを励行したゼンメルワイスの孤軍奮闘。
オランダ語辞典もない中、手探りで「ターヘル・アナトミア」を訳しきった杉田玄白と前野良沢。
麻酔薬「通仙散」開発にまつわる華岡青洲の母と妻の献身。
秀才ではあるものの、放蕩ぶりを存分に発揮していた野口英世などなど。
キーワードでしか知らない過去の偉人たちの、人間らしい部分がいきいきと活写されている。現代医学の恩恵に浴している身としては、ゾッとするエピソードも多いが、きっと何十、何百年後の人々には、現代の最新医学もそう思われるのだろう。
同著者の、疾病がイラストつきで解説されている『ビジュアルノート』、解剖生理学を楽しく学べる『まんが人体の不思議』も合わせておすすめしたい。
(塩﨑 由規)
出版元:医学書院
(掲載日:2022-04-18)
タグ:医学史
カテゴリ 医学
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オープンダイアローグとは何か
斎藤 環
フィンランド西ラップランド、トルニオ市のケロプダス病院で、ユヴァスキュラ大学教授ヤーコ・セイックラさんが中心となって行われているこの治療法。導入した結果、西ラップランド地方では、統合失調症の入院治療期間は平均19日間短縮され、投薬を含む通常の治療を受けた統合失調症患者群との比較において、この治療では、服薬を必要とした患者は全体の35%、2年間の予後調査で82%は症状の再発がないか、ごく軽微なものにとどまり(対照群では50%)、障害者手当を受給していたのは23%(対照群では57%)、再発率は24%(対照群では71%)に抑えられていた。フィンランドでは公的な医療サービスとして認められていて、希望すれば無料で治療が受けられるという。
治療のおおまかな流れは次の通り。患者、あるいは患者の家族からオフィスに電話が入る。最初に電話をとった医師、心理士、看護師などがリーダーとなり、メンバーを招集して、24時間以内に患者の自宅やオフィスなどで対話を始める。ミーティングは患者本人だけでなく、家族や親戚、治療チーム全員で行い、いわゆる司会者や議長といった役割は存在しない。特筆すべきは、リフレクティングといって、治療チームのミーティングを患者の許可を得て、患者・患者の家族の前で行うことだ。
オープンダイアローグはおおむね10〜12日連続で行われる。オープンダイアローグの理論には2つのレベルがある。「詩学」と「ミクロポリティクス」という。また、「詩学」には3つの原則があり「不確実性への耐性」「対話主義」「社会ネットワークのポリフォニー」とよばれる。理論的にはグレゴリー・ベイトソンのダブルバインド理論が柱としてあり、思想家ミハイル・バフチンや心理学者レフ・ヴィゴツキーの影響があるという。
不確実性への耐性とはどういう意味かというと、答えを急いで出さずに、あいまいなまま対話を続ける。いわゆる診断はなされない。どんな治療をするか、病状の見通しはどうか、ということも棚上げし、ミーティングを重ねる。対話主義は、バフチンの「言語とコミュニケーションが現実を構成する」という社会構成主義的な考えに基づくという。対話を繰り返す中で、患者の病的体験の言語化・物語化を目指す。社会ネットワークのポリフォニーとは、参加者のあいだで、複数の声が鳴り響くこと。基本的にオープンクエスチョンで、発話を促し、発話に対しては必ず応答する。
1つの答えを探すためではなく、多様な表現を生成することを重視している。ミクロポリティクスは、社会ネットワークを活用しながら患者の社会参加を促す「ニーズ適合型アプローチ」という1980年代にフィンランドで開発された手法から引き継がれていて、治療上の決定には、治療チーム、患者、家族や親戚、あるいは友人など、参加者全員が関わることをいう。
本書でも紹介されているとおり、北海道の「べてるの家」では同じような取り組みがなされている。自分の症状や病気についてオリジナルな名前をつけて、研究・発表する「当事者研究」や、三度の飯よりミーティングというスローガン、あるいは、医師のインタビューにある「べてるは日本語学校」という言葉からも、オープンダイアローグとの類似点が垣間見える。言葉にすること、あるいはストーリーとして、自分が受け止められるようにすることに治療の主眼は置かれている。
想像を絶する体験であっても、言語化・物語化されることで、当事者は楽になる。ただ、それは自然に獲得される副産物であり、オープンダイアローグの目的はあくまで対話だ。対話が対話を自己生成していく様子を、生物学でいうオートポイエーシスと表現したり、著者・訳者はジャズの即興演奏にもなぞらえる。芸術家や文学者には精神疾患を患ったひとが多いように思う。それらの創作物は、言語化・物語化に限りなく近いのかもしれない。モノローグ的だけれど描かず(書かず)にはいられない、という衝動には、自己治癒への試み、という面があったのかもしれない、と思った。
(塩﨑 由規)
出版元:医学書院
(掲載日:2022-08-29)
タグ:オープンダイアローグ
カテゴリ 医学
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質的研究のための現象学入門
佐久川 肇
本書で言う現象学的研究とは、その人だけにしかわからないその人固有の「生」の体験について、できる限りその人自身の意味に沿って解き明かすことをさす。
対人支援のための現象学では、あくまで現象学の一部を援用するのであって、哲学科の学生が現象学を学ぶのとは異なる、と前置きがあり、ホッとする。正直、ハイデガーやフッサール、メルロ=ポンティやレヴィナスの原著はハードルが高すぎる。でも現象学は前から気になっていた。現象学の、事象そのものへ! というスローガンなどからも、肘掛け椅子の画餅の理論とは、対極に位置するような印象を受けてきた。客観から実存へとピボットするのは、より深く現実にコミットしよう、という誠実さを示しているように感じてきた。
現象学ではあらゆる前提を排して、「生」の経験の意味と価値を問う。クールでドライな量的研究の切れ味はないかもしれないけれど、歯切れのわるい人間味や、眼差しの温かさがある。理解が間違っているかもしれないが、そんなふうに感じる。
(塩﨑 由規)
出版元:医学書院
(掲載日:2023-01-17)
タグ:質的研究 現象学
カテゴリ その他
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非特異的腰痛の運動療法 病態をフローチャートで鑑別できる
荒木 秀明
腰痛の中で多くを占める非特異的腰痛は、運動療法を中心とする保存療法が優先される。その運動療法について、テスト法などによる分類、筋肉・組織に分け発症期別の運動療法が紹介されています。エビデンスに基づいた内容となっており、実際の運動の仕方については添付のQRを読み込み動画で確認することもできます。
今までの治療にプラスアルファが欲しい治療家、とくに柔道整復師や鍼灸あマ指師には知っておいてもらいたい内容だと思われますので、腰痛を扱う治療家の皆さんにおすすめです。問診が質問形式で紹介されていたり、フローチャートによる鑑別もあるので、自身で考えることが苦手な人もパターンを覚えるためにおすすめできます。
今まで行ってきたことや知識の再確認、足りない知識の補完、さらに運動療法を取り入れることによってより幅広く効果的に非特異的腰痛に対峙することができるようになると感じました。文字や写真だけではなく動画でも同時に学ぶことによって知識がより深まるのではないでしょうか。
(山口 玲奈)
出版元:医学書院
(掲載日:2024-01-10)
タグ:腰痛 運動療法
カテゴリ 医学
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どもる体
伊藤 亜紗
吃音と呼ばれるその状態は、体が思い通りにならない、言うことを聞かないために、発声がスムーズにいかない、ということを指す。
本来、随意的に行えるはずの発声に支障をきたす、ということは、社会活動にも差し障ることが少なくない。
ひとには元々、コントロールできない体がある。内臓などを支配する自律神経がわかりやすい。吃音と同じような問題でいえば、イップスだろうか。ともかく、ひとには思い通りにならない体がある。どもる、という事象を取り上げて、そのことを考える、というのが本書である。
実は吃音というのは、身近な現象である。多くの著名人が吃音であることを告白している。話すことや歌うことが生業のひとであっても、吃音のひとはいる。スキャットマン・ジョンも吃音であり、あの高速スキャットはむしろ、自由にどもる方法だった、という。
興味深いのはシチュエーションによって、吃音が出ない、ということだ。しかし、必ずしも緊張していることがきっかけとは限らない、という。きわめて個人差が大きいのだ。大きい括りでは、連発と難発がある。連発は同じ音を連続して発声してしまうこと、難発はそもそも発声がしにくく止まってしまうことをいう。苦手な音があるため、さまざまな工夫をする。難発は連発を避けるため、という面があり、苦手な音を避けるための言い換え、などがある。さらに、忘れたふりをして相手に言ってもらう、という方法もあるという。自分の名前に苦手な音がある場合は、まさか忘れたとは言えないために、とても困るらしい。
リズムに合わせると話しやすい、ということもある。「えー」「あのー」などのフィラーを、発声のためのトリガーとして利用しているひともいるという。言い換えや、ストックフレーズに頼ることによって、その場はやり過ごせても、本来自分が言いたかったこと、表現したかったことを避けてしまう、ということにフラストレーションを感じるひともいる。
そのため、自由にどもることに快感を覚えるひともいて、「どもる」ということひとつとっても、ひとくくりにはできそうもない。
(塩﨑 由規)
出版元:医学書院
(掲載日:2024-06-14)
タグ:吃音
カテゴリ 身体
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