101歳のアスリート
下川原 孝
世界記録ホルダーの「カッコいい」生き様
男子たるもの、いくつになっても「カッコいい」と言われたいもの。高齢化社会の危機が叫ばれているとは言え、世の中にはその夢(?)を実現しているダンディで伊達者のおじ様、おじいちゃんが立派に存在しているのもまた事実である。
そもそもダンディや伊達の定義とはいかなるものだろうか? 辞書やインターネットによれば、Dandyとは、「身体的な見た目や洗練された弁舌、余暇の高雅な趣味に重きを置く男性」のこと。伊達とは「好みがしゃれていること。考え方がさばけていること。また、そのさま」とある。すなわち、自身の内面・外面はもちろんのこと余暇の過ごし方に至るまで洗練されている、さばけている、と思わせる何かを感じさせる(とくに男性としての)生き方、とも言えるだろう。
本書の著者、下河原孝氏はそういった意味ではまぎれもなく「カッコいい」老人である。御年99歳にしてマスターズ陸上へ初参加、さらには101歳にして投擲系2種目においてマスターズ世界記録を樹立し、103歳の現在は3種目の世界記録ホルダー。1世紀を生きてなお、競技の世界にチャレンジし記録を打ち立てている人、ということでさぞやストイックな求道者を想像するかもしれないが、さにあらず。「自分の身体をよく知ること」「やり過ぎないこと」を信条とし、年を取るほど記録が伸びる自らの身体を「自分でもおかしいと思います」とサラリと言ってのける。行きつけのスナックでは100歳過ぎであることをネタにただ酒をご馳走されることを楽しんでしまう。かと思いきや、趣味を持つことや感謝の心といった普遍的なものの大切さをこれまたサラリと述べることもできるその姿には、文字通り洗練され、さばけている「ダンディで伊達」な男ぶりを垣間見ることができると言えるだろう
老いも若きも、「カッコいい」生き様の参考となること請け合いの一冊である。
(伊藤 謙治)
出版元:朝日新聞出版
(掲載日:2012-10-13)
タグ:マスターズ
カテゴリ 人生
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舞踊・武術・スポーツする身体を考える
中村 多仁子 三井 悦子
身体体験や感覚を言説化・言語化することの難しさは、スポーツに携わる者でなくとも日常生活の中でしばしば感じることである。病院で医師に症状を説明するとき、ブティックで服を試着したときetc…。だからこそ、擬音やボディーランゲージを多用した長嶋茂雄のバッティング指導などがユニークに紹介されたりもするのだろう。
本書はスポーツや舞踊、武術を主な素材に、それぞれのフィールドの専門家がそうした身体感覚の言語化を試み、語り合った14時間に及ぶディスカッションの様子を記録した一冊である。
とくに、女子体操で2度のオリンピックに出場、メダルも獲得しているだけでなく現在は地唄舞の名手としても名高い中村多仁子氏の数々のエピソードやそれに基づく発言は非常に興味深い。金メダリストのベラ・チャスラフスカも評価した、日本的で抽象化された動きの分節や表現、そのチャスラフスカなどとは対極にある「体操の技をする体型」につくり上げられたコルブトら東欧の選手の身体への違和感、そして地唄舞における所作や動作感覚といったものから世阿弥の『風姿花伝』の解釈に至るまで、難しい表現を用いることなく丁寧に解説、言語化してくれている。
素人に毛が生えた程度とは言え、舞踊やスポーツを学んだことのある身としてもそうした作業の難しさをしばしば感じていただけに大いに納得させられる表現が多かった。
また、冒頭から語られ、ディスカッションを通じてのキーワード、キータームともなっている「主体的に○○される」という一見矛盾しているかのような言葉も、スポーツや舞踊のみならず、時には生活全般においても当てはめることができる事象の捉え方として深く印象に残るものである。
いずれにせよ、スポーツ科学、とくにストレングス&コンディショニングやフィットネスと呼ばれる世界に身を置くわれわれ指導者にとって、数字や映像といったデータが重要な事は言うまでもないことだが、こうした「言語」もまた避けて通れない領域なのだと改めて考えさせられる一冊である。
(伊藤 謙治)
出版元:叢文社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:舞踊 武術 身体
カテゴリ 身体
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パワー獲得トレーニング よくわかるプライオメトリクス
有賀 誠司
「ストレッチ=ショートニングサイクル(SSC)を含む予備伸張または反動動作を用いて行われる、素早くかつパワフルな動作」(NSCA 決定版ストレングストレーニング&コンディショニング)と定義され、とくに競技力向上を求めるアスリートの間などではポピュラーに行われているプライオメトリクストレーニング。が、当然のことながら一般の人々はこうした説明をされてもピンとこないはずである。
一方で、「短時間内に最大の力を発揮する能力(爆発的パワー)を高めるための効果的なトレーニング法」(本書)という一説とともにサッカーやバスケットの競技動作のイラストや写真、さらには「爆発的パワー≒一般に言われるところの瞬発力」、といった説明まで添えられていたらどうだろう。少なくとも中高生の部活指導を担当する人や駆け出しのフィットネス指導者などは遥かにそれをイメージしやすいのではないだろうか。
本書は、そうしたわかりやすくかつ詳細な、おそらく我が国で初といってもいいであろう、一般の人も手に取れるプライオメトリクストレーニングの専門解説書である。著者は日本トレーニング界の第一人者、東海大学の有賀誠司助教授(当時、現在は教授)。冒頭で著者自身も述べているように、「専門用語が多く、非常に難解であった」プライオメトリクストレーニングを、豊富な写真とともに精選されたエクササイズ、付属のDVD、そして氏ならではの平易な言葉による解説で文字通り「分かりやすい」ものにしてくれている。
さまざまな科学的背景やエビデンスと切っても切れない関係にあるトレーニング業界だが、ともすればそれに固執するあまり「象牙の塔」から見下ろしているかのようなスノッブな解説に陥ってしまう危険性とは常に隣り合わせである。商品価値を持たされ、流行になってしまうトレーニングメソッドなどはとくにその傾向があるとも言える。
第一人者自らが「らしい」スタイルでそうしたリスクに対しても揺るがぬ姿勢を示してくれているようにも感じられる、嬉しい一冊である。
(伊藤 謙治)
出版元:新星出版社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:プライオメトリクス
カテゴリ トレーニング
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秘する肉体 大野一雄の世界
大野 慶人
洋の東西を問わず、バレエや日舞などクラシカルなものから枝分かれして沢山のモダンなジャンルを生み出してきた舞を「舞踊」とするならば、「舞踏」の世界は何がクラシカルで何がモダンなのか、そもそも進化や変化という時系列ありきの概念が当てはまるのだろうかという疑問すら湧き上がるジャンルである。が、そうした命題をも抱えこみながら、日常に対する非日常(ハレ)を象徴する表現手段としてこちらもまた現代に生き残り続けている。
今年で104歳(!)を迎える大野一雄は、その舞踏の分野において文字通り日本が世界に誇る表現者の一人である。その名は知らずとも、女性ものの衣装を身にまとい、白塗りの姿で鬼気迫る舞を見せる熟年男性の写真などを目にしたことがある人も少なからずいるのではなかろうか。
私はジャズダンスを学んでいたが、映像を通じて初めて目にしたその印象は、「いくらエキセントリックな外見をしていようとも…これは、高度な技術や表現意志を併せ持つ完成された『舞』にほかならないな」というものであった。対極に位置するとも言える西洋舞踊を、それも学びたての若造が今思えば格好つけたコメントもいいところだが、受けた印象は少なくとも的を外れてはいなかった、とこの写真集を見た今、改めて認識している。
舞踊の技術に「アイソレーション」や「軸」というものがあり、前者は、ジャズダンスなどでよく用いられる身体の各パーツを分離して動かすテクニック、後者は読んで字の如し、身体重心としての軸をとらえる技術として知られている。大野一雄の舞は、一目見ただけでそれらがはっきりと見て取れるのだ。そして、それら技術という土台の上に、あるいは逆に技術を支える土台として、写真集からも見られるほとばしるような表現への意志、空間をつかみ、切り取るかのような指先や視線の力が美しく織り込まれているのである。
舞という字は本来、「見え『無』い神のために踊る」ということを表すために、無の下に足を表すつくりを付加したものとも言われる。何もない空間をつかみ取るかのような大野一雄の『舞』は、姿なきものへの祝祭、ハレの表現としてのそれを最もわかりやすく提示してくれているのかもしれない。それを垣間見ることのできる写真集である。
(伊藤 謙治)
出版元:クレオ
(掲載日:2012-10-13)
タグ:舞踏 写真集
カテゴリ 身体
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黒人リズム感の秘密
七類 誠一郎
その呼称が適切かどうかはさておき“黒人”と聞いて世の中の多くの人々が思い浮かべる彼らの長所は、優れた身体能力やリズム感、長い手足と美しいプロポーションなどなどであろう。もちろん実際には千差万別で、黒人でも運動の苦手な者もいれば日本で言うところのメタボリック体型の者もいるわけだが、黒人アスリートやミュージシャンの素晴らしいパフォーマンスを見るにつけ、やはりこうした最大公約数的なイメージは的を射ていると言える。
本書はその中でも、彼らの優れたリズム感を自らの専門分野であるダンスを通じて考察し、『インターロック』や『パルスリズム』という後天的に獲得可能なスキルとして理論化している。実際、とくに後半のスキル解説などはダンスをかじった者としてもうなづける部分が多く、さすがは現場でトップクラスとして活躍するダンサー兼コレオグラファー、と納得させられる。
が、だからと言うべきか、あえてと言うべきか、われわれスポーツ科学分野の人間としてはついつい求めたくなるエビデンスの報告は本書内にはない。数値化・視覚化されたおなじみのデータやグラフといったものは皆無といってもいい。このことは著者であるトニー・ティー(七類誠一郎氏、れっきとした日本人であり、運動生理学の修士号も持っている)自身も断っており、「データを揃えることの大切さも重々承知している。(中略)しかし、これはこれでよいと思っている。私はダンスの実践者だ」という一節が最終章で潔く語られている。
トレーニング指導というジャンルにおいて、同様に現場の「実践者」として活動させていただいている身としては、この潔い一言にこそ大いに共感させられた。研究報告と実践報告の違いをしっかりと踏まえたうえで、それでも「着眼点と発想は我ながら秀逸であると自負している」と、堂々と世に問うスタンスは昨今のトレーニング界でよく見られる、そうした自覚すらなくビジネス優先で喧伝されるメソッドやギアとは一線を画すものではないだろうか。
独特の語り口に好き嫌いは分かれるかもしれないが、ストレートなタイトルも相まって、本当に“潔い”一冊である。
(伊藤 謙治)
出版元:郁朋社
(掲載日:2012-10-14)
タグ:リズム感
カテゴリ 身体
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「体幹」ランニング
金 哲彦
一昔前までは、一部アスリートや指導者、トレーニング愛好家にしか馴染みのなかった感のある「体幹」という言葉だが、現在では一般のフィットネス現場においても形を変え品を変え、頻繁に耳にする。部活動の練習で顧問の先生が「もっと体幹を安定させて!」などと声をかける場面や、フィットネスクラブで「コア(体幹)○○」と命名されたスタジオレッスンに接したことのある人は少なくないだろう。
本書もそんな「体幹」を身近なテーマとした一般ランナー向けのランニング指導書である。著者はさまざまなメディアでもお馴染みのランニング指導の第一人者、金哲彦氏。氏のマラソン中継での解説などと同様、一般ランナーの目線に立った平易で分かりやすい語り口で、ランニングにおける体幹の重要性やそこを上手に使うためのトレーニングなどを解説してくれている。
とは言え、多くの一般ランナーにとっては体幹を意識して走る、といきなり言われてもなかなかピンとこないであろうし、昨今のランニングブームの中でもそうしたフィジカルな部分とテクニカルな部分双方に興味を示している人はまだまだ少数派だろう。ともすれば、文字通り(?)「コア」なランニングファンのための一冊になってしまう可能性もある。が、本書はその部分を豊富な写真やイラスト、日常生活の中で行えるエクササイズ紹介などをふんだんにちりばめることによって回避し、むしろその入り口のハードルを下げることに成功している。言わば、「難しいことを簡単に伝える」というスポーツ指導、トレーニング指導の現場における恒久的な課題を軽快にクリアしているのである。
一方で、フォースプレートによる接地時間の計測データや、3カ月ピリオドでフルマラソン向けに期分けされたトレーニングプログラムなどが掲載されている点も大きなポイント。こういった部分は先ほど述べた「コア」なランナーも十分興味をそそられる内容のはずである。コストパフォーマンス(1200円)という面から見ても、多くの一般ランナーに対しての「推薦図書」として紹介したい一冊。
(伊藤 謙治)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-15)
タグ:ランニング 体幹
カテゴリ 運動実践
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これ一冊でわかる 着衣泳実技トレーニング
荒木 昭好 野沢 巌
“着衣泳”という単語は多くの人にとっては耳慣れない言葉かもしれないが、服を着たまま泳ぐこと、と聞けばおそらくは容易に水難事故のシチュエーションをイメージできるであろう。本書は水中で自らの生命を維持するための、文字通りサバイバル・スイミングとしての着衣泳指導書である。
猛暑に見舞われた今年も各地で水難事故が発生しているが、そうでなくとも水辺であればさまざまなシチュエーションで水難に遭遇する危険性は存在する(ちなみに2009年を通じての全国での水難事故発生件数は1540件)。そうした際に、サバイバル・スイミングとしての着衣泳を経験しておけば「なんらかの対応ができる可能性が高まる」(本文第1章より)のは自明の理である。
そもそも、着衣で水に落ちたらどんな状態になるか? どんな泳法でどのように泳いだらよいか? 水中での脱衣は必要か? etc…といった点についての知識や経験がわれわれ一般人は余りにも少ない。水泳そのものの教育は学校体育や全国のスクールで盛んに行われているのにもかかわらず、である。本書の序盤から語られている通り、着衣泳の練習をプールで行っても水質衛生面ではなんら問題ないことなども踏まえて、学校や施設側は積極的にこのサバイバル・スイミングの練習を取り入れてもよいのではないだろうか。
本文中ではこのほかにも、教科書の入っているバッグが水に浮くことやTシャツやジーパンなどさまざまな衣服の水中における重量変化データ、水着と着衣での泳距離比較など、知識として知っておけば実際のサバイバル・シチュエーションで大きな助けとなるであろう内容が段階を踏んだ技術指導解説に加えてふんだんに盛り込まれているのもありがたい。
近年、CPRとAEDの普及でスポーツイベントのみならず日常のさまざまな場でも九死に一生を得た事例が報道されているが、戦国の昔から“日本泳法”として息づいてきた歴史のあるこの着衣泳も、そうしたサバイバル技術として普及が望まれることを改めて感じさせてくれる一冊である。
(伊藤 謙治)
出版元:山海堂
(掲載日:2012-10-16)
タグ:着衣泳
カテゴリ その他
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間の取れる人、間抜けな人 人づき合いが楽になる
森田 雄三
「コミュニケーションが大切だから」「もっとコミュニケーションを取って」云々という言葉をよく耳にするのは私だけではないだろう。が、そもそも世の中で大安売りされているこの“コミュニケーション”とは一体何だろう? ただ単に“会話”や“対話”と同じ意味で用いられているような場合も少なくないのではないだろうか?
試みに辞書でcommunicationという単語を引いてみる。「伝達、通話、文通、交通」といった意味がずらりと並んでいる。さらにその語源をインターネットで調べてみると(これもまた現代ならではの“コミュニケーション”ツールである)、「分かち合う、共通の」もしくは「交わる」といった意味のラテン語が元になっていることが分かる。すなわち、communicationとは本来、双方の認識を共有しそれらを相互伝達する(しようとする)ということにほかならないわけで、そう考えると別個体のヒトの間でそれを成し遂げようとすることがいかに難しいことか、安易なフレーズの中で乱発していい単語かどうか、ということまで改めて考えさせられてしまうのである。
本書は「間」というものを1つの切り口としながら、ともすればステレオタイプ化しがちなその“コミュニケーション”というものの捉え方に対してプロの演出家がさまざまなアンチテーゼを示してくれる一冊である。曰く、「コミュニケーションとは本来、言葉にしにくいもの」「コミュニケーションは沈黙をメインとした空気のやり取り」といった身も蓋もないような小見出しをはじめ、間や沈黙に腰を据えることや小さな共同体の中で分を知ることなど、現代ではネガティブなものとして避けられがちなこれらの要素こそがコミュニケーションの真の要であるということを、素人をたった4日間の稽古で舞台に上げてしまう自らのワークショップや、盟友イッセー尾形氏の一人芝居を例に取りながら具体的に解説してくれている。
コミュニケーション、コミュニケーションと安易に口にするなかれ。…などと自らを戒めながら、文字通りの「コミュニケーションのプロ」による著作に触れてみるのも秋の夜長にはいいのではないだろうか。
(伊藤 謙治)
出版元:祥伝社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:間 コミュニケーション
カテゴリ その他
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ノルディックウォーキングのススメ
松谷 之義 日本健康スポーツ連盟
日本健康スポーツ連盟 相変わらずの健康ブームであり、運動ブームである。街を歩けば鮮やかなウェアのランナーたちとすれ違い、車を運転すれば颯爽と追い越していくのは自動車ではなくロードバイクだったりする。
1978 年以来の「国民健康づくり対策」によって日本は文字通り国を挙げて健康寿命(介護を必要とせず自立した生活ができる生存期間。日本は世界第一位)の延伸を図っており、とくにウォーキングやランニングといった持続性の高い(とされる)世間で言うところの有酸素運動が推奨されているのはよく知られている通りである。
が、これらを継続してもらうことはフィットネス指導の現場では意外に難しい。たとえば中高年の主婦層を指導対象とした場合、「お買い物で毎日歩いてるから大丈夫よ! ガハハハハ!」と、オバチャンならではの異様な自信と体格で(?)こちらの意図をガブリ寄り、運動の強度も頻度も不足してしまうという悲しい事態が発生したりするのだ(苦笑)。 さて、そこでノルディックウォーキングである。その名の通り北欧生まれのこのユニークなスポーツは、ここ数年、とくにフィットネスや生涯スポーツの分野で大きな広がりを見せており、2007年には国際ノルディックウォーキング協会公認の「日本ノルディックフィットネス協会」も設立されているそうである。
本書では、ストックを用いることにより通常のウォーキングよりも心拍数が24%上昇、身体活動強度は5.2METs相当、などのエビデンスだけでなくアウトドアで行えるグループプログラムとしての利点なども各地でのさまざまな活動報告とともに紹介されている。とくに、第2章でレポートされている高齢者の体力づくり教室やフィットネスクラブのプログラムとしての実践例などは、前述のような悩み(?)を抱える民間フィットネス指導者としても大変興味を惹くものである。
歴史がありフィットネス効果も高いスポーツということで、トップアスリートや芸能人が実践・宣伝すればマラソン同様、瞬く間にブームが巻き起こるかもしれない。文体も平易で読みやすいので「先物買い」ではないが(笑)、入門書として一読の価値ある一冊である。
(伊藤 謙治)
出版元:ぎょうせい
(掲載日:2012-10-16)
タグ:ノルディックウォーキング
カテゴリ 運動実践
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目からウロコのマラソン完走新常識 だから、楽に走れない!
飯田 潔 牧野 仁
マラソンが、依然ブームである。もはやブームを通り越して一種の嗜みと言うかナンと言うか、ある種の習いごとのようなものとして定着してしまった感すらある。都会ではランナーズステーションなるものが設置され、ピアノ教師やバレエインストラクター同様、ランニングインストラクターという肩書きのプロまで活躍中という昨今である。
が、底辺が広がれば、その分悩みの種類も増える。アクシデントも増える。そして、マラソンにおけるそれは「タイムが縮まらない」「足が痛い」といった切実なものから、「似合うウェアがない」「やせない」といった微笑ましい(失礼!)ものまでまさにピンキリなのだ。
本書は、そんなマラソンにおけるさまざまな悩みや“なぜ”に2人のスペシャリストが明快な答えを提示してくれる、How to 本ならぬ裏ワザ本。自らのクラブを「日本一走らないランニング教室」と自負する指導者と「シューズと足とインソールの専門店」の代表者が、文字通り目からウロコの解説とともにマラソンに関する疑問を小気味よく解き明かしてくれている。
たとえば、路上でよく目にするタオルオンネック(タオルを首にかけるスタイル)。こんな些細な事柄に関しても、のっけから正攻法でサラリと解説、注意を促してくれる。また、一方ではシューズ選びの際の「爪先にプラス1cmの余裕を」と言われる定説に対して、豊富な専門的データと実例をもとにしっかりとした否定的見解を示しつつ、ではどうするか? といった点にまで踏み込んでなるほど、というアドバイスもしてくれている。
こうした愛情あふれる専門的解説や根拠のない定説に対するツッコミのオンパレードに通底しているのは、著者たち自身も語る“なぜ?”を大切にする視点や、「マイナスのものをまずはゼロにする」というシンプルなスタンスに他ならない。著者の一人はさらにこうも語る。情報が氾濫する世の中で、「カラダとシューズがあれば気軽に楽しめるスポーツ」だからこそ、そのカラダとシューズを侮らず、正しい知識を持ってほしい、と。
一般から本格派まで、ランナーは読んでおいて損はない一冊。新書判というのも手に取りやすくて嬉しい。
(伊藤 謙治)
出版元:実業之日本社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:ランニング マラソン
カテゴリ 運動実践
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フィットネス・インストラクターの実務
日本エアロビックフィットネス協会
instructor という単語を辞書で引くと、当たり前かもしれないが教授者、教師、指導者etc…といった訳が当てられている。参考までに、coachやtrainer という単語も引いてみる。やはり、指導員や訓練者といった日本語訳が記載されている。慣習的に、とくに一般者を対象とするフィットネス指導の現場においてはインストラクター=スタジオやプールでのレッスン指導者、トレーナー/トレーニング・コーチ=ジムでのトレーニング指導者、といったイメージで分類されてしまっている感があるが、その言葉をこうして改めて見直してみても、同じ“指導者”であるという根本部分はやはり変わらないということが言えるだろう。
本書は、そのフィットネス“指導者”としてのインストラクターの実務・実像をわかりやすく解説したものである。スタジオレッスンはもちろん、アクアレッスン、トレーニング指導などの領域にまたがってそれぞれの職務内容、指導者資格とその認定団体、取得方法とその費用などを具体的な数字や資料をふんだんに用いながら紹介し、アドバイスしてくれている。とくに、養成過程を経て実際にプロとしての現場に立つまでの経緯や指導料金(フィー)の設定と内訳、フィットネスクラブだけでなく公共施設や大学などさまざまな指導現場の実状などなど、逆に先輩指導者や仲間同士では互いに聞きづらいような内容にまでしっかりと踏み込んでくれているのは貴重である。
たとえば、アスレティックな現場に対してフィットネスの現場においては他部署間での指導員の連携(スタジオインストラクターとスイミングインストラクター、トレーニング指導員がクライアントのコンディション情報のやり取りを行うなど)がまだまだ少ないという問題もあるが、各指導職を横断的に解説してくれている本書を参考に、お互いがお互いの背景により詳しくなることはそれらをブレイクスルーするための大きな一助ともなってくれることだろう。
これからこの業界を目指す若者向けと思われがちかもしれないが、われわれのようにすでに現場に立たせていただいている“指導者”も一度は目を通してみることをお勧めしたい一冊である。
(伊藤 謙治)
出版元:日本プランニングシステム
(掲載日:2012-10-16)
タグ:運動指導
カテゴリ 指導
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生涯スポーツ実践論
川西 正志 野川 春夫
スポーツ業界や体育業界との関わりがなくとも、生涯スポーツという言葉を耳にしたことのある人は少なくないだろう。
「生涯にわたる各ライフステージにおいて、生活の質(QOL)が向上するように自分自身のライフスタイルに適した運動・スポーツを継続して楽しむこと」と本書冒頭で著者らも定義しているヨーロッパ生まれのこの概念は、一見当たり前のことに思われるものの、その内側に実に多様な要素や問題を内包している。
たとえば、生涯スポーツを考える上でイメージしやすい様々なスポーツイベントだが、その全国大会とも言える「全国スポーツ・レクリエーション祭」が20回以上にもわたって開催されていることを果たしてどれだけの人が認知しているだろうか?
ほかにも世界各国と我が国の生涯スポーツ政策の違い、青少年や女性、障害者や高齢者との関係、さらにはスポーツ・スポンサーシップや施設(クラブ)マネジメントに至るまで、生涯スポーツを軸に据えながらそこから派生する沢山のトピックを、本書は平易な文章と多くの事例やデータ紹介によりわかりやすく解説してくれている。とくに、2000年からの「スポーツ振興基本計画」に基づき企業や学校主導(社会体育)から地域主導(コミュニティ・スポーツ)へと変遷して行く環境下で大きな役割を果たしている総合型地域スポーツクラブへの詳細な言及は数多く、施設運営面においてはある意味対極に位置しながらも、共存共栄を願って模索を続ける民間スポーツクラブの現場指導者としては参考となる資料や事例が盛り沢山だったことも強調しておきたい。
スポーツ振興基本計画の後を受けるような形で、「スポーツ立国戦略(案)」も文部科学省より発表されたが、その中でも引き続き“ライフステージに応じたスポーツ機会の創造”すなわち、生涯スポーツの機会創造が重点戦略として挙げられている。母体ともなった“スポーツ・フォー・オール”のムーブメントが定着してから30年あまり、我が国の生涯スポーツが進化・定着しようとする重要な時代にわれわれは立ち会えているということも改めて思い起こさせてくれる一冊である。
(伊藤 謙治)
出版元:市村出版
(掲載日:2012-10-16)
タグ:生涯スポーツ
カテゴリ 運動実践
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筋力トレーニング&コンディショニング
廣戸 総一
12年前に出版された本である。著者は、さまざまなメディアで取り上げられて話題にもなった『4スタンス理論』の提唱者、廣戸総一氏。本書は私自身、その昔自らのトレーニングの参考にさせてもらった懐かしい一冊でもある。
格闘技団体パンクラスでの活動(トレーナーとしてのみならず、レフェリーも務める)や『4 スタンス理論』、多くの著書などで一般人には比較的知名度の高い廣戸氏だが、4 スタンスどころかストレングスコーチやトレーナーといったコンディショニング部門におけるサポートスタッフが今よりはるかに職業として確立されておらず、さまざまな情報も入手しづらかった1997年の時点においてどのような内容を記していたのだろうか…と久方ぶりにページを繰ってみたのだが、これが意外にもいい意味で「普通」の内容であった。
投、跳、走などの基礎的な運動動作のメカニズムとそれに関与する筋群のトレーニング紹介、ストレッチやテーピング、簡単な栄養学の基礎知識等を自らが指導する当時のトップアスリートの事例とともに解説している様は文字通り「普通」のトレーニング本である。運動動作時のカップリングモーションや筋出力のタイプ分けを、「シーソー理論」や「腹筋型/背筋型」など独特の言語や分類に落とし込んでいる部分ではオリジナリティを全面に押し出して活躍する著者の現在にもつながる「らしい」部分も垣間見られるものの、全体的な内容は一貫して基本に則したものばかりである。そこに通底しているのはあとがきでも自ら言及している「身体に尋ねてみる」ことの重要性を訴える姿勢にほかならない。
12年前とは打って変わって、様々なメディアがたった一つのコンディショニングプログラムに莫大な商品価値を付与してしまう現代では、ありもしない「究極のトレーニング」が濫造されてしまうことが業界の大きな問題になっていることは度々述べてきた。だが、そうした「メディアで御馴染み」の指導者の一人が12年前の時点でこうした基本を踏まえた一冊を記していることに、業界の末席としてもささやかな安心と喜びを感じた次第である。
(伊藤 謙治)
出版元:池田書店
(掲載日:2012-10-16)
タグ:トレーニング
カテゴリ トレーニング
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ROMナビ 増補改訂第2版
青木 主税 根本 悟子 大熊 敦子
自身にいつも言い聞かせていることの1つに、トレーニング指導員などという職業は、乱暴に言ってしまえば「バーベルの担ぎ方を教えるだけの仕事」だということがある。医師のように直接病気やケガを治療することもできなければ、理学療法士のようにリハビリを通じてその人の命や生活により密接にコミットすることもできない。
むしろ、そうした心身を“治す”人たちの世話になる機会を極力減らせるよう、強い身体を“つくる”サポートをさせてもらうのが、我々トレーナーやトレーニングコーチと呼ばれる専門職であるから、ある意味彼らとは対極の存在であるとも言えるだろう。
が、だからこそ我々はそうした人たちともできるだけ「通訳なし」でやり取りせねばならない。たとえば、自分の担当するアスリートの膝を診てもらった理学療法士から「腹臥位での屈曲を測ったら、軟部組織性のエンドフィールによる可動域制限は少しありましたが、まあ問題ないでしょう」と報告を受けた際に、可動域測定の様子やエンドフィールといった単語を知っているかいないかで大きな差があることは言うまでもない。
トレーニングコーチはメディカルスタッフと同じ仕事はできないし、するべきでもない。だが、同じ言葉で同じ目標に向かう必要があるのだ。
ご存知の方も多いだろうが、coachという語の語源は「(目標に導く)馬車」という意味である。装いも新たになった『ROMナビ』は、医療従事者のみならずスポーツの現場に携わる多くのコーチたちにとって、ますます有用な馬車となってくれるだろう。
(伊藤 謙治)
出版元:ラウンドフラット
(掲載日:2013-11-18)
タグ:測定 リハビリテーション 関節可動域
カテゴリ スポーツ医学
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