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ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。

からだことば
立川 昭二

 身体感覚と、言語、文化との結びつきを、豊富な例を駆使しながら話し言葉で解説している。民族独自の身体感覚が表れている例として、日本人は肩がこり、アメリカ人は首がこり、フランス人は背中がこると言う。肩に対しての意識は、日本人において強い。「肩にかかる、肩身が狭い、肩を持つ、肩書き」など。こうした問題を、歴史的に分析し、現代社会を読み解いている。
 痛みについての表現でも、日本では擬態語を使ったズキズキ、キリキリ、シクシクという表現を共有している。そして、痛みがあって初めて内臓や骨を強く意識する。痛み自体が、身体からの自己表現手段になっている。痛みそのものは、他人には理解できない。自分が痛みの体験をもっているから、他者の痛みを理解できるのである。その感覚をお亘いに知っているからこそ、人間的な関係が築けるのではないかと言う。
 しぐさや言葉の使われ方を丁寧に観察し、考えを進めていくことで、これほど豊かな世界が広がっていたという新鮮な発見が得られる書である。言葉の使い方や目の向け方に少し気を使うことで、相手とのコミュニケーションは豊かに円滑になるかもしれない。それは医療でもスポーツでも会社でも同じである。著者は、医療では患者に専門用語を使うべきではないと言っている。せめて看護師が、医師の言葉を翻訳して伝えたほうがよいだろうとも言い、「医療が変わるには、まず医療の言葉がかわらなくてはなりませんね」。
 言葉と身体感覚については、もつと切実な思いを持っている方も多いだろう。
現代社会でだんだんと失われていった身体に関する知恵が、今もなおしぐさや言葉に色濃く残っている。それは文化の財産としてこれからも生かすことができるはずである。
(清家 輝文)

出版元:早川書房

(掲載日:2002-12-15)

タグ:身体 文化 
カテゴリ 身体
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病院の内側から見たアメリカの医療システム
河野 圭子

 著者は、日本の薬学部を卒業後、製薬会社に勤務したのち、ワシントン大学大学院医療経営学部を卒業、病院経営のプロとしてアメリカで様々な経験を積んだ。その経験から書名通りの内容を記したのが本書である。
 日本は多くのことをアメリカに学んできた。現在でも、経済や政治はもちろんスポーツでもアメリカが最大の情報源であり、「お手本」にもなっている。
 アメリカに偏りすぎるという批判が多く出てきているが、アメリカの医療システムを学ぶことは日本の医療を考えるとき必ず参考になる。「病院の内側から見た」というところがミソで、「医療においてアメリカはどうなっているのか」という疑問を持つ人には、とても面白く、ためになる本である。
(清家 輝文)

出版元:新興医学出版社

(掲載日:2002-12-15)

タグ:医療 アメリカ 
カテゴリ 医学
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自分の頭と身体で考える
養老 孟司 甲野 善紀

 99年に単行本として出版されたものの文庫。養老氏と甲野氏の対談は比較的多いが、解剖学者と武術家という対比から生まれる世界が面白いからだろう。
「体の各部分がなるべく細かに割れるようにして、その割れた身体をちょうど泳いでいる魚の群れが瞬時に全員が方向転換しているような感じで体じゆうを同時に使うんです」。抜刀術での甲野氏の説明である。従来の型にはまらない、自分なりに到達した境地を語っている。そしてその言葉を、養老氏は自分なりに理解し、解剖の分野から目と脳の働きと合わせながら説く。「同時並行でいくつかのものが動いているわけでしょ。それは目が一番得意にしていることなんですね」
 養老氏はこうも言っている。「今、教育をしていて、僕も一番因るのは『先生、説明して下さい』という学生ですね。『説明して下さい』ということは、説明されればわかると思っているということですよ」。
 説明と理解、その構図では言葉が神様である。身体、からだはどこにあるか。解剖学の身体、武術でのからだ。対談をきっかけに、自らの身体で考えていくのも面白そうだ。
(清家 輝文)

出版元:PHP研究所

(掲載日:2002-12-15)

タグ:身体 解剖 武術 
カテゴリ 身体
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人生改造 生活習慣病を防ぐ本
日野原 重明

 著者は、今話題の人、『生き方上手』という本を著した聖路加国際病院理事長である。
 この本を読んで初めて知ったが、「生活習慣病」という言葉について、著者は四半世紀も前に、「大人の慢性に経過する疾患」をそう呼ぶべきだと主張してきたという。「その理由は、大人の慢性病の多くは若い時からの生活習慣の誤りによってつくられるということを、健康である人にも理解してもらい、生活習慣病をどのように予防し、健康に対しどう責任を持つのかを、社会一般の人々に認識してもらいたかったからです」
 従って、本書で述べられていることは、医学的なことばかりではない。「私の習慣論では、友達の持ち方、医師の選択の仕方も習慣によるものであり、良き選択習慣をつけることによって人生はさらに豊かになると思っています」と記されているように、食べる習慣、睡眠の習慣、運動の習慣のほか、考える習慣や医師の問診の受け方なども含まれている。
「人生のすべては、努力して体得した習慣の産物だと思います」と言い、「自分をデザインする」というキーフレーズも登場する。すぐに読めるし、何度でも読める本である。
(清家 輝文)

出版元:幻冬舎

(掲載日:2003-03-15)

タグ:生活習慣病 
カテゴリ 医学
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コーチ論
織田 淳太郎

 ちょっと書店に出かけてみると、ビジネスコーナーには「コーチ」とか「トレーニング」という文字が溢れている。指導して、能力を引き出すことがビジネスでも求められている。
 もちろん、本書はビジネスものではない。あくまでスポーツのコーチ論だが、むしろコーチング論と言ったほうがよいかもしれない。著者は、スポーツライターでノンフィクション、小説の両分野で活躍とある。そういう人がこの分野を書くとどうなるか。
 全6章で、「“頑張らない”ことが潜在能力を引き出す」「間違いだらけのコーチング」「日本人が捨てた究極の“走り方”」「メンタルトレーニングの真贋」「誰も教えてくれないバッティング常識の嘘」「やる気を引き出すコーチング」の順である。スポーツ科学的情報も多いが、結局コーチとは何なのか、今日本のスポーツあるいは社会が考えるべき材料にも満ちている。
(清家 輝文)

出版元:光文社

(掲載日:2012-10-08)

タグ:コーチング コーチ 
カテゴリ 指導
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転倒予防教室 第2版
武藤 芳照

 副題は「転倒予防への医学的対応」。東京厚生年金病院で開催されている転倒予防教室の5年間の集大成である。初版は1999年。丸3年で第2版が出た。
 転倒についての定義、骨粗鬆症との関連など、転倒の原因や特徴、医学・科学的側面を述べ、転倒によって生じる医療経済面での影響を調査。そのうえで、転倒予防に向けてどのようなアプローチをつみ重ねてきたのか、転倒予防教室における実際の活動の中で得られた、貴重な具体的事例に沿った形で述べられている。
 いかにして事故の危険を回避しながら、最大の効果を生み出していくかについて、数々の失敗例が挙げられているのを読むと、スタッフの試行錯誤してきた様子がよくわかる。また、転倒予防教室という場を、よりよいものに育てていこうとするには、内科医、整形外科医のみならず、 運動指導士や看護師、理学療法士など、多岐にわたる専門家の多角的なサポートが必要不可欠であったことも読み取れる。
 これを反映して、本書も医師のみならず、看護師、理学療法士、健康運動指導士、教育関係者、事務関係者など幅広く、実に約40人の執筆・執筆協力者の手によってまとめられている。
 この教室については、月刊スポーツメディスン34号で紹介したので、そちらも参照していただきたいが、スポーツ医療が高齢社会に大きく貢献できる分野としてこの転倒予防が挙げられる。ますます、この分野の研究や実践は盛んになるだろうが、転倒予防教室の最終的な目標は転倒予防を越えたところにあると思わざるを得ない。
(清家 輝文)

出版元:日本医事新報社

(掲載日:2003-03-15)

タグ:転倒予防 
カテゴリ 医学
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高齢者さわやか体操
石井 紀夫 石井 千恵

 高齢者の健康づくりに携わる人向けの、指導を行ううえで知っておきたい基礎知識と体操の実技をまとめたもの。基礎知識編では、高齢者の性格の変化や、痴呆高齢者への対処、介護保険制度について分かりやすく書かれている。コミュニケーションの取り方のコツや心構えがきめ細かく記述され、著者らの高齢者に寄り添う様子がうかがえる。
 実技編では、用具の呼び方が非常に面白いのだが、「お団子ボール」(ハンドエクササイザー)や「なると棒」(フレックスバー)を利用した低負荷で楽しめる範囲のエクササイズを紹介している。他にも、顔や手、足指の体操、さらに月刊スポーツメディスン連載でもおなじみのチェアエクササイズ、水中運動にフラダンスを取り入れたアクアフラダンスが紹介されている。
 また青竹やフィットネストビナワ、うちわを利用した体操や、盆踊りとパラパラを融合した盆パラビクスなど、読んでいるだけでも楽しそうなエクササイズの実例が示されている。
 どの実技においても、言葉がけのポイントなどに参加者にとって精神的負担にならないような考慮が感じられる。また、それぞれの担当者による示唆に富んだコラムも掲載。指導経験豊富な執筆者たちらしい1冊。
(清家 輝文)

出版元:金原出版

(掲載日:2012-10-08)

タグ:体操 高齢者 
カテゴリ 運動実践
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日野原重明の自分で測る血圧Q&A
日野原 重明

 今月の特集(月刊スポーツメディスン49号)にちなんで選択した。
 日野原重明氏が理事長を務める(財)ライフ・プランニング・センターでは、1980年から血圧測定について自分で自分の血圧を測る技術を指導し、血圧と身体の関係に関する教育を行い、自己血圧測定の普及を図ってきた。正しい血圧測定方法を身につけた人には「血圧測定師範」の資格を与えて、同センターの活動にボランティアとして参加している。1987年に手引書『名医が答える血圧何でもQ&A』を発行。その改訂版と言える書である。
 100問の質問に答える形で、血圧とは何か、ということからわかりやすくまとめられている。
 正しい測り方の解説では、水銀式、アネロイド式(空気圧と圧力計で測定するもの)、電子血圧計のそれぞれの特徴と、実際の測定方法や注意が網羅されている。
さらに、日常生活で注意すべき点や、食事・トイレ・入浴・飲酒・喫煙と血圧の関係など、ちょっとした疑問に丁寧に答えている。薬物療法は一生続けないといけないのか、という不安にも答えており、血圧に関する全般的な疑問が解決される。極めて実践的な書である。
 血圧は、全身の健康状態を、食生活や生活習慣も含めて反映していると考えられる。また、現在は自動血圧計の発達で手軽に家庭で測定ができるので、高血圧の人は自分で生活をコントロールしやすいし、健康な人もバロメーターとしてチェックすることができる。
 日野原氏が言っているように、体重計、体温計、血圧計があれば家庭でかなりの自己管理ができるだろう。
(清家 輝文)

出版元:中央法規出版

(掲載日:2012-10-08)

タグ:血圧 健康管理 
カテゴリ 医学
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免疫革命
安保 徹

 著者は新潟大学医学部教授で1980年に「ヒトNK細胞抗原CD57に対するモノクローナル抗体」を作製、89年、それまで胸腺でのみつくられるとされていたT細胞が、肝臓や腸管上皮でもつくられていることを突き止め、胸腺外分化T細胞を発見。96年、白血球の自律神経支配のメカニズムを解明、00年には100年来の通説である胃潰瘍=胃酸説を覆す顆粒体説を発表という世界的免疫学者である。これは「著者紹介」に記されているところだが、この全体をわかりやすく説明したのが本書でもある。
「免疫療法が注目を浴びる一方で、現代医学は病気の治療に芳しい効果を上げているように思えないのが現状です。遺伝子だ、ゲノムだ、タンパク分子解析だ、と人間の身体のとてつもなく微細なしくみを解明する分野で、現代医学はたしかにめざましい成果をあげてきました。しかし、それらが直接的に、治癒をもたらす医療に反映されたという例が、ほとんど見あたらないのです。現代医学は病気を治せない、と非難されてもしかたがない状況にあると思います」と序文で述べる著者は、病気の本当の原因はストレスだとし、自律神経は、交感神経と副交感神経のバランスで成り立っている。しかし、精神的・肉体的ストレスがかかると、そのバランスが交感神経優位に大きくぶれ、それが白血球のバランスをくずして、体内の免疫力を低下させると説明する。終章「健康も病気も、すべては生き方にかかっている」を読むと、病気にならず、健康に生きるにはどうすればよいかを教えられる。
(清家 輝文)

出版元:講談社インターナショナル

(掲載日:2004-07-15)

タグ:免疫  
カテゴリ 身体
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愛づるの話。
中村 桂子

 『季刊 生命誌』をカードとWebで発行し、最後にまとめる。これはその2冊目。編集の中村さんは、大阪府高槻市にあるJT生命誌研究館(10年前に創設)の館長である。東京大学理学部化学科の出身で、生命科学が専門だが、生き物の歴史とでもいうかBiohistory(生命誌)という概念を打ち出し、言論活動も盛んに行っておられる。
 さて、この号のテーマは2つ。「愛づる」と「時」である。前者は中村さんとの対談が4つ。哲学者の今道友信氏との「讃美と涙が創造の源泉」、生物学者で前JT生命誌研究館館長の岡田節人氏との「生物学のロマンとこころ」、美学・美術史が専門で京都大学大学院教授、同大学附属図書館館長の佐々木丞平氏との「生を写す視点」、生命基礎論(複雑系)の金子邦彦氏との「生命──多様化するという普遍性」である。
「時」のほうは、「時を刻むバクテリア」(岩崎秀雄)を始め9つの論文で構成されている。最後にScientist Libraryというタイトルで、本庶佑氏ほか4人の科学者の生い立ちや研究内容が興味深く紹介されている。
 柔らかい知性というべきか、「蟲愛づる姫君」から「愛づる」をキーワードに選んだ中村さんの感性に気分よくひたれる。いつまでも読んでいたくなる。
(清家 輝文)

出版元:JT生命誌研究館 新曜社

(掲載日:2004-07-15)

タグ:対談 生物学 生命 時間 
カテゴリ 生命科学
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やわらかな遺伝子
マット リドレー 中村 桂子 斉藤 隆央

 原題は「nature via nurture」、つまり「生まれは育ちを通して」と訳される。原題には副題もあり、こちらは「Genes, Experience and What Makes Us Human」(遺伝子、経験、そしてわたしたちをヒトたらしめるもの)である。
 遺伝子について加速度的に解明が進むことにより、遺伝子決定論的言説も出てくる。一方で、育ち(環境)の影響も大であり、「生まれか育ちか(遺伝か環境か)(nature vs nurture)」、いずれが決定的なのかという論戦が繰り広げられることになる。
 それでも著者は、「生まれか育ちか」ではなく、「生まれは育ちを通して」現れるという説を採る。「遺伝子の活動が最初から決まっているとは言えない。むしろ、遺伝子は環境から情報を引き出す装置なのだ」「美は『生まれ』なのである。だが同時に『育ち』でもある。食事や運動、清潔さや事故なども身体的な魅力に影響を及ぼしうるし…」「『育ち』は出生後で『生まれ』は出生前のものという誤信にある」。この引用で輪郭は理解していただけるであろう。
 だが、興味深いことに訳者は『やわらかな遺伝子』という書名をつけた。訳者はこう言う。その理由のひとつは、英語のnature via nurtureという語呂のよさが訳出できないこと、もうひとつは「生まれという言葉には、すでに遺伝子決定論の匂いがついており、本書で扱っている“環境に対応して柔軟にはたらく遺伝子”というイメージはこの言葉からは生まれそうにないこと」である。
 遺伝子のことがわかればわかるほど、環境や運動がいかに大事かもわかるのである。

マット・リドレー著、中村桂子・斉藤隆央訳
(清家 輝文)

出版元:紀伊國屋書店

(掲載日:2012-10-09)

タグ:遺伝子 
カテゴリ 生命科学
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スポーツ倫理学講義
川谷 茂樹

 まず「倫理学」で躊躇する。「講義」で、う~んと思う。それに「スポーツ」がついているので、「ま、読んでみるか」と開いた。ところがである。「これは」と思い、ついに読みきることとあいなった。以降、「この本、読んでおいたほうがいいよ」と各方面に薦めることになる。
 冒頭、著者はこう言う。
「スポーツの存在がたとえ自明の事実であるとしても、スポーツそのものは必ずしも自明ではない。別の言い方をすれば、一度考え始めるとなかなかうまい解答が見つからない、多くの問題がスポーツには存在する」
 その問題とは「相手の弱点を攻めるのは卑怯なことなのか」「いついかなるときもルールを守らなければならないのか」「格闘技などで暴力が容認されているのは、なぜか」「ドーピングはなぜ悪いのか」である。「これらの問いは、総じてスポーツに関わる行為の道徳的善し悪し、あるいはその根拠への問い、すなわち倫理(学)的な問いである」
 本書は、スポーツマンシップについて3講義、スポーツと暴力、スポーツの本質、スポーツの周辺、スポーツの「内」と「外」の各講義、計7講義からなる。スポーツマンシップとは勝利の追及が大原則と言う著者の切れ味は鋭い。「スポーツとは何か」が本書の大きな問いだが、哲学者がそれを考え、答えている。刺激に満ち、再び考える芽をいくつも伸ばしてくれる1冊。改めてお薦めしたい。
(清家 輝文)

出版元:ナカニシヤ出版

(掲載日:2012-10-09)

タグ:スポーツ倫理 倫理学 
カテゴリ その他
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老人自立宣言!
村山 孚

 70歳代末に『明るくボケよう』という本を書いた著者の最新刊書。「介護制度が整えば整うほど、老人自身がそれに見合った『自立の心』を鍛えておかないと、心身ともにひ弱な老人になってしまう」という著者は今80歳代半ばで、中国研究家でもあり、至るところに中国での経験や古典の話が出てくる。何十冊もの本を書いてきたなかで、この本が一番楽しかったとか。
「心身の衰えとともに、残念ながら身も心も他者の支えを必要としてくる。…だが、その現実のままに流されていたら『老い』のつらさは増すばかりだ。ここは人生の最後のふんばり、痩せ我慢の抵抗精神で『自立』をめざそう」(本書より抜粋)
 そして、「やはり、老い方には五十代の準備体操、六十代の助走がものをいうようである」という。著者はこうして「老人自立宣言全文」を記すことになる。全6項目。一、感謝はするが甘えず、心の自立を忘れまい。二、身も心もシャキッとしよう。三、自分の体、自分が責任を持とう。四、好奇心を持ち続けよう。五、自信を持て! 自分にしかできないことがある。六、「死」に馴染んでおこう。
 誰でも歳をとり、やがて死ぬ。できればこういう本を読むか書くかしてから旅立ちたいものです。
(清家 輝文)

出版元:草思社

(掲載日:2012-10-09)

タグ:高齢者 
カテゴリ その他
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養生の実技
五木 寛之

 「角川oneテーマ21」の1冊。副題は「つよいカラダではなく」。五木寛之と言えば『青春の門』や『風に吹かれて』また最近では『大河の一滴』や『他力』などでよく知られているが、二度休筆宣言し、龍谷大学で仏教を学び、現在は『百寺巡礼』という大きな仕事に取り組んでいる。
 その五木氏が、新書でみずからの「養生観」を語ったのがこの本。文章の平明さの一方で、思索と経験の深さをみることができる。
 弱いことや不安などを「悪いこと」として捉えない著者の言うことは世間とは逆のことも多いが、よく考えられた裏づけがある。
「歩くときは、あまり颯爽と歩かない。反動をつけずに重心の移動で進む」「中心は辺境に支えられる。心臓や脳を気遣うなら、手足の末端を大切に」「入浴は半身浴にする。体をあまり洗わないことが大事」「一日に何回か大きなため息をつく。深く、たっぷりと、『あーあ』と声をだしながら。深いため息をつく回数が多いほどよい」「あまり清潔にこだわっていると、免疫力が落ちる」「病院は病気の巣である。できるだけ近づかないほうがよい」
 これらは巻末に収められた「わたし自身の体験と偏見による養生の実技100」からの引用。仕事に追われ、未処理のものが多い人には「やったほうがよい、と思いつつどうしてもできないときは、いまは縁がないのだ、と考える。そのときがくれば、やらずにいられなくなるのだから」というものもある。
 気持ちが楽になる。からだを慈しもうと思うようになる。そういう本だ。最後に著者はこう言っている。「あす死ぬとわかっていてもするのが養生である」。
(清家 輝文)

出版元:角川書店

(掲載日:2012-10-09)

タグ:健康 養生 
カテゴリ 身体
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危ない!「慢性疲労」
倉恒 弘彦 井上 正康 渡辺 恭良

 書名は「慢性疲労」だが、「慢性疲労症候群」についても詳しく述べられている。「慢性疲労」は自覚的症状が半年以上続いていても、日常生活には特に支障をきたさないもの。一方の「慢性疲労症候群」は疲労を併発する他の疾患がなく、日常生活を送るのが極めて困難な疲労感が6カ月以上続いているもので、1984年にアメリカ・ネバダ州で集団発生した原因不明の病態に対して命名された比較的新しい概念だそうだ。
 これといった病気がないので、さぼっているとか、怠けていると思われることもあるが、元気で働いていた人が風邪を引いたあとにかかることもある。専門家でないと診断も難しいようで、「特に異常なし」と言われるものの極度の疲労感は続く。
 日本では、1991年に厚生省の慢性疲労症候群研究班が発足、世界をリードする研究が行われてきた。特に、1999年から始まった本書の著者である渡辺、倉恒氏らの「疲労の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」はパイオニア的研究として国内外から注目され、2005年2月には日本で第1回の国際疲労学会が開催される予定である。厚生省疲労研究班が1999年に調査した結果では、疲れやだるさを感じている人は59.1%、そのうち疲労感が6カ月以上続いている人が35.8%だった。この本で基本的知識を持っておきたいものだ。

2004年10月10日刊、714円
(清家 輝文)

出版元:日本放送出版協会

(掲載日:2012-10-09)

タグ:疲労 慢性疲労症候群 
カテゴリ 医学
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介護と建築のプロが考えた「生活リハビリ」住宅
三好 春樹 吉眞 孝司

 バリアフリーという言葉はすっかり定着し、その意味を知らない人は少ないだろう。だが、ではそのバリアフリーはいかにあるべきかとなるとよくわからない。
 この本は副題として「バリアフリーは間違っている」と記されている。著者の三好氏は、特別養護老人ホームの生活指導員となり、その後理学療法士の資格を取り、85年に退職、現在は「生活とリハビリ研究所」を開設している。もう1人の著者である吉眞氏は、県立宇都宮工業高校建築科で建築学を学び、吉眞建設株式会社を設立、本格的木造住宅を数多く手がけ、日本の建築文化を受け継ぐ職人が絶えないようにと、在来工法も重視している。
 三好氏は、車椅子が実は段差に強いこと、スロープは上りも下りも脳卒中の人には危ないことなどを挙げ、「介助が大変だからバリアフリーとか、介護対応型など、何か理想に近づけるのではなく、これまでのやり方があり、それをいかにして継続するかをまず考えるべき」という視点を提出する。
 吉眞氏はもっと根本の木の家のよさを建築という立場で語っていく。住居や環境となると当然、建築家の出番である。「そりゃ、そのほうがいい」という住む立場で納得できる発言が多い。介護は介護する側も大変だが、される側の身になってこそであろう。住宅の見直しはとても重要と知らされる。

2005年4月30日刊
(清家 輝文)

出版元:雲母書房

(掲載日:2012-10-09)

タグ:暮らし 介護 建築 生活 
カテゴリ 身体
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うおつか流 台所リハビリ術
魚柄 仁之助

 うおつかファンのひとりである。『台所リストラ術』から、今度は『台所リハビリ術』である。副題は「脳をみるみる活性化させる生活改善講座」。ふと、これは言いすぎかと思うが、改めて考えるとこれでよいことがわかる。
 この本にも書かれているが、まだ何とか自分で食べることができる人にチューブをつけると、とたんに目から生気が失われるとか。自分で食べる、はたまた自分が食べるものは自分でつくることの大切さを忘れていることが多いのではないか。いつも誰かがつくってくれるものを食べるのは「恵まれている」ことかもしれないが、生きるという意味でははなはだ頼りない。
 魚柄さんは、料理をつくっている人、たとえば飲み屋のおやじさんやおかみさんは、歳をとっても元気なことを発見し、料理がリハビリになることに思い至る。軽い筋力トレーニングでもあるし、ストレッチでもあるし、何より段取りが料理のできを決めるので、頭(脳)を働かせることになる。
 魚柄さんは『ひと月9000円の快適食生活』という本で有名になったが、今は7000円でできるそうだ。でもカツオ節はちゃんと自分で削って使う。新しくて、うまくて、安くて、からだにもよい。そういう料理である。また、包丁を自分で研ぐことも挙げ「こういった手の感触や勘ってボケないためのリハビリなんスね」と言う。健康も長生きもみんな基本はここにあるだろう。

2005年5月9日
(清家 輝文)

出版元:飛鳥新社

(掲載日:2012-10-09)

タグ:リハビリテーション 食 料理 
カテゴリ
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叢書 身体と文化
野村 雅一

 1996年8月、まず第2巻『コミュニケーションとしての身体』が刊行され、1999年に第1巻『技術としての身体』が刊行されたが、第3巻『表象としての身体』(写真)がついに今年7月に出て、全3巻が完成した。野村雅一、市川雅、菅原和孝、鷲田清一氏らが編集、執筆は数多くの研究者らが担当している。
 ほぼ10年前からの仕事である。96年というのは阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件が起こった翌年、身体や精神、信仰などへの関心が高まった頃でもある。とくに阪神淡路大震災では、わが身のみならず、互いの「からだ」を思いやる状況が自然に生まれ、生きているからだをいつくしむ気持ちの一方で、「透明なぼく」という表現は身体のありかが不明になっている状態も示していた。この時期から、「身体論」が多く世に出るようになった。
 この叢書では、第1巻で人間の感覚の様態そのものから身体技術のさまざまな断片とそれらの社会的・文化的な意味について、第2巻で社会・文化的脈絡のなかで身体がおびるコミュニケーションとしての働きとそれを構成する秩序と構造について、第3巻でさまざまな文化の中で身体がどう解釈され表現されてきたかについてそれぞれ解明・検証している。
 総じて論じるのは無理があるが、読者は今生きている私の身体を取り巻くものがあまりにも多く、深い層からなっていることに気がつくだろう。楽しみつつ考えつつ、読んでいただきたい。

野村雅一ほか編
第1巻:1999年6月1日刊、第2巻:1996年8月10日、第3巻:2005年7月1日刊、各4,200円
(清家 輝文)

出版元:大修館書店

(掲載日:2012-10-10)

タグ:身体 文化 コミュニケーション 技術 
カテゴリ 身体
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子どものからだと心 白書 2005
子どものからだと心・連絡会議

 毎年12月に刊行されている白書の最新版。 最初の章「0“子どもの世紀”のために」では、子ども問題に関する年表と2005年9月に国連・子どもの権利委員会一般所見No.7「乳幼児期における子どもの権利の実践」の日本語訳を収録。以下、「Ⅰ生存」「Ⅱ保護」「Ⅲ発達」「Ⅳ生活」の各章を設け、解説と各種データの経年変化の表やグラフで構成されている。また、巻末には2004年度「第26回子どものからだと心・全国研究会議」の講演「子どもを生き生きさせる実践と理論」(小澤治夫・北海道教育大学教育学部教授)がまとめられている。 各データをじっくり眺めていると、今の子どもがどういう状態なのかがわかり、今何をすべきかと考えざるを得ない。たとえば、「子どものからだの調査2005(“実感”調査)」では、「最近増えている」という“実感”ワースト10の上位3つは以下のようになる。保育所:皮膚がカサカサ、アレルギー、背中ぐにゃ、幼稚園:アレルギー、すぐ「疲れた」という、皮膚がカサカサ、小学校:アレルギー、背中ぐにゃ、授業中じっとしていない、中学校:アレルギー、すぐ「疲れた」という、平熱36度未満、高等学校:アレルギー、腰痛、平熱36度未満。 これだけで問題の深さがわかるのではないだろうか。子どもと関わる人には座右に置いていただきたい白書である。

2005年12月11日
(清家 輝文)

出版元:ブックハウス・エイチディ

(掲載日:2012-10-10)

タグ:子ども 
カテゴリ 身体
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隠居学
加藤 秀俊

 副題に『おもしろくてたまらない ヒマつぶし』とある。帯には「読んだら何ともいえないいい気分。あらゆる世界をめぐる好奇心 自由な隠居になる願望をもつ著者の知的冒険!」と記されている。隠居というのは日本のよい制度で、よく知られた「ご隠居さん」は落語の世界に頻繁に登場する。落語のご隠居より、もっと知的で好奇心に満ちていて、話を聞いているだけでトクをした気になるが、よく考えるとそんなにトクでもない。でも、読んでよかったと思う本である。
 著者の専門は社会学で、京都大学、学習院大学、放送大学などで教鞭をとり、現在は中部大学学術顧問である。冒頭「つぎはぎの世界」の章(というほどかしこまってはいないが)では、知り合いから韃靼そば茶をもらったことから話は始まる。そこでまず白川静先生の『字通』で「韃靼」を調べる。タタール、突厥が出てきて、タルタルソースが浮かび、そばの話になり、今はアフリカ産のそばが信州で手打ちにされて食されていることにつながったりする。ま、いわばこういう話ばかりの本である。高齢になっていくにつれ、運動量が減るのは仕方がないが、頭の運動量は増えていく可能性がある。そういう日々は楽しいだろうし、そうありたいと思わせられる。何よりも好奇心を失うのが生命力低下の第一歩と知るしだいである。

2005年8月29日刊
(清家 輝文)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-10)

タグ:隠居 好奇心 
カテゴリ その他
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医学は科学ではない
米山 公啓

 医療費抑制の文字が新聞やテレビで頻繁に流れる。「抑制」はわからぬでもないが、「削減」と言われると、必要でも削るというニュアンスが生じ、それでよいのかと思わせられる。その医療費抑制に「科学的根拠」が乏しいものに医療費は使えないという考え方がある。いわゆるEBM、科学的根拠に基づく医療というものである。これに対して首をかしげる人は多い。科学的根拠があるに越したことはないが、それだけで医療は成立するだろうか。そこに現れた本書。いきなり「医学は科学ではない」ときた。新書なので、あっという間に読めるが、医学、医療、科学について、医師でもある著者がかなりはっきりと書いている。「医学という科学的に十分確立できていない、不安定な科学といえる学問では、病気というものを十分にはとらえきれず、それが患者に不安を抱かせるのだ」(第5章医学を科学と誤解する人たち、P.132より)。
 医療は患者のためにあるのだが、医学は誰のためにあるのだろうか。

2005年12月10日刊
(清家 輝文)

出版元:筑摩書房

(掲載日:2012-10-10)

タグ:医療 科学 医学 
カテゴリ 医学
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人間は遺伝か環境か? 遺伝的プログラム論
日高 敏隆

 遺伝子の研究が急速に進み、遺伝子でだいたいのことは決まっていると思いがちだが、もちろん環境要素も大きい。だから、「遺伝か環境か」と問われる。だが、著者はこう言う。「そもそも遺伝子とか遺伝とか言うけれど、何のことを言っているのだろう?(中略)遺伝と環境の両方といったらどういうことなのだ?」
 これについて、生物学、とくに現代動物行動学の認識に立って、根本的に考えてみたのが本書である。「遺伝子と『持って生まれた性質』としての遺伝との関係がどうなっているのかは、じつはまだほとんどわかっていない。『遺伝』とは、そういう漠然とした状況の中で使われている言葉なのである」そこで出てくるキーワードが「遺伝的プログラム」である。これについて著者はわかりやすくこうたとえている。
「遺伝的プログラムとは、入学式などの式次第とよく似たものである」。つまり開会の辞だの、校長あいさつだの、「順番」は決まっているが、どんなふうに行われるかは書かれていない。しかし、こうして順番どおり具体化されることがプログラムにとって大切なことである。遺伝的プログラムも同じで、種にとって共通で一般的なのだが、具体化していくのは、ひとつひとつの個体である。個体(個人)が覚えたこと、経験したこと、癖、気分、それらを含めて発育が進んでいく。つまり「人生とは遺伝的プログラムの具体化だ」ということになる。「遺伝か環境か」、この問いに対する考え方が変わる本である。

2006年1月20日刊
(清家 輝文)

出版元:文藝春秋

(掲載日:2012-10-10)

タグ:遺伝子 環境要因 
カテゴリ 生命科学
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皮膚は考える
傳田 光洋

 皮膚は最大の臓器であるというところからこの本は始まる。皮膚は外界とのバリアであり、他人の皮膚を移植することはできない。だが、それだけではない。「皮膚はそれ自体が独自に、感じ、考え、判断し、行動するものです」と著者は言う。
 皮膚表皮は外胚葉由来の器官で、中枢神経系も同様、眼や耳などの感覚器も同様である。1980年代になって、皮膚、とくに表皮は外部刺激によってさまざまな神経伝達物質を合成、放出していることもわかった。たとえばサイトカインも表皮にあるケラチノサイトカイン細胞が合成、放出している。それのみならず、末梢神経系が放出する神経系の情報伝達物質や各種ホルモンすら、ケラチノサイトカインは合成、放出している。
 また、著者は皮膚は光を感じて、その情報を内分泌系、神経系に伝えている可能性があると言う。ブラインドサイトという言葉を聞いたことがある人も多いだろうが、視覚を失った人でも外部の光に応じて生理的変化が起こり、光の動きもある程度わかる。
 さらに皮膚についての言及が進み、総じて本書のタイトルとなる。その他、「皮膚は電池である」とか、皮膚をきれいにすると体内もきれいになるのではないかとか、興味深い話に満ちている。思わず皮膚を触り、からだを見つめたくなる本である。

2005年11月2日刊
(清家 輝文)

出版元:岩波書店

(掲載日:2012-10-10)

タグ:皮膚 
カテゴリ 身体
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身体知
内田 樹 三砂 ちづる

 内田樹(うちだ・たつる)氏は、フランス現代思想、映画論、武道論を専門とする神戸女学院大学教授。三砂(みさご)ちづるさんは、疫学を専門とする津田塾大学教授。この2人の対談集。副題は『身体が教えてくれること』。帯に「女は出産、男は武道!? 危険や気配を察したり、場の空気を読んだり。身体に向き合うことでもたらされる、そんな『知性』を鍛えよう」とある。
 まず、女性の出産の話から始まる。お産のときはエンドルフィンハイの状態になり、産んだ直後はアドレナリンハイになっている。だから、産んですぐお母さんが「ありがとうございました」と冷静になっているのはよい出産ではない。助産婦さんの含蓄に富んだ言葉、助産婦さんと家で出産する意義を考えざるを得ない。
 次に武道の話。「武道の場合だと、ほんとうにたいせつなのは、筋力とか骨の強さではなくて、むしろ感度なんです。皮膚の感度じゃなくて、身体の内側におこっている出来事に対する感度。あるいは、接触した瞬間に相手の身体の内側で起きている出来事に対する感度」(P.33の内田氏の発言)
 きわめつけが以下のやりとり(P.170より)。
三砂 女性はパンツとかGパンをはいているから股に布がピタッとあたっているのですよ。それを、もう不快だと思わない。
内田 たぶんその部位の感覚がオフになっているんでしょうね。
三砂 主電源がオフになっていると思うのです。
内田 「主電源」ですか。
 日常から着物で過ごす三砂さんの感覚のすごさがわかる。興味を持った人は読んで下さい。ソンはしません。

2006年4月24日刊
(清家 輝文)

出版元:バジリコ

(掲載日:2012-10-11)

タグ:身体 感覚 武道 
カテゴリ 身体
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99.9%は仮説
竹内 薫

 光文社新書の1冊。副題は「思いこみで判断しないための考え方」。
 プロローグで「飛行機がなぜ飛ぶのか? 実はよくわかっていない」ときた。「ン? 本当に?」と誰でも思うが、本当。一応説明はされているが、科学的根拠はない。
 しかし、著者はこう言う。「よく『科学的根拠』がないものは無視されたりしますが、それはまったくナンセンスです。なぜなら、科学はぜんぶ『仮説にすぎない』からです」。したがって、仮説だから、ある日突然くつがえる。
 もうひとつ、本誌の読者なら「局所麻酔についてはメカニズムが詳しくわかっているのですが(もちろん、根本原理まではわかっていませんが)、驚いたことに、全身麻酔については、ほとんどわかっていないのです!」という箇所にうなずく人もいれば、驚く人もいるだろう。教科書には、いかに全身麻酔が効くか、いかに全身麻酔薬を用いるべきかは書いてある。しかし、なぜ効くかについてはほとんど書かれていない。
 どんどん恐ろしい話になっていくが、天才物理学者リチャード・ファインマンの「科学はすべて近似にすぎない」という言葉も含め、本書を読めば、「世の中はすべて仮説でできていること、科学はぜんぜん万能ではないこと、自分の頭がカチンカチンに固まっていること」を知ることになる。科学が身近になり、首をかしげることの大切さがわかります。

2006年2月20日刊
(清家 輝文)

出版元:光文社

(掲載日:2012-10-11)

タグ:科学 
カテゴリ その他
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給食の味はなぜ懐かしいのか?
山下 柚実

 副題は「五感の先端科学」(先端科学に「サイエンス」とルビが振ってある)。
 さて、誤解のないように、まず本書は「給食」の本ではないと言っておこう。副題のほうが正確に内容を示している。第一部「感覚器官のサイエンス」では、味覚(伏木亨・京都大学大学院教授)、嗅覚(高田明和・浜松医科大学名誉教授)、触覚(宮岡徹・静岡理工科大学、井野秀一・東京大学助教授)、聴覚(岩宮眞一・九州大学教授、戸井武司・中央大学教授)、視覚(三上章允・京都大学教授、廣瀬通孝・東京大学教授)との対話。第二部では、「五感・クオリア・脳」と題し、脳科学者・茂木健一郎氏、臨床哲学者・鷲田清一氏との対話が収録されている。
 これだけのメンバーだから面白くないはずがない。「感覚」という科学として取り扱いにくかったものが、どんどん解き明かされていく。なぜ、あるものを心地よく感じ、別のものを不快に感じるのか。文字や匂いからある色を感じたりするのはどういうことか。リラックスしたほうがなぜ感覚は鋭くなるのか。
 感覚は誰にもあるが、見ても見えていなかったり、聞いても聞こえていなかったり。不思議な世界、五感は「5つの感覚」を超越していく。勉強になることも多いので、おすすめ本です。


2006年7月10日刊
(清家 輝文)

出版元:中央公論新社

(掲載日:2012-10-11)

タグ:五感 感覚 記憶 科学 
カテゴリ 身体
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経絡ストレッチと動きづくり
向野 義人 朝日山 一男 籾山 隆裕

「ヒトの体には、目には見えない秘められた情報伝達系が存在していることは間違いないと考えられます。この情報伝達系をどのように用いればよいかを古人は書き残してくれており、その有用性は現在に至るまで光を放っています」
 いきなり引用で恐縮だが、経絡・経穴についてわかりやすい表現である。著者は続けてこう記している。「経絡・経穴は古人から現代人へ贈られた貴重な宝物なのです」。
 この本では、簡便に異常な経絡を探し出す経絡テストと、そのテストで見つかった異常な経絡にストレッチを加え、全体のバランスを整える経絡ストレッチ、さらには目標とするパフォーマンスの改善のための動きづくりまでをカバーしている。
 前半(1、2章)は経絡と経絡テスト、経絡ストレッチの実際を、後半(3章、4章)は動きづくり理論と軸体操、各種スポーツの動き作りの実践編からなる。よくまとまっていて、実践に役立つ本である。

向野義人編著、朝日山一男・籾山隆裕著
2006年5月15日

(清家 輝文)

出版元:大修館書店

(掲載日:2012-10-11)

タグ:ストレッチング 経絡 
カテゴリ 東洋医学
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コレステロールに薬はいらない!
浜 六郎

 書名はいささか極論だが、本書で問題としているのは、「コレステロール基準値」とその基準値をもとに処方される「コレステロール低下剤の副作用の害」である。
 そしてコレステロール値が低すぎて危険な領域にあると思われる人が、330万人いると言う。
 著者が問題にする現在の基準値、つまり高脂血症のコレステロール値「220mg/dl」は低すぎる。さまざまな疫学的データから「220~240」がもっとも長生きしている事実を出し、そもそも「220」という数値に科学的根拠がないことを指摘する。アメリカの基準は240であるし、諸外国の例も220という低値ではない。
 また、細胞の働きに欠かせないコレステロールが少なくなると、がん、感染症、うつなどにつながる。コレステロール低下剤使用により、寿命を短くしている患者さんが多い。著者の主張はだいたいこういうことになる。
 一方的主張ではなく、細かいデータを掲載し、説得力ある論理になっている。この基準値を決めたのは日本動脈硬化学会であるが、日本人間ドック学会は2009年9月、この基準は実質的でないとし、「高脂血症のガイドラインは、疾患別の学会が独自に作るのではなく、多くの学会が力を合わせ、国レベルで作成していくべきではないか」とし、「女性は260までは治療は不要」としているとのこと。
 この本を読んでどう判断すべきか。専門家同士の議論に委ねるべきところが多いにせよ、患者あるいは患者予備軍として、読んでおくべき本であろう。(S)

2006年9月10日刊
(清家 輝文)

出版元:角川書店

(掲載日:2012-10-11)

タグ:コレステロール 
カテゴリ 医学
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疲れたときは、からだを動かす!
山本 利春

 スポーツ医学の分野でよく知られた山本氏による一般向けの疲労回復のコツを示した本。副題は「アクティブレストのすすめ」。アカデミズムの代表的出版社である岩波書店から出たのだが、硬い本ではないので、気軽に読める。
 全体的に、スポーツ選手の疲労回復法を紹介し、それを一般の人にわかりやすく、実施しやすいように紹介したものである。
 スポーツ選手なら多くの人は経験しているだろうが、からだがだるいときに、休んでいるより、ジョッグなど軽い運動をしたほうが、調子がよくなる。これは「積極的休養」と呼ばれ、「休養日」であっても、何もしないのではなく、からだを軽く動かしたり、著者が記しているようなプールなどを使ったアクアエクササイズなどが効果的である。もちろん、試合後も同様。コンディショニングの一環としてのアクティブレストの例も本書ではいくつも紹介されている。
 それは一般人でも同じというのが、本書の主張である。スポーツ現場の例を出し、実験結果も示し、ストレッチング、筋力トレーニング、入浴法(せっけんマッサージ、交代浴など)、ウォーキング、そしてアイシングについても触れられている。

2006年9月26日刊
(清家 輝文)

出版元:岩波書店

(掲載日:2012-10-11)

タグ:アクティブレスト ケア ストレッチング アイシング トレーニング 
カテゴリ アスレティックトレーニング
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MBAが会社を滅ぼす
H・ミンツバーグ 池村 千秋

 副題に「正しいマネジャーの育て方」とある。もちろん、これはビジネス界の話。スポーツ医科学の関係者にはあまり関係がない、とは思わない。その理由は2つある。
 まず、ビジネス界でマネジメントを行うことは、スポーツ界やその他団体や組織のマネジメントを行うことと同じあるいは共通することが多いという点。
 もうひとつは、本書では日本のビジネスのマネジメントの話がたくさん出てくる。日本のやり方のよさを知るのは、どの世界の人にも参考になるという点。
 本書は2部立てで、Part 1は「MBAなんていらない」、Part 2は「マネジャーを育てる」。Part 1は、ビジネス界でもてはやされているMBA教育のあり方がいかに間違ったものかを筆鋒鋭く、痛快なまでに論じていく。「そうだ、そうだ」と思う人も少なくないだろう。それをアメリカ人が書いているのがまた面白い。Part 2は一転して、建設的になる。まさにマネジャーの育て方を述べていく。実際に行われているプログラムで、Part 1と比べ、痛快さはさほどない。しかし、じっくり読めばこちらのほうが奥深い。構成力見事な書である。(S)

H・ミンツバーグ著、池村千秋訳
2006年7月24日刊
(清家 輝文)

出版元:日経BP社

(掲載日:2012-10-11)

タグ:マネジメント 
カテゴリ その他
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美しい日本の身体
矢田部 英正

 本誌(月刊スポーツメディスン)でも何度か登場していただいた矢田部さんの新著。矢田部さんの著書には『椅子と日本人のからだ』(晶文社)と『たたずまいの美学』(中央公論新社)があるが、この新書は、これまでの成果をまとめ、さらに深い考察を加えた感じがする。
 1章「和服のたたずまい」以下、「『しぐさ』の様式」「身に宿る『花』の思想」「日本美の源流を彫刻にたずねる」「日本人の坐り方」「日本の履物と歩き方」「基本について」と計7章からなる。つまり、和服、動作、能の「花」、仏像の美、坐位を中心とする姿勢、ぞうりやワラジ、ゲタと靴、それによる歩行など、矢田部さんが研究し、また日々接しておられるテーマが並んでいる。面白いから読んでくださいと言うしかないが、一部だけ引用しておこう。
「一見、何の役にも立っていないようで、あらゆる物事の認識の基盤になっているのが実は人間の身体で、それは自分を取り巻く風や光や光に照らされた世界を感じ取るセンサーの役割を果たしてもいる。その感覚能力に磨きをかける一つの方法として、坐って姿勢を整えることを好んで選択してきた歴史が日本にはあり、その澄んだ感覚で世界を見つめる感受性こそが、実は日本文化を美しく秩序立ててきた基盤にあるものだと私は考えている」(P.148より)

2007年1月10日刊
(清家 輝文)

出版元:筑摩書房

(掲載日:2012-10-11)

タグ:歩行 履物 
カテゴリ 身体
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レジスタンストレーニングのプログラムデザイン
S.T.Fleck W.J.Kraemer 長谷川 裕

 レジスタンストレーニングのプログラムデザインとは、表現を換えると、筋力トレーニングの処方・立案ということになる。
この本の最大の特徴は、「科学的エビデンス」を追及したという点である。
 本書は原著第3版の翻訳だが、序文で編著者は、第2版の出版以降、1万件を超える広範なレジスタンストレーニングの科学的研究文献が発表され、その最新データを反映させたと記している。第3版では、これまで「標準的な男子大学生」に関するデータが長く中心だったのに対し、女性、高齢者、子どもについても続々と公表されるデータを整理、第3部としてこれら3つの集団に対して約70頁を割いて解説している。また、近年分子生物学の発展が著しいが、この本ではその成果も活かされている。
 レジスタンストレーニングをクライアントや患者さんに処方するとき、その根拠が求められる時代。トレーニングに正しさを求めるのは難しいところが多いが、膨大な文献を駆使して、一定の基準を設けようとする編著者の姿勢は評価される。「どこまでわかっているか」、そのエビデンス確保とまさに処方のために活用していただきたい。

S.T.Fleck/W.J.Kraemer編著、長谷川裕監訳
2007年1月31日刊

(清家 輝文)

出版元:ブックハウス・エイチディ

(掲載日:2012-10-11)

タグ:トレーニング プログラムデザイン 
カテゴリ トレーニング
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脳と体に効く指回し教室
栗田 昌裕

 最近、包丁を握っていて指がつって寄る年の波を痛感した。考えてみれば、キーボードを打つか、コップを持つくらいのことしかしていない。包丁は毎日のように扱うが、それでも指がつる! なんということだ。栄養の問題か?
 と、思っているときに、この本が目に留まった。「指回しね」とあまり期待しないで読んだが、やってみる価値ありと判断。いや、やってみないとなんとも言えない。最初にその効果を自分で確かめるようになっている。立位体前屈を行い、次に首を左右に回し、どれくらいまでいったか確認、記憶しておく。そして、両手の指を合わせてドームのようにし、親指同士から始め、各20回、計100回行い、変化を見る。いずれも初めのときよりよい。「でも、2回目ということがあるしな」と一応保留にしておく。以下、指と脳、こころの問題などが語られていく。
 念のために記しておくと、著者は内科医で、東大の理学部と医学部を卒業(大学院では数学専攻)、三楽病院を経て、現在東大附属病院内科勤務とある。座禅、ヨーガ、気功、東洋医学などにも通じている。
「心を込めて字を書くと心が成長する」というくだりもある。指の体操もさることながら、指からからだや心をみるのも面白い本。

2007年3月10日刊

(清家 輝文)

出版元:廣済堂出版

(掲載日:2012-10-11)

タグ:指回し 脳 身体 
カテゴリ 運動実践
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脳のからくり
竹内 薫 茂木 健一郎

 新潮文庫の1冊。サイエンスライターの竹内薫氏が脳の「超」入門書として書いたもの。うち1章は脳科学者の茂木健一郎氏が書き、全体の監修も行っている。
 脳科学は急速に進歩している分野のひとつ。それでもまだわからないことがたくさんある。
 今、どれくらいのことがわかっているのか、「超」入門とはいえ、内容は確か。脳の構造はもとより、ゲーム脳、脳の視覚、脳のニューラルネット、壊れた脳、クオリア問題、そしてペンローズの量子論など、最先端科学が解説されていく。
 ちょうど真ん中あたりで、チャーマースの「サーモスタットにも意識がある」という言葉が出てくる。「脳のつくりだす意識も、メカニズムは複雑かもしれないけれど、結局は、『ネットワーク上のエネルギーの相互作用』が原因」と科学的に考えていくと、サーモスタットにも意識があり、コンピュータやロボットとなると当然意識があるということになる。これは一部科学者にとっては常識でもあるとか。
 それで納得がいくこともいろいろあるのではないか。気になる人はぜひ読んでいただきたい。

2006年11月1日刊
(清家 輝文)

出版元:新潮社

(掲載日:2012-10-11)

タグ:脳 
カテゴリ 身体
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交渉力
団 野村

 著者は、あまり知られていないがヤクルトスワローズに在籍していたことがある。その後渡米し、マック鈴木選手と最初の代理人契約を結んだ。しかしその名を一躍広めたのは、なんと言っても、95年野茂英雄投手を近鉄からドジャーズ入団を支援したこと。その後も伊良部秀輝、吉井理人投手などの日本人メジャーリーガー誕生に貢献した。
 著者は、自分では交渉は下手だという。しかし、好きだという。交渉とは何か。著者は「納得」だと考えている。一方の要求がすべて通るというケースはまれ、しかし双方が納得できることは十分にあり得る。これが著者の言う「交渉」の要諦。「妥協」では、「しかたがない」という印象になる。そうではなく、互いがハッピーになるよう、納得できるようもっていく。そこにはクリエイティビティと駆け引きをゲームのように楽しむ感覚が必要だとも言う。
 著者が挙げる交渉でのポイントは、ほかに、「最悪の状況を想定し、複数のプランを用意しておくこと」「市場を知ること」そして「ルールを熟知し、相手の弱いところを突く」など。 交渉は、ビジネス全般はもとより、何かをしようとしたとき、必ず生じることである。プロの代理人の世界は参考になる。

2007年1月10日刊
(清家 輝文)

出版元:角川書店

(掲載日:2012-10-11)

タグ:代理人 交渉 
カテゴリ その他
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スポーツ医師が教えるヒザ寿命の延ばし方
小山 郁

 著者は、アテネオリンピック柔道チームドクター、PRIDE、日本空手道佐藤塾、大道塾、極真空手などのリングドクター、プロボクシングのセコンドも務める整形外科医で、柔道三段、空手二段。
 自らも武道家であるスポーツドクターとして、膝の障害についてまとめたのがこの本だが、読んでみると、膝についてスポーツ医学の基礎から学ぶ優れた入門書にもなっている。
 第1章から7章まで順に、「ヒザには寿命があります」「意外と知らない大事な身体の仕組み」「ウォーキングの前に知っておきたいこと」「歩くだけでは、運動として足りない」「中高年の身体の痛みを軽減するために」「自分の健康を人まかせにしない」「ヒザ痛対策のための超簡単トレーニング」と続くが、整形外科、内科、運動科学など、その範囲は広い。
 わかりやすく上手に書く先生だなと思ったら、学生にも教えているとか。その教え方が本になっているような語り口である。
 この本で膝について学びながら、スポーツ医学という分野の視野の広さやそのあり方も学ぶことができる。

2007年8月27日刊
(清家 輝文)

出版元:アスキー

(掲載日:2012-10-12)

タグ:膝 トレーニング ウォーキング 
カテゴリ スポーツ医学
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スポーツ膝の臨床
史野 根生

 月刊スポーツメディスンでも登場していただいたことのある史野先生による臨床家向けの本。膝のスポーツ外傷について、著者が実際に経験したものだけを取り上げ、著者の診断プロセス、治療方針の決定、手術や保存療法を含む治療方法について全ページカラーで示されている。
 スポーツ医学というジャンルでは、多数の執筆者がそれぞれの専門を担当し、それをまとめた本が多い。専門分化していく世界なので、そうならざるを得ないところもある。だからこそ、1人の執筆者が1冊を書く、いわゆる単著の価値は大きいとも言える。
 この本は、本文は80ページ程度で、簡潔にまとめられているが、随所に著者の哲学が現れる。冒頭の「序」でも、いきなり「傷害された人体の組織には治癒能力があり、医療はその治癒能力を最大限に引き出すべきである、というのが医療人としての筆者の哲学であります」という一文から始まる。個性にあふれ、哲学に富み、臨床家としての姿勢を感じることのできる1冊。こうした本が次々に生まれることを期待したい。

2008年1月20日刊
(清家 輝文)

出版元:金原出版

(掲載日:2012-10-12)

タグ:膝 整形外科 スポーツ医学 
カテゴリ スポーツ医学
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高血圧の常識はウソばかり
桑島 巌

 高血圧患者は多い。では、どれくらい正しい知識が普及しているか。そもそも「正しい知識」とは何か。では、ここで問題です。というわけで、本書では「上の血圧より下の血圧が大事である」「高齢者の血圧を下げるとかえって危険」「脳卒中になったら動かすのは危険」「食塩は人間の元気の素で、なくてはならない栄養素である」など計10項目が記され「はい/いいえ」で答える。ここに挙げたのはみな「いいえ」が正解。
 高血圧に関する研究は進んでいる。著者は、そのエビデンスに基づいた治療が必要だと説く。その背景には、エビデンスよりも権威の意見が通るという現実もあるとのこと。
 著者は東京都老人医療センター副院長で、自分自身の経験や研究成果を大事にする視点から「血圧は血管に対する負担である」という結論を得ている。一例として、高齢者の降圧目標値は2000年の日本高血圧学会のガイドラインでは、「年齢プラス90ミリ」だったが、欧米では大規模臨床試験のエビデンスから「高齢者でも若年者でも一律140/90mmHg未満」。著者はこれに反対し、講演などで主張、それが2004年のガイドラインでようやく欧米並みになったという。高血圧の人はもちろん、そういう人に接することが多い人にもおすすめ。(S)

2007年12月30日刊
(清家 輝文)

出版元:朝日新聞社

(掲載日:2012-10-12)

タグ:血圧 
カテゴリ 医学
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町人学者
増田 美香子

 副題は「産学連携の祖 淺田常三郎評伝」。大阪大学理学部物理学科の教授、淺田常三郎氏について、その門下に学んだ人が「人となり」を記したもの。
 淺田教授は、大阪府堺市に生まれ、きわめて優秀で、旧制中学5年のところを4年で卒業、難関の第三高等学校にトップで合格、その後東京帝国大学理学部物理学科に入学、実験物理学を専攻した。
 大阪帝国大学を創立するとき、先生である長岡半太郎が総長になる。そのとき、淺田氏も物理学の教授として阪大に移っている。その講義は大阪弁、正確には堺弁であった。講義の第一声はこんなふうだった。
「一銭銅貨を置きましてな、かかとで踏んでキリーッとまいまんねん(回るのです)」。
「すと、こないなりまんねん」
二枚の銅貨の間には模造品のルビーがあったが、粉々になる。次に天然のルビーで同じようにすると銅のほうがへこんだ。
「それ、なんでだんねん?」が口癖だったとも言う。その淺田氏は、常に人々の役に立つ研究を心がけた。当時大学教授は雲の上のような存在だったが、えらそぶるようなことは決してなかった。むしろ、ユーモアにあふれ、面倒見のよい教授として慕われた。
 広島に投下された新型爆弾が原子爆弾だと科学的に確認した人でもある。多数の逸材を輩出した淺田研究室。その教授の姿を知ると、学問のあり方、研究者のあり方、人を育てるということなどを味わい深く学ぶことができる。

2008年4月4日刊
(清家 輝文)

出版元:毎日新聞社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:研究 
カテゴリ 人生
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痛い腰・ヒザ・肩は動いて治せ
島田 永和

 朝日新書の最新刊。著者は大阪・島田病院の島田先生。「動いて治せ」がキーポイントである。送っていただいた本の表紙の裏に直筆で「人生動いてナンボ!」と書かれていた。島田先生の師匠は、故・市川宣恭先生。プロボクサーでもあった整形外科医で、この先生から、スポーツ選手の診療を学び、安静の弊害を叩き込まれたという。「人間は動いてナンボや」という市川先生の人生哲学。その哲学に従い、スポーツ診療場面、安静について、痛みと向き合う方法、そして患者さんの「尊厳」という4つのテーマに分けてまとめたのが本書。
 ケガや病気のとき、医師も患者も「安静」を考える。それは正しいが、いつまでも安静では治るものも治らない。むしろ動いたほうがよい。スポーツ選手の場合が特別ではない。この本を読むと、医師の考え方もわかるし、患者としてどう考えるべきかもわかる。「尊厳」は、相手に対しての「敬意」が出発点と記す。スポーツ医学は、社会全体をみていくものと考えるが、その意味でも共鳴できるところに満ちた本。おすすめします。

2008年6月30日刊

(清家 輝文)

出版元:朝日新聞出版

(掲載日:2012-10-13)

タグ:腰痛 膝痛 肩痛 
カテゴリ 医学
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スポーツ常識の嘘
横江 清司 スポーツ医・科学研究所

 Main Topic(月刊スポーツメディスン103号)で紹介した財団法人スポーツ医・科学研究所の開設20周年にあたる今年6月10日に合わせて刊行された書。所長の横江先生が著者である。
 だいたい2ページに1テーマの構成で、「サウナは減量によい」「ギプスを巻いたら復帰が遅れる」「ベンチプレスは肩の筋力強化によい」「運動は長時間続けなければ減量効果がない」「肩の脱臼は筋トレで治る」など、計37項目の「常識の嘘」を解説。
 たとえば、ギプス固定については、不必要なギプスの場合は正しいが、ケガの種類、程度によっては間違った常識になるとし、生理学的に治癒するまでの期間の適切な期間の固定は必要と明確に記している。また、ギプス固定による筋萎縮の問題についても触れ、ギプス固定中の筋力維持法についても記している。
「常識の嘘」というのは、一般にそのように言われ、信じられ、実践されていることだが、その正しい部分と間違った部分を明確にして示そうという試みのようだ。
 運動中に水を飲むなとか、突き指は引っ張っておけばよいとか、今では間違いとして知られていることもあるが、スポーツの現場によっては、まだ今も行われていることが少なくない。ただ頭からよいとか悪いとするのではなく、正しい知識を持って行うことの大切さがよくわかる本である。

横江清司著、(財)スポーツ医・科学研究所編
2008年6月10日

(清家 輝文)

出版元:HIME企画

(掲載日:2012-10-13)

タグ:知識 スポーツ科学 
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツ傷害のリハビリテーション
ジェリー・リンチ 水谷 豊 笈田 欣治 野老 稔

 昔読んだ原書に「スポーツ医学とは結局リハビリテーションのことである」というようなくだりがあった。言いすぎではあるが、的を射たところもある。診断・治療・予防というなかで、近年は「予防」への関心が高まりつつある。右に紹介するACL損傷の予防に関する本もその流れにあると言ってよいだろう。
 だが、実際にはケガしたアスリートや愛好家の治療が優先する。受傷の瞬間からリハビリテーションは始まるという考え方もあり、アスリートにとっても競技復帰にはいかにリハビリテーションを適切に行い、その後のトレーニングを行うかがキーになる。
 本書でも、「特に重要な位置を占めるのがリハビリテーション」と言いながらも、医師と理学療法士をはじめとするリハビリスタッフの意思の疎通が十分でない点を指摘する。また、リハビリの手法や方針がともすれば経験的・慣習的なものに頼っていたり、独善的なものに陥りがちだと言う。
 そこで、「科学的理論や根拠」を大事にし、神経生理学、バイオメカニクス、運動生理学などの側面から最近の知見を解説し、アスレティックリハビリの実際について、部位ごとに、整形外科医が解説し、それを受けて理学療法士が手技やストラテジーを解説するという形式をとっている。326図、2色刷り(一部4色刷り)でわかりやすい。
(清家 輝文)

出版元:大修館書店

(掲載日:2012-10-13)

タグ:リハビリテーション 
カテゴリ スポーツ医学
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ACL損傷予防プログラムの科学的基礎
福林 徹 蒲田 和芳

 ACL(前十字靱帯)損傷は、1970年代後半、世界が競って診断と治療を研究した分野であり、スポーツ整形外科最大のトピックとして受け止められたと言ってよいだろう。
 その診断と治療については、一定のレベルに達し、当初は一部の医療機関でしか実施されていなかった関節鏡手術は今や多くの医療機関で行われるものとなった。
 しかし、いかにACL損傷の治療が進んでも、復帰までには半年はかかり、その間のブランクは大きい。やはり受傷しないですむのが一番なのは他の疾患と変わりない。
 そこで現在は本誌でも紹介したように、その予防プログラムの研究開発が各国で盛んに行われ、わが国でもいくつかのプログラムがスタートしている。その科学的データをレビューしたのが本書である。
 スポーツに通じた理学療法士が集まり、世界中の文献を渉猟し、報告し合い、それをまとめる作業の成果がこの1冊である。ACL損傷の疫学・重要度、危険因子、メカニズム、予防プログラムの4章に分けて整理されている。何かと参考になる1冊と言えよう。

2008年5月12日刊

(清家 輝文)

出版元:ナップ

(掲載日:2012-10-13)

タグ:ACL 前十字靭帯 
カテゴリ スポーツ医科学
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いのちを救う先端技術
久保田 博南

 副題は「医療機器はどこまで進化したのか」。冒頭、著者は、「医療機器」とは何か基本的なことが理解されていないと言う。「医療機器とは病院や診療所で使われている機器がその主軸を占めるもの」であるが、「医療機器」という言葉はやっと最近になって一般化したとのこと。法律用語としては「医療用具」と言われる時代が長く、政府が名称を変えたのは2005年4月。また「医療機器」は「薬事法」という法律のもとで規制されている。薬の中の小さな項目ということになるか。妙な話ではある。
 さて、著者は工学部出身で、医療機器メーカーなどを経て、現在は医療機器開発コンサルタント。サイエンスライターとして著書も多い。
 この本に登場する医療機器は、人命探査装置、心電図、ホルタ心電計、心磁計、血流計、脳波計、脳磁計、痛み測定装置など多数あるが、血圧計、体温計も実はそう簡単でないことがわかる。また、百円玉くらいの大きさのチップを貼るだけで連続して体温が計れるようになったそうだ。これは病気だけでなく、スポーツでも使えそうだ。貼った部分の体温をずっとみることができる。いろいろ貼って運動すると、またわかることも多いのではないだろうか。
 多数の装置や機器には歴史もあり、発見もある。「医療機器」という冷たい世界が、何か人間味のある温かい世界に見えてくる。おすすめの一冊です。

2008年9月2日刊

(清家 輝文)

出版元:PHP研究所

(掲載日:2012-10-13)

タグ:医療技術 
カテゴリ 医学
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雌と雄のある世界
三井 恵津子

 生物学の本である。著者は、お茶の水女子大理学部科学科から東京大学大学院生物化学専攻の理学博士。ドイツ、アメリカでの研究生活後、サイエンス系出版社で編集記者、編集長を務めた。現在はサイエンスライターである。
 ご存じのように、生物学の世界は日進月歩。正確には、分子細胞生物学、分子遺伝学、発生生物学など、どんどん細かくなっていて、一般には新しい発見についていけそうにない。本書は、そういう世界でどこまで研究が進んでいるのか、何がわかってきたのかを、わかりやすく教えてくれる。iPS細胞やクローン技術などトピックも満載。
 発展著しい分野だが、わかってくるほどわからないのが生物とのこと。わかっていないことのほうが多い。著者は、この本を書いたとたんに書き直さなければいけないのではないかと記しているが、それくらい新たな発見が続いている。
 書名にある「雌と雄」の話も面白いが、こうした発見の概要を知るだけでも楽しい。しかし、つくづく思うのだが、細胞の話はなんと人間の社会全体にあてはまることが多いのか。細胞について考えると、自然と宇宙や命、つまり人生全体へ思いが及ぶ。

2008年10月22日
(清家 輝文)

出版元:集英社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:生物学 生命科学 細胞 
カテゴリ 生命科学
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寡黙なる巨人
多田 富雄

 著者は、世界的に知られた免疫学者。『免疫の意味論』『生命の意味論』などのご自身の専門の著書のほか、新作能の作品も多い。
 その著者が2001年5月2日倒れた。その前に乾杯のとき、「ワイングラスがやけに重く感じられた」。「重くてテーブルに貼りついているようだ。なんだかおかしい。それが後で思えば、予兆だったのだ」。
 脳梗塞で右半身不随になり、しかも嚥下障害と言語障害を伴った。動けない、話せない、食べたり飲んだりできない。何かしてくれた人に「ありがとう」とも言えない。
 この本の最初の章、書名と同じ「寡黙なる巨人」はその闘病録である。著者はもちろん医師でもある。奥様も内科医。自分のからだについて、リハビリテーションの内容について、詳細に、時に厳しく記していく。その文章も入院してから教わったワープロで1字1字打って書いたものである。その闘病生活、リハビリテーションのなかで、著者の内部に「巨人」と呼ぶべきものが生まれてくる。
 理学療法、作業療法、言語療法についても著者の経験から、鋭い意見が述べられる。医療とその制度についても真摯な意見が述べられる。誰しも他人事ではない。ぜひ、ご一読いただきたい。

2007年7月31日刊
(清家 輝文)

出版元:集英社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:闘病 リハビリテーション 
カテゴリ 身体
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見抜く力
平井 伯昌

 幻冬舎新書の新刊。副題は「夢を叶えるコーチング」。もちろん、著者は、北島康介、中村礼子、上田春佳選手を育てたコーチである。
 平井コーチは、もともとは水泳選手だったが、在学中に選手からマネージャーに転向した。以来、選手をみる目、そしてどう判断し、いつ、何を言うかを学んでいった。
 この本でも語られるが、上記3人の選手はみなそれぞれタイプが異なる。北島選手は強い精神を持ち、「勇気をもって、ゆっくり行け」という言葉がよい結果を生む。何度断っても指導してほしいと言ってきた中村選手は、「押しかけ選手」だが、北京オリンピック100m予選で日本記録を出したが、「よし、行ける!」と思うタイプではなく、「つぎ、どうしよう?」と思い悩むタイプである。自分でプレッシャーをつくってしまい、その結果、守りの姿勢になってしまう。上田選手は、何を言っても聞いているのかいないのかわからないようなタイプ。
 それぞれ個性的だが、コーチはひとり。対応を変えないと、うまくいかない。本書の章題は「五輪の栄光」から始まり、全7章あるが、「見抜く力」「人を育てる」の章は誰でも大いに参考になる。最後は「夢を叶える」。夢に向かって動き出したくなる本である。

2008年11月30日刊
(清家 輝文)

出版元:幻冬舎

(掲載日:2012-10-13)

タグ:水泳 コーチング 
カテゴリ 指導
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世界を制した「日本的技術発想」
志村 幸雄

 関節鏡が日本で生まれたことは本誌(月刊スポーツメディスン)でも紹介したことがあるが、こうした医療機器やその技術、あるいはスポーツ現場におけるトレーニングにおいても、「日本的技術発想」をみることは少なくない。
 本書を読んで、いかに日本人が「精緻」であること、「厳密」であることを目指し、実行してきたかがよくわかる。
「パウダーパーツ」という部品をご存じだろうか。文字どおり、粉のように小さい部品である。愛知県のプラスチック加工メーカーでは、歯が5つあるプラスチック製の歯車で重さ100万分の1gのものを作っている。直径0.147mm、幅0.08mm。世界最小、最軽量は言うまでもない。これを「パウダーパーツ」と呼んでいる。開発に要した資金は2億円。何に使うか。社長が言うには「小さすぎて、用途はまだない」。これで終わりではない。「次の目標は、「1000万分の1g」だそうだ。
 なぜ、日本ではそのようなことが実行されるのか。この本を読んで知ると、必ずどの仕事にも役立つだろう。

2008年11月20日刊
(清家 輝文)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:技術 
カテゴリ その他
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ルールはなぜあるのだろう
大村 淳志

 副題が重要で「スポーツから法を考える」。著者は、東京大学法学部教授で、法教育推進協議会委員(座長)も務める。全体は、「父と子」の対話形式で進められる。全15日の対話で、「スポーツと法の関係を見てみよう」「ルールはどんな性質をもっているのだろう?」「スポーツは何を求めているのだろう?」「スポーツと法から社会を見てみよう」の4部構成。
 著者は、あとがきで、こう記している。「スポーツを語るのは法を語るということにほかならない。スポーツをモデルとして法をとらえてみよう。こうした考えに立って本書が提示しようとしたのは、個別のルールの内容ではなく、スポーツとは何か、法とは何かということであった。そして、スポーツを通じて、法を通じて、人はどのように生きるかということであった」
 また、著者は、スポーツ活動は非常に重要な法教育の場となりうるとも言う。「正々堂々」「公平」「相手に対する考慮」など「スポーツマンシップ」とも関係してくる。「スポーツと法」というと硬く、また難解なテーマに聞こえてくるが、このように、実は関係の深い両者について語ったものである。「そうか法ってそういうものか」と同時に「スポーツはだからこうなってるんだ」とわかる本。

2008年12月19日刊
(清家 輝文)

出版元:岩波書店

(掲載日:2012-10-13)

タグ:法律 法教育 
カテゴリ 法律
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仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか
山本 ケイイチ

 フィットネスクラブでは、「パーソナルトレーナー」とともにトレーニングに取り組んでいる人が目立ってきた。いわば「個人レッスン」である。この本の著者もそのパーソナルトレーナーで、クライアントにはビジネス畑の人、しかも成功している人が多い。そういうクライアントを間近にみてきた経験が書名につながっている。読んでみると、新たに知ったというより、「やっぱりそうなのか」という思いのほうが強い。優秀なビジネスパーソンが、トレーニングでも成功を収めることができるのは、「トレーニングの目的を明確にする」→「有効で現実的な目標を、期限と数値で設定する」→「目標達成のためになすべきことを具体的な行動に落とし込む」→「行動を継続するための仕組みをつくる」→「実行する」。これができているからだという。
 また、筋トレの効果は精神面にももたらされ、自分にポジティブになれる、気持ちの切り替えが上手になる、アイデアがどんどん浮かぶ、直観力・集中力が高まる、危機を察知する感覚が鋭くなるなどを挙げている。そうだろうと思うが、多数のビジネスパーソンを指導してきた人から言われると妙に納得がいく。やっぱり筋トレを継続するか。

2008年5月30日刊
(清家 輝文)

出版元:幻冬舎

(掲載日:2012-10-13)

タグ:トレーニング 
カテゴリ 身体
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科学者たちの奇妙な日常
松下 祥子

『ここでちょっと自己紹介を。自分は若いとは言えなくなってきている研究者です。性別は女でございます。いわゆる、どー見ても「科学者」な生活を経て、今は大学で教鞭をとりながら研究室を運営しております。』(第0章より抜粋)
 というように、著者は日本大学文理学部物理生命システム科学科専任講師で、日本女性科学者の会の理事を務める女性科学者の方である。決して難しい科学のお話をまとめているというわけではなく、前述のような軽快な語り口で、ご自身の目線からみた科学者の日常生活や大学での教員生活など、さまざまな裏話を交え書かれている。
 なかなか科学者の方がどのような生活をされているのか、一般人にはその実態は知り得ないところだが、本書を読み進めていくうちに、科学者の日常に引き込まれていく。とくに本書は、これから科学者をめざしたいと思っている女性に是非読んでいただきたい1冊。女性科学者が直面する結婚と出産についてもその現実が紹介されている。
 もちろん科学者を目指さない方にも気軽に読め、参考になるお話も多い。

2008年12月8日刊
(清家 輝文)

出版元:日本経済新聞出版社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:科学 科学者 
カテゴリ エッセイ
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教養としての身体運動・健康科学
東京大学身体運動科学研究室

 駒場にある東京大学の身体運動科学研究室にはたびたび訪れる。
 この本は、「はじめに」によると、東大教養学部前期課程基礎科目「身体運動・健康科学実習」の教科書として、東大大学院総合文化研究科スポーツ・身体運動前期部会の教員の共同執筆によって編集されたものである。
 簡単に言えば、大学の教科書であるが、まさに「教養としての身体運動・健康科学」の書である。スポーツ、スポーツ科学、スポーツ医学を語るとき、あるいは議論するとき、共通の基盤が求められる。その基盤として、本書に記されていることは理解しておきたいと思わせる内容になっている。
「教養としての」という表現は考えると深い意味がある。東大では新入生はすべて教養学部に入学し、そこで前期課程と呼ばれる2年間の教養教育を受けたのち、教養学部を含めた各専門学部(後期課程)へ進学するという。その前期課程での身体運動・健康科学のテキストというわけである。巻末の資料に収められた「ヒポクラテスの養生論」「貝原益軒の養生訓」「ロックの身体の健康について」など歴史的文献も役立つ。お手元にぜひ1冊。

2009年3月23日刊
(清家 輝文)

出版元:東京大学出版会

(掲載日:2012-10-13)

タグ:教科書 教養 運動科学 健康科学 
カテゴリ スポーツ医科学
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肉体マネジメント
朝原 宣治

 北京オリンピック男子400mリレー決勝での歴史的銅メダルは今なお記憶に鮮烈である。そのアンカーを務め、最近現役を引退したばかりの朝原宣治氏による新書。
 本書は、北京での予選が終わってからの「重圧」の模様から始まる。タイム的には3位に入れる。逆に言えば、失敗できないというプレッシャー。アメリカ、イギリスなどがバトンミスで失格となる幸運はあったが、目の前にメダルは見えていた。そこからアンカーとしてバトンをもらいゴールを駆け抜けるまでの描写は読んでいるほうも「心臓がバクバクする」くらいである。
 朝原氏は、中学ではハンドボールで全国大会に出場、陸上競技は高校から始めた。以来同志社大学を経て大阪ガス入り。そこまでコーチはついていなかった。社会人になり、ドイツへ留学、その後アメリカに移った。いずれもコーチについた。途中、足関節の疲労骨折を起こし、大きなスクリューを2本入れた。そうした経験から、コンディショニングでもレースでも「感覚」を重視する姿勢が生まれる。トップアスリートの生の声が聞ける1冊である。

2009年1月30日刊

(清家 輝文)

出版元:幻冬舎

(掲載日:2012-10-13)

タグ:陸上競技 感覚 
カテゴリ 人生
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理系バカと文系バカ
竹内 薫 嵯峨野 功一

 日本では人を「文系」「理系」と分けて考えるところがある。その鍵は「数学」にあるようだ。数学を理解するか、あるいは数学的思考ができるかどうかで、理系、文系が決まるところがある。だが、よく知られているように、いろいろな組織のトップは文系が多い。その文系は、因数分解など社会に出たら不要だと確信している。一方で、理系のほうが人間としては文系より上であると思っている理系の人も多い。いずれもこの著者によれば、「理系バカ」「文系バカ」ということになる。
 橋爪大三郎によれば、日本の理系・文系の定義は、明治時代に旧制高校が作ったものだとか。黒板とノートだけで学べる文系に比べ、理系は実験設備にお金がかかる。お金のかかる学部を理系、お金のかからない学部を文系と分類し、お金がかかる学部の生徒数は絞らざるを得なかったというのだ。そこで数学の試験をして、文理が振り分けられた。
 これを読んだだけで「ムッ」ときた「文系」の人もいることだろう。しかし、著者は、理系自慢をしようというわけではなく(著者は東京大学理学部物理学科卒の理学博士、理系だが、サイエンスライターという文系でもある)、「文理融合」がこの本で言いたいことである。「知」はバランスのなかにある。これが結論だろう。

2009年3月30日刊
(清家 輝文)

出版元:PHP研究所

(掲載日:2012-10-13)

タグ:知識 教養 
カテゴリ その他
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先を読む頭脳
羽生 善治 伊藤 毅志 松原 仁

 羽生名人と2人の科学者による「先を読む」ことを解明しようという本。羽生氏に行ったインタビューを文章にし、それに対して人工知能的立場の松原氏と認知科学的立場の伊藤氏が解説していくという構成である。
「人間のような知的な振る舞いを機械に代行させたい」というのが人工知能に対する人類の夢で、認知科学は「人間の様々な知的活動のメカニズムを解明しようとする分野」とのこと。この両者の専門家が「先を読む」という視点で、「ハブにらみ」の棋士の協力を得て、本書が成立した。
 さて、将棋を科学的にみるとどうなるか。「二人完全情報確定ゼロ和ゲーム」である。詳しくは本書のP.9を参照していただきたいが、お互いに相手の手が明かされているし、サイコロを振るといった不確定な要素がなく、勝敗が明確という意味になる。
 それにしても、羽生さんのすごさ、そして将棋の特殊性。それは取った相手の駒を使えるということで、チェスが収束していくのに対し、「将棋は終盤に向かって発散する」。
 スポーツにも科学にも関係する本なのである。

2009年4月1日刊
(清家 輝文)

出版元:新潮社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:脳科学 
カテゴリ 身体
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宿澤広朗 勝つことのみが善である
永田 洋光

 早稲田大学ラグビー部のキャプテンを務め、日本代表になり、卒業後は住友銀行に入行、同銀行では最終的に専務執行役員にまでなり、その激務を続けながら日本代表監督としてスコットンランドに勝利した宿澤広朗氏のラグビーを通じた人生を、詳細で時間のかかった取材でまとめたもの。副題は「全戦全勝の哲学」。
 東京大学が紛争で入試を中止したときの受験生で、宿澤氏は早稲田大学政経学部に進んだ。一般学生としてラグビー部に入部、「1週間でやめるだろう」と思われていたが、すぐに1軍選手となり、あとの活躍は言うまでもない。なぜ「勝つことのみが善である」というタイトルなのか。
 宿澤氏はテレビ東京の『テレビ人間発見』でこう語った。
「競技スポーツも、資本主義経済も、勝つことが正しい目的なんです。ただ、やり方を間違えると、“勝利至上主義”とか、“儲け主義”と言われる。結局、最後は金銭ではなく、名誉ですよね」。言葉の意味するところは大きい。
 真剣に考え、やるべきことをやればまず負けないと言う。「真剣」という言葉の意味を痛いほど知ることができる1冊である。文句なし。おすすめする。

2009年6月10日刊
(清家 輝文)

出版元:文藝春秋

(掲載日:2012-10-13)

タグ:ラグビー 
カテゴリ 人生
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からだのメソッド
矢田部 英正

 元体操選手で、椅子やカトラリーも製作、からだと動き、からだと道具の関係について詳しい。茶道も嗜み、服飾にも通じる。大学で立ち方や歩き方など、立居振舞いの授業も担当している著者。その幅広い活動から、「からだのメソッド」というわかりやすい本が生まれた。
 全体は、立ち方の基礎、歩き方の基礎、坐り方の基礎、食作法の基礎、呼吸法の基礎と基礎編が5つ続き、大学での実習レポート、そして最後に身体と運動の論理でまとめられている。
 本書を読み終えての一番の感想は、「優れて実践的」ということである。「姿勢をよくする」と言われると、多くの人はできればそうしたいと思う。では、どうすればよいか。たとえば、背骨の上に頭を乗せようとする。それだけで姿勢は変わる。
「成るはよし、為そうとするは悪し」。著者は、日本の禅での表現を紹介しているが、そのあと「からだの扱い」について、「意識して姿勢を整えようとするのではなく、「おのずから整う」心持ちが大事だということです」と記している。  以上は、本書で述べられている「メソッド」のほんの一端でしかない。やさしく書かれているが、その実践と追求のため、長く愛読書になると思う。

2009年5月26日刊
(清家 輝文)

出版元:バジリコ

(掲載日:2012-10-13)

タグ:立ち方 歩き方 呼吸 
カテゴリ 身体
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リハビリテーションのための解剖学
鵜尾 泰輔 山口 典孝

「ポケットブック」と明記されているとおり、手帳のような体裁。2色刷りで赤い透明シートがついていて、赤い字で記された部位名や起始・停止を記憶できているかどうか確認できる(赤い字で見えなくなるのは起始のほう)。受験参考書のように活用できる。
 著者らの「まえがき」によると、2002年、学生に夏休みの宿題「上肢の機能解剖のノート作成」を課したとき、学生から「先生も作ってきて!」と言われたのが本書の出発点だそうだ。
 どこでも勉強できるように、また解剖の本は重いと言わせないよう、新書判サイズにし、小さくても内容は精密さを心がけ、目でみてわかりやすいよう工夫したと記されている。
 筋の章では、起始・停止・支配神経・作用のほかに、「(筋)の特徴」「ADL・スポーツ」の項目があり、たとえば大腰筋の「ADL・スポーツ」の項では「脚を前方に振り出す、すなわち、ランニング、階段を上る時などに主に働く」と表現されている。
 全体は、「骨」「筋」「関節・靱帯」の3章からなる。電車の中などで勉強するのに最適と言える1冊。もう少し廉価だとなおよいのだが。

2009年6月9日刊
(清家 輝文)

出版元:中山書店

(掲載日:2012-10-13)

タグ:解剖 
カテゴリ スポーツ医学
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ブラッド・ウォーカー ストレッチングと筋の解剖
栗山 節郎 川島 敏生

「ブラッド・ウォーカー」は原書(2007)の著者のこと。表紙に収録図の一部が掲載されているが、見てのとおり、ストレッチングの図に筋が丹念に描かれている。そして、各ストレッチング図には、方法、ストレッチされている筋、効果的なスポーツ、効果的なスポーツ傷害、よくある問題と正しいストレッチングの注意点、追加するとよいストレッチの6項目が記されている。
 著者は冒頭こう述べる。
「本書は運動選手とフィットネスの専門家のための図解的な参考書となることを意図しており、ストレッチングの基本と柔軟性の解剖学および生理学についての理論的情報と、114種類の個別のストレッチング運動の実践的なやり方をバランスよく読者に示すものである」
 今回このコーナーで紹介している『リハビリテーションのための解剖学』もそうだが、近年、イラストレーションのレベルが画像分析の進歩とともに随分高くなってきたと思われる。「動き」や「動作」「機能」についての関心が高まるにつれ、ビジュアル情報への要求も高まってきた。本書はストレッチングを通じて、筋の解剖を学ぶうえで大いに参考になる。
(清家 輝文)

出版元:南江堂

(掲載日:2012-10-13)

タグ:ストレッチング 
カテゴリ 身体
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7分のおどりで筋力強化
西川 右近 西川 千雅 湯浅 景元

 日本舞踊をもとにした「おどり」のエクササズとして知られる「NOSS(にほん・おどり・スポーツ・サイエンス)」については本誌(月刊スポーツメディスン)でも紹介したが、その実技本がこれだ(DVD付き)。
 もともとは西川流家元の西川右近さんが心筋梗塞になりバイパス手術を受け、退院後はウォーキングでリハビリを始めたが、歩くだけでは不安もよぎり、気持ちが沈んでいった。そこで、舞台に復帰することを考え、その日時も決め、毎日稽古を始めた。すると、嘘のように意欲が湧き出て、筋力はじめ体力が回復していった。これがNOSSの始まりだが、それを湯浅先生(中京大学教授)の協力のもと、科学的な視点を取り入れ、「この冬(とき)がすぎれば」という曲もでき、この本で解説されている「おどり」となった。
 単に運動するのではなく、おどりという所作の美しさ、表現の奥深さというどこまでも追求できる内容は、「これで完成」ということがない。年齢や性別も問わず、「和」という古来親しんできた文化も感じることができる。難しさがかえって刺激になるという面もある。90代でも元気に踊っている人は珍しくない。その秘密を知ることもできる。
(清家 輝文)

出版元:日本経済新聞出版社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:舞踊 
カテゴリ 運動実践
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子どものときの運動が一生の身体をつくる
宮下 充正

 毎日運動する子どもとほとんど運動しない子に二極化しているという指摘は以前からなされているが、笹川スポーツ財団による調査(「青少年のスポーツライフ・データ2010」など)でも、その傾向はさらに強まっているという。
 そういう時代に出たのがこの本。書名でうなずく人も多いのではないか。冒頭、序で著者はまず「“力強さ”、“ねばり強さ”のような身体活動能力は、遺伝と日常的な運動実践や1日中の身体活動量といった環境との2つの要因によって影響を受けるが、人生の初期に見られる身体的特徴が、成人してからの身体活動能力を左右することは否定できない」という報告(誕生後1年間の身体の状態と、成人した31歳の体力を比較したもの)を掲げる。科学的論文なので慎重な表現になっているが、要はこの本の書名が言わんとすることと同じである。それを著者は、たくましさ、巧みさ、ねばり強さ、力強さなどの項目で語り、さらにトレーニングや運動指導の実際にも触れ、生涯スポーツや親の運動習慣についても述べていく。つまりは、子どものときから元気に活動し、その習慣を生涯持ち続けなさいということになる。「体力あっての学力」という指摘も当然のようで忘れられがちの点。まずは体力である。
(清家 輝文)

出版元:明和出版

(掲載日:2012-10-13)

タグ:運動 体力 
カテゴリ 身体
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スポーツトレーニング
浅見 俊雄

 日本の指導者、つまり監督やコーチに対する批判は、いろいろなところで聞かれる。たとえば、根性主義で「気合を入れろ」とか、「しっかりしろ」というだけで、いう通りできないと“罰”としてウサギ跳びでグラウンドを1周させたり、水をかけたり、ひっぱたいたりする。あるいは、やたら練習時間が長く、バテるまでやって初めて満足し、その内容的質を考えない。経験に頼り、客観性がない。あといくらでも挙げていけるだろう。それはいかにもありそうなことである。書評子も昔そのような体験をいやというほどしてきた。しかし一方で、優れた指導者の姿も数多くみることができた。熱心な指導者は、昔も今もよりよい方法を求め、選手を育てる情熱を持って、勉強を重ね、努力を積んでいる。それは間違いない。ただ、昔と今とでは、スポーツ科学のもたらすところがかなり違う。荒っぽくいえば、昔はスポーツ科学は現場に存在しなかったのである。今はどうか。スポーツ科学は盛んになり、多くのことが解明されつつあるが、それが現場に活かされないという。
 本書の著者はだからこそ、この本を書いた。「スポーツ科学は現場に応用され、実際のスポーツの実践に役立たなければ意味を持たないものであるが、科学として語られる言葉が、そのまま現場の言葉として通用するものではない。その科学と現在との間にあるギャップに橋渡しをする、科学の言葉を現場に通用する言葉に翻訳するのが本書の最大の目的である」(序章より)
 これは、著者がスポーツ科学者(東京大学教養学部教授、体協スポーツ科学委員会・競技力向上委員会の委員)であり、またサッカーの選手でもあったし、同じく日本ユース代表チーム、大学チームの監督も務め、審判員としての経験も長いという経歴からも、その必要性を肌でヒシヒシと感じているからだろう。だから、「スポーツ科学は生まれて間もない(中略)学問といってよく、実践に対して大きな口をきけるだけの蓄積がないのが現実である。(中略)今のところは現場の実践での経験の積み重ねを後追いしてその経験の中にある法則性や普遍性を見出そうとしている段階であるといってよい」(1章より)というものの、ザトペックのインターバル・トレーニングやフォスベリーの背面跳びが、ひとたび科学によって理論が明らかにされると、秘法が誰にでも間違いなくその方法を向上させるものとなるという実例を挙げ、科学の持つ重要性、役割についても分かりやすく説いていく。そのような視点でスポーツにおけるトレーニング全般を語っていったものが本書である。「主な目次」の項を参照していただきたいが、冷静にそして親切に述べられているため、“科学嫌い”の指導者にも、さしたる抵抗もなく科学の世界に入っていける。著者が“スポーツトレーニング”を①体力のトレーニング、②技術のトレーニング、③戦術のトレーニング、④意志のトレーニング、⑤理論のトレーニングと5つに分けて論じていくのも、現場の人には分かりやすく納得のいくものではないだろうか。
 紙数に限りがあるので、著者の視点が捉えやすい箇所を引用しておこう。P87「d. 技術や戦術のトレーニング形式でのインターバルトレーニング」という項で、インターバル・トレーニングは走以外の形式でもできるが、時間を考えると、ボール・ゲームではスタミナ向上と技術や戦術の向上の療法を同時にトレーニングさせることが得策になり、「たとえばサッカーでいえば、ドリブルやパス、あるいは1対1、3対2、2対2などのボールの奪い合いなど、かなり激しく動き回ることが内容となる技術・戦術の練習を急走期にあて、緩走期にはゆっくりボールを回すなど、あまり動かない練習内容をあてる。テニスやバドミントンでは1人がボールやシャトルを次々に出して、1人はそれを動いては打ち、動いては打ちを繰り返すというようなやり方である」と述べる。そして「この際にもっとも大切なものは、インターバルトレーニングの走にボールを扱うことを加えるという考え方ではなく、技術、戦術の練習としての意味のあるものを、インターバル的な考え方で組み立てるということである」とポイントを指摘する。もっと細かく紹介したいが、あとはぜひ本書に当たっていただきたい。
「スポーツの指導やトレーニングということは、人間の総体に働きかける、きわめて大きな事業であることを十分に認識し、自分の役割の大きさを肝に銘じて、真摯な気持で取り組むべきものであることを最後に強調し、またそうした活躍を心から期待する」(P162)というむすびの言葉に、素直に反応でき、理解できる指導者は数多いはずである。こういった“スポーツ科学”書が広く読まれてほしい。





主な目次
序章 本書の内容と目的
1. スポーツ科学とトレーニング
 1.スポーツ科学とは
 2.スポーツトレーニング
 3.スポーツトレーニングの内容
 4.スポーツトレーニングの原則

2. 動く身体の構造と機能
 1.身体を動かすエンジン――筋
 2.筋力の強さを決める筋の太さと集中力
 3.スタミナを支える呼吸循環機能
 4.体力トレーニングの原則―オーバーロードの原則
 5.トレーニングの目的と方法の選択
 6.体力トレーニングと技術トレーニングの関係
 7.筋パワーのトレーニング
 8.走を利用したパワーとスタミナのトレーニング
 9.環境条件を利用したトレーニング
 10.動きのトレーニング

4.技術と戦術のトレーニング
 1.技術と戦術のかかわり合い
 2.技術・戦術を司る身体の機能
 3.技術・戦術の練習方法の原則

5.意志のトレーニング
 1.意志はトレーニングできるか
 2.日本の現状と問題点
 3.意志のトレーニングの考え方

6.発育・発達とトレーニング
 1.発育期のスポーツ活動の現状と問題
 2.発育発達期のトレーニングのあり方

7.トレーニング計画の立て方
 1.基本的な考え方
 2.具体的な計画の立て方・進め方

8.スポーツ指導者の役割
 1.必要なスタッフと役割
 2.規模に応じた役割の兼担
(清家 輝文)

出版元:朝倉書店

(掲載日:1986-01-10)

タグ:トレーニング 
カテゴリ トレーニング
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卓球・勉強・卓球
荻村 伊智朗

 これは「岩波ジュニア新書」の1冊である。“ジュニア”だからといって軽んじてはいけない。それどころか、監督・コーチ・選手、スポーツに関係している人すべて、年齢を問わず、ぜひ読んでいただきたい。率直にいって、感動した。
「1985年、ロンドンで行なわれた第21回世界卓球選手権大会で、私は男子シングルスに優勝することができました。そして、ベルリン、パリなどを転戦して帰国しました。/帰国してから、日劇の地下のニュース映画劇場で私の映画をやっているというので見に行ったのです。そうしたら、当時の日本人のスポーツに対する感情をよくあらわしていると思うのですが、私がカップをもらうシーンが出てきたときに、観客がスクリーンに向かって拍手をはじめて、しかも立ち上がって拍手をするのです。私だけ座っていたら、『こいつ、つめたい男だな』という感じでジロジロ見られるので、私も立ち上がって自分に拍手をしてしまいました。そんな思い出があります。/その映画館のくらやみのなかで、『ああ勝ったんだな』ということと、『こんなにも喜んでもらえるのだったらもっとがんばらなければいかんな』という感じがしました。/私は山を登るのも好きです。3000メートル級の山を登って降りてきたときに振り返ると、『ああ、あの山に登ったんだな』という感激があります。そういう感激を日劇の地下で味わいました。/それがその後ずっと卓球をやるようになった一つの原因でもあると思います」(プロローグ全文)
 あえてプロローグ全文を引用したのは、このほんの“味わい”を少しでも理解していただきたいからである。“ジュニア”向けであるから表記、表現に難しいところはほとんどない。しかし、人を引きつけてぐんぐん読み進めさせ、途中何度も感動させられ、また感心もさせられる。そういう本を書くのは並大抵のことではない。
 いうまでもなく著者は、卓球の世界チャンピオン(1954年、初出場で優勝)であり、現在も日本卓球協会の役員(専務理事)、国際卓球連盟会長代理として、国内、国外を問わず活躍している。世界20カ国以上でコーチとしての指導経験もある。
 第二次世界大戦直後、著者高校1年生のとき、屋根が1/3くらい焼けた学校の体育館で放課後、2人の上級生が手製の卓球台で「きれいに大きなフォームで打ち合っている姿を電燈のつかない薄暗がりの中で見て『ああ、いいものだなあ』と思った」。それが卓球を本格的に始めようとした1つのきっかけだった。こういう思いを持つスポーツマンはきっと少なくないだろう。
 今では考えられないことだが、それから著者らが都立西高に卓球部をつくろうとしたとき、いわば男のやるものじゃないという考えもあり、終戦直後のお金や資材のないこともあり、校長の全面的な反対にあう。しかし、結局は①部室をやらない、②卓球台を買ってやらない、③予算をつけないという3つの条件つきで部の創立が認められる。驚くべきことに、それから、6年後、著者はロンドンでの世界卓球選手権大会男子シングルスで優勝するのである。しかも、当時の早稲田大学副キャプテンに1時間くらいみてもらったあと、「萩村君、悪いことはいわないから卓球だけはやめなさい」「第一に、君には素質がない。第二に、君は顔色もそんんなによくないので、室内スポーツの卓球を一生懸命やると必ず肺病になって死ぬ」といわれたにもかかわらずである。そういわれ著者「素質がないんだったら、とにかくもう努力しかないな」と思い、また「環境を絶対に清潔にしよう」と思ったという。素直に先人の言葉を聞き入れ、ではどうすればよいか、自分なりにしっかり考え結論を出していく。そういう姿が以後も展開されていく。優れたスポーツマンに共通してみられる姿を私たちはそこにみる。卓球台が少なく、練習相手もいないときがある。それでもそれなりに方法を見出していくのだ。相手がいないときは(都立大時代)、1人で卓球台の向こうに万年筆のキャップを置いて、それをスピード・サーブで打ち落としたり、垂直の壁にダイレクトにボールを打ち、それを打ち返す練習をした。壁は絶対ミスをしないし、強く打てばそれだけ強く返る。最初は2〜3球しか続かなかったのが2年で100球くらい続くようになった。これは人間相手より速いペースで、この練習の後、夜人間相手にやると余裕がかなりあったという。「スポーツにしても芸事にしても、一番大切であり、一番厳しく役に立つ練習は一人練習だと思います」。この言葉に納得する人も多いだろう。
 こうして数々のエピソードを拾い上げていってもきりがないが、国内・国外の大会で200回以上優勝という輝かしい実績を持つ筆者が、不利・不備な環境を克服し、ひたすら卓球に情熱を懸けていく姿は、どのスポーツにもいえるスポーツマンとして最も価値あることを示してくれる。そして、書名が示す通り、著者は広い意味で勉強もする。人はなぜスポーツをするのか、スポーツに情熱を燃やすとはどういうことなのか、スポーツの持つ素晴らしさを、読者は改めて知り、考えることだろう。
 書評子は、恥ずかしい話だが、卓球というスポーツがあまり好きではなかった。偏見を持っていた。しかし、こういった優れた書を読むと、自らの愚さを改めて思い知らされ、偏見がいかに狭量であるかがわかる。人並みに本は読んでいるつもりだが、間違いなくこの本をおすすめすることができる。もちろん“ジュニア”にはぜひとも読んでいただきたいし、大人の方々にも目を通していただきたい。 この欄で紹介したい話はほかにも数多くあるが、限られたスペースである。求めやすい価格でもあるので、ぜひ手にとっていただきたい。優れたものにせっする喜びが味わえる本である。
(清家 輝文)

出版元:岩波書店

(掲載日:1986-04-10)

タグ:指導 卓球  
カテゴリ 人生
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スーパーラガーメンはこうしてつくられた
小野寺 孝

スーパーラガーメンはこうしてつくられた小野寺 孝 部の歴史上最高といわれる猛練習をし、見事日本一に輝いた慶応義塾大学蹴球部(慶応ラグビー部)のフィットネス・コーチが著した書。副題に「慶応ラグビーの強さと栄光の秘密」とある。この種の本はやたら感情移入が強かったり、「見てきたようなニュー・ジャーナリズム」風であったりするのだが、この本は抑制がきき、冷静に、それでいて情熱が伝わる筆致で書かれている。それは、著者が慶応高校から慶応大学を通じてウィングの選手としてプレーしただけでなく、8年間フィットネス・コーチとして、科学性、客観性を持って取り組んできたからであろう。書名通り、慶応ラグビー部がどのような過程で強くなっていったか、フィットネス・コーチの視点で語られている。したがって、ラグビーの指導者にはすぐに役立つ内容が多いのは当然だが、何もラグビーだけにいえることではない、スポーツ・トレーニング全般におけるポイントが浮き彫りにされているため、どのスポーツの人が読んでも参考になる。
 というのは、昭和59年度のシーズン、昭和26年以来34年ぶりに関東大学対抗戦グループで全勝優勝したときのフィフティーン中、高校時代に全国大会(花園)を経験した選手は1人もいず、主将松永(天王寺高)、右ウィング若林(小石川高)以外は全員付属校出身。伝統ある名門チームとはいえ、戦力的にはどちらかというと「ごくふつうの選手の集団」だった。大学選手権の歴史をみても、優勝は昭和44年(早稲田と引き分け両者優勝)以降なし(昭和53年は準優勝)で、名門といわれる割には、さほど“栄光”に輝いてはいなかったのだ。しかし、練習の長さ、すごさは名物だった。「弱いところをとにかくたたいてたたいて強くすることしか考えなかった当時の慶応ラグビーのあり方が、見直しを迫られる時期にあったことは確かだろう。当時はまさに、慶応ラグビーという意地だけで支えられていた時代だったのだ」(第2章より)
 当時(昭和52年)、「黒黄会報」(OB組織黒黄会機関誌)に上田昭夫前監督が手記を書いた。そこで当時の慶応ラグビーについて5つの欠点を指摘している。
①基礎体力不足
②基礎プレーの甘さ
③気分的にムラが多過ぎる
④体を張った泥臭いプレーが見られない
⑤集中的に行う練習についていけない
 思えば、5点とも克服されてしまっているわけだが、「練習によって勝つ」「あれだけの猛練習に比べたら、試合時間の80分は短いものだ」という“美風”に対し、首脳陣がこのままではだめだ、練習方法を改革し、意識を改革し、無敵の戦士をつくらねばという考えを抱き始めたのが昭和52年だったのだ。実際ウェイト・トレーニングがこの年から始められ(著者がコーチ就任)、是永選手という足は速いがひ弱い欠点のあったウィングが、別人のようにたくましくなった。この成果が15シーズンぶりに早稲田に勝ち、大学選手権準優勝につながった。この年度の卒業生は、記念に1組のウェイト・トレーニング用品を残していっている。
 著者が「フィットネス・コーチ」になったのは翌年度からである。さらに、その年、ゲスト・コーチとしてオーストラリア協会公認コーチ、クリス・ウォーカーを迎えた。そうしたトレーニングによって、「慶応の全部員に、この『体力的必勝の信念』を芽生えさせていく」ことができたのである。
 そこには、ラグビーという競技の特性の科学的分析、体力の具体的目標値(3.2kmを12分台、50m走を6.5秒以内、ベンチ・プレスを100kg3回×3セット。これができないと一軍に入れない)、トレーニング計画、プログラムの緻密さ、そして伝統の意地があった。
 フィットネス・コーチである著者は、体育の専門家ではない。しかし、広告代理店の営業部長という職業柄、本場のアメリカン・フットボールの試合をよくみ、ノートルダム大学の練習も目の当たりにしている。さらに、前出クリス・ウォーカーの強い勧めもあって、オーストラリアでのコーチ・セミナーにも参加。こうした経験が、“科学的ラグビー”の大きな力になっていることだろう。誰しも最初は素人である。熱意があれば、現在のスポーツ医科学を現場に活かすことは、誰にでもできるのである(もちろん努力は必要だが)。スポーツ医科学は本来現場で役立つためにある。活用する気になれば、誰にでもできるのだ。
 和崎元監督作成のスローガン3本のうちの最後は、「知性ある猛練習で、敵を凌駕せよ」だった。知性ある猛練習、これなくして日本一という高みには達し得ない。このインテリジェンスは、しかし、いうほど高みにはないのだ。そういっては失礼になるかもしれないが、特殊な人しか持ち得ないものではないということなのだ。
 筆者は親切にも、“フィットネス・トレーニング”の実際を第13章で詳しく紹介している。また「付章」では「クラブチームのためのフィットネス講座」「高校生のためのフィットネス講座」と題し、具体的プログラムも挙げている。
「日本中のあまり強くないチームの指導者や選手の人たちに『おれたちもやってやろうじゃないか』と思ってもらいたくて、私はこの本を書いた」(あとがきより)
 もとより、1つのチームが優勝するのは1人の存在のみによるものではない。監督、コーチ、マネージャー、OB、スポーツドクター、そして選手、全員の力によるものであるのは当然である。しかし、いかにもその全員が気だけ逸(はや)らせても実りはない。どうすればよいか、それが本書にある。


・主な目次
第1部 15人のスーパーラガーメンが新しい慶応ラグビー部を完成させた
第1章 「魂のラグビー」が蘇った 
第2章 昭和52年当時の慶応ラグビー
第3章 慶応ラグビーに必要なもの
第4章 相手に勝つラグビーとは
第5章 フィットネストレーニングの登場
第6章 きびしいラグビーをめざす
第7章 上田−松永コンビの誕生
第8章 オーストラリア・ラグビーに学ぶ
第9章 コーチと選手はひとつの輪でつながっている
第10章 59年度のシーズンが始まった
第11章 大学日本一の座を目指して

第2部 ラグビープレーヤーはスーパーマンでなければならない
第12章 なぜ今、スーパーマンが必要か?
第13章 スーパーマンをつくる体力とは
第14章 スーパーマンをつくる体力トレーニング
第15章 スーパーマンにより近づくために
第16章 これであなたもスーパーマンになれる

(清家 輝文)

出版元:ベースボール・マガジン社

(掲載日:1986-05-10)

タグ:ラグビー 慶応義塾大学 トレーニング  
カテゴリ 指導
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女子スポーツ・ハンドブック
日本体育協会

「女性の時代」とか「女子どもの時代」といわれる。男女雇用機会均等法なるものも制定された。逆にいえば、男、大人、それを合わせた「大人の男」の影は薄い。あるいは、「大人の男」であることは難しい、または珍しい。男である書評子の私論がかなり露骨かもしれない。が、つまりは、女性のことを考える場合、それは逆に男性(どうもこの表現には抵抗がある。どうして男、女といった簡潔な表現が野卑なイメージを帯びるようになったのだろうか)のことも考えることになるということだ。話がそれたが、女性がテーマになりつつあるのはスポーツの世界も例外ではない。女性とスポーツに関する雑誌の特集はこれまでに何度も試みられてきたし、シンポジウムのテーマになったこともある。だが、わかりやすいガイド・ブックの類では、日本ではあまりみられなかったのが現実である。本書『女子スポーツ・ハンドブック』は、表紙も優しくスマートだが、内容もQ&A形式で親しみやすい。自分に関心のあるQの項を選び読むのもいいが、この分野に関わっている人、あるいは興味ある人なら、一通り読まれることをお勧めする。
 構成は「主な目次」の項に示した通り、Qを①心理的・コーチング的側面、②運動生理的側面、③一般的・社会的側面に分け、①で30項目、②で52項目、③で16項目を収録している。そのそれぞれのQに対し、各専門家が答えるわけだが、本書発刊に至るまでの経緯を簡単に記すると次のようになる。
1900年 オリンピック・パリ大会でテニスとゴルフに女子選手が初参加
1912年 同ストックホルム大会で水泳が女子種目に加わる。
1928年 同アムステルダム大会に陸上競技、体操、フェンシングが女子種目に加わる。
1964年 同東京大会にバレーボールが女子種目に加わる。
1976年 同モントリオール大会にバスケットボールとハンドボールが登場。
1981年 日本体育協会競技力向上委員会で、国際競技力向上長期総合強化計画の一環として「女子スポーツ強化対策プロジェクト班」設置。依頼、スポーツ科学委員会女子スポーツ対策研究班、学識経験者の協力とともに、現場の指導者、選手の意見も採り入れ、各種検討がなされてきた。
 こうして、女子スポーツの指導者、選手の参考書として、本書が刊行されたわけである。
 編集委員は、嘉戸脩、小谷望、杉原隆、山川純の各氏。執筆者は、跡見順子、荒井貞光、石井源信、大野美沙子、海野孝、加賀谷淳子、嘉戸、金子正子、川原貴、今野和明、沢田和明、杉原、清和洋子、塚原千恵子、土ヶ淵竹志、荻原美代子、浜松ヨシ江、山田重雄、吉田敏明の各氏(姓のみは編集委員)。
 一通り読み進んでいくと、私たちは「男だから」「女だから」と容易に短絡した物の見方、考え方をし、それが科学的根拠がないどころか、単なる偏見であることが多いのを知る。男性と女性では、心理的、運動生理的、社会的に何がどう違うのか、違うからどう対処しなければならないのか、まずこういった本で客観的に捉えておくことが大切だろう。女子の指導者が男子であることは珍しくない。選手に男女があるように、指導者にも男女がある。男対男、男対女、女対女の3つの組み合わせは、指導者対選手にも生じるわけだ。また、単なる男女差だけでなく、個人差もある。言語的な能力は女子のほうが優れていて、迷路や幾何学的な図形の分割や構成、二次元や三次元の空間判断などといった空間関係の理解・認知能力では女子は男子に劣るという比較的一貫した結果が得られている(P3より)とはいえ、それも個人差があり、「男だから」「女だから」と一概にいえないのは、日常生活を通じて誰もが知るところである。
 これまで、スポーツといえば、多くは男子の参加するものであり、女子選手の参加、増加は比較的近年のことである。したがって、どうしても「男社会」的な要素が強かったスポーツだが、人間の半分は女子という明白な事実から、逆に女子とスポーツというテーマへの関心が高まっているといえるだろう。また、女子とともに、子どもとスポーツというのも近年関心の高まりつつあるテーマである。これも大人の男を中心にスポーツが語られてきたからとみることができるのではないだろうか。スポーツは老若男女のものであるから、老人とスポーツというテーマも今後急速にクローズ・アップされていくことだろう。その意味で、本書は決して特定の読者を対象とするのではなく、スポーツあるいは人間社会全体の問題を扱っている。




主な目次

〔心理的・コーチング的側面〕
Q1 知的能力や性格の面で、女子と男子にはどのような違いがありますか〜 Q30 思春期以前の女子選手のコーチングが心理的な面で、どのような配慮をすればよいですか

〔運動生理的側面〕
Q1 小学生からトレーニングを始めると、初潮に何か影響がありますか〜 Q52 運動あるいは試合の前の食事は何がよいですか

〔一般的・社会的側面〕
Q1 女子選手のスポーツ参加にはどのような特徴がみられますか〜 Q16 女子選手の一般的な練習時間と練習内容はどのようなものですか。また、その理想的な姿は

〔座談会〕
1985年11月東京国際女子マラソンを振り返って
(清家 輝文)

出版元:ぎょうせい

(掲載日:1986-06-10)

タグ:女性 指導  
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツの栄養・食事学
鈴木 正成

 かつての横綱北の湖は、小学校6年生のとき相撲界で人生を送る決心をしたとき「たくさん食べて昼寝をすることが大切」だと考えたそうだ。「睡眠中は成長ホルモンの分泌が活発になるので、からだづくりは寝ている間に活発になります。したがってより大量の筋肉をつけるには、寝る前の食事でしっかり肉や魚、チーズ、卵などを食べることが大切であり、その後に深い睡眠を充分にとることが必要なのです。少年北の湖は、この重要なサイエンスを心眼をもって読み取っていたことになります」。これは今回紹介する本の序からの引用だが、本文中ではさらに詳しく次のように記されている。
「筋肉たんぱく質や骨づくりは、成長ホルモンによって促進されます。多くのホルモンの分泌には日内リズムがあり、睡眠機に分泌が高まります。とくにノンレム(non-REM)睡眠期に分泌が高く、レム睡眠期には低下してしまいます。(中略)ノンレム睡眠期には体温が一日中で最も低下し、全身の細胞のエネルギー代謝の低下や筋肉の動きがみられなくなります。このような生理条件下にあってはエネルギー(アデノシン三リン酸、ATP)消費が少ないので、筋肉細胞中にATPが大量にプールされます。この豊富なATPが筋肉たんぱく質づくりにまわるのです。(中略)ノンレム睡眠は眠りに入って1時間後ぐらいから約3時間続きます。また、午前中の眠りではノンレム睡眠に入りにくく、昼寝(午睡)では比較的入りやすいのです」(P88〜91)
 著者は、ホウレン草をひと缶食べただけで宿敵ブルートを一発でブッ飛ばす「ポパイのホウレン草」のような食べ物、飲み物が発見された記録は見当たらないとしながらも、上記北の湖の例を引き、「このように、素質とサイエンスが融合し適合したとき、食べ物は数年から十数年の年月をかけて、『ポパイのホウレン草』になれるのです」(序より)と述べている。
 確かに、「ポパイのホウレン草」はスポーツ選手にとって魅力のある食べ物である。現在のスポーツ栄養学流行りのなかに、そういった特効薬的食事内容を求める風潮がなきにしもあらずであろう。そういった風潮の1つの現れがドーピングとみることもできる。
 しかし、真のスポーツ栄養学とは、スポーツ選手にとって、栄養・食事面から激しい運動を支える適切な知識を提供し、さらには各競技、各種目に応じ、また各個人に合わせた有効、安全な指針、アドバイスを提供できるものでなくてはならない。トレーニングの成果を最大限にし、パフォーマンスを最高度にするために、栄養・食事面でのマイナス要素を除き、マシーンとしての身体の機能を最大限発揮する助けとなるスポーツ栄養学は、高度なスポーツ選手に求められるものであり、注目を浴びるところだが、そればかりに気を取られていてはならない。
 そこで、私たちはそもそも栄養学とは何なのかを、ひとりの個人に立ち返って思わざるを得ない。“学”とつくからには学問の一分野であることは疑いない。しかし、では、学問とは一体何なのか。何のために、窮極何を目指して存在するものなのか。科学が進歩し、ICとかエレクトロニクスとか、ハイ・テクノロジーとか、なんとかかんとか、私たちの周囲には、専門家以外には得体の知れぬものが蠢いている。だが、そのどれも携わっているのは、誰あろう、みな人であり、人間なのである。高度な知的トレーニング、知的集積、展開がもたらす所産、それは凡人の手が届くところではないが、それがもたらすものは、凡人である私たちの身の上に関わるものなのである。ならば、私たちは、スポーツと栄養、スポーツ栄養学の地平で、根本何を求めるべきか、何を知りたいのか。
「本書には、運動と栄養について基礎的な理論が解説され、同時に具体的な食生活のあり方が説明されています。また、健康を目指す人々のスポーツライフのあり方とその結果についても述べられています。そして、チャンピオンたちが、どのような食生活をしながら、からだと体力をつくってチャンピオンの座を獲得しそれを維持しているのか、その科学的な背景についても解説されています。(中略)人間の食生活には、過去の食料不足時代にあった『生きるために食べる』食生活と、飽食時代にみられる『食べるために生きる』現代人の食生活の二つがあります。このことに加えて、人間の食生活には『文化を創造するために食べる』食生活もあることを、広く認識してもらうことに本書が役立つとすれば、それは望外の喜びです」(序より)
 何をどう食べるか、それはまず命の問題である。次に健康の問題である。そしてさらに文化の問題である。スポーツは文化の1つである。こういった考え方のなかにスポーツ栄養学なるものが位置づけられてこそ、健全なのではないだろうか。「ポパイのホウレン草はありやなしや」、本書をじっくり読んで考えていただきたい。


主な目次
I章 アスリートのための栄養をデザインする
A. からだづくりの栄養学
B. スタミナづくりの栄養学
C. 疲労とその予防・回復の栄養学
D. ウエイトコントロールの栄養学
E. ビタミンのゆとりの栄養学
F. 発汗と水分・ミネラルの補給
G. 環境と運動能力
H. 敗者にサイエンスを発見する謙虚さ

II章 アスリートのための食生活をデザインする
A. 食生活の概念とスポーツ
B. からだづくりの食事学
C. スタミナをつける食事学
D. し好飲料とスポーツ
E. ウエイトコントロールの食事学

III章 合宿期と試合時の食事学
A. 合宿練習期の食べ方
B. 試合時の食べ方

IV章 ヘルス・アスリートの健康学
A. リハビリテーションでスポーツを開始するのが決め手
B. 体操、即歩、ジョギングの効用
C. ウエイトコントロールは安全性を第一に
D. アルコールと健康
E. ウルトラマラソン中の水分の過剰摂取の害
F. 生涯にわたるスポーツの生活化

終章 人生を豊かにするスポーツ
A. 文化とスポーツ
(清家 輝文)

出版元:同文書院

(掲載日:1986-07-10)

タグ:スポーツ栄養学 スポーツ食事学  
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コーチングの科学
福永 哲夫 湯浅 景元

 どんなことでも人に何かを教えるのは難しいものである。昔から「教えることは学ぶこと」といわれるように、人に物事を教えていく過程で、教える人は逆に学ぶことが多い。学ばないと教えられないということもある。
 スポーツの世界では、教える人のことをコーチと読んだり、スクールではインストラクターと呼んだりしている。いずれにせよ、特にスポーツの技術指導はコーチングと呼ばれ、経験したことのある人ならよく分かるだろうが、簡単に教えた通りの動きをしてくれるものではない。逆に、教えた通り、あるいはそれ以上にできたとき、コーチの喜びはひとしおである。どうすれば、こちらの愛していることが伝わるか、またそれを選手や生徒が進んでやるようになるか、コーチやインストラクターは日々心を砕いていることだろう。最も大切なことは、本にもなかなか書いていないし、言葉で表すのは難しいことも多い。「こうだ」とお手本を示しても、選手や生徒にとっては「それができないんじゃないか」と不満が出ることもある。元読売巨人軍の長嶋氏はバッティングについて「バッと来たら、ビュッと振って、ガツンだ」と説明したそうだが、これだけを聞いて“ガツン”と打てる人はいないであろう(少なくとも、打つ心意気、心構えはなんとなく分かるが)。
 さて、本書、その難しいコーチングを科学的に捉えようというものである。
「スポーツのコーチングにおいては、プレーヤーの動きや身体的調子に関する“感じ”を客観的“事実”として理解することが必要である。さらに、現在までに明らかにされてきている体力トレーニングに関する科学的原理をもとに、スポーツ種目特性や個人の能力に応じた種目別個人別トレーニング方法を作成し実行するための努力がなされなければならない」(序より)
 実に淡々と書かれてはいるが、このこと自体大変な作業である。
「本書は、スポーツを実施したり、指導したりするときに生じるこれらの問題の解決にスポーツ科学がどのように接近できるかといった観点から、われわれの研究グループによって得られた成果を中心に、スポーツやトレーニングのコーチングに関する科学的基礎についてまとめたものである」(同上)
 興味深い具体例を本書から紹介しよう。
「スポーツにおける“感じ”と“事実”」という点について、「プレーを実施しているときの身体の動きや生理的反応は、プレーヤー自身にとっては主観的な“感じ”をたよりに教科書や映画などで得た客観的な知識に照らし合せながら組み立てていく。このとき、映画分析などで得られた事実と、プレーヤの感じる主観的“感覚”とがずれている場合が多い」(P2)とし、その例として、卓球でのドライブ打法を挙げている。これはラケットを下から上に振り上げて、ボールに順回転をかける打法だが、プレーヤーは膝を深く曲げて、重心を低くしてから、伸び上がるようにしてラケットを振り上げる。このときのプレーヤーの“感じ”では、からだの重心がかなり上方に移動したところでラケットがボールに接触する。横から見ている人の“感じ”もそうだという。ところが、科学的に調べてみると、実際には、ボールのインパクトはからだの重心が最も下に下がった直後にみられ、“感じ”よりも時間的に早い時点で打っているのである。
 こういった指摘がプレーヤーにどう影響を与えるか分からないが、人によっては“ハッと”と思わせられるところがあり、問題が途端に氷解するかもしれない。
 主な内容は「主な目次」の欄に示した通りだが、コーチにとっても選手にとっても興味深いところが多いのではないだろうか。「コーチングの科学」とはいえ、選手のすべてがコーチの指導のもとにトレーニングや練習を積んでいるわけではなく、コーチなきチーム、選手、コーチング自体も自らに要求しなければならない。その際にも、こういった書のもたらすところは大であろう。
 本書はあくまで「科学」を取り扱ったものであるから、一般書を読むように楽に読み進めるものではないが、ある程度基礎的知識を持っていれば、現場での指導に役立てられるところは多い。
 特に、「7. コーチングへの科学的接近」では「特別な器具はなくても科学的分析・指導はできる」の項で、簡単に筋の太さを計る方法、簡単に全身の脂肪量を計る方法、最大酸素摂取量を簡便に知る方法、ストップウォッチでの無酸素的・有酸素的能力の測り方、走スピードから推進力を求める、垂直跳から脚パワーを測る、持ち上げ回数から最大筋力を推定する、“主観的な感じ”から運動強度を知る方法、走・歩行時に消費するカロリーなどが示されているほか、「コーチングの科学の具体例」として、ボート競技──東京大学ボート部の場合、スピードスケート──全日本候補選手の夏季トレーニングについて、野球──東京大学野球部の場合、競泳──高橋繁浩の場合、陸上競技──室伏重信選手の場合などが挙げられていて、とても参考になる。
 競技スポーツ、特に国際的レベルではスポーツ医・科学の導入は今や常識となっている。ソ連は、東欧は、中国は、韓国は、というようにマスコミでも賑々しく報じられることは珍しくない。この点で日本は立ち遅れているといわれ、それも事実であろうが、実際にはスポーツのそれぞれの現場で積極的に科学的アプローチがなされてきている。まだ一般的ではないにしても、我が国のレベル自体は決して低くないはずである。本書のような書物が指導者によって広く読まれ、現場での試行錯誤を経ることで、さらに裾野が広がり、全体のレベルが向上していくことが期待される。エレクトロニクス技術で世界トップ・クラスの日本におけるスポーツが、いつまでもあまりに経験主義的だったり、“非科学的”であるのは、どう考えてもヘンなことなのである。


主な目次
1. コーチング科学のなりたち
2. スポーツ成績を生み出す技術
3. スポーツ記録の向上をめざして
4. 競技力に及ぼす諸要因
5. 女子のスポーツ適性
6. オリンピック選手にみる体力の競技種目特性
7. コーチングへの科学的接近
8. 健康・体力つくりをめざして
9. 子どもとスポーツ
10. コンディショニング
(清家 輝文)

出版元:朝倉書店

(掲載日:1986-08-10)

タグ:コーチング  
カテゴリ スポーツ医科学
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勝利(チャンピオン)への条件
江川 玟成

 ロサンゼルス・オリンピックのときもそうだった。「プレッシャーに弱い日本選手」とよくいわれた。そのたびに思ったが、「プレッシャー」などという言葉がなかったとき、海外試合その他で日本人はいったい「何に」弱かったのか。多分、その当時なら「根性がない」とか「意気地がない」「だらしない」といわれたのではないだろうか。どうも時代錯誤的感想めいているが、「プレッシャー」という言葉で逃げられる一面もあるのではないかと、愚考する。
 こんなことをいうと、オリンピックの想像も及ばぬ緊張を知らないからそんなことがいえるのだと反論されるのは火をみるより明らか。本当に知らないから、そういわれれば、「そうですか」と引き下がるよりない。「…でも」と口を濁して。やはり、スポーツマンはプレッシャーをはねのけ、あるいはコマーシャルの文句ではないが、プレッシャーをエネルギーにし、というようでなければ、頼りない。世の中の男たちが頼りなくなってしまったのと同様、スポーツマンたちも、時代の空気の中で似たような状態なのかもしれない。要求される度合いが昔と比べ物にならないのだという言葉ももっともだが、それでも、やっぱり、どうしても、プレッシャーを克服しないと勝てないのは自明の理。
 そこで、本誌で座談会や今月のスポーツドクター・インタビューの頁などで紹介されているメンタル・トレーニング、メンタル・マネージメントが注目を浴びてくる。ただ「頑張れ」「そんなことでどうする」といった叱咤激励では効を奏さない、もっと方法論をしっかり持って、というわけである。本書『勝利への条件』は「スポーツマンのメンタル・トレーニング」という副題がつけられている。著者は東京学芸大学助教授(教育方法学、カウンセリング心理学)で空手道六段である。ライフル射撃と剣道をする霜礼次郎医師も武道、とくに『五輪書』とメンタル・トレーニングの共通点を指摘しているが、著者も同書および『兵法家伝書』を文中によく挙げている。両方の書は「勝負や訓練の際の精神面を重視してはいるが、けっして精神主義ではない。技術向上や勝負にあたっての技の運用について、合理的にすすめていこうとする研究・工夫が、よく記述されている。むしろ合理性(科学志向性)の裏づけをもった精神重視といってよい。だからこそ、科学時代の今日でも、時代をこえて役だつ点があると、評価できるのである」(第1章より)。
 試合で勝つためには、まず日常の心構えが大切という箇所で、参考までに『五輪書』からの引用(一部)を下に掲げてみよう。

 第一に、邪心を持たぬこと。
 第二に、二天一流の道をきびしく修行すること。
 第三に、広く諸芸にふれること。
 第四に、さまざまな職能の道を知ること。
 第五に、ものごとの利害損得をわきまえること。
 第六に、あらゆることについて、ものごとの真実を見分ける力を養うこと。
 第七に、目に見えぬ本質をさとること。
 第八に、わずかなことにも、注意をおこたらぬこと。
 第九に、役にたたぬことをしないこと。

 これを引いた上で、著者は、「人に勝つには、日常生活が、即、修練・修行の場であるべしとする、宮本武蔵の意図が、十分によみとれることであろう。……つまり日常生活が、技術の向上と試合につながっていなければならないと、理解したい」と語っている。
 これだけを読んでも、当たり前と思う読者も多いことだろう。しかし、その実際はたやすいものではない。そのたやすくないことがどうすればできるかを説いたのが本書といってよいだろう。もちろん、方法論としては日常以外のことも含まれているが、すべてはこの辺に根本があるようだ。「主な目次」の項を参照していただきたいが、著者は「勝利への条件」として、第1章で技術の向上、第2章で事前準備、第3章でそれらの科学的基礎、第4章で集中力、第5章で“あがり”の克服、第6章で試合中の心・技について述べている。それぞれ実際的で、メンタル・トレーニングの方法についても詳しく記されている。新書判なので読みやすく入手もしやすい。
 スポーツは、人間がからだを動かすことがまず基本だが、肉体は精神と切り離せぬものである。スポーツ、とくに勝敗や記録を争う競技スポーツでは気持ちのありよう、精神的態度、心構えは練習、試合とも非常に重要である。ところが、それは性格や天性の部分もしくは本人の“やる気”に委ねられていることが多い。本書を読めば、そうではなく、性格も変えられるし、集中力も高められるし、“あがり”も克服できるのがわかるだろう。また、勝つということが、単に技術、作戦的に上位の結果ではなく、勝つために日頃から努力している結果であることもわかる。
 宮本武蔵などを持ち出すと、古くさいと思う人もいるだろう。だが私たちは武道が長い歴史の中で培ってきたものがただならぬものであることも、今改めて知る必要があるのではないだろうか。
 まあ、いずれにせよ、スポーツの世界で「プレッシャーに負けた」とか「プレッシャーに弱い」などという文句はこれから目にしたくないし、耳にもしたくないのである。

主な目次
第1章 スポーツ技術のレベル・アップ
 1. スポーツ指導についての誤解/2. 技術を向上させる条件
第2章 試合に勝つための条件 
 1. 勝敗を決めるものは?/2. 試合に勝つための事前準備/3. 試合にのぞんでの工夫
第3章 技術の向上に必要な科学的基礎
 1. 身体力学と生理学の基礎知識/2. 心理学の基礎知識/3. 練習内容と方法を決める科学的基礎
第4章 集中力を高めるためには
 1. 集中力とは何か/2. 集中力アップの工夫
第5章 “あがり”の克服法
 1. なぜ“あがる”のか/2. 日頃の工夫による防止対策/3. 自律訓練法による克服
第6章 試合中の心と技の工夫
 1. 試合中の心のもち方/2. 試合中の技はここを!

巻末に「性格の自己チェック尺度」と「敗因診断票」を付す。
(清家 輝文)

出版元:千曲秀版社

(掲載日:1986-09-10)

タグ:メンタル 武道  
カテゴリ スポーツ医科学
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東ドイツの水泳教程
ゲルハルト レビン 福岡 孝純 古橋 廣之進

 知らないことを知るという。知れば知るほど、自分が知らないことを知らされる。比較的よく知っていると思っていても、そのことを人にわかりやすく説明したり、文章に書いたりするのは難しい。スポーツについても、仮に10年間やったところで、そのスポーツが「わかった」わけではない。経験を通じて得たものは語れても、体系立てていうのは大変なことである。
 この本を読んで痛感させられたのは、水泳について、これほど緻密に、城を築くようによく書けたものだということだ。訳者もあとがきでこう記している。
「その記述は正確をきわめ、ブロックを一つひとつ積み上げるように精緻に行われている。非常に几帳面、かつオーソドックスになされている解説は、ややもすると視覚的な情報に慣れすぎているわれわれ日本人にとっては丁寧すぎる印象さえある。しかしこのようにしてのみ、客観的、かつ正確に運動の描写や解説が行われ得るといえよう」
 全体317頁で図は154点。どちらかというと記述中心の本である。しかし、非常にわかりやすいし、「水泳」そのものが単にスポーツとしてのみでなく、人間の文化的所産として感じられるところまで描かれている。これは、著者の筆力の賜としたいいようがない。
 著者は、東ドイツの現場で最先端にいるコーチで、日本でも出版された『東独の子ども水泳教室』の著者でもある。一言でいえば、この本はその著名コーチが書いた競泳をはじめとする水泳に関する専門書である。「とかく我が国のこの種の本が写真分析によるフォームや泳法などに関する形態的な記述で、長期的トレーニングの組み立てや構成が不足気味であるのに対し、本書は水泳のトレーニングを年齢や経験、パフォーマンスにより段階的に分類し、能力強化のプログラムを分析し、総合的、システマティックにとらえているところに特長がある」(訳者あとがき)。
 確かに日本では、ビデオや写真やコンピュータなど視覚で捉える機材が豊富になり、ややもすると私たちは映像のほうがわかりやすいと思いがちである。しかし必ずしもそうではないし、むしろ逆に活字のほうがより正確、緻密にわかることもある。至難の技とはいえ、こうも優れたものをみせられるといかに自分が怠慢であるかを知らされる。
 簡単に各章を紹介すると(主な目次の項参照)、第1章では東ドイツの水泳の現状、組織的関係と担当分野などについて、第2章では、水泳の生理・生物学的特性、トレーニングでのスポーツ医学面について、第3章では、有史以来の主としてヨーロッパに着目した水泳の歴史、その訓練法の発達について、第4章以下第7章までは競泳、飛び込み、水球、リズム水泳(シンクロナイズド・スイミング)の4種目における技術、基本訓練、指導法、トレーニングなどについて詳細に記されている。そして、第8章では、競技ではないレジャー・スポーツ、レクリエーションとしての水泳について、第9章ではドイツ水泳スポーツ連盟の競技規定についてまとめられている。
 本書の全体を少しでも感じ取っていただくためにキーになる部分を引用しよう。
「『水泳の基本訓練』という概念は東ドイツで20〜30年前に生まれ、特定方法論的問題が基本訓練の目的、課題、内容、基本姿勢の中心となった。/水泳の基本訓練は水中でのスポーツ指導を目的とし、幅広い応用範囲(就学前、学校、競技、レジャーとレクリエーション、職場、水難救助)をもち、2段階に分かれて泳げない人や泳げる人に方向づけた教育を行う。/競技スポーツにおいても最高のパフォーマンスをつけるための長期的継続的構成は次のように決まっている。第1段階──基礎トレーニング 第2段階──強化トレーニング 第3段階──発展トレーニング 第4段階──ハイパフォーマンス・トレーニング(中略)基本訓練の第1段階には7歳くらいの子どもに対する競泳トレーニングの試みが入っており、これは第2段階(バッククロールとクロールキックの習得)へとつながる。長期的トレーニングでは第2段階のほうが内容的に中心となる」(第4章の2.競泳の基本訓練」より)。
 いわゆるペリオダイゼーションの考え方である。東ドイツや共産圏諸国における理論と実際は少しずつ紹介されるようになり、それまでは、秘密のベールにおおわれているあまり、いろいろなことがいわれたものだが、こういった書が読まれることで、なぜ共産圏が強いのか、その計画性と段階的指導の緻密さに納得させられる。それは、共産圏だからできるということではなく、やりよう、考えようによっては日本でも十分に可能なことであろう。水泳関係者でなくともヒントが多く得られる本である。

主な目次
1. ドイツ民主共和国における体育とスポーツの分野での水泳スポーツの意義
若い世代の教育のために水泳スポーツが有する意義/水泳スポーツの種目とその位置づけ

2. 水泳が人体に及ぼす影響
生理学的および生物学的特性/水泳トレーニングにおけるスポーツ医学的特性

3. 水泳の歴史についての考察
人間社会における水泳の発達/水泳スポーツの発達/水泳基本訓練における指導法の発達

4. 競泳
泳法、スタート、ターンの発達/競泳の基本訓練/水泳の基本技能の養成(基本訓練の第1段階)/第2段階/競泳の指導法/競泳の基礎トレーニング

5. 飛び込みの基本訓練と基礎トレーニング
一般の飛び込み/飛び込みの基本訓練/飛び込みの基礎トレーニング

6. 水球の基本訓練
専門的な水泳技術/ボール技術/水球の専門技術の指導法/戦術の原則/水球の基礎トレーニングの注意

7. リズム水泳の基礎訓練
シンクロナイズド・スイミングとバレエ水泳の技術/シンクロナイズド・スイミングの技術的基本訓練/リズム水泳の指導法/リズム水泳の基礎トレーニング

8. レジャー・スポーツ、レクリエーションとしての一般の水泳
器具を用いない一般の人々の自由時間の水泳/器具を用いる一般の水泳/ユーモラスな水泳と飛び込み/複合競技/水中でのゲーム/一般の水泳の練習実施のための運営と方法上の注意

9. DDRドイツ水泳スポーツ連盟の競技規定について
一般競技規定/競泳の競技規定/飛び込みの競技規定/水球の競技規定/以下略
(清家 輝文)

出版元:ベースボール・マガジン社

(掲載日:1986-10-10)

タグ:水泳 飛び込み 水泳 シンクロナイズドスイミング  
カテゴリ 指導
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ストレッチングの実際
栗山 節郎 山田 保

 先日、ある目的でここ5〜6年の体育・スポーツに関する新聞の切り抜きにひと通り目を通した。そこで1つ気がついたのは、1980年頃はエアロビクスの記事が目立ち、1981年頃になるとストレッチングが盛んに取り上げられるようになる。スポーツ外傷・障害に関する記事は、この2〜3年で急激に各紙に頻出するようになる。丁寧にその数を拾い、表にして示せば面白いデータになるだろう。
 新聞記事のみならず、ストレッチングは、単行本として日本で何冊も出ている。身近に10冊くらいはあるから、すでにその倍は出ているだろうし、ブックレット、パンフレットなどと合わせると、大変な数になるだろう。そういう状況からいえば、何を今さらのストレッチングの本である。
 だが、ストレッチング・ブームもひとまず落ち着き、それだけ実践者も増えた結果、人それぞれ冷静にストレッチングをみることができるようなったともいえるだろう。T.J.ブックスの最新刊『トータル・ボディ・トレーニング』で、ドミンゲス博士は次のように述べている。「誰でも柔軟性に富んだからだになりたいと望んでおり、ある程度の可動性は、望ましくもあり有益でもあることはいうまでもない。……問題は、柔軟すぎると、かえって害をもたらす危険性があるということである。……柔軟性は、それ自体を目的とするべきではなく、筋力強化とそのトレーニングの結果として備わるべきである。……問題は、柔軟性をコントロールできる筋力を備えていない柔軟性はケガを招くということである」
 こういう指摘は、実はつい最近出てきたものではない。ストレッチング・ブームの最中でもいわれてきた。少し考えると、その指摘はあまりにも当然である。しかし、だからといって、ストレッチングの価値が貶められるものではない。少しよければ全部よし、少し悪ければすべて悪しではなく、よい点はよい点として活用し、それ以上の“幻想”を抱かないことである。この『ストレッチングの実際』でも「ストレッチングによって得られる体の柔軟性は、いわゆる“体力”の一部であり、他の能力、すなわち、筋力、敏捷性、平衡能力、協応性、持久力など総合的な体力も高めることが必要であることを忘れず、そのうえでストレッチングを正しく活用して安全で楽しいスポーツライフを、また健康な身体と生活を得られることを期待する」(はしがきより)、ただ単に関節を柔らかくしたのでは意味がない。全身のすべての関節を柔らかくしてしまっては十分な筋力が発揮できない」(P3「柔軟性とは」より)と述べられている。
 ブームの発端から約5年を経てスポーツドクターと体育専門家によってまとめられた本だけあって、この本はストレッチングを通じてスポーツ外傷・障害についても学べるようになっている。いや、むしろ、これだけストレッチングの本が出てしまった今日、その部分こそ、この本の根幹であるといいたくなる。主な目次は例によって別の欄に掲げたが、全体は大きく4つに分けられ、前半はストレッチングに関連する医学と科学について、後半はストレッチングの実際、つまり方法がまとめられている。Iの「ストレッチングの基礎知識」でも、IIの「ストレッチングの必要なスポーツ傷害」でも、中心はスポーツ整形外科的観点であるのが本書の特徴である。解剖・生理はもとより、各部位に生じるスポーツ外傷・障害について、ひと通りの知識が得られる。たとえば、下肢の膝関節の項では、解剖から始まり、膝のスポーツ傷害として半月損傷、靭帯損傷、膝伸展装置の傷害、膝関節周囲の腱炎が説明されている。ケガが生じたときの救急処置についても簡単だが、必要なことは記されている。そして、本文中、参照すべき実際のストレッチングやその他の項目について、→24頁のように示されているため、実用性は非常に高い。実技を伴うものを本によって表現するには、難しさと反対に工夫ひとつで映像よりわかりやすくなる利点もある。最近の本にはその工夫が目立つが、これもビデオの普及に対し、著者と編集者が心を砕いて「本の世界」を高めようとしている反映だろう。「坐位での大腿四頭筋のストレッチング」(P61)で「注意点」として「なお上体を後ろへたおすときは膝を曲げている側の股関節が伸びるようにするとよい。つまりこの側の“ズボンのシワを伸ばすような気持”で行うとよい」という表現は、動作に具体性を持たせる意味でとても有効であり、こういった1行にも著者の苦心のあと、あるいは現場経験、指導経験の豊富さがうかがえる。
「ボブ・アンダーソンによってストレッチングの概念の系統化がなされて以来、わが国においてもストレッチングに関わる多くの出版物が紹介されてきた。これらの本はいずれもたいへん有用なものであるが、トレーニングを指導する立場の者にとっては医学的・生理学的な面からの解説の必要性を感じていた」(あとがきより)という言葉通りの本である。いろいろ教えられる1冊だ。「またストレッチングの本か」とうっちゃっておくのはもったいない。

主な目次
I ストレッチングについての基礎知識
1. ストレッチングの科学
2. 正しいストレッチングの方法
3. リハビリテーションとしてのストレッチング
4. スポーツ傷害

II ストレッチングの必要なスポーツ傷害
1. 下肢
2. 躯幹
3. 上肢

III ストレッチングの基本動作
1. 下肢のストレッチング
2. 躯幹部のストレッチング
3. 上肢のストレッチング

IV 種目別ストレッチング
(清家 輝文)

出版元:南江堂

(掲載日:1986-11-10)

タグ:ストレッチング  
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツ医学I けがをふせぐ
市川 宣恭

 スポーツ医学の本は、どちらかというと高価であることが多い。ところが、最近は新書判のものものチラホラ出てきた。比較的低価格で刷り部数も多いということは、それだけ読者がいるだろうということであり、5〜6年前に比べると隔世の感がある。つまりは、スポーツ医学が一般に普及してきたことを示している。それでも「文庫本」にはスポーツ医学の入る余地はなかった(新潮文庫に『ベスト・ジョギング』下條由紀子著があるが、これはスポーツ医学というよりジョギングへの誘いの書)。
 ところが、保育社のカラーブックスから、その名もズバリ『スポーツ医学I』が、定価500円で刊行された。このカラーブックス、文字通り、カラー頁が多い。カラーと白黒ページの見開きが交互に続く印刷形式である(152頁)。
 カラーブックスは、昭和37年に始まり、この本出で715巻を数える。全巻で3500〜4000万部売れているという。写真を多数用いたもので、どこかで1冊や2冊はみたことがあるはずのシリーズである。これまで医学全般のもの、たとえば腎臓病、糖尿病、心臓病などのものは刊行されていたが、スポーツ医学は初めてで、このあと続刊として来年に『スポーツ医学II──けがをしやすいところ』『スポーツ医学III──けがをなおす』の2冊が出される予定である(著者は同じ)。
 全体的にカラーブックスの特徴でもあるが、写真や図が多く、文庫本ということもあって、比較的短時間で読み終えることができるが、なにも読み通す必要はなく、それぞれ関心のあるところだけを読んでも十分役に立つ。
 著者は本誌10月号の「スポーツドクター・インタビュー」で紹介されている市川宣恭氏。著者についての詳細はそちらに譲るが、「私は整形外科医として30年間、大学病院で臨床経験を積んで参りました。また、大阪市身体障害者スポーツ・センターで、身体の不自由な人たちのスポーツと身体的な効果および障害について相談にのり、指導をしてきました。それらの体験を通じて、元気のよいスポーツ選手から中高年のスポーツ愛好家に至るまで、けがを防ぎ、事故をなくすための助言をしたいと思って執筆しました」(まえがきより)という言葉通り、肩肘張らずにスポーツ医学、とくに外傷・障害が各スポーツ別に語られている。
 もとより文庫本であるから、一般読者向けにできるだけ平易簡明に記されているが、スポーツ医学も医学という専門内であるから、どうしても解剖学や用語の点で理解しにくいところがあるかもしれない。もちろん、著者はその点にも配慮し、「基本的な用語の解説」の項を設け、下肢、上肢、下腿、筋、腱、靭帯、脊柱、椎骨、仙骨、頚椎、膝蓋骨などについて説明している。
 どんなに一般を意識し、平明をモットーに書かれたスポーツ医学の本でも、実際には「難しそう」と敬遠される場合が少なくない。解剖図や表が出てくると、それだけで「対象外」とされてしまうものだ。しかし、筋肉名や解剖はある程度頭に入れておいてもらわないと、著者としては説明のしようがない。その辺りが、この種の本を書く最も難しいところだろう。
 アメリカの一般向けスポーツ医学書は、その点で工夫がしてあったり、できるだけ負通の言葉で語ろうとしていることが多い。思うに、「テニス・エルボー」も「ランナーズ・ニー」もそういう言葉であろう。昔、20年くらい前、テニスで傷めた肘なら「テニス・エルボー」、野球で傷めた指なら「ベースボール・フィンガー」で十分だと習ったことがある。それは、決して「スポーツ医学」の話ではなく、一般の会話の話である。
 さて、本書だが、ジョギングの項を例に取ると「例えば、運動不足があっても息苦しくなったり、心臓の動悸がなかなか治まらない状態が続くことがあります。何とか走れても、心肺系の故障は、重大事故につながる可能性もあります。また、下肢の関節や腰などの運動器官にも疼痛や動きの制限が出現したり、下腿の筋肉(ふくらはぎ)などに痙攣を起こす場合もあります」といったように、スポーツドクターが一般の人を前にして語りかける調子で全体が貫かれている。こういう書き方は簡単そうで実は難しい。平明を心がけると肝心なことがうまくいえなかったり、正確さを欠いてしまうこともある。その難しさをこの本はうまく克服している。「このような大きな力がかかっても足を痛めないで長時間にわたって走ることができるのは、土踏まずをつくっているアーチのある足の構造によるものです。(中略)ちょうど足の凹みの部分に、コイル・バネが入っているような仕掛けになっています」というように。この説明には、もちろん、カラーのイラストが何点もついている。
 文庫本であるがゆえに、ややスペースが狭い気もするが、そんなことよりも、カラーの写真や図を多数用い、文庫本というよく普及し、しかも低価格な形で「スポーツ医学」をまとめたことのほうが高く評価される。スポーツ医学が家庭の医学に近づいたといえる。


●走る
ジョギングの障害/歩く・走る場合の機能解剖/ジョギングと痛み/靴の問題/走りによる急死/ひざのしくみ

●トレーニングを始める前に
トレーニングの原則/運動処方のやり方

●市民スポーツ実施上の注意点
1. 年齢的要因/2. 局所の過度使用について/3. 環境や用具の問題

●泳ぐ
スイミング/スイミングの障害/とび込み/水上スキー/潜水(スノーケリング、ダイビング)/サーフィン、ウィンド・サーフィン/溺水/処置

●テニス
1. テニス肘/2. テニス肩/3. テニス脚/4. テニス足指

●ダンス

●ゴルフ
1. ゴルフ骨折/2. ゴルフ肘/3. 腰痛/4. 手および手関節の障害

●野球・ソフトボール
1. 野球肩/2. 野球肘/3. 野球指(槌指、マレットフィンガー)/4. その他の外傷、障害

●サッカー
1. 足首のけが故障/2. その他の下肢、腰部の障害/3. ヘッディングによる障害/4. ラフ・プレイによる外傷

●バレーボール

●バドミントン

●ボーリング

●スキー・スケート
スキー/スケート

●ラグビー
1. 肩周辺の外傷/2. 膝関節の外傷、障害

●柔道
1. 頭部および顔面の外傷/2. 肩甲帯および上肢の外傷、障害/3. 腰部の外傷、障害/4. 下肢の外傷、障害
(清家 輝文)

出版元:保育社

(掲載日:1986-12-10)

タグ:スポーツ医学 入門   
カテゴリ スポーツ医科学
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著者
Mel Boring American Medical Association C.B. Mordan 島沢 優子 日本スタビライゼーション協会 足利工業大学・健康科学研究室 銅冶 英雄Adrian WealeAlan GoldbergAndrea BatesAndrew BielAnne KeilAviva L.E. Smith UenoBernd FalkenbergBoris I.PrilutskyBrad Alan LewisBrad WalkerCarl PetersenCarole B. LewisCarole B.LewisCaroline Corning CreagerChad StarkeyChampagne,DelightCharland,JeffChartrand,JudyChris JarmeyClive BrewerDaniel LewindonDanish,StevenDavid A. WinterDavid BorgenichtDavid E. MartinDavid EpsteinDavid GrandDavid H. FukudaDavid H. PerrinDavid JoyceDavid SumpterDavies,George J.Digby, MarenaDonald A. ChuDonald T KirkendallEddie JonesElizabeth Best-MartiniEllenbecker,Todd S.Everett AabergF. バッカーFrank BakkerG. Gregory HaffG.D.ReinholtzGeorge BrettGray CookGregory D. MyerH・ミンツバーグIñigo MujikaJ.G.P.WilliamsJ.W.SchraderJWS「女性スポーツ白書」作成プロジェクトJacqui Greene HaasJamJames C. RadcliffeJames StudarusJari YlinenJeanne Marie LaskasJeff BenedictJeff CharlandJeff LibengoodJeff RyanJennifer Mather SaulJerry LynchJiří DvořákJohn GibbonsJonathan PrinceJoseph C. MaroonJoshua PivenJulian E. BailesJ・ウィルモアKahleKarim KhanKarin WiebenKim A. Botenhagen-DiGenovaKim A.Botenhagen-DiGenovaL.P.マトヴェーエフLawrence M.ElsonLeon ChaitowLeonhardtLeslie DendyLorne GoldenbergM. デュランM.J.SmahaMarc DurandMarilyn MoffatMark PerrymanMark R. LovellMark VerstegenMattyMcAtee,Robert E.Megan HineMelvin H. WilliamsMichael GleesonMichael J. AlterMiguel Angel SantosMurphy,ShaneM・ポラックNPO法人日本ライフセービング協会Nadia ComaneciNational Strength and Conditioning AssociationNina NittingerNorm HansonOg MandinoP.V.カルポビッチPOST編集部Pat ManocchiaPaul L. GreenhaffPete WilliamsPeter BruknerPeter N. CoePeter TwistPeter WoodPetitpas,Al.PlatzerR. ザイラーR.H.エプスタインR.J.CareyR.N.シンガーRainer MartensRaymond M. NakamuraRein TideiksaarRene CaillietRichard BrennanRichard GoldRobert C. FarentinosRobert E. 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KraemerWynn KapitY. ヴァンデン‐オウェールYves Vanden Auweele「運動器の10年」日本委員会いとう やまねかわむら ふゆみけいはんな社会的知能発生学研究会ふくい かなめまつばら けいみづき 水脈みんなのスポーツ全国研究会わたなべ ゆうこアタナシアス テルジスアタナシアス・テルジスアダム フィリッピーアテーナプロジェクトアメリカスポーツ医学会アメリカスポーツ医学協会アメリカ医師会アレックス・ハッチンソンアンゲリカ・シュテフェリング エルマー・T・ポイカー ヨルグ・ケストナーアンドリュー ブレイクアンドリュー・ゴードンアンドリュー・ゾッリアンドリュー・ビエルアンバート・トッシーアン・ケイルアン・マリー・ヒーリーイチロー・カワチイヴ・ジネストウイリアム ウェザリーウサイン・ボルトウドー アルブルエディー・ジョーンズエドワード・フォックスエバレット アーバーグエリザベス ノートン ラズリーカイ・リープヘンカミール・グーリーイェヴ デニス・ブーキンカルロス 矢吹カレン・クリッピンジャーカーチ・キライカール・マクガウンキム テウキャロリン・S・スミスキャロル・A.オ-チスクラフト・エヴィング商會クリス カーマイケルクリス ジャ-メイクリストフ・プノーグレン・コードーザケイトリン・リンチケニー マクゴニガルケネス・H・クーパーケリー・スターレットケン ボブサクストンゲルハルト レビンサイモン・ウィクラーサカイクサンキュータツオサンダー・L. ギルマンサンドラ・K・アンダーソンシェリル・ベルクマン・ドゥルーシルヴィア ラックマンジェア・イエイツジェイ マイクスジェイソン・R・カープジェイムズ・カージェニファー・マイケル・ヘクトジェフ ライベングッドジェフ・マリージェリー・リンチジェームス・M・フォックスジェームス・T・アラダイスジェームズ アマディオジェームズ・アマディオジェーン・ジョンソンジェ-ン・パタ-ソンジム・E. レーヤージャン=マリ・ルブランジュリエット・スターレットジョセフ・H・ピラティスジョン エンタインジョン・スミスジョン・フィルビンジル・ボルト・テイラースタジオタッククリエイティブスティーヴン・ストロガッツステファン 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書評者
三嶽 大輔(9)
三橋 智広(48)
上村 聡(4)
中地 圭太(19)
久保田 和稔(8)
久米 秀作(53)
今中 祐子(5)
伊藤 謙治(14)
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加藤 亜梨紗(1)
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塩多 雅矢(2)
塩崎 由規(1)
塩﨑 由規(52)
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大洞 裕和(22)
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山下 大地(3)
山下 貴司(1)
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山際 政弘(3)
岡田 真理(1)
島原 隼人(1)
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平松 勇輝(5)
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戸谷 舞(3)
打谷 昌紀(2)
曽我 啓史(1)
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月刊トレーニング・ジャーナル(16)
月刊トレーニング・ジャーナル編集部(758)
服部 哲也(9)
服部 紗都子(11)
村田 祐樹(4)
松本 圭祐(3)
板井 美浩(46)
柴原 容(5)
梅澤 恵利子(1)
森下 茂(23)
椙村 蓮理(1)
榎波 亮兵(3)
橋本 紘希(24)
橘 肇(4)
正木 瞳(1)
比佐 仁(1)
水浜 雅浩(8)
水田 陽(6)
永田 将行(6)
池田 健一(5)
河田 大輔(16)
河田 絹一郎(3)
河野 涼子(2)
泉 重樹(3)
浦中 宏典(7)
清家 輝文(71)
清水 歩(6)
清水 美奈(2)
渡邉 秀幹(6)
渡邊 秀幹(1)
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田口 久美子(18)
石郷岡 真巳(8)
磯谷 貴之(12)
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脇坂 浩司(3)
藤井 歩(18)
藤田 のぞみ(4)
西澤 隆(7)
越田 専太郎(2)
辻本 和広(4)
辻田 浩志(90)
酒井 崇宏(1)
金子 大(9)
鈴木 健大(6)
長谷川 大輔(3)
長谷川 智憲(40)
阿部 大樹(1)
阿部 拓馬(1)
青島 大輔(1)
青木 美帆(1)
飯島 渉琉(3)
鳥居 義史(6)