フットサル教本
松崎 康弘
本書はフットサルのすべてを丁寧に解説している。日本フットサル連盟監修の初のフットサル教本で充実した内容である。本書で期待されている日本でのフットサルのプロリーグ化は現在達成されており、今後の発展も楽しみである。
フットサルの歴史から練習法、戦術、ルール、審判法などを細かく章立てで紹介しており、フットサルをまだやったことがない、やってみたがいまいちよくわからないという方にはお勧めである。私はフットサルの近年の練習法などはまだ見たことがないが、本書ではバリエーション豊富に掲載され、これだけでもいい練習はできると思える。初心者はサッカーの縮小版と考えがちであるが、本書を読むことでサッカーとはまた違うテクニック、戦術を駆使してのスポーツということがわかり、そのときにフットサルの面白さがわかるのではないだろうか。読み終えた後、フットサルをやりたくなる1冊である。
(安本 啓剛)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-01-19)
タグ:フットサル 教本 入門
カテゴリ トレーニング
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コアパフォーマンス・トレーニング
Mark Verstegen Pete Williams 咲花 正弥 栢野 由紀子 澤田 勝
本書は近年日本のフィットネス業界にも普及してきたコアトレーニングについて詳しく書かれた一冊である。筆者は米国のアスリート・パフォーマンスというトレーニング施設を設立したマーク・バーステーゲン氏で、彼の提唱するトレーニングの哲学はアメリカのみならず世界のトレーニング界に大きな影響を与えている。トレーニングをしている者なら一度は耳にしたことであろうコア。本書はコアというキーワードを中心に以下の7つのユニットから成り立っている。
・ムーブメントプレパレーション:従来のトレーニング前のストレッチに変わるウォームアップ
・プレリハビリテーション:ケガや傷害を起こさないための予防的アプローチ
・バランスボールエクササイズ:肩、胴体、股関節、コアの強さと安定性を向上させるエクササイズ
・弾性(プライオメトリクス):弾力的な力を生み出すエクササイズ
・ストレングス:パワー、安定性、可動性を向上させるためのエクササイズ
・エネルギー供給システムの開発:爆発的なエネルギー発揮を可能にするカーディオトレーニング
・リジェネレーション:回復力を高めるための低い強度での身体運動
さらには食事に対してのアドバイスも記載されていて、専門用語についても詳しい説明があり、トレーニング従事者でなくとも理解しやすい内容となっている。本書のプログラムはアスリート・パフォーマンスで実際に行っている多くのエクササイズの中から短時間で最大の効果を得ることができるものから形成されている。トレーニングの時間をとることができない多忙な方にも配慮している非常に魅力的な内容となっている。
本書を読み終えた後、コアについての知識がよりいっそう深まっているはずである。そして今までの当たり前のように行っていたマシンやフリーウェイトなどのトレーニング方法に多少なりとも変化が必要なことにも気づくだろう。付属のCD-ROMで実際のエクササイズの動きを見ることができるのも非常によい。
トレーニング従事者にはもちろんのこと、さらに上のレベルを目指すアスリートや一般のトレーニーにもぜひお勧めしたい一冊である。
(三嶽 大輔)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-01-19)
タグ:コアトレーニング
カテゴリ トレーニング
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教養としてのスポーツ科学
早稲田大学スポーツ科学部
スポーツ関係と聞くと皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか? メディアの発達により、海外スポーツはもちろん、スポーツ選手の露出が格段に増えたと思います。それに伴い、スポーツがもつ意味、可能性、求められるものは非常に多様化していると感じます。
本書は長くタブーとされていた、スポーツを科学として見られるようになってきた専門的な分野を教養というレベルで書かれています。スポーツについて考えるという項目においてはその魅力、歴史、メディアなどについて、そしてスポーツをする身体についてという項目においては身体の構造やトレーニングの原則など、そのほかにも、現在のスポーツ界の問題点などについても書かれています。 スポーツに関わっている人はもちろん、これから関わろうとしている人、それ以外の人でも読むことで、スポーツを見るときにいろいろな見方、スポーツに対する関わり方が見つけられる1冊です。
(大洞 裕和)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-02-15)
タグ:スポーツ科学 入門 教養
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツ指導者のためのコンディショニングの基礎知識
山本 利春
本書は学校や地域スポーツの指導者のために、コンディショニングの基礎知識を紹介し、解説されたものである。トレーナーの方々には基礎となる内容であるが、学校や地域スポーツ指導者の中にはコンディショニングについて誤った知識を持っている方も少なくなく、とくに日本ではコンディショニング=身体調整という意味でその言葉が使われ、スポーツ現場では、短絡的にコンディショニング=マッサージと誤解されていることもある。
コンディショニングとは傷害対応も含め多くの身体づくりの方法であり、本書には実際の現場で必要な知識が盛り込まれ、指導者はこれが知りたかったと思える内容であると思う。受験前後の過ごし方、医療機関の選び方など他のコンディショニング書籍にはあまりなかった項目も参考になり、巻末の付録の本書内容をまとめた図解はいろいろと活用できそうである。
著者はトレーナー的能力を身につけた指導者が存在することが日本のスポーツ現場における健康管理の底辺を広げることにつながると考えており、選手の教育を行える指導者が増えることが改めて大切と感じさせられた。コンディショニングを知らない指導者の方はまず入門書として本書を読みコンディショニングを知って選手の新たな可能性を引き出してほしい。
(安本 啓剛)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-02-17)
タグ:コンディショニング 入門 指導
カテゴリ スポーツ医科学
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教養としてのスポーツ科学
早稲田大学スポーツ科学学術院
スポーツ医科学、健康スポーツ、アスレティックトレーニング、コーチング、スポーツ教育、スポーツビジネスの6分野にわたって記述されている。各項目が見開きから4ページに収まる分量であり、内容も専門性を保ちつつわかりやすいものとなっている。
学部生向けの導入教育のテキストではあるが、スポーツ科学を全体的につかむことができるので、基本的なところを理解しておきたい人のほか、独学で学びたい、学び直したい人にとっても有用な一冊となる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2011-06-10)
タグ:スポーツ科学 入門 教養
カテゴリ スポーツ医科学
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トップアスリートを創る 日本体育大学アスリートたちの軌跡
日本体育大学学友会運動部 宮村 淳
オリンピックなど、常に競技スポーツの第一線で活躍してきた日本体育大学のアスリートたち総勢21名にインタビューしてまとめた本。トップアスリート育成のためのノウハウ満載。指導者のみならず中・高校生にもお勧め。
A5判 250頁 2,500円+税
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2002-04-10)
タグ:インタビュー 指導 選手育成
カテゴリ 指導
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フットサル教本
日本フットサル連盟 松崎 康弘 須田 芳正
少ない選手の数で、広いグラウンドがなくてもできる、ミニサッカー(フットサル)。
フットサルの歴史から技術、戦術、その指導法やトレーニング方法、さらに競技規則解説まで豊富なイラストと写真でわかりやすく解説。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2002-10-10)
タグ:フットサル
カテゴリ 運動実践
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叢書 身体と文化
野村 雅一
1996年8月、まず第2巻『コミュニケーションとしての身体』が刊行され、1999年に第1巻『技術としての身体』が刊行されたが、第3巻『表象としての身体』(写真)がついに今年7月に出て、全3巻が完成した。野村雅一、市川雅、菅原和孝、鷲田清一氏らが編集、執筆は数多くの研究者らが担当している。
ほぼ10年前からの仕事である。96年というのは阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件が起こった翌年、身体や精神、信仰などへの関心が高まった頃でもある。とくに阪神淡路大震災では、わが身のみならず、互いの「からだ」を思いやる状況が自然に生まれ、生きているからだをいつくしむ気持ちの一方で、「透明なぼく」という表現は身体のありかが不明になっている状態も示していた。この時期から、「身体論」が多く世に出るようになった。
この叢書では、第1巻で人間の感覚の様態そのものから身体技術のさまざまな断片とそれらの社会的・文化的な意味について、第2巻で社会・文化的脈絡のなかで身体がおびるコミュニケーションとしての働きとそれを構成する秩序と構造について、第3巻でさまざまな文化の中で身体がどう解釈され表現されてきたかについてそれぞれ解明・検証している。
総じて論じるのは無理があるが、読者は今生きている私の身体を取り巻くものがあまりにも多く、深い層からなっていることに気がつくだろう。楽しみつつ考えつつ、読んでいただきたい。
野村雅一ほか編
第1巻:1999年6月1日刊、第2巻:1996年8月10日、第3巻:2005年7月1日刊、各4,200円
(清家 輝文)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-10)
タグ:身体 文化 コミュニケーション 技術
カテゴリ 身体
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スポーツ選手のためのキャリアプランニング
Petitpas,Al. Champagne,Delight Chartrand,Judy Danish,Steven Murphy,Shane 田中 ウルヴェ 京 重野 弘三郎
「メダルがとれたら、もう死んでもいい」
こんな言葉で始まる「訳者まえがき」が秀逸だ。本書の内容をさしおいて「まえがき」が秀逸という書評もないだろうと訝る声も聞こえてきそうだが、実は本書が訳本だけに、ある種読者に持たれがちな対岸の火事的非現実感を、いっきにわが国においてもきわめて現実的な問題であることに気づかせてくれるのがこの「まえがき」なのである。これによって、その後に続く本編の内容がぐっと現実味を帯びて読者に迫ってくる。
この「まえがき」を書いたのは、翻訳者のひとりである田中ウルヴェ京さん。ソウルオリンピック・シンクロナイズドスイミング・デュエットの銅メダリストである。彼女は「ソウルオリンピックで晴れて銅メダル。至福のときだった。(中略)『自分は大きな功績を果たしたのだ』と思ったら、なんともいえない幸福感と達成感に満ち溢れていた」そうだ。しかし、ほどなく彼女はあることに気づく。「オリンピック自体は人生の通過点に過ぎないこと。それが私には分かっていなかった。」その後、彼女は深い人生の闇の中に吸い込まれていく。「もう死ねたらどんなにラクだろう。本音だった」。
そんな彼女を救ったのが米国留学先で学んだスポーツ心理学。そのカリキュラムの教科書のひとつが本書である。多分、彼女は本書の内容に自分自身を投影させたに違いない。そして、自分と同じ苦しみを後輩に味合わせてはいけないとも感じたに違いない。
もうひとりの訳者は、元Jリーガーの重野弘三郎氏。彼もまたスポーツに専心してきた一人である。そして、田中氏同様引退時に深い闇の中をさまよった経験を持つ。「多かれ少なかれ、ひとつの競技に専心してきたスポーツ選手、そして(結果を残した)エリート選手であればあるほど、引退時に抱える心理的問題が存在する」。強い日差しに曝されればそれだけ、樹木はその反対側に黒々とした陰をつくるようだ。
キャリア・トランジションとコーチング
本書のキーワードのひとつに“キャリア・トランジション”という言葉がある。これは、“人生の分岐点”という意味の言葉である。「人は誰でも、人生において分岐点を迎えるものである。これを『トランジション』と呼ぶ。(中略)高校から大学へ移行するとき、あるいはジュニアからシニアのレベルに移行するときがそうである」。そして、人は進学のような予想可能なトランジションだけではなく、予想不可能なトランジションも経験する。たとえば、スポーツ選手がケガによってそのスポーツを継続することが不可能になったときなど。このような場合、選手は突然自分の今まで積み上げてきたキャリアを放棄せざるを得ない状況に陥るわけで、尋常な精神でいられないことは想像に難くない。このような選手を苦しみの淵から助け出すのがコーチの役割でもある。「現役活躍中にキャリアプランを立てることにはいくつかの利点がある。まず第一にスポーツのパフォーマンスによい影響をあたえる。(中略)引退後の方向性をつかめる。(中略)自己についてより深く学べる」。スキルを教えることだけがコーチの仕事ではない。子どもたちに“未来”を教える、おこがましいかもしれないが、これもコーチの大切な仕事と考えたい。
本書の最後に翻訳者お二人の対談が収録されている。「私たちのキャリア・プランニングから」と題した対談では、お二人の引退後の葛藤とそこから抜け出したいきさつが正直に語られていて好感を持つ。是非とも「訳者まえがき」と「訳者あとがきにかえて」を読んでから本文に進むことを、本書の読み方としてお薦めしたい。
A・プティパ他 著、田中ウルヴェ京、重野弘三郎 訳
(久米 秀作)
出版元:大修館書店
(掲載日:2005-11-10)
タグ:キャリア セカンドキャリア 引退
カテゴリ 人生
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シェパード老年学 加齢・身体活動・健康
Shephard,Roy J. 柴田 博 新開 省二 青柳 幸利
加齢学、老年医学を専門としているトロント大学教授のシェパード博士によって上梓された『Aging, Physical Activity, and Health』の日本語版。人口学、老年社会学、経済学などを含め学際的に広い領域をカバーしている。
本書は3部で構成されている。第1部では高齢者を定義し、生物学的年齢と寿命の個人間における差において性、遺伝、経済的影響および身体活動がどう寄与しているかを考察、第2部では高齢者の定期的な身体活動と健康の相互作用を検討している。また、第3部では高齢化社会の経済的および社会的影響についてまとめている。
「生体機能が低下することに対する魔法の解決策は与えられていない。たとえ身体的に活発な個人であっても老化はしつづけるであろう」とシェパード博士は序文で触れているが、「定期的な身体活動あるいは適度なトレーニングにより、生理的な作業能力を10~20年遅らせることができる」とも言う。本書は高齢者の身体活動にも重点が置かれている。運動指導やリハビリ等の関係者には目を通してほしい内容である。
ロイJ.シェパード著、柴田博・新開省二・青柳幸利監訳
2005年8月10日刊
(長谷川 智憲)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-10)
タグ:老年学 加齢 トレーニング 健康
カテゴリ 医学
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経絡ストレッチと動きづくり
向野 義人 朝日山 一男 籾山 隆裕
「ヒトの体には、目には見えない秘められた情報伝達系が存在していることは間違いないと考えられます。この情報伝達系をどのように用いればよいかを古人は書き残してくれており、その有用性は現在に至るまで光を放っています」
いきなり引用で恐縮だが、経絡・経穴についてわかりやすい表現である。著者は続けてこう記している。「経絡・経穴は古人から現代人へ贈られた貴重な宝物なのです」。
この本では、簡便に異常な経絡を探し出す経絡テストと、そのテストで見つかった異常な経絡にストレッチを加え、全体のバランスを整える経絡ストレッチ、さらには目標とするパフォーマンスの改善のための動きづくりまでをカバーしている。
前半(1、2章)は経絡と経絡テスト、経絡ストレッチの実際を、後半(3章、4章)は動きづくり理論と軸体操、各種スポーツの動き作りの実践編からなる。よくまとまっていて、実践に役立つ本である。
向野義人編著、朝日山一男・籾山隆裕著
2006年5月15日
(清家 輝文)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-11)
タグ:ストレッチング 経絡
カテゴリ 東洋医学
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競技力向上のトレーニング戦略
Tudor O. Bompa 尾縣 貢 青山 清英
ピリオダイゼーションの重要性
本書は、比較的珍しい単独の著者による包括的なトレーニングの理論書だ。
今回の翻訳が日本国内では初版本となるが、原著ではすでに第4版まで重ねられているだけあって、近年の基礎的研究成果などもふんだんに盛り込まれ、整然としてしかもよく練られた内容となっている。読み進むにつれ、学生に戻って教科書を読んでいるような気分になり、目先の仕事に追われてばかりで木を見て森を見ない思考に陥っている昨今の自分を反省したりした。
ピリオダイゼーション(期分け)理論という本書の主題をトレーニングの科学的基礎と実施方法という両輪が支える形で、大きく3部から構成され「競技力向上のトレーニング戦略」がダイナミックに展開されている。
週単位(ミクロサイクル)から数週間単位(マクロサイクル)、さらには年単位あるいはもっと長期にわたるピリオダイゼーション、そしてそれが鍛練期であるのか試合期であるのか、それぞれ密接な関係を持たせ熟考したうえでピリオダイゼーションを行うことの重要性が、いくつもの具体的パターンとともに示されているのである。
戦略と戦術
本書を読むための核となるであろう「戦略(strategy)」という語と、それに似た「戦術(tactics)」という語について述べる。両用語ともほぼ同様のことを意味するが、戦略(strategy)は「シーズン全体、あるいはより長期にわたって、選手やチームのプランを構築、遂行する技術」であり、対する戦術(tactics)は「1つのゲームや試合のみを対象にしたプランに関する」比較的短期のものであるところで両者わずかに異なっている。また、戦術の「価値と重要性」は「相手との攻防の中でのスキルの完成」が必要な競技では比較的高く、「調整力とフォームの完成」が重要な競技では比較的低い。このことから、戦術は競技の成功において重要な要素ではあるが、大局的なトレーニング計画の構成要素の1つとして考えるのがよさそうである。
この「戦略」という語が意味するところと、トレーニング計画におけるピリオダイゼーションの重要性との関連を考えると、原題「PERIODIZATION Theory and Methodology of Training(ピリオダイゼーションの理論と実際)」を副題にしてまでも、翻訳版である本書の本題を「競技力向上のトレーニング戦略」とした訳者の戦略的意図とその意義がわかるような気がするのである。
一気に読み通す
さて、本書は「監訳者あとがき」にもあるように、トップアスリートやコーチだけでなく広く一般のアスリート、コーチにも「即利用できる合理的・効率的なトレーニングに関する示唆」が盛りだくさんに含まれている。辞典のように興味のある部分だけ開いてつまみ読みしても十分使用に耐えると思われるが、いっそのこと全項目を読み通してしまったらどうだろう。
輪読形式でじっくり読み込んでもよいし、一人孤独に蛍の光で読んでもよい。
一人で読む場合には、難解な部分があってもいちいち立ち止まって調べごとの迷宮に入ったりする前に、一気に読み通してしまうのがよい。そのほうが、きっと本書が伝えようとしているトレーニングの体系的内容が脳内に残るだろう。そして、それぞれのアスリート、コーチの頭脳の中で熟成し日本の伝統的な鍛練の理論とともにじっくりと練った戦略的トレーニング理論ができあがれば、これまで以上に多くのアスリートが世界に羽ばたくことになるだろう。
などと言ったら出しゃばりすぎだろうか。
テューダー=ボンパ 著、尾縣 貢・青山清英 監訳
(板井 美浩)
出版元:大修館書店
(掲載日:2007-06-10)
タグ:ピリオダイゼーション トレーニング
カテゴリ トレーニング
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スポーツ傷害のリハビリテーション
ジェリー・リンチ 水谷 豊 笈田 欣治 野老 稔
昔読んだ原書に「スポーツ医学とは結局リハビリテーションのことである」というようなくだりがあった。言いすぎではあるが、的を射たところもある。診断・治療・予防というなかで、近年は「予防」への関心が高まりつつある。右に紹介するACL損傷の予防に関する本もその流れにあると言ってよいだろう。
だが、実際にはケガしたアスリートや愛好家の治療が優先する。受傷の瞬間からリハビリテーションは始まるという考え方もあり、アスリートにとっても競技復帰にはいかにリハビリテーションを適切に行い、その後のトレーニングを行うかがキーになる。
本書でも、「特に重要な位置を占めるのがリハビリテーション」と言いながらも、医師と理学療法士をはじめとするリハビリスタッフの意思の疎通が十分でない点を指摘する。また、リハビリの手法や方針がともすれば経験的・慣習的なものに頼っていたり、独善的なものに陥りがちだと言う。
そこで、「科学的理論や根拠」を大事にし、神経生理学、バイオメカニクス、運動生理学などの側面から最近の知見を解説し、アスレティックリハビリの実際について、部位ごとに、整形外科医が解説し、それを受けて理学療法士が手技やストラテジーを解説するという形式をとっている。326図、2色刷り(一部4色刷り)でわかりやすい。
(清家 輝文)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:リハビリテーション
カテゴリ スポーツ医学
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コアパフォーマンス・トレーニング
Mark Verstegen Pete Williams 咲花 正弥 栢野 由紀子 澤田 勝
動きは、身体の中心である「コア」の部分から始まる。このコアを「動作と生命の構造的なピラー=支柱」と呼び、手足の動きよりも先に動き出すため、動作の基礎である「コア」から始まるトレーニングを7つのユニットに分けて記載したものが本書である。
最近はやりの、「体幹トレーニングのハウツー本」ではなく、何のための体幹トレーニングであるのか、目的がぶれることがない。体幹を鍛えることが目的でなく、一貫して「パフォーマンス・アップ」に向けたトレーニング内容となっており、トレーナーとして見失いがちなところをしっかりと押さえているのはうれしい。
また、CD-ROMがついており、トレーニングを正面・横から見ることができるのでイメージがつきやすいうえに、トレーニング中のポイントや感覚がすべてにわたって記載されており、正しい肢位をとれるよう、細かいところまで気を配っている。
初心者には感覚をつかめるようになるまで難しいかもしれないが、トレーナーやコーチ、選手には、ぜひとも読んでもらいたい一冊である。
マーク バーステーゲン、ピート ウィリアムズ (著)
咲花 正弥、 栢野 由紀子、澤田 勝 (翻訳)
(上村 聡)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:体幹 コア
カテゴリ トレーニング
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バレーボールのメンタルマネジメント
遠藤 俊郎
日本のバレーボールは長い間低迷していた。正しく言えばまだ低迷中なのかもしれない。しかしながら、女子においてはアテネ、男子においては北京より再び五輪の舞台に出場することができている。それら低迷期に、メンタルという面から日本チームの基礎を築き上げ、後の五輪出場に大きな役割を果たした著者の活動を詳細に記している本である。
メンタルトレーニングについて詳細に記しているのはもちろんであるが、著者の考え方の基礎となっているのは、海外留学時代に学習した運動学習理論であろうと思われる。運動学習理論については、文中にもあるように書いていくと膨大な量になってしまうため、『バレーボールコーチングの科学』(ベースボール・マガジン社)をご覧頂きたい。端的に言えば、どう人に伝えるかを理論構築したものであり、興味深い。読み進めていくと今まで受けてきた指導法と全く違うことから違和感を感じるが、理解すればするほど感動するということを著者も述べている。
この本をバレーボールに限らず、多くの競技指導者に読んで頂ければ、指導法をより進化させられることは間違いないと思う。日本のスポーツ界のさらなる発展を祈って。
(金子 大)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:バレーボール
カテゴリ メンタル
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実戦ビーチバレーボール
カーチ・キライ バイロン・シューマン 瀬戸山 正二
スマートという言葉が似合う著者、カーチ・キライは、インドアとビーチ両方で金メダルを獲得した唯一の選手である。現在日本ではインドアからビーチへ移る選手が増えているが、その世界的な先駆けであるのが、カーチ・キライであり、監訳をされている瀬戸山正二も日本初のプロビーチバレー選手である。
本書は、読むにあたりバレーボールの基礎知識や生理学が必要と思われる。文中に専門用語が多数登場する。単にレシーブやトスだけでなくレセプションやディグなど作戦面や技術において、近年一般的に日本で使われるようになってきた言葉が当たり前に使用されている。トレーニングの章においても、ストレッチ-ショートニングサイクルなども登場するので、これらも上級者向けの内容となっている。
しかし、本の薄さからは想像できない内容の濃さである。基礎技術から発展技術、トレーニング、コンディショニングなど幅広く網羅されていて、それはまさしくスマートにまとめられている。また、言葉ひとつひとつから著者の情熱が伝わってくる。
レベルアップしたいと思っている方におすすめの一冊である。
カーチ・キライ&バイロン・シューマン著、瀬戸山正二 監訳
(金子 大)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:ビーチバレーボール
カテゴリ 指導
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跳ぶ科学
宮下 充正 深代 千之
理想的に「跳ぶ」ことを分析した数々の結果が掲載されている。
またページ数は少ないが、当時のIT環境を考えると時代を先取りした指導の提案もされている。
経験や勘もきちんと検証され、トレーニング科学で分析された結果と合わせて、上手に利用することができれば、指導力や効率がさらに上がり、世界に通じる競技者を育てることができるのではないか。
研究者だけでなく、指導者にも科学的思考が必要である。
(澤野 博)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:トレーニング科学 バイオメカニクス
カテゴリ スポーツ医科学
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心拍数の科学
山地 啓司
運動時に限らず、家事や事務作業、体育の授業などさまざまな日常生活の中で、心拍数を作業強度の指標としてとらえ、それらが変化する要因をデータと合わせて紹介している。
PWC150(150拍/分時になされる仕事量)などの指標の解説もあり、書物というより、事典に近い感覚の書籍である。
出版からすこし時間が経っているが、基礎生理学の部分はそれほど変化するものでもない。新しい考え方を取り入れる前に、土台をもう一度固めるために目を通してみてはいかがだろうか。
(澤野 博)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:心拍数
カテゴリ 運動生理学
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柔軟性の科学
Michael J. Alter 山本 利春
500ページ近くにわたり、柔軟性について体系的に網羅したレビューとなっている。原著はScience of Flexibility。全19章を用いて取り上げられている範囲は非常に幅広い。たとえば、柔軟性に影響を及ぼす各因子について検討し、筋線維などの軟部組織の微細構造について、あるいは神経について概観している。さらには、腰と骨盤、ハムストリングスの相互関係(第17章7節)といった、運動学的な視点からの分析もある。柔軟性やストレッチングとの関連で危険性についても述べられており、リスク管理の手がかりにもなるだろう。
具体的なストレッチングの方法については付章「ストレッチングエクササイズ」として60項目がまとめられているが、本書の主眼はそこではない。柔軟性という身体の要素について考える基盤となる一冊である。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2010-08-10)
タグ:柔軟性 ストレッチング
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツ指導者のためのコンディショニングの基礎知識
山本 利春
地域スポーツや学校部活動での指導者向けに、コンディショニングの方法についてまとめたもの。腰痛やオスグッド・シュラッター病病などへの対処の方法、医療機関の選び方、入学時の注意点など、身近な話題を丁寧に解説している。全体を通して、選手の自己管理能力を高める方法を探っている。巻末にはトレーニングの現場や講習会などで使うための付録として、応急処置やケガの予防のためのポイントを示す資料が付属している。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-16)
タグ:コンディショニング
カテゴリ 運動実践
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頭で食べて強くなる
殖田 友子
教員向けの雑誌「体育科教育」に掲載された著者のコラムをまとめたものである。
一般的なスポーツ栄養の書籍では「勝つための食事」として色々な料理が掲載されがちだが、コラムをまとめたものであるため、本書においてはそういったものは巻末に資料として数例あるのみである。それゆえに栄養を考えるときの根本が、行間から読み取れる。
この中で学校内も含め、さまざまな分野での協力体制の提案もされているが、未だに変わっていないのが、日本の残念な現状だろう。はたしてそれができない問題点はどこにあるのか。
(澤野 博)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-16)
タグ:食事 スポーツ栄養
カテゴリ 食
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体力トレーニング・ワンポイントコーチ
窪田 登
この本は、初版が1994年11月になる。この頃、日本のオリンピックでの金メダル獲得数は、1992年のバルセロナ・オリンピックで3個、1996年のアトランタオリンピックでも3個、1994年のリレハンメル冬季オリンピックでは1個と、落ち込んでおり、各スポーツ競技力の日本と世界の差が広がっていた頃になる。参考までに2008年北京オリンピックでの獲得数は金9個になる。このころ各スポーツでの国際大会が終わった反省に判で押したような日本人選手の体力不足が挙げられていたことを記憶する。このような時期に発刊された本である。
本の形式は、体力トレーニングに関するQ&A集である。
体力トレーニングに関連ある「トレーニングと心理」「トレーニングと栄養」「病気・障害とトレーニング」「筋力トレーニングの基礎知識」「筋力トレーニングのシステム」「呼吸・循環のトレーニング」「トレーニング計画の立て方と進め方」などさまざまな側面から体力トレーニングを捉え、13部で構成される。設問は、指導者なら一度は聞かれたこと、疑問に思ったことから、聞かれても簡単には答えられないような説問、あまりなじみがない用語に対する説問などバラエティに富む。
たとえば「体力は、競技力とどうかかわっているのでしょうか?」「バイオフィード・バック・トレーニングとは?」「インターバル・トレーニングはどのようにして生まれたのでしょうか?」などである。読み進めていくと同じ趣旨の質問であるにもかかわらず、回答者によって答えが異なるものもある。当時、まだその部分が十分に究明されていないためであるが、このような回答が、時を経てどのような回答になっているのかを考えることもできる。 回答者(著者)は、筋力トレーニングの分野は窪田登氏、スポーツ医学の分野は福林徹氏、栄養分野は太田冨貴雄氏、心理分野は加藤久氏など6名で構成されている。トレーニング界、スポーツ医学、スポーツ栄養学などの黎明期を支えた人たちである。現在も一線で活躍されている人も名を連ねている。スポーツ界の発展を願う熱いエネルギーを回答から感じるのは筆者だけだろうか。
発刊された時代と比べて体力トレーニングに関する本も多くなったが、各分野に特化した内容のものが多い。専門的な研究だけでは、さまざまな場面で対応することは難しく、この本のように、体力トレーニングに関連ある様々な分野から横断的理解を深めることが必要である。
もう1つの特徴は、回答のなかに歴史的流れを多く述べていることである。いつ、誰がこのトレーニングを始めたのか。いつ、誰がこの用語を使い始めたのか。どのような経緯を通じて発展してきたのかなどが多く含まれている。歴史的な流れを知ることで読者は深い理解をすることができる。また知り得た内容について深く学習する足がかりとすることもできる。このような内容を織り込んでいる本は他にあまりみない。
体力トレーニングによって成果を得るためにはしっかりとした理解が必要である。適切に体力トレーニングが行われて初めて最大級の効果を生みだす。本書は体力トレーニングに関心を持つスポーツ選手はもちろん、トレーニングに興味のあるすべての人が対象となる必読の書になる。
(服部 哲也)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-16)
タグ:トレーニング
カテゴリ トレーニング
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バスケットボールのメンタルトレーニング
ジェイ マイクス
バスケットボールのメンタルトレーニングという非常に興味深い内容である。
バスケットボールを行ったことがある者なら、誰もが体験しているであろう場面や動作が登場する。それらの場面でのプレーをよりよいものにしていくメンタルトレーニング法もあり、痒いところに手が届く内容となっている。それ以外にもさまざまな局面で役立つ心理的なテクニックなどや、ドリルもたくさん紹介されている。さらに本書は自身の内面の気づきを高めることについても重きを置いている。その内容は視野、音、触感、心の映像、内面の声、身体の気づきといったものである。内部感覚が高まることによりプレーもよくなっていく。
各章ごとの論じた内容を題材にした問題が章末に登場するので、すぐに復習できるところもよい。読み進めていくのに非常に時間がかかるが、そのぶん理解も深くなることであろう。プレーヤーはもちろん、指導者にもぜひとも目を通していただきたい。この気づきというのはバスケットボールだけではなく、他のスポーツ、日常生活などのさまざまな場面でよい結果をもたらしてくれるであろう。
(三嶽 大輔)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-30)
タグ:メンタルトレーニング バスケットボール
カテゴリ メンタル
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ストレッチ体操
安田 矩明 小栗 達也 勝亦 紘一
NHKテレビの「スポーツ教室」でストレッチングを紹介した安田、小栗氏らがまとめたもの。基本25種のストレッチング、二人組のストレッチング、動きづくりの運動から成る。動きづくりの頁はストレッチングと直接関係ないが、準備運動とストレッチングの結びつけとして興味深い。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1981-11-10)
タグ:ストレッチング
カテゴリ ストレッチング
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実践コーチ教本 コーチのためのトレーニングの科学 スポーツ医学 スポーツ人間学
松井 秀治 黒田 善雄 勝部 篤美 粂野 豊 日本体育協会
実践コーチ教本
1 コーチのためのトレーニングの科学(松井秀治編)
2 コーチのためのスポーツ医学(黒田善雄編)
3 コーチのためのスポーツ人間学(勝部篤美・粂野豊編)
コーチに必要な知識を全3巻にまとめたもの。最近アメリカではコーチにも資格制度が必要ではないかとの論議がなされているが、若年層の指導に当たる人が、スポーツ医科学の基礎知識を身につけていることは当然要求されることである。トレーナー制度の確立しているアメリカとはいえ、トレーナーやドクターがついているチームは、全体から見ればまだまだほんの一握りである。中学、高校ではトレーナーがついているほうが珍しいといってよいだろう。
その点、日本も同じである。それだけに指導者が負っている責任は大きい。近視眼的勝利至上主義ではなく、長く一生の問題として、スポーツを指導する立場の人にはとくに読んでいただきたい書である。
参考文献も豊富に掲載されており、その分野でさらに知識を深めたいとき便利である。忙しくてとても読んでいる暇がないという人も、座右の書として、必要時に取り出して読めるよう使いやすく編集されている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1981-12-10)
タグ:スポーツ医科学
カテゴリ 指導
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3割バッターへの挑戦
チャーリー・ロー 渋谷 良一 山本 明 王 貞治
今年の夏の高校野球は池田高校の素晴らしいバッティングが話題のひとつであった。ピッチング・マシーンの導入で、「打高投低」といわれているが、バッティング自体の技術を明かした書はなかった。優れた打者は、打撃の奥義を極めたとしても、それを誰でもわかる言葉で伝えるのは難しい。
ニューヨーク・ヤンキースの打撃コーチ、チャーリー・ローが豊富な写真とともにまとめた本書は、その意味で画期的といえるだろう。著者は、コーチが経験的なカンや通説に頼ってしまうことをよしとせず、「正しい理論、実際のプレーに有効な方法論」の必要性を感じていた。そして、1971年、フロリダ州サラソタでベースボール・アカデミーを創設したユーイング・カウフマンと考えが合い、ビデオ、フィルム設備で3年間に何百ものスイングを見ては、リプレー、スローモーションを繰り返したという。こうして、著者は自らの理論を一層科学化し、客観化していった。その結果、バッティングは後ろ足で打つという常識は全く逆であること、トップハンドをかぶせるようにするのも誤りであることがわかった。
著者は「基本と鉄則」を繰り返し、全10章を通じて、大打者の見本的写真を駆使し、バッティングを論じていく。責任監修の王貞治氏が「一読して、私は友を得たような気になった」という言葉も重さも読んでいただければわかるだろう。
チャーリー・ロー著
渋谷良一、山本明共訳、王貞治責任監修
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1982-11-10)
タグ:野球
カテゴリ 指導
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選手とコーチのためのスポーツ生理学
エドワード・フォックス 朝比奈 一男 渡部 和彦
本書『選手とコーチのためのスポーツ生理学』は、待望の“テキスト”である。「まえがき」で著者はいう。「科学、とりわけ生理学をスポーツに応用することは、一般的な身体条件や専門的な競技能力を向上させるのに重要であることは幾年にもわたっていわれてきた。本書はこれを念頭におき、生理学そのものより、むしろ生理学の“応用”を強調したつもりである」と。
つまり、この本は現場においてどうすればよいかという視点から離れず書き通されている。わざわざ「選手とコーチのための」と断られているのもそのためであろう(ただし、原書は“Sports Physiology”というタイトル)。読みやすく、理解しやすくまとめられているのも本書の大きな特徴である。たとえば、全体は11章あるが、各章、「はじめに」でその章のねらいを示し、そして本文はわかりやすい図表をふんだんに用い、章の終わりには「まとめ」の頁があり、箇条書きで要点が列挙されている。また「参考・引用文献」も各章ごとに付されている。
これだけのみならず、読者にとってうれしいのは付録である。A〜Fまであり、雑誌の略名と書名、記号および略号、ウェイトトレーニングの説明、8週間の有気的および無気的インターバルトレーニングの基本例、いくつかのストレッチ(伸長)運動の紹介、測定の単位がそれである。このほかに「用語解説」「人名さくいん」「さくいん」も完備されている。独習用のテキストとしても十分使いこなすことができるだろう。やや値は張るが、座右の書として、ぜひとも揃えておきたい一冊である。
エドワード・フォックス著、朝比奈一男監訳、渡部和彦訳
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1983-02-10)
タグ:生理学
カテゴリ スポーツ医科学
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健康・体力づくり入門 運動処方の考え方と実際
小野 三嗣
「健康ブーム」ではある。ジョギング、エアロビクス・ダンス、ゲート・ボール、自然食、ビタミン剤、いくつもの流行現象がみられる。人々は、それをやれば何もかも解決するのではないかという過度の期待すら抱いて、一念発起する。何事も一朝一夕に卓効はみられず、「なんだ、バカバカしい」とやがて忘れ次のものを求める。すべての人はそうではなくとも、そういう傾向は確かにある。
本書の著者はいう。「まず何よりも生命に関係する科学的情報の活用の知恵を身につけねばならない。大きな集団を調査対象として行われた研究の結果が示している疫学的知見や古くから受けつがれてきた体育に関する法則といわれるようなものが『自分にとって何なのか?』と考える知恵が必要なのである」と。またいう。「運動適性の個人差は普通の人々が想像するよりも著しく大きなものだということをまず認識してほしい。また疾病を研究することによって得られた知見から健康増進の問題を考えるという根本的な誤りなども反省しなければならない。運動療法という考え方がどんなに広がってきても『元来運動とはベストコンディションで行うべきものだ』という原則にはゆるぎがないのである」(いずれも「はじめに」より)。
この本は、「運動は必要か」「運動処方の必要性」「運動処方の科学」「運動処方の原則」「運動処方のリズムを考える基礎」「運動処方とコンディショニング」「運動処方箋の実際」という章から成るが、章題の固さとは打って変わり、内容は簡潔であり、しかもハッとさせられる鋭い指摘と洞察に満ちている。いちいち例を挙げる余裕はないが読者は、健康とか体力づくりにまつわる俗説、思い込みについて改めて考え直さざるを得ないだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1983-06-10)
タグ:運動処方
カテゴリ 指導
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スポーツQ&Aシリーズ ランニング ワンポイントコーチ
山地 啓司 山西 哲郎 有吉 正博
この本を含め、「スポーツQ&Aシリーズ」は10冊になった。実際にそのスポーツを行う者にとって身近で重要な疑問を掲げ、それに対して精通した専門家が回答するスタイルであるため、何かの疑問が生じたとき、似たような質問に当たればよいし、初めから通常の本を読むように読み進んでもよいし、ちょっと時間があるときに順序かまわずパラパラと読んでもよい。その意味で便利でまた有益な書だといえる。
全体の構成は、「ランニングの基本知識編」で26問(山地、有吉担当)、「ランニングの科学編」で26問(山地担当)、「ランニング技術編」で91問(山西担当)、「健康管理編」で24問、さらに用語解説と付録の頁(都道府県陸上競技協会の所在地、全国ランニング大会の一覧)となっている。図表、写真も豊富でわかりやすい。その意味で、この一冊を座右に置くと、いわばランニング百科事典としても用いることができるだろう。
ランニングやジョギングはすでにブームというより現代人のひとつのライフ・スタイルとして定着している観がある。身近な人でランニングをしている人は何人も見出すことができるだろう。しかし、そのうちの何人が悩みを持たないといえるだろうか。真剣であればあるほど幾多の疑問や困難を抱えているものだ。そういう人へのこの一冊を勧める。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1983-07-10)
タグ:ランニング
カテゴリ 運動実践
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監督の条件 その実戦と理論
梅村 清弘 深井 一三 小林 平八 安田 矩明
監督やコーチは、選手の競技力の向上に大きく関わっているのが普通である。ところが、監督やコーチの役割について、科学的に考察を加えたものはこれまでほとんど出ていない。
本書は、約10年前に書かれたものだが、このコーチングの分野に科学的な考察を試みた書であり、その内容は今も十分な説得力を持っている。
編著者は中京大学の教授、助教授の6人で、いずれも各種競技の監督・コーチを経験した人たちばかりである。そのため、理論を提示していきながらも、そのなかに自らの豊富な実例が挙げられて、常に、現場の視点も忘れられていない。たとえば編著者の1人は、中京高校が昭和41年春・夏の甲子園を連覇した当時の校長であり野球部長であった人で、自らのチームについての分析を詳細に行っていて興味深い。そのほか、中京大学から生まれた、各種競技のチャンピオンについての話も、監督と選手の関係という視点から詳しく考察している。
また、名監督といわれた川上、大松、松平などの各氏の指導方法、考え方が実例中心にわかりやすく解説されている。
そして、本書が今もなお、その新しさを失っていない点は、コーチングを単にスポーツの世界だけからみることなしに広く社会的観点から捉えようとしているところである。その意味で、本書の第1章が「コーチングの社会学」から始まるのは、その基本的な視点をよく表しているといえる。
コーチと選手の人間関係も、社会一般の人間関係の中で考察され、そのためにスポーツ以外の分野からも多くの文献を使っている。
こうした本がもっと出てくることによって、選手の資質だけでなく、監督(コーチ)の資質ももっと問われていくべきだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1983-10-10)
タグ:監督
カテゴリ 指導
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運動・レクリエーションの健康学
小野 三嗣
健康科学ライブラリーの第6巻。「はじめに」で著者はこう記す。「『健康』が多くの関心を呼び、機会あるたびに話題として取り上げられるようになったが、その割合には『健康な人々が増えてきた』という声が聞こえて来ないのはどうしたわけだろうか? 相変わらず運動不足病や不健康者の増加を嘆く声だけが高い」
またこういう。
「運動や食事そして休養やレクリエーションなど、その持ち方を自分の意志で調節できるがゆえの生活の不合理がもたらす不健康や病気についてのみ、責任を追うべきであったはずのものが、その他の原因によるものまで背負わされるようになったため、『自分は健康を守るために生きているのではない』と開き直る人が出て来るようになるのである」
ややもすると単純な論がまかり通ることの多い日常に対し振り下ろす一撃ともいうべき言である。このような言葉は本書の至るところに見出すことができる。
「『よく学び、よく遊べ』は、学校生活をしている子ども達だけへの教訓だと考えたとしたら大間違いである。つまり、精神作業の負担が大きくなればなるほど、身体活動のプログラムの取り入れ方に注意しなければならなくなるのである。それは必ずしも、精神作業だけに偏ったための弊害を防止するというような、マイナス面に目を向けてだけの話ではなく、精神作業の効率を良くするというような積極的な効果の方にも目を向けて提案である点にも注意してほしい」(第1章「健康に暮らすための運動・レクリエーション」より)
「年をとるにしたがって疲労の回復が遅くなるという話はよく聞くかもしれないが、筆者がここで強調しておきたいのは、それとほぼ同じように疲労症状の発現、あるいは自覚も遅れがちになるという点である。その結果、いつの間にか疲労が蓄積して来て、気がついた時には病的疲労といわれる状態になってしまっていたということがよくある」(第5章「性・年齢そして適性」より)
きりがない。要するに、なるほどと教えられたり、改めて気づかされる点の多い、読んで面白い本なのだ。健康づくりの運動を始めようという人、始めている人、やめてしまった人にぜひ読んでいただきたい。コラムも役に立つ内容で楽しめる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1984-02-10)
タグ:健康 レクリエーション
カテゴリ スポーツ医科学
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野球のトレーニング
平野 裕一
著者については今さら説明するまでもない。本誌読者、またT.J.ブックス『ダニーのベースボール・ドリル294集』の読者にとってはお馴染みのはずである。何度か本誌に執筆していただいたこともあるし、『ダニーの…』の訳者でもある。東京大学の教育学部において体育学を研究し(大学院卒)、1980〜82年同大学の野球部監督を務めた人である(現在は同大学教養学部体育学科教官)。
こういう経歴をあえて記したのは、この著書にその足跡がにじみ出ているからである。『野球のトレーニング』という書名から、人はすぐにバッティングやピッチング、走塁、フィールディングに直結するものを想像するであろうが(著者はもちろんそれを念頭に置いているだろうが)、前半は直結というよりは、これまでなおざりにされがちであった野球の科学的側面に正面から取り組んでいる。少しでもそのような姿勢を持つ野球関係者には待望の記述がそこにあふれている。科学的視点を有し、実践的経験を踏まえた著者が、科学の舟から野球へ矢を放つのである。あえていわせていただければ、もうこの種の本を硬いとか、取っつきにくいとかいうようでは、怠慢のそしりは免れないのである。野球を熟知する人なら素直に読み進める科学的野球のトレーニング解説書なのである。
後半は写真を豊富に使用し、具体的にトレーニングを理解し、利用できるようになっている。
時代は変わるものである。若い時代に学問的基礎を身につけ(つまり視点を確立し)、実践を踏まえてものを語ること、そしてさらに研究を続けること(あくまで現場から離れず)、これができる人が今以上に増えねばならない。その1つの兆しがこの書であるといっても過言ではない。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1984-05-10)
タグ:野球
カテゴリ トレーニング
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マラソンの科学 安全に速く走るために
山地 啓司
タイトルが示す通り、マラソンという競技を科学的に、しかもわかりやすく解説した書である。
全体は9章から成り、第1章の“マラソンとは”では、マラソンの起源、女子マラソンの歴史、マラソンの魅力について、さらにマラソンのルールまで概説する。
第2章以下は、マラソンにおける体力、技術、トレーニング、コンディショニング、健康、事故と障害など、スポーツ医科学の基本的な内容を総合的に取り上げている。各章のなかの1つ1つの項目をみるだけでも読者の興味を引く内容が多いので以下に抜粋しよう。
競技マラソンでは何歳でベスト記録を出すか/健康マラソンを目指すには何歳からがよいか/スポーツ選手と一般人の最大酸素摂取量/酸素摂取水準はマラソンの記録を左右する/マラソンと集団──欧米人と日本人の違い/ランニングと空気抵抗──先頭よりも二番目を走るべきか/最大酸素摂取量を高めるトレーニングとは/よいウォーミング・アップの方法/暑さ・寒さと記録──君原・寺沢選手の違い/マラソン・ランナーは長命か/心拍数の少ない動物ほど長命/ランニングは高血圧症にきく/糖尿病はランニングでどうなるか/欧米人と日本人のランニングへの取り組みの違い/ランナーは攻撃的性格か/ランニング中毒とは/アベベ選手と高地トレーニング/ショーター選手と科学嗜好/マラソンは月経に悪影響を与えるか
興味深い一例を挙げよう。ミュンヘン・オリンピックの金メダリスト、ショーター選手は、最大酸素摂取量は普通の選手並みであったが、酸素摂取水準がズバ抜けて高く(世界の一流ランナーが75〜80%であるのに対し、85%あった)、体脂肪率も極端に低かった(1.7%)。しかも彼は、高地トレーニングや炭水化物ローディングなどをすでに採り入れていたという。ここで出てきた最大酸素摂取量や酸素摂取水準などの語句もわかりやすく説明が加えられているし、それらを高めるトレーニングはどういうものがよいかという点まで取り上げてある。
マラソンやジョギングを行う人でなくとも、興味深く読める書である。一読をお勧めしたい。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1984-06-10)
タグ:マラソン
カテゴリ スポーツ医科学
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基本レッスン バレーボール
山田 重雄 大木 正彦
著者の1人である山田重雄氏は、現在全日本女子バレーボール・チームの総監督を務める。その活躍、実績は、改めて記すまでもなく、よく知られるところである。
その山田氏が「バレーボールを始める小・中学生のレベルが向上し、さらに高校・大学が強くなるという積み重ねの中で、はじめて世界で活躍できる選手が育ち、強いチームづくりが可能になるのです」との観点から、初心者にバレーボールの基本についてわかりやすく解説したのが本書である。「私がトッププレーヤーを指導し始めて30年になりますが、その体験から切実に感じるのは『もし、この選手が最初から正しい基本を学んでいたら頂点をきわめたであろう』と思うことがあまりに多いことです」(著者はしがきより)
基本の動きがわかりやすいよう、写真を中心にし、文章は必要最小限にとどめてある。いわば、読むより、見て覚えられるように工夫しているのが本書の特徴である。
基本編(レッスン1〜9)、応用編(レッスン1〜23)と分かれ、レッスンが進められていくが、そのほかにストレッチングやボールを使っての準備体操、練習での工夫なども写真とともに解説され、実際的な内容になっている。
最後のところでは、現役トップ・プレーヤーからのメッセージという、読者への“サービス”もある。初心者にとって、練習への意欲が一段とかきたてられることであろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1984-09-10)
タグ:バレーボール
カテゴリ 運動実践
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シンクロナイズド・スイミング
日本水泳連盟シンクロナイズド・スイミング委員会、科学技術委員会
フィギュア・スケート、新体操など、競技力とともに芸術的な美しさがとくに要求される競技の人気が高まっている。シンクロナイズド・スイミング(以下シンクロ)も同様である。シンクロは新しい競技のイメージがあるが、その発祥は1920年頃といわれ、日本に初めて紹介されたのはちょうど30年前の1954年である。日本水泳連盟が競技会に採用したのが1957年というから、その対応の早さもさることながら、決して昨日今日の競技ではないことが改めてわかる。まだ普及度の点ではこれからとはいえ、日本のレベルが世界にあってかなり高いのは読者周知のことだろう。
そのシンクロの画期的なテキストが本書であり、スポーツ指導書としても注目に値する内容である。
第1章「さあ始めようシンクロナイズド・スイミング」ではシンクロの歴史と魅力などを説き、第2章「楽しいリズム水泳」では、リズム水泳の技術を中心に、基本、応用、リズムのとり方、練習のポイントと項目を起こして、極めてわかりやすく紹介。第3章「シンクロの技術」では基本、フィギュア(第1〜4群、38種)、ルーティンを写真、図を多数、工夫して解説、以下第4章「シンクロのトレーニング」、第5章「シンクロの科学」といった技術のバックグラウンドも付している(さらに付録として成績一覧表も)。
とくに注目すべきは、技術解説の巧みさであり、本という手段で動作を説明する困難を最大限カバーしている。またトレーニングや科学(医学を含む)をわかりやすく要領よくまとめるのは、この種の指導書として必須であるにかかわらず、おろそかにされていたことを考えると、スポーツの新しい局面がここに垣間見られるといってもよいだろう。競技者のみならず、コーチ、指導者必携の書と謳われているのもうなずける。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1984-10-10)
タグ:シンクロナイズド・スイミング
カテゴリ スポーツ医科学
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体育とはなにか 改めて問う 体育の内容と本質
宮下 充正
東京大学での大学院時代から数えて、体育学に入って25年という著者が、海外研修を前にして、自分自身の反省材料としてそれまでの文章を書き改めながらまとめ直したものであり、「体育にこれからたずさわろうとする若い人びとに読まれ、新しい世紀での活躍に役立てば」という願いもあって刊行となった。
歯に衣着せぬ口調は深い洞察を感じさせ、読中・読後とも、改めて体育学とは何かを考えさせられる書で、体育に関わる人々にはぜひとも一読しておいていただきたいものである。
「(前略)すなわち、体育学は応用科学としてのその存在を世に示すことができるのである。それゆえ、私たちは、世間があっと驚くような新しい研究を追い求める必要はなく、着実に事実を積み重ねていくよう努力すべきではないかと、私は思っている」(第3章体育学はなにをしてきたのか、P55より)
「そこで私は次のようなことを提案したい。親と旅行する場合は、学校を休んでも欠席あつかいとしない、ということである。一週間分の学習予定を先生からもらって、それにしたがって親が教育の代替えをするという制度である」(第9章季節に感じる運動の必要性、P153より)
「それではスポーツ科学は万能か、科学だけで勝てるのだろうか。決してそんなことはないといえる。理屈はしょせん理屈であって、それ以上のものではない。私どもは基礎的な平均データを提供するが、それを生かすも殺すもコーチと選手しだいである」(第10章新しいスポーツ科学について、P185より)
日本の選手を強くしたい、勝たせたいという夢を抱く著者は、水泳を初めとし、各競技に熱心に取り組んできた。研究、実践を通じての明晰さに副題が光る書である。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1984-11-10)
タグ:体育
カテゴリ スポーツ医科学
CiNii Booksで検索:体育とはなにか 改めて問う 体育の内容と本質
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バレーボールのメンタルマネジメント 精神的に強いチーム・選手になるために
遠藤 俊郎
本誌および『Coaching and Playing Volleyball』誌での連載を再構成してまとまった著書。
著者によると、メンタルトレーニングとは「競技力向上に劇的に作用する特効薬というよりも、好不調の波を高値安定に調整する、心身の調子を整えるサプリメント」なのだそうだ。練習日誌に自己分析のためのチェック項目を設けることを提案するなど、具体的なエピソードを交えながら、どうすればよいのかについて書かれている。メンタルトレーニングは決まりきったメニューを行うのではなく、状況に応じて自在に変化させ得るものだと認識が新たになる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2007-12-10)
タグ:メンタルトレーニング
カテゴリ 指導
CiNii Booksで検索:バレーボールのメンタルマネジメント 精神的に強いチーム・選手になるために
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トレーニング指導者テキスト理論編・実践編
日本トレーニング指導者協会
JATI認定トレーニング指導者の公式のテキストとして、理論および実技について広い範囲にわたる内容がコンパクトにまとめられている。理論編では体力学、機能解剖、バイオメカニクス、運動生理学、栄養、心理などが網羅され、救急処置も詳しく解説されている。機能解剖では、大きな図版が多く使われ、理解を助けている。実践編では、目的に応じてどのようなトレーニングを行うか、その指導にあたっての理論的な裏づけや実際の方法、その効果をどう測定していくかについて詳しく書かれている。トレーニング方法については、1つの項目に多くの写真が使われており、ポイントや応用のヒントが詰まっている。情報の収集や活用の仕方についても述べられている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2008-03-10)
タグ:トレーニング
カテゴリ トレーニング
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スポーツトレーニングの心理学
R.N.シンガー 松田 岩男
昔、レオナルド・ダビンチという偉人がいた。今でいえば、美術も科学も医学も、彼は広範囲において天才を発揮した。各分野が専門分化していく今日、彼の偉業を再現することは一個人、いかなる大天才にとっても不可能であろう。世にいうマルチ人間でも、その水準で事をなしていくのは困難なはずだ。
スポーツ心理学も例外ではない。「他の書物を分析した結果、私はこの領域に関する最も包括的な本を書こうと思いたった」(序文より)と記されている通り、スポーツと心理学について、1968年初版、1975年改訂第2版、そして1980年にその第3版が出されたものの翻訳本が『スポーツトレーニングの心理学』(R.N.シンガー著、松田岩男監訳、大修館書店)である。
日本語版への序文から察するところ、これは初版翻訳の次の翻訳となり、その改訂の意味は極めて大だろう。著者が「話題は興味深く、エキサイティングですらある──少なくとも私には」と記されている通り、そもそも学問はエキサイティングなところがあるべきなのだ。スポーツ心理学の体系を知るために、この1冊はありがたい1冊といえる。なお、原題は“Motor Learning and Human Performance”であり、著者はアメリカ・フロリダ州立大学教授、国際スポーツ心理学会会長である。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1986-10-10)
タグ:スポーツ心理学
カテゴリ スポーツ医科学
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動きを直せば心は変わる メンタルトレーニングの新しいアプローチ
徳永 幹雄
心と動きは相互に作用し合う。結果が求められるスポーツにおいては、パフォーマンスを変えるべくメンタルを変えることに重点を置くアプローチが多いが、本書は「動き」を直すことに着目している。
メンタルは実力発揮に関係するが、発揮すべき実力が磨かれている必要がある。動きといっても単なる技術練習ではなく、生活習慣なども含まれる。また、実体のメンタルについても具体的な5因子・12尺度に定義した上で、それぞれの評価とトレーニングの方法を紹介していく。
方法は多岐にわたり、著者を始めメンタルトレーニング研究に尽力した先人の存在を感じられ、それ自体にも勇気づけられる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2016-05-10)
タグ:メンタル 動作
カテゴリ メンタル
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スポーツ選手なら知っておきたい「眼」のこと 眼を鍛えればうまくなる
石垣 尚男
眼とパフォーマンス
五十の齢を迎えようが身体は鍛えればまだ相応に反応してくれる。しかし「眼」というものは、なかなかやっかいである。数年前から始まった小さな文字を人相悪い目付きでにらみつけてもぼやけてしまう現象。暗い灯りの下ではもうお手上げだ。世間がぼやけて見えるくらいが生きやすいと強がってみても、人間の感覚器の中で眼からの情報量が最も大きいことに変わりはなく、不便になったことは否めない。認めたくないものだ、老いゆえの衰えというものを。
そんな老眼の話はともかく、アスリートにとって視力の問題はパフォーマンスにネガティブな影響を与える大きな要因である。これは昨今判明したことではなく、かの宮本武蔵も五輪書で「兵法の目付といふ事」として「観る」ということを説いている。40年ほど前だろうか、愛読していた野球漫画「ドカベン」で、主人公である山田太郎が電車に乗っているときに通過する駅の名前を読み取る訓練を常にしているというシーンがあったようにも思う。武道のみならずスポーツで眼を鍛えるという概念は相当昔からあったはずだ。だがそれを定常的なトレーニングとして行っている人は、どれほどいるのだろうか。
わかりやすい解説書
本書は「スポーツに必要な見るチカラ」=「スポーツビジョン」についてのわかりやすい解説書であり、トレーニング法の指南書でもある。「スポーツビジョンは小学生の時期に臨界期」を迎え、「この頃に高いレベルに上げておけば、加齢とともに落ちるにしても生涯高いレベルを保つことに」なるとのことだ。年齢が高くなるとトレーニング効果はあっても、子どもの頃についた能力差は埋まらないようだ。子どもの頃からボールを用いるようなオープンスキル系スポーツをプレーしていれば自然に発達するだろうが、これに特化したトレーニングも合わせて導入するべきだと思う。
ただ、このスポーツビジョンは身体とのコーディネーション抜きには語れない要素だ。眼からの大量な情報を瞬時に処理して身体の動きにつなげることができなければ、いくら眼がよくてもスポーツのパフォーマンス向上には活かされない。実際本書でも、基本的な眼のトレーニングに加えて種目別のコーディネーショントレーニングが紹介されている。眼から得られる情報の重要性を理解した上で、固有受容器や前庭からの情報、小脳による様々な情報の処理や制御など、身体の動きをコーディネートする他の様々な要因も組み合わせる必要があるということだ。
一方で、最大の情報を封印することで、その他の能力を引き上げることも考えていいだろう。片脚立ちで眼を閉じるだけでバランス保持に苦労することは皆知っているはずだ。
対等に戦う全盲の選手
それにしてもパラリンピックなどで視覚障害者競技を見ていると、どのような感覚がどのように磨きこまれているのだろう。アルペンスキーなど、まさに手に汗握り、ただ驚くばかりだ。明らかに健常者より発達した能力が備わっている。
アメリカ留学中に学生トレーナーとして実習を積んでいた高校で、他校の学生ではあるが生来の全盲レスリング選手を見る機会があった。彼は世にあるさまざまな形というものを、その眼で認識したことがなかった。人の身体というものを、自らの身体を含めて視覚で認識したことは一度もなかったのだ。それにもかかわらず、彼は健常者との試合に対等の条件で出場していた。そして相手選手と対峙してまだ身体が触れないときから、彼は相手の腕のあるべきところを探り始めていた。間合いが見えているかのように近づいて、一旦コンタクトするとどの部位をどうすれば極めることができるのか、身体のつくりというものを理解しながら動いているように私の目には映った。
ある程度強く速い選手に当たるとやはり敵わなかったが、1回戦や2回戦は勝ち上がっていたのである。彼のような条件で研ぎ澄ましたさまざまな感覚に視力が加わればどうなるのだろうか。身体を操る能力は向上するのだろうか、それとも調整が狂ってしまうのだろうか。
身体と対話
老眼になってから始めた空手の稽古で、私は初めは鏡と向かい合ってよく稽古していた。眼からの情報を頼りに自分の形を確認していた。しかしあるとき、自分を客観的に見る視覚に頼りすぎている自分に気づき、鏡を封印してもう少し身体と対話することに努めるようにした。
主観的な視覚にも制限をかけて、自らの動きを内面からコントロールする力をもう少し身につけようと考えている。同時に、基本的なビジョントレーニングに加え、出勤中の人混みの中で視野を広げるために人数を数えたり、広告の文字や電話番号を読み取るように努めたり、走り去る車のナンバープレートを読んだり、老いた眼に一生懸命喝を入れている。傍目には怪しいオヤジに映っているはずである。
(山根 太治)
出版元:大修館書店
(掲載日:2015-05-10)
タグ:眼
カテゴリ スポーツ医科学
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ケガをさせないエクササイズの科学 トレーニングから運動療法まで
西薗 秀嗣 加賀谷 善教
競技力の向上、もしくは健康な毎日を送るうえでトレーニングやエクササイズは欠かせない。トレーニング指導者には、運動を継続させるだけでなく、ケガをさせないという役割もある。
前半の基礎編では、トレーニングにもリハビリテーションにも共通する理論が網羅されている。後半の応用編では、負荷量を調節すればさまざまな対象に行えるエクササイズと科学的根拠を紹介。
もちろん現場で起こることは理論通りではないが、立ち返るべきベースとなってくれる一冊だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2015-06-10)
タグ:障害予防 トレーニング リハビリテーション
カテゴリ スポーツ医科学
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考えて強くなるバレーボールのトレーニング スカウティング理論に基づくスキル&ドリル
吉田 清司 渡辺 啓太
FC東京バレーボールチームの監督を務める吉田氏は男子日本代表の、渡辺氏は女子日本代表のアナリスト経験を持つ。バレーボールにおける情報戦略を先導する両氏が、スカウティング手法と練習・試合への活かし方を、中・高生でも実践できる形に整理した。各項目は具体的に書き込まれており、ジュニア世代からデータを扱うことに慣れ、考えて練習する習慣を身につけてほしい、それによってバレーボール界全体の底上げにつながればという熱意がこもっている。スカウティングの基本的な考え方は、他の競技の選手たちにも参考になりそうだ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2016-08-10)
タグ:バレーボール 分析 トレーニング 指導
カテゴリ トレーニング
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戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼
柏井 正樹 島沢 優子
錦織圭選手がジュニア期に指導をされていた柏井正樹さんの著書でした。錦織圭選手のことが実例として書かれることが多かったので、説得力がありました。錦織選手のジュニア期は、相手のプレースタイルに付き合って試合を運び、相手が痺れを切らせてプレースタイルを変えてきたところで一気に切り崩していたそうです。柏井氏は、負けた選手が自分流を続けることができたら錦織選手に勝てる可能性があったかもしれないけど、自分がやっていることを信じきれていないので違うことをしてしまう、と表現しておりました。
自分がやっていることを信じるというのは、簡単なようで難しいことなんですね。トップクラスの試合での出来事というのが、その難しさを物語っていますね。私のサポートチームにも、格上のチームと試合をする際にも、自分たちの方針を揺るがさずに試合を運べるようになってもらいたいものです。
本書の中では心に響く表現がサラッと書かれていて、それがまた面白かったです。「試合で頑張らない人はいないので、それは試合で頑張らなかったのではなく、試合までの準備を頑張っていなかった」という表現には、深く納得しました。参考になるポイントが多々ありましたが、指導で使う声のトーンの使い分けが、実践する上で一番わかりやすかったです。これは心がけていきます。「戦略的な思考は、ゆとりのある自由な空気感から生まれる」という柏井氏の言葉通り、選手の能力を存分に引き出そうとする指導スタイルから、素敵な刺激をいただくことができました。
(塩多 雅矢)
出版元:大修館書店
(掲載日:2017-04-06)
タグ:テニス 戦略
カテゴリ 指導
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ほんとうに危ないスポーツ脳振盪
谷 諭
脳神経外科医の著者が、脳震盪の危険性、症状の特徴、対応方法、予防として事前にやっておくべきことを具体的に、わかりやすく解説する。頭部のケガの中でも、脳振盪は出血などと違い見た目では症状がわかりにくかったり、受傷した本人が「大丈夫」と言ったりする。それに惑わされず見極めねばならない。一回の受傷はもちろん、たとえ軽症でも繰り返すことによって死の危険があるからだ。ポイントを10カ条にまとめており、焦りがちな状況でも確認しやすい。トップスポーツの現場はもちろん体育やレジャーなど日常でも出くわすことのある脳振盪。正しい知識を知っておくに越したことはない。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2017-03-10)
タグ:脳振盪
カテゴリ スポーツ医学
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スポーツ戦略論 スポーツにおける戦略の多面的な理解の試み
上田 滋夢 堀野 博幸 松山 博明
スポーツにおいて、「戦略」という言葉が使われるのはどういう場合だろうか。一つの試合に勝つため、1点を挙げるための方策をそう呼ぶことがあれば(しばしば、この点では戦術との混同が起きる)、長期的なチームづくりのプランをそう呼ぶこともある。プロのチームであればマーケティングの戦略は必須であるだろうし、現代はスタジアムの建設や再開発と結びついた「スポーツとまちづくり」といった戦略も叫ばれる時代になってきた。
本書では、スポーツにおける「戦略」の枠組みを明確にすることを目的に、16名の執筆者がさまざまな角度から論じている。ひとつの挑戦的な取り組みと言えるだろう。本書の面白さは、各執筆者のバックグラウンドや活動の領域が多岐にわたっているところである。そのため、同じ「スポーツ戦略」というキーワードのもとで論じてはいるが、全体として、スポーツの非常に幅広い領域をカバーしている。
全部で5章、18講で構成され、歴史を紐解きながら戦略という概念を整理する講があれば、マーケティングの観点からリーグ機構の戦略を論じる講がある。また実際の大学サッカーチームを例に学生アスリートの組織構築の戦略を紹介する講があれば、柔道が戦後のスポーツ化の中で採用してきた戦略を紹介する講があるといった具合である。
こうした構成であるため、読者は章題を見て、自分の興味のあるところから読み始めることができる。「スポーツ戦略」というキーワードをまず俯瞰的に眺めるための一歩目となりえる一冊であろう。
(橘 肇)
出版元:大修館書店
(掲載日:2019-09-18)
タグ:戦略
カテゴリ その他
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運動と疲労の科学 疲労を理解する新たな視点
下光 輝一 八田 秀雄
運動によって「疲労」を感じることは誰しもが経験するだろう。この「疲労」というのを、ただ「疲れた」という小学生の感想文のような表現で一括りにしてはいないだろうか。もしくは、気合いが足りないからやメンタルが弱いからといった主観的で曖昧な要因から、「疲労」が生じるという詭弁に陥ってはいないだろうか。
「疲労」は、客観的な指標で仮説を検証するという科学の世界での研究対象となっている。本書では、生理学・脳科学・心理学・栄養学といった科学的な観点から「疲労」に関する理論が展開されている。科学の世界では、以前までの常識が非常識になるというパラダイムの変換が生じる。運動をして疲労するということは、かつて乳酸が蓄積することが原因と考えられ、その考えは今でも根強く残っている。しかしながら、現在の科学では、乳酸は疲労物質でなく、疲労の予防に関与することが示されている。筋肉を動かすエネルギー源には筋肉中に蓄えられたグリコーゲンの関与が広く認知されているが、乳酸も筋肉へのエネルギー供給に重要な役割を果たしていることが報告されている。疲労によってこれらのエネルギー源が枯渇してしまえば、スポーツパフォーマンスの低下は避けられない。
筋肉だけではなく、脳においても乳酸やグリコーゲンの関係が示されている。これらが関与した脳におけるエネルギー源の減少は、中枢性疲労を引き起こす要因の一つとされている。中枢性疲労とは、脳から筋肉に指令を出す際に関与する神経系に疲労が生じることである。上記に示した筋肉と脳においての疲労に関する話だけでも、「疲労」という現象には様々なメカニズムが潜んでいることがうかがえる。
本書を読むことは、「疲労」という現象とそのメカニズムを理解し、「疲労」と適切に付き合う方法を考える思考の糧になるであろう。この理解は、精神論によって追い込むトレーニングとは一線を画し、科学的な視点から「疲労」を客観的に捉えたトレーニングメニューの作成につながると考える。最新の知見から得られる恩恵によって、質の高いトレーニングが継続できる結果、最終的にスポーツパフォーマンスが向上すると考えられる。「疲労」という観点でトレーニングに関する思考の糧を育むためにも、本書を読まない理由が見当たらない。
(曽我 啓史)
出版元:大修館書店
(掲載日:2020-08-17)
タグ:疲労 乳酸
カテゴリ スポーツ医科学
CiNii Booksで検索:運動と疲労の科学 疲労を理解する新たな視点
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近代日本を創った身体
寒川 恒夫 中澤 篤史 出町 一郎 澤井 和彦 新 雅史 束原 文郎 竹田 直矢 七木田 文彦
まず驚いたのは本書のテーマと切り口です。近代日本史でもなくスポーツが日本に普及するいきさつでもなく、明治時代から戦後の昭和に至るまでの日本人の身体を通して見る国家であったり健康であったりスポーツであったり、盛りだくさんのテーマがあります。普段見ることのない角度からの近代日本からは、歴史の教科書にはないものが見えてきます。
江戸時代にはスポーツのような競技の概念はなかったようです。武道・武術が近いのかもしれませんが、やはり戦を前提としたもので、今の時代のように身体を動かして楽しむというレクリエーション的な要素は少ないのかもしれません。現在の日本人から見れば全くの異文化ともいえます。
明治以降、ヨーロッパを中心とした諸外国との交流があり、人種による体格の違いに劣等感を持ったり、江戸時代には寛容であった「裸体」に対する文化の違いに当時の日本が焦りを感じていたことを初めて知りました。
「体育会系」という風習の生い立ちというテーマも今まで触れる機会はありませんでした。それが政治的な背景で生まれ育った概念で、また体育会系というのが縮小傾向にあるのもまた政治的背景。不思議なつながりに翻弄されるさまは一つのストーリーとなっています。
スポーツをプレイと捉えるのではなく人間形成であったり教育の一環として捉える日本ならではのスポーツ感にも、時代の背景が潜んでいることに気づかされました。
明治維新から戦争まで動乱の近代日本の歴史を通して見る身体には、その時々の日本の問題点が隠されていました。そしてそれらは過去のお話ではなく今の時代にもつながるテーマがいくつもありました。現代の問題を読み解くカギは、知られざる歴史にこそあるのかもしれません。
(辻田 浩志)
出版元:大修館書店
(掲載日:2020-12-09)
タグ:近代 身体 日本
カテゴリ 身体
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ひと目でわかる バスケットボールの筋力トレーニング パフォーマンス向上とケガ予防の解剖学
ブライアン コール ロブ パナリエッロ 有賀 誠司 ウイリアム ウェザリー
本書は大きく分けて88のエクササイズと、それらがバスケットボールの動きとどう関わっているのかが記載されている。
形式としては、エクササイズの「実施方法」と「動員される筋肉」が解説され、「バスケットボールの視点から」という項目で、そのエクササイズで得られた能力が、バスケットボールのプレー中どのように発揮されるのか表現されている。
トレーナーとして拝読すると、選手にエクササイズを処方する際に、競技動作とかけ離れたエクササイズが、いかに競技につながってくるかを説明するときの情報として有効活用ができる。エクササイズの中にはバーベルやメディシンボールなどを使用するものが多く、自宅でできそうなものは20種類ほどであったので、トレーニングルームやフィットネスクラブなどを利用しているプレイヤーを対象とした内容であろう。実施方法については、至ってシンプルな記載であり、トレーニング初心者向けのものとなる。これから筋力トレーニングを実施しようとする方、または筋力トレーニングがいかにバスケットボールのプレーの向上に役立つかを感覚だけでなく、言葉として理解したいプレイヤー向けである。
冒頭にもお伝えした通り、指導者やトレーナーの方が読む際は、選手に筋力トレーニングをしてもらう際の言葉選びの参考にする事ができる。筋力トレーニングの指導にあたり「脚の筋トレをしよう」よりも「ドリブル時のカッティングを素早くできてケガの予防にもなるエクササイズをしよう」と伝えたほうが選手はモチベートされる。そういった「何のために」という目的意識を持った言葉がけに難渋しているバスケットボール関係者にはオススメの一冊だ。
(橋本 紘希)
出版元:大修館書店
(掲載日:2021-02-05)
タグ:バスケットボール
カテゴリ トレーニング
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スポーツ・エルゴジェニック 限界突破のための栄養・サプリメント戦略
Melvin H. Williams 樋口 満 奈良 典子 杉浦 克己 山口 英裕
スポーツに特異的な競技力諸因子を高めるとされている「スポーツ・エルゴジェニック」が何であるかを明らかにしながら、その有効性、安全性、合法性そして倫理面について専門的な参考書となるべく企画された本である。スポーツ・エルゴジェニックと呼称されるすべての情報を網羅した。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2000-11-10)
タグ:スポーツ栄養
カテゴリ 食
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スポーツ倫理を問う
友添 秀則 近藤 良享
ドーピング、リンチ・暴力、セクハラ、補助金の不正流用、そしてスポーツ構造の変革──。この本は、そうした現代スポーツが投げかける、あるいは直面する様々な難問に対し、「感情論」「損得勘定論」ではなく、倫理的な立場から誠実に捉え直していこうとする友添、近藤両氏の共同レポートである。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2000-12-10)
タグ:倫理
カテゴリ その他
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スポーツ・ヒーローと性犯罪
Jeff Benedict 山田 ゆかり
スポーツ界でこれまであまり調べられなかった、「人気スポーツ選手の特殊なライフスタイルが女性に対する虐待行為を触発する」ということにメスを入れるために書かれた異色の本。性暴力に遭った女性、被告側弁護団、判事、陪審員、コーチやエージェントなどに対する綿密な取材から見えてくるものは何か。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2001-03-10)
タグ:性犯罪
カテゴリ その他
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Excelによる 健康・スポーツ科学のためのデータ解析入門
出村 慎一 山次 俊介 小林 秀紹
Microsoft (R) Excel を利用して、各種統計処理の活用方法や応用力を身につけることを狙いとしているので、卒業論文・修士論文での調査や実験、あるいは体力テストの結果など、具体的な事例に基づくデータ解析法について詳しく学べる。統計学の授業用としても利用価値が高いと考えられる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2001-07-10)
タグ:データ解析
カテゴリ スポーツ科学
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Q&A 運動と遺伝
大野 秀樹 及川 恒之 石井 直方
科学のあらゆる分野に関わりを持つようになった分子生物学。身体活動の1つを研究するスポーツ科学も例外ではない。この本では、運動と遺伝に関する、「身体のサイズを決める遺伝子はあるか?」「ドーピングは遺伝子に影響を与えるのか?」などの125のテーマを、Q&A方式によってわかりやすく説いた。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2001-10-10)
タグ:遺伝
カテゴリ スポーツ医科学
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中長距離ランナーの科学的トレーニング
David E. Martin Peter N. Coe 征矢 英昭 尾県 貢
理論家で綿密なトレーニング計画をもとに“つくられた”天才ランナー・セバスチャン・コー氏の父親でコーチでもあるピーター・コー氏と、実践的な運動生理学者のデビッド・マーチン氏の共著。現場の活きたコーチングと科学とが融合したというに相応しい中・長距離ランナーのためのバイブル。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2001-11-10)
タグ:中長距離走 トレーニング コーチング
カテゴリ トレーニング
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高齢者の運動ハンドブック
米国国立老化研究所 東京都老人総合研究所運動機能部門 青柳 幸利
健康の維持・増進のためにウォーキングが注目されているが、実践者の歩行速度と筋力や平衡機能、持久力など一般的な体力指標に加え、日常生活の活動性などは高齢者にとって極めて重要な事項として検討されるべきである。これらを踏まえ、高齢者の運動というものを丁寧に扱ったというのがこの本の特徴である。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2001-12-10)
タグ:高齢者 運動
カテゴリ スポーツ医科学
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コツとカンの運動学 わざを身につける実践
日本スポーツ運動学会
個人に合わせた指導
アスレティックリハビリテーションとは、アスレティックトレーナー業務のひとつだ。アスリハと略して呼ばれることが多い。日本スポーツ協会の公認テキストによれば、日常生活レベル復帰を基準とするメディカルリハビリテーションを引き継ぐ形で、競技復帰までを目標とする過程として表現されている。しかし実際は、リハビリ初期から患部外のトレーニングや全身持久力トレーニングなどを組み合わせたアスリート向けのプログラムとなる。
競技復帰には体力因子や全身を協調させて体現する「わざ」の再獲得が必要だ。傷害の発生機序や発生要因を克服しながら、「わざ」の 「コツ」や「カン」を取り戻し発展させる必要がある。リハビリ開始時からこれを加味したプログラムであるべきで、個々のメニューはそれぞれの要素に分断されたものではなく互いに協調すべく全身の動きをイメージしてデザインされるべきである。そして、たとえ蓄積された知見に基づくプロトコルでも、対象となるアスリートによって指導の方法は全て異なるものになるはずだ。その道のりは、指導というよりむしろトレーナーとアスリートが協調し共感しながら進めるべき協働という方が正しいように思う。
実践のヒント
さて、日本スポーツ運動学会による『コツとカンの運動学』のサブタイトルは「わざを身につける実践」とある。子ども達の発達過程において「動きのわざ」をいかに育てていくのかを主軸として様々な知見が語られている。「わざ」は単に「動き」ということではなく、移り変わる状況に応じて「コツ」と「カン」を働かせて、最善の「動き」をするということだ。それを自分が「身体で覚える」だけでなく、それを学習者にいかに指導するかという実践のヒントが集約されている。だから、ここでいう「運動学」はキネマティクスとは一線を画している。キネマティクスを芯に、心理、言語、感覚、人間関係や環境整備といった様々な因子で包み込んで作られた領域と言うほうがいい。
日本スポーツ協会が推進するアクティブチャイルドプログラム(ACP)でも「動きの質」に注目するよう働きかけている。ACP とは「子どもが発達段階に応じて身につけておくことが望ましい動きを習得する運動プログラム」だ。ただ、どれだけいいプログラムでも、その「動きの質」向上のためには指導者の力量が問われる。個人差の大きい子ども達の指導では、画一的な指導は効果のばらつきを大きくするだろう。
学生に悩んでもらう
本書で説かれる「学習者の動き方を自らの体で感じ取りながら、わざの動感世界を共有する運動共感能力」や「指導者が自分の動きを詳細に分析してその動きが実際にできるようになるために、指導者が学習者に対して学習者自身の動きの感じに問いかけていくという借問」などの重要性は、アスリハの過程に通じると感じる。現場のトレーナーとして経験を積んだ人達はこの辺りのスキルは自然に練り込まれているだろう。負傷したアスリートの状態を的確に把握し、様々な視点から観える問題点を、当人とのコミュニケーションの中で修正しながら、段階的に進めていくことができるはずだ。
ところがアスレティックトレーナーを目指す学生達には、まだこの感覚をイメージしにくい者が散見される。そういった学生は、正解を欲しがる傾向にあるようにも思う。この場合はどうすればいいのか、マニュアルとしての答えが欲しいのだ。
模範解答としてのプロトコルを示してやればいいのかもしれないが、私の場合はヒントを小出しにしながら悩んでもらう方法を取っている。解剖学や傷害、評価法、そしてアスリハの基礎理論をもとに、対象となるアスリートのことを多角的に想像し、互いに協力して問題を解決すべく創造力を最大限に働かせることに取り組んでもらうのだ。そのためにはアスリハの勉強をしているだけでは足りない。JSPO-ATの実技試験対策でも、過去問題を紐解いてこの設問が出ればこのプログラムを覚えておいて指導せよといった方法では問題だと個人的には考えている。たとえ試験であっても、目の前にいるアスリート(モデル)に最大限の効果が出るようにカスタマイズされたものを即座に提案し、指導というより双方向の協働にできることを目指して欲しい。本書もきっといい参考書籍になるはずだ。
(山根 太治)
出版元:大修館書店
(掲載日:2021-03-10)
タグ:カン コツ
カテゴリ スポーツ医科学
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子どものスポーツと才能教育
宮下 充正
子どものスポーツ能力の開発・育成や才能一般の問題、今日の才能教育の不透明さ、「心の教育」の時代におけるスポーツ教育・体育教育の持つ意味や必然性などをわかりやすく紹介。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2003-04-10)
タグ:子ども
カテゴリ スポーツ医科学
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実戦ビーチバレーボール
カーチ・キライ バイロン・シューマン 瀬戸山 正二
オリンピックで金メダルを3回も獲得しているカーチ・キライ選手の経験を交え、ビーチバレーを楽しむために必要な技術や戦術、トレーニング法、プレーに対する考え方を写真とイラストでわかりやすくまとめた実技書。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2003-09-10)
タグ:ビーチバレーボール
カテゴリ 指導
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爆発的パワー養成プライオメトリクス
James C. Radcliffe Robert C. Farentinos 長谷川 裕
「爆発的パワー」を養成する「プライオメトリック・トレーニング」。その理論をわかりやすく解説し、67の実践的なドリル(ジャンプ、バウンドとスキップ、ホップ、体幹、上体)を写真で紹介。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2005-02-10)
タグ:プライオメトリクス
カテゴリ トレーニング
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スポーツ選手なら知っておきたいからだのこと
小田 伸午
“言葉”が選手を変える
「からだの力抜いていけよ!」「リラックスしていけよ!」。これは、よくスポーツ場面で聞かれる言葉である。選手のパフォーマンス向上を願って発せられる言葉だと思うが、実はよく考えてみるとこの言葉はおかしい。なぜなら、スポーツの場面でからだの力を完全に抜く場面は皆無に等しいし、第一それではスポーツという活動が成り立たないからである。単なる応援のつもりならば、こんなあいまいな言葉でも許されるだろうが、こと指導者ともなれば、この場合は「余計なところに力をいれるなよ。余分な力もいれるなよ」が正しいであろう。さらに続けるならば「そのためには、具体的にはこうするといい」とアドバイスしたいところだ。
このように、スポーツの指導場面においては、当然のことながら多くの“言葉”が用いられている。本来なら、適切な言葉でその競技スキルに見合った“力の入れ所”と“抜き所”を指導できてこそよい指導者ということになるところだが、実際には動作を見た目で言葉にして指導に使っていることも多々ある。たとえば、本 書 に は 次 の よ う な 文 章 が で て く る 。(競泳クロールの手のかき動作について)「プル(引く)という表現も要注意です。外から見るとプル動作のように見えますが、動作感覚としてはプッシュ(押す)です。水泳のかき動作は、水の中で手を後方に動かす動作であると勘違いしやすいですが、手の位置が後方に移動するのではなく、からだが前に進むのです。」とすると、たとえ選手が一流の素材を持つ選手であったとしても、指導者の観察眼が二流ならば、選手には「水をキャッチしたら自分のほうへ引っ張るんだ」と指導してしまうだろうし、トレーニングは“引く”に力点が置かれてしまうであろう。本当は、“押す”感覚が正しいはずなのに、コーチには正反対の感覚を指導された......。指導者の責任は重い。
“常歩”と“押し”
“なみあし”と読むそうである。世界陸上の200mで並み居る強敵を押しのけて堂々 3 位に入賞した末次慎吾選手が取り入れたとして有名になった“なんば”走りを本書ではこう呼んでいる。理由は「なんばというと、多くの人が(歩行などの)遊脚期の足と手が(同時に)前に出るというふうに勘違いしています。また、なんばでは、左右軸のいずれか片方に軸を固定して使う場合が多くありますが、スポーツの走動作では、左右の軸をたくみに切り替えていく動きになります。そこで、私たちの研究グループは、スポーツ向きの二軸走動作をなんばと言わずに『常歩』という言い方であらわすことにしました。」この二軸動作の詳細については本書に譲るが、ここでも前述した水泳同様に感覚の誤解を指摘しており、走動作においては“蹴る”という感覚ではなく、振り出し脚に腰を乗せていく感覚を強調すべきであると言っている。こうすると、自然に身体の軸は左右二軸となり、からだが前に出る運動量が格段と増すという。また、このときの足裏の感覚も“蹴る”ではなく“押す”、振り出した脚の膝は“突っ張る”のではなく“抜く”というのである。このような新感覚の指導言語は、正しい身体動作の理解から生まれたものである。
「コーチは選手とよいコミュニケーションを図れ」は当然のことだが、必ずしも問題の中心を指摘することがよいとは限らない。ときには、選手がうまくできない部分から意識をはずしてやり、違う言葉で正しい感覚を教授してやることも必要だ。自分の使った言葉によって、選手に新たなパラダイムシフトが起これば、指導者冥利に尽きるというものである。
(久米 秀作)
出版元:大修館書店
(掲載日:2005-07-10)
タグ:身体 動作
カテゴリ 身体
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体育教師のための心理学
Y. ヴァンデン‐オウェール S. ビドル R. ザイラー F. バッカー M. デュラン Yves Vanden Auweele Stuart Biddle Roland Seiler Frank Bakker Marc Durand スポーツ社会心理学研究会
体育教師が身につけておきたい心理学的知識と実践へのガイドラインを紹介するとともに、子どもの体育・スポーツ活動の重要性やその実践におよぼす心理的要因の影響も解説。子どもの体育・スポーツ指導にかかわる方におすすめの一冊。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2006-07-10)
タグ:体育 心理学 子ども
カテゴリ メンタル
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サッカー選手なら知っておきたい「からだ」のこと
中村 泰介 河端 隆志 小田 伸午
「スポーツ選手なら~」そして「剣士なら~」に続くシリーズ。サッカーの競技に向けて、二軸動作を中心に身体の動きの感覚を、フルカラーの連続写真を使って解説している。キックやトラップ、ディフェンスなどのサッカーの基本動作において、二軸動作について感覚的に理解することができる。たとえばボディーコンタクトの項目では、地面反力を上手に使うための身体の使い方、左右の軸を使い分ける方法についてわかりやすく書かれている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2007-01-10)
タグ:サッカー
カテゴリ 身体
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選手の潜在能力を引き出す クリエイティブ・コーチング
ジェリー・リンチ Jerry Lynch 水谷 豊 笈田 欣治 野老 稔
正統な「コーチング本」
書店を訪れ、本の購入のためでなく端から端までゆっくり見渡すことが私の習慣になっている。さまざまな「○○力」を持った有識者の方々により、迷える人々を目的地に導かんと書かれた「コーチング本」がよく目につく。「こうすればああなれる」とか、「こんな人はこうしなさい」とか、ありがたい話である。ハンガリー北西部の小さな町Kocsで15世紀につくられていた馬車は、金属バネのサスペンションを持っていたらしい。おそらく当時では乗り心地が抜きん出てよかったのだろう。目的地まで人や荷物を安全快適に送り届けるその馬車は、やがて町の名前で呼ばれるようになった。ご存じの方も多いだろうが、これが現在の「コーチング」の語源だと言われている。
私は若い頃からひねくれ者で、人に目的地を決められたり導かれたりすることが嫌いだった。そのため「こうすれば、ああなる」といったたぐいの本を敬遠することが常だった。いや、謙虚に人の話も聞かなければいけないこともわかっているし、食わず嫌いはよくないので話題書には目を通してみる。果たして、反感ばかりで受け付けないことが多い。損をしているのか、得をしているのか。
さて本書はそのようなビジネス系や自己啓発系の「コーチング本」ではない。スポーツコーチングの正統という内容である。原書は2001年出版であるが、スポーツにおける「教えること、導くこと、動機づけること、そして勝つこと」についての黄金律に埃は積もっていない。偏らず、肝心なことを見失なうことなく、あるべきことがあるべきように書かれた、まさにコーチのための「コーチング本」として好適である。アスレティックトレーナーにとってもいい参考書になるだろう。
血肉としてこそ
ただ、どれだけ素晴らしい「コーチング本」でも、読むだけでは読者に何が起こる訳でもない。当たり前のことだ。読んだことをそのまま鵜呑みにしたり、受け売りしたり、あるいはそのまま実行したりするような影響の受け方では、薄皮一枚飾り立てることと同じである。また、本書に書かれた全てのことを完璧にできる人間など存在しないだろうし、いたらいたで気味が悪い。結局はさまざまな形で得た知識や経験を選別してかみ砕き、己の本来持つ主義や性格と混ぜ合わせて消化し、血肉としてこそ本物になれる。大仰に言ってしまえば、コーチやトレーナーにかかわらず、自分をつくり上げなければ物にはならないのだ。とまあ常々そんなことを思ってはいるのだが...。
真の勝者とは
閑話休題。先の「勝つこと」とは、もちろん試合に勝つというだけの狭義のものではない。本書の序文に往年のフットボール界の名将の言葉が引用されている。「自分のコーチングが成功したかどうかは20年たってみないとわからない。選手たちがやがて年齢を重ね、人間的に豊かに成長を遂げたことが明らかになったときにこそ、初めてこのコーチは競技場の内でも外でも、『真の勝者』としての評価を得るのだから」。これはまさにおっしゃる通り。多くの心あるコーチやトレーナーも賛同するだろう。
もちろん限られた期間に一定の結果を出す責任を両肩に背負うプロコーチも多い。彼等はそんな綺麗事は隅に追いやり、なりふり構っていられないと言う人もいるだろう。しかし、結果を出してくる指導者は、みな強烈な人間的魅力があり、選手の人間的魅力も引き出し高める存在なのだと思う。
近所に、某競技で未曾有の全国大会四連覇を果たした高校がある。最近は全国大会出場を逃している。それとわかるカバンを持った部員と帰宅中の電車で遭遇することがある。乗降するほかの乗客にお構いなしに、と言うよりもあえてドアの前に居座る部員たちがごく一部ではあるが存在する。黙っていられない性分なので注意する。それがその競技を愛するものとしてどれだけ残念なことか。彼等の指導者もそれを知れば同様に感じるだろう。スポーツコーチングとはいえ、その根本は一筋縄ではいかない人間教育であることを忘れてはなるまい。そのためにはまず自分自身から、である。
(山根 太治)
出版元:大修館書店
(掲載日:2008-09-10)
タグ:コーチング
カテゴリ 指導
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身体を中心から変える コアパフォーマンス・トレーニング
マーク・バーステーゲン ピート・ウィリアムズ Mark Verstegen Pete Williams 咲花 正弥 栢野 由紀子 澤田 勝
アスリーツパフォーマンス(米国アリゾナ州)は、トップアスリートを対象としてトレーニングを提供する施設である。ここを運営するマーク・バーステーゲンの身体への考え方がぎっしりと詰まっている本である。
第1章の最後に、「コア誓約書」というものがあり、サインをするようになっている。これは、最大限の努力や正直さといった5項目を約束してほしいとのことで、自分の意志でパフォーマンスを求めていくためにある。さらに、第2章では3カ月後から2年後までの段階的な5つのゴール設定が求められる。こうして、「コアパフォーマンス」を求める過程が始まる。
自重を使ったエクササイズ、バランスボールエクササイズ、弾性を活用するプライオメトリック、さらにストレングストレーニング、ストレッチングなどについて写真を豊富に用いた紹介が行われる。栄養面に関する記述も詳しい。細かいトピックについてはコラムもしくはQ&A方式で書かれている。
本書にはCD-ROMが付属し、エクササイズの動きを映像で確認することができる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2008-12-10)
タグ:体幹 コア
カテゴリ トレーニング
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野球選手なら知っておきたい「からだ」のこと 投球・送球編
土橋 恵秀 小山田 良治 小田 伸午
投球・送球において大切なポイントは「下半身からエネルギーを伝達させる全身運動」であるという。それを実現するために、どのような動作をしながら動きを理解すればよいか。まず解剖学的、あるいは運動学的な知識がわかりやすくまとめられている。
キャッチボールの意義について解説し、腕の「しなり」について述べ、さらに肩甲骨を動かすエクササイズについて説明していく。さらに体幹、下半身へと続き、たとえば軸足の「のせ」「はこび」そして「肋間のつぶし」といった感覚について、ドリルを用いて紹介している。ドリルは投球動作の局面ごとにポイントを理解するためのものであり、指標であるという。自分の感覚に合ったフォームをつくっていくのが読者の役割となる。動きの質の向上、これが著者の願いである。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2009-11-10)
タグ:投球 野球
カテゴリ 身体
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戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼
柏井 正樹
錦織圭選手が5歳から12歳まで過ごしたテニススクールのコーチ・柏井氏が、錦織選手の幼少時代のエピソードを交えつつ指導メソッドを紹介する。結論から言えば、勝つために何をするのか考えさせる、そうして考えることを楽しめれば選手は自分の意志で競技を続けるし努力もする、というシンプルなものだが、育てるとはいかに身につけさせるかではなく、いかに引き出せるかではないかとハッとさせられる。柏井氏自身の、進路選択時のエピソードなどはいわゆる「素晴らしい指導者」らしくないが、失敗も「今」をつくる要素の1つという自然体だからこそ、子どもたちは心を開くのかもしれない。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2017-04-10)
タグ:テニス 指導
カテゴリ 指導
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イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む
石原 心 内田 直
イップスはよく聞かれる症状であり、著者も高校球児時代イップスに悩まされた経験があるという。にもかかわらず、治療法はまだ確立されていない。皆がほぼ同じように感じる痛みと違い、個々の感覚によるものだからかもしれない。メンタルの問題と捉えられがちだが、本書はタイトル通り、そんな症状にスポーツ科学を使って「挑む」。例を出しながら、まず症状を定義し、それが起こる仕組みを理論的に解いていく。そして具体的な治療法を紹介する。著者が研究してきた中で有効性が見られ、メニュー化したものだそうだ。もちろん他の種目にも応用可能である。イップスに悩む人はぜひ試してみてほしい。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2017-05-10)
タグ:イップス
カテゴリ スポーツ医科学
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近代日本を創った身体
寒川 恒夫 中澤 篤史 出町 一郎 澤井 和彦 新 雅史 束原 文郎 竹田 直矢 七木田 文彦
心身を耕す
“耕すからだ”というセミナーを3年ほど前から開講している。“畑”を耕すのではない、耕すという身体的行為を純粋に愉しむことで太古の昔から人に備わっている原初的な身体能力に気づき心身を耕そう、という目的で行っているのである。ちなみに、私の勤める大学にはソツロン(卒業論文)がなく、代わりに、6年の卒業年次のソツシ(卒業試験)に合格した者が、ソウハン(総合判定試験)という国家試験以上ともいわれる難易度の試験に合格したのち、卒業が認定される。
そういう中で、セミナーは卒業認定に必要のない単位取得を目指す、いわば“余計な労力を費やす科目”ということになるのだが、趣旨をしっかり理解し、嬉々として受講してくれる学生も少なからず存在するのである。
セミナーでは私は教えることは何もなく、学内の空地に“教材”として定めた地面を学生とともにただただ耕す。
古い建造物のあったこの空地は、粘土質なうえにおびただしい瓦礫が埋められており、三本歯のクワなどすぐに曲がってしまった。考えが甘かったことを反省しつつ、ツルハシを用いて粘土を瓦礫もろとも掘り起こす作業を続け、約2アールの広さを耕すのに1年を要した。また、ものは試しと埋めた(植えたのではない)ジャガイモは、こんなヤセた土地にもかかわらず、立派な地下茎を生らせて植物のたくましさを教えてくれ、ジャガイモに尊敬の念を抱いたりした(ついでながらジャガイモを埋めたのは、作物がないと他の学生にいぶかしがられるので“畑”をやっているように見せるのが狙いである)。
2年目には、最初は粘土質で生き物感のなかった土地に明らかに生物の多様性が生まれ、土が柔らかく感じられるようになった。夏には耕す端から草が伸びて来、雑草の足の速さに驚愕しながら“人間て非力な存在だよなあ”などと言って哲学をした。
3年目の今年は、根粒菌による土壌改良の様子を観察するため枝豆の種を撒いた(蒔いたのではない)ところ葉は生い茂り実がたわわに生ったので、収穫を目的にするものではないが実った枝豆はありがたく頂戴した。
身体に対する意図
さて今回は『近代日本を創った身体』。編著者の寒川恒夫を含む、8名の手になるものだ。
「外から新しい文化がもたらされるのがきっかけで」「日本人のそれまでの在り方を一変」させられることがある。「からだ」すなわち「心身を孕んだ身体」は、命の母体として個人の枠を超えて、時代々々の文化も載せているのである。
その「からだ」が「明治という時代」に「欧米の近代文化」導入のため、「まるごと意図的に、それも国策として」「ごく短期間に国民を広く深く変えることが目論まれた」。「身体の動かし方から、身体についての考え方まで」「近代社会には、近代社会にふさわしい『からだ』がある」からである。
そしてそれを「どのように創っていった」のかを、「国際比較の中で発見された日本人の『劣った身体』や近代社会が否定する『はだか』から、臣民に求められた身体、国家をリードする官僚の卵である帝国大学生に求められた身体、近代企業が期待する身体、さらには、人を国の人的資源とみて、休むことさえ管理する『リ・クリエイトされる身体』まで及んで」考察されている。
スポーツの動作と生活に密着した動作
近代スポーツは、競技条件の公平性を求めてルールの合理化や施設・用具の整備がなされてきた。競技が細分化し専門化するほどに必要とされる体力・技術は特化したものとなり、練習やトレーニング法さらには用具もそれに伴って、たくさんの人為的意図を盛り込んで変化(すなわち科学的に発展)させられてきた。
それはまた、特化するほどに生活の場にある動作からは逸脱していくが、現代に生きる私たちはこのような“人工的”に整えられた身体活動を特段の違和感を覚えることなく受け入れている。
一方、耕す・掘る・薪を割る・ノコギリを挽くなどの、古くから生活に密着した動作は自ら体得するものであり、受け継がれる中で“自然”に工夫が加えられてきた。しかしこのような身体活動は、今では接する機会が少なく、実施するのにむしろ敷居が高く感じられる動作となってしまった。
しかしながら、このような生活とともにあった“自然”な動作と、競技のような“人工的”動作との間には、隔たりがあるようでいて実は共通する点が多いように思われる。“耕すからだ”では、このあたりのことに考察を広げていきたいと考えているところである。
(板井 美浩)
出版元:大修館書店
(掲載日:2017-10-10)
タグ:近代 身体 日本
カテゴリ 身体
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基礎から学ぶスポーツリテラシー(改訂版)
高橋 健夫 大築 立志 本村 清人 寒川 恒夫 友添 秀則 菊 幸一 岡出 美則
2012年に発行されたものの改訂版。スポーツに関する情報を科学的根拠に基づいて記述した教科書的な一冊だ。スポーツの歴史や文化、振興政策、競技力向上のためのトレーニング計画や代表的な種目のトレーニングメニューを各分野の第一人者が執筆している。さらに、スポーツ障害と救急処置、栄養、スポーツキャリア、スタッフ体制や情報戦略についても触れ、スポーツのさまざまな側面が網羅されている。巻末には最新情報の調べ方も載っており、適切な情報収集と活用の訓練にもなりそうだ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:2017-10-10)
タグ:スポーツ医科学 リテラシー
カテゴリ スポーツ医科学
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イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む
石原 心 内田 直
イップス、それは自動化された運動に起こる。器質的な問題はないが、機能に障害がある状態。ハードウェアではなく、ソフトウェアの不具合によって、今まで当たり前にできていた動きができなくなる。
運動の習得は、認知、習熟、自動化という段階をたどる。動作を自動化することで、状況判断にリソースを割くことができる。たとえば、一挙手一投足を考えながら行っていては、ほかに何も考えられない。スポーツ以前に、日常生活でも私たちは運動の自動化を行っている。スポーツにおいては、緊張・不安などの刺激により、自動化された運動に過剰な運動調節が介入することで、円滑な運動が阻害されるというのが、イップスの病態のよう。
ボディワークによっては、むしろ動きを分解し、噛みしめるように感覚を味わう、そんな向きのものが多いが、イップスには有効なんじゃないだろうか。
ともあれ、イップスという事象が広く知られ、対策が講じられて、スポーツを嫌いになったり、辞めてしまったりするひとが減ればいいな、と思った。
(塩﨑 由規)
出版元:大修館書店
(掲載日:2022-06-25)
タグ:イップス 投球
カテゴリ スポーツ医科学
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オリンピックは平和の祭典
舛本 直文
人類の歴史は裏から見たら戦争の歴史なのかもしれません。何百年たっても何千年たっても戦争はなくなりません。ただ人類もそれを良しとしていたわけではなく戦争を拒む人はそれぞれの時代にいたわけです。オリンピックが「平和の祭典」として位置づけられたのも戦争を拒む人たちの強い意志が感じられます。
古代オリンピックの時代から「エケケイリア=聖なる休戦」として象徴的な行事とされ戦争行為が禁止されたそうです。「エケケイリア」とは「手を置く」というギリシア語だそうで、開催期間中は戦争行為のみならず死刑判決までもが凍結されました。
もちろん平和の祭典という理念も、時代時代の政治に翻弄され続けたというのが現実です。1980年のモスクワオリンピックは東西冷戦時代のまっさなかで日本も含めた多くの国が政治的な理由でボイコットしました。日本国内でも盛り上がってきたタイミングでのボイコットは、選手のみならず楽しみにしていた国民も大きなショックを受けました。現実にそういう問題に直面した経験があるからこそ、いくら踏みにじられても諦めることなくオリンピックが平和の祭典であることを忘れてはいけないのだと思います。
本書の冒頭に2018年の平昌大会にて、スピードスケート女子500メートルの決勝後に日本の小平奈緒選手と韓国の李相花選手がお互いをリスペクトするシーンが紹介されています。競い合うライバル同士が互いをリスペクトするということが「平和の象徴」であり「戦争の抑止」になるはずです。フィクションではなく現実にそういうシーンが見ることができるのがオリンピックの底力でありスポーツの意義だと思います。オリンピックが始まるとメダルの数や勝敗が優先的に報道されるのも自然なことかもしれません。しかし観ている私たちを本当の感動に導いてくれるのは、選手たちの国家を超えた勝敗を超えた姿なのだと思います。
(辻田 浩志)
出版元:大修館書店
(掲載日:2024-11-05)
タグ:オリンピック 平和 スポーツ
カテゴリ その他
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