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ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。

失敗学のすすめ
畑村 洋太郎

「失敗は成功の母」という言葉が示す通り、失敗から多くを学ぶことは、誰もが共感できる考えである。目標を達成する人は一握りなのに、目標を前に断念する人は比較にならないほど多い。その差を埋めるためにどうしたらよいのか、この本には書いてある。
 失敗をすることは誰にでもあり、程度の違いはあっても挫折を味わったことがない人はいないだろう。そんなときに、「思いもよらなかった」「予測できなかった」といった決まり文句を口にしてはいないだろうか。本当に「思いもよらなかった」「予測できなかった」のだろうか。もう一度自分に向き合ったとき、本心では「見たくないから見なかった」「失敗を隠したかった」のではないだろうか。失敗の原因を未知への遭遇にして責任逃れを繰り返している人は、次も失敗を繰り返し、目標に到達することはないだろう。
 目標を達成しようと、日々努力している人たちは、ポジディブシンキングやプラス思考だけでは、問題を克服することができないことに気づいている。失敗をどのように活かすのか、同じ失敗を繰り返さないためにはどうしたらよいのか、こんなことに悩んでいる人にはよい道しるべとなる本である。目標を達成するためには、失敗のマイナス面のみに目を向けるのではなく、プラス面に目を向け、活かすことが唯一の方法である。
(服部 哲也)

出版元:講談社

(掲載日:2012-01-18)

タグ:リスク 心理   
カテゴリ 人生
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スポーツ計時 1000分の1秒物語
森 彰英

 著者はフリージャーナリスト。スポーツ計時一つに、ここまでの物語があるとは正直驚いた。本書は「陸上競技と計時機器の歴史」「ストップウォッチの開発」「アルペンスキーの時間との戦い」「現代の計時システムをサポートする裏方」などについて書かれているが、アスリートの記録とともに計時機器が進化してきたというよりも、計時システムの進化がアスリートの記録に影響し、進化させてきたという視点でそれらを紹介している。
 また、計時システム以外のシューズや水着、スキー板といったアイテムがアスリートの記録を支えている事実や、競泳を変えた最先端のスポーツ科学についても書かれている。
 もちろん記録を樹立するアスリート自身の努力が最も賞賛されるべきであるが、それらに裏方が存在しサポートしていることも忘れてはいけないと思う。とくにコーチやトレーナーは計時システムをしっかりと理解することで、よりアスリートのパフォーマンス(記録)に反映される指導ができるだろうし、医療関係者はアイテムがどのように記録に影響を与えるかを知ることで、アスリートを記録的にも医療的にもサポートすることができるはずである。
(宮崎 喬平)

出版元:講談社

(掲載日:2012-01-18)

タグ:記録 用具 サポート ノンフィクション   
カテゴリ 人生
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わが愛しきパ・リーグ
大倉 徹也

 パシフィックリーグをこよなく愛する著者の文章からは、野球をエンターテイメントとして捉え、1つのスポーツショーとして見ようという思いが伝わってくる。かつて新庄剛志選手が日本ハムファイターズにいた頃、ファンサービスで札幌ドームにフェラーリであらわれたことがあった。神聖なグラウンドに車であらわれるとは何事だと訝しむ関係者がいたと聞くが、そのエンターテイメント性の高さで、プロ野球を好きになった札幌のファンは決して少なくないと思う。現在各球団がそれぞれ地域密着を掲げ、さまざまな経営努力をしているが、ファンの気持ちを一番に考えながら、既成の概念を打ち破っていく力強さは、パ・リーグの球団のほうに一日の長があるのではないだろうか。
 また、本作に出てくる「純パの会」の会員の方の声を聞くと、こうやって野球を楽しんでいる方もいるんだなと新鮮な気持ちになった。それは、審判のパフォーマンスに焦点を当てたり、個性的な存在感を出す選手を探すことであったり、応援団の応援ぶりを楽しむことであったりする。その魅力の多様性を鑑みると、プロ野球界の歴史の重さを感じるとともに、これからの可能性をも強く期待させるものであった。
(水田 陽)

出版元:講談社

(掲載日:2012-02-07)

タグ:野球 ノンフィクション  
カテゴリ 人生
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睡眠障害
渡辺 俊男

 トレーニング指導において、身体づくりを効果的なものにするためにスポーツライフマネジメントの重要性が言われる。これは、「トレーニング‐栄養‐休養」の3要素について、質の高い取り組みを構築するということである。トレーニングや栄養に関しては、かなり詳細な検討がなされるが、休養に関しては、前者2つと比較すると検討される割合が少ないように感じる。本書のテーマは睡眠障害であるが、適切な睡眠を実現するために大変参考になるだろう。とくに、本書がシンプルな論理的構成になっているため大変わかりやすい。
 まず、現代社会と睡眠との関係から現代人が睡眠障害に陥りやすい環境であることがわかる。現代人の生活スタイルの変化によって、寝起きの習慣が多様化してきたことが要因の1つのようだ。その具体例として、夜型の活動である交代勤務や残業などが挙げられている。
 次に、睡眠の基本について説明がされている。睡眠とは、生理機能に支えられた適応行動であり、生体防御技術である。そして、睡眠の役割とは、大脳をつくり、育て、守り、修復し、よりよく活動させることである。また、よい睡眠の基準や、個人差、時刻差、年齢差、男女差、文化差についての説明がされている。
 3番目に、睡眠障害の説明がされている。前章で睡眠の基本が記述されているため、基準と障害の間に存在するギャップを確認できる。睡眠障害は大きく(1)睡眠異常、(2)睡眠時随伴症、(3)内科・精神科的障害に伴う睡眠障害、(4)提案検討中の睡眠障害の4つに大別される。
 4番目に睡眠障害の原因である。睡眠障害の原因として、(1)体内に存在する問題、(2)体外に存在する問題、(3)生活リズムの問題、(4)睡眠自体に存在する問題、(5)他の病気と関連する問題、(6)その他の6つに大別される。
 5番目にこれまでの内容を振り返ったクイズ形式の睡眠知能指数が紹介されている。睡眠に関する正しい知識と方法論について全100問を○、×で答えるものだ。これは、単なる読後の確認だけでなく、学生アスリートや学生トレーナーへの教育にも役立つだろう。
 スポーツライフや日々の生活において睡眠は、その重要性は認識されつつも実際には軽視されがちな部分であるように感じる。強化練習期間では、練習の側面に注意が向かうものの、その回復を促す睡眠に対してのアプローチが少ないのではないだろうか。また、ビジネスマンも業務が多忙になると睡眠時間が削られがちである。睡眠は、単なる身体づくりの促進だけでなく、日々の作業効率や充実した生活にも影響することから、スポーツにおいては技術練習の効果的習得にも影響することが予想できる。本書は、スポーツライフにおける睡眠の領域について理解を深めるために大変有効なものであり、手元に置いておきたい一冊である。
(南川 哲人)

出版元:講談社

(掲載日:2012-02-07)

タグ:トレーニング 睡眠 休養  
カテゴリ トレーニング
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トレーニングをする前に読む本 最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり
石井 直方

 本書は1991年から連載してきた身体関連のコラムを書籍にまとめたものを、文庫化したものだ。それでも最新と冠しているのは、研究の最前線にいる著者が適宜加筆しているためだ。扱うトピックはダイエットなど一般スポーツ愛好者の興味の大きい分野が主だが、記述は分子レベルまでおよぶ。これまで専門的にスポーツ科学や運動生理学を学ぶ機会のなかった人にとって、基礎となりうる一冊だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2012-08-03)

タグ:トレーニング 生理学  
カテゴリ スポーツ医科学
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還暦ルーキー
平山 讓

 副題に「60歳でプロゴルファー」とある。主人公、古市忠夫は兵庫の県立高校では野球部で活躍。しかし、肩を傷めて辞めた。もう一度と立命館大学ではボート部。
京大に勝ち、早稲田に勝った。のち30歳でゴルフを始めた。お金持ちではなく、むしろ貧乏。小さなカメラ店のおやじであった。そしてあの阪神淡路大地震にあう。
 消防団員でもあった古市氏は必死で、かつ冷静に救命活動を行った。このくだりは正直読むのがつらい。「ここは地獄や」という言葉だけ紹介しておくが、やはり永遠に記憶に留めるべき事実と改めて思う。
 家もなく、何もなくなったが、車だけは残った。そのトランクになんとゴルフクラブがあった。古市は、これで家族を養うことを決意する。60歳のプロ挑戦。その最終日、もうだめだと思う大ピンチに出会う。1回のミスは失格を意味する。
 結局そこから奇跡のリカバリー、そのあと「これは入る」という奇妙な感覚が続く。
そして合格。
 こう書くと簡単だが、読めば必ず勇気づけられる。気持ちがシャンとする。保証します。

四六判 216頁 2001年4月15日刊 1500円+税

(月刊スポーツメディスン編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2002-10-03)

タグ:ゴルフ 
カテゴリ 人生
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手軽な運動で腰・ひざ・肩の痛みをとる
黒田 善雄 三木 英之 蒲田 和芳 小倉 孝一

 横浜市スポーツ医科学センターの医師、理学療法士、運動指導員による本。
 冒頭で「本書の特徴」として「運動療法で健康的な生活を」の一文を掲げ、「腰やひざの痛みや肩こりで悩んでいらっしゃる方々に、この本に書かれている運動をぜひ行っていただき、より健康な生活を送っていただぎたいものです」と記す。
 つまり、この本は腰・膝・肩に関する「運動療法」が主体であり、そのためイラストが豊富に使用されている。運動を示す本ではあるが、その医学的根拠や注意点など、運動療法を指導するうえでも参考になる。
 なぜ、その運動がよいのか、なぜ注意が必要な運動動作があるのかについても説いていく書で、スポーツ整形外科的知識も得ることができる。
 生活習慣病予防のための運動も、こうした整形外科的疾患の予防のための運動も、運動であることに変わりはなく、今後は両者の知識が総合的に含まれた運動、あるいは運動療法へと発展していくのではないだろうか。

A5判 200頁 2001年12月1日刊 1300円+税
(月刊スポーツメディスン編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2002-01-15)

タグ:腰痛 膝 肩 
カテゴリ スポーツ医科学
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コンビニ・外食大活用 食べて勝つスポーツ栄養の基礎知識
齊藤 愼一

 栄養サポートが得られにくい、大学スポーツ選手や社会人になりたてのスポーツ選手を念頭に書かれたスポーツ栄養の本。
 コンビニや外食での食事選び、自炊開始のコツ、スポーツ栄養学の活用など、豊富なイラストで紹介。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2002-07-10)

タグ:スポーツ栄養学 食事 
カテゴリ
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スポーツ少年のメンタルサポート 精神科医のカウンセリングノートから
永島 正紀

 精神科医である著者が、スポーツによって生じる子どもたちの「ココロの悲鳴」について精神科医の立場から警鐘を鳴らす。これまでにはない新しい視点で書かれている。スポーツに携わる指導者およびスポーツ少年を持つ親にお勧めの1冊。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2002-07-10)

タグ:メンタル 子ども 精神科 
カテゴリ スポーツ医科学
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免疫革命
安保 徹

 著者は新潟大学医学部教授で1980年に「ヒトNK細胞抗原CD57に対するモノクローナル抗体」を作製、89年、それまで胸腺でのみつくられるとされていたT細胞が、肝臓や腸管上皮でもつくられていることを突き止め、胸腺外分化T細胞を発見。96年、白血球の自律神経支配のメカニズムを解明、00年には100年来の通説である胃潰瘍=胃酸説を覆す顆粒体説を発表という世界的免疫学者である。これは「著者紹介」に記されているところだが、この全体をわかりやすく説明したのが本書でもある。
「免疫療法が注目を浴びる一方で、現代医学は病気の治療に芳しい効果を上げているように思えないのが現状です。遺伝子だ、ゲノムだ、タンパク分子解析だ、と人間の身体のとてつもなく微細なしくみを解明する分野で、現代医学はたしかにめざましい成果をあげてきました。しかし、それらが直接的に、治癒をもたらす医療に反映されたという例が、ほとんど見あたらないのです。現代医学は病気を治せない、と非難されてもしかたがない状況にあると思います」と序文で述べる著者は、病気の本当の原因はストレスだとし、自律神経は、交感神経と副交感神経のバランスで成り立っている。しかし、精神的・肉体的ストレスがかかると、そのバランスが交感神経優位に大きくぶれ、それが白血球のバランスをくずして、体内の免疫力を低下させると説明する。終章「健康も病気も、すべては生き方にかかっている」を読むと、病気にならず、健康に生きるにはどうすればよいかを教えられる。
(清家 輝文)

出版元:講談社インターナショナル

(掲載日:2004-07-15)

タグ:免疫  
カテゴリ 身体
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エネルギー代謝を活かしたスポーツトレーニング
八田 秀雄

運動は全て有酸素運動である
 われわれ人間はエネルギーを補給することによって身体活動を営んでいる。そして、このエネルギー補給の中でとりわけ重要なのが酸素補給である。筆者は、この酸素がエネルギーを生成する過程について「糖が分解されて、ピルビン酸になり、それがミトコンドリアのTCA回路に入って、ATPが作られました。(中略)そして、TCA回路──電子伝達系と反応が続き、ATPが作られます。このとき酸素が必要になります」と解説する。そして、酸素はミトコンドリアでATPを作る際に、反応の仲立ちをする働きがあると言う。
 ここまでは従前の知識と変わりはない。しかし、ここからが違う。筆者は、身体活動している限り強度に関係なく酸素の仲立ちは必ず行われていると言うのである。ん?
 そこで学生時代を思い出して、運動とエネルギー供給の関係について簡単に復習してみよう。運動時のエネルギー供給には3つの方法があって、1つはATP-PC系。この供給機構でまかなえる運動時間は7秒であった。次に反応は解糖系に移り、33秒がこの機構でまかなえると言われた。そして、その後は酸化系のエネルギー機構、つまり有酸素運動となるわけだ。従って、前者の7秒+33秒は無酸素運動だとわれわれは学生時代に教わったわけだ。
 ところが筆者は、たとえ最初の7秒間の全力運動でもエネルギー供給機構はATP-PC系だけではなく、ほかのシステムも働いていると言う。
「ヒトが生きているということは、糖や脂肪から酸素を消費してATPを作っているということです。それは運動中でも同じです。全ての運動は有酸素運動なのです。ダッシュも無酸素運動ではありません」 うーん、これは大変新しい解釈と言ってよいでしょう。

乳酸は疲労物質ではない
 疲労の研究は大変古くから行われているが、スポーツ競技場面においてはパーフォーマンスを低下させる原因となるので、現在でもスポーツ科学の中心的テーマの1つである。しかし、この疲労の原因と考えられている物質については昔から乳酸が常識であった。
 しかし、筆者はここでも「乳酸は疲労に無関係ではないが、高い強度の運動における疲労、特に疲労困憊を、乳酸による体内の弱酸性化だけで説明するのは不適当である」と書いている。
 そして、本当の原因は「高い強度の運動でクレアチンリン酸がなくなりリン酸が蓄積することが、疲労に大きく関係している可能性がある」と述べ、さらに「カリウム、カルシウムなど、疲労は多くの要因が関係していて、1つの要因だけで決まるわけではない」と結論づけている。
 筆者は、このようにスポーツをする者にとって今まで常識とされていた知識に対して「生理学的視点を持ちながら生化学的に考える」ことによって新たな結論とそれに基づいた新しいトレーニング方法を提案することに意欲的だ。さらに「一般の方はテレビなどでスポーツ観戦をするときに、より面白くなるということで読んでいただければいいかと思います。」という肩の力が抜けたコメントにも好感が持てる。
 大学院生やこれからスポーツ科学に興味を持つ人には、格好の運動生理生化学の入門書としてお勧めしたい一冊である。
(久米 秀作)

出版元:講談社

(掲載日:2004-06-10)

タグ:生理学 乳酸 代謝 
カテゴリ スポーツ医科学
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カラダ革命ランニング
金 哲彦

 副題は「マッスル補強運動と正しい走り方」。NPO法人ニッポンランナーズの代表で、アテネオリンピック陸上競技の解説も務めた金氏が、延べ1万人のランナーを見てきた経験をもとに書き下ろした一冊。
 金氏が最も重要視しているのは、体幹の筋肉の活用である。体幹の筋肉をうまく活かせていないランナーは疲労が溜まりやすく、故障を抱えることも多いようで、第2章「体幹の筋肉を使って、美しい体とフォームをつかむ」では、金氏が考案した正しい走り方を身につけるためのマッスル補助運動がイラストつきで紹介されている。
 また、第3章「実践! アスリート理論にもとづいたレベル別トレーニングメニュー」では、初心者から上級者までを7つのグループに分け、それぞれが陥りやすい問題とその解決法を実際のランナーの体験を交えて解説、シューズの選び方やランナーに必要な栄養素などにも触れられている。
 ランニングは気軽にできる反面、個人的に行うことが多く、フォームのチェックや自分のレベルに合った練習法を見つけることが難しい。本書には長く楽しく続けるための具体的な方法が記されており、特に、これから始めようという人にお勧めしたい。
(月刊スポーツメディスン編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-08)

タグ:ランニング 体幹 
カテゴリ 運動実践
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隠居学
加藤 秀俊

 副題に『おもしろくてたまらない ヒマつぶし』とある。帯には「読んだら何ともいえないいい気分。あらゆる世界をめぐる好奇心 自由な隠居になる願望をもつ著者の知的冒険!」と記されている。隠居というのは日本のよい制度で、よく知られた「ご隠居さん」は落語の世界に頻繁に登場する。落語のご隠居より、もっと知的で好奇心に満ちていて、話を聞いているだけでトクをした気になるが、よく考えるとそんなにトクでもない。でも、読んでよかったと思う本である。
 著者の専門は社会学で、京都大学、学習院大学、放送大学などで教鞭をとり、現在は中部大学学術顧問である。冒頭「つぎはぎの世界」の章(というほどかしこまってはいないが)では、知り合いから韃靼そば茶をもらったことから話は始まる。そこでまず白川静先生の『字通』で「韃靼」を調べる。タタール、突厥が出てきて、タルタルソースが浮かび、そばの話になり、今はアフリカ産のそばが信州で手打ちにされて食されていることにつながったりする。ま、いわばこういう話ばかりの本である。高齢になっていくにつれ、運動量が減るのは仕方がないが、頭の運動量は増えていく可能性がある。そういう日々は楽しいだろうし、そうありたいと思わせられる。何よりも好奇心を失うのが生命力低下の第一歩と知るしだいである。

2005年8月29日刊
(清家 輝文)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-10)

タグ:隠居 好奇心 
カテゴリ その他
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究極の勝利
清宮 克幸

「荒ぶる」魂の復活
 早稲田ラクビー部、正式には「早稲田大学ラグビー蹴球部」と言う。本書は、ここの監督を平成13年度から昨年度まで5年連続で引き受け、その間対抗戦5連覇、大学選手権優勝3回、準優勝2回、さらに平成17年度の日本選手権では社会人トップリーグチームと互角に渡り合い、ベスト4まで駒を進めるという日本でもトップクラスのチームに早稲田を育て上げた男、清宮克幸の熱き指導哲学書である。
 清宮克幸の指導者としての船出は、しかし決して順風満帆とは行かなかった。「OB会は(監督に)清宮を推薦することでまとまったけど、今度は選手たちが納得しないんだよ」どうやら早稲田では監督は選手が最終的に決めるようで、このとき彼は選手から監督就任拒否の憂き目を見たのである。「自分を否定されたのは、私にとって始めての経験だった。(中略)だが、ショックを受けたわけではなかった。選手たちが考えていることがわかったからだ」。彼は、ここ10年間大学選手権の優勝はおろか対抗戦でさえ優勝できない母校の低迷の原因をこの時点ですでに看破していたのだ。
「私が監督に就任するまで、早稲田のラグビー部は、毎日長時間の練習をしていた。そして、選手たちは早稲田ラグビーのスタイルを必死になっても身につけようとしていた」。彼はこの“悪しき伝統”、つまり形ばかりを重視した中身のない練習をすべてやめることから指導を始める決意をする。「最初に早稲田の選手たちに接するあたり、いくつか考えなければならないことがあった。何しろ、彼らは私の監督就任を希望していなかったわけである」(中略)「そこで、(監督としての)所信表明は非常に大切だった。私は、初日のミーティングで選手の度肝を抜くようなプレゼンテーションをして、私に対する猜疑心を晴らしてやろうと考えた」。そして、彼は効果的なプレゼンテーションを演出するために「それまでの早稲田の戦術を徹底的に否定する手法」を実行する。さらに「早稲田の目的は、大学選手権優勝であることを明言し、一気にトップに登りつめようと提案したのだ。選手に拒否されたことが、私に火をつけた」。こうして早稲田ラグビー部の「荒ぶる」魂は、指導者清宮克幸の熱い呼び掛けによってその重い腰を少しずつ上げ始めるのである。

早稲田式エンパワーメント
 清宮は早稲田ラグビーの強みを「個の強さ(パワー)、スピード、精確さ、継続(ボールを持ち続ける)、独自性、こだわり、激しさ」に求めた。そのなかでも、とくに“激しさ”と“こだわり”については主将を中心とした選手側の双肩にかかっていると言う。早稲田ではその年のチームを主将の名をとって「○○組」という伝統があるようだ。つまり、監督は選手に対して独立した人格を認めているわけだが、言い換えれば早稲田は伝統的に監督が選手に対してエンパワーメント(権限委譲)する機能を持っているということである。このエンパワーメントとは組織の潜在能力を引き出し、活性化させるためのアメリカの企業経営の潮流を示す概念のひとつだ。たとえば最近の企業では、上司が部下にどのように権限委譲していくかが企業業績を伸ばすポイントと考えている。結局トップダウン式会社運営や少数の幹部しか会社の正しい情報を知りえない独裁体制は近代的企業経営に向かないのである。エンパワーメントを進めるには組織全員のビジョンの共有化、境界をなくすバウンダリーレス、能力を引き上げるワークアウトシステム等が不可欠だが、早稲田は伝統的にそのエンパワーメントシステムを持っているようだ。詳細は本書に譲るが、現在一流と言われる他のチームもおそらく早稲田と同じようなシステムを持っているのであろう。清宮は「コーチングの哲学」のなかで、選手にはビジョンを共有化させ、現状を分析させてゴールを設定させると、選手は自然と未来予測を始めて自分で動き出すと述べている。清宮克幸のコーチングは正しいと、私は思う。
(久米 秀作)

出版元:講談社

(掲載日:2006-06-10)

タグ:ラグビー 組織  
カテゴリ 指導
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好きになる睡眠医学
内田 直

 講談社サイエンティフィックが編集する「好きになるシリーズ」の最新刊。早稲田大学スポーツ科学学術院教授で日本睡眠学会睡眠医療認定医師でもある内田氏が、眠りについてさまざまな視点からわかりやすく解説している。
 副題は『眠りのしくみと睡眠障害』。第1部「睡眠のメカニズム」では夜間の睡眠の質や時間帯、昼間起きている際の行動が夜間の睡眠にどう影響しているかなど基礎的な知識を、第2部「睡眠の臨床」では、現在知られている睡眠障害の原因やメカニズム、治療法を取り上げている。
 本書に紹介されている「国民生活の時間・2000 NHK放送文化研究所・編」によると、1960年当時8時間13分だった日本人の平均睡眠時間は、2000年には7時間23分と50分も短くなっている。必ずしも長く眠ればよいという話ではないが、健康づくりに休養が欠かせないことを考えると、運動、食事と合わせて睡眠にも気を配る必要がある。本書は、眠りの質を高め、睡眠障害を予防・改善したい人におすすめである。(H)

2006年6月1日刊
(長谷川 智憲)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-11)

タグ:睡眠 
カテゴリ 医学
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持続力
山本 博

ひとりの父親として……
「父親が息子に残せるものは、いったいなんだろう」。2004年に開催されたアテネオリンピックで見事銀メダルに輝いたアーチェリーの山本博が、今一番心に宿している懸念はこのことだ。
「“的”は自分の心を映す鏡」だと、彼は言う。「標的に刺さった矢を見ると、その選手がどんなことを思いながら射ったかがわかる。(中略)私自身も的に刺さった矢を見ながら、自らの心と向き合ってきた。(中略)ときには『誇らしく』、ときには『怒り』、誰と殴り合うわけでもないのに、心が痛いほどつらくなった日も数えきれない」。
 山本の“矢”は、実は彼自身にも向けられて射られていたに違いない。「私のオリンピックにおけるアーチェリーの成績は、1984年のロサンゼルスオリンピックでの銅メダルを頂点に、以後、ソウルオリンピック8位、バルセロナオリンピック17位、アトランタオリンピック19位、そしてシドニーオリンピックは国内選考会で敗退するという、完全に“右肩下がり”の悲惨なものであった」。しかし、山本は“どん底の16年間”と呼ぶこの時期を越えて、再び4年後のアテネに照準を合わせて始動し始める。
「山本の時代はすでに終わっている」「何度挑戦してもダメなものはダメだ」という周囲の強烈なアゲインストを受けながら、山本はいったいこの時期何を考えていたのだろうか。「やる前から結果を考えてなにもしないなんて、そんな後ろ向きな人生でいいのであろうか」「成功や勝利が向こうから勝手に来てくれることなどないのだ。獲りに行った人だけが、勝ち取るチャンスを得られるのである」。教育者としての顔も持つ山本は、自分が日ごろ生徒に対して指導している内容からも学ぶものがあったという。「生徒たちは転び続ける中で、転び方を覚えていく。『受け身』が取れるようになるのだ。(中略)転んだら自分で起き上がる。当たり前のことを当たり前にするだけで、決して難しく考えてはいけない」。
 選手の前に教育者であり、教育者の前に父親である彼は、さらに父親である前にひとりの人間であるという、まことにシンプルな事実を愛する息子の前に正すことで、冒頭の“懸念”に答えようとしているように見える。

生涯一アーチャー
 山本は生涯一アーチャーでいたいと言う。「私は、生涯現役を貫き通すつもりでいる」という彼は、「本当の実力ではなく、二次的な力や過去の経緯、地位によって栄誉や役職を獲得している人たち」に強い嫌悪感を表明する。「アーチェリーという種目であるがゆえに、いくつになっても、選手としての力が公平明白に評価されるのだ。私は、その明白な自分自身の力量を日々、実感しながら生きていきたい」。
 山本がメディアで“中年の星”と呼ばれていることは多くの方がご存知であろう。若さの代名詞のような“スポーツ”分野にあって、40歳を超える男がいまだに世界のトップにいるという事実を日本流に解釈すると、実年齢的には“中年の星”ということになるのかもしれない。しかし今回本書を手にとってみて、私は実に新鮮な感動を覚えた。つまり彼、山本博の“中年”ではなく“少年”の部分に感動し、それを自分自身に置き換えたときに、自分の中にも“少年”の部分があることに気づかせてくれた彼の数々の言葉に、私は正直感動を覚えた。「強き敗者こそ真の勝者」、「なにもしない批判者より、失敗し続ける職人であれ」といった言葉などは、私が感動した言葉のほんの一部にしかすぎない。
「心に隙間ができたら終わりだ。つねに心に語りかける、『自分を見つめろ』と。(中略)私が戦っているのは、『だれか』でも『なにか』でもない。自分の心なのだ。その心に打ち克ったときに、自らの心に神が宿るのだ。五感に心揺さぶられずに自らを見つめ続けた心には、第六感なる、神から与えられた力が宿ることを知ることとなる」。長い引用をお許し願いたい。私が最も気に入っている部分なのである。
(久米 秀作)

出版元:講談社

(掲載日:2006-08-10)

タグ:アーチェリー メンタル  
カテゴリ 人生
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「退化」の進化学
犬塚 則久

 副題は「ヒトに残る進化の足跡」。ヒトは進化しているのか、それとも退化しているのか。この問題を本書ではヒトと動物の各器官で比較しその変遷にもふれていく。人類の起源は霊長類、哺乳類、脊椎動物の共通先祖、そして無脊椎動物から単細胞生物、ついには原核生物にまでさかのぼることができる。終章ではヒトのからだに見られる退化器官や痕跡器官を、4億年前から現代に至るまで順に並べているが、いろんな機能がこれまで消えて、生まれていることがわかる。ヒトのからだは生きるために進化していると言ってもよい。捉え方によってはそれを退化と呼ぶこともあるかもしれない。だが本書は哲学本ではなく、何が進化で退化なのかを比較解剖学や形質人類学、人間生物学など多くの資料に基づいており、まさにからだは生命の産物なのだと実感を持たせてくれる一冊になっている。

2006年12月20日刊
(三橋 智広)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-11)

タグ:進化 身体 
カテゴリ 身体
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加圧トレーニングの理論と実践
佐藤 義昭 石井 直方 中島 敏明 安部 孝

 本書は加圧トレーニングの発明者でも知られる佐藤義昭・株式会社サトウスポーツプラザ代表取締役社長や、石井直方・東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系教授、中島敏明・同大学院医学系研究科加圧トレーニング・客員准教授、安部孝・同大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻・客員教授が現場から得た成果と、その本質をまとめた一冊。
 内容の展開は加圧トレーニングをこれから学ぶ方、導入を検討するためにその概要を知りたいという方たちに、理論的背景とその効果についてわかりやすくまとめられている。また素人でも簡単にできる完全自動制御の空圧式トレーニング機の活用法なども紹介している。これは株式会社サトウスポーツプラザとJAMMS(有人宇宙システム株式会社)との共同研究で実現されたもので、宇宙飛行士が加圧トレーニングを行うにあたり、指導者が宇宙にまで帯同することはできないので、状況に応じた適正圧を自動制御できるトレーニング機になっているそうだ。
 現在加圧トレーニングは発展途上の段階で、基礎研究と応用研究は日々続けられ、医療各領域、健康づくりや介護予防、さらには宇宙開発分野までとその研究範囲も広い。今後もメカニズムがより深く解明されていくにつれ、その対象範囲も大きくなっていきそうだ。

2007年5月15日刊
(三橋 智広)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-12)

タグ:加圧トレーニング 
カテゴリ トレーニング
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究極のトレーニング
石井 直方

 著者は石井直方・東京大学大学院教授、理学博士。石井氏は運動生理学、トレーニング科学を専門としている。副題は「最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり」。
 本著は健康、運動、トレーニングなどについて、『健康体力ニュース』(健康体力研究所刊行)の冊子のコラムで、1993年から連載してきたものを再編集している。
 その中から66編を選択、テーマごとにまとめている。章に分けて紹介すると、1章・筋のさまざまな性質を知る、2章・筋肉と運動の仕組みを知る、3章・健康と運動を科学する、4章・正しいトレーニング・新しいトレーニング、5章・ダイエットとサプリメント、6章・素質・体質を科学する、など内容的には広い範囲を網羅している。多少難しい内容もあるが、実生活や運動・トレーニングの現場での応用を考慮して書かれている。
 自身もボディビルミスター日本優勝、世界選手権で3位の実績を残す。そんな著者が筋肉・筋力への関心を導くトレーニングバイブルである。

2007年8月28日刊
(三橋 智広)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-12)

タグ:筋の生理学 トレーニング 運動 サプリメント 
カテゴリ トレーニング
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宿澤広朗 運を支配した男
加藤 仁

宿澤広朗 運を支配した男加藤 仁超凡の才の人物像を描き出す
 死は何人にも訪れる。有産無産、有名無名にかかわらず。その意味では平等だ。しかし、どう死ぬかということにおいてはこれほど不平等なことはない。だからこそ、己の手の届かぬことを案じるより、生きているうちに己のなすことに心を傾けるほうが自然だと感じる。
 2006年6月17日、ある超凡の才を持った人物がこの世を去った。三井住友銀行取締役専務執行役員コーポレート・アドバイザリー(CA)本部長、宿澤広朗氏である。55歳という若さだった。元ラグビー日本代表選手であり、日本代表監督としてはスコットランドという世界の強豪国とのテストマッチに、後にも先にも初めて勝利し、ラグビーワールドカップでも唯一の勝ち星をあげた人物である(これは2007年フランスワールドカップで日本がオーストラリアに大敗、フィジーに惜敗した時点での話。願わくは、出版の時点で勝利数が増えていることを)。
 この高次元で文武両道を体現した人物の光とわずかに垣間見える陰を、膨大なインタビューと豊富な資料をもとに丁寧に読み解いたノンフィクションが本書である。

不運を不運にせず、幸運を幸運に
 旧住友銀行時代から三井住友銀行取締役専務執行役員になるまでのビジネス界でのエピソードだけで読み応えのある一編の立志伝ができあがる。それに加えてラグビー界での輝かしい経歴が、ほかに例を見ない深い彩りをその人生に加えている。本書を通じてその経歴をたどると、ラグビーを通じて培ったものが銀行員としての成功につながったのではなく、人間として培った人生哲学とプロ意識、そしてそれを実践できるバイタリティが礎になり、ラグビー界でもビジネス界でも強烈なインパクトを与えたと言ったほうが正しいだろう。
 宿澤氏の座右の銘に「努力は運を支配する」という言葉がある。たとえばある1つの好ましくない事象を目の前にして、自分自身が不運だと思ってしまったときにそれは不運になる。解決すべき問題だと考えて対策を立てて乗り切れば、単なる一要因にすぎなくなる。もしかしたらそれが転じて幸運につながることすら考えられる。また、好ましい事象を目の前にして、十分に活かすことができればそれは幸運となるが、できなければ幸運であったことにすら気づかない。不運を不運にせず、幸運を幸運として活かす。それには「たゆみない努力と、それによって生まれた実力」が必要だ。己の肉体と精神に多大なプレッシャーをかけていたに違いないが、それが「運を支配する」ことなのかもしれない。
 三井住友銀行での最後のプロジェクト、CA本部の業務である課題解決型ビジネスこそ宿澤氏の面目躍如となるものであったろう。しかしこの新部門発足からわずか2カ月半後、無情なるノーサイドの笛は吹かれることになる。

いつも全力疾走
 本書でも触れられているが、このような非凡な人に孤独はつきものなのかもしれない。敵も多かっただろう。思いを寄せるラグビー界では最後には活躍の場がなかった。ジャッジするばかりで自分が責任を取らない者を長に戴いた組織の中では、現場の人間が大変な思いをするし、大胆な改革など図れない。宿澤氏のような存在がその中枢に居続けてくれれば、さまざまな軋轢を生みつつも、低迷するラグビー界を豪快に洗濯してくれたのではないかと、ひとりのラグビーファンとして詮無く考えてもみる。
 司馬遼太郎氏の名著『竜馬がゆく』の中で、主人公坂本竜馬は人生の終盤で、己を取り巻くさまざまな相関組織の誰から命を狙われてもおかしくない状況だった。その竜馬に司馬氏はこう言わしめている。「生死は天命にある。それだけのことだ」。己がどんな状況であろうとも正面から向かい合い、いつも全力疾走で人生を最高峰まで駆け上ってきた宿澤氏は、そのままの勢いで天まで昇ってしまったと、早すぎる死を悼みつつ、そう思う。
(山根 太治)

出版元:講談社

(掲載日:2007-11-10)

タグ:ラグビー ノンフィクション  
カテゴリ 人生
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武道vs.物理学
保江 邦夫

科学的かそうでないか
 自然科学の範疇で科学的なこととそうでないことを、どう区別するのかと問われれば、科学的凡人であり俗物である私は残念ながらその明確な答えを持たない。次から次へと出版される「科学的専門書」やテレビを始めとするメディアやネット上に氾濫する「科学的」と主張する情報を見れば見るほど混乱するばかりである。惑星物理学者の松井孝典氏は南伸坊氏との対談集「科学って何だ!」(ちくまプリマー新書)で、「科学は「わかる、わからない」、世間は「信じる、信じない」あるいは「納得する、納得しない」」と表現している。これはわかりやすい。私は、「わかる」ことと「納得する」ことでは後者の割合が明らかに高い。

武術を題材に物理の勉強
 さて「武道vs.物理学」。「生まれつきの運動音痴で軟弱な上に中年癌患者になった」と自虐的に自分を繰り返し表現する著者は数理物理学者で大学教授。数々の複数領域にわたる著作を持つ。学術的立場にいるこの著者は理論武術家としての顔も持ち「武道の究極奥義」を「特別な努力もせず」に手にしている。そして軽妙というより、どこまで本気なのかわかりかねる遊び心満載の文章で、三船久蔵十段の「空気投げ」と呼ばれる隅落としやマウントポジションの返し方を生体力学や生物物理学を駆使して解説している。武術の技の断片のみを切り出して解説している印象がぬぐえないが、前半は武術を題材に基本的な物理の勉強ができる。学生時代から物理学を基礎レベルから理解する頭を持たなかった私は、学生時代にこういう勉強をすれば多少は物理学的思考を鍛えられていたかもしれない。

「究極奥義」
 終盤に「究極奥義」のさらなる深みが顔を出す。なんと離れたところから、人を無力化してしまうのだ。本文中に説明されているある境地に至ることで、「敵の神経システムの機能を停止させ筋肉組織に力が入らなくさせる」可能性を示唆しているのだ。頭の悪い人間が懐疑的になると時として滑稽であり、見苦しいものであることは承知しているが、私はまさにその部類であることも自覚している。そんな私にとっては青天の霹靂であり、「納得できない」展開である。しかし著者はれっきとした物理学者であり、○○理論を銘打って己が唯一「科学的」であるような物言いをする輩とは違う。
 懐疑的である一方で、世の中何でも起こり得るというお気楽主義も併せ持つひねくれ者としては、「そんなことないやろー」と思いつつ、ぜひ一度投げ飛ばされたいという欲求も禁じ得ない。科学的であることと、そうでないこと、さてどこに線を引けるのか。
 それにしてもラグビー強豪国相手に日本人が圧倒できるような「究極奥義」があればねぇ。
(山根 太治)

出版元:講談社

(掲載日:2008-03-10)

タグ:物理学 武道  
カテゴリ 身体
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トレーニング科学 最新エビデンス
安部 孝

 本書は昨年11月に開催された日本トレーニング科学会の記念・教育講演での発表「トレーニング科学はどこまで解明したのか」の内容をまとめたものである。
 執筆者は安部氏をはじめ、大河原一憲、岡本敦、荻田太、小倉裕司、金久博昭、川上泰雄、佐藤義昭、田中茂穂、田中孝夫、内藤久士、永井成美、沼田健之、深代千之、藤田聡、政二慶、宮武伸行、森谷敏夫の各氏と、そうそうたる顔ぶれである。
 内容は第1章『健康・体力づくりのトレーニング』、第2章『競技力向上のトレーニング』、第3章『肥満の予防・改善とトレーニング』、第4章『未来のトレーニング』と分けられ、未来のトレーニングでは加圧トレーニングを中心とした、短期集中型加圧トレーニングの効果について触れられている。
 全体的に図やデータ表を用いているので、非常にわかりやすい内容になっている。
 また各執筆者ごとに参考文献も並べられており、これからスポーツ科学を勉強しようという人にも、さらには先行研究の検討にも本書は役立ちそうだ。トレーニング科学はどこまで解明したか、是非一読願いたい。

2008年4月30日
(三橋 智広)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-12)

タグ:トレーニング 加圧トレーニング トレーニング科学 
カテゴリ スポーツ医科学
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コアコンディショニングとコアセラピー
平沼 憲治 岩崎 由純

 本書のあとがきをみると、「コアコンディショニングとコアセラピーは発展途上の概念であり、事例や症例を通じた検証のみというように科学的検証が不十分な多数の方法論を含んでいます。本書の製作の過程ではこれまであいまいだった定義や概念図の再構築、用語の統一、理論の根拠となる文献の検索などが必要であることが顕在化し、それらの再構築が行われました」とある。
 エビデンスの充実がこれら治療の発展には不可欠だったが、あとがきにあるとおり本書ではこれまであいまいだった定義や概念を、多分野の専門家によって用語を統一しており、スポーツ指導者、フィットネスインストラクター、アスレティックトレーナー、鍼灸、柔道整復師などに向けた必見の内容。全体的にイラストや写真を用いて説明されている。
 とくにストレッチポールを使った運動によるコアコンディショニングは、さまざまな競技種目で活用されているだけではなく、今後は介護予防の場面での活躍を期待されており、それらコアコンディショニングの基礎知識を習得するのに有用である。
 現場で指導にあたっている方、また現場に出る前に基礎知識を身につけたい方にとっても大きな一冊となるだろう。

2008年7月5日刊
(三橋 智広)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:コアコンディショニング 
カテゴリ スポーツ医科学
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世界を制した「日本的技術発想」
志村 幸雄

 関節鏡が日本で生まれたことは本誌(月刊スポーツメディスン)でも紹介したことがあるが、こうした医療機器やその技術、あるいはスポーツ現場におけるトレーニングにおいても、「日本的技術発想」をみることは少なくない。
 本書を読んで、いかに日本人が「精緻」であること、「厳密」であることを目指し、実行してきたかがよくわかる。
「パウダーパーツ」という部品をご存じだろうか。文字どおり、粉のように小さい部品である。愛知県のプラスチック加工メーカーでは、歯が5つあるプラスチック製の歯車で重さ100万分の1gのものを作っている。直径0.147mm、幅0.08mm。世界最小、最軽量は言うまでもない。これを「パウダーパーツ」と呼んでいる。開発に要した資金は2億円。何に使うか。社長が言うには「小さすぎて、用途はまだない」。これで終わりではない。「次の目標は、「1000万分の1g」だそうだ。
 なぜ、日本ではそのようなことが実行されるのか。この本を読んで知ると、必ずどの仕事にも役立つだろう。

2008年11月20日刊
(清家 輝文)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:技術 
カテゴリ その他
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「脳科学」の壁 脳機能イメージングで何が分かったのか
榊原 洋一

 巷にはさまざまな脳を鍛える学習ツールやゲームソフト、書籍にあふれ、さらにテレビ番組に至るまで、脳科学は一種のブームとなっている。
 この一種の脳科学ブームを、子どもの発達と神経疾患を専門とする小児科医の著者が、昨今行き過ぎた脳科学ブームに踊らされない、きちんとした視点を持てるようにと冷静に解説しているのが本書である。
 脳科学はどうして今のようなブームとなっていったのか、これまで話題となった「脳内革命」「唯脳論」やゲーム脳、さらに前頭葉ブームにまで着手する。しかし、著者が「はじめに」に記してあるように、決して脳科学を非難、否定しているわけではない。たとえば、ある実験に関して、どのように行われ、なにが問題なのか、さらにその実験が示すデータはなにを物語っているのか、それを脳科学から考えると私たちの捉え方は正しいのかを1つ1つ解釈している。少しでも脳の機能を高めようといろいろと購入し試しているみなさん、脳科学の現実と限界を知ることができます。

2009年1月20日刊
(田口 久美子)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:脳科学 
カテゴリ その他
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イチローに学ぶ失敗と挑戦
山本 益博

 失敗から挑戦へ。よいところを伸ばすのも必要だが、失敗したときに人として成長するための進化が問われる。では、イチローは? となる。
 失敗はしてはいけないものではなく、した後が大事になる。原因を追求し克服する勇気が必要で、それが進化へと導く。始めから完璧な人間はいないが、目指すことはでき、そこで人は成長を遂げる。それがイチローの生き方とともに知ることができる。
 人として何が大事か、完璧を目指すために失敗をどう生かし、調子が悪いときにどう切り替えるか、マイナス要素をプラスに。その術がインタビューを通して過去から振り返り、今のイチローは何がきっかけでどう変わっていったのかを知ることができる。
(佐々木 愛)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:アーチェリー 
カテゴリ メンタル
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トレーニング科学最新エビデンス
安部 孝

 本書は日本トレーニング科学会第20回記念大会で行われた、「トレーニング科学はどこまで解明したのか」という企画の内容をまとめたものである。
 さまざまな種類の報告が掲載されているが、やはり「競技力向上のトレーニング」の章が気になる。
 長年の経験や勘に頼ったトレーニングではなく、根拠に基づいたトレーニングを行うことで競技者の能力を十分に引き出すことができるのではないだろうか。それがコーチの仕事である。
(澤野 博)

出版元:講談社サイエンティフィク

(掲載日:2012-10-13)

タグ:トレーニング科学 
カテゴリ トレーニング
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乳酸を活かしたスポーツトレーニング
八田 秀雄

 乳酸について70個のQ&A形式で構成されている。一般の人が乳酸と聞いて疑問に思うことから、トレーニングに興味を持ち始めた学生が疑問に思うことまで、乳酸に関することを幅広く一通り解説してある。
 本書に出てくる質問は簡単だが、それに対する回答は実は簡単ではない。しかしそれを誤解のない範囲で、かつ理解しやすい形でまとめてある。
 いまだに疲労物質といわれ、誤解されている乳酸であるが、一般の人や競技者、コーチ初心者がとりあえず乳酸のことを理解するために役に立つ書籍である。
(澤野 博)

出版元:講談社サイエンティフィク

(掲載日:2012-10-13)

タグ:乳酸 トレーニング 
カテゴリ スポーツ医科学
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1日5分!「座り」筋トレ 超簡単「貯筋」運動のススメ
福永 哲夫

 スポーツ科学の第一人者として多くの筋を測定してきた福永氏による、一般向けに平易に書かれた本。普段の生活の中でトレーニングを行うことは可能であり、日本人は「貯筋」運動をすべきであるという趣旨である。
 可能であればトレーニング指導の専門家がついて指導したほうがよいとしながらも、時間的・経済的に難しい場合は、何かをしながら立つ、座るといった簡単な運動をすることで十分に筋を鍛えていくことは可能であり、その刺激により、QOL(生活の質)を高めることができるという。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2010-03-10)

タグ:トレーニング  
カテゴリ 運動実践
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ブレスダイエット 呼吸でやせる!
有吉 与志恵

 呼吸。毎日あたりまえのように行っている呼吸は、なんと一日に約2万回も行っている。しかしそのメカニズムや方法を教わることなどほとんどない。もし、よい呼吸を行うことで、姿勢がよくなったり、身体の不調が改善したりするとしたらどうでしょう? 今まで痩せにくかった身体も、そんな呼吸の乱れからきていたのではないでしょうか。
 本書は、そのよい呼吸が行えるように、解りやすく導いてくれる一冊である。仕事でパソコンに向かいっぱなしであったり、ストレスを多く受けている現代人にとって、身体と心を解放させてくれる呼吸について見直してみるよい機会になると思う。
(大槻 清馨)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:呼吸 
カテゴリ 運動実践
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ブレスダイエット 呼吸でやせる!
有吉 与志恵

 本書で紹介されているエクササイズは、呼吸に関するもののみ。モニタリングをして、筋を緩めるためのリセットコンディショニング(指でさする、圧を加えて筋を動かすなど)をして、呼吸の方法を身につけるというシンプルなもの。DVDも付属し、実際の方法について解説されている。用具はエクササイズの前後に行うサイズ測定に必要なものくらいである。
 呼吸の方法をきちんと身につけることで、不要な緊張がほぐれ、姿勢も変わり、心身によい効果が現れてくるそうだ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2010-04-10)

タグ:呼吸  
カテゴリ 運動実践
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生き残る技術 無酸素登頂トップクライマーの限界を超える極意
小西 浩文

 酸素なしで8,000m超の山を登っていく。そんな生存の限界のような世界で挑戦しているのが著者の小西氏である。本書はビジネスマン向けのシリーズでもあり、仕事でどのような考え方をすることが必要になるかのヒント、という形で書かれているが、これはそのままスポーツにもあてはまる。
 大自然の中、人間の生命はときに無力である。多くの仲間の死という重いものを身近に経験しながら、それでも生きて挑戦していく。小西氏は、常に状況を正確に把握し、自分が行うべきことは何かがはっきりと見えている状況で、チャレンジすべきときにチャレンジするためには直感も働かせているという。
 読み手それぞれが、自らの「困難」に立ち向かい、限界を超えていくために何が必要なのか、道しるべとなってくれる一冊である。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2010-05-10)

タグ:登山  
カテゴリ 人生
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最強のコーチング
清宮 克幸

「コーチ」「コーチング」という言葉の語源は、ハンガリーの「Kocs」であるといわれている。Kocs村では四輪の旅客用馬車を製造しており、そこから「大切な人をその人が望むとこまで送り届ける」という動詞の意味が生まれたそうである。スポーツの世界では、選手が本来持っている能力や可能性を引き出すという意味合いで用いられていることが多い。
 本書の著者は清宮克幸氏である。スポーツの世界に身をおく人間として、氏の名前を知らない者は少ないだろう。2001年に早稲田大学ラグビー部の監督として就任後、長年低迷していた同チームを2003年には13年ぶりの大学選手権優勝に導き、また2005年、2006年には31年ぶりの大学選手権連覇を達成するなど、大学ラグビー界最強のチームに成長させた。また2006-2007年シーズンより2009年-2010年シーズンまでは、サントリーサンゴリアスの監督として日本トップレベルのラグビーチームを率い、その活躍は周知の通りである。
 清宮氏の常にぶれないコーチング理論・哲学をかいまみることができる。コーチングにおける「周辺視」「目的の明確化」「人材の適材適所」「目標の数値化」「競争と同士愛」そして「場」の重要性、さらにセオリーを重要視しながらも、それにこだわりをみせない柔軟な姿勢の大切さが示され、なおかつそれは大学選手権3度の優勝という結果に裏づけられているのである。
 優れたコーチング能力はコーチのみではなく、アスレティックトレーナー、ストレングストレーニングコーチなどスポーツ現場に関わるすべての人間にとって必要な要素である。私自身アスレティックトレーナーとして、個人や集団をまとめて目標達成へと導くことの難しさを多く経験してきている。当然のことながら、コーチング能力は自らのトライ&エラーにより身につけていくものであり、読書によって得られるものではない。ただ、本書により日本有数のスポーツコーチの考えに触れることで、自身の経験知のみによるコーチングを再考する有意義な機会になるのではなかろうか?
(越田 専太郎)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:コーチング 
カテゴリ 指導
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コアコンディショニングとコアセラピー
平沼 憲治 岩崎 由純 蒲田 和芳 渡辺 なおみ

 あなたは、ストレッチポールに乗ったことがあるだろうか。正しく行えば、誰しも必ず、胴体から付属している頭、腕、脚のポジションが、ニュートラルな状態にリセットされた感覚を味わうことができる。
 ここでは、その進め方、エクササイズの方法もさることながら、その裏づけとなる解剖・生理・運動学を理論的に学ぶ。スタジオエクササイズとしての「ベーシックセブン」を提供している者は、本来知らなくてはならない事項なのではないだろうか。また、介護予防としてのプログラムを、目的、段階別に解説、そして疾患別に治療としての方法も多種にわたって紹介されており、本書は、今やアスリートから高齢者まで幅広くクライアントをお持ちのパーソナルトレーナーも知っておいて損はない。いや知らずして人の身体は預かれないだろう。教科書的存在になるはずだ。
 もちろん、自分自身の癒しのためにも使っていただきたい。

平沼 憲治、岩崎 由純(監修)、蒲田 和芳、渡辺 なおみ(編)
(平山 美由紀)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:コア 
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツ少年のメンタルサポート 精神科医のカウンセリングノートから
永島 正紀

 まず、著者は序章で自分の立ち位置をこう規定している。
「スポーツをすることそのものより、スポーツとの取り組み方により、さまざまな精神的問題や心理社会的問題が生まれることを示し、とくに現代の子どものスポーツのあり方や現状について精神科医の目を通して考えてみたいと思います」。
 精神科医である著者が、少年スポーツの現場にいる指導者とは違った視点で、スポーツについて語っている。
 現場の指導者やプレーヤーの家族の方々にもぜひ読んでいただきたい本である。おそらく、本書で語られていることにはなかなか同意しづらいという人も大勢いることと思う。とくに、勝ち負けの価値観については、そうだろう。だが、だからこそ読む価値もあるのだといえる。
 スポーツは、そのとらえ方により、さまざまな顔を持つ。身体運動を通した人間教育、人と人とのコミュニケーション・ツール、健康・体力づくりの手段、レクリエーションの場、自己実現の舞台…。これらの共通項は「スポーツは遊び」だということである。「たかがスポーツ」なのである。プレーヤー本人も指導者も保護者も、それくらいのスタンスがちょうどいいんじゃないの、と著者は主張している。
 本書を読んで、私のような一般社会人のボランティア指導者の役割について、ふと思ったことがあるそれは、「たかがスポーツ」という価値観を子どもたちに示すことではないだろうか、ということである。「スポーツができるからといって、それが何か世の中の役に立つのか?」。時にはそう言って、プレーヤーにスポーツとの関わり方について、疑問を抱かせることも必要かもしれない。子どもたちがさまざまな職種のコーチたちとの交流を通じて、多様な価値観に触れることにより、スポーツとの距離感や自分の立ち位置を確認するのだ。
 数年前に90歳で他界した私の祖母の面白いエピソードがある。彼女がまだ働き盛りのころ、近所の高校の校庭で学生たちがバスケットボールをしているのを見て、こう言ったそうだ。「あんな穴のあいたカゴに何回球を入れたって、落ちるに決まってる。高校生にもなって、あの子ら大丈夫だろうか…」
 スポーツなんて、所詮そんなもの。「たかがスポーツ」であり、「遊び」であり、「世の中の役に立たないこと」なのである。だからこそ、おもしろいのだ。だからこそ、熱く、真剣に、夢中になれるのだ。
(尾原 陽介)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:スポーツ精神医学 メンタル 部活動 ジュニア 
カテゴリ メンタル
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コーチングの技術
菅原 裕子

 コーチングと聞くと、スポーツにおける監督から選手への指導が1番に思い浮かぶが、実際にコーチングが行われるのは、スポーツだけに限らない。仕事に関してや人間性の教育、躾に至るまで、さまざまな場面があり、その方法も多種多様である。
 もともと「コーチ」とは馬車が語源で、人を目的地へ運ぶことが言葉の由来だ。東京から大阪へ行くという目的に対して、飛行機、新幹線、車などの選択肢の中から最善策を選んで目的達成に向かわせるのがコーチングである。
 このことは、選手を育てる際、筋力や敏捷性、技術力、人間性などの要素のどれを高めるか。というようなケースに当てはまる。これらの要素にどの様にアプローチしていくかが、コーチングの重要な要素となる。
 上記の例の中で、飛行機で行くのが最善として、自らその最善策を選べる人に育つか、道を示されなければ動けない人に育つか。指導の進め方によっては結果が同じでも内容やプロセスが大きく違ってくる。指示がなければ動けない「指示待ち人間」になるのもコーチングの結果であり、理想の結果につなげるためのコーチングが求められる。そのための効果的なコーチングには、相互の信頼が大切になると筆者は訴えている。
 実際のコーチングには本書の様な指南書はあってもマニュアルはないと私は考えている。本から得た知識と、指導経験。そして何より本人を思う気持ちがコーチングには必要ではないだろうか。コーチングとは形ではなく、気持ちと気持ちを結ぶものである。
 筆者も、コーチングは指導法であると同時にコミュニケーションでもあるとし、指導の際の相手の心の開き方や育成中の我慢の大切さ、相手の可能性を信じることなど、コーチングの軸となる人間観を重要視し、それに応じた具体的な指導法を本書で紹介している。
 自分の指導法を見直したり、コーチングに関する見方や考え方を広げたい方におすすめの一冊である。コーチングの幅を広げ、結果につなげるために活かしていただきたい。
(山村 聡)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-13)

タグ:コーチング 
カテゴリ 指導
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これからの健康とスポーツの科学
安部 孝 琉子 友男

 健康科学、スポーツ科学に関して、幅広く16章にわたってまとめたもの。いずれも身近なことを題材としながら、エビデンスが簡潔に示され、まんべんなく基本的な知識や考え方を身につけることができる。
 健康に暮らしていくためにはどのようすればよいかという視点から、運動習慣や肥満、骨の強度、ストレスとの関連などを紹介。また、スポーツについては、パワー発揮、持久力、スタミナ、スキル、栄養、暑熱環境や高地トレーニングなどについて広く取り上げられている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2010-07-10)

タグ:健康科学 スポーツ科学  
カテゴリ スポーツ医科学
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新版 これでなっとく使えるスポーツサイエンス
征矢 英昭 本山 貢 石井 好二郎

「多くのスポーツ・体育の現場であがっている疑問の叫びを大事にしよう。できるだけトレンディーな情報を提供しよう。でも、理解できないのはだめだ。面白くないとね!」という著者らの思いから生まれたのが本書である。そして、スポーツサイエンスを「納得」し、「使える」ようにすることが本書の目的である。
 全体の大きな構成として、「トレーニング」、「試合で勝つ」、「健康なからだ」、「基礎知識」という順番で、4つの側面から構成されている。これは、一般の健康づくりから競技アスリートまで、幅広く対応しようとするものなのであろう。また、実践的事例を経て基礎知識へ向かう構成が興味深い。これは、帰納法的側面から具体的な取り組みをイメージし、それらの本質を捉えるために演繹法的側面に収束させることで、「実践と理論を合致させる」ということを試みているように感じ、大変新鮮であった。
 次に、各チャプターに目を向けると、指導現場で多く見られる疑問を豊富に取り上げている。そして、各疑問についての説明を見てみると、見開きの分量で、簡潔かつ論理的なため、大変わかりやすい。この内容であれば、学生アスリートでも十分に理解可能なのではないかと感じた。
 また、もう一つの気づきを得られたような気がする。それは、指導者側は、「簡潔かつ論理的な説明の仕方を学ぶ絶好の教材になり得る」ということである。例えば、「ウォーミングアップ」ということについて、テーマに対する構成が、「本質的側面→具体的な取り組み内容→注意ポイント→まとめ」という流れになっているので、指導者自身の説明能力向上にも貢献できる内容であることを実感した。
 以上のことをまとめると、本書は、幅広い指導対象への対応を可能にするだけでなく、指導者自身の知識の整理や説明能力の向上、さらには、辞書的機能としても貢献できるということである。本書は、2002年に発刊され、その後、増刷を重ねて改訂にまで辿り着いている。この側面から見ても本書の質の高さや、読者からの支持の高さがうかがわれるであろう。指導現場において、常に手元に置いておきたい一冊である。
(南川 哲人)

出版元:講談社サイエンティフィク

(掲載日:2012-10-14)

タグ:スポーツ科学 
カテゴリ スポーツ医科学
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ジムに通う前に読む本 スポーツ科学からみたトレーニング
桜井 静香

 スポーツクラブ(ジム)に通う際に知っておきたいスポーツ科学の知識がわかりやすくまとめられた一冊。ヨガや水中運動、ストレッチング、ウォーキングなど、基本となる動きが幅広く紹介されている。運動を行うことで、身体にどのような変化が起こるのかについて、筋肉や骨など、日常生活でイメージしやすい形で記述されている。
 トレーニングメニューの紹介は安全性の高いものが掲載されていることからもわかるように、本来はジム利用者が読むことを想定した本である。しかし、ポイントを押さえた簡潔な記述が中心であり、Q&A形式でのアドバイスや運動継続のヒントなどもあるため、トレーニングを指導する立場の方々にとっても役立つ本になるだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2010-10-10)

タグ:スポーツクラブ スポーツ医科学 知識  
カテゴリ 運動実践
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気象で読む身体
加賀美 雅弘

「腰が痛むからもうすぐ雨が降る」たまにこんなことをいう人がいますが、雨の日とか寒い日とかには痛みを持つ人は敏感になります。世間一般では漠然とこのような話を聞きます。ところが先端医療の現場で気象との兼ね合いで治療を進めるといった話はあまり耳にしません。基本的に気象という条件は考慮されることがないというのが現状のようです。本書は気象と人の身体の関係をテーマに具体的な問題について多方面から分析をしています。
 意外に古くから気象と身体の関係については研究があったそうです。20世紀の初めのころから世界各地でさまざまな試みがされていて、ドイツでは医学気象予報が現実にあるのを知り、驚きました。わが国でも気圧と喘息の因果関係の研究が進み、馴染みの深いところでは天気予報の花粉情報も気象と身体の関係をわれわれに教えてくれます。
 このように一部で研究が進む一方、本書では医学者が身体を気象から切り離し天気という条件に目を向けることがないのでさらなる実用化が進まないという問題点を指摘しています。曖昧なものは対象としないという現代医学の性格上やむを得ないかもしれません。また病気を治すということが第一義的になる半面、健康を維持するという予防医学がどうしても遅れがちになるという面も指摘します。
 それでもヒポクラテスの時代から気象と身体の関係について考えられ「生気象学」という学問が近年生み出され、気象と身体の関係が科学的に研究され、進行中とのこと。われわれの日常生活とは切っても切れない冷暖房と身体の話、自殺と季節の関係、誰もが知りたい脳卒中になりやすい環境など、読めば読むほど興味深い項目がいくつもあります。
 もっと知りたいことがたくさんあります。本書では研究が例示的に紹介されるにとどまり、なるほどと思うような理論や仮説はありません。おそらくまだまだ解明されていない事柄も多いのでしょう。そういう点ではさらに研究が進み体系化することを願わずにはおられません。研究対象があまりにも深遠なので困難な研究なのはわかりますが、まず多くの研究者の意識がそちらを向くことの必要性を感じます。
 読み終えたとき、人の身体も自然の一部ならば気象などの自然現象と切り離して考えることが非合理的だとさえ思えてきました。
(辻田 浩志)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-15)

タグ:気象 
カテゴリ 身体
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「体幹」ランニング
金 哲彦

 一昔前までは、一部アスリートや指導者、トレーニング愛好家にしか馴染みのなかった感のある「体幹」という言葉だが、現在では一般のフィットネス現場においても形を変え品を変え、頻繁に耳にする。部活動の練習で顧問の先生が「もっと体幹を安定させて!」などと声をかける場面や、フィットネスクラブで「コア(体幹)○○」と命名されたスタジオレッスンに接したことのある人は少なくないだろう。
 本書もそんな「体幹」を身近なテーマとした一般ランナー向けのランニング指導書である。著者はさまざまなメディアでもお馴染みのランニング指導の第一人者、金哲彦氏。氏のマラソン中継での解説などと同様、一般ランナーの目線に立った平易で分かりやすい語り口で、ランニングにおける体幹の重要性やそこを上手に使うためのトレーニングなどを解説してくれている。
 とは言え、多くの一般ランナーにとっては体幹を意識して走る、といきなり言われてもなかなかピンとこないであろうし、昨今のランニングブームの中でもそうしたフィジカルな部分とテクニカルな部分双方に興味を示している人はまだまだ少数派だろう。ともすれば、文字通り(?)「コア」なランニングファンのための一冊になってしまう可能性もある。が、本書はその部分を豊富な写真やイラスト、日常生活の中で行えるエクササイズ紹介などをふんだんにちりばめることによって回避し、むしろその入り口のハードルを下げることに成功している。言わば、「難しいことを簡単に伝える」というスポーツ指導、トレーニング指導の現場における恒久的な課題を軽快にクリアしているのである。
 一方で、フォースプレートによる接地時間の計測データや、3カ月ピリオドでフルマラソン向けに期分けされたトレーニングプログラムなどが掲載されている点も大きなポイント。こういった部分は先ほど述べた「コア」なランナーも十分興味をそそられる内容のはずである。コストパフォーマンス(1200円)という面から見ても、多くの一般ランナーに対しての「推薦図書」として紹介したい一冊。
(伊藤 謙治)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-15)

タグ:ランニング 体幹 
カテゴリ 運動実践
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勝つためのチームメイク
堀越 正巳

 ラグビーでは、昔から勝負を決めるのはフォワード、勝敗を決めるのはバックスであるという。極端な話、フォワードは肉弾戦(その代表がスクラム)で勝てば、負けた気はしない。
 しかし、ラグビーは陣取りゲームである。局地戦でいくら勝とうが、最終的にトライを取らなければ勝敗には負ける。そこで、勝敗を決めるための司令塔役が必要になる、それがスタンドオフだ。
 そして、フォワードと司令塔とのつなぎ役が、スクラムハーフという著者のポジションである。著者はその役割を「チームメイク」という言葉で表現している。
 チームメイクとは何か? 司令塔のゲームメイクに必要なボールの供給源になると同時に、フォワードの「ムードメーカー」の役割を果たすことであるという。早稲田・神戸製鋼で日本一を経験している著者は、スクラムハーフが「チームメイク」に徹することができれば、強い組織をつくることができると考えている。
「チームメーカー」の存在は、強い組織にはたしかにいる。清原・ローズなど、各チームの4番バッターばかりを集めたときのジャイアンツは勝てなかった。しかし、松本のようなつなぎ役もいるチームは、2009年に日本シリーズ連覇を果たした。そして、サッカーワールドカップの日本代表は、試合に出ない選手がムードメーカー役となりホーム以外で初のベスト16に進んだ。
 強い組織をつくること、それは当たり前だが難しい。なぜなら、チームメーカーだけ育てても勝てないのが組織だからである。おそらく、著者自身がその難しさを指導者として日々感じているのであろう。
(森下 茂)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:チームビルディング 
カテゴリ 指導
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インベストメントハードラー
為末 大

 為末 大。
 言わずと知れた、400mハードルの選手。世界大会において、トラック種目で日本で初めて2つのメダルを獲得した、プロの陸上選手である。
 今まで読んできたスポーツ選手の著書は、その選手がスポーツを行う上で特化している能力についてスポットを当てて書かれたものが多かった。しかし、この本の帯には大きく「為末大」と書かれた横に、「初期投資30万円が現在2000万円に増えた話」と書かれていた。そしてインベストメントの意味は、「投資」である。
 本の題名と帯のコメントから推測すると、プロの陸上選手である為末大が投資で儲けた話について書かれたと予想されるが、読み進めていくと全く違う内容であった。
 なぜ、投資を始めたのか。投資とはどういうものなのか。為末選手が陸上競技を通して経験してきたことや、確固たる人生哲学に基づいた投資の話は、お金の話だけにとどまらずとても興味深い。多角的で広い視野を持つこと、興味や疑問を紐解いていくこと、プロだからこそのお金の捉え方など、世界を舞台に戦うアスリートのみならず意識していきたいこと多々である。
(石郷岡 真巳)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:陸上競技 投資 
カテゴリ 人生
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「退化」の進化学
犬塚 則久

「人類は万物の霊長である」誰がそんなことを言い出したのか知りませんが、人類が他の動物よりも優れているのは人間の生活環境の中においてのみ通用すること。すべての動物は生活する環境に適合すべく、進化と退化を繰り返してきました。それぞれの動物が自らのおかれた環境で有利に過ごし、子孫を残していくという点では、今生きている動物は皆優れていると言わざるをえません。
 本書は人類が今の姿に至るまでのプロセスを4億年前に遡り、どういう部位がどのように変化していったかを細かく説明します。「人類の履歴書」とでもいうべき変遷には現在においての謎が隠されているようです。現代において機能を喪失してもなお残る痕跡器官(男性の乳首など)や、作用が残り大きさが縮小した退化器官(親知らずや足の小指など)を変化した理由とともに数多く紹介されています。「人は元々二枚舌だった」とか興味深い「過去」があったり、数十年前まで退化したものと思われていた盲腸や虫垂もしっかりと働いていたという事実も近年明らかになったそうです。
 「退化」という言葉のイメージは後退するというネガティブなものでしたが、環境の変化に対応した「進化」の一形態であることが納得できました。無駄なものを捨てコンパクトな姿で過ごすことが将来を生き延びるための自然の摂理に適合した知恵であり、「退化」もまた重要な選択肢であると思うのです。「得る」ということと「捨てる」ということが同価値であると教わりました。
 過去の変化の理由を知ることにより、未来の人類の変化に対しても予測を立てることができたり、不都合な変化に対する警鐘を鳴らすことも可能なんじゃないかと思うのです。われわれ自身の身体に対する「温故知新」を見たような気がします。
 学問的な難しい本というよりも、知ると面白い豆知識がいっぱい詰まった一冊です。
(辻田 浩志)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:進化 退化 
カテゴリ 生命科学
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勝負食 トップアスリートに学ぶ本番に強い賢い食べ方
石川 三知

 プロのアスリートを食事で支える石川さん。石川さんの栄養アドバイスでメダルを手にしたオリンピック選手も数多い。
 その石川さんがアスリートをサポートする中で得た経験をもとに、私たちにも簡単にできる賢い栄養バランスの取り方や食べ合わせを栄養学の説明とともに紹介している。
 いざというときの目的別勝負食の摂取方法はもちろん、サプリメントの取り方についても書かれている。身体は食べ物によってつくられていることがとてもよくわかる一冊になっている。
(戸谷 舞)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:食事 栄養 
カテゴリ
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投球論
川口 和久

 元プロ野球選手として活躍した著者が、その現役時代について実際の結果から自身を分析し論を進めている。コーチや監督などとの出会いから投手として変わっていく様子が映し出され、そこには表舞台からは見ることのできないさまざまな苦労や努力が感じられる。同時に当時の心境も語られており、豪快な部分と繊細な部分を表している。
 また、広島カープから読売巨人へと移籍を経験し、練習法や選手育成など双方の球団の特徴と異なる点なども語られており、興味深い内容であった。
 現役時代の川口氏は三振かホームランかをかけて勝負を挑むような投手としての醍醐味があり、ファンとしては最も面白い投球であったと思う。当書をきっかけに川口氏のような投手が今後のプロ野球に生まれ、活躍することを期待したい。
(池田 健一)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:野球 指導 
カテゴリ 人生
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他人を許せないサル
正高 信男

 最近「ガラケー」という言葉を初めて聞きました。「ガラパゴス携帯」の略語だそうで、他の地域とは独自の進化を遂げた動物が多く生息するガラパゴス諸島をもじり、他国にはない日本独自の進化を遂げた携帯端末のことを言うそうです。どうして日本の携帯電話だけが世界から孤立したような携帯電話ができたのか? 本書では日本人の持つ独特の社会性や対人関係を分析することにより、私の疑問を解消してくれました。元々は通話をするための機械を持ち運びできるようにしたものだったのが、メール機能がつき、カメラまでがついたと思ったら、インターネットやテレビ、果てはクレジットカードの役割まで付いた生活必需品にまで昇華しました。そのニーズは日本人独特の社会観にあると指摘します。
 日本人の社会観の源流は「世間」という単位であり、それが農業共同体から発生したものであり、世間では横並びの平等という欧米にはない独特の価値観をもつといいます。また所属する人々は世間の中で「ぬくもり」や「ふれあい」を得ることにより安心感を見いだすという日本人独特の情緒もふまえて的確に表現しています。中でもマルクスがこういう風土を「アジア的生産様式」とう表現したというくだりにイデオロギー的な興味を覚えました。
 ITという新しい表現環境にあって、そこで構築された社会は皮肉にも古来の農業共同体から発生したコミュニティーと同質の「世間」であり、それを「IT世間」と名づけ日本人の昔とかわらない社会性、さらにはそこに属する個人の心理にまで言及しています。
このような昔ながらの価値観を持つ日本人の間で急速に広がった携帯電話を中心としたIT世間における弊害も具体的に指摘はされていますが、やや強引な印象を受けてしまいました。携帯やインターネットなどのオンライン上でのコミュニケーションに振り回され、支配されているとの指摘には納得できる面も多いのですが、戦後の日本人において変化しつつある社会性や価値観などその他の原因についても考えるべき点もあるのではないかとも思うのです。
 それにしても日本独自の進化を遂げた携帯電話。使いこなしているのか? あるいは使われてしまっているのか? 自問自答せずにはおられません。また掲示板・ブログ・チャット・SNS・プロフ、最近ではツイッターに至るまでオンライン上でさまざまな情報伝達やコミュニケーションの手段が生まれました。われわれはそこで何をしたいのか? あるいは何を求めるのか?
 もう一度見直してみたくなりました。将来のコミュニケーションについて考えさせられる一冊です。
 着眼点の面白さ、目まぐるしく進化を遂げるIT技術の中でも昔と変わらない日本人の気質、流れる川の中で木の葉の行方を見ているかのような話の展開。一気に読んでしまいました。
(辻田 浩志)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:コミュニケーション 
カテゴリ その他
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「遊び」の文化人類学
青柳 まちこ

「遊び」をテーマに書かれた本ではありますが、意外なほどその内容に遊びはありません。むしろ純粋なる学術的研究発表の性格が色濃く出ます。
 本書を語るにあたってオランダの歴史学者ホイジンガとフランスの社会学者カイヨワの存在は無視できず、彼らの研究が下地になっているともいえるでしょう。ただ筆者はホイジンガの「ホモ・ルーデンス」ではヨーロッパの文化に立脚した視点にとらわれて客観的評価はできないと指摘したうえで、独自の視点で「遊び」を評価・分析をしています。確かに本書は筆者の主観的要素を排除しているようなのですが、その分無機質な印象を感じました。読み物として捉えた場合、読み手が何を求めるかによっても両者の評価は変わるように思います。
「遊びとは何か」という命題から本書ははじまりますが、「競争」「表現・模倣」「偶然」「めまい」という要素を基軸とするとするカイヨワの「遊び」の定義づけをベースにしてさらに深く分析を進めます(批判的な部分もありますが)。
 すべての行動から動物として必要な生存や種族保存などを目的とする行動を除いたものを余暇行動として、それを遊びと定義するならばその範囲はあまりにも膨大になります。そういった広範な「遊び」をいくつかの要素に分類するところは説得力十分。細やかな分類と具体的な例を挙げての評価は世界中いろいろな形式で存在する遊びを整理しています。そしてそれらの遊びがどのように伝播していったかという遊びのネットワークも論じられ、多方向からの視点による切り口で解明されます。
 納得しつつ読み終わって、1つ疑問が生じました。本書が書かれたのは1977年なのですが、当時と今とでは情報の流通のシステムが変わりました。ネット社会になって近年社会も急激な変化を見せました。はたして本書の定義が今も変わらず当てはまるのだろうかということです。ホイジンガやカイヨワのころと青柳氏のころでは時代背景が異なります。それと同じように現在と昭和中期とでは背景の差は歴然です。「遊び」の定義にも時代背景による考え方の差を感じたのですから、今という時代においてまた違った要素も芽生えているかもしれません。「遊び」と「文化」が限りなく近いものであるとするならば、そういう可能性があるようにも思えるのです。21世紀という時代の遊びはどのように評価されるのだろう? そんな興味がわいてきました。
(辻田 浩志)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:遊び 
カテゴリ その他
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究極のトレーニング
石井 直方

「トレーニング」と一言でいっても、ただ形だけ同じように行うのと、目的のために筋肉の性質や仕組みを理解してトレーニングするのでは大きく違ってきます。
 この本は、石井直方氏が科学的根拠のある情報を提供することを目的に冊子のコラムとして連載したものを再編集したもので、トレーニングだけではなく、おそらく多くの人が興味あるであろう健康、ダイエット、サプリメントについても書かれていて非常に面白い。
 トレーニングを行うときには大きい筋群から行う? それとも小さな筋群から行う? また、脂肪を燃焼させるにはエアロビックが先か? レジスタンスが先か? など実は今まで当たり前と思って行っていたトレーニング方法も場合によっては反対であったりするかもしれません。筋肉はまた内分泌器官としての働きもあり、筋が活動することで生じるいろいろな反応なども知ってみると、筋活動の大切さを再認識してしまいます。
 今までのトレーニングやそれだけではなく日常生活においても、この本を読むと、運動の方法やタイミング、栄養についても改めて考える機会になるかもしれません。そんな本でした。
(大槻 清馨)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:トレーニング 
カテゴリ トレーニング
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監督に期待するな
中竹 竜二

 カリスマ指導者であった清宮監督の後は、自称「日本一オーラのない監督」が就任した。
 しかも、早稲田大学ラグビー部という「日本一」を求められる組織にだ。
 著者の組織作りは、リーダーについていくフォロワーたちが自主性を持って組織を支えていくという考え方だ。決断を下すのはリーダーであるが、フォロワ−もリーダーのつもりで考える。与えられたことを待っていてはいけないという。したがって、選手にも自分で考えることをとことん要求する。
 管理と自主性のバランス、これは組織作りの永遠のテーマである。もちろん、これに関する完璧な答えはない。ただ、成功している組織には共通点があるように思う。それはリーダーの「情」、すなわち「愛情」と「情熱」だ。
 著者は「情」の大切さを、「熱」としてこう表現している。
「何か分厚い壁を突き破ろうとするとき、理屈や情報よりも情熱が重要になる場面がしばしばある。行動の原点、すべての始まりは熱にあると言えるかもしれない」と。
(森下 茂)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:ラグビー 
カテゴリ 指導
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知性はどこに生まれるか ダーウィンとアフォーダンス
佐々木 正人

「語る前に見よ」。
 行為に何らかの意図を読み取ろうとしてはいけない。行為は「はじまり」があって、「まわり」に出会い「変化」するのだ。そして「変化」には目的も方向もない。「変化」の「結果」が残るだけである。その「結果」から行為に意図や目的をくっつけて説明するというのは、大きな誤りなのだ。
 本書には、かなりのページ数を割いて、ダーウィンが観察したミミズだとかキャベツの子葉だとかモグラだとかのことが書いてある。そこだけでもかなり面白かった。
「ミミズは地球の表面を変えるために生きているのではなく、ミミズの生の結果が大地を変えただけだ」とか、「モグラはトンネルを探しているわけではなく掘りながら土の中にあるやわらかさのつながりを発見しているのだ」という言葉が本書に書かれているが、それらが私の心の中で次第に存在感を増している。
 ただ「まわり」に出会って「変化」する。私も「まわり」に出会って変化するし、私自身が誰かを何かを変化させる「まわり」でもあるのだ。ミミズが耕した大地のように、モグラが掘ったトンネルのように、変化した歴史と痕跡をひっくるめて「生きている」ということなのかもしれない。
 私とはなんとちっぽけなものなのだろうと思う。それは決して不快な気持ではなく、むしろ、清々しい。
(尾原 陽介)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:アフォーダンス 
カテゴリ その他
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金属は人体になぜ必要か
桜井 弘

 人体は主要構成元素といわれるC、H、O、N。準主要元素としてCa、P、Mg、Cl、S、K、Na。これら11種類で人体の96~97%を占めるともいわれている。そのほかにもさまざまな元素が組み合わさり、人体が構成されている。
 その中でも金属類というものは意外に多く、本書によると体内での役割がある程度解明されている金属でCa、K、Na、Mg、Fe、Zn、Mn、Cu、Se、Mo、Ni、Cr、Co、Vの14種類が確認されている。
 エネルギー代謝を考えていく上で、どうしても糖質、脂質、タンパク質、および高エネルギーリン酸結合の構成元素を中心に考えてしまうが、それらを代謝していくにあたって金属類も含めた微量元素の存在は欠かすことはできない。
 またそれらは体内合成をすることができないため、食事として補給をするしかない。それをどのような食品から補給していくのか。過剰摂取をすればどのようになってしまうのか。サプリメントとして単一種類だけの摂取が可能になっている現在では摂取不足ではなく、過剰摂取や摂取バランスの乱れが問題になりつつある。
 本書ではそれぞれの元素について現段階で解明されている役割をわかりやすく解説してある。とはいえ化学に関する基本的な知識は必要だ。
(澤野 博)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-16)

タグ:微量元素 
カテゴリ 身体
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スポーツ・サイキング 勝つためのスポーツ心理学
トーマス・タッコ アンバート・トッシー 松田 岩男 池田並子

「ゲームのフィジカル(身体的)な面の上達をたすける本、つまりバットやクラブ、ラケット、ボール、あるいは棒高跳びのポールの握り方などを教示してくれる本ならたくさんあるけれど、いったいどこに自意識や恐怖や腹立たしさ、挫折のイライラその他、スポーツの遂行を妨げる情動的(エモーショナル)難題のよりよい把握の仕方が示されているだろうか?」(第1章より)
 つまり、この本はスポーツを外から見て、筋力がどうの、テクニックがどうのというのではなく、内から見て、スポーツマンの心の問題を説いたものだ。スポーツ心理学というと難しく聞こえるが、表紙の感じからもわかるように、どのスポーツマンにも面白く読め、指導者にとっても選手管理や士気の高揚などにとても役立つのがこの本である。
 とくにSERP(スポーツ情動反応プロフィール)という自己診断の章(第5章)は実際に試してみる価値がある。
「自分のことは自分が一番よくわかっている」という人もあるだろうが、本当は自分こそ最も不可解な存在かもしれない。心の問題で少しでもひっかかったことのある人にはもちろん、そんなこと考えたこともないという人にもぜひ一読を勧めたい。

トーマス・タッコ、アンバート・トッシー著
松田岩男、池田並子訳
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:1980-09-10)

タグ:メンタル 
カテゴリ メンタル
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勝利を支配するもの
佐藤 純朗

 日本代表ヘッドコーチであった平尾氏のドキュメンタリータッチな内容になっている。現在の日本のメジャーではない競技に関わる指導者にとっては一見の価値がある本だと感じた。
 世界との差、協会との連携、日本の特性、ルール変更への対応、あらゆる場面で潤滑油的な存在であるスタッフの存在、個々のプレイヤーに対する長所を活かした起用、どれをとっても当時は画期的でなおかつ日本が世界に対等に戦うための手段だったと思われる。
 また本文にある「楽しむ」ことと「楽をする」ことの違いは私が以前から現場で使っていた表現でもあり、改めてこのことをわかって指導ができるかという戒めとなった。
 まだ目を通していない指導者は一度読んでみてほしい。
(河田 大輔)

出版元:講談社

(掲載日:2012-10-29)

タグ:ラグビー 
カテゴリ スポーツライティング
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トレーニングの科学 パワー・アップの理論と方法
宮下 充正

 本書は「科学をあなたのポケットに」と謳われた講談社ブルーバックスの一冊である。したがって「トレーニングの科学」と題されてはいるが、研究者向けのものではなく、スポーツ選手やスポーツ愛好家(指導者を含む)を対象にして書かれている。
 科学は、現代人のあらゆる生活に浸透し、あまりに科学万能が叫ばれるため、70年代にはその反動も見られた。しかし、ことスポーツに関しては、「科学的」といわれるものの、現場においては、結局科学も経験や精神に一歩譲らねばならないのが現状である。もちろん例外はあろうが、それだけスポーツ科学は、実際には現場に根を下ろすに至っていないといえよう。研究のレベルでは様々な解明が進みつつあっても、その成果が実践の場になかなか生かされないという事情も確かにある。
 そこで求められるのが本書のような科学的基礎知識(とはいっても気軽に読み飛ばせるものではない)と多くの実際的プログラムとともに解説したものである。
 著者である宮下氏は、本誌の読者には連載を通じてすでにお馴染みであろうが、本書の内容は、この連載をもっと一般向けにし、体系立ててまとめたものと考えればよいだろう。章題を列記すると、プロローグ「スポーツの記録は何によってきまるか」一「自分のからだは変えることができる」二「運動を生み出すのは筋肉だ」三「運動を長続きさせる肺と心臓」四「トレーニングの基本的条件」五「ハイ・パワーのトレーニング」六「ミドル・パワーのトレーニング」七「ロー・パワーのトレーニング」八「トレーニングと食事」九「トレーニングと男女の差」十「年齢に応じたトレーニング」エピローグ「中年からのトレーニング」となっている。
 筆者もいう通り「かならずしも科学的トレーニングだけが、良い記録を生み出す万能薬ではない」が、本書に含まれている知識と、そこに示唆されている事柄は、実際にトレーニングを行ううえで、またスポーツ活動全体に多くのものをもたらしてくれることだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:1981-03-10)

タグ:トレーニング科学 
カテゴリ トレーニング
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ストレッチング
小林 義雄 竹内 伸也

 月刊『陸上競技』でストレッチングを紹介してきた小林、竹内両氏によるもの。海外の文献に詳しい両氏らしく、理論的にしっかりしている。二人組でやるより1人でやるほうが効果的だろうという考えには、小誌も同感で、ボブが初版では2人組を入れていたのを、改訂版(翻訳書『ボブ・アンダーソンのストレッチング』の底本)では外しているのもそのためと思われる。運動生理学に通じる両氏らしい書。全頁ストレッチングに関する記述、解説から成る。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:1981-11-10)

タグ:ストレッチング 
カテゴリ ストレッチング
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テーピング
鹿倉 二郎

 今さら紹介するまでもない鹿倉氏の待望の書。現在日本でただ1人のNATA公認トレーナーの鹿倉氏らしく、テーピングをテクニックだけで捉えず、常にトレーナーの仕事の一環という視座を失わず述べている。その意味でトレーナーのひとつのテキストとしても重宝だろう。全体は大きく3つに分けられ、パート1基礎編でテーピングの概論、パート2実践編で足から始まり指に至るまでの部位別、目的別テーピングを解説、パート3アスレチック・トレーニングではトレーニング、コンディショニング、リハビリテーションなどについてよく整理し分かりやすく述べている。全頁2色刷で要点が明瞭であるのも親切である。
 これまでテーピングの本は何冊か出されているが、多くは巻き方の説明が中心で、なぜそうすべきなのかということについては、あまり触れられていない。本書では各部位の具体的テーピングに入る前に構造と働きを説明し、その部位に多い傷害についても述べている。テーピングは巻く技術以上にこういった知識が必要であることはいうまでもないが、その点で優れた内容となっている。なんとなくテーピングを覚えたつもりでテープを使っている人には、ぜひこの書を読んでいただきたい。本誌読者に強く勧める所以である。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:1982-01-10)

タグ:テーピング 
カテゴリ アスレティックトレーニング
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プレイ・ザ・ボルグ
ビヨン・ボルグ 後藤 新弥

 プロ・テニス界のスーパー・スター、ボルグがこれまでの技術書の説かれてきた理論にぶつけ、自己流テニスの真髄をフランクに述べた書。自分の個性を見つけ、自分に合ったテニスをしよう、そして何よりも楽しむことと、テニスというゲームへ誘う。傑出した人は単純明快に物を語れるが、このボルグもその例といえる。テニス関係者のみならず、誰もがスポーツに心を開けるその糸口を与えてくれる書である。

ビヨン・ボルグ著 後藤新弥訳
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:1982-01-10)

タグ:テニス 
カテゴリ 運動実践
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勝つための投球術
トム・シーバー 吉松 俊一

 偉大なスポーツ選手が必ずしも優れた指導者や理論家であるとは限らないものだが、その両者の資質を確実に兼ね備えているといえるのがトム・シーバーであろう。そのトム・シーバーが、自らのピッチング論を平易に説き明かしているのが本書である(訳は月刊トレーニング・ジャーナルの連載「野球の科学的トレーニングについて」でお馴染みの吉松俊一氏が担当)。
 彼の理論家たる所以は、この本が初心者にとっても十分納得のいく指導書になっていることで、読者は彼の有益な体験を知るとともに自然とピッチングの基本を会得することだろう。そしてピッチングがただ投げることばかりでなく、チーム・プレーの1つであることや精神的・肉体的な自己管理がいかに大切かなど多くのことを学ぶだろう。自伝としても面白い。

トム・シーバー著、吉松俊一訳
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:1982-03-10)

タグ:野球 
カテゴリ 指導
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ポキポキ折れる子どもの骨
杉浦 保夫

 ショッキングなタイトル。この書名を見て、ウサギ跳びによる集団骨折とか、人の頭を叩いた子どもの手のほうが折れた話とかを思い起こされた方もあるだろう。
「まえがき」で筆者は語る。
「私たちのような専門の整形外科医からみていますと“ゾッ”とするような、さまざまな骨の故障が多発しており、今や、少年スポーツには危機が訪れているといえましょう。本書では、始めに現在起こっている事例を取り上げて皆さんの注意をうながし、さらに健康な子どもに育てあげるには何が必要で、何が不必要なのか、をわかりやすく説明していきます」
 そこで、「プロローグ」においては骨に関する基礎知識を述べ、第1章では、最近の子どもはすぐに骨折するといわれるが、果たして真実かどうかを論じている。著者らの研究では、客観的証拠はなく、むしろ検査の精密化と運動する機会の減少により、そういう感じを抱くのではないかということだ。
 第2章は「まちがいだらけの子どものスポーツ」とし、リトルリーグ、少年サッカーなど、スポーツ活動における誤った考えを指摘している。やはり、一番の問題は使い過ぎということになるようだ。骨肉腫と疑われた少女の足の疲労骨折などは、耐寒マラソンがもたらした例である。疲労骨折から生じる変形や運動障害についても述べられている。
 以下第3章「子どものケガと病気」、第4章「子どもを守るこれだけの常識」と続くが、いずれも親や指導者には欠かせない内容である。食事や「健康器具」に関する指摘は大人にも通じることである。
 スポーツの低年齢化が進み、才能ある子どもは小さいときから厳しくトレーニングさせれば、やがては世界的選手にという考えがある。しかし、本書でも述べられている通り「巨人の星」の方法ではいずれその子をつぶすことになろう。子どもにとってスポーツとは何なのか、そこから考えねばならない。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:1982-10-10)

タグ:骨 
カテゴリ 医学
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年齢別 少年野球トレーニング法
吉松 俊一 柴 孝也 鎌田 哲郎

 月刊トレーニング・ジャーナルでも野球のトレーニングについて執筆中の吉松俊一氏のほかに、野球に関わりの深い2人の医師が、少年や球の指導法について、スポーツ医科学の視点に立って、しかも十分わかりやすく解説した書。
 第1章から4章までは、文字通り子どもの体力やトレーニングを中心に述べてあり、第5章ではスポーツ障害とその予防、第6章子どもの日常と生理および心理、第7章少年野球の科学、と野球をよく知っている医師ならではの内容で構成されている。とくに第4章の年齢別基礎体力トレーニングは、野球に限らず、子どもの運動を指導する人が基本とする事柄が多く述べられている。指導者や親にとって、子どものからだについて再認識するうえでも面白い本といえるだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:1983-01-10)

タグ:野球 
カテゴリ トレーニング
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健康・運動の科学 介護と生活習慣病予防のための運動処方
田口 貞善 小野寺 孝一 山崎 先也 村田 伸 中澤 公孝

 生活習慣病や介護、というと中高年の問題というイメージがあるが、その前から自らの健康を考えてもらえるようなアプローチも含んでいる。高齢化が進む社会において、スポーツ科学は教養として知っておくべき分野かもしれない。その点で本書は図表や写真が多用されていて、わかりやすく説得力がある。
 また、骨粗鬆症や転倒など、症状ごとの予防対策はもちろん、肥満者や身体に痛みのある人に対して運動を処方する場合の注意点にも多くページを割いている。すでに運動指導の現場で活躍している人にとっても、今後は健康な人ばかりが指導を受けにくるわけではなくなっていくことを考えると、大いに参考になるのではないだろうか。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2013-03-10)

タグ:運動処方  
カテゴリ スポーツ医科学
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知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦
けいはんな社会的知能発生学研究会

「人間らしさとは何か」
「自己と他者の境界はどこか」
「『私』が『私』であるとはどういうことか」
 このことについて、自分の考えを論じられる人はどのくらいいるのだろうか。私のように思索などとは無縁の者は、考えることすらままならず、そういうのは哲学者や文学者にお任せ…と諦めてしまう。
 本書は人工知能の話で、ロボットの開発者がこういう哲学的な問題に正面から取り組んでいるというところが面白い。人工知能やロボットの開発といっても、人間そっくりのロボットをつくりたいという正統派から、人間理解の手段として人間の本質を再現するようなロボットをつくって動かしてみるという人まで、いろいろなアプローチがあるのだが、とにかく「人間らしいロボット」をつくるためには、まず「人間らしいとはどういうことか」について議論しなければならない。言われてみればもっともである。
 以前、地域スポーツクラブの立ち上げをお手伝いしたとき、会員管理システムが必要だということになった。でも、パッケージものではこちらの要望に合うものがなさそうだし、それをカスタムしてもらうとなるととんでもない金額になる。そんなとき、知り合いのSEがボランティアでプログラムを組んであげると言ってくれたので、渡りに船とばかりにお願いすることにした。クラブの負担はサーバーやクライアントなどのハードウェア代だけ。関係者は「いやはや、これぞまさしく地域総合型だねぇ」などと調子に乗って好き勝手に要望したら、SEさんから「そんなの無理」と一蹴されてしまった。結局、ルーチンワーク中心の事務システムに落ち着いたのだが、どうやら、我々が普段何気なく判断している「◯◯のときは□□、だけど◯△になったら□×、さらに△◯となったら××」ということをコンピューターにやらせるのは、大変なことのようだ。
 人間の事務を肩代わりさせる道具としてのシステムでさえこうなのだから、人間らしい人工知能となるとそれはもうものすごく大変なのだろうということは素人なりに想像できる。近い将来、人間そっくりなロボットが出現するのだろうか。楽しみなような、怖いような…。
(尾原 陽介)

出版元:講談社

(掲載日:2013-05-27)

タグ:ロボット 
カテゴリ その他
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乳酸 「運動」「疲労」「健康」との関係は?
八田 秀雄

 からだワンテーマシリーズの1つ。…について、見開き2ページのQ&A方式(70項目)で解き明かしていく。1ページを質問と回答に、もう1ページをイラストやマンガで説明している。
 乳酸は、これまで疲労物質と考えられてきており、現在も根強いものがある。これはおそらく運動負荷と相関があり、比較的安定している物質であること、さらに簡便な計測装置が開発されたために起こってしまった誤解であろう。乳酸は、実は運動時のエネルギー輸送にも大きく関わっているようだ。また、高強度運動時に乳酸が蓄積していると、(酸性条件のために)筋内のカリウム漏出を抑えている働きがある可能性があるという。
 結局のところ「疲労を乳酸だけで説明づけてしまうのはおかしなことです」という一言に集約されるが、ある時点での正しいとされる概念も、常に科学的姿勢で向かい合っていく、あるいは根拠ある主張であれば耳を傾け、改めるべきものは改めるべきであろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2007-12-10)

タグ:スポーツ生理学 乳酸  
カテゴリ スポーツ医科学
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体幹ランニング
金 哲彦

 本書は、走行フォームの比較写真から始まる。ありがちな「脚だけランニング」と「体幹ランニング」を並べたもの。体幹ランニングで意識するポイントは丹田、肩甲骨、骨盤の3つ。「歯車」の働きをする体幹の筋がバランスよく働くことで、効率のよい走り方が可能になるという。体幹が使われているかどうかを簡単なチェックテストで確認し、日常生活の中で体幹を鍛えることができる立ち方、歩き方についても写真入りで解説。巻末にはエクササイズシートもついている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2008-03-10)

タグ:ランニング 体幹  
カテゴリ 運動実践
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新版これでなっとく使えるスポーツサイエンス
征矢 英昭 本山 貢 石井 好二郎

 たとえば、「1日に何度も競技がある場合のウォーミングアップは?」という質問があった場合、どのように答えるだろうか。本書は最新の研究成果に基づき、現在考えられる回答を分かりやすい口調でまとめられている。1つの項目が2〜4ページとコンパクトにまとめられているのも特徴。各項目で「まとめ」として要約がついているので、結論部分を知りたいときに素早く回答が得られる。また、データがグラフとして、あるいは図として示されており、考えを深めることができる。2002年に出版されたものに改訂が加えられて新版となった。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2008-04-10)

タグ:スポーツ医科学 入門  
カテゴリ スポーツ医科学
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格闘技「奥義」の科学
吉福 康郎

 私は今、ボクサーのトレーニング指導をさせてもらっています。「いかに効率よく相手にダメージを与えられるか?」ボクシングという複雑な競技特性を踏まえ、身体づくりを行っています。
「思いっきり殴ればいいやん!」以前、言われたことがあります。相手が止まっていて、反撃してこないのであれば可能でしょう。しかし、現実は相手も攻撃をしてきますし、こちからの攻撃に対して防御をしてきます。当然こちらも相手の攻撃に対し、防御をしないといけません。まさに攻防一体です。
 本書はボクシングだけでなく、格闘技の要素、殴る、蹴る、投げる、受けなど幅広い要素を科学的な目でみた内容が書かれています。派手なデモンストレーションの裏ワザ的なことも…。バイオメカニクスの部分と合わせて書かれていますので、より効率的な動きづくりを考えていく上で内容の濃い一冊になっています。
(大洞 裕和)

出版元:講談社

(掲載日:2014-03-18)

タグ:格闘技 バイオメカニクス 
カテゴリ 運動実践
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健康・運動の科学 介護と生活習慣病予防のための運動処方
田口 貞善 小野寺 孝一 山崎 先也 村田 伸 中澤 公孝

 サブタイトルにある介護の部分では、我が国が取り組んでいる介護予防の事業についてもわかりやすく詳しく記載されている。私はこの事業にも関わっていたが、運動指導を生業とする方にとっても、今後この事業が身近に感じられる領域であることは間違いないと言っても過言ではないだろう。
 また実践的な視点からでは、著者らが研究結果から効果的な運動を紹介されている。私にとっては目新しい運動が数多く、またわかりやすく記載されており、新たな引き出しが増えて勉強になった部分である。
(河田 大輔)

出版元:講談社

(掲載日:2014-04-16)

タグ:運動処方 生活習慣病 健康科学 
カテゴリ トレーニング
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隠居学 おもしろくてたまらないヒマつぶし
加藤 秀俊

「脈略のなさ」それが本書の真骨頂なんでしょう。興味深い話題が延々と続くわけですが、それら1つひとつにつながりはありません。なんとなれば隠居にはこれをやらなければいけないという目的がないからです。
「現役」にはそれぞれすべきことがあります。現役を退いた隠居という立場においてはそういった義務的な縛りがありません。だからこそ思い浮かぶままに好きなことを考えられるし、他愛もない事柄に興じることもできるのでしょう。
 それでも、今まで人類が築き上げてきた科学的知識の一片一片は思いつきから始まり、それらが連鎖して人類の財産とも言える知識に膨れ上がったのであるという主張に、筆者の隠された気概を感じずにはいられません。
 本書に漂う一種の解放感は現役の私たちから見ればこの上なく自由にも見えますし、あるいは話の展開の身勝手さに辟易する人もいるんじゃないかと想像してしまいました。本書をどう捉えるかも自由。いずれくるであろう自分の隠居生活を頭に描きながら筆者の世界に没頭するもよし。雑学を身につけたいという目的を持って読むのもよし。自分なりの筆者とのスタンスで楽しめると思います。
 目的があり必要に迫られて覚えようとしたことより、興味本位で調べたことの方が案外覚えているもの。そういった知的好奇心をくすぐる内容が盛りだくさんの一冊です。
(辻田 浩志)

出版元:講談社

(掲載日:2014-02-04)

タグ:隠居 好奇心 
カテゴリ エッセイ
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回復力 失敗からの回復
畑村 洋太郎

 筆者は東大の工学部の名誉教授である。工学という、失敗学とは一見全く違う分野の専門家として日本最高峰の領域で学生を教えた中で、失敗学を専門とした理由は深い。生死を分ける様々な失敗を身近で体験した筆者が、失敗した当事者がどのように失敗と付き合い、どのようにすれば復活できるかを伝授しているのがこの本だ。
 彼が失敗談を聞いていく中で強く思ったのは「人は弱い」ということだった。人は失敗によってダメージを受けると、穴が開いたような状態になってエネルギーが漏れていってしまう。つまり、ガス欠状態だ。そんな時は自分の弱さを受け入れることがはじめの一歩となるというのだ。
 また、失敗に立ち向かえないときの応急処置も載っている。面白いことに一番は「逃げる」、そして「他人のせいにする」「美味しいものを食べる」「お酒を飲む」「眠る」「気晴らしをする」「愚痴を言う」と続く。
 今の日本では、頑張って正当性を主張したところで報われるほうが少なく、大抵はいびつな議論に負けて挫折してしまうことも多い。自分に非があると自覚しているときに、それを素直に認めることのほうが態度としては正しいだろう。しかし、この社会では失敗した人が非を認めると、そのときからそれが絶対的な真実として扱われる。そして、弱いものは徹底的に叩かれるのである。それに対して筆者は、周りからの責任追及に決して潰されないこと、必要に応じて逃げるなどの一時避難をして、何をおいても生き続けることが大切だと訴える。
 人は誰でも失敗する。そして、誰もがそこから回復するための力を持っている。乗り越えるために必要なのは、そのものと正対して生きていくためのエネルギーをつくり出すための考え方。それを筆者は失敗学を通して導く。失敗も成長のために積極的に取り扱おう、とポジティブになれる一冊だ。
(服部 紗都子)

出版元:講談社

(掲載日:2014-08-08)

タグ:リハビリテーション 失敗学 
カテゴリ 人生
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「宿澤広朗」運を支配した男
加藤 仁

 ラグビーワールドカップで、日本は一つだけ白星をあげている。そのときの監督である宿澤広朗の話である。
 宿澤が早稲田大学3年生のときの日本選手権は、伝説となるほどの大接戦であった。1972年1月15日、その日は雪の決戦だった。相手は三菱自工京都。前半、早稲田がリードするものの、後半29分に逆転された。しかし、終了3分前に早稲田の佐藤のキックしたボールが弾まないはずの雪のグラウンドで跳ね上がり、ウイング堀口の胸におさまり、そのまま走り切り、逆転のトライとなってノーサイド。翌日の新聞は、この勝利を「奇跡」「勝利の女神が舞い降りた」と報じた。
 しかし、宿澤はこう言った。「あれは偶然じゃない。何万回も練習しているんだから当たり前なんだ」と。ここに、宿澤の生き様の全てが垣間見られるように思う。
「勝つことのみが善である」が口癖の宿澤は、選手として、監督として、そして、銀行マンとして常に勝つことにこだわった。得てして人は、結果の出ないことを周りのせいにしてしまう。あるいは、勝負から逃げてしまう。しかし、もしかしたら宿澤のように勝ちにこだわるからこそ努力できるのかもしれない。
「努力は運を支配する」。宿澤は確かにそれを信じていた。
(森下 茂)

出版元:講談社

(掲載日:2014-10-01)

タグ:ラグビー 
カテゴリ 人生
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運動しても自己流が一番危ない 正しい「抗ロコモ」習慣のすすめ
曽我 武史

 ロコモティブシンドロームの予防ということで運動指導をしているトレーナーは数多くいる。しかし、それ以上にロコモティブシンドロームや、その予備軍となる方は多いであろう。そうなると運動指導者と巡り会えずに自己流でのトレーニングとなる方は少なくない。自分1人で運動をすることが悪いのではなく、やみくもに身体を動かしているだけで筋肉を機能的に使えておらず、筋力が低下していく「運動をしている“つもり”」が危険だということだ。
 本書ではその“つもり”がないように、運動のコツをわかりやすく3つ紹介してくれる。また、ロコモ予備軍のチェック法からトレーニングまで簡潔に書き記されている。運動を推奨する書籍であれば、筋トレのバリエーションを豊富に取り上げそうだが、本書は違う。シンプルなトレーニングを効果的に取り組むことを伝えようとしていることがわかる。同時に日常生活にも目を向け、何に注意するかも理解できる。
 一方、トレーナーとして拝読した私にとっては、初心を思い出させて頂いた一冊となった。本書に書かれている内容はトレーナーがクライアントに伝える基礎の部分であった。
 トレーナーが一読してクライアントに伝えてもよし。運動をしよう、している人が読んでもよし。本書が読まれ、日本の健康寿命が伸びる1つのきっかけとなってほしい。

(橋本 紘希)

出版元:講談社

(掲載日:2014-10-15)

タグ:トレーニング 生活習慣 運動指導 ロコモティブシンドローム 
カテゴリ 運動実践
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分子レベルで見た体のはたらき
平山令明

 人の身体は何からできているか考えたことはありますか?
 人間の身体の細胞はどれだけあり、どんな働きがあるか考えたことはありますか?
 「分子」というと難しさが出てくるかもしれませんが、本書は文章だけでなく図やCD-ROMを使い、よりわかりやすく解説されています。身体についていろんな情報が出ていますが、より深めていくと面白いことがわかってきます。本書は自分の身体についてそんな面白さを深めていける一冊です。

(大洞 裕和)

出版元:講談社

(掲載日:2015-07-06)

タグ:分子 身体 
カテゴリ 生命科学
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動きが心をつくる 身体心理学への招待
春木 豊

 長年の研究成果をまとめた著書「身体心理学」に続き、身体の動きと心の関係を明らかにしていく。「身体」ではなく「身体の動き」に着目しているのが興味深い。例示された中でも呼吸や姿勢を始め、筋反応といった切り口はスポーツにも通ずる。筋弛緩により心の緊張もほぐれるといった具合である。
 全体としてはアカデミックな内容で、直接日々のスポーツ活動に応用できるというわけではないが、普段と違った視点から動きについて考えると、新たな発見があるのではないだろうか。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2012-07-10)

タグ:身体 動き 
カテゴリ 身体
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ルーズヴェルト・ゲーム
池井戸 潤

企業チームの存在意義
 中堅電子部品メーカーの青島製作所は、折からの不況と金融恐慌に端を発した経営不振に対応するため、リストラを断行しようとする。それはノンプロ野球部も例外ではない。かつて名門と呼ばれたが、今では完全に会社のお荷物チーム。会社は危機を乗り越えられるか?
 野球部は廃止か、存続か?100人規模のリストラを断行しようとしているのに、年間3億円の経費がかかる野球部をなぜ存続させるのか。リストラの対象となった社員にはとても納得のいくものではない。たとえどんなに勤務成績や態度が悪くても、午前中しか仕事をしていない野球部員よりは会社に貢献しているはずだ。私が青島製作所の社員だったとしても、リストラよりも野球部廃止が先だと考えると思う。当の野球部員は、「会社の活性化」とか「広告塔」という言葉にすがり、とにかくよい成績さえ残せば何とかなるのではないかと考えているのだが、それが何だか浮いているように感じられてしまう。会社内には、廃止意見ばかりでなく存続を望む声もあるのだが、存続させる意義を最後まで明確に打ち出せない。
 本書を「逆転を信じてあきらめずに最後まで戦い抜く人たちの物語」として読めば、ラストは「よかったよかった」で読み終われると思う。しかし、野球部にとっては、なんの解決にもなっていない結末でもある。新たなパトロンを見つけてラッキーというだけで、そのパトロンも代替わりをしたりすれば結局また、同じことが起こりうる。

プロスポーツチームが行う本当の地域貢献とは
 プロランナーの為末大さんが、著書「インベストメントハードラー」(講談社)でこんなことを書いている。「誰が私の何に対価を支払っているのかを常に考えるようになりました。(中略)スポーツは、必ず必要というものではありません。なくなっても生活がままならなくなることはない。けれども、スポーツは世の中から必要とされていて、スポーツ選手という職業が存在しています」。また、クリエイターの糸井重里さんも同じようなことを言っている。「クリエイティブの仕事は、必要のないものだけど、欲しがられるものだとぼくは思っている」。
 私の住んでいる富山県には3つのプロスポーツチームが存在する。サッカーJ2「カターレ富山」、野球独立リーグ「富山サンダーバーズ」、バスケットボールbjリーグ「富山グラウジーズ」である。それぞれが地域貢献を掲げ、本業のプレー以外にもさまざまな活動を展開しているが、首をかしげたくなるものも多い。海岸清掃のボランティアや交通安全キャンペーンのチラシ配りである。そういうことをしてほしくて行政や地域や個人が支援しているわけではないだろうに、と思ってしまう。チームは、誰が何に対して対価を払ったり支援したりしているのか、プロスポーツチームが行う本当の地域貢献とは何か、ということをもっと真剣に考えてはどうだろうか。

手段以上の「何か」としてのスポーツ
 これ以上書くとどこからか叱られそうなので、話を元に戻す。スポーツにお金をかける意義って何だろう。
 スポーツが何かの手段として扱われるようになって久しい。子供がスポーツをすることは学業成績やコミュニケーション能力に好影響を与えるとか、メタボの予防や改善にスポーツをしましょうとか、そういった文脈で語られることが増えてきた。スポーツを単なる手段としかとらえていない人は、その成果に対して対価を払う。もっと安価で効率的な手段が見つかればさっさとそちらに乗り換えてしまうだろう。
 では、私たちのようなスポーツを手段以上の何かと思っている人たちは、何に対して対価を払っているのだろうか。それは、上手く言えないが「スポーツそのもの」ではないだろうか。スポーツは「必要はないけど、欲しがられるもの」というよりも、「捨てられないもの」なのだと思う。何度整理整頓しても、捨てられなくて手元に残ってしまうものが誰にでもあるだろう。たとえば子供が小さい頃に書いてくれた似顔絵や、父の日にくれた手づくりの贈り物。スポーツはそれに近いのではないか、と思う。
 役に立つとか立たないとか、必要か不要かではなく、スポーツそのものを楽しみたいし、子供たちにもそう伝えていきたい。ただこれではやはり、スポーツにお金をかける意義について、うやむやなままなのだが……。
(尾原 陽介)

出版元: 講談社

(掲載日:2012-08-10)

タグ:野球  
カテゴリ フィクション
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トレーニングをする前に読む本 最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり
石井 直方

 本書は1991年から連載してきた身体関連のコラムを書籍にまとめたものを、文庫化したものだ。それでも最新と冠しているのは、研究の最前線にいる著者が適宜加筆しているためだ。
 扱うトピックはダイエットなど一般スポーツ愛好者の興味の大きい分野が主だが、記述は分子レベルまでおよぶ。これまで専門的にスポーツ科学や運動生理学を学ぶ機会のなかった人にとって、基礎となりうる一冊だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2012-09-10)

タグ:トレーニング スポーツ生理学 
カテゴリ トレーニング
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ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか
鈴森 康一

ユニークな本
 冒頭に「生き物は、自然界で長い進化の歴史を経て生まれたもの、いわば『神様が設計したロボット』である」という言葉が書かれている。本書はロボットの設計者が、理詰めで考えに考えてたどり着いた結論に、生き物が先に到達していることに対する畏敬の念と、それを超えたいという野心とが入り混じった、非常にユニークな本である。私のような工学的知識の皆無な者にはよくわからない部分も多いが、そういうことを気にせずに楽しく読めた。
 しかし私は、これには少し違和感を覚える。ダーウィンの進化論は「変化(進化)には目的も方向もない」ということを基本としている。そして、「生き物は枝分かれを繰り返すことで多様性を増してきた」と主張している。途絶えてしまった枝は二度と復活しないし、枝が後から交わることもない。しかし、ロボットは何かの目的のために設計されるものである。枝を分かれさせるのも交わらせるのも、途絶えた枝を復活させるのも人間の意図次第で可能だ。
 そう、生き物は意図的にその形や機能を獲得したのではなく、今生きている種は、枝分かれを繰り返して今も途絶えていない種だというだけである。たとえそれらが理にかなっている形態や機能を持っていて、それを神様が設計したのだとしても、自分の設計したロボットが意図せずそれに似てしまったというのは、ロボット設計者の傲慢ではないだろうか。それは、自分たちが神様に近づいたと言っているのと同じだから。そのうち自分を創造主と錯覚してしまうのではないか、というとSF漫画の読み過ぎだろうか。
 ロボットは、色々なタイプの試作品を作り、改良を加えたり、後戻りして設計しなおしたりして、より完璧を目指すことができる。一方、生き物も確かによくできている。しかし、理詰めで設計されているわけではない。手持ちの能力で何とか目の前の現実に対処してきた結果の産物である。生き物の機能や形態や行動が理にかなっているというのは、後づけの理屈なのではないだろうか。『PLUTO(プルートゥ)』という漫画をご存知だろうか。鉄腕アトム「地上最大のロボット」を浦沢直樹さんがリメイクしたものである。ロボットに「命」はあるのか。ロボットが感じる喜びや悲しみや怒りや憎しみといった「心」は本物だろうか。結局、ロボットと人間はどう違うのだろうか、という問いかけがドスンと伝わってくるすごい漫画である。
 現実の世界では、ロボットはどこまで発達するのだろうか。従来のロボットのイメージは産業用ロボットのようにパワフル・頑丈・正確というものであった。しかし近年、生き物のように柔らかさを備えたロボットの研究開発が進んでいるらしい。スキッシュボットという大きさや形や柔らかさが自由に変わるロボットは、身体の形を自在に変えて狭い空間にも入り込んでいける。ドラえもんの手にそっくりなロボットアームは、相手の形に合わせて形を変えることでどんな形状のものでもつかむことができる。意外に感じるが、従来のロボットはドアノブを持ってドアを開けたり、ビーカーのような硬くて割れやすいものをつかむのが苦手であった。しかし、ロボットが柔らかさを獲得することでそれらが可能になる。さらに、多少の損傷なら壊れた組織を自分で修復してしまうようなロボットの実現の可能性も示唆されている。
 こうなると、漫画や映画の世界が現実のものになるということも、全く否定できなくなりそうだ。人工知能が飛躍的に発達し、「心」が芽生えることも近い将来本当にあるかもしれない。

命は生き物にしかないか
 本稿の構想を練っている時期に、私は身近な人を2人も亡くした。このことは、私に生命について考えるという機会を与えてくれた。
 ロボットが生き物に近づけば、それを「命」と呼ぶようになるのだろうか。ロボットが稼動している状態を「生きている」というのだろうか。ロボットが修理不能となり廃棄せざるを得なくなったことを「死」と捉えるのだろうか。長年苦楽を共にしたマイカーを廃車にするときに泣いた、という話はよく聞くが、それとは違う次元でロボットにも「命」があると言えるのか。それとも、「命」とは生き物にしかないものなのだろうか。
 生き物とロボットの違いってなんだろう。

(尾原 陽介)

出版元: 講談社

(掲載日:2012-12-10)

タグ:進化 形態 
カテゴリ 身体
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運動しても自己流が一番危ない 正しい「抗ロコモ」習慣のすすめ
曽我 武史

 トップスポーツの現場で豊富な経験を積んできた著者が、これからの社会においてはロコモティブシンドローム(通称ロコモ)予防が不可欠だと説く。
 ロコモ予備軍の特徴として、運動習慣はあるが自己流だったり、自分の年齢ならまだ関係ないと思っている場合が多いという。それらの誤解を解くためチェックポイントを提示し、各項目に当てはまる人の身体はどんな状態かを丁寧に解説している。その上で、後半では呼吸法や姿勢を整えるエクササイズに触れる。電車で1駅でも座ってしまうか、水溜りを跨ぐか横に避けるかといった日常の動作から身体の状態と必要なエクササイズをつなげていく理論が整理されていて、読者自身の理解はもちろん、他人にロコモ予防について説明する際にも大いに参考になるだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2013-10-10)

タグ:運動 
カテゴリ 運動実践
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自分で正しく巻けるスポーツテーピング
曽我 武史

 20年近くトップアスリートをサポートしてきた曽我氏が、応急処置やケガの再発予防として欠かせないテーピングを丁寧に解説している。
 1つの手順でも、重要なものや難しいものは反対側から見た図、正面から見た図など複数の写真を掲載。さらに、「この1本は強く」「剥がれにくいよう端を折って」といった、経験豊富な曽我氏ならではのコツも添えられた、わかりやすい入門書となっている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2014-06-10)

タグ:テーピング 
カテゴリ アスレティックトレーニング
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ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」
荒木 香織

変化に不可欠なもの
 触媒とは、それ自身は変化をしないが、他の物質の化学反応のなかだちとなって、反応の速度を速めたり遅らせたりする物質と定義される。つまり必要な変化を必要なタイミングで起こすための引き金になる存在だ。今のトップチームを組織するスタッフは多種多様になり、その組閣はチーム運営に多大な影響をもたらす。選手とスタッフの正しい巡り合わせは、強いチームづくりに不可欠な条件だ。
 2015ラグビーワールドカップで強烈なインパクトを残した日本代表チームはまぎれもなくエディ・ジョーンズHCのチームだった。そして猛将の描く「ジグゾーパズル」を完成するための「ピース」となり得る人々が集まり、身を削りながら働いて、主人公である選手たちを支えたのだ。本書の著者である荒木香織氏も、メンタルコーチという立場で極めて有益な触媒作用をチームにもたらし、選手たちの中に望ましい変化をもたらした。五郎丸選手のプレ・パフォーマンス・ルーティーンとの絡みが注目されがちだが、その作用は実に多岐にわたることが伺われる。
 本書で荒木氏はまずこう宣言している。「私は、スポーツ心理学をきちんと学問的に学び、研究し、そこから導き出され、確立された理論を体系立てて理解して」おり、世に蔓延する科学的理論に基づかない自己啓発やハウツーとは一線を画しているのだと。根拠のない経験や感覚でメンタルコーチングは行えないと言い切っているのだ。そもそも「心理学」という言葉が独り歩きして、人を安易にカテゴライズしてわかったような気にさせたり、簡単に人を変えられるといったハウツー本が目に余るのも事実だ。人の心、脳の働きはまだまだ未知の部分が多く、現状わかっていることだけが全てではないが、「人々のスポーツや運動の場面における行動を心理学的側面から研究」し、「様々な実験を行い、統計をとり、ときにはコーチやアスリートにインタビューをして、パフォーマンスと心理的傾向の関係などについて検証する」ことを今なお続け、常に世界の最新の情報を得ることにより、新しい手法を創造していく作業も怠っていない」と声を大にして言い切れる人がどれだけ存在するかは疑問である。
 実は10年ほど前、社会人ラグビーのトレーナーを務めていた私はチームへの心理学の専門家導入に失敗した経験がある。セミナーや心理テストをし、カウンセリングを行うなど、心理学の専門家に定期的に介入してもらったが、選手自身の関心も低く、私自身も無理だと早々に諦めてしまった。トレーナーの立場からアプローチすればいいとタカをくくっていたのかもしれない。選手が自分のことを見つめるための個人日誌も、結局はうまくいかなかった。そのときのチームにおいて選手の自立や自律を高める必要があるとわかっていたにもかかわらずだ。その難しさに毅然と立ち向かえなかった愚かな自分を棚上げして言えることは、もっと若い世代の育成中に様々なベースを作っていく重要性を痛感したことだ。

大きなチャンス
 今回のラグビーW杯で彼女の存在が注目されたことは大きなチャンスだ。ラグビーの世界では、トップチームを中心ではあるがS&Cの存在が当たり前となり、アスレティックトレーナーが普及し、栄養士が関わり、分析担当が配備されるようになるなど、スポーツ科学のそれぞれのスペシャリストがチームをサポートする形が整備されてきた。今回のインパクトにより、スポーツ心理学の専門家が関わる場面も増えてほしいものだ。同時にこれらのサポートが、どのような形であれユース世代に普及することを強く願う。
 たとえば高校世代で各種トレーニングの意義や望ましい身体の使い方を意識する。戦術についての理解を深め、創造することができる。日々食べるものを自己管理する。傷害について理解して予防対策を取り、受傷した場合もそれを克服した上で復帰する。物事の捉え方や考え方のスキルを身につける。そしてこれらを言われたことを鵜呑みにして行うのではなく、自らの考えと判断のもとに望ましい行動に移すことができれば、ラグビー選手としてのみならず、人としての成長に非常に効果的な触媒になることが期待できるのではないだろうか。これは結果的にトップの代表チームの底上げにつながるはずだ。
 それぞれのスペシャリストを各チームに配備するのはまだまだ現実的でないが、高校レベルでも優秀な指導者の方々はこういったことを意識して選手の自主性を高めることに成功しているのではないかと思う。そうして成長してきた選手が、若いときの成功に驕ることなく、レベルが上がるに伴いその知見にさらに磨きをかけるべく自らを鍛錬することができれば、素晴らしい人材育成になるように思う。そのためには「心を鍛える」ことが不可欠だ。世界と戦える競技として発展することと同時に、どんなレベルであれ人を心身ともに逞しく成長させる素晴らしいスポーツとして、ラグビーが日本文化にさらに広く普及することを願う。
(山根 太治)

出版元:講談社

(掲載日:2016-05-10)

タグ:ラグビー メンタル 
カテゴリ メンタル
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希望のトレーニング
小山 裕史

そもそもトレーニングとは
 トレーニングとはそもそも何だろう。鍛錬という言葉をあてるなら、それは「体力、精神力、能力などを鍛えて強くなること」ということになる。野生動物はトレーニングなどしないのに優れた能力を持つとよく引き合いに出されるが、彼らは常に生き死にを賭けた大勝負の中で生きている。全力で獲物を仕留めた後や、やっとのことで逃げ切った後は疲労困憊でひどい筋肉痛にしばらく悩まされているのかもしれない。
 それに彼らだって誰もが皆初めから狩猟や逃走がうまいということではないだろう。それでも栄養源を確保しなければ、あるいは逃げ切る力がなければ生き残る確率は急降下する。だからと言って無茶をして肉離れや腱の断裂でも起こそうものならそのまま死に直結するのだから、本番の中で最も効率的な動きを自然と探ることになる。本能の上に経験を積むうちに、無駄なく、より楽に、より安全に生き残る術を獲得するようになるのだろう。
 つまり、自らが存在するその環境に適応し、種を残すために生き残ることそのものが「体力、精神力、能力などを鍛えて強くなること」を余儀なくしているのだ。紛争もなく豊かな国に暮らすヒトは、野生動物に比べればはるかに安全な上、便利な道具たちに囲まれて大して身体を使う必要もない。そんな環境に適応(?)したヒトたちはブクブクと肥えていく。病気などではなく不摂生で重たくなった我が身を嘆いて痩せたいなどという悩みなど、どれほど贅沢なことか。そんな風に考えると、アスリートであれ一般の愛好家であれ、現代人がトレーニングを積む目的には、人間の限界を高めるということと裏表でヒトの本来あるべき姿への原点回帰という側面があるように感じる。

環境への適応
 ともあれ、世にトレーニング理論というものは無数に存在する。ある理論を唱える人がそれ以外の他者を否定するというのはよくある光景だが、未だに唯一無二のゴールデンスタンダードが確立されないのはなぜだろう。どれも決定的でないから、というより、それだけ多様なニーズがあるからだろう。
 環境に適応するということは、与えられたストレスによりよく対応できるようになるということだ。つまりストレスの種類によって進むべき方向が変わるのだ。それが人間本来の姿への歩みであれ、今までにない新たな姿への歩みであれ、自分がありたい姿になるための方法である以上、ヒトの数だけあってもおかしくはない。  本書は、鳥取から世界に独自のトレーニング理論を発信する小山裕史氏の「初動負荷トレーニング」という方法に出会い、その恩恵を受け、魅せられ、今も取り組み続ける人たちのインタビュー集である。ニューヨークヤンキースのイチロー選手を初めとする錚々たるトップアスリートの面々に加え、リハビリテーションとして取り組む方や、アンチエイジングの方法として取り組む高齢者の方々など、一般の人たちも紹介されている。

理想を求めて
 身体が発揮する力を変える要素としては、筋横断面積、筋の種類や構造、筋線維動員数や発火頻度、また伸張反射やそれに伴う相反性抑制など神経と筋のコンディション、大脳興奮水準、関節を支点とした負荷のかかる作用点と筋の停止である力点との位置関係、主働筋と共働筋や拮抗筋の協調性、身体部位同士の協調性、栄養状態、呼吸状態など、枚挙にいとまがない。しかしそれら全ての条件を整えたとしても、各部位が統合された身体全体の使い方を抜きには結局は語れない。筋肉は収縮することがその生理的機能だが、収縮することで関節を動作させることもできれば固定することもできる。50歳手前になって今一度その身体の使い方を磨きたいと空手を始め、ようやく2年半ほどになる私も、自分の身体と奮闘する日々の中、なりたい自分へのトレーニングを続けている。あくまで自分の感覚的な話になるが、正拳突きひとつとっても、末端である手から動作を開始すると、より近位である肩周りの筋はそれを支持しようとし、関節を固定する力が優位になるように感じる。代わりに下半身から腰、そして肩甲骨へと力を伝えることで結果的に拳が前に進むという感覚で動かせば、肩周りの筋肉は動作力が優位になるように感じる。動きの結果だけ見れば同じような形になるが、そのプロセスは拳が走るという感覚で大きく異なる。
 もちろんより大きな筋や関節で発揮した力をより小さな末端に伝えることでその速度が上がるのだが、介在する動くべき関節で筋の固定力が強く、固定すべき関節で動作力が強いとロスが大きくなり、その逆であれば効率的に全身が動作できるという感覚である。
 下半身で言えば、足から歩くのではなく股関節の動作の結果、足が前に進んでいく感覚だ。当たり前と思われるかもしれないが、私にとっては意外に難しい。自分の不器用さを棚に上げるならラグビーという強い外力がかかる競技でのトレーニングを長く行ってきたことも原因のひとつのように思える。外向きに発揮するための内力を効率的に高めるということであれば、先に挙げた中心から末端への感覚は非常に大切だと実感する。しかしラグビーのスクラムやタックルのように大きな外力を流すことなく受け止める場合には、関節の固定力を上げなければ対応できない。
 どちらがいいとか悪いとかではなく、必要なときに必要な使い方が自由自在にできることが理想だと思う。空手の形でも、動作力を高める使い方が多いが、しっかりと、しかも瞬間的に固定することも求められる。肩甲骨や骨盤の使い方を中心にした動きを掘り下げるほど、身体の使い方を習得するための形の価値が深まる。これは楽しい。
 ありたい自分に近づくためにトレーニングがあるなら、ありたい自分になり得る環境づくりや負荷の加え方が必要であり、それは基本的に自分で探り当て、またつくり上げていくものなのだろう。そしてイチロー選手が本書の中で自身が取り組む「初動負荷トレーニング」を指して言うように、「本来人間が持っている能力をさらに大きくできる」ものであるべきなのだ。己がどうあるかという生き方そのものに通じることでもあるのだから。
(山根 太治)

出版元:講談社

(掲載日:2014-11-10)

タグ:トレーニング 
カテゴリ その他
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リアライン・トレーニング体幹・股関節編 関節のゆがみ・骨の配列を整える最新理論
蒲田 和芳

 近年、さまざまなトレーニング方法が紹介されているが、どれも正常な関節運動が前提となっている。現状ではスポーツ活動はもちろん成長に伴って何らかのマルアライメント(骨の配列の崩れ)を抱える場合が多数だ。それを修正するリアライン、維持するスタビライズ、マルユース(崩れの原因となる動き)を修正するコーディネートの3ステップをまとめた。
 アスリートを支える熱意に満ちている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2014-11-10)

タグ:アライメント 
カテゴリ スポーツ医科学
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一流選手になるためのスポーツビジョントレーニング
石垣 尚男

 著者はスポーツ選手の「見るチカラ」を「スポーツビジョン」と定義する。これは健康診断などで測定する「視力」に限らない。
 本書では冒頭にてトップ選手がプレー中どこを見ているかを分類。固定されたゴールを狙う競技、1対1の対戦競技など特性に合った眼の使い方が必要だとわかる。続いて眼のしくみに触れた上で、スポーツ(動作)と見ることの密接な関係をデータを用いて説明。最後にトレーニング方法を解説する構成となっている。特別な器具は必要なく、空き時間や練習中に取り入れられるものばかりだ。
 現場に役立つ提案を、という著者らの想いがうかがえる。持っている技術や体力をなかなか発揮できない選手へのアプローチとして参考になるのではないだろうか。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2015-03-10)

タグ:スポーツビジョン 眼 
カテゴリ スポーツ医科学
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これからの健康とスポーツの科学 第4版
安部 孝 琉子 友男

「これからの」と冠した本書は、2000年の初版発行から5年ごとに改訂を重ね、第4版を数える。資料の更新はもちろん項目の追加もあり、現代社会においてどう健康を保つか、取り戻すかという意図が感じられる。
 生活スタイルを見直し、運動を習慣づけるのが基本だが、運動の的確な方法・量の見極めは簡単ではない。また、安全に行うことができる必要がある。よってその2点に多くページが割かれている。子どもから高齢者まで、正しい科学の知識に基づいたスポーツとともに生きるためのバイブルと言える。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2015-06-10)

タグ:健康 スポーツ科学 
カテゴリ スポーツ医科学
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乳酸を活かしたスポーツトレーニング(新版)
八田 秀雄

 初版から15年。カラー化し、最新の研究動向も盛り込んだ。この15年の間に「乳酸が溜まるせいで疲労する」といった短絡的なイメージは解消されつつあるが、「どんな物質で、どのような働きをするのか」については一般の人にはまだよく知られていない。それを乳酸研究の第一人者が丁寧に解説。乳酸が運動のエネルギー源として使われる流れを理解する助けとして、乳酸トランスポーターにも触れる。
 そして後半では、乳酸を切り口にした効果的なトレーニング方法がまとめられている。
 自分の体内で起きていることが正しく理解できていれば、頑張りどころも自ずとわかるだろう。スポーツに取り組む人を応援する一冊と言える。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2015-09-10)

タグ:トレーニング 乳酸 
カテゴリ スポーツ医科学
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これからの健康とスポーツの科学
安部 孝 琉子 友男

 あなたは健康ですか? 日本の平均寿命が伸びる中、健康寿命についても謳われるようになってきました。男性で71.19歳、女性で74.21歳、平均寿命と比べ約10年から15年何らかの介護が必要となる計算になります。
 健康的な生活を送るためには日頃の生活をいかに過ごすか。日々進化する医療、科学の分野から、日々の生活、運動のポイントがわかりやすく書かれています。
 教科書的要素が多い書籍ではありますが、一般の方でもわかりやすく読みやすい内容になっています。

(大洞 裕和)

出版元:講談社

(掲載日:2016-06-08)

タグ:スポーツ科学 健康 
カテゴリ スポーツ科学
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細マッチョ肉体改造法
古家 政吉

 紹介されるワーク(トレーニングメニュー)は6つ、それもクランチやスクワットなどシンプルなものだ。古家氏はそれを継続すること、最適な強度で行うことこそ重要だと説く。とは言えわかっていてもなかなか始められない、続けられないものだが、本書は古屋氏自身をはじめ「トレーニングによって体型が変わると人生がどう変わるか」が何例も書かれており、読者を動かす力がある。「週1回10分」という無理のない量から取り組んでいき、体型に変化が見え始める頃には、トレーニング効果をより高めるべく食事などの生活習慣を考え直す「細マッチョ脳」も働き出すという。そうなれば理想の体型に向かって、継続することが楽しくなる。
 シンプルで易しいメソッドに、実はトレーニングの醍醐味が凝縮されていることがわかる一冊だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2012-03-10)

タグ:トレーニング 食 
カテゴリ トレーニング
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一流選手になるためのスポーツビジョントレーニング
石垣 尚男

 本書は最近世間で注目を浴びているスポーツビジョントレーニングをわかりやすく説明している。
 脳の半分は視覚情報の処理していることを考えると眼はから得た視覚情報は、とても重要であり、トップスポーツ選手になるほど、瞬間視と言われる要素が長けている。とくに、球技スポーツにおいてはスキル要素と密接に関わっていることを考えると、子どもの頃からスポーツビジョントレーニングを実施する必要性が十分理解できる。
 状況判断能力を高めたい、ボールをしっかり最後まで見ることができるようになりたい選手だけでなく、指導者やスポーツ現場のトレーナーの方々にもぜひお勧めしたい一冊である。
(鈴木 健大)

出版元:講談社

(掲載日:2016-08-13)

タグ:スポーツビジョン 
カテゴリ トレーニング
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マラソン哲学 日本のレジェンド12人の提言
小森 貞子 月刊陸上競技

世界と戦った人たち
 昨年、フルマラソンに初挑戦し、何とか完走できた。タイムは4時間14分。中間地点では、世界のトップならそろそろゴールかな、と考えるだけの余裕があった。その後、楽しかったのは30km過ぎまで。あとはひたすら、早くゴールについて休みたいと考えていた。
 さて、本書。12人の“レジェンド”たちが、2020年東京オリンピックで、日本選手がマラソンでメダルを取るために必要なことを語るというもの。登場するのは、宗兄弟をはじめとする一時代を築いてきたそうそうたるメンバー。 内容は提言というよりも体験談という印象。マラソンが強くなる直接的な方法は示されてはいないが、世界と戦ってきた人たちが肌で感じたことを読むことができるよい本だと思う。

余裕をもって、走れるか
 本書には、大きな大会前に行った練習メニューが紹介されている。僕のような長距離の素人には、悲しいかな「ものすごくたくさん走っているな」という感想しか浮かばない。一つ一つのメニュー自体には目新しいものはないように思う。しかしその組み合わせ(距離や時間、ポイント練習の内容、ポイント練習とポイント練習との間隔など)が、レベルの高いことを余裕をもってできる力をつけるためのキモなのだということはおぼろげにわかる。
 そう、この“余裕をもって走る”ということが、それぞれが共通して発信している重要なメッセージだ。余裕を持って走り続けられるペースを少しずつ少しずつ高めていく。そしてそのためには、矛盾するようだが、限界ギリギリでトレーニングをする。本書の中で、高橋尚子さんがこんなことを言っている。
「『今日の練習、きつくてイヤだな』と思う気持ちが芽生えた時こそ、実は一番伸びるとき。乗り越えなければならない壁にぶち当たって、その壁を乗り越えたら、一段上に行ける。」
 そういえば、私が以前レビューを書いた『ウサイン・ボルト自伝』にも「乗り越えるべき瞬間」という言葉があった。「それは、身体があまりの痛みに耐えられなくなり、アスリートに向かってやめろ、休めという信号を発してくる瞬間のことだ。それこそが、成功への秘訣を手にできる瞬間なのだ。もしもその選手がその苦しみを乗り越え、もう2本いや3本余計に走ることができたら、そこから身体能力は向上して、それから選手はどんどんと強さを増していく。」
 山下佐知子さんも、指導者としての立場から、もどかしさを吐露している。「トレーナーや栄養士がチーム内にいるのが当たり前になっている中で、本来どんどん踏み込むためにケアするはずが、何かを守る方に行き過ぎている気はする」と手厳しい。「今の選手は・・・」という言葉が多く出てくる。それは、ありがちな若者批判ともとれるのだが、それだけではないと思いたい。
 為末大さんは著書『諦める力』のなかで、「スポーツはまず才能を持って生まれないとステージにすら乗れない」と書いている。レジェンドたちは、今の若い選手たちが、せっかくステージに乗れるだけの才能を持っているのに限界ギリギリの練習をしていない、もったいないと歯がゆく思っているのだ(もちろん反論はあるだろう)。私も数あるスポーツの才能の中で、壊れない身体というものがとても重要だと思っている。限界を乗り越えてなお、走り続けられる頑丈な身体というのは、どんな高度な技術よりも優先的に獲得すべき能力だと思う。

準備して楽しみたい
 私は本書に登場する選手たちの活躍をリアルタイムで見ていた世代である。中山竹通選手は、ソウルオリンピックで4位入賞を果たしたレース後に「1位になれなければ4位もビリも一緒」と言ったと伝えられる反骨の人。“Qちゃん”高橋尚子選手は、これまでの歯を食いしばって根性でゴールにたどり着くという日本女子マラソン選手のイメージをガラリと変え、風のように駆け抜けた姿が印象的だった。そんな個性的な選手たちが現役時代に何を考え、どのように走っていたかに触れることができる、心躍る一冊である。
 さて私はというと、前回のマラソンのゴール直後は「もう2度としない」と思ったはずが、またもやフルマラソンにエントリーしてしまった。走りに余裕など持ちようがないのだが、どんなにレベルは低くとも、走るからにはしっかり準備してマラソンを楽しみたいと思っている。
( 尾原 陽介)

出版元:講談社

(掲載日:2016-08-10)

タグ:マラソン 
カテゴリ 指導
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強くなりたいきみへ! ラグビー元日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズのメッセージ
Eddie Jones

 ラグビーのコーチを20年以上続けているとよく、「どうしたら勝てるんですか?」ときかれます。必ずわたしはこう答えます。
「あなたは、どうやったら勝てると思いますか?本気で考えていますか?」
わたしが日本代表ヘッドコーチになって最初に取り組んだこと。ーそれは、いわれたことをやっているだけの選手たちに、自分自身で「どうやったら勝てるか」を考えて判断できるように、変わってもらうことでした。(本文より引用)

 この本は、記憶に新しい2015年ラグビーW杯で、世界的な強豪チームである南アフリカ代表相手に歴史的勝利をおさめた、当時の日本代表チームのヘッドコーチであったエディー・ジョーンズ氏によって書かれている。4年間でいかにして強いチームを作ったか、その軌跡を振り返りながら強くなるための心構えや、彼のひたむきに強さを追求してきた人生観についてご自身の過去にも触れつつ、非常に丁寧に語られており、子ども向けの本だと思って気軽に読むと予想以上に胸を打たれてしまう、ある意味危険な一冊だ。

 世界の舞台での「負けぐせ」がつき、エディー氏のヘッドコーチ就任時はほとんど全員が下を向いて、目を合わせようともしないくらいおとなしかった日本代表選手たち。そんな彼らがW杯でベスト8入りを目指して世界一ハードな練習を乗り越え、なぜこんなに厳しい練習をやる必要があるのかを自分の頭で考え、勝つためにできることをすべてやり尽くし、心も身体も強い集団に生まれ変わるまで、コーチの目線からどんな関わり方をしていったのかが非常に具体的に語られている。

 五郎丸歩選手がスランプに陥ったときに、寿司屋でかけた言葉。
 リーチ・マイケル選手を新キャプテンに選んだ理由。
 前キャプテン、廣瀬俊朗選手の苦悩と貢献、人間的魅力。

 一つひとつのエピソードが「人を強くする」プロであるエディー氏の考えや人柄をよく表現しており、たとえラグビーのような競技スポーツをやっていなくても、子どもから大人まで夢や目標がある人にとっては、心に響く貴重な学びが大いにあるだろう。

 特に、身体が小さくても、大きい相手に勝つ方法はいくらでもある。欠点があっても、あまりそこにはこだわらないで、強みを伸ばすことを考える。そして長所は誰よりもうまくなるように練習し、努力を続ける。このメッセージを伝えるのに、彼ほど適任な人はいないのではないだろうか。エディー氏が指揮をとった、あの南アフリカ戦での日本代表選手たちの戦いぶりこそが、言葉以上にそれを体現している。

 エディー氏自身も173cmと小柄で、ラグビーが大好きだった少年時代から母国オーストラリアの代表選手に選ばれるという夢を追い、選手としてそれが叶わなかった過去を持つ。しかし32歳で選手を引退後、自分はトップ選手になる方法やトップチームをつくる方法を考えて人に伝えるのが大好きで、そこにコーチとしての自身の才能を見出したという。

「きみも、たとえ夢がかなわなくても、あまり落ち込まなくていいんですよ。なにかうまくいかないときこそ、新しいステージに進んでいると思ってください。」「大事なことは、自分の才能は必ずなにかに活かせると信じることです。そして一生懸命、なにかに取り組むからこそ、自分を信じる力がわいてくるのです。」

 あなたには、必死になって何かに取り組んだ経験がありますか? もしあれば、きっとこの本に書かれたメッセージは、今でもあなたの背中を力強く押してくれるだろう。

(今中 祐子)

出版元:講談社

(掲載日:2019-08-13)

タグ:ラグビー   
カテゴリ 指導
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早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした
小林 拓矢

 「ブラック企業」。主に法の枠を超えた過酷なサービス残業を行わせたり、理不尽なパワハラや正当な理由のない解雇によって従業員を追い詰める企業のことを指す。こういった形態の企業は昔から存在していたと思うが、「ブラック企業」という言葉が盛んに用いられるようになったのはここ十年ほどのことです。

 本書でははじめに「ブラック企業」とは何かを軽く述べたのち、著者が大学を卒業して現在のフリーライターとなるまでに勤務した3社の「ブラック企業」について、それらの企業で受けてきた扱いや勤務する中で感じていたこと、そして自身はどう反応し行動したのかが記されている。想像していたよりひどい扱いだなと感じる人もいそうな内容で、読んでいて暗く重い気分になる。しかし、これは実際に起こったことであり、特殊な出来事というわけでもない。世間には普通に存在していることである。もし自分の勤める会社がそうだったら、もしくは実際にそうならばどうすべきか、考えるきっかけになる本だろう。

 ブラック企業とは世の中に一定数存在するもので、中には世に言うブラック企業にあたるとは微塵も思っていない企業や、認識していながらそのことを隠す企業もあることだろう。新しく社会に出る新卒者がそういったブラック企業を見破り避けることは難しいと思う。しかし、インターネットが普及した今なら、実際に起きてニュースにまでなった事件や就職関連サイトおよび匿名掲示板での評判からブラック企業を見破ることができるかもしれない。ただし、ニュースになっているほどならともかく、インターネットにある情報がすべて事実とも限らない。あくまでそれらの情報は参考程度にし、就職説明会等でその企業の空気をつかむことが必要になるだろう。

 また、実際に社内で圧力に悩まされている人にとっても、この本の著者の経験と行動した結果から、今この状況ならばどうするのが最善なのかを考える助けになると思う。親・頼りになる先輩・弁護士・労基など相談できる先は多い。企業自体がブラックなのか、それとも特定の人物がブラックなのかによって、起こすべき行動も変わるだろう。

 よほど好転しない限り最終的には退職へとつながると思うが、追い詰められて自ら命を絶つよりは遥かにマシである。同僚に迷惑をかけるからだとかそんなことを考えるより、まずは自分の身を第一に考えるほうがよっぽどいい。男女・世代関係なく、また社長や上司という立場の人たちにも、できれば読んでいただきたい一冊である。

(濱野 光太)

出版元:講談社

(掲載日:2019-08-20)

タグ:仕事 ブラック企業 
カテゴリ 人生
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リーダーシップを鍛える ラグビー日本代表「躍進」の原動力
荒木 香織

 本書の著者は、2015年ラグビーW杯で南アフリカを破った元ラグビー日本代表チーム・ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズ氏(以下 エディーHC)の右腕としてメンタルコーチを務めた荒木香織氏です。
 全体の構成として、1章・2章はラグビー日本代表の軌跡と実際の経験談を踏まえてリーダーシップのあり方を説かれています。この中には、実際の選手とのやりとりや、4年というプロセスを経た経験談が含まれており、この頃の日本代表チームの様子をリアルに感じることができます。
 また、3章・4章・5章については著者の考えるリーダーシップの方法論やリーダーシップのトレーニング方法について知ることができます。ここでは、数多くの企業やスポーツチーム等のコンサルタントとして経験している著者だからこその言葉の深みがあります。
 著者は、本書の中で今日の日本において組織の課題は「リーダーシップの欠如」とし、かつての日本のようにカリスマ性によるリーダーシップでは企業の生産性は下がるデータも示しています。
 では、リーダーとして求められる成果とは、フォロワー(従業員・部下)がリーダーの予想を超えた結果を出すことです(事実、南アフリカに逆転したトライを生む前のスクラム前に発せられたエディーHCの指示は、キックで3点を取り同点にする事でした)。フォロワーの成果を最大限に引き出すのが、良いリーダーです。また、スポーツチームもビジネスにおいても勝利という結果に向かって進むことに変わりはありません。組織という点では、会社もスポーツチームも同一です。
 そこで、本書の3章・4章・5章では、実際のリーダーシップの見本例をケーススタディとして学ぶことができます。
 また、リーダーシップを学ぶ上で必要なマインドセットの捉え方と、考え方やレジリエンスという逆境でも屈しないスキルの考え方を学ぶことができます。
 日本は、かつて高度経済成長により発展した先進国です。先人の努力に敬意を表しつつも、時代の流れの変化により、かつての日本型組織では、これからのグローバル化に遅れを取ります。今後もますます変化していくであろう時代に相応しいリーダーの誕生が待ち遠しいです。
 著者は、研究者として教育者としてコンサルタントとして、様々な顔をお持ちです。本書は、エディーHCというリーダーを招いて世界で結果を残した最たる例です。ぜひ、リーダーは本書を通して部下に還元してみてはいかがでしょうか?


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(中地 圭太)

出版元:講談社

(掲載日:2020-09-28)

タグ:リーダーシップ コーチング 
カテゴリ 指導
CiNii Booksで検索:リーダーシップを鍛える ラグビー日本代表「躍進」の原動力
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あめつちのうた
朝倉 宏景

 舞台は甲子園、そしてグラウンド整備の阪神園芸。ここまでは実在します。登場人物は架空の人。すごくリアルな雰囲気の中で物語は進みます。主人公は高卒一年目新入社員の大地。一年先輩の長谷は意地悪で元高校球児。甲子園でビールの売り子をしている真夏は重い病気を患った過去があり、プロの歌手を目指しています。大地の高校時代の同級生一志は同性愛者で大学の野球選手。18歳19歳の若者四人の物語です。
 登場人物はいたって普通の人。特別な人はどこにも登場しません。4人が4人とも夢があり、悩みがあり、葛藤があります。どこにでもいそうな若者たちばかりです。しかし人の数だけドラマがあり、身近に感じられる彼らだからこそ物語に入り込んでしまいました。主人公はグラウンドキーパーという仕事を通じて成長し仲間との関係を深めていく展開に、一つずつ小さな感動を積み重ねながら読みました。何気ない小さな感動の積み重ねがクライマックスに近づくほど大きなものになっていることに気づきました。
 阪神園芸の先輩社員の甲斐の言葉がこの物語の核心部分ではないかと感じました。「結果として感謝されることがあったとしても、それを目的にしたらあかん」「それぞれの持ち場を必死になって守っているだけ。それで給料もらってる」この言葉こそ本書の核心なのかもしれません。世の中で働いている一人一人がさほど感謝されることもなく、黙々と自分のやるべきことを必死でこなして過ごしている。作者はそんなことを語りかけたかったのかもしれません。だからこそ素直にすべての登場人物に共感でき、この作品を読まれた方にも自分自身を投影されながら読まれる方も多いのではないかと想像しました。
 登場人物のギクシャクした人間関係も最後には心でつながる形で終わったのはすごく救われた気がしました。4人がそれぞれの生き方に対し、まっすぐ前を向いて歩きだすところで物語は終わります。何となく彼らと別れがたい気持ちが強くなりました。続編ができればぜひ読んでみたいです。さわやかに吹き抜ける一陣の風と共に、土のにおいが鼻をくすぐる読み心地が残りました。とても気持ちのいい一冊です。


(辻田 浩志)

出版元:講談社

(掲載日:2021-01-25)

タグ:物語 
カテゴリ フィクション
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武道vs.物理学
保江 邦夫

 バイオメカニクスは人の動作の仕組みを物理学の手法を使って解明しようとする営みである。我々トレーナーにとっては運動指導をする上で避けては通れない重要な分野であるが、トレーナーを目指す学生はもとより、資格を取得済みの現役トレーナーにとっても非常に難解な分野である。
 本書では、武道の技を物理学とバイオメカニクスによって分析していく。が、武道という伝統を重んじる領域で、話が突拍子もないところへ飛ぶ。飛びまくる。
 たとえば柔道の投げ技をロボット工学で分析し、ブラジリアン柔術とフィギュアスケートの共通点を指摘し、果ては空手の突きを宇宙物理学で論じる始末である。最終章では筋電図まで出てくる。物理の範疇を越えているではないか。
 ところが驚いたことに、そのような目まぐるしい展開も、筆者の軽妙な語り口(本なので文章なのだが)のおかげでストレスなく読み進めることができた。読み終わった感想は「なんだ、物理学ってそんなに難しいものじゃないんだな」である。
 私自身、学生時代は教科書とにらめっこしてただ唸るしかなく、試験はほぼ丸暗記で耐えていた側の人間なのだが、本書を読んで「あのときのあれは、こういうことだったのか」と理解することができた。
 あなたがバイオメカニクス分野に苦手意識をお持ちなら、手に取ってみてはいかがだろうか。

(川浪 洋平)

出版元:講談社

(掲載日:2021-06-03)

タグ:スポーツバイオメカニクス 武道 物理学 
カテゴリ スポーツ医科学
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近代スポーツの誕生
松井 良明

 イギリス発祥のスポーツは数多くありますが、イギリスのスポーツの歴史を紐解くことでスポーツそのものの歴史が見えてくるかもしれません。スポーツといっても近代におけるスポーツとはずいぶんイメージが異なるものであることがわかります。本書においては「闘鶏」と「拳闘」に焦点を当て、近代スポーツとは異質なスポーツの原点を解説し、スポーツの変遷がまとめられています。
 本書のカギとなるワードは「ブラッディ・スポーツ」。今の時代なら野蛮だと顔をしかめる方も多いとは思いますが、「流血」こそが人々が熱狂する要素だったようです。18~19世紀とは価値観も異なりますが、大っぴらに言えなくなっただけで人は血なまぐさいことが好きなのかもしれません。また今の時代、動物愛護の精神が社会規範にまで高まりましたが、キツネ狩りや闘牛などが行われてきたヨーロッパにおいてはアニマルスポーツは当然の存在だったようです。本書は単純にスポーツの歴史だけを見るものではなく、当時の社会の中のスポーツとして書かれていますのでスポーツを取り巻く環境がリアルに見えるのが大きな特徴となります。それとスポーツに向けられる興味が娯楽であったり賭博であったりスポーツそのものだけではなく付随する要素がスポーツのあり方に大きな影響を及ぼしているのがわかります。現代においても賭博という要素は法律上で枠組みが決められてはいますが、決してなくなったわけではありませんので現代にも通じる問題となります。
 人間の野蛮な一面も、昔の問題として切り捨てることはできません。それでもジェントルマンとして理性を保とうとする社会的なジレンマは今の時代にも共通するのであり、人間の本性と理性が拮抗する中でスポーツが変化を伴いながら存在してきたという歴史。あくまでも過去のイギリスが舞台として書かれていますが、むしろこれからのスポーツのあり方にも関わる歴史なのかもしれません。
 価値観は時代とともに変わります。未来のスポーツが現状のままではないことは本書に書かれた歴史を見れば想像できそうです。100年先200年先のスポーツがどのような変化を遂げるか気になってきました。

(辻田 浩志)

出版元:講談社

(掲載日:2021-06-15)

タグ:スポーツの歴史 闘鶏 拳闘 
カテゴリ その他
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勝利を支配するもの
佐藤 純朗 平尾 誠二

非凡な才能とカリスマ性で、史上最年少監督に就任した平尾誠二氏とジャパン(ラグビー日本代表)の2年半を追った本である。W杯では、予選リーグ全敗で決勝リーグには進出できなかったものの、その足跡は日本のスポーツ界に大きな財産を残した。続投の“Mr.ジャパン”にさらなる強化を期待したい。





(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2000-01-10)

タグ:ラグビー 
カテゴリ スポーツライティング
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投球論
川口 和久

「無駄球の多い、コントロールの悪い投手の話にここまでつきあっていただき……」と、あとがきの冒頭にある。見せ球が多くず随分肩を酷使したという川口だが、反面それが誇りに感じられてしまうから、スポーツは面白い。ストレートとカーブにこだわった川口が、その記憶をたどって再構築した「論」に相応しい展開だ。



(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2000-02-10)

タグ:投球 野球 
カテゴリ スポーツ医科学
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これからの健康とスポーツの科学
安部 孝 琉子 友男

「身体機能はどこまで改善できるか?」「どのような運動をすると骨が強くなるか?」「スポーツのうまい、へたって何が違うの?」など、それぞれの章タイトルに工夫が施されている。高齢化・長寿国と呼ばれて久しい日本人の多くが生活習慣病の危険にさらされている現状を、スポーツとの関連でみていく。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2000-06-10)

タグ:健康 
カテゴリ スポーツ医科学
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感じがいい「そのひとこと」の言い方
今井 登茂子

特別なことではない、ごく常識的かつ基本的な「そのひとことの言い方」というものが乱暴だったり、あるいは忘れられてしまったりすることで、コミュニケーションがうまくいかないことがある。「そんなときどう言ったらよいのかわからない」という人のために、コミュニケーションのプロが著した本。




(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2000-07-10)

タグ:コミュニケーション 
カテゴリ その他
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勝つためのチームメイク
堀越 正巳

選手としての華々しい15年、そして監督しての2年、この間に培われた氏による「実践的ラグビー組織論」「勝つためのチームメイク」の集大成。組織と個人をいかにうまく噛み合わせ、戦う集団にするか。フォワードとバックスを機能的に動かし、両者の力を最大限に発揮させる堀越氏の理論とは?



(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2001-02-10)

タグ:ラグビー 組織 
カテゴリ 指導
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乳酸を活かしたスポーツトレーニング
八田 秀雄

疲労物質として語られることの多かった乳酸を、「糖からできたものだからエネルギー源として使える」「勝負のカギである」という点から科学した本。初心者がつまずきそうな運動生理学の“難所”をうまくフォローしているため、読破したときには、きっとトレーニングに活かしてみたくなる。



(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2001-05-10)

タグ:乳酸 運動生理学 
カテゴリ スポーツ科学
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ゴールキーパー論
増島 みどり

「他の選手より鈍かったからゴールキーパーになったんだろう」という陰口を払拭させられるかもしれない。サッカーのGK・ディド・ハーフナー、松永成立、ハンドボールのGK・橋本行弘、アイスホッケーのGK・春名真仁、ホッケーのGK・高橋潤、水球のGK・水谷真大らが語る、“一番後ろの”進化論。


(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2001-05-10)

タグ:ゴールキーパー 
カテゴリ スポーツライティング
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これでなっとく使えるスポーツサイエンス
征矢 英昭 石井 好二郎 本山 貢

 体育・スポーツ関係の大学の講座で最先端の16名の研究者が、スポーツ現場の科学的疑問をQ&A方式でわかりやすく解説。さらに詳しく知るためにスポーツサイエンスの基礎知識も掲載されている。





(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2002-08-10)

タグ:スポーツ科学 
カテゴリ スポーツ科学
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「1分間BMストレッチ」ダイエット
饗庭 秀直

 会社でも自宅でも、簡単にいつでもできる「1分間BMストレッチ」。ダイエットと健康増進を目的に開発された練習法。ダイエットの基礎知識や部位別ストレッチなどすぐに使えるプログラムを紹介。




(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2002-08-10)

タグ:ストレッチ ダイエット 
カテゴリ 運動実践
CiNii Booksで検索:「1分間BMストレッチ」ダイエット
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リアライン・トレーニング 下肢編 関節のゆがみ・骨の配列を整える最新理論
蒲田 和芳

 体幹・股関節編に続く第二弾。本書から読むこともできる。下肢編では、膝関節、足関節、足部ごとに起こりやすいマルアライメントを挙げる。その改善・予防のために、①アライメントを理想に近づける「リアライン」、②関節が正しく動くよう筋活動を最適化する「スタビライズ」、③マルアライメントの原因となる動作を改善する「コーディネート」の3フェイズ、さらにローカル(個々の関節)→グローバル(複数の関節、下肢全体)の流れで手技やエクササイズを紹介していく。スポーツにおいて下肢への力学的ストレスは大きく、悩める選手や治療家に参考になるだろう。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2021-09-10)

タグ:アライメント 
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツを「視る」技術
二宮 清純

 スポーツライターの二宮清純氏がプロ野球、サッカー、その他の競技6名のアスリートにインタビュー。勝つためには、トップに立つためには、その技術を探り、新たなスポーツの「視かた」を知る。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2003-04-10)

タグ:アスリート 
カテゴリ スポーツライティング
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好きになる生理学 からだについての身近な疑問
田中 越郎

 知っているようで知らない生理学の疑問を、面白い喩えとマンガを用い、わかりやすく解説。楽しく読んでいるうちに、知らずに生理学の基本が身についてくる一冊。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2003-08-10)

タグ:生理学 
カテゴリ その他
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図解 ここ一番! 1分間メンタル強化トレーニング
高畑 好秀

 プロスポーツ選手やオリンピック選手のメンタルトレーニングの指導をする著者が(1)集中力、(2)イメージ力、(3)リラクゼーション力、この3ステップで手に入れる「最強のメンタル」法を紹介。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2004-01-10)

タグ:メンタルトレーニング 
カテゴリ メンタル
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PT(パーソナルトレーナー)式セレブ美人ダイエット
ジェフ ライベングッド Jeff Libengood

 レベリヤ女性誌などで活躍する著者が、バランスをとりながら行うエクササイズとタイプ別に7つのプログラムを提示し、無理なく自然に、しなやかな身体をつくり、リバウンドしないダイエット法を紹介。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2004-02-10)

タグ:ダイエット 
カテゴリ 運動実践
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若返りホルモンダイエット
石井 直方

 成長ホルモンなど若返り効果があると言われるホルモンの分泌を促す運動を「若返りホルモン体操」と名づけ、その方法をイラストで解説。さらに正しい食習慣を促す「若返りホルモン・ダイエット」も紹介。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2004-03-10)

タグ:食 ダイエット 体操 
カテゴリ 運動実践
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科学とはなにか 新しい科学論、いま必要な三つの視点
佐倉 統

役に立たないという現実を知って
「世の中にはな、ふたつのものしかない。役に立つものと、これから役に立つかもしれないものだ」。
 本稿の締め切りが迫る某日。焦るとつい他のことをしてしまうのは人間の性だ。ベッドに転がって iPad を開き Kindleに逃避。たまたま開いたのが『竜の学校は山の上』(九井諒子)というファンタジーコミックだ。ああこれ、今回の『科学とはなにか』じゃん、と思った。こういうのをセレンディピティというのかな(たぶん違う)。舞台は現代日本。竜が絶滅危惧種に指定され保護されているが、年々予算は縮小されている、という世界。国内唯一の竜学部がある宇ノ宮大学には竜の利用方法を模索する竜研究会がある。新入生のアズマ君は竜が好きで、将来は竜に関わる仕事がしたいと思っているが、竜は役に立たないという現実を思い知り落ち込んでしまう。冒頭のセリフは、そんな彼に部長のカノハシ女史が言った言葉だ。カノハシさんは続ける。「なくしてしまったものを、あれは役に立たなかったってことは言えるけど、それは所詮、狐の葡萄。だから簡単に捨てちゃいけないんだ。でも役に立たないと諦めたら、それでは捨ててしまうのと何も変わらないだろ」。

科学を外側から
 今回取り上げる『科学とはなにか』は、竜ではなく科学技術をどう飼い慣らす(使いこなす)かを、つかず離れずの外側の視点から見ることがテーマである。著者はチンパンジーの研究で理学博士号を取得したが、その過程で、科学が社会と無縁ではいられないことを痛感し、学者にはならず科学技術と社会の関係を研究する道を選んだという。科学者としての側面を持ちつつも、あくまでも「外側」の方である。
 副題に「三つの視点」とある。明確には分けて書かれていないのだが、この「視点」が本書を読む上での重要な骨子であると思うので、私なりに三つにまとめてみた。
 まず、一つ目。科学技術とは何か。科学とは自然界の成り立ちを知ること、技術とは人工物をつくること。本書では、両者の融合体という意味で「科学技術」という言葉が多用されている。科学の成果は普遍的で客観的である。ニュートンの力学法則は、日本だろうがアメリカだろうが、どこでも等しく成り立つ。しかし、いつでもどこでも「正しい」知識というのもまた、存在しない。我々は、場面や状況に応じて、それに適した知識を使い分けているのだ。たとえば、今では天動説を信じている人は珍しいだろう。しかし日常的には「夕日が沈む」というように、天動説的表現が普通に使われている。「地球の自転によって現在地が影の部分に入りつつある」とは言わない。日常生活における知識の目的は、「便利」「幸せ」「安全」など、とにかく日々の生活を安定・充実させることが第一。科学的な正確さは、そのための参考情報の一つに過ぎない。
 二つ目は、科学技術は誰のものか。科学者というと、知的好奇心に突き動かされ、損得や善悪に無頓着で、純粋に世界の成り立ちを解き明かしていく人というイメージがある。一方、フランシス・ベーコンが「知識は力なり」と言ったように、科学や知識は利用するものである、という認識もまた一般的だろう。実際に我々は、多くの場面でその恩恵を受けている。しかし「力」は良いことばかりではない。不幸な例の最たるものは戦争利用だろう。2 度にわたる世界大戦での悲惨で凄惨な経験を経て、1999年「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」(ブタペスト宣言)において、「知識のための科学」「平和のための科学」「開発のための科学」「社会における科学と社会のための科学」の 4 つの宣言が採択された。しかし、科学研究分野にも民間企業が台頭し、そのあり方が大きく変質してきている。科学を駆動する原理が、知識の獲得や公共への貢献から経済活動へと変わってきているのだ。
 最後の三つ目は、科学技術をどう飼い慣らすか。科学の成果は普遍的・客観的ではあるが、それが生み出されるプロセスも、それが世に出てからの扱い方も、文化システムが違えば大きく変わる。一方、文化や文脈に依存する暗黙知的な「場の力」から離れ、科学的知見を活用できるような社会的なデザインも必要だ。
 さて、「竜研究会」。竜の使い道についてのカノハシさんたちの結論は、作品中では語られていない。どうかそれぞれに明るい未来が訪れますように、と願わずにはいられない。

(尾原 陽介)

出版元:講談社

(掲載日:2021-12-10)

タグ:科学論 
カテゴリ その他
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「頭と体」に効く!ボクシング体操 揺すって、力を抜いて「肉体改造」
豊嶋 建広

 これまで紹介されてきたエクササイズ、とくに健康のための運動を念頭においたものでは、素早く反応するための敏捷性のトレーニングは避けられがちであったと著者は言う。本書では、ボクシングや空手において指導や研究を行ってきた経験から、まずセオリー編として脳と身体のトレーニングについて解説を行う。素早い動きをするためには、まず力を抜くことが大切であり、ボクサーは脱力の名人なのだそうだ。そして、ベーシック編として脱力を味わい方から写真を使ってエクササイズを紹介。段階的にボクシングの動きに近づいていく。コーディネーション編では脳と身体能力を鍛えるもの、そして最後にアドバンス編として脳と運動機能を同時に鍛えることを狙ったエクササイズが紹介されている。チョキチョキパニックなどのエクササイズ名も面白い。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2008-07-10)

タグ:体操 ボクシング 
カテゴリ 運動実践
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勝負食 トップアスリートに学ぶ本番に強い賢い食べ方
石川 三知

 トップレベルのスポーツにおいて、個人・チームに対して栄養サポートを行ってきた著者。その経験と知識をまとめたのが本書である。ある状況において食べるべきものは何か、たとえ話を使ってわかりやすく解説している。選手の個性が際立つエピソードも盛り込まれていて、競技に打ち込む姿勢が伝わってくる。なかでも、よく噛んで食べるようになった選手が、黙々と噛む様子、それがやがて身体的にも大きくなってくることを描いた部分が印象的だった。身体を内側から支えるという食事の持つ意味を改めて見直した。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2008-09-10)

タグ:スポーツ栄養 
カテゴリ
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コアコンディショニングとコアセラピー
平沼 憲治 岩崎 由純 蒲田 和芳 渡辺 なおみ

 帯にあるコピーにあるように、コアコンディショニングとコアセラピーに関する「その歴史、現状、未来を整理し、現時点での理論と方法論を網羅」したもの。
 丸太(フォームローラー、後のストレッチポール開発につながるもの)を使ったエクササイズを見た日暮清氏と、それに着目してセルフケアへの応用を考えた岩崎由純氏。2人の試行錯誤でコアコンディショニングが生まれた。さらに、医療資格者が実施する“治療”をコアセラピーと呼ぶ。
 用語解説や、実際のエクササイズの紹介、注意点などがまとめられている。臨床的な経験とともに理論的な根拠も重視しながら、対象者の年齢や問題点に応じたエクササイズが紹介されているのが特徴である。巻末にはトレーナーおよび医療従事者のリストも掲載されている。

(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)

出版元:講談社

(掲載日:2008-12-10)

タグ:コアコンディショニング 
カテゴリ スポーツ医科学
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いじめの構造 なぜ人が怪物になるのか
内藤 朝雄

子ども世界だけでない「いじめ」
“イッキ飲み防止連絡協議会”というのを皆さんご存知だろうか。毎年、年度初めに貼られる一気飲み防止キャンペーンのポスターを大学生なら見たことのある人が多いと思うが、そのポスターを作成・配布しているのがこの団体だ。“イッキ飲ませ”で息子さんを亡くした親御さんが中心となって1992年に設立された団体である。
 あろうことか、その7年前、1985年の流行語大賞に“イッキ!イッキ!”が選ばれている。以来24年の間に、119名もの人が一気飲みなどの大量飲酒による急性アルコール中毒などで命を落としているのだ。1991年の13名(!)をピークに漸減してはいるものの、昨年度(2008年3月~2009年3月)1年間で、5名もの大学生が亡くなっており、悲しい事件の犠牲者は後を絶たない(アルコール薬物問題全国市民協会のHPによる)。
 複数の人間で囃したて、ある特定の一人を吊るし上げて酒を飲ませるといった馬鹿げた行為は、“アルハラ(アルコール・ハラスメント)”という名を借りた、大人の「いじめ」にほかならない。“アルハラ”に限らない「いじめ」は、子ども世界の専売特許ではなく、大人の世界でも容易にそして頻繁に生じる恐れは常にあるのだ。中でも、部活動や寮生活で閉ざされた人間関係を構築しやすい体育・スポーツの現場では細心の注意を払う必要があるだろう。

逃げることができない世界で
 本書は、主に「学校のいじめについて、分析を行い、『なぜいじめが起こるのか』について、いじめの構造とシステムを見出そうとする試みの書」である。
「学校」とは「逃げることができない出口なしの世界」だ。「学校では、これまで何の縁もなかった同年齢の人々をひとまとめにして(学年制度)、朝から夕方までひとつのクラスに集め(学級制度)、強制的に出頭させ、全生活を囲い込んで軟禁する」。そして「狭い生活空間に人々を強制収容したうえで、さまざまな『かかわりあい』を強制する。たとえば、集団学習、集団摂食、班活動、掃除などの不払い労働、雑用割り当て、学校行事、部活動、各種連帯責任などの過酷な強制を通じて、ありとあらゆる生活活動が小集団自治訓練になるように、しむける」のである。皮肉っぽい表現のようだが、確かに「学校」にはこのような側面がある。
 そんな「学校という狭い空間に閉じ込められて生きる生徒たちの、独特の心理-社会的な秩序(群生秩序)を、いじめの事例から浮き彫りに」し、「閉鎖的な小社会の秩序のメカニズムを明らかに」していく。それらを踏まえ「生徒たちを閉鎖空間に閉じこめて強制的にベタベタさせる学校制度の効果」による「『生きがたい』心理-社会的な秩序(筆者注:すなわち“いじめ”か?)をなくしていくための」「『新たな教育制度』」を論じている。

他者コントロールという幻想
「いじめは、学校の生徒たちだけの問題」ではなく、「昔から今まで、ありとあらゆる社会で、人類は、このはらわたがねじれるような現象に苦しんできた」問題である。いじめる側の動機は、「他者をコントロールすることで得られる」「曖昧な『無限の』感覚」すなわち「全能感」で説明がつくことがある。
 とりわけ、体育教師やコーチ、アスレチックトレーナーといった職業は、学生や選手に対する“教育的”な側面が強調されやすい立場であり、「世話をする。教育をする。しつける。ケアをする。修復する。和解させる。蘇生させる」といった場面に身をおくことが少なくない。ややもすると、「他者コントロール」をしている幻想にとらわれ、勘違いをして「全能感」を求めるようにならないとも限らない。
 とくに、やる気や情熱にあふれた“指導者”ほど、この「全能感」を求めている自分に気づかない状況に陥りやすいのではないだろうか。だからこそ、「ケア・教育系の『する』『させる』情熱でもって、思いどおりにならないはずの他者を思いどおりに『する』ことが好きでたまらない人」にならないよう心がけていたいものだ。
“紙一重”の世界に私たちは住んでいるのである。

(板井 美浩)

出版元:講談社

(掲載日:2009-10-10)

タグ:いじめ 
カテゴリ その他
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「こつ」と「スランプ」の研究 身体知の認知科学
諏訪 正樹

身体知の学び
「Don't think! Feel!」。ブルース・リー主演の映画『燃えよドラゴン』(1973)の冒頭で、リーが弟子の少年にカンフーの稽古をつけるシーンでの有名なセリフである。
 本書のキーワードは「身体知」。身体と頭(言葉)を駆使して体得する、身体に根差した知と定義されている。コオーディネーション、アフォーダンス、暗黙知、自動化、オノマトペなどの様々な知見を織り交ぜ、身体知の学びについて探求している。
 熟練とは、膨大な反復練習によって身体が勝手に動く境地に達している状態であり、思考や言葉は不要であるというのが大方のイメージだろう。だが、本書では言葉の重要性を説いている。身体の細部にわたって「ああでもない、こうでもない」と言葉を駆使して模索する時期を経て、それらが収束し包 括的な言葉にすべてが含意されるようになり、さらに上達を目指してこの二つが交互に出現する動的プロセスが学びである、というわけだ。

言葉による認識
『はい、泳げません』(高橋秀実・新潮社)は、前代未聞のスイミング・ルポ、と銘打った不思議で抜群に面白い本である。泳げない著者が美人鬼コーチの指導のもと、言葉を駆使した指導によって泳げるようになっていく。著者がどうにも及び腰なのがたまらなくおかしいし、言葉によって着眼点がはっきりしたり、やっぱりなんだかわからなくなってしまう様子も面白い。
 私もスポーツ指導者の端くれであり、体感を言葉にすることの大切さは痛感している。この美しき鬼コーチはすごい人だ、と感心する。
 本書では、言葉によって気づかなかったものが意識されるようになる例として、ダルメシアンの画像というものが示されている。単なる白黒のまだら模様が「これは犬の写真です」という説明でダルメシアンが見えてくるのだ。
 逆に解釈すると、よくわからないものを言葉で表すことは意味を固定することだとも言える。輪郭がは っきりする代わりに、その周辺のぼんやりした部分を切り捨てているのではないだろうか。よくわからないものをあえてそのままにしておくことで、逆に認識されることもあるのではないか。言葉は曖昧なものにアクセスするための入口ではある。しかし、言語化することで、かえって不自由さが増してしまうこともあるのかもしれない。

トップ選手の動き
 私の手元に「陸上競技マガジン 7 月増刊‘91東京・世界選手権に見るトップアスリートの技術」(ベースボール・マガジン社)という資料がある。当時大学生だった私は住んでいたアパートの部屋で手に汗握ってこの大イベントをテレビ観戦していた。長嶋茂雄さんの「ヘイ! カール!」の記憶もいまだ鮮明である(若い人には何のことやらわからないだろうな)。
 この資料には、東京世界陸上におけるトップ選手の技術を測定・分析した貴重なデータが載っている。男子100m決勝のデータを分析した結果、そこで提唱 されているのが「脚全体を1本の棒のようにしたキック」。分析では、カール・ルイス( 1 位、9 秒86、当時世界記録)とリロイ・バレル( 2 位、9秒88)と大学男子短距離選手29名(ベスト記録10秒60 ~ 11秒50)とを比較している。比較している要素は、膝関節・股関節・足関節の伸展速度など。分析の結果、大学選手と大きく違うのは股関節の最大伸展速度(大腿の後方へのスイング速度)が高いこと、膝関節と足関節の伸展速度が低いことであった。そして、次のように結論づけている。
「ルイスは大腿の後方スイング速度を、膝を固定する(膝全体を 1 本の棒のようにする)ことで、効率的に足先のスイング速度に変えている。(中略)これまでの我々の常識を打ち破るキック法であることは間違いない」
 しかし果たして、ルイスやバレルは「膝を固定」する意識だったのか。それとも、何か別の意識の結果なのか。
 この世界陸上から25年。リオ五輪陸上男子 4 ×100mリレー決勝。日本チーム銀メダル。ライブでテレビ中継を見ていた。絶叫した。「うおー! スゲェスゲェスゲェ !」。感動なんていう澄ました言葉では言い表せない歓喜。まさか日本がアメリカの前を走るなんて。
 これは「常識を打ち破るキック法」を日本人選手が体得した成果なのか。それとも、もっと違う感覚や技術の賜物なのか。そしてそれは、どんな感覚なのだろうか。
(尾原 陽介)

出版元:講談社

(掲載日:2016-12-10)

タグ:こつ スランプ 
カテゴリ スポーツ医科学
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強くなりたいきみへ! ラグビー元日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズのメッセージ
Eddie Jones エディー・ジョーンズ

覚悟と背中
 我が子に強くなってもらいたいと、親は願う。強さにも様々な形があるので、それぞれの種類の強さでいい。自分色で強くなってもらいたいと、そう願う。しかし、ただ願うだけでは足りない。「強くあれ」と言葉にするだけでも足りない。我が子とどんな関係を築いていくのか、親としてどう行動するのか、実働を伴わなければならないと個人的には考えている。スポーツの指導者も同じだろう。己の立場をいいことに自らの立ち居振る舞いを棚に上げ、アスリートを支配するようではとても指導者とは呼べない。親や指導者は、子どもやアスリートに対する言動に責任を持つのが当然であり、そこに自らを律する覚悟がなければ、誰かを教育したり指導すべきではない。人は不完全なものだから、「できるか、できないか」ということであれば、この極めてシンプルな真実を隙間なく遂行することは、相当に困難である。しかし「やるか、やらないか」であれば、そうありたいと自らの行動の端々に結びつけることは誰にでもできるはずだ。まさしくその覚悟が「強くある」ことの基盤になり、若い世代に「強くなりたい」と考えさせるために見せたい背中であるのだから。
 さて本書は、昨年のラグビー W杯で旋風を巻き起こした日本代表チームの指揮官、エディ・ジョーンズ氏による強くなりたい子どもたちへのメッセージである。氏は代表選手にどんな取り組みを行い、その結果彼らに何が起こったのだろうか。最も重要なポイントは、メンバーの心身のバリアを取り去り、その基準値を大胆にリセットすることにあったと思う。我々は無意識に自分の言動にバリアを張り巡らせている。「どうせ...」「めんどくさい...」「仕方がない...」「誰に何言われるかわからない...」と、言い訳を探せばいくらでも出てくるものだから、結局楽なほうに流れがちだ。「身の程を知る」といった言葉に代表される強固なバリアで自分を守っているのだ。氏は、日本代表が掲げる目標を、単なるお題目ではなく実現可能なものにするために、世界一厳しいトレーニングを選手に課した。そして、それが単なるしごきではなく、目標を達成するために必要な行動だと考えさせることに成功したのだ。自分が今まで考えていたバリアを超えたところにある「あるべき自分」が「ありたい自分」となったとき、以前の自分が決めてしまっていた限界を自らの意思で書き換えることができる。

説得力はどこからくるか
 そのためには、エディ・ジョーンズ氏をはじめとしたスタッフの覚悟がまず問われただろう。生き様と言っていいのかもしれない。ラグビー選手たちと同じ種類のハードワークはできなくとも、自身のプロフェッショナル領域における揺るぎないハードワークがなければ、世界一のハードトレーニングは成立しない。氏の妥協なき態度は相当に熱く、周りへの要求は半端なく高いと伝え聞くが、それに応えきったスタッフの方々の力たるや凄まじいものだったろう。
 そんなスタッフも選手もその気にさせ続けた氏の魅力がどのように築き上げられたのかについても、本書から伺い知ることができる。圧倒的な力を持たない者が、挫折を知り苦しみを知った者が、強くなりたいと様々な工夫を重ね己を磨き続けてきたその生き様が根底にあるのだ。自分に言い訳をせず、妥協せず、ただ強くありたいと考え、考えうる行動を実践してきた者が、自分を好きになり自信を持つことができるのだろう。そしてそんな風に生きてきた者が説得力を持つのだろう。
 子どもたちに、「きみの未来は、希望と無限の可能性に満ちあふれています」と言える大人でありたいと思う。エディ・ジャパンは、金星を挙げた南アフリカ戦の最終局面で、同点にすることを指示したこの指揮官を乗り越え、逆転勝利を挙げた。親父に鍛え上げられた子どもたちが、その親父を爽やかに超えていったのだ。親としては最高の結末ではないか。
 ところで、常に「もっと強くなりたい」と考えている主人公が活躍するアニメ主題歌で、「身ノ程知ラズには、後悔とか限界とか無ーいもん!」とあるが、これはいい歌詞だと思う。小学校 3 年生の長男坊が、先日初めて黒帯への昇段審査に挑戦し、残念ながら失敗に終わった。こんなときはチャンスである。存分に悔しがればいいが、恥ずかしいと思う必要はない。黒帯を締めるに足る存在になるように心身を鍛え続け、強くなればいい話だ。まだそんな風になかなか思えない幼なさが残る我が子に、「強くなりたい」と思う気持ちを膨らませ、それを様々な形で行動に移すための気づきを促すところに、親父たる者の果たす役割がある。それができる親父であるために、己もまだまだ「強くありたい」と思い続け、行動し続けたい。
(山根 太治)

出版元:講談社

(掲載日:2017-01-10)

タグ:ラグビー 
カテゴリ 指導
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哲学な日々 考えさせない時代に抗して
野矢 茂樹

哲学とは
 フィールド種目(陸上競技の)体質なので、トラック種目のようにピストルの“ドン”に合わせてスタートさせられるのはどうも苦手だ。どうして他人の都合に合わせて走り出さなければならないのか。その点、フィールド種目は、制限時間の範囲内であればいつ試技を始めてもいいのだ。自由じゃないか。
 こんな話を、トラック種目が専門の同級生としていたら、妙な答えが返ってきた。
“あれは、自分で鳴らすんだよ”。さらに、“フィールドの方こそ、いつ自分の番が回ってくるか分からないのにどこが自由なんだ。”と言った。
 つまり、トラック種目はスタート時刻が決まっているからタイミングが図りやすい。場合によってはその時刻に、あたかも自分が引き金を引くがごとくピストルを鳴らす、と考えることもできる。それに比べフィールド種目は“パス”することもあったりして、他の選手の都合によって、試技は名簿順に回って来るとは限らないから、どうやって集中を高めたらよいかわからないじゃないか。というのだ。なーるほど。
 先日、あるトップスプリンターの話を聞く機会があったので、そのあたりのこと、つまりスタートラインに立ったとき何を考えているのか、どんな集中方法をとっているのか質問してみた。
 返ってきた答えは、“ピストルの音に合わせなければならない、という条件は皆一緒だから仕方ありません。気にしないように努めています”、また、“あまり自信が持てるほうではないので、スタートはできるだけ開き直ることにして、「自分」に集中するようにしています”というものだった。
 は? どういうこと?
 この人なら“自分で鳴らす”以上の、“オレサマ”的すごいことを言うんじゃないかとの期待も込めて尋ねたのに、あくまで謙虚、というよりむしろ新鮮だったのは、ネガティブな表現も厭わず使うその姿だった。
 ポジティブな言葉で語ることが是とされる昨今、この、冷静で、ニュートラルな位置に身を置くこの選手の存在に、非常に“テツガクテキ”なものを感じた。哲学とは“気づき”の学問であると(はなはだ単純ではあるけれど)私は思うからだ。

スプリンターと論理の必要性
 さて今回は、『哲学な日々』。著者の野矢茂樹は、「哲学は体育に似ている」という(ま、そう書かれた部分を私が引用しただけなんだけどね。しかし、「身をもって哲学を体験する」という表現も出てくるから、私の短絡も決して間違ってはいないと思う)。
 たとえば野矢は、「論理の必要性」を説き、「ある主張を解説したり、その理由を述べたり、そこから何かを結論したりする。あるいはまた、主張を付加したり、補足したり、先の主張に反論したりもする」と言い、それを言葉で伝える訓練が重要であるとしている。
 スプリンターにも、この力の必要性が当てはまるのではないか。
“スプリンターは生まれるもので、育てるものではない”という素質論的な考え方があって、強く異論を唱えるつもりはない。しかし一方で、10年におよぶ長い期間を日本の(世界の)トップスプリンターとして活躍する選手も近年では増えている。そういう選手は、だからこそ“才能一本”では決して走っていない。緻密なトレーニング計画(推論)のもとに、丁寧に丁寧に、才能に磨きをかけ、スプリンターとして自らを“育てる”作業を根気よく続けているように私にはみえるのである。
「論理的」とは「推論が正確にできること」だ。100メートルを速く走りたいという想い(「妄想」)を脹らませるだけでは、足は速くならない(「哲学にならない」)。100メートル走という古典的な種目ではあるけれども、「それを新しい見方、新しい考え方のもとに説明」し、しかも「その説明は、きちんと理屈の通ったものでなければならない」。また、そういった“論理的知性”の重要性は、100メートル走という、ある意味“単純な”種目だからこそ、より高いものが求められるに違いない。
 今回、引き合いに出させてもらったトップスプリンター氏は、別の質問者による問いに対し、自身の身体的特徴を踏まえた上で考え抜かれたオリジナリティの高い(少なくともボルトとは全く異なる)観点から、自らの理想とする“走り方”について述べた。それは、謙虚であるけれども、確信に満ちているものであった。
 彼のような選手が、新しい世界を切り拓き、日本の短距離界がさらに発展していくことを切に願う。
(板井 美浩)

出版元:講談社

(掲載日:2017-02-10)

タグ:哲学 
カテゴリ その他
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好きになる睡眠医学
内田 直

 理解して好きになってほしい、という「好きになる」シリーズの睡眠医学編。
 主訴でなくても睡眠障害を抱えている方も多く来院されるので睡眠について、また睡眠障害の治療についての知識が欲しくて手に取りました。

・睡眠とは
・睡眠障害クリニック
・睡眠障害
・睡眠薬

についてと睡眠全般について臨床面での解説まで充実しています。
 表紙のデザインのやわらかい雰囲気とは違って診断基準や統計などもそれぞれしっかり掲載されているので、睡眠医学への入り口にそして知識を深めるために持っておきたい一冊です。
 また、不眠症や睡眠時無呼吸症候群などだけでなく、睡眠関連こむらがえりや歯ぎしりなど、鍼灸の臨床でよく聞く細かな症状についての解説や、薬の種類や作用機序や特徴など、鍼灸師としても知っておきたい知識が網羅されています。会話の中で知らなかったことをすぐに調べることもできるので重宝しています。本来であれば当たり前の「眠ること」を当たり前にできるための基礎的な知識を得ることができます。確かに理解すると面白くなり、好きになるシリーズでした。
(山口 玲奈)

出版元:講談社

(掲載日:2022-02-07)

タグ:睡眠 
カテゴリ スポーツ医科学
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語りかける身体 看護ケアの現象学
西村 ユミ

「見る者、関わる者の見方によって、その存在の在り様が異なってしまう植物状態患者との関わりにおいては、彼らをどのような存在として捉えるか、あるいは彼らとどのように関係しようとするかが大きな問題となる。つまり、看護師の態度によって、あるいは看護師の見方によって、患者へのケアが大きく左右されてしまうのである。」

 これが筆者の問題意識だ。生理学的研究やグラウンデッド・セオリーアプローチという方法で、研究を始める筆者だが、どうにも客観的な抽象に傾き、「いきいき」とした具体を取りこぼしているような感覚に襲われる。そこで筆者は「現象学」的アプローチに活路を見いだす。

「現象学は、科学的な認識以前の『生きられた世界』に立ち返ること、すなわち『世界を見ることを学び直すこと』を大切にする。〈中略〉知覚された経験を、それ自体として存在するものではなく、『それを思ったり感じたりする人間の側の志向との関係の中で現象すること』として捉える。世界とはわれわれの知覚している当のものだとメルロ=ポンティはいう。」

 前意識的な層、理論化以前の層、あるいは、原初的地層と表現される、主客未分化で、混沌とした世界に分け入り、答えを探すために著者は、植物状態患者を担当する看護師にインタビューを行う。

「メルロ=ポンティによれば、知覚の主体としての〈身体〉を顧みるには、主体・客体といった二項対立を越え出なければならず、そのために『見つけださなければならないのは、主観の観念と対象の観念のこちら側にある、発生段階での私の主観性の事実と対象とであり(略)原初的地層なのである』としている。ところがこの『原初的地層』は、意識に立ち昇ってくる手前の『思考よりも古い世界との交わり』であるため、このような前意識的な層は『直接われわれの意識に開示されることはないし、他方、いうまでもなく、外的知覚によっても全く届きえない』〈中略〉こうした目でものを見る、つまり視覚が対象をとらえる機能として働き出す手前の未分化な知覚のことを、メルロ=ポンティは原初的地層における『共感覚』と言っている。そして、音を見たり色を聴いたりする感覚の交差というのは日常的に現象していることであり、むしろ『私の眼が見るとか、私の手が触れるとか、私の足が痛むなどと言うが、しかしこれらの素朴な表現は、私のほんとうの経験をあらわしてはいない』とし、『われわれがそれと気づかないのは、科学的知識が【具体的】経験にとってかわっているから』であるという」

 言葉、知識というものによって、より抽象的な事柄を思考することができるようになった。他方で、スパッと裁断してしまった枠組みの「あわい」に広がる世界には、目が向きにくいのかもしれない。
 名を知ることと、わかることは違うが、感じることはもっとずっと手前にある。奥にあるように思えるのは、やはり言葉と、それにひっついてまわる観念に惑わされているからかもしれない。

「私は触わりつつある私に触わり、私の身体が『一種の反省』を遂行する。私の身体のうちに、また私の身体を介して存在するのは、単に触わるものの、それが触わっているものへの一方的な関係だけではない。そこでは関係が逆転し、触わられている手が触わる手になるわけであり、私は次のように言わなければならなくなる。ここでは触覚が身体のうちに満ち拡がっており、身体は『感ずる物』、『主体的客体』なのだ。」

「ケアを行なう者にとって『この世界で他の人と実際にかかわっている』という感覚、つまり触れ合っていることがいかに大きな意味をもっているかは、メイヤロフによっても述べられている。この感覚は、ケアの実践によって自分が『場の中にいる(in-place)』こと、つまり世界の中に『自分の落ちつき場所』を得ているということであり、またこのような場を与える『対象(他者)』は、『私の不足を補ってくれ、私が完全になることを可能にしてくれる』のである。ゆえに、この他者は『私とその対象をともに肯定するという意味で、自分の一部』なのであり、私と『補充関係にある(appropriate others)』呼ばれることになる。そして『場の中にいるということは、私と補充関係にある対象への私のケアによって中心化され、全人格的に統合された生を生きること』となる。」

 触わるものが、触わられる。ケアするものが、ケアされる。という逆転が現場において起こっているのではないか。
 このin placeは他書では「しっくりくる」とも訳されている。
 インタビューにおいて、ひとつひとつ細かく分析するのではなく、芋づる式に言葉が出てくるように、対話したという。そうすることで、筆者と看護師の主客未分化な状態、一つの間身体性から生成された言葉を、拾い上げた。
 写実主義のなか、エスキスだ、未完成だと揶揄され、評価されなかった印象派の画家達、しかし彼らは、光、空気、雰囲気を描き続けた。それが紛れもない「ほんと」だと思ったからだろう。カバーの「星月夜」は、そうともとれるが、果たしてどうか。
(塩﨑 由規)

出版元:講談社

(掲載日:2022-06-15)

タグ:ケア 現象学 
カテゴリ 身体
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反哲学史
木田 元

『反哲学史』といういささか奇妙な表題を掲げる本書は、一見するだけでは何を目的として書かれたものなのかが了解できない。著者も冒頭において、それが哲学史に対する反=アンチ(つまり、反-哲学史)であるのか、それとも哲学に対する反=アンチの歴史(つまり、反哲学-史)のいずれであるのか、と問われることだろうと述べている。しかし、著者曰く「反哲学史」はそのどちらでもない。それではいったい、著者はどのようなことを想起しつつ、この表題を掲げたのであろうか?
 この点について、著者は次のように述べている。「私のねらいは、哲学をあまりありがたいものとして崇めまつるのをやめて、いわば『反哲学』とでもいうべき立場から哲学を相対化し、その視点から哲学の歴史を見なおしてみようということ」である(p.9)。つまり、反-哲学史でも反哲学-史でもなく、それは「反哲学的観点からの哲学史」を描こうとする試みなのである。
「反哲学」という言葉の由来は、20世紀の哲学者(少々ややこしいので、著者は「思想家」と呼んでいる)たちが行ってきた思想的営みにあり、彼らは自らの営みを「哲学」とは表現せず、むしろ「哲学の解体=脱構築(déconstruction)」を目指していたことが述べられる(pp.10-11)。それは、「『哲学』というものを『西洋』と呼ばれる文化圏におけるその文化形成の基本原理とみなし、この西洋独自の思考様式を批判的に乗り越えようと」する克服の運動なのである(p.10)。このような視点に連なる系譜として「反哲学史」を記述することが可能なのであり、著者の試みは、そのような観点から哲学史を再構成することへと向けられているのである。
 それでは、本書の内実はどのようなものとして語られているのだろうか。まず本書は、ソクラテスの思想という「哲学」の誕生の場を振り返ることから始まっている。そこでは、彼は愛知者(ho philosophos)であり、アイロニストであったことが語られる。そして、彼のアイロニーは「無限否定性」とでも呼ぶべきものだったことが明かされる。しかし、彼の哲学は、その無限否定性の故に新しいものを持ち出すことはできなかったのである。
 それでは、彼はなぜこのような無に立脚した否定性を自らの哲学的手段としたのだろうか? それは、この否定性が「新しいものの登場してくる舞台をまず掃き清める」ための武器だったからである(p.63)。そこで清掃されたのは、「当時のギリシア人がものを考え、ことを行う際に、つねに暗黙の前提にしていたもの、つまり彼らがありとしあらゆるもの、存在者の全体を見るその見方だった」(p.63)。したがって、次に疑問となるのは「古いもの」としての初期ギリシア哲学者たちが問題としてきた「存在者の全体を見るその見方」である。それは、「自然(physis)」という概念に注目しながら、次のように述べられている。「彼らにとって自然とは、人間や、神々をさえもふくめた存在者すべてのことであり(...中略...)より正確には、そうしたすべての存在者の真の本性、つまりすべての存在者をそのように存在者たらしめている存在のことなのであって、彼らの思索はまさしくこの存在がなんであるかを究めることにむけられていた」のである(pp.69-70)。しかし、本性としての「フュシス」は仮象としての「ノモス」との緊張関係の中に置かれることとなり、ソフィストにあっては、もはやフュシスは祭りあげられてしまい、そこで目を向けられるのは人間社会としてのノモスだけであり、このような堕落した形で自然的存在論は引き継がれることになった。ソクラテスがアイロニーの刃で切り裂こうとしたのは、まさにこのように堕落した存在論だったのである(p.80)。
 その後、プラトンからアリストテレスを経る西洋哲学の歴史が記述されていくのであるが、ここで専ら問題となるのは「新しい存在論」を巡る議論の歴史であり、そこから明らかにされる「形而上学的思考様式」である。これが本書において、非常に重要である。なぜなら、「その超自然的原理、形而上学的原理は、その時どき『イデア』と呼ばれ、『純粋形相』と呼ばれ、『神』と呼ばれ、『理性』と呼ばれ、『精神』と呼ばれて、その呼び名を変えてゆきますが、この思考パターンそのものは、その後多少の修正を受けながらも一貫して承け継がれ、それが西洋文化形成の、いや少くとも近代ヨーロッパ文化形成の基本的構図を描くことになる」からである(p.114)。ヘーゲル哲学において完成される(と本書においては考えられている)この「形而上学的思考様式」こそが、西洋を一貫して支えてきた文化的根源なのであり、このような思考様式を解体=脱構築し、根源的自然=フュシス的存在の生成力を復権しようとする運動こそが、後期シェリングの哲学からキルケゴールの実存哲学、マルクス、ニーチェの哲学に脈打ち、20世紀の思想家たちが継承した「反哲学」なのである。そこから、いわば逆照射した結果、本書が描く「形而上学的思考様式」が垣間見えてくるのであり、そのような相対化された視点を用いて哲学史を眺めてみることは、非常にスリリングな試みである。
 また、このように前景化された形而上学的思考様式は、それと並行して形作られてきた文化としての「西洋医学」、あるいは西洋的な知の様式をその始原とする「科学的思考様式」とも決して分離することはできないのであって、私たちのような医療・スポーツ関係者が本書から学び取れるのは、そのような西洋的伝統を一旦は相対化し、汝自身がいったいどのような地点にいるのかを把握することであり、本書の試みはその手段の一つとなるであろう。その意味で、哲学史(さらには、反哲学的観点からの哲学史)を学ぶことは、非常に有意義なことである。そのための入門書として、比較的平易な言葉で語られる本書は最適な門であるだろう。
(平井 優作)

出版元:講談社

(掲載日:2024-01-26)

タグ:哲学  
カテゴリ その他
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ダーウィンの呪い
千葉 聡

 現代社会を一瞥してみると、様々な「呪い」が見えてくる。われわれの間を「『進歩せよ』を意味する “進化せよ”」、「『生き残りたければ、努力して戦いに勝て』を意味する “生存闘争と適者生存”」、「『これは自然の事実から導かれた人間社会も支配する規範だから、不満を言ったり逆らったりしても無駄だ』を意味する、“ダーウィンがそう言っている”」という、千葉氏がそれぞれを順に「進化の呪い」、「闘争の呪い」、「ダーウィンの呪い」と呼ぶ、3つの呪いが跋扈しているのだ(5-6頁)。こんなにも「拘束感を滲ませたメッセージ」、あるいは「順守しないといけない、ある種の規範」が溢れかえった世界は、大変に生きづらい(5頁)。何をするにしても、個人主義的な「成長=進化」が望まれ、休む暇もなく努力し続けることが、あたかも義務であるかのようにすら感じられる。私たちは、ナチスドイツによるユダヤ人の大虐殺や相模原障害者施設殺傷事件を経た世代であり、それらに並々ならぬ危機の様相を感じ取ってきたのではなかったのか? このままでは色々とまずいのではないだろうかという猛烈な違和感に私たちは襲われ、その危機の感覚は20世紀に様々な哲学者によっても語られてきた。その一方で、巷では「マッチングアプリ」なるものが流行し、人間がいわば商品化され、片手ほどの大きさの「スクリーン」という名のガラスケースの中に陳列されている。みなが見栄えの良い写真を用意し、他者から好かれるであろう文言を自己を規定するために並べ立てる。世界は、人間という存在が指先一つで選別されるような場所になってしまった。さらには、MBTIなるもので自分を飾る始末である。私たちは、どこかで何かを根本的に間違ってきたのではないか?
 「呪い」のもとにおいては、私を取り巻くそれぞれの他者は、もはや他者一般となり、みなが「敵」であるとみなされてしまう。なぜなら、私は彼ら/彼女らに勝ち、生存せねばならないからだ。進化しないものには、即ち「敗北」という烙印を押されることになる。生の全体が闘争の場となり、一瞬たりとも気を抜かず、皆を出し抜かなければならない。なぜか?「ダーウィンがそう言っていたから」だ。あるいは、マッチングアプリを例にとれば、他者はみな消費者である。私は、消費者たちから選ばれる存在となるために、常に自己をより良い製品に作り替える必要がある。つまり、「進化」であり、私は私自身の生産者となる。そのような生は、なんと空しいことだろうか。しかし、その一方で、全てが無目的かつ盲目的な運動にすぎない、つまり偶然的な運動だと見限るや否や、未来に対する希望は消え失せる。何をしようが、どのように努力しようが、その結果は偶然にしか左右されず、ある意味では無意味な努力となるからである。このような、ある種の楽観的な闘争と生産、悲観的な偶然性の間で、我々は揺れ動き続けている。
 しばしば、企業などが打ち立てる「適者生存」の理念に対して、「ダーウィンはそんなこと言ってない」という批判の石が投げられる。しかし、ことは言った/言ってないというような、単純な二分法のもとで明らかになることではないのだ。ダーウィンが出版した『種の起源』の原著初版においては、「適者生存」という語は使われていない。だが、1869年に出版された『種の起源』(第5版)で次のように言っている。「個体の違いや変異のうち有利なものを維持し、有害なものを駆逐することを、私は自然選択、あるいは適者生存と呼んできた」(50頁からの再引用)。確かに、ダーウィンは「適者生存」という言葉を使っているし、時期によってはその考えに接近していたこともあるようなのだ。「進化論を守るために、修正と妥協を重ねている時期」であったという事情もあったのだろう(50頁)。その一方で、ダーウィンの原理は排除的なもの、つまり適者が生存し、その他は絶滅するといったものではなく、創造的なものに向けられていた。そこにスペンサーがいう「適者生存」との差異があった。しかし、何らかの包含の原理は、常に鏡像としての排除の原理を付き従えている。包み含めるということは、それと同時にその外部を作り出すことでもある。進化論に価値の問題が結び付けられ、適者による未来のユートピアの実現が結びつけられた場には、すでにディストピアが実現している。進化論がイデオロギーと化したとき、我々は常に誤った轍を踏んできた。では、われわれは進化論をどのように引き受ければよいのか。歴史から学び、未来を展望するために向き合わなければならない問題は山積している。本書は、その旅路に付き添う良き伴走者となってくれることだろう。


(平井 優作)

出版元:講談社

(掲載日:2024-06-17)

タグ:進化論 
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著者
Mel Boring American Medical Association C.B. Mordan 島沢 優子 日本スタビライゼーション協会 足利工業大学・健康科学研究室 銅冶 英雄Adrian WealeAlan GoldbergAndrea BatesAndrew BielAnne KeilAviva L.E. Smith UenoBernd FalkenbergBoris I.PrilutskyBrad Alan LewisBrad WalkerCarl PetersenCarole B. LewisCarole B.LewisCaroline Corning CreagerChad StarkeyChampagne,DelightCharland,JeffChartrand,JudyChris JarmeyClive BrewerDaniel LewindonDanish,StevenDavid A. WinterDavid BorgenichtDavid E. MartinDavid EpsteinDavid GrandDavid H. FukudaDavid H. PerrinDavid JoyceDavid SumpterDavies,George J.Digby, MarenaDonald A. ChuDonald T KirkendallEddie JonesElizabeth Best-MartiniEllenbecker,Todd S.Everett AabergF. バッカーFrank BakkerG. Gregory HaffG.D.ReinholtzGeorge BrettGray CookGregory D. MyerH・ミンツバーグIñigo MujikaJ.G.P.WilliamsJ.W.SchraderJWS「女性スポーツ白書」作成プロジェクトJacqui Greene HaasJamJames C. RadcliffeJames StudarusJari YlinenJeanne Marie LaskasJeff BenedictJeff CharlandJeff LibengoodJeff RyanJennifer Mather SaulJerry LynchJiří DvořákJohn GibbonsJonathan PrinceJoseph C. MaroonJoshua PivenJulian E. BailesJ・ウィルモアKahleKarim KhanKarin WiebenKim A. Botenhagen-DiGenovaKim A.Botenhagen-DiGenovaL.P.マトヴェーエフLawrence M.ElsonLeon ChaitowLeonhardtLeslie DendyLorne GoldenbergM. デュランM.J.SmahaMarc DurandMarilyn MoffatMark PerrymanMark R. LovellMark VerstegenMattyMcAtee,Robert E.Megan HineMelvin H. WilliamsMichael GleesonMichael J. AlterMiguel Angel SantosMurphy,ShaneM・ポラックNPO法人日本ライフセービング協会Nadia ComaneciNational Strength and Conditioning AssociationNina NittingerNorm HansonOg MandinoP.V.カルポビッチPOST編集部Pat ManocchiaPaul L. GreenhaffPete WilliamsPeter BruknerPeter N. CoePeter TwistPeter WoodPetitpas,Al.PlatzerR. ザイラーR.H.エプスタインR.J.CareyR.N.シンガーRainer MartensRaymond M. NakamuraRein TideiksaarRene CaillietRichard BrennanRichard GoldRobert C. FarentinosRobert E. 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KraemerWynn KapitY. ヴァンデン‐オウェールYves Vanden Auweele「運動器の10年」日本委員会いとう やまねかわむら ふゆみけいはんな社会的知能発生学研究会ふくい かなめまつばら けいみづき 水脈みんなのスポーツ全国研究会わたなべ ゆうこアタナシアス テルジスアタナシアス・テルジスアダム フィリッピーアテーナプロジェクトアメリカスポーツ医学会アメリカスポーツ医学協会アメリカ医師会アレックス・ハッチンソンアンゲリカ・シュテフェリング エルマー・T・ポイカー ヨルグ・ケストナーアンドリュー ブレイクアンドリュー・ゴードンアンドリュー・ゾッリアンドリュー・ビエルアンバート・トッシーアン・ケイルアン・マリー・ヒーリーイチロー・カワチイヴ・ジネストウイリアム ウェザリーウサイン・ボルトウドー アルブルエディー・ジョーンズエドワード・フォックスエバレット アーバーグエリザベス ノートン ラズリーカイ・リープヘンカミール・グーリーイェヴ デニス・ブーキンカルロス 矢吹カレン・クリッピンジャーカーチ・キライカール・マクガウンキム テウキャロリン・S・スミスキャロル・A.オ-チスクラフト・エヴィング商會クリス カーマイケルクリス ジャ-メイクリストフ・プノーグレン・コードーザケイトリン・リンチケニー マクゴニガルケネス・H・クーパーケリー・スターレットケン ボブサクストンゲルハルト レビンサイモン・ウィクラーサカイクサンキュータツオサンダー・L. ギルマンサンドラ・K・アンダーソンシェリル・ベルクマン・ドゥルーシルヴィア ラックマンジェア・イエイツジェイ マイクスジェイソン・R・カープジェイムズ・カージェニファー・マイケル・ヘクトジェフ ライベングッドジェフ・マリージェリー・リンチジェームス・M・フォックスジェームス・T・アラダイスジェームズ アマディオジェームズ・アマディオジェーン・ジョンソンジェ-ン・パタ-ソンジム・E. レーヤージャン=マリ・ルブランジュリエット・スターレットジョセフ・H・ピラティスジョン エンタインジョン・スミスジョン・フィルビンジル・ボルト・テイラースタジオタッククリエイティブスティーヴン・ストロガッツステファン 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書評者
三嶽 大輔(9)
三橋 智広(48)
上村 聡(4)
中地 圭太(19)
久保田 和稔(8)
久米 秀作(53)
今中 祐子(5)
伊藤 謙治(14)
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加藤 亜梨紗(1)
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塩多 雅矢(2)
塩崎 由規(1)
塩﨑 由規(52)
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大洞 裕和(22)
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山下 大地(3)
山下 貴司(1)
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山際 政弘(3)
岡田 真理(1)
島原 隼人(1)
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平松 勇輝(5)
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戸谷 舞(3)
打谷 昌紀(2)
曽我 啓史(1)
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月刊トレーニング・ジャーナル(16)
月刊トレーニング・ジャーナル編集部(758)
服部 哲也(9)
服部 紗都子(11)
村田 祐樹(4)
松本 圭祐(3)
板井 美浩(46)
柴原 容(5)
梅澤 恵利子(1)
森下 茂(23)
椙村 蓮理(1)
榎波 亮兵(3)
橋本 紘希(24)
橘 肇(4)
正木 瞳(1)
比佐 仁(1)
水浜 雅浩(8)
水田 陽(6)
永田 将行(6)
池田 健一(5)
河田 大輔(16)
河田 絹一郎(3)
河野 涼子(2)
泉 重樹(3)
浦中 宏典(7)
清家 輝文(71)
清水 歩(6)
清水 美奈(2)
渡邉 秀幹(6)
渡邊 秀幹(1)
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田口 久美子(18)
石郷岡 真巳(8)
磯谷 貴之(12)
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脇坂 浩司(3)
藤井 歩(18)
藤田 のぞみ(4)
西澤 隆(7)
越田 専太郎(2)
辻本 和広(4)
辻田 浩志(90)
酒井 崇宏(1)
金子 大(9)
鈴木 健大(6)
長谷川 大輔(3)
長谷川 智憲(40)
阿部 大樹(1)
阿部 拓馬(1)
青島 大輔(1)
青木 美帆(1)
飯島 渉琉(3)
鳥居 義史(6)